前訓 前訓(せんくん)と申は御男子(ごなんし)七 才(さい)ゟ十五 歳(さい)まで御女子(ごによし)七 才(さい)ゟ十二歳まで右(みき)の 年(とし)に 相応(さうをう)の 御をしへを手嶋先生(てしませんせい)御 講尺(かうしやく)にて御 幼稚様方(こどもさまがた)御行作(をんぎうさ)よろしく御 成(なり)候 為(ため)の 御をしへに 御座(ござ)候 間(あいだ)無縁(むゑん)の御かたも御望(をのそみ)の御かた御小児様方(をせうにさまかた)御遠慮(ごゑんりよ)なく御遣(をんつかは)し可被遊(あそはさるべく)候 前訓(ぜんくん)  口教 男子部 上   施印        二条通御幸町西へ入町                    山本長兵衛  京都 弘所書林    御幸町通夷川上る町                    小川新兵衛             新町通高辻上る岩戸山町                    海老屋弥兵衛 一 御講尺(ごかうしやく)定(ちやう)日 三日 十三日 二十三日 八つ時(とき)    但(たゞ)し席(せき)之 儀(ぎ)其(その) 節(せつ)々(〳〵)御案内(ごあんない)申候 一衣ふく男(なん)女(に)とも手習(たならひ)謡(うたひ)ぬいものなどに御(をん)出(いて)之(の)通(とふり)  ふだんていにて不苦(くるしからす)候 御(をん)はをりに及(および)不申(もふさす)候 一 聴衆(てうしゆ)の席(せき)は男女(なんによ)間(ま)をへたて女中(ぢよちう)の席(せき)にはすだれを  かけ置(をき)申候 間(あいだ)御遠慮(ごゑんりよ)なく御出(をんいで)なさるべく候 一 席料(せきりやう)音物(ゐんもつ)謝礼(しやれい)等(とう)一切(いつさい)うけ不申(もふさす)候 一 御(をん)されあひ御無用(ごむよう)出(で)入(いり)しづかになされ御(を)ちいさきを御(を)いたわり  先(さき)へ御(おん)つめあひ随分(ずいぶん)神妙(しんべう)になされ下(くだ)さるべく候 一 火(ひ)の用心(ようじん)御頼(をんたのみ)申候  以上(いじやう)                 発起中(ほつきぢう) 【絵】       口(く)教(きやう)一 一 朝(あさ)をひなり候はゝ手水(てうず)を御つかひなされ候てまづ  神様(かみさま)を御 拝(をが)みなさるべし   これは此(この)日本(につほん)は神様(かみさま)乃 御国(をんくに)なれは神様(かみさま)の御 影(かけ)にて   みな〳〵御飯(をめし)をたべ衣服(きもの)を着(き)申事も是(これ)みな神様(かみさま)乃   御かげなれば一ばんに神様(かみさま)へ御 辞儀(じぎ)をなされ候て   御 礼(れい)御申上なされ候が第一(だいいち)にて候 一 次(つぎ)に御(を)仏壇(ふつだん)へ御むかひ御 拝(をか)みなさるへし   これは皆様(みなさま)の御先祖(ごせんぞ)と申て曽祖父(をゝおぢい)さま曽祖母(をゝおばう)さま 【右項】   や又(また)祖父(おぢい)様 祖母(おばう)様なども御仏壇(をぶつだん)の内(うち)こざらせらるゝ   ゆへこれ又(また)をゝをぢゐ様(さま)がたの御かげにて皆々様(みな〳〵さま)御(を)成(せい)   人(じん)なされ今日(こんにち)御飯(おめし)を一度(いちど)もかけずに御あがりなされ候   事(こと)はをゝをぢゐさまの御かげにて御座(こざ)候御飯(をめし)を御あがり   なされ候 事(こと)はつゐはならぬ事にて候おとしのまいらぬ   うちにおめしをあがるはどなたさまの御かげもつとも   たちまちおやご様(さま)かたの御かげがなけれはあがられぬと   いふ事(こと)をよく〳〵御かんがへなさるべく候それゆへ   御 仏壇(ぶつたん)にて御 礼(れい)を御申 上(あげ)なされと申 事(こと)にて候 【左項】   則(すなはち)此内に御存生(ごぞんじやう)の親(をや)ご様かたへの御 礼(れい)もこもり申候 一三 度(ど)乃 御飯(おめし)をあがるときと寝しなに御 祖父(ぢい)様御 祖母(ばゝ)様  とゝ様かゝ様へ手(て)を御つきなされ候ておめし御あがりあ  そばされ候へ御寝(ぎよし)なり候へと御 挨拶(あいさつ)なさるべし    これも親(おや)ご様がた先(さき)へたべ候へ先へ寝(ね)候へと仰せられ候    はゞ其時(そのとき)は然(しか)らばおさきへたべ候と手(て)を御つき御ことわり    御申上なされ候て御先へ御あがりなさるべく候寝(ね)しなも    又(また)その通(とをり)になさるべく候 何(なに)とも仰られず候はゝ御まち    なされ候て御 一所(いつしよ)に御あがりなさるべく候 一いづかたへも御 出(いで)のときは手(て)を御つきなされ候て 【右項】 とゝ様(さま)かゝ様へ御たづねなさるべく候   これもゆけと仰(をゝ)せられ候 時(とき)は手(て)を御つきなされ参(まいつ)て   さんじましよと御申なされ御 出(いで)なさるべく候御 帰(かへ)りなされ候   ときもまた〳〵手(て)を御つぎ只今(たゞいま)帰(かへ)り候と御申あげ   なさるべく候 御 遊(あそ)びもひさしく外(そと)に御ざらへば親(をや)ご様   御あんじなされ候 間(あゐだ)折(せつ) ゝ(〳〵)御 帰(かへ)りなさるべく候 一御ふたりの親(をや)ご様の仰(をゝ)せられ候事は何事(なにこと)にてもあいと  速(すみやか)に御 返事(へんじ)なされ候てきげんよく仰(をゝ)せ付(つけ)られ候 通(とふり)に  なさるべく候さやうになされ候へば御 成人(せいじん)なさなされ候て後々(のち〳〵)  御 仕合(しあはせ)よろしく候 親(おや)ご様(さま)に御 心(こゝろ)御そむきなされ候 【左項】  かたは後々(のち〳〵)御 不仕合(ふしあはせ)にて難儀(なんぎ)をなされ候    こどもの時(とき)の孝行(こう〳〵)と申 事(こと)は何(なに)も外(ほか)の事(こと)にては御 座(ざ)    なく候 先(まづ)あさおきるより晩(ばん)に寝(ね)るまでとゝ様かゝ様の    仰(をゝせ)ある事(こと)をあい〳〵と御申なされ口(くち)こたへせずとゝさま    かゝさまの御さしづの通(とをり)なされ扨(さて)衣服(きりもの)三度(さんど)の御飯(をめし)御菜(をかず)    髪(かみ)結事(ゆふこと)手水(てうづ)つかふ事 此外(このほか)何(なに)にてもあい〳〵ときげん    よく御 返事(へんじ)なされ親(をや)ごさまの御気(き)にさかはず顔(かほ)つき    をわるふせずかりそめにもなかず朝(あさ)から晩(ばん)まできげん    よくあそびなされまた手(て)ならひよみものに御 出(いで)    なされてじぶんにはとゝ様かゝ様の御 世話(せわ)にならぬ 【右項】   やうにてらへゆけよみものせよと仰(をゝ)せられ候はゝ早速(さつそく)   御 出(いで)なされけふは又(また)用事(ようじ)があるやすめと仰(をゝ)せられ   候はゝ御やすみなされとにもかくにも一言(ひとこと)もそむかず   とゝ様(さま)かゝさまの仰(をゝ)せのとふりになされ候が此上(このうへ)   もなき御 孝行(かうこう)にて候さて又おぢい様(さま)おばゝさまは   とゝ様(さま)の又とゝ様かゝさまなればなをもつてだいじに   なされねばならぬことにて御座候   右(みぎ)の事(こと)どもよく〳〵御覚(をほ)へなさるへく候                           施印 【左項】       口教(くきやう)二 《割書:これよりはしめ一二三までは先日上けおき|申候其つぎへ御とぢさして取成候》 一何(なに)にかぎらず偽(うそ)をいふたり為(し)たりはなされぬもの  にて候   是(これ)人間第一(にんけんだいいち)のたしなみなり人(ひと)の本心(ほんしん)は正直(しやうぢき)なるが   生(うま)れつきにて候それゆへひ人々(ひと〳〵)すこしにても偽(うそ)を   つくかうい為(する)がいなや忽(あちまち)我(われ)が腹(はら)の中(うち)に急度(きつと)気味(きみ)   わるく覚(おぼ)へがあるなかはづかしくおそろしき事(こと)   なり盗賊(ぬすびと)或(あるひ)は人殺(ひところし)も幼少(ようせう)の時(とき)は同(をな)じ人(ひと)にて   外(ほか)にたねのかわりたるにてはなく皆(みな)此(この)うそをつき   ならひ段々(だん〳〵)上手(じやうづ)になり偽(うそ)のあがりたる者(もの)が一切(いつさい)の悪(あく)    性事(しやうこと)をしたり或(あるひ)は盗賊(ぬすひと)をし人(ひと)をも殺(ころ)すやうになり    申候わるき事(こと)をかくして人(ひと)はしらぬとおもふとも我(われ)が    腹(はら)の中(うち)に我(われ)がよく知(し)るなり此(この)しる心(こゝろ)が直(ぢき)に神様(かみさま)や    仏様(ほとけさま)と一躰(いつたい)なり然(しか)れはいはぬはづせぬはづの事(こと)を       《割書:ひとつからだ| 》    云(いふ)たり為(し)たりするは神仏(かみほとけ)の御(お)きらひなるゆへ    心にうけぬなりされは此本心(このほんしん)の気味(きみ)わるくおもひ    てうけぬ事(こと)はかまへてかりにもいふたりしたせぬもの    なりと御こゝろへなさるべく候    古歌(こか)に      いつわりも人(ひと)にはいひてやみなましこゝろのとはゞいかゞ                             こたへん 一 惣体遊(そうたいあそ)び事(こと)にもあしき事(こと)はなされぬものにて候  そのあしき遊(あそ)びごとのあらかた其品(そのしな)をいはゞ   一あないち其外(そのほか) 諸勝負事(しよしやうぶこと)銭(ぜに)あつかひかたくなされまじく候    第一博奕(だいいちばくち)の兆(きざし)にもなり候てこゝろもちさもしくなり    其上(そのうへ) 友達争(ともだちあらそ)ひ起(をこ)り互(たがひ)に気(き)をもみ剰恨疾(あまつさへうらみにくみ)もみな    此勝負(このしやうぶ)より初(はじま)り甚(はなはだ)あしきものにて候   一 何事(なにごと)にても人(ひと)にかくしてする遊(あそ)び事(こと)はかたくなさるまじく候    これは前(まえ)に申候 偽(うそ)と同(をな)じ事(こと)になり申候    右(みぎ)の外(ほか)も此二色(このふたいろ)にて御推量(ごすいりやう)なされとかくわるき事(こと)と    御気(をき)の付(つき)たる事(こと)はなされぬがよく候 一 殺生(せつしやう)をする事(こと)は甚(はなはだ)あしき事(こと)にて候 凡殺生(をよそせつしやう)と申は定(さだま)りたる料理(りやうり)ごとあるひは薬(くすり)ぐひなどに 魚鳥(うをとり)の命(いのち)をとり候 事(こと)にてはなく候 只(たゞ)無益(むやく)に物(もの)の 命(いのち)をとり或(あるひ)はいためくるしめ候 事(こと)を申候 然(しか)れはかり そめの弄(もてあそ)びにも生類(いきもの)をかひてつなぎくるしめ又(また) たとひかわず候ても犬(いぬ)を打擲(うちたたき)走(はし)らかし鶏鳩鼠(にはとりはとねづみ) などをとらへ苦(くる)しめ虫(むし)けらの頭(くび)をとり羽(はね)をぬき あらゆるわるさをする子(こ)ども衆(しゆ)もあるものなり是全(これまつた)く 聖人(せいじん)仏(ほとけ)の教(をしへ)をきかぬ故(ゆへ)なり一切万物(いつさいばんもつ)は皆(みな)もと直(ぢき)に 我(われ)が身(み)なり草木(くさき) 虫(むし)魚鳥獣(うをとりけだもの) 生(しやう)あるものは猶以(なおもつ)て我(わ)が 身(み)にとりて近(ちか)く重(をも)し然(しか)れどもそれをいためて覚(おほ)へ ぬは今(いま)の身(み)にも我(わ)が髪(かみ)のはし爪(つめ)のはしは我(わか)身(み)の 内(うち)なれどもおぼへぬに同(をな)じしかれはさしあたり いたみは覚(おぼ)へねども我(わ)が身(み)のはしに違(ちが)ひなしそれを 毀傷(そこなひやぶ)りいため殺(ころ)すは我身(わがみ)をやぶるに似(に)たれは深重(じんぢう)                       《割書:ふかきおもき| 》 の罪科(つみとか)なり現在(げんざい)の我(わ)が身(み)の命(いのち)ををしくいたみの いたさこたへにくきにて引(ひき)くらべおもひしりて左様(さやう)の 事(こと)かたくなさるまじく候これも偽(うそ)と同(をな)じ事(こと)にて 幼少(ようせう)より殺生(せつしやう)をいたしつけ候へは後(のち)にはものをころす 事(こと) 上手(しやうづ)になり甚(はなはだ)いやらしくおそろしきものになり 申ものにて候物(もの)の報(むく)ひと申 事(こと)はかなしくもおそろしき   ものにて候罪科(つみとが)のむくひは打(うて)は鳴(な)る響(ひゞき)のごとし   惧(こは)き事(こと)なりと思召(おぼしめさ)るべく候   《割書:おそろし| 》 一 惣(そう)じて人(ひと)のつゝしみて申さぬ不礼(ぶれい)なる大口(をほくち)  をかたく申さぬものにて候   幼少(ようせう)の時(とき)より大口(おほくち)を申 習(なら)ひ候 子供衆(こどもしう)は後(のち)には大(おほ)   かた悪性(あくしやう)になり候て親(をや)ごの勘当(かんどう)をもうけ候やうに   なりたる子達(こたち)是(これ)まで多(おふ)く見および申候これ子供(こども)   衆(しう)の時分(じぶん)に行義(ぎやうき)のあしき癖(くせ)づきにて人(ひと)に不礼(ぶれい)を   申 憚(はゞか)る心(こゝろ)をうしなひつけて終(つゐ)には哀(かな)しき身(み)に    《割書:おそる| 》   なり申 事(こと)に候 然(しか)れは御互(おたがひ)に幼稚(ようち)の御方(をんかた)へ御気(をんき)を   つけられ假(かり)にも〳〵少(すこ)しにても大口(おほくち)は仰(をゝせ)られまじく候   甚(はなはだ)わるき事(こと)にて恥(はづ)かしき事(こと)と申 訳(わけ)をよく〳〵   御おほへ置(をき)なさるべく候 一 男女(なんによ)のわかりは大事(だいじ)のものにて候間(あいだ)幼少(ようせう)のとき                   《割書:ちいさき| 》  より男(おとこ)の子(こ)たちと女(をんな)の子(こ)たちとは一所(いつしよ)に御あそび  なされぬものと申 事(こと)よく〳〵御 聞(きゝ)わけ  なさるべく候   惣体(そうたい)幼稚時分(おちいさいじぶん)より男女一所(なんによひとゝころ)へ集(あつま)る事(こと)をはづか   しく思召(おぼしめし)つけなさるゝが至極(しごく)によろしき事(こと)にて候   左様(さやう)に幼少(ようせう)よりなされつけたる子供衆(こともしう)御成人(ごせいしん)   なされ候て悪性(あくせう)に御なりなされたるはすくなきもの   にて候 行儀(ぎやうき)はとかく幼少(ようせう)の時(とき)より習(なら)ひが大事(だいし)             《割書:ちいさき|》   にて候 男女(なんによ)のあやまりは人間(にんげん)の大罪(だいざい)にて一命(いちめい)にかゝり候      《割書:おとこをんな| 》       《割書:おほいなるつみ| 》   災難(さいなん)も起(をこ)り申 根本(ねもと)にて候まゝ聖人(せいじん)仏(ほとけ)もこれを   かなしみ強(つよ)く行義(ぎやうぎ)を御立置(をんたてをき)なされ候 事(こと)に候これ   にて大慈大悲(だいじだいひ)の思召(おほしめし)ありかたきいはれをよく〳〵   御聞(をんきゝ)わけなさるべく候  右(みき)之 通(とをり)能々(よく〳〵)御熟読(ごじゆくとく)なされ御のみ込(こみ)御おぼへ       《割書:とつくりとよみ| 》  御勉(をんつとめ)なさるべく候                    施 印     口教(くきやう)三 《割書:これよりはじめ一より七までは先日あげをき候|そのつぎへ御とぢたし可被成候》 一 惣体(そうたい)悪(あし)き所(ところ)へ立(たち)よらず。悪(あし)き人(ひと)に御交(をんまじ)はりなされまじく候   人(ひと)は善悪(ぜんあく)の友(とも)によると申 古人(こじん)の御をしへ。少(すこ)しもちがひ   なき事に候。忽(たちまち)火(ひ)の傍(はた)へよれはあたゝまり。水(みつ)のはたへ   よれはしめるなり。泥(どろ)の池(いけ)へはまれは身(み)よごれ。風爐(ふろ)   へいれは垢(あか)をちて奇麗(きれい)になるがごとし。然(しか)れは善(ぜん)に   交(まじ)り。善(ぜん)に立(たち)よれは力(ちから)を入(いれ)ずして善人(ぜんにん)となるにう   たがひなしと。御 弁(わきまへ)なさるべく候 一 人のかたわなるを見て笑(わら)はぬものにて候 并(ならび)に外(ほか)より人(ひと)の来(きた)り  たる時(とき)又帰(またかゑ)る時(とき)など。かたかげにて笑(わら)はぬものにて候。   むかし和(にほん)漢(から)ともに。人(ひと)の見めあしきを笑(わら)ひ。ちんば。かんだ   をわらひて。其(その)笑(わら)はれたる人(ひと)怒(はらだち)て。わらひたる人(ひと)を害(ころ)し。   剰(あまつさへ)家国(いゑくに)まで亡(ほろ)ぼしたる事(こと)ためし多(おほ)き事(こと)に候。   ちかく前(まへ)かた我(わ)が存(ぞん)じたる人(ひと)。濕(しつ)の病にて鼻(はな)をち   たるに。人(ひと)の見て笑(わら)ふを甚(はなはだ)無念(むねん)におもひ。根(ね)ふかく遺(い)   恨(こん)に思(おも)ひたる人(ひと)あり。誠(まこと)におそろしき事(こと)なり。又(また)人(ひと)の出入(ではいり)   するを見て笑(わら)ひ。意趣(いしゆ)におもはれ難(なん)に逢(あひ)たる   人(ひと)もあり。これ殊更(ことさら)女中(ぢよちう)に多(おほ)くある事(こと)なり。かたく   つゝしみて必(かならず)〳〵(〳〵)さやうのとき笑(わら)ふまじき事(こと)に候 一 女衆(おなこしう)にても。小童衆(でつちしう)にても。すべて御つかひ被成(なさて)候 人(ひと)を。  むごくし。別而(べつして)打(うち)たゝきなどは。かたくなされぬものにて候   我(わ)が身(み)をつめりて人(ひと)の痛(いた)さを知(し)れと申 事(こと)。ちかき手本(てほん)   にて候。つかはるゝ人(ひと)も皆(みな)人の子(こ)なり。然(しか)れは。われを   親(をや)のかあゆく思召(おぼしめさ)るゝと同(おな)じ事(こと)にて。又其(またその)つかはるゝ   人の親は其子(そのこ)を可愛(かあゆく)おもふなり。されは随分(ずいふん)憐愍(れんみん)                         《割書:あはれ| 》   ふかくいたはりてつかふべき事なり。其上(そのうへ)惣(そう)じて人を打(うち)   たゝきはかたくせぬものなり。其訳(そのわけ)は。むかし或(ある)田舎(いなか)の大(おぼ)   家(いゑ)にて。手代小童(てだいでつち)を呵(しか)るとて。何心(なにこゝろ)なくたゝきしに。   打所(うちところ)あしかりけるか。其(その)小童(でつち)速座(そくざ)に死(し)したるを。   病気(びやうき)にて死(し)したりと偽(うそ)をつき。かくし置(おき)たりしが。   其後(そのゝち)偽(うそ)あらはれ殺(ころ)したる手代(てだい)は死罪(しさい)になり。   主人(しゆじん)の家(いゑ)は。御追放(こつゐほう)になりしといふ物(もの)かたりを   きゝし事(こと)あり。たとひ禁忌所(きうしところ)を打(うた)ずとも。不図(ふと)   其人(そのひと)の死(し)する時節(じせつ)に打(うち)たゝき。仕合(しあい)さん事(こと)もはかり   かたし。是(これ)は人(ひと)の命(いのち)にかゝりあやまれは両方(りやうほう)とも。命(いのち)を   失(うしな)ふやうにもなる事(こと)なれは。きつと恐(おそ)れつゝしみて。   かりにも人(ひと)をうちたゝきなさるゝ事(こと)はきびしく   御たしなみなされせぬ事と御心得(こゝろへ)なさるべく候 一 衣服(きもの)食物(くいもの)に好(こ)事(ごと)を申さぬものにて候   大(おほ)かた成人(をとな)になりて悪性事(あくせうこと)に銭(ぜに)かねをつかひ。いろ〳〵   身(み)の奢(をごり)栄曜(ゑいよう)をしたがるやうになり。終(つゐ)には先祖(せんぞ)の家(いゑ)   をも売(うり)。非人(ひにん)乞食(こつじき)となり飢寒(うへこゞへ)し。のたれ死(しに)も。し   かねぬは。偏(ひとへ)に其(その)はじめ幼稚(ようち)の時(とき)。のみくひ着(き)ものゝ。   好事(こごと)をいひ習(なら)ひし。其(その)くせづきやみがたく。それが漸々(ぜん〳〵)と   あがりて上手(ぢやうづ)になりたるのにて候。然(しか)れは幼稚(ちいさき)時(とき)より   末(すへ)のつまらぬ事(こと)をしらぬものを下愚(あほう)と申候。たとひ表(うはべ)は   発明(はつめい)に見へても。としゆきて。後(のち)の難義(なんぎ)になる事(こと)を   知(し)らぬは。肝心(かんじん)の底(そこ)があほうなるゆへにて候。此(この)あほうに   ならぬやうに。つゝしみ肝要(かんやう)にて候 一 外(よそ)にて物(もの)をもらはゞ先持帰(まづもちかへ)りて。父様(とゝさま)母様(かゝさま)へ御あげ ゝ なさるべく候。又人(またひと)に何(なに)にても。物(もの)をかすにも。かるにも。遣(や)るも。  もらふも。皆其(みなその)度々(たび〳〵)に御両親様(ごりやうしんさま)へ。御たづねなされ。御ゆるし  をうけて取遣(とりやり)なさるべく候    これ聖人(せいじん)の御教(をんをしへ)に。孝行(こう〳〵)なる子(こ)は。私(わたくし)の財宝(ざいほう)といふ    ものはなし。皆々(みな〳〵)御両親(ごりやうしん)のものなりと知(し)れよと仰(をゝせ)    られて候。其訳(そのわけ)を御合点(ごがつてん)なさるべく候。元来(もとより)人々(にん〳〵)子(こ)    たるものは。我(わ)が身(み)とても御両親(ごりやうしん)のものにて。我身(わがみ)にてはなし。    されは。財宝(ざいほう)はいふに及(をよ)ばずと申 事(こと)を。御弁(をんわきまへ)へなさるべく候 右之通(みきのとふり)。能々(よく〳〵)御熟読(をんじゆくとく)なされ。御のみ込(こみ)。御おぼへ。御 勤(つとめ)。可被成(なさるべく)候                                施印     口教(くきやう)四  《割書:これよりはじめ一より十までは先日あげをき候|そのつぎへ御とぢたし可被成候》 一 毎月一度(まいつきいちど)灸(やいと)をすゆる事(こと)これ御(こ)孝行(かう〳〵)のためと  御心(をんこゝろ)得なさるべく候    是(これ)は何故(なにゆへ)なれば毎月(まいつき)灸(やいと)を御(をん)すゑなされ候得ば    父様(とゝさま)母様(かゝさま)ともに此方(こち)の子(こ)は灸(やいと)をよくすゆる    ゆへ疫病(はやりやまひ)もうつるまじ食(しよく)あたりもあるまじと    安堵(あんど)なさるゝなり畢竟(ひつきやう)あつさはしばしの間(あいだ)にて    御両親(をんふたをや)の御心(をんこゝろ)の痛(いたみ)を易(やす)くし大(おほ)きに御孝行(ごかう〳〵)になり    申候 其上(そのうえ)孝行(かう〳〵)するかせぬかは此(この)灸(やいと)がよきためし    にて候も若(もし)灸(やいと)が御すゑなされともなく成(なり)候はゝ早(はや)   不孝者(ふかうもの)に成(なり)たりと御知(をんし)りなさるべく候 灸(やいと)をすゆる   は何でもなき事(こと)なりそれさへすゑぬからは外(ほか)の事(こと)   何(なに)として孝行(かう〳〵)なるべきを御(をん)あきらめなさるべく候 灸(やいと)は   此身(このみ)の病(やまひ)のためと存(ぞんじ)すゑ候へはきかぬ時(とき)はすゑぬ   様(やう)に成(なる)ものなり格別(かくべつ)のあたりさへなくば灸(やいと)をすゑて   きかずとも御両親様(をんふたをやさま)の御気(をんき)やすめとおぼしめし   御(をん)すゑなされ候がよく候 一 食物飲物(くいもののみもの)にて腹(はら)をそこなはぬやうにし又惣体身(またそうたいみ)を  怪我(けが)せぬやうに御用心(ごようじん)ななさるべく候   先(まつ)飲食(のみくい)にて腹(はら)をそこなふまじと思(おも)へばをのづから   いかもの食(ぐい)したり又(また)はあばれ食(くい)などはせぬなり   飲食(のみくい)は身命(しんみやう)をつなぐ大切(たいせつ)の宝(たから)にて礼義(えいぎ)のはじめ   これより発(おこ)るよしなればかまへて飲食(のみくい)の事(こと)に   不作法(ぶさほう)なるは大(おほ)きにあしき事(こと)にて其上(そのうへ)脾胃(ひゐ)を   損(そこな)ひ病者(やまひもの)と成(なる)なり又身(またみ)の怪我(けが)をせまじとたし   なめばこれもをのづから喧嘩(けんくは)口論(こうろん)の争(あらそ)ひはせぬもの   なり此身(このみ)はいふにおよばず髪爪(かみつめ)までも皆親(みなをや)の御身(をんみ)   の預(あづか)りものなればこれをすこしも毀(そこな)はぬが孝行(かう〳〵)の始(はじめ)   なりと孝経(かうきやう)にも説置(ときをか)せられて候 一 善悪(ぜんあく)とも報(むく)ひ来(く)るはのがれぬ事(こと)を御弁(をんわきま)へなさるべく候    むかしより申ならはせしごとく仰向(あをぬい)て吐唾(はくつばけ)はかならず    天(てん)には吐(はき)かけずして却而(かへつて)落(おち)かかりて身(み)を穢(けが)すといへり    孟子(もうし)も自(みづから)侮(あなとつ)て後(のち)人(ひと)これを侮(あなど)り自毀(みづからやぶつ)て後(のち)人是(ひとこれ)を毀(やぶる)    と仰(をふせ)られしなりされば悪事(あくじ)をすれば忽(たちまち)凶事(あしきこと)来(く)る    なり善事(ぜんじ)も同(をな)じ事(こと)にて善事(よきこと)をすれば亦吉事(またよきこと)    来(く)るなりこれ即形(すなはちかたち)と影(かげ)のごとくなるべし然(しか)れば    此段(このだん)を御弁(をんわきま)へなされ報(むくひ)はおそろしきものなれば必々(かならず〳〵)    すこしもあらき事(こと)はなさるまじく候 一 此座(このざ)も大勢(おほぜい)の御子達(をんこたち)なれば定而御両親(さだめてをんふたをや)ともなき御子達(をんこたち)  もあるべしそれは必御両親(かならずごりやうしん)の御代(をんかは)りになる御人(をんひと)あるものなり  其(その)かはりに御立(をんたち)なされ候 御方(をんかた)を御両親(をんふたおや)と思召(おぼしめし)候て大切(たいせつ)に  御(をん)つかへなさるべく候    凡御両親(をよそをんふたおや)なき御方(をんかた)も其御(そのをん)かはりには祖父様(ぢいさま)か祖母様(ばゝさま)か    あるべしそれもなければ伯父様(おぢさま)か伯母様(おばさま)か兄様(あにさま)か姉様(あねさま)か    あるべしそれもなければ又古(またふる)き手代衆(てだいしゆ)か或(あるひ)は御世話人(をんせわにん)    あるべし是其御人(これそのをんひと)則御両親様(すなはちをんふたおやさま)の御(をん)かはりなり尤手代(もつともてだい)    衆(しゆ)などを親(おや)と申すにてはなくそう候へども御親達(をんおやたち)の御心(をんこゝろ)に    成(なり)かはりて世話(せわ)をしてもらふからは直(ぢき)に御親達(をんおやたち)と    おぼしめさるべく候 然(しかれ)ば屹(きつ)としたがひ大切(たいせつ)に御(をん)つかへ    なされねばかなはぬ事(こと)と御心得(をんこゝろへ)なさるべく候 一 何(なに)にかぎらず心(こゝろ)に是(これ)はあしきとおもふ気(き)のつきたる事は  かたくいはずなされぬものにて候    これ軽(かろ)き事(こと)にあらず御幼稚(ごようち)の時(とき)より御成人(ごせいじん)なされて    後(のち)までも学問(がくもん)の至極(しごく)と申は別(べつ)の事(こと)にてはなし只此(ただこの)    あしきと思(おも)ふ事(こと)をいはぬとせぬとの外(ほか)はなく候 扨先(さてまつ)    其(その)せまじくいふまじきあらましを左(さ)にしるす    凡主親兄夫(をよそしゆおやあにおつと)などへ口(くち)ごたへ○惣(そう)じて人(ひと)に対(たい)して気随(きずい)    なる言(ことば)○あるまじき偽(うそ)○色事(いろごと)のはなし又(また)は噂(うはさ)○大口(おほくち)    ○男女(なんによ)の間(あいだ)にてあしき戯(たはむれ)たる言(ことは)○むごき言(ことば)○高(たか)ぶりほこり    たる言(ことば)○いやらしく気味(きみ)わるき言(ことば)○意地(いぢ)わるき言(ことば)    無理(むり)非道(ひどう)なる言(ことば)一々(いち〳〵)所作(しよさ)は申に及(をよ)ばす    此外(このほか)かやうなる言所作其品多(ことばしよさそのしなおゝ)かるべし悉(こと〴〵)くいひ尽(つく)し    がたし自身心(じしんこゝろ)をつけて吟味(ぎんみ)し習(なら)ひて御慎(をんつゝし)みなさる    べく候とかく万事堪忍(ばんじかんにん)が大事(だいじ)にて候 或人(あるひと)の狂歌(きやうか)に    堪忍(かんにん)のなる堪忍(かんにん)が堪忍(かんにん)かならぬ堪忍(かんにん)するが堪忍(かんにん)   此歌(このうた)の心(こゝろ)になり候はゞ堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒(を)がきれると申 事(こと)は   なき事(こと)と御心得(をんこゝろへ)なさるべく候 此袋(このふくろ)の緒(を)さへきれねばあし   き事(こと)は出来(でき)申さず候 誠(まことに)にありがたきをしへにて候  右是(みぎこれ)まで段々(だん〳〵)御(をん)はなし申 品々(しな〴〵)は実(じつ)に御幼稚(ごようち)の御覚(をんおぼへ)なされ  やすく御つとまりなされやすきために人(ひと)の道(みち)のかたはしを すこしはかり和解術(やはらげときのぶ)る所(ところ)なりくはしくは小学(せうかく)を始(はしめ)とし て和漢(わかん)の書物(しよもつ)に出(いで)たれば漸々(ぜん〳〵)と御(をん)見きゝなされ御孝行(ごかう〳〵) の道(みち)に御すゝみなされ候 様(やう)にと偏(ひとへ)にこひねがひ申候 一孝(いつかう) たちて万善(ばんせん)なると申 事(こと)の候へば世(よ)に父母(ちゝはゝ)へ孝行(かう〳〵)にて 外事(ほかのこと)あしき人(ひと)は終(つゐ)になき事(こと)にて候 此所(このところ)をよく〳〵 御(をん)のみこみ御(をん)おぼへなされ随分(ずいぶん)〳〵御正精(こせい)を入(いれ)られ御両(をんふた) 親様(をやさま)へ御孝行(ごかう〳〵)に御(をん)つかへなさるべく候 近頃(ちかころ)或人(あるひと)の 狂歌(きやうか)に  無二孝(むにかう)や万能膏(まんのうかう)の奇特(きとく)より親孝行(おやかう〳〵)は何(なに)につけても                    施印      女子口教(によしくきやう) 一 惣(そう)じて是(これ)まで四冊(しさつ)の口教改(くきやうあらた)めて女子(をなこ)の事(こと)とは申(もう)さねども  女中(ぢよちう)は皆女子(みなをなご)の事なりと御聞(をんきゝ)なさるへく候。凡(をよそ)つね〴〵の  教論(をしへ)男女(なんによ)ともかねたること事 多(おほ)きもなり必(かならず)男子(をとこ)のこと  ばかりと御聞(をんきゝ)なされ候へば大(おほ)きに御心得違(をんこゝろゑちがひ)になり申候。則(すなはち)  今日(こんにち)の口教(くきやう)は専(もつは)ら女(をんな)のこたちのために御はなし申候へども。  是(これ)とても男の子達(こたち)は女中(ちよちう)ばかりの事と御聞(をんきゝ)なされず  身(み)に御引(をんひき)うけなされ候て御聞(をんきゝ)なさるゝがよろしく候 一 第一女(だいいちをんな)は別(べつ)といふ事をよく御弁(をんわきま)へなさるべく候       《割書:わけり| 》 此別(このべつ)と申事は男女(なんによ)の差別(しやべつ)と申事にて候。男(をとこ)は男のやう。 女(をんな)は女のやうに其差別正(そのしやべつたゞ)しく行儀(ぎやうぎ)をつゝしみ候事を 申なり。しかれば幼稚(ようち)の時(とき)より男女の乱(みだれ)がましき事を 恥(はづ)かしく思(おも)ひ近(ちか)よりて座(ざ)する事をせず。男の手(て)より女の 手(て)へ直(ぢか)に物(もの)をとりわたしせず。女は女のなき所(ところ)。または くらき所(ところ)に独(ひとり)たゝずなどゝ小学(せうがく)にも説(とき)たまひたるごとく 一切(いつさい)のことを此心持(このこゝろもち)にて推(をし)はかり女の身持(みもち)を行儀(ぎやうき)よく嗜(たしなむ)を いふなり。かやうに身持(みもち)たゞしければをのづから人(ひと)のうたがひを うけ災難(さいなん)をうくるやうなる不孝(ふかう)は出来(でき)ぬものなり。たとへば 男は火(ひ)のごとく。女は薪(たきゞ)のごとし。近(ちか)よれば必(かならず)あやまちやすき ことを真実(しんじつ)に弁(わきま)ふべし。其弁(そのわきま)へは人(ひと)〳〵の本心理非(ほんしんりひ) あきらかなるもの故寄(ゆへよる)まじく受(うけ)まじき事は心(こゝろ)の内(うち)に 能覚(よくおぼ)へあるものなり。其覚(そのおぼ)へある善心(ぜんしん)に背(そむ)くまし き事なり。聖人(せいじん)も仏(ほとけ)も男女のあやまりて乱(みだ)れやすき ことをかなしみ給ひて男女 別(べつ)ありとをしへ給ひ。邪淫戒(じやいんかい) といふいましめもあるなり。これ女の子達(こたち)幼稚(ようち)よりよく〳〵 覚(おぼ)へしりてつゝしみ給ふべき至極(しごく)の肝要(かんよう)なり。若(もし)この 行儀(ぎやうぎ)をあやまれば。人面獣心(にんめんじうしん)とて。顔皃(かほかたち)は人(ひと)に似(に)たれども 人の本心(ほんしん)をうしなひたるゆへ生(いき)ながら畜生(ちくしやう)といふものなり。 甚(はなはだ)かなしき事なり。恐(おそ)れつゝしみたまへ 一女は順(じゆん)にして父母(ちゝはゝ)舅姑夫(しうとしうとめをつと)などにしたがひて何(なに)事も  われときまゝに取(とり)はからひせぬものにて候。この事  屹(きつ)と御つゝしみなさるべく候   されば女は三従(さんしやう)の道(みち)と申事の候。幼稚(ようち)の時(とき)は父母(ちゝはゝ)に随(したが)ひ。   嫁(か)しては舅姑夫(しうとしうとめをつと)にしたがひ。老(をひ)て夫(をつと)なくなりて後(のち)は   《割書:よめいり| 》   我子(わがこ)に従(したが)ふものなりと。小学(せうがく)にも教(をし)へ給へり。又(また)女は   外(そと)をいはずとて殊(こと)に表(おもて)むきの事は夫(をつと)の任(やく)なれば   女は少(すこ)しもいふまじくさしでまじき事なり。しかれば   幼稚(ようち)の時(とき)より少(すこ)しも気随(きずい)きまゝの挙(ふるま)ひはかたくせぬ   ものなり。凡(をよそ)気随(きずい)の品事(しなこと)多(おほ)かればさしあたりつゝしまで   かなはぬ品(しな)の大(おほ)やうをいはゞ。先(まづ)〇 父母(ちゝはゝ)の仰(をゝせ)を能(よく)きゝて   背(そむ)かず〇女は十歳(とを)ばかりにもなりては中戸(なかど)より外(そと)へ   むさと出(いで)ぬものなり○身(み)の行佐(ぎやうさ)はいふに及(をよ)ばず言葉(ことば)   づかひ尋常(じんじやう)にしても物やはらかなるべく〇 子細(しさい)らしきは   男めきてあしゝ〇 品過(しなすぎ)たるはいやらしく聞(きゝ)にくし   〇 流行(はやり)言葉(ことば)無用たるべし○容貌(なりふり)はでならずいやし   からず娘(むすめ)らしくをとなしきがよし〇 頭(かしら)のかざりも   目立(めだゝ)ぬやうがをとなしく見ゆ〇 被(かふり)ものなきはいやし   〇なにごとも当世風(たうせいふう)はよからぬ人(ひと)のする事なり目立(めだち)てあしゝ   〇女の業(わざ)は手習(てならひ)うみつむぎ糸(いと)くり綿(わた)つみたちもの   織縫(をりぬひ)料理(りやうり)煮(に)焼加減(やきかげん)大(おほ)やうかくのごとし。右(みぎ)の手(て)わざ   不調法(ぶてうはう)なるは女の大恥(おほはぢ)なり励(はげみ)て覚(おぼ)へしならひ給ふべし。   此外(このほか)の遊芸(ゆうげい)は下(した)〳〵(〳〵)の身(み)は知(し)らぬかたが却(かへつ)て頼母敷(たのもしき)ものなり 一 神仏(かみほとけ)の御供(をそなへ)ものは疎(をろそか)にせまじき事なり。其外何事(そのほかなにごと)も  母(かゝ)さまの御 助(たすけ)をし御苦労(ごくろう)のすくなきやうに油断(ゆだん)なく       《割書:てつたい| 》  御気(をんき)くばりが大事(だいじ)にて候   惣(そう)じて飯(めし)をたき汁菜(しるさい)の料理(りやうり)をするをいやしき業(わさ)の   やうにおもふは甚誤(はなはだあやま)りなり。すべて女に四(よ)つの徳(とく)あり。則(すなはち)   婦言(ふげん)。婦徳(ふとく)。婦 功(こう)。婦 容(よう)。といふ。女は此四(このよ)つの行(をこな)ひ一(ひと)つ   かけてもならぬものなり。其第一婦言(そのだいいちふげん)とは女の辞(ことば)なり。   ものいひ鮮(あざやか)に口(くち)のきゝたるにはあらす。能言葉(よくことは)をつゝしみ   ていふこれなり。二(ふた)つに婦徳(ふとく)とは女の徳(とく)なり。才能人(さいのうひと)にすぐれ   たるにはあらず。起居静(たちゐしづか)にしてさはがしからず。身(み)を顧(かへりみ)て   人(ひと)の知(し)りても恥(はづ)る事なきやうに慎(つゝし)むこれなり。三(み)つに婦功(ふこう)   とは女の業(わざ)なり。たくみなる事人にすぐれよといふにはあらず。   常(つね)に織縫(をりぬひ)の業(わざ)に怠(をこた)らず。客人(きやくじん)などあれば食物(しよくもつ)など   いさぎよくして馳走(ちそう)するの類(たぐひ)これなり。四(よ)つに婦容(ふよう)とは   女の貌(かたち)かほよく姿(すがた)のうるはしくある事にはあらず。湯(ゆ)あひ   髪洗(かみあら)ふ事 怠(をこた)らず。身持穢(みもちけが)らはしからず。朝(あさ)とく髪結(かみゆ)ひ。   常(つね)にかたちを齊(とゝの)へ取乱(とりみだ)さぬをいふなり。此四(このよ)つはこれ女乃   大成徳(おほひなるとく)にして身(み)を修家(をさめいゑ)をとゝのふるの大事(だいじ)なれば   尊(たつと)きも卑(いやし)きも通(つう)じてせねばかなはぬ事なり。かやうの   大事(だいじ)を物知(ものし)らぬ人(ひと)は却(かへつ)て下品(げび)たるやうにおもひ衣服(いふく)   道具(だうぐ)もきらめき。身持(みもち)も花奢(をごり)たるを上品(じやうび)たりとおもふは   何(なに)の弁(わきま)へもなき故(ゆへ)にて甚(はなはだ)あさましき事(こと)なり。左様(さやう)の   人柄(ひとがら)は心(こゝろ)ある人には大(おほ)きに笑(わら)ひものとなるなり。恥(はづ)かしき   事(こと)にあらずや。真実(しんじつ)の上品(じやうび)たる事は道(みち)にかなひて厚等(こうとう)   なる故(ゆへ)花奢(をごり)を好(この)むめよりは下品(げび)たりと見ゆる事 多(おほ)   かるべし。此所(このところ)をよく〳〵弁(わきま)へて道(みち)にそむかぬやうにと   つゝしみ。善人(ぜんにん)の笑(わら)ひものにならぬやうにしたまへ 一女は嫁(か)して後(のち)は他念(たねん)なく。舅姑夫(しうとしうとめをつと)に事(つかふまつる)こと。是(これ)まで   《割書:よめいり| 》  父母(ちゝはゝ)につかへしごとくすべし。二度(ふたゝび)我(わが)うちへ戻(もど)るまじと  御つゝしみなさるゝが何(なに)より大切(たいせつ)の事(こと)にて候   凡(をよそ)女子は我(われ)が家(いゑ)といふものなきゆへ嫁(よめいり)するを帰(とつぐ)と   いひて帰(かへる)といふ字(じ)を書(かく)なり。是則夫(これすなはちをつと)の家(いゑ)を家(いゑ)と   するゆへ帰(かへる)といふなり。されば父母(ちゝはゝ)の家(いゑ)を出(いづ)る時門火(ときかどび)を   たきふたゝび父母の家(いゑ)へもどらぬといふ儀式(きしき)をするも   其(その)いはれなり。然(しか)れば一度嫁(いちどか)してのちは夫(をつと)を神(かみ)とも               《割書:よめいり| 》   仏(ほとけ)とも頼(たの)み。貴(さつと)び敬(うやま)ひこの夫(をつと)に見はなされては身(み)の   置所(をきどころ)なしと思(おも)ひ入夫(いりをつと)と同体(どうたい)の心(こゝろ)となりて。たとへば               《割書:をなじからだ| 》      手足(てあし)が目口(めくち)の用事(ようじ)をかくことなきがごとく。すこしも 怠(をこた)りなくつかふまつるべし。扨夫(さてをつと)を敬(うやま)ふといふは。たゝ頭(づ)を さげ手(て)をたれて。我(わ)が身(み)を引(ひき)さがるのみにあらず。第(だい) 一(いち)の敬(うやま)ひといふは夫(をつと)に恥辱(ちぢよく)を与(あた)へざるにあり。さればたゞ             《割書:はぢ| 》 何(なに)とぞ一生涯(いつしやうがい)夫(をつと)には恥(はぢ)をかゝさじと心願(しんぐわん)を発(をこ)し。歩々(ぶゝ)                           《割書:あゆむにも| 》 行住座臥(ぎやうぢうざぐわ)にこれを忘(わす)るまじきことなり。此心願(このしんぐわん)にて 《割書:ゆくにもとゞまるもゐるにもねるにも| 》 女の道(みち)は大(おほ)かた不足(ふそく)なくとゝのふものなり。先舅姑(まづしうとしうとめ)に 不孝(ふかう)なるは夫(をつと)の大恥(おほはぢ)なり。髪貌(かみかたち)のはでなるより衣服(いふく)の 花奢(はなやかにをごり)たる。万(よろづ)の行儀気(ぎやうぎき)のつくつかぬまで少(すこ)しも過(あやま)てば 皆夫(みなをつと)の辱(はぢ)となるなり。一々(いち〳〵)はいひつくしがたし。推(を)して しらるべし。誠(まこと)に恐(をそ)れつゝしむべき大事(だいじ)のことなり。又(また) 舅姑(しうとしうとめ)につかふまつるは我(わ)が父母(ふたをや)に事(つか)ふるごとく。心(こゝろ)の 隔(へだ)てなく敬(うやま)ひ愛(あい)し参(まい)らせ。何事(なにごと)にてもすこしも 仰(をゝせ)に背(そむ)かず。随分(ずいぶん)〳〵気(き)をつけていたはり太切(たいせつ)に すべし。舅姑夫(しうとしうとめをつと)へのつかへさへよければそれが直(じき)に実(じつ)の 父母への孝行(かうこう)といふものなり。必々(かならず〳〵)我(わ)が旧里(さと)の事(こと)を 思(おも)ふべからず下女(げぢよ)はしたにのせられてかりにも夫(をつと)の一家(いつけ) 一門(いちもん)をそしるべからず。尻(しり)がるにて言葉(ことば)はすくなく。夫(をつと)の 外男(ほかをとこ)に近(ちか)よらず。女のともなき所(ところ)におらず。常(つね)に人(ひと)の 口(くち)のをそろしき事をわするべからず。余暇(いとま)の折節(をりふし)は つれ〳〵草(ぐさ)。大和小学(やまとせうがく)のたぐひ。身(み)の教(をしへ)となる。假名文(かなぶみ)を 拝(はい)し見るべし。日用事多(にちようことおほ)きものなれば。さやうの書物(しよもつ) をも拝(はい)し見れば気(き)のつかぬ事に気(き)のつく事もありて 大(おほ)きに利益(りやく)をうるものなり。女は陰(いん)を主(しゆ)とするゆへ 大(おほ)やう知恵(ちゑ)くらきもの多(おほ)し。故(ゆへ)に孔子(こうし)も女子(ぢよし)と小人(せうじん)とは 養(やしな)ひがたし近(ちか)づくればあなどり遠(とを)ざくれば怨(うら)むとの給ひ 又仏経(またぶつきやう)にも一切(いつさい)の江河(ごうが)は曲(まが)れり一切(いつさい)の女は必(かならず)かたましく まがれたりとも説(とき)給へり。ちかくは徒然草(つれ〳〵ぐさ)にも。女の性(しやう)は皆(みな) 僻(ひがめ)り。人我(にんが)の相(さう)ふかく貪欲甚(とんよくはなはだ)しく。物(もの)の理(り)をしらず。只(たゞ) まよひの方(かた)に心(こゝろ)もはやくうつり。言葉(ことば)もたくみに苦(くる)し からぬ事をもとふ時(とき)はいはず。用意(ようい)あるかと見ればまた あさましき事ども問(と)はずがたりにいひ出(いだ)す。ふかくたばかり かざれる事は男の智恵(ちゑ)にもまさりたるかとおもへば其(その)こと あとよりあらはるゝをしらず。すなほならずして拙(つたな)き ものは女なりと。女中はつねにこれを見て恥(はづ)かしく思(おも)ひ。 日々心(にち〳〵こゝろ)をみがき給へ。心(こゝろ)はなどか賢(かしこき)より賢(かしこき)にもうつさば うつらざらんとあれば。悪(あく)は少(すこ)しなるをもゆるさずあらため。 善(ぜん)は少(すこ)しなるをも怠(をこた)らず積(つみ)みかさねよとの教(をひ)へにしたがひ。 善心(ぜんしん)にすゝみ給はゞ終(つゐ)には神聖仏(しんせいぶつ)の冥加(みやうが)にかなひ。身(み)の 栄(さか)へはいふに及(をよ)ばず。子孫(しそん)もまた〳〵長久(ちやうきう)なるべし 右(みぎ)の通能々(とをりよく〳〵)御読(をんよみ)御のみこみなされ。常々(つね〳〵)御精(ごせい)に入(いれ)れ御つゝしみ 御つとめなさるべく候。女中の御孝行(ごかうこう)と申は此外(このほか)なく候。万(よろづ)の不孝(ふこう) は気随気任(きずいきまゝ)といふ大病(たいびやう)より発(をこ)る事にて候。それゆへ何事(なにごと)も 御孝行(ごかうこう)の御志(をんこゝろざし)さへ立(たち)候へば其(その)ひとつにてつとまらぬ事はなく候 しかればとにもかくにも父母の御恩のおもき事を御わすれ なく。あしたに鏡(かゞみ)をとり顔(かほ)を御むかへなさるゝにも。此身(このみ)も心(こゝろ)も 直(ぢき)に御両親(ごりやうしん)の御身心(をんみこゝろ)のかたみぞとおぼしめし。父母の御顔(をんかほ)を 拝(はい)する思(おも)ひになり。又手足(またてあし)は近(ちか)く常(つね)にめにかゝりやすき所(ところ) なれば手足(てあし)を見る毎(ごと)にも親(をや)の御身(をんみ)に疵(きづ)をつけじ。御心(をんこゝろ)に 恥(はぢ)をかゝせ奉(たてまつ)るまじと明(あけ)ても暮(くれ)ても。起(たつ)にも居(ゐ)るにも。時所(じしよ) 諸縁(しよゑん)につきてつゝしみ。念仏者(ねんぶつしや)の念仏(ねんぶつ)をわすれぬごとく 父母を太切(たいせつ)に思(おも)ひ給はゞ現当(げんたう)におゐて即悪心(すなはちあくしん)も発(をこ)るまじ。 悪事(あくじ)も出来(でく)る事あるまじ。若勉(もしつとま)らぬ事あらばこれを以(もつ)て 引(ひき)くらべ。直(ぢき)に我(わ)が気随気任(きずいきまゝ)なりと知(し)り給ふべし。つとむるに つとまらぬ事はなし。つとめねばつとまらぬなり。其勤(そのつとま)らぬは 彼気随気任(かのきずいきまゝ)といふ大病(たいひやう)なりと。かなしみおそれ。つゝしむで 改(あらた)めきびしくつとめ給ふべし。つとむればつとまるなり。女子 の重宝此上(ちやうほうこのうへ)あるまじきかに候 男女(なんによ)の童子(どうじ)口教(くきやう)の趣(をもむき)は先幼稚(まづようち)の時(とき)より常理(つねのり)を           《割書:いはれ| 》        《割書:ひとのみち| 》 心(こゝろ)に納得(なつとく)し末(すへ)々(ゝ)成人(せいじん)の後(のち)たよりとも成(なる)べき品(しな)乃          《割書:をとな| 》 急務(きうむ)ををしゆ嬰児(ゑいし)の身(み)なれば事多(ことおほ)くては覚(おぼ)へ 《割書:いそぎすべきことばかり| 》《割書:おなごのこおとこのこ| 》 がたく勉(つとめ)がたかるべし故(ゆへ)に甚切近(なはなだせつきん)なる節用(せつよう)を少(すこ)しく              《割書:きつうてちか| 》 述(のべ)て小学(せうがく)に入(いる)の階梯(かいてい)ともなれかしと思(おも)ふのみ          《割書:はしご| 》                           施印 付録(ふろく) 司馬温公家範(しばをんこうかはん)     婦人六徳和解(ふじんりくとくわげ) 柔順(じうしゆん)   柔順(じうじゆん)とは物(もの)やはらかにして慈悲(じひ)ふかく父母(ふも)に順(したが)ひ 《割書:やはらかにしたがふ| 》つかふまつりて能其(よくその)ちからを尽(つく)すをいふなり  然(しか)るに女子(によし)は夫(をつと)の家(いへ)に嫁(か)すれば父母(ちゝはゝ)につかゆる事(こと)かなはずされば             《割書:よめいり| 》  親(をや)の家(いへ)にあるうちは殊(こと)に父母(ちゝはゝ)に孝行(かう〳〵)をつくすべし夫(をつと)の家(いへ)に嫁(か)                                《割書:よめいり| 》    しては舅姑(しうとしうとめ)につかふまつりて苦労(くらう)をかへりみず夫(をつと)に順(したか)ひて志(こゝろざし)を  尽(つく)し老(をひ)ては子(こ)にしたがふべしこれ父母(ふも)に育(そだて)られしその厚恩(こうをん)を  報(むく)ゆるのいはれなり勿論親類縁者(もちろんしんるひへんじや)ともむつまじく下部(しもべ)を憐(あはれ)み  幼者(いとけなきもの)は他人(たにん)の子(こ)といへども我子(わがこ)のごとく愛(あい)し人にさからはずせは〳〵し  からず心温和(こゝろをんくわ)なるべし唐(とう)の崔懿(さいい)の妻唐夫人(つまとうふじん)は姑(しうとめ)に事(つか)へて  孝行(かう〳〵)なり姑年老(しうとめとしをひ)て歯(は)こと〴〵くぬけければ食事用(しよくじもち)ひらるゝ  ことなりがたかりしに唐夫人毎朝堂(とうふじんまいてうとう)に登(のぼり)て我養育(わがよういく)の子(こ)は              《割書:あさごと ざしき| 》《割書:ゆき| 》 《割書:そだてつる| 》  おろそかににして其乳(そのち)をひたすら姑(しうとめ)にすはせまいらせられしなり  かるがゆへに姑数年(しうとめすねん)の間 飯粒(はんりう)を食(しよくし)たまはざれども一(いち)だんと              《割書:めしつぶ| 》 《割書:くひ| 》  そくさいなりしとなりされば姑天年終(しうとめてんねんをは)らんとする時末期(ときまつご)に  人々集(ひと〳〵あつま)れるに対(たい)していひ給へるは我年久(われとしひさ)しく嫁唐夫人(よめとうふじん)の         《割書:はなし| 》  厚恩(こうをん)をうけつゐに報(ほう)ずる事なし願(ねが)はくは唐夫人子(とうふじんこ)あり  我(われ)に事(つか)へられしごとく孝行(かう〳〵)にせば我家(わがいへ)ながくはんじやう  すべしとぞ申されけるとかや 清潔(せいけつ)    清潔(せいけつ)とはけがらはしき事(こと)を心(こゝろ)に受(うけ)いれず邪(よこしま)なる 《割書:きよく いさぎよし| 》ことをおもはず貞節(ていせつ)をかたく執守(とりまもる)をいふなり  然(しか)れば女(をんな)の身(み)はとりわけ男女(なんによ)のわかち行儀正(ぎやうぎたゞ)しくうたがひを  さけ人に恥(はち)しめをうけず身の取まはしきれいに心(ころ)すなほにて  少(すこ)しもうしろぐらき事をせぬものなり漢(かん)の鮑宣(ほうせん)が妻桓氏(つまくわんし)は  極(きはめ)て貞潔(ていけつ)なりし人なり嘗(かつ)て鮑宣貧身(ほうせんまつしきみ)にて操潔(みさほいさき)よく勤学(きんがく)                        《割書:こゝろだて| 》 《割書:がくもん| 》  怠(おこた)りなければ其師其志篤(そのしそのこゝろさしあつき)を感(かん)じ一人(ひとり)の女(むすめ)を彼鮑宣(かのほうせん)に妻(めあは)す  既(すて)に嫁(か)するの時其やうす女(をんな)の粧(よそほ)ひ冨(とみ)たる体(てい)にて衣類調度(いるひてうと)   《割書:よめいり| 》                      《割書:とうぐ| 》  美(び)をつくして従者(しうしや)なども夥(をびたゝ)しく目(め)を驚(おどろか)すばかりなり  《割書:けつこう|  》   《割書:とも| 》  鮑宣是(ほうせんこれ)を見てさらに悦(よろこ)ばずして婦(をんな)にいひけるは我(われ)もとより                  《割書:よめ| 》  貧賤(ひんせん)なる身なればかゝる華美(くはび)なる婦(をんな)を迎(むか)ゆべきにあらず又  《割書:まづしくいやしい| 》      《割書:はなやか| 》 《割書:よめ| 》  異方(ことかた)へも嫁(か)し給へといひければ桓氏(くわんし)こたへていひけるは元来我(もとよりわが)  《割書:ほか| 》  《割書:よめいり| 》  父鮑君貧(ちゝほうくんまつ)しき身にて徳(とく)をおさめ給へるを感(かん)じて我を君に   《割書:むこぎみ| 》  つかふまつらしめ給ふなりさればとにもかくにも君(きみ)の仰(をゝせ)にたがふ事  有(ある)べからずとて美服(びふく)を改(あらため)て短布(たんふ)の衣裳(いしやう)を着(き)多(おほく)の調度(てうど)其外         《割書:よききもの| 》  《割書:あらきぬの| 》 《割書:きもの| 》     《割書:どうぐ| 》  つき〳〵の侍女(じぢよ)も皆(みな)〳〵親里(をやざと)へ返(かへ)し鮑宣(ほうせん)とともにして小車(こぐるま)を       《割書:こしもと| 》  ひき姑(しうとめ)に孝行(かう〳〵)を尽し釣瓶(つるべ)を提(さげ)て手づから水を汲(くみ)飯(いひ)を炊(かし)き                          《割書:めし| 》 《割書:たき| 》  婦(をんな)の道を尽(つく)せり隣里(りんり)是(これ)を称(しやう)せざるはなしときゝ及(をよ)べり          《割書:あたりとなり| 》 《割書:ほめ| 》 不妬(ふご) 不妬(ふご)とは夫(をつと)に順(したが)ひて背(そむ)き悖(もとる)事なく我身を正(たゞ)しく 《割書:ねたまず| 》 して人を憐(あはれ)みたとひ夫(をつと)の愛(あい)する所の妾(しやう)ありとも夫をも                       《割書:めかけ| 》    そねみねたまず恨(うら)み怒(いか)る心(こゝろ)なきをいふなり  女(をんな)は心(こゝろ)せばくして嫉妬(しつと)ふかく夫に不足(ふそく)を思(おも)ふ人多(ひとおほ)しこれ女第一          《割書:ねたみそねみ| 》  のつゝしみなりたとひ外(ほか)に夫の愛(あい)する人ありともそれをも  ねたまず夫(をつと)に少しも不足をおもはず却(かへつ)て夫の心をはかりて共(とも)に  妾(しやう)を愛(あい)しいつくしむ心あれば夫(をつと)この節義(せつぎ)に恥(はじ)て妻(つま)を見かへず  《割書:めかけ| 》              《割書:みちたゞしき| 》  妾も亦此恵(またこのめくみ)をうけてかろしめ侮(あなと)る事あるまじ漢(かん)の明帝(めいてい)の  后馬皇后(きさきばくはうごう)は天性才徳(てんせいさいとく)すぐれさせ給ひ学(かく)に通(つう)じ行(をこな)ひ一つとして                    《割書:がくもん| 》 道にかなはずといふ事(こと)なし物(もの)ねたみの御心ましまさずして王子(をうじ)の うまれさせ給はぬ事をのみなげかせ給ひ才(さい)かしこく容(かたち)うる はしき女あれば帝(みかど)に奉り給ひもし御寵愛(ごてうあい)あればかぎりなく  悦(よろこび)び給ひ其女(そのをんな)を猶々(なを〳〵)したしくめぐみ給ひ尊(たつと)き御身なれども  いさゝかも奢(をこり)給はずはなやかなる御衣(ぎよい)を着(き)給はずあらき御衣を                 《割書:をんめしもの| 》  のみ着(き)給ひしとなり又我朝(またわかてう)の紀氏(きうじ)なりける井筒(いつゝ)の女(をんな)は妬(ねたむ)こゝろ  少(すこ)しもなくかへりて夫(をつと)を大切(たいせつ)におもひける心ふかゝりけるとそ  「風(かぜ)ふけばおきつしらなみたつた山夜半(やまよは)にや君(きみ)がひとり行らん  とよみたるこゝろいとあはれふかし 倹約(けんやく)    倹約(けんやく)とは我心(わかこゝろ)をかたくひきしめ少しも奢(をごる)心なく 《割書:をごらず つゞまやか| 》衣服飲食万(いふくいんしいよろつ)に恣(ほしいまゝ)にきまゝなる事をせぬをいふなり  然(しかれ)ば居所(ゐどころ)はいふに及ばず衣類(いるい)とても恣(ほしいまゝ)にうるはしきを着(き)ず食事(しよくし)  もつゝしみて美(ひ)なるをはふき何事も身の奢(をこり)をしりぞけ       《割書:けつかう| 》  家内(かない)の者(もの)を見そだて或(あるひ)はうれひにあへる人貧(ひとまづ)しき人をも  めぐみ夫の心 届(とゞか)ざる所あれば色(いろ)をやはらげ声(こゑ)を怡(よろこ)ばしふして  夫(をつと)にかくと告(つけ)て恵(めぐ)みあるべし女は心小(こゝろちいさ)き故物事吝(ゆへものことしわく)なりやすし  吝(しはき)は必奢(かならずをごり)より出(いづ)るものなり心しわく身の奢ある時は家を亡(ほろぼ)す  べし元(けん)の世祖(せいそ)の后順聖皇后(きさきしゆんせいくはうこう)は勤倹(きんけん)の御徳(をんとく)ましましてみづから                  《割書:つとめをごらぬ| 》  苧(を)をうみ布(ぬの)とし給ひ綿(わた)をのべて紬(つむぎ)とし給ふ糸すじほ  そくそろひあざやかなる事 綾綺(れうき)の綾(あや)に異(こと)ならず常(つね)に  紬(つむぎ)をのみ着給ひて錦(にしき)を着給はず万事(よろつのこと)これにならひて  奢なく道を慎(つゝし)み給へば万民御徳(はんみんをんとく)に化(くわ)して下をだやかなり  しとや其帝(そのみかど)は韃靼国(たつたんこく)より出給ひ大唐(たいとう)の帝(みかど)となり給へば  もとより后(きさき)もたつたん国(こく)の御生(をんうま)れなりゑびすの国(くに)に生れ給へ  ども御志(をんころざし)は聖人(せいじん)の道にかなはせたまへばづれの国にうまれ  いかなる人の子(こ)なりとも志(こゝろざし)だにあらば聖賢(せいけん)の道にかなひ侍(はんべ)ら  ざらんや有がたき御 志(こゝろざし)なり 恭謹(きようきん)     恭謹(きようきん)とは容正(かたちたゞ)しく心(こゝろ)を用(もち)ゆる事(こと)ゆだんなく 《割書:うや〳〵しくつゝしむ| 》 身(み)を太切(たいせつ)に執(とり)まもるをいふなり  されば女は順(したが)ふを道とするなればつゝしみ特(こと)にをもし万(よろづ)の  事心に怠(をこた)りなく身もち正(たゝ)しく驕(をご)りたかぶる事なきやう  にといましめたしなむべし婦(よめ)となりて驕(をごり)りたかぶる時(とき)は子孫(しそん)  ほろび身を失(うしな)ふ婢(しもをんな)となりてたかぶる時は咎(とかめ)られ身の立所なし  又(また)おごらざる時(とき)は我身人(わがみひと)に敬(うやま)はれ子孫(しそん)ながくさかへ安穏(あんをん)なるべし  漢馬皇后(かんのばくはうごう)は婦徳(ふとく)すぐれましまして帝(みかど)ふかく称挙(しようきよ)し給ひ        《割書:をんなのとく| 》           《割書:ほめもちひ| 》  ければ御子位(をんこくらゐ)につき給ひて後御母(のちをんはゝ)かたの御一門(ごいちもん)に大国(たいこく)を授(さづ)け  尊(たつと)くなしまいらせんと勅命(ちよくめい)ありけれど后(きさき)かたく辞(じ)したまひ           《割書:みかどのをゝセ| 》         《割書:じぎ| 》  仰(をゝせ)けるやうは親類時(しんるひとき)にあひぬれば必奢長(かならずをごりちやう)じて天下(てんか)の災(わざわひ)となる  事(こと)ためし多(おほ)し時(とき)にあひたる幸(さいわひ)なるに何(なに)の功(こう)もなくして  此(この)うへに大国(たいこく)をたまはり天下(てんか)の政(まつりごと)を執行(とりをこな)はん事二(ことふた)たびみのる  木(き)の其根(そのね)かならず枯(か)るゝが如(ごと)しとて終(つゐ)に我親類(わがしんるひ)を引(ひき)あげ  給はざりけり天子(てんし)の御母(をんはゝ)なれども宮中(きうちう)に糸繰機織所(いとくりはたおりどころ)を                 《割書:ごてんのうち| 》  こしらへ御慰(をんなぐさみ)にし給ひけるとなん        勤労(きんろう)   勤労(きんろう)とは人(ひと)の婦(よめ)となりては我身(わがみ)を夫(をつと)に任(まか)せて 《割書:つとめしんどする| 》少しも私の心なくいかやうのくらうなる事も苦労と       おもはずちからをつくしつとむるをうふなり  然(しか)れば女(をんな)に身(み)になす業口(わざくち)にいへる言夫(ことばをつと)の仰(をゝせ)に背(そむ)かず舅姑(しうとしうとめ)に  孝行(かう〳〵)を尽(つく)し家内(かない)の取廻(とりまは)し正(たゞ)しく楽(らく)をもとめず心(こゝろ)を  はげまし少(すこし)も怠(をこた)りなく奴婢(しもおとこしもをんな)又(また)幼年(ようねん)なるものをいたはり  引立取廻(ひきたてとりまは)し夙(つと)に起(をき)夜半(よは)に寝(ゐね)紡績裁縫(うみつむぎたちぬい)のわざ怠(をこた)らず      《割書:あさはやく| 》 《割書:よをそく| 》  舅姑夫(しうとしうとめをつと)の衣服(いふく)きよらかにすへし見苦敷衣服(みぐるしきいふく)を着(き)せざるやうに  心(こゝろ)がむげに日(ひ)を送(おく)り給ふまじけふの日(ひ)は明日(あす)にいたること  速(すみやか)なる水(みづ)はながれて帰(かへ)らず光陰矢(くはういんや)のごとくにしてしばらくも  《割書:はやき| 》  どゞまる事(こと)なし老(をひ)たるもの二(ふた)たび若(わか)くならず幼(いとけ)なふして  学事(まなぶこと)をせざれば老(をひ)て悔(くや)めども益(ゑき)なし楽(たのしみ)は極(きわ)むべからず  志(こゝろざし)は充(みつ)べからず奢(をごり)は長(ちやう)ずべからず楽極(たのしみきわまり)て哀情多(あいじやうおほ)し志(こゝろざし)を充(みつ)る                           《割書:かなしみ| け》  時(とき)は不遜(ふそん)なり奢長(をごりぢやう)ずる時(とき)は亡(ほろ)ぶ凡身(をよそみ)の行(をこな)ひは心(こゝろ)の発用(はつよう)なれば    《割書:きまゝ| 》                       《割書:あらはるゝ| 》  心正(こゝろたゞ)しからざれば行(をこなひ)も亦正(またたゞ)しからず程子(ていし)の言(ことば)にも言行善(げんこうせん)なれども                            《割書:ことばをこなひ| 》  実情(じつじやう)なき人(ひと)は是誠(これまこと)の人(ひと)の道(みち)にあらずとむべなるかな昔時唐(むかしとう)の  《割書:まことのこゝろ| 》  鄭義宗(じやうぎそう)が妻(さい)盧氏(ろし)は世(よ)のきこえあるほどの婦徳(ふとく)を備(そな)へたる                     《割書:をんなのとく| 》  婦人(ふじん)なりされば舅姑(しうとしうとめ)につかへて大孝(たいかう)を尽(つく)せり或夜(あるよ)其家(そのいへ)へ盗賊(とうぞく)  《割書:をんな| 》                            《割書:ぬすび| 》  五十人計(ごじうにんばかり)太刀(たち)かたな抜持(ぬきもち)太鼓(たいこ)を鳴(な)らし垣(かき)をこへて家(いへ)に入(いり)る家内(かない)  の人々(ひと〳〵)恐(おそ)れ逃(にげ)かくれければ姑独(しうとひと)り寝屋(ねや)にゐけるに盧氏(ろし)釼(つるぎ)を抜(ぬき) て姑(しうとめ)を守護(しゆご)し側(かたはら)にゐければ盗賊(とうぞく)ども気強(きづよき)き女(をんな)かなとて打擲(てうちやく)      《割書:まもり| 》 《割書:そば| 》                   《割書:うちたゝき| 》 しけれども少(すこ)しもたゆまず釼(つるき)をふりまはしければ賊(ぞく)もたまり                       《割書:ぬすびと| 》 かねて逃去(にげさ)りぬ事鎮(ことしづま)りて後家内(のちかない)の人々立帰(ひと〴〵たちかへ)り盧氏(ろし)にむかひ いひけるは何(なに)とて君独(いみひと)りかく危(あやう)きにゐ給ふといひければ盧氏(ろし)が曰(いわ) 人(ひと)の禽獣(きんじう)と異(こと)なる所(ところ)は仁義有(じんぎある)をもつてなり隣里急難(りんりきうなん)ある時(とき)は   《割書:とりけもの| 》《割書:かわる| 》              《割書:さいしようち| 》 猶(なを)趣(をもむき)救(すく)ふべし況姑(いはんやしうとめ)の身(み)の上(うへ)におゐて何(なん)ぞ危(あやうき)を見捨(みすて)遁(のがる)べきや  《割書:はしりゆき| 》 若万一(もしまんいち)姑(しうとめ)の御身(をんみ)にあやまちあるならばいかにして独(ひと)り生(いき)ながらふ べきぞと申(もふ)されけるとなりまことに勤労(きんらう)の精粋是(せいすいこれ)に並(なら)ぶべき                     《割書:すぐれたる| 》 ものなしとかや                          施印 此偏は幼稚行状のあらましを 先生談し玉ふところの口教なり予 竊(ヒソカ)に思ふ おそらくは忘却し或はやまりあらん事を 故に其ことはを書しるし梓に鏤(チリバメ)ひろく幼稚 に授与する事になりぬよく熟読しよく 記憶しよく勤行せん人もあれかしと是先生 の欲する所なり庶幾(コイネガウ)は幼稚の志を起さん 事をおもひて書するのみ    保教 安永二年癸巳仲秋  中嶋勘兵衛蔵板        二条通御幸町西へ入町              山本長兵衛        錦小路通高倉西へ入町 京都弘所書林       小川新兵衛        新町通高辻上る岩戸山町              海老屋弥兵衛 【左頁】 左(さ)の書物(しよもつ)は親(おや)へ孝行(かうこう)主人(しゆじん)へ忠節(ちうせつ)友(とも)のまじはりを能(よく)し家業(かぎやう)をつとむる たよりとなり心(こゝろ)を直(すなほ)にすることをかなにて書(かき)よみやすき書(しよ)どもをこゝにしるす 【左頁上段】 都鄙問答(とひもんどう)     石田先生著 四冊 諸人           本心を明らめ身を脩る事をとく 齊家論(せいかろん)      同著  倹約をまもり           家をおさむる事をとく 女教訓一冊    同著          ひらかな女のおしへなり 忠孝掛物(ちうこうかけもの)    文天祥之語          二ふく物 一ふく物 枢要(すうよう)一冊     忠孝五倫のまじはりを          てみぢかくさとす 前訓(せんくん)二冊     男女幼稚(ようち)のおしへを          手ちかくさとす ねむりさまし一冊 諸人身のためになる          べき事を口ずさみとす 身体柱立(しんだいはしらだて)一冊  身上心持ども怠(をこた)ると怠(をこた)らぬ          との盛衰(せいすい)ある事をさとす 座談随筆(ざだんずいひつ)一冊   不生にて異明なるは即          大学の明徳なる訳の聞書 【左頁下段】 我(わが)つえ      諸人身持世帯渡世に           便りよき物がたりをかく 知心弁疑(ちしんべんぎ)一冊   本心を知るは益ありて           少も害なき事をさとす 和州孝子(わしうかうし)平三郎伝 一冊 和州郡山(わしうこほりやま)正六 忠誠聞書(ちうせいきゝがき) 一冊 駿州(すんしう)八助 忠誠聞書(ちうせいきゝがき) 一冊 西岡孝子(にしのをかかうし)儀兵衛 聞書(きゝがき) 一冊 臍隠居(へそいんきよ)   五倫の和合を五体無難なれば        臍安楽に隠居するにたとへて書たり 【右頁上段】 和論語(わろんご)  十冊 六諭(りくゆ)衍議(ゑんぎ)   大意 一冊        小意 一冊 やまと小学(しやうがく)七冊 小学をぢきに          ひらかなに書たるなり 童子訓(どうじくん)     貝原先生著 大和俗訓(やまとぞくきん)    同著  八冊 家道訓(かどうくん)      同著  六冊 大和為善録(やまとゐぜんろく)    藤井懶斎 先生著    町人袋(ちやうにんぶくろ) 長崎西川恕軒述       身上身持等をさとす 商人夜話草(あきんどやわさう)身上身持等をさとす 養生訓(やうじやうくん)  貝原先生述 八冊 【右頁下段】 本朝孝子伝(ほんてうかうしでん) 藤井懶斎 先生著 会津孝子伝(あいづかうしでん)       五冊 筑前宗像郡孝子(ちくぜんむなかたこほりかうし)正助伝 一冊 常盤木(ときはき) おつとへよくつかへし人の      ものがたり    一冊 つれ〳〵ぐさ 諸抄大成   廿冊 目なしぐさ  一休水かゞみ 一冊 聖一国師法語(しやういちこくしほうご) 盤桂禅師法語(ばんけいぜんじほうご)并うすひき歌 梅天禅師法語(ばいてんぜんじほうご) 塩山和泥合水集(えんざんわていがつすいしう) 【左頁】 于時天明三卯 初夏上旬      小森喜七郎義良 物 吉田蔵