雪月花みつのながめ 下 【右丁】 「アゝいきそうに なつたから もういぢるのは あとにして はやく おいれよ         〔花ノ三〕 【左丁】 「こうして まいばん〳〵 したり くぢつたり してたの しもうと いふぞんねんで ふうふ になつた 中だから くぢつ ても どうしても たんと やるほど いゝしやア ねへか   /吉原(よしはら)の/花(はな)のながめ /吉原(よしはら)は/三日見(みつかみ)ぬ/間(ま)に/桜(さくら)かなト二月廿五六日までは/中(なか)の/町(てう)に/芽生一本(めばへいつぽん) なかりしに三月朔日の/気色(けしき)を/見(み)ればふ/思義(しぎ)や/数千本(すせんぼん)の/桜生出(さくらおひいで) /大門口(おゝもんぐち)より/水道尻(すいどうじり)までひしと/咲(さき)みだれたるありさまつたへ/聞筑紫(きゝつくし) の/飛梅(とびうめ)も/斯迄(かくまで)の/事(こと)はあるまじく/天神(てんじん)は/見(み)へねども/新造禿(しんざうかむろ)を /引連(ひきつれ)たるおいらんの/道中(どうちう)いづれ/現(うつゝ)と/夢(ゆめ)のよし/原花街(はらてう)が/胡蝶(こてう)か /胡蝶(こてう)が/我(われ)かト/物言花(ものいふはな)にうつれつゝ/貴賎(きせん)の/遊客(ゆうかく)つどひ/来(く)る/花(はな)の /弥生(やよい)の/賑(にぎは)ひ/殊(こと)にさゞめく/見世張頃(みせはりごろ)三人/連(づれ)の/悪洒落客(わるじやれきやく)は/助兵衛(すけべい) 【右丁】 /作蔵腎六(さくぞうじんろく)といふ/腎張連中(じんばりれんぢう) 「なんでも/今日(けふ)は/斯色男(かういろをとこ)が三人 /揃(そろ)つたからは/人(ひと)に/出来(でき)ねへおもしろひ /遊(あそ)びをして/後日(ごにち)はなしになるやうな /洒落(しやれ)をしてへか/何(なん)と/助(すけ)さん例(れい)の /妙案(みやうあん)をあらはす/気(き)はないかどうだ〳〵 「おれもささつきからそうおもつて いるがなんと/此面(このつら)で/揚(あが)ればいはずと             〔花ノ一〕 【左丁】 /知れた/事(こと)だが/女(をんな)が三人だらう /所(ところ)で/其(その)三人ながら/此方(こつち)で/一座(いちざ) /廻(まは)しを/取(とる)といふ/趣向(しゆこう)はどうであらう 「そいつァてんとおもしろしだが/先(さき)で そうはさせめへ「/所(ところ)に/工夫(くふう)ありさ いづれ/知(し)らぬ/内(うち)でなければ/出来(でき) ねへ/事(こと)だから/惣初会(そうしよくわい)であがつて /先(まづ)お/神酒(みき)を/沢山(たくさん)とりこんで/大(おゝ) 【右丁】 /吞(のみ)とやらかして/女共(をんなども)をぐつすり/酔(よは)して/仕舞(しま)ふがこんたんだ、さて/其上(そのうへ)で お/床(とこ)へ/廻(まは)ツてとりあへず/酒開(さかぼゝ)を/一番(いちばん)づゝ/受取(うけとり)わたしをすますと、さァ 女はもうおんくわで/酔(よつ)ては/居(ゐ)ることだしはめをはづしてぐつと/寢込(ねこん)で /仕舞(しま)ふにちがいはねへはさ、そこでいづれも/様子(ようす)を/見合三方共(みあわせさんぼうとも)たわい なく/女共(をんなども)が/寢込(ねこん)だ/所(ところ)で/一度(いちど)に/入替(いれかわ)つて/寢陰戸(ねいり)でもなんでもいゝから /一番(いちばん)づゝやらかしやすそれでまだ/気(き)が/付(つか)ずは/小便(しやうべん)に/行(ゆく)ふりで/又外(またほか)へ/入(いれ) /替(かわ)つて/作公(さくこう)の/買(かつ)た/女(をんな)をおれも/腎公(じんこう)も/交(す)る、/又(また)おれの/買(かつ)た/女郎(ぢようろ)を/作公(さくこう) も/腎公(じんこう)もする、/腎公(じん)のかつた/女(をんな)を/作公(さくこう)もおれも/交(す)るからたがひにうら             〔雪ノ二〕 【左丁】 みつこはなしといふあんじだもしあらはれた/所(ところ)がたりで/小便(しやうべん)にいつて/酔(よい)まぎれ にへやを/間違(まちげへ)たぶんにしてごまかして/仕舞(しま)ふといふ/工(たくみ)はどうだろう「ヤ きてれつ〳〵そう/味能(うまく)いかねへまでも/洒落(しやれ)でいゝがこまつた事には /初會(しよくわい)といふもんだからどんな/酒好(さけずき)な/女郎(ぢよろう)でも、カッチリで/下盞(げさん)がお さだまりたからはじまるめへ「イヤおめへたちもお/女郎買(おぢよろうかい)はまだ/青(あを)いぜ/初(しよ) /會(かい)から/遠慮(えんりよ)なく/女郎(ぢよろう)にも/吞(のま)せておもしろく/遊(あそ)ぶ/事(こと)を/知(し)らねへといふは いかがだ。知らざァ/伝受(でんじゆ)しようか/但(たゞし)しつているか「そりやァ/初會(しよくわい)ばかりよ/二會(にくわい) /目(め)うらからは/吞(のみ)も/喰(くひ)もしなくつてどうするものか「ハテ/今夜(こんや)の/趣向(しゆこう)は/裏三(うらさん) 【右丁】 /會目(くわいめ)なぞでは/出来(でき)ねへ/初會(しよくわい)から/酔(よは)せなければならねへはさ。チョツ/百疋(ひゃつぴき)づゝて なけりやァゆるさねへ/伝受(でんじゆ)だが/友達(ともだち)のよしみに/云(いつ)て/聞(きか)せよう。/先此三人(まづこのさんにん)なら 三人ずつと/揚(あが)ッて/何(なん)にもいはず/内證(うち)からの/出し物(だしもの)で/閑静(かんせい)にやらかして /小早(こばや)く/切上(きりあ)げお/床(とこ)となる/所(ところ)で/大臺(おゝだい)を/一枚外(いちまいほか)に/上酒(じやうしゆ)を/一升取(いつしやうとつ)てくれト いゝ/付(つけ)て/置(おい)て/床(とこ)へはいるとてうど/一(いち)もくおして/仕舞(しまつ)た/時分(じぶん)に/彼臺(かのだい)の/物(もの)が /来(く)る。それ/一端座敷(いつたんざしき)がひけた事だからおめへの/女(をんな)の/部屋(へや)といふものかおれが/女(をんな)の へやといふものかへ/其臺(そのだい)を/持込(もちこむ)。ソリア/皆(みんな)おきて/来(き)て/一所(いつしよ)にあつまつて/又酒事(またさけごと)が はじまるといふ事だから/初會(しよくわい)が二會目(うら)のやうになつて/女(をんな)も/一度床(いちどとこ)へ/入(いれ)た/事故(ことゆへ)                〔花ノ三〕 【左丁】 /初會(しよくわい)の/遠慮(えんりよ)がなくなりことにはおのれが/部屋(へや)の事なり/吞喰(のみくひ)もいつもの /通(とほ)りさ/此伝受(このでんじゆ)は/今夜(こんや)ためして/今夜(こんや)すぐに知れる事だから/妙(みう)だろう。/所(ところ)でこつ ちはなるたけ/吞(のま)ねへようにして/女(をんな)どもにむしやうにしめつけ/二升(しやう)が三升と なりもう/是(これ)ぢやア/吞(のめ)ねへ/何(なん)ぞ/臺(だい)を/好(このん)でやれとか/酢(すつ)ぱい/物(もの)とかからいもの とかいつてむしやうに/長(なが)くひつぱつて/向(むか)ふをぐつすり/酔(よは)して/此方(こつち)は/酔(よつ)たふり で/酔(よは)ねへ/所(ところ)が/狂言(けうげん)だが/是(こりや)ア/急度(きつと)/其図(そのづ)にあたるに/違(ちげへ)はねへよ「なんだか おぼつかねへもんだが/出来(でき)ねへ/所(ところ)がとまどいでぬけるからもと〳〵だノウ/腎公(ぢんこう) 「イヤおいらァぐつと/気(き)に/入(い)ツた/直(すぐ)にやらかそう〳〵ト/咄(はなし)ながら/行袖(ゆくそで)を 【右丁】 ひかへて《割書:わかいしゆ|》「モシ ちとお/上(あが)りあそ ばさい/能(よい)お/孃(こ) /様(さま)も/沢山(たくさん)ござり ますお/見(み)たて なさいまし「イヤ それは/御心切(ごしんせつ) /忝(かたじけな)いハゝアどれも〳〵           〔花ノ四〕 【左丁】 うつくしい/時にコウ、アノ /人(ひと)がアゝ/深切(しんせつ)にいつてくれる から/皆(みな)も/爰(こゝ)の/内(うち)と /極(きめ)なせへ《割書:わかいしゆ|》「それは/有(あり)がとう サアお/見立遊(みたてあそ)ばしませ「イヤ〳〵/見立(みたて)る には/及(およ)ばねへからなんでも よく/寢(ね)そうな/孃(こ)ばかり /出(だ)して/呉(くん)ねへ《割書:わかいしゆ|》「へゝゝゝ/御(ご)じやうだん 【右丁】 ばつかり「イヤ/笑談(じやうだん)じやアねへよ。/助兵衛(すけべ)はそつと/引(ひつ)ぱりシツ〳〵トにらめつけ「な にさそれはじやうだんだ/内実(ないじつ)はとつくに/見立(みたて)て/置(おき)やした「さやうならト/若(わか)いもの/先(さき)に /皆(みな)〳〵/二階(にかい)へあがりおさだまりの/引付彼是(ひきつけかれこれ)ありて/既(すで)に/床納(とこおさま)り/手筈(てはず)の/通(とほ)り すつばり/仕(し)すまし、とゞ/二度目(にどめ)の/床(とこ)となり/作蔵(さくぞう)の/相方(あひかた)は/白川(しらかは)という/新造寢(しんぞうね)る が/早(はや)いか/乗(の)りかゝりひときは/見事(みごと)な/太陰茎(ふとまら)を/火のやうにしてつき付(つけ)れば/白川(しらかは)はマア /待(まち)なましトおさへて/我手(わがて)につばきをつけ/押当(おしあて)かひて/入(いれ)させるにすこしきしんで ぬるりトはいるに/其侭(そのまゝ)さつさトやりかける/酒(さけ)のかげんか/白川(しらかは)は/調子高(てうしだか)なる/鼻息(はないき) にフン〳〵〳〵トすゝり/上(あげ)むしやうに/持上(もちやげ)る/上手者枕(じやうずものまくら)の/音(おと)がきし〳〵〳〵〳〵/隣座敷(となりざしき)は/一座(いちざ)の              〔花ノ五〕 【左丁】 /腎六枕(じんろくまくら)の/音(おと)と/鼻息聞付此相方(はないききゝつけこのあひかた)は/夜舟(よふね)とて/是(これ)も/同(おな)じく/新造(しんぞう)の ねふいさかりを/御神酒(おみき)のかげんすや〳〵/寢(ね)入るをゆりおこしいかりきつたる /厂高陰茎(かりだかまら)へつばきものして/入(いれ)かけるに/厂(かり)さきふちにつかゆるをやにはにぬつト /押込(おしこめ)ば/夜舟(よふね)はびつくり/目覚(めさめ)る/心地(こゝち)とかくもぢ〳〵/更(ふけ)かねしがとつぱつ してどく〳〵〳〵〳〵ハアもうどうもト/自鉄(じがね)のよがり/又其奧(またそのおく)は/助兵衛(すけべ)がこい川は とうに/一番(いちばん)しまひ/早寢込(はやねこん)だる/相方(あいかた)の/作里(さくざと)が/寢顏(ねがほ)を見(み)て/二度目(にどめ)が /気(き)ざす/腎張陰茎(じんばりまら)おへるをかゝへてうかゞふ/所(ところ)へ/隣座敷(となりざしき)の/腎六(じんろく)がそろ 〳〵ト入来(いりきた)り「目利(めきゝ)にちがわずどれも〳〵/能寝込(ねこむ)と見(み)へておれが/座敷(ざしき) 【右丁】 へはもう/作公(さくこう)めへしかけて /来(き)たからおめへ/一(いち)ばん/済(すん)だら /早(はや)くいつて/作公(さくこう)の/女(をんな)を しめねへトいふに/承知(しやうち)と 助兵衛(すけべ)が/行(ゆく)を おそしと/腎六(じんろく) が入替(いれかは)ッて たわい〔下へ〕 〔上より〕 なき/作里(さくざと)が /前引(まへひき)まくり /厂高(かりだか)まらを /押込(おしこむ)に/作里(さくさと)は           〔花ノ六〕 【左丁】 うつゝながらやつぱり おのれが/客(きゃく)と/心(こゝろ) /得持上(ゑもちやげ)てさせる /床(とこ)の/上首尾(じやうしゆひ) /又助兵衛(またすけべ)は /作蔵(さくぞう)の/座(ざ) /敷(しき)へまんま と/忍(しの)びこみ /樽柿(たるねき)くさく/酔臥(ゑひふし)たる/白川(しらかわ)をつゞけさま/二番(にばん)とぼして/其次(そのつぎ)の /腎六(じんろく)が/座敷(ざしき)へゆけば/作蔵(さくぞう)は/腎六(じんろく)の/相方夜舟(あひかたよふね)の/寢陰戸(ねいり)を/一(いち) /番(ばん)とぼし/此上(このうへ)は/助兵衛(すけべ)が/相方作里(あひかたさくざと)を/犯(とぼさ)んと/出合(であい)がしらに/助兵衛(すけべ) にばつたり/行合互(ゆきあひたがひ)に/無言(むごん)でうなづき/合(あい)ぐる〳〵/廻(まは)りにまんべんなく /三人(さんにん)ながら三人の/女(をんな)をうたはし/犯(とぼし)て/廻(まは)り/夜明(よあけ)がたにはもと〳〵の/我相方(わがあひかた) の/懐(ふところ)へ/戻(もどり)て/居(ゐ)れば/相方(あひかた)は/夢中作里白川夜舟(むちうさくざとしらかはよふね)、やがてれんじのしら むころ/送(おく)ツて/出(いづ)る/格子(かうし)のまがき/客三人(きやくさんにん)はおかしさこらへ/何(なに)くわぬ/顏(かほ)で             /皆(みんな)があばよ 花のながめ            〔花ノ七〕