【表紙】 【題箋】 救荒便覧 【右丁】 【四つ目菱紋】本居【矩形で囲む】技┃┃┃┃ 《題:救荒便覧《割書:饑歳賑済(きゝんとしすくひ)の書(しよ)世(よ)に稀(まれ)なれば今|和漢(わかん)の書(しよ)に根拠(もとづきより)て臆見(ひとりぎめ)を用(もち)ひず|煩(はん)を省(はぶ)き要(えう)を摘(つま)みあまねく人の|見やすからん為(ため)に作(つく)るなり》》 【左丁】   ○荒政之典(うゑをすくふおきて) ○尭之為_レ君也存_二心於天 ̄ニ_一加_二志於窮民 ̄ニ_一 一民饑曰我饑 ̄ヤス_レ之也一民寒 曰我寒 ̄ヤス_レ之 ̄ヲ也一民有_レ罪曰我陥 ̄イル_レ之 ̄ヲ也百姓載_レ之如_二日月_一視 ̄ル_レ之如_二父母_一 ○湯因_レ旱祷_二於桑林 ̄ニ_一以 ̄テ_二 六事 ̄ヲ_一自責曰政不_レ節 ̄セ歟民失_レ職歟宮室崇 ̄キ歟 婦-謁盛 ̄ナル歟苞-苴行 ̄ルヽ歟讒夫昌 ̄ナル歟何以不_レ雨而至_二斯極_一也言未_レ已大雨- 方数千里○王制云国無_二 九年之蓄 ̄ヘ_一曰_二不-足_一無_二 六年之蓄_一曰_レ急無_二 三 年之蓄_一曰_三国非_二其国_一也三年耕必有_二 一年之食_一 九年耕必有_二 三年之 食_一以_二 三十年之通_一制_二国用_一雖_レ有_二凶旱水溢_一民無_二菜色_一然 ̄シテ天子食日 ̄ニ挙 ̄スル 以_レ楽○大司徒以_二荒政十二_一聚_二万民_一 一曰散_レ財たくわへある米穀(べいこく) を施(ほどこ)し人をすくふなり二曰薄_レ征/年貢(ねんぐ)をかろうして人の心をしづ むる三曰緩 ̄フス_レ刑なん義(ぎ)にてつみに陥(おちい)るのものはとがめをゆるうす 四曰弛 ̄フス_レ力 ̄ヲ民(たみ)をつかひ骨折(ほねおり)させず五曰舎 ̄ツ_レ禁 ̄ヲ上の御場なれどきゝん の時(とき)は勝手(かつて)にいれてやる六曰去_レ幾/関所(せきしよ)の吟味(ぎんみ)なくあきなひ ものゝ口銭(こうせん)などゆるす七曰/省(ハブク)_レ礼 ̄ヲ吉礼(きちれい)の儀式(ぎしき)客(きやく)のもてなし礼(れい) をそなへず八曰殺 ̄ク_レ哀 ̄ヲ葬礼向(とりおさめむき)はざつとする九 ̄ニ曰/蕃(トヅル)_レ楽 ̄ヲ鳴(なり)ものを どり停止(てうじ)しておごりをさせず十曰多 ̄クス_レ婚 ̄ヲしたく取繕(とりつくろ)ひなくよめ とりむことり勝手(かつて)にさすべし婦人(ふじん)はおつとにたより夫(おつと)も妻(つま)を 力(ちから)にしてともにかせぐ時はうへこゞゆる難儀(なんぎ)なし十有一曰索 ̄ム_二 鬼神 ̄ニ_一宮(みや)ほこらのやぶれをつくろい神々(かみ〴〵)先祖(せんぞ)にいのり豊年(はうねん)を ねがふ人の気をやすめん為(ため)なり十有二曰/除(ノゾク)_二盗賊 ̄ヲ_一うゑにせまり ぬす人多く又/世間(せけん)さわがしく人の気たつゆゑよく手当(てあて)しとり をさむ○真西山曰夫人之貧富雖_レ有_二不同_一推 ̄ニ_二其繇来_一均 ̄ク是 ̄レ天地之 子凡天之疲癃残疾惸独鰥寡皆吾兄弟之顚連 ̄シテ而無_レ告 ̄ル者也我 ̄ト 之与_レ彼本同-一-気我幸 ̄ニシテ而富 ̄ミ彼不幸而貧正 ̄ニ当_下以_二我之有-余_一而済_中彼 不-足_上自_レ古及_レ今能以_二恵䘏_一為_レ念 ̄ト者其子孫必賢其門-戸必興 ̄ル蓋困窮 之民人雖_レ忽 ̄スト_レ之天地之心則未_二嘗 ̄テ不_一レ憫 ̄マ_レ之也我能恵_二-䘏困窮_一則是合_二 天地之心_一則必獲 ̄ン_二 天之佑_一此以_レ理言也若以_二利害_一言 ̄ンニ_レ之無 ̄レハ_二饑民_一則無_二 盗賊_一則郷井安 ̄ン是又富家之利也    明君(めいくん)賢臣(けんしん)の言行(げんかう)を挙(あげ)ていましめとす ○尊(たふ)とき君(きみ)の仰(あふせ)に人皇二十九代 宣化(せんくわ)天皇(てんわう)の勅(ちよく)に食(しよく)は天下の 本也(もとなり)黄金(わうごん)百貫目(ひやくくわんめ)ありても飢(うゑ)を養(やしな)はず白玉(はくぎよく)千箱有とも何ぞよく 飢(うゑ)をすくはんやとて大臣(だいじん)に命じて国々(くに〴〵)に御蔵(みくら)をたて粮米(らうまい)を積(つみ) 蓄(たくは)へさせ不慮(ふりよ)の事(こと)有とも人民(にんみん)の命をすくふべきとの御事也とぞ 又/戦国(せんごく)の頃(ころ)小田原辺(おたはらへん)を過(すぎ)させ給(たま)ひしに百姓(ひやくしやう)どもつゝれを着(き)縄(なわ) の帯(おび)をしめたりしにあれ見(み)よ凶年(きやうねん)打(うち)つゞき皆(みな)なんぎすると見(み) えたり吾(われ)早(はや)く来(きた)らばかくはせまじきにとて御馬上(ごばしやう)にて御涙(おんなみだ)を ながしたまひければ人々/承(うけたまは)り伝(つた)へ感(かん)せぬものはなかりしとぞ げにや一滴(いつてき)の御涙(おんなみだ)四海(しかい)をうるほしたまふにぞあるべき徳(とく)の流(りう) 行(かう)置郵(はやひきやく)して命(めい)を伝(つた)ふよりすみやかなりとは此(この)御事(おこと)をや申べき 又/夏中(なつぢゆう)はむぎめしを召上(めしあが)られしに近侍(をそば)の人/白米(はくまい)のいひを碗(わん)の底(そこ) に入うへに計(ばかり)むぎを置(おき)しかば汝等(なんじら)予(よ)が心(こゝろ)をしらず今/戦国(せんごく)にして 士卒(しそつ)寝食(しんしよく)をやすんぜず予(よ)独(ひと)り何(なん)ぞ飽食(はうしよく)するに忍(しのび)んやと○また 麦草(むぎくさ)の左(ひだり)へよれて生(は)えたるは世(よ)の中(なか)あしく右(みぎ)へよれて生えたるは 豊年(ほうねん)なり民(たみ)百姓(ひやくしやう)のをさなき兒(こ)どもの色(いろ)ざしよきは母(はゝ)の食物(しよくもつ)よく 雑穀(ぞうこく)を不(くは)_レ食(ず)乳(ち)の気(き)沢山(たくさん)なる故(ゆゑ)と知(しる)べし又/芋蔵(いもくら)とて去年(きよねん)の芋(いも) 家々(いへ〳〵)に積置(つみおき)土(つち)をかけ置(おき)土民(どみん)の糧(かて)にす此(この)芋蔵(いもくら)未崩(いまだくづれ)ざれば定(さだめ)て糧(かて) も尽(つき)ずと見(み)えたり下々の事かくまでしろし召されしを人々 ありがたく骨(ほね)にきざみ忘(わす)れまじき事になん○延喜(ゑんぎ)の御代(みよ)不動(ふどう) 穀とて国々に倉(くら)を建(たて)られ米穀(べいこく)を儲(たくわ)ひ凶年(きやうねん)に備(そな)へ給ひし其後 穀/数万(すまん)をねせ置(おけ)は費(つゐへ)なりとて止(やめ)られけり是より凶年/打続(うちつゞ)き 適(せめ)天にあらはれ水旱(すゐかん)の災(わさはい)度々(たび〳〵)ありて民うゑにつかれしかど 天威(てんゐ)猶(なほ)止(やま)ざるにや 朱雀院(しゆじやくゐん)の御宇(きよう)に至(いた)り南海(なんかい)より盗賊(とうぞく)起(おこ)り 東山道(とうさんだう)に将門(まさかど)謀反(むほん)して天下の騒乱(さうらん)止時(やむとき)なく万民の憂(うれゐ)となりし とそ○いづれの 君(きみ)にや凶荒(きやうくわう)の後(のち)に御位(おんくらゐ)を継(つ)がせ給ひしに 国用(こくよう)不足せしかば深(ふか)く憂(うれ)ひ給ひ扶持方(ふちかた)の事と御机(おんつくえ)の上(うへ)に常々(つね〴〵) 張付(はりつけ)させ給ひしとぞ其外の御美政(ごひせい)数(かす)多(おほ)し推(すゐ)してしるべき事 になむ○某(それ)の侯(きみ)常に桑(くわ)の葉(は)のいひを用ひられしとぞ万(よろづ)に倹(けん) を用ひられし事推してしるべし又/死(し)に臨(のぞ)みていはれしは吾(われ) 一生(いつしやう)吝嗇(しはき)やうにもあらんづれとも凶年にも領分(りやうぶん)の民(たみ)ども餓(うゑ) 死(しに)をばさせざりしが今はやみほれて心もとゞかす《割書:云| 云》この侯 天明卯辰両年民うゑになやみしかばあまねく物を分ちたびて すくはせらる数左に注(しる)す 米五百二拾石 籾(もみ)五万八千百九 拾石余 粟二千百三拾石余 大麦四石二斗 蕎麦四拾二石余   銀二拾貫余 銭壱万四百九十三貫余/斯(かく)てもかねて田畑(でんはた)抔(など)も 持(もた)ざりける者はなほさまよひければ国府(こくふ)の侍(さふらい)白川(しらかは)の辺(ほと)りに かり屋(や)をしつらひてすゑおき下司(したつかさ)をつけてかゆを煮(に)させ朝(あさ) 夕(ゆふ)くばり与(あた)へもし病(やむ)ものあれば医師(いし)をして薬(くすり)をあたへしむ すべて此料(このりやう)は右の員数(かず)の外(ほか)なりし 宝暦八年の比(ころ)より粗税(ねんぐ) の内/程々(ほと〴〵)に随(したが)ひ籾(もみ)ながら貢(みつが)せて凶荒の備(そな)へとし給へりされ ども一所に貯(たくは)へおきてはにはかの事あらん時(とき)便(たより)なからん事を 計(はか)りてそこ〳〵に倉(くら)をたてゝをさめおかせらる其かず九十 七となん上(かみ)にいざなはるゝ下(しも)なれば百姓どもおのが物のうち を思ひ〳〵にさゝげて此倉(このくら)に収(おさめ)おく《割書:云| 云》天明の比天下/凶荒(きゝん)なり しにも此国の民は一人も餓死(がし)するものなかりけるこそ有がた けれさても此籾(このもみ)を貯(たくは)ふやうこそたやすからねあしく取 はからへぼ却(かへつ)て民の煩(わづら)ひとなり又/虫(むし)ばみなどしていたづらに なりゆくかやうの事まで細(こまか)なる掟(おきて)あり○ある書に天明三年 夏より秋に至るまで単(ひとへ)もの着(き)しはたゞ二三日なるべし《割書:云| 云》 今年より明(あく)る四年まで奥羽(おうう)きゝんとはなれりされは年来(ねんらい) 御心を尽(つく)されし儲蔵(たくはへくら)を発(ひらか)れしかばうゆるものなかりし隣国(りんごく)の 飢民(きみん)入来(いりきた)るをも救(すく)ひ給ひし倒(たふ)れて死(し)するものあればねんごろ に葬(はふむ)らせたまひし又天明四年/五穀成就(ごこくしやうじゆ)祈祷(きとう)の為(ため)二の丸/先君(せんくん) の廟(たまや)へ寺院(じゐん)を召(め)し祈祷(きとう)あり君自ら食(しよく)を断(たち)ていのられける に天も誠(まこと)を感(かん)じたまへるにや霖雨(ながあめ)忽(たちま)ち晴(はれ)よき時候(じかう)とはなり しなり又宝暦の凶作(きやうさく)に多(おほ)くの餓死(がし)に至りし事を思(おぼ)し召(め)し て安永三年/籾蔵屋鋪(もみぐらやしき)の内に新(あらた)に備米蔵(そなへこめくら)を建(たて)たまひ籾(もみ)を蓄(たくはへ) あり《割書:云| 云》又天明四より百姓高百石に年々/数(かず)三升づゝ是は安永 五年/仰付(あふせつけ)らるゝ一人一升の外(ほか)なり《割書:云| 云》明和八年/義倉(ぎさう)御取立(おんとりたて)あり 安永五より川井小路(かはゐこうぢ)に義倉(ぎさう)を立(たて)此年より儲(たくは)へしめたまひし 斯(かゝ)る御世話(おんせわ)の印(しるし)を以て天明の凶作に餓(うゑ)には及(およ)ばさりし○某侯(それのきみ) 飢民(きみん)のために救(すく)ひ米(こめ)出(いだ)されしに役人(やくにん)の取計(とりはからひ)にて貧民(ひんみん)はかへす 時なければとて身上(しんしやう)よきものへばかりかしたりされば餓莩(いきたふれ)多(おほ) かりしかば領主(りやうしゆ)其(その)姦状(あしきしかた)を聞(き)かれてそれは手廻しなり救(すく)ひにあら ずとて倉(くら)をひらいて自身(じしん)下知(けぢ)して配分(はいぶん)せられしとぞ古人(こじん)飢(うゑ) を救(すく)ふの術(じゆつ)は賢臣(けんしん)を選(えら)ぶを先(さき)とすといへるは是(これ)が為(ため)なるべし ○某侯曰一世の縄紀(さだめ)紊(みだ)れざる時はきゝんといへども飢(うゆ)る民なく 後世/饑饉(ききん)ならずといへども貧民(ひんみん)多(おほ)きは驕(おご)る役人(やくにん)の下に有故(あるゆへ)也(なり) ○或(あるひと)曰一年の穀(こく)を四分一/貯(たくは)へるを法(ほふ)とす今の世にはせめて 十分一貯へて不時(ふじ)の用(よう)に備(そな)ふへし穀の新古(しんこ)年々つみかへ凡三十 万俵ほどづゝたえず貯ふるを法とすべし按(あん)ずるにこれは王制(わうせい) 一三六九の解(かい)なり周南(しうなん)も有_レ解○明暦酉年正月十八日大風/吹(ふ)き さわがしきゆへ或(ある)人/手当(てあて)として米穀多く調(とゝの)へ置(おき)しに江戸中/大火(たいくわ) にて悉(こと〴〵)く焼土(やけつち)と成(なり)にけり江城(こうじやう)始(はじま)りしより初(はじめ)ての事ゆへ死人(しにん)巷(ちまた) に満(みち)米穀(べいこく)商(あきな)ふものなくて諸人(しよにん)大(おほ)きに難義(なんぎ)に及びし時多くの人を 救(すく)はれける○或(あるひと)曰/事(こと)欠(かく)まじきに事をかく事多したとへば蓼(たて)と いふ草(くさ)は植安(うゑやす)き草なれども屋鋪(やしき)を持(もち)ながらそれさへ事/欠(かく)人 有とて植て見(み)よ蓼(たで)のそだゝぬ土(つち)もなし心がたく【らヵ】こそ事は かきけり 此人/一生(いつしやう)何(なに)にも事かき申さず富貴(ふうき)にて貧(ひん)なる人には 悉(こと〴〵)く恵(めぐ)まれけるとなりきゝんにうゆるも平生(へいぜい)の心掛(こゝろがけ)なきゆゑ  なれば是(これ)をしるす○養恬(ようてん)曰/倹約(けんやく)とは与(あた)ふべきすぢめと親戚(しんせき) 朋友(はういう)困餓(こんが)の人を救(すく)ふ事/分(ぶん)に応じて財(さい)を惜(おし)まず万事(ばんし)奢(おご)りを制(せい) するたぐひをいふなるべし○或曰/金銀(きん〴〵)はたからなり我身(わがみ)の 栄花(えいぐわ)に遣(つか)ふべからず貯(たくは)へおき飢饉(きゝん)等(とう)の時(とき)万人(まんにん)にあたふべき 為(ため)なり○昔(むかし)やつこと云(いふ)事/上下(じやうげ)ともに有(あり)て下々の奴(やつこ)と云は奉公(ほうこう) を能(よく)勤(つと)め太儀(たいぎ)なる事を太儀(たいぎ)と云(い)はず寒(さむ)くして寒(さむ)きつらをせず 一日食をくはずともひだるき躰(てい)なく互(たがい)の話(はなし)にも供先(ともさき)にて命(いのち)を 捨用(すてよう)に立働(たちはたら)かんと広言(くわうげん)しぬ今/大平(たいへい)二百年の久き我人(われひと) 御恩徳(こおんとく)の厚(あつき)にあまへて辛抱(しんぼう)弱(よは)くなりたり前文(せんぶん)に載(のせ)たる明君(めいくん) 賢臣(けんしん)の規戒(いましめ)を守(まも)りて奴(やつこ)にもおとる事なかるべし○或曰/当世(とうせい) 上下ともに穀(こく)を賤(いやし)んじて金を貴(たふと)ぶなり其/心根(こゝろね)は飢饉(きゝん)して米(べい) 穀(こく)何程(なにほど)貴(たふとき)とも金銀(きん〴〵)さへ多ければ買(かひ)もとむる事/仕易(しやす)し此ゆへに 金銀を第一として穀を心とせざるなり甚つたなき心掛(こゝろがけ)なり 其/故(ゆゑ)は二三/箇国(がこく)の饑饉には有年(ほうさく)の国より饑饉の国へ廻(まは)し遣(つかは) す米穀も有るべきなれども若(もし)二三十国も一年にきゝんせば 廻(まは)し遣(つかわ)す米穀(べいこく)も有るべからす其時に至て金銀を煎(せん)して飲(のむ)とも 命(いのち)は助(たすか)るまじきや尤(もつとも)兵乱(ぺうらん)の世には農民(のうみん)も快(こゝろよ)く田作(たつくり)も致(いた)し難(がた) きものなれば歳(とし)飢饉(きゝん)ならずとも米穀は不足するものなり此所 を能(よく)呑込(のみこみ)て金銀は命を救(すくふ)第二番(だいにばん)のものなる事を知(しる)米穀を第一 金銀を第二と心得て平日(へいじつ)食糧(しよくりやう)に成(なる)べきものを貯(たくは)へるを勤(つとむ)べし 是(これ)国郡(くにこほり)を領(りやう)する人第一の覚悟(かくご)にして下/庶人(しよじん)に至(いた)るまで此心/掛(がけ) を忘却(ばうきやく)する事なかれ是大にしては武備(ふび)の肝要(かんえう)とし小にしては 活命(くわつめい)の根本(こんほん)とするなり可_レ思/糧(かて)を貯る法(ほふ)は和漢(わかん)古今の説(せつ)色々(いろ〳〵) あれども一㮣(いちがい)に泥(なづむ)事/勿(なか)れ唯(たゞ)国本の肥瘠(ひせき)其年の豊凶(ほうきやう)を考(かむがへ)て臨(りん) 時(じ)に分量(ぶんりやう)を定(さだめ)て貯べし大㮣(たいかい)饑饉と云ものは二十年に一度/程(ほど)は 到(いた)るものなり其心掛にて貯べし   ○富人(とめるひと)のいましめ ○饑歳(きゝんとし)は天地の変(へん)にしていつあるへき事かまへ角(かど)よりしる べきにはあらざれども古(ふる)きふみにも六/歳(さい)に一饑(いつき)十二歳(じふにさい)に一荒(いつくわう) などゝもありて我  日(ひ)の本(もと)のいにしへよりきゝんの事(こと)は史乗(しじやう)【左ルビ ふみ】 にものせ雑説(ざつせつ)にも見えて三四五十年の間には必ずある事の よしいへり畢竟(ひつきやう)天地のへんは天の人をいましめたまへるにて 大平の  御代/豊年(ほうねん)打つゞき人々  御恩徳(こおんとく)のあつきにあま へておごりにふける時は天よりきゝんを降(くだ)し人をいましめ たまふ是天の人をあはれみ給ふにて永くめでたき 御代(みよ)のしるしをあらはし給ふなり国(くに)無道(ぶだう)にして五穀/豊稔(ほうじん)【左ルビ できる】 するは天の見すて給ふなりといへりされば人々きゝんは天の御 めぐみと心得/手当(てあて)によりわざわひをのがるべき事をしり其身 をつゝしみ御制度(ごせいど)を固(かた)く守(まも)りかゆをすゝり酒(さか)もりせずそまつ なる衣服(いふく)を着(ちやく)し住居(ぢゆうきよ)の好(この)み事(ごと)せず人と争(あらそ)ひせず仁心(じんしん)を本(もと)とし 自分(じぶん)の力(ちから)に及(およぶ)たけは人の飢寒(きかん)をすくひ生死(しやうし)をともにする心得 第一なるべし人の死(し)ぬるをもすくはずその身(み)計(ばかり)を思(おも)ふは身 勝手(かつて)にして天の御心にたがひ神慮(しんりよ)にも背(そむ)きてまのあたり重(おも)き 御罰(ごばつ)を蒙(かうむる)るべしよく〳〵此意をわきまへおごりの心をやめ其身 をつゝしみなば天のなすわざわいも猶のがるべき事になん○金銀 米穀を持(も)てるものはその身のはたらきにて身上(しんしやう)よくせしなれば あながちに身代(しんだい)をふるひて人をすくひ候(さふら)へといふにはあらねど きゝんの節(せつ)は憂患(うれい)をともにする事/古(いにし)へのおきてなれば己(おの)が家内(かない) 計(ばかり)生残(いきのこ)らんとのみ思はず成丈(なりたけ)は人に施(ほどこ)すべし善(ぜん)を積(つむ)の家(いへ)には余(よ) 慶(けい)ありといへば損(そん)とはならずして子孫(しそん)の栄(さかゑ)となるべし○自分の 身ばかりをはかりて人にほとこさゞるは遏糴(あつてき)とて唐(から)にてもきつい 法度(ほふど)なり背(そむ)く時はつみにおこなはるゝなり自分(しふん)富貴(ふうき)にてさし当り こまる事なけれどもきゝんの程(ほど)何年(なんねん)つゞく事もはかりがたし などゝ思ひて身をかばひしわくして施(ほどこ)さずかく人々心得たがふ 時は米穀金銀 一所(ひとゝころ)にあつまりて融通(ゆうづう)なし御世話(おんせわ)ありとも争(いかで)か あまねくうゑをすくふべき町々(まち〳〵)国々(くに〴〵)の豪商(かねもち)どもかみより一々(いち〳〵)身上(しんしやう) 分限(ぶんけん)御根究(ごぎんみ)なき内(うち)自分(じぶん)々々( 〳〵 )はやくよくわきまへ有余(ゆうよ)あらば施 すべしきゝんのすくひにて身上をはたきたりといはれなば生前(せうぜん) の面目(めんぼく)こゝろよき事ならずや又すくひをうくるものも受(うけ)ざるものも その志(こゝろざし)に感(かん)じ口々(くち〴〵)にほめ立(たて)なば天の視(み)る事など人の見るに従(したが) ひたまはざらん 仁君などがしろしめさゞらん循吏(よきやくにん)なんぞ察(さつ)せ ざらんいたづらに金銀米穀をいだきてかねの番人(ばんにん)無慈悲(むじひ)の人と 呼(よば)るゝこと口おしき事ならずや凶饑(きゝん)甚(はなはだ)しければいのち旦夕(たんせき)にせま り火(ひ)にやかれ水(みづ)に溺(おぼ)るゝことくなれば意(い)を決(けつ)してすみやかに救(すく)ふべし ○隣国(りんごく)の人も人なり自国(じこく)の人も人なり中あしき人も人なり我子 かわゆければ人の子のかわゆきも同(おな)じ天の御眼より見れば皆人 御子なりきゝん難義(なんぎ)の時(とき)は天道へ御奉公(ごほうこう)と心得(こゝろへ)上下とも艱苦(かんく) をともにし人我のへだてなく近親(きんしん)より施(ほどこし)を初(はじ)むべし○身上(しんしやう)よく 施(ほどこ)しするともたかぶるべからす就中(なかんづく)浪人(らうにん)読書(とくしよ)の師(し)などは無禄(むろく)にて 不農不商不工(つくりせすあきないせず)生産(くらしに)のみかゝりかたきものなれば貧(まづし)き人もあるべければ 富人(とめるひと)はすくふべし仁義(じんぎ)をする人を軽(かろ)んずる事なけれ其他(そのほか)すべて 武芸(ふげい)する人及び算術(さんじゆつ)手跡(しゆせき)の師(し)など無禄(むろく)なる人に至(いた)るまで夫々(それ〳〵) 厚くすくひてその難(なん)をのがすべし   ○貧者(まづしきもの)のいましめ ○米穀/高(たか)ければ人の気(き)たつものなり他人(たにん)のものを奪(うばひ)てもわが 命(いのち)たすからんと思(おも)ふゆゑ不慮(ふりよ)の事をもおこすことあり是第一 につゝしむべき事なり上には父母と仰(あふ)ぎ奉(たてまつ)る  君のましませば いかで見ごろしになしたまふべき又/国々(くに〴〵)在々(ざい〳〵)所々(しよ〳〵)僻遠(とほきはし〴〵)の地(ち)に 至(いた)るまで国主(こくしゆ)領主(りやうしゆ)ありて治(おさ)めらるれば夫々(それ〳〵)御手当(おてあて)ありて御(おん) すくひ有事(あること)相違(さうい)なけれは人々心をおちつけ気遣(きつかひ)なき事をわき まへうすきかゆをすゝり麦(むき)引(ひき)わり大豆(たいづ)小豆(せうづ)穀類(こくるい)かず〳〵海草(うみくさ)に もこんぶあらめひじきなど多く其外(そのほか)うゑをしのぐもの数々(かず〳〵) あれば力を尽(つく)しいかにもしてうゑをしのぐべしかりそめにも 人をいつはり又は争(あらそ)ひがましき心をおこすべからずわざわいは下(しも)より おこすならひなれば此所(このところ)をよく厚(あつ)く心掛(こゝろがく)べし○其身まづし きは骨折(ほねおり)ても不仕合(ふしあはせ)あり又は心掛あしく平生(へいぜい)おごりて衣食(いしよく) 住(ぢゆう)の為についやしきゝんになりたくはへなきは自分(じぶん)のゆだんなり つら〳〵遠謀深慮(とくとしあんし)人の富貴(ふうき)をうらやみそねむ心あるべからず 平生(へいぜい)中(なか)あしくともめくむものあらばかたじけなくうけてその 恩(おん)を忘(わす)れず是迄(これまで)自分おこたり不始末(ふしまつ)なるを後悔(こうくわい)し志(こゝろざし)を 改(あらた)め善人(せんにん)となるべし又自分/兼(かね)ての心掛なく餓死(うゑじに)するとも みづからなせるわさはいなれはたれをかうらむべき然(しか)るに心得 ちがひのものは死(し)なんよりは腕(うで)ずくにても人のものをうはい 活命(いきのび)んと思(おも)ひ立(たち)己(おのれ)のみか人まてもさそひ立(たて)大勢(たいせい)徒党(ととう)しらん ぼうに及(およ)ぶ抔(など)は悪少年(わるものゝ)の所業(しはざ)重(おも)き御法度(ごはつと)をやぶり盗賊(とうぞく)の働(はたらき) に当(あた)り御仕置(おしおき)となるは目前(もくぜん)なりたとへのがれて長命(ながいき)すること 万一(まんいち)ありとも天にたがひ君(きみ)に背(そむ)きて莫大(ばくだい)のとがをおかしなば うしろぐらき事いふ計なく高き天もひきくあつき地もうすく 覚(おぼ)えて広(ひろ)き世界(せかい)もせまかるべし是人と生(うま)れし甲斐(かひ)なきにあら ずや鳥(とり)さへも雨(あめ)ふらぬ前(まへ)に巣(す)を固(かた)くし人の侮(あなどり)をうけず人と して父母(ふぼ)妻子(さいし)の手当(てあて)なく餓死(うゑじに)せしめば鳥(とり)にも及(およ)ばぬ事あさ ましく耻(はづ)かしきことならずや   ○餓人(うゑひと)をすくふ心得 ○累日(いくにちも)絶食(ぜつしよくし)鵠面(かほほねだち)菜色(あをくなり)やせつかれ食物(しよくもつ)をこふともめしをあたふ べからずうすきかゆをぬるくして少(すこ)し与(あた)ふめしを食(くら)へば立所(たちどころ)に 死すといへり妄(めつた)に薬(くすり)もあたふべからす○餓莩(うゑだをれ)をすくふ法(ほふ)濟急方(さいきうはう) に曰/手拭(てぬぐひ)様(やう)のものをあつき湯(ゆ)に浸(ひた)し臍(ほぞ)腹(はら)を熨(むせ)ばじねんと回生(いきかへる) べし其時/白湯(さゆ)の中(うち)へ味噌汁(みそしる)又は米(こめ)のとり湯(ゆ)少(すこ)しを冲(さし)て攪嚥(かきまぜ) のましめ腹(はら)を滋潤(うるほ)しその後(のち)によくにえたる稀(うすき)粥(かゆ)を喫(くはせ)て両三日 の間(あいた)にだん〳〵かゆを濃(こく)して食(くは)せ日を経(へ)て軟飯(やはらかきめし)を喫(くは)すべしと ○凡飢人に白菓(ぎんなん)を食(くは)しむれば死(し)す慎(つゝし)むべしと○又甚うゑし ものに摶飯(むすび)を与(あた)ふれば死(し)すといへり○飢人をすくふにはまづ 赤土(あかつち)を水(みづ)にかきたてゝ半椀(はんわん)ほど呑(のま)せて後(のち)食(しよく)を与(あた)ふべし又/朴(ほつき)の 皮(かわ)をせんじて一椀(いちわん)のませて後(のち)食(しよく)を与(あた)ふべし此(この)二法(にほふ)を用(もちひ)ずして 食(しよく)を与(あた)ふれば忽(たちま)ち死(し)すといへり○うゆるものにもの与(あた)ふる時(とき)は ずひぶんいたわり丁寧(ていねい)にすべしがさつにする時は死(し)しても憐(あわれみ)を うけしと思(おも)はゝ恩(おん)もかへつてあたとなるなり○老人(らうしん)あしよはには 品によりおくり与(あた)ふべし○婦人女子ははづかしくあはれみも うけがたきものなれば心をつけおもひやり五日十日も薄(うす)き粥(かゆ) すゝるやうに穀(こく)にてあたふべし○かゆをつくり餓者(うゆるもの)にほどこす 時は手代わかいもの世話人(せわにん)正直(しやうじき)なるものをえらむべしあしき者を 用ふる時は米をぬすみさま〴〵のあしき事を巧(たく)むといへり恐(おそ)る べし主人(しゆじん)の志(こゝろざし)はよけれども下のあしき時は仁恵(めぐみ)賑濟(すくひ)留滞(とゞこほ)りて 詮(せん)なし此(この)意味(いみ)ときつくしがたし熟慮(つら〳〵かんかへ)深(ふか)く思ひてあやまつこと なかれ又こゞえたるものにはこも古着(ふるぎ)あたふべし   ○饑歳(きゝん)の年数(ねんすう)《割書:并》気候(きこう)の考(かんがへ) ○草木(そうもく)の花或は鳥獣(てうしゅう)を見て年の豊凶(はうきやう)を占(うらな)ふ事/其(その)説(せつ)多し先(まづ)蟻(あり) に雨水をさとり鼠(ねづみ)に火災(くわさい)を判(はん)じ鳶(とび)の巣(す)に烈風をはかり竹(たけ)の 實に饑歳を弁(べん)じ井水のつくるに颶風(おほあれ)をしり山鳴(やまなり)に畑荒(はたあれ)を見(み)る など必ず證(しやう)とするにたらすといへりされども五月/雨(あめ)なく六月雨 井の水暖かに八九月なが雨又大風大水冬暖にして雷(らい)且(かつ)地震(ぢしん)も ありて春(はる)に成(なり)度々(たび〳〵)の雪(ゆき)よかん甚(はなはだし)くは凶年(きゝん)たる事/舊記(きうき)を閲(み)て知(しる) べし粒米(こめ)狼戻(みたらになり)市街(いちまち)にすつるにいたれば必(かならず)凶年あるといへり天明五 己【巳の誤り】年/前(まへ)は豊年(ほうねん)つゞき卯年は金壹両に米壹石五斗となる文政三 年まで豊年つゝき同四己【巳の誤り】年春米/両(りやう)に壹石五斗なりしに此年/旱(ひでり) にて米/踊(おど)り両に壹石となる是より高直(かうしき)に成(な)り初(はじめ)なり○寛永(くわんえい) より今に至る饑歳(きゝん)の年/数(すう)並(ならび)に気候(きかう)の考(かんが)へ○寛永十九午年/饑(き) 饉(きん)二十八年目/寛文(くわんぶん)九年/京(きやう)きゝん七年目/延宝(えんほう)三卯年きゝん二十五 年目/元禄(けんろく)十二年八月夜大風木を抜(ぬき)屋(いへ)をたふす冬/関東(くわんとう)きゝん両 に七斗/是(これ)より連(れん)年不/作(さく)米踊る同十三辰年両に六斗/酒(しゆ)造五分一 に成る同十四年冬関東きゝん途に餓莩(うへじに)あり都下(えど)一人一合かゆ御/救(すくひ) 餓(うへ)人なし十五年春/相(あひ)止(や)む三十二年目享保十七子年/西国(さいこく)京都(きやうと) 近国(きんこく)大凶年/稲(いね)にうんか付/腐(くさ)る翌(よく)丑年正月米百二十目/去冬(きよふゆ)より和(わ) 暖(だん)にて梅(むめ)椿(つばき)大かた咲出(さきいづ)正月二日/雪(ゆき)三四寸/積(つも)り雪中に大/雷(らい)雪(ゆき)もひた とふり地震もあり白昼(はくちう)に星(ほし)飛(とぶ)十四日/和暖(わだん)七ッ時ごろ江戸/原宿(はらじゆく)より 出火/伝通院(てんつうゐん)焼失(しやうしつ)家(いへ)なき所(ところ)にてやけ止(とま)り広(ひろ)さ二十町余/長(なか)さは二里(にり) 余(よ)といへり二十四年目/宝暦(ほうりやく)五亥五月中旬より寒気(かんき)行(おこな)はれて八月 の末まで雨ふりつゞきその間五七日雨やむといへども初冬(しよとう)の如(ごと)く 三伏(なつ)の暑もぬの子をかさねし水田(みづた)へ入りて芸(くさぎ)るもの手足(てあし)ひへ こゞえ寒さにて稲はうゑたるまゝにて長(ちやう)ぜす穂(ほ)は出(いで)たれとも みのらす奥羽きゝんとなる安永元辰年江戸大火同二/疫邪(えきじや)流行(りうかう)同 三/諸国(しよこく)大風同六酉年東国/洪水(かうすゐ)同七/洛(らく)中洪水天明元丑年関東洪水 おたすけ歌(うた)にすみからすみまでおたすけた忘(わす)れまいぞや子の としだ二十九年目天明三卯の春/寒気(かんき)つよく五月まで余寒(よかん)さらす綿(わた) 入を用ゆ七月雨にまじり砂(すな)をふらす信濃国(しなのゝくに)浅間(あさま)山やけ出し夥(おひたゞし)き こと人のしる所なりやけ前(まへ)晴(せい)天一日もなく二百十日丑寅より 大風起り二夜三日(にやさんにち)やまず雨つゞく此しけ六月始より九月末 までつゞくいね青立になりみのらず是より同六午年きゝん 明る七未年米百文に三合五勺となる無分別(むふんべつ)ものさわぎ立米 屋をこぼつ夫より豊年つゞき文化十三子年八月四日大南風雨 なし竹木の梢(こずえ)皆(みな)枯(かる)梅(むめ)桃(もゝ)咲(さき)出たり文政三辰年二月より霖(なか)雨六十 日/程(ほど)野菜(やさい)たかくな一わ四十八文同四巳年春かん〳〵のふ童謡(わらへうた)は やる今年/旱魃(かんはつ)周礼(しゆらい)に旱暵(あまごひまつり)の舞(まひ)あり竒(き)といふべし米両に壹石 五斗なりしが俄(にわか)におどり石六十目と成(なる)文政五午年正月日/暈(うん) 連環(れんくわん)の如(ごとし)といへり西国(さいこく)ひでり七月/白昼(ひるなか)星(ほし)多(おほ)く見(み)ゆ江戸大水両 国/橋(はし)ばかり通用(つうよう)十二月/山(やま)の手(て)大火かわく時(とき)は火事(くわじ)ある事を知(しる) べし文政六未年/旱(ひでり)り八月十七日/大荒(おほあれ)十月/昼(ひる)雷(らい)なる桃(もゝ)桜(さくら)さかり に開(ひら)く同八月/相模(さがみ)大山(おほやま)崩(くづ)る同九戌正月元日二日大雪/木(き)冰(こほ)る同 十亥年正月六日大雪/平地(へいち)二尺同月十二日雨/木(き)冰(こほ)る同十九日大雨 夜(よる)に成(な)り大風廿日/朝(あさ)より烈風(れつふう)甚(はなはだ)し四月より不順(ふじゆん)になる五六月 日々くもる六月/土用(どよう)袷(あわせ)を用(もち)ゆ疫邪(はやりかぜ)流行(はやる)半月(はんつき)雨(あめ)なし七月四日/初(はじめ)て 雨八月/冷気(れいき)甚し袷を用(もちひ)て猶(なほ)寒(さむ)し十二月十六七日上方大雷きゝ んの風説(ふうせつ)あり同十一子年正月四日雷六日雷三月より雨(あめ)多(おほし)暖気(だんき)種(たね) 物(もの)くさる此月十六七八日/日輪(にちりん)光(ひかり)なし霧(きり)ならん六月土用/晴(はれ)両日計(りやうじつばかり) 冷気(れいき)にて袷を用ゆ十五日/山王祭(さんわうまつ)り袷よろし当夏(とうなつ)中庭(にわ)へ水をうつ に及ばず八月九日/長崎(ながさき)大荒(おほあれ)十日/芸州(げいしう)あれ十一月廿八日/越後(ゑちご)大地震(おほちしん) 江戸/少(すくな)し同十二丑年春寒大雪二度/米(こめ)両に六斗八升二月十六日大風 音羽(おとは)出火(しゆつくわ)二里/余(よ)のやけ三月廿一日大風/昼(ひる)四ッ時すぎ神田佐久間町(かんださくまてう)出(しゆつ) 火(くわ)西北(にしきた)の風(かぜ)にて南(みなみ)は新橋外(しんばしそと)東南(とうなん)は八左エ門/島(じま)まで二月両に七斗三升 三月両に六斗六升余四月両に六斗七升/程(ほと)五月七斗三升九月両 に六斗五升/或(あるひ)は五斗三升ともいふ八月二日大風十五日同し米/貴(たか)し 白米百文に六合五勺七月/但馬(たしま)因幡(いなば)大あれあり大火/後(ご)は必/大荒(おほあれ) あるよし明和九大火後八月廿九日大荒享保明和文政よく相/似(に) たり○醉吟子(すいぎんし)曰/鴨(かも)の長明(ちやうめい)が方丈記(はうじやうき)に 安徳(あんとく)天皇(てんわう)の養和(ようくわ)の頃(ころ)二 年か間(あいた)飢饉(きゝん)つゞきて大風/旱(ひでり)して人民大に苦(くる)しみよきものも乞食(こつじき) となり或は路頭(ろとう)にうゑ倒(たふ)れ死(し)せどもとりすつることもなければ 其くさきこといはんかたなしといへり其ときの様子(やうす)天明三の餓死(うゑじに) のやうすによく似(に)たり○十一月十九日/夜(よ)雷(らい)十二月雨多し雪なし 火事(くわじ)少し同十三寅年去冬より今春まで雪なし二日/微雨(すこしあめ)八月/微(すこし) 霰(あられ)雨(あめ)にまじり木(き)冰(こほ)る雷/閏(うるふ)三月廿九日/暴風雨(あらし)大さ茶碗(ちやわん)ほどなる雹(あられ) 降(ふる)麦(むぎ)にあたる稲苗(いねなへ)黒(くろ)くなるよし二月/頃(ごろ)より伊勢(いせ)へおかげ参(まい)り 毎日(まいにち)数万人(すまんにん)といふ伊勢大火 御宮(おみや)別条(べつでう)なし山奥(やまおく)までやけ入(いる)七月 二日より京都(きやうと)大地震(おほちしん)天保二卯年まで微動(すこしうごく)十月廿九日大風雨/微(すこし) 雪/木葉(このは)冰(こほ)る是より冷気(れいき)大寒(だいかん)のごとく寒中(かんちゅう)に成(なり)ては暖気(だんき)雪なく 十二月廿日少し雪天保二卯年正月十二日/暖温(だんおん)三月の如(ごと)し同十三日 大風同十四日/杜䳌(ほとゝぎす)時候(じこう)に先(さきだ)ち頻(しきり)に啼(なく)去年十二月より今二月迄 雨なく春大風多し今/中旬(つきなか)より四月/初(はじめ)まで雨六月廿日江戸大雷 即死(そくし)二三十人といふ七月十七日大風雨二夜三日/止(やま)ず当夏(とうなつ)は暑気(しよき) 甚しく雷雨(らいう)も有/是(これ)より前(まへ)大南(おほみなみ)風/吹込(ふきこみ)今日/北風(きたかぜ)にて大がへし也 天保三辰年/春寒(しゆんかん)甚(はなはだ)しく三月/岐岨(きそ)大雪(おほゆき)十一月/琉球人(りうきうじん)来聘(らいへい)寒気(かんき) つよし雪も度々(たび〳〵)前月(ぜんげつ)より疫邪(はやりかぜ)流行(はやる)こゝに至(いた)りてやむ十一月廿日 ころ大南風/暖気(だんき)三月のごとく柱(はしら)よりしづく流れかべたゝみしめり ぬ今茲(ことし)春(はる)の末より飛騨(ひだ)高山の府(ふ)十里ばかりの間(あいだ)山々の䇹竹(くまざゝ)一根(ひともと) より二茎(ふたすぢ)三茎(みすぢ)づゝ穂(ほ)いで其/高(たか)さ四五尺/穂(ほ)の末(すへ)黍(きび)の状(かたち)に似(に)たり夏(なつ)に 及びみのる土人/争(あらそ)ひとりて廿五六万石/得(ゑ)て貯(たくは)ふといふ此五六年 前(まへ)美濃(みの)信濃(しなの)近江(あふみ)其外(そのほか)国々にもありしと聞(きこ)ゆ正徳(しやうとく)享保の比(ころ)にも ありて今年(ことし)まで百二十年と云十一月/末(すゑ)寒気(かんき)微雪(すこしゆき)ふり北風(きたかぜ)冽(すさま)じ 十二月雪/少(すくな)し暖気(だんき)同巳年春寒大雪/度々(たび〳〵)二三四月は晴(はれ)日(ひ)多(おほ)く 四月十一日十二日/日輪(にちりん)朝暮(てうぼ)丹(たん)のごとく光(ひかり)なし霧(きり)深(ふか)きゆへと思(おも)はる 正陽(せいやう)の月(つき)陰気(いんき)かつ饑歳の兆(しるし)か五月/陰晴(いんせい)半(なかば)す梅實(むめのみ)多(おほ)し六月/長(なが) じけ冷気(れいき)行(おこな)はる土用中/袷(あわせ)もよし綿入(わたいれ)用(もち)ひ度(たき)こと一両日あり七月 七日/老人(らうじん)綿入(わたいれ)用ゆ八月朔日朝小雨四時より颶風(おほあらし)初(はじめ)は東北風つよく 又西南の風(かぜ)吹終(ふきおは)り北風(きたかせ)となる九月不令/地震(ぢしん)一両度(いちりやうと)少(すこ)し暖気(たんき) 此冬(このふゆ)暖気(たんき)且(かつ)雷雨(ら[い]う)あらばおそるべきか能(よく)気候(きかう)を考(かんが)へ手当(てあて)あるべし わざはひはなをざりにするよりおこるよく〳〵心得(こゝろゑ)へし    ○蒹葭(よし)の葉(は)を見(み)て出水(しゆつすゐ)を知(しる)事 ○二三月ごろあしのわか葉(は)の下葉(したは)より三枚(さんまい)め以上(いしやう)を用(もち)ひて 見(み)る図(づ)左(さ)のごとしくせ一所(ひとところ)あるは出水(しゆつすゐ)一度(いちど)なり二所(ふたところ)は二度(にど)三所は 三度としるくせある葉(は)一枚を四五六七八九月と六ッにわり付 又一ヶ月を上中下/旬(しゆん)と分(わけ)て出水(しゆつすゐ)ある月いづれの旬(じゆん)にありといふ ことを知(し)り又出水の多少(たせう)は葉(は)のくせ甚(はなはだ)しきといさゝかなるとにて 知るべし小西/米重(よねしげ)と云人/数年(すねん)ためし見るにいさゝかもたがふ ことなしといへり委(くわし)くは穂立指南(ほたちしなん)に見(み)ゆ求(もと)め見(み)るべし   蒹葭(あし)の葉(は)     《割書:|九月 八月 七月 六月 五月 四月》    《割書:下より三枚め以上を用ゆべし|しからざれば葉のびそろはぬ》 【蒹葭の葉図 五本の横線等間隔にあり】 《割書:ゆへたしかなることしりがたし| 》 《割書:下旬中旬上旬|    下同じ》   ○饑歳(きゝん)の扶食(ぶじき) ○草根(くさのね)木實(きのみ)皮(かわ)葉(は)小毒(せうどく)ありとも灰湯(あく)にてよく煮(に)水をかへさわし 醤(せうゆ)塩(しほ)豉(みそ)にて調和(あんばい)すればあたらず灰(はい)は堅木(かたぎ)雑木(ざうき)をやきたるよし 松(まつ)杉(すぎ)はあしゝ○みそしほは凶年(きやうねん)かくまじきものなり○米粃(こぬか) 味噌(みそ)の法(ほふ) 米粃(こぬか)一斗《割書:よく|いる》大豆(だいづ)一斗七升《割書:赤くなる|ほどに【注】る》塩(しほ)一斗なり右/大(だい) 豆(づ)を煮(に)たる汁(しる)にてぬかをよくかきまぜ一所につき込(こむ)麹(かうじ)を一斗も いれて猶(なほ)よし又/豆腐(とうふ)のからを干(ほし)あけいりて入(い)るゝもよし ○又方○米粃(こぬか)一石/酒糟(さかがす)一斗/醤油渣(せうゆかす)一斗右ぬかを釜(かま)にてよくむし つき合(あわ)するなり糟(ぬか)は入(いれ)ずともよし○こぬかを日(ひ)に干(ほし)いりて 【注 「い」を「に」に修正ヵ。】 さまし臼(うす)にてひきこまかにふるひ米をまぜだんごとす○ こ米(ごめ)はあたらしきすりばちへ水をはりこ米(こめ)を入(い)れゆり動(うごか) し小砂の下(した)にしつみたる時分(じぶん)にうへの方(かた)よりすくひ上(あぐ)る 時(とき)はよき所(ところ)ばかりになるそれをかうじにねかし又かゆにも ほしいひともしたん子ともする○粃味噌(ぬかみそ)《割書:どぶ|づけ》を漬置(つけおき)くひ もの尽(つき)たる時(とき)に少(すこ)し穀(こく)をまじへ煮(に)てすゝれば死せずと いふ○藁(わら)を極(ごく)こまかにきざみいりてさましやげんにて おし又は石臼(いしうす)にてひきふるひ米をいりて麦(むぎ)こがしのごとく して食(しよく)す又だんごともす○栗(くり)○柿(かき)○椑柿(しふかき)○棗(なつめ)○桑(くわ)の實(み)干(ほし) たくはふ○止知(とち)の實(み)を水にひたし煮(に)ること十五/度(ど)よくむし て食(くら)ふ流(なが)れに一夜(いちや)つければ一度にてもよしといふ○榧子(かやのみ)を 香煎(かうせん)にして食(しよく)する方(はう)ありそれへ麦(むぎ)のいり粉(こ)を合(あはせ)て飢(うゑ)を しのぐ○橡實(くのぎのみ)の製方(せいはう)前(まへ)に同(おな)じ○檞實(どんぐり)は弱(よわ)き人/老人(らうじん)小兒(せうに)は 食(くら)ふことなかれ水に浸(ひた)し又水をかへにる事(こと)十四五/度(ど)渋味(しぶみ)を さりよくむして米(こめ)の粉(こ)をまじへ餅(もち)として食(くら)ふ紀伊(きい)の国(くに)熊(くま) 野(の)山中(さんちゅう)常(つね)に米(こめ)麦(むぎ)にまじへ食(しよく)す○胡桃(くるみ)○榛(はしばみ)○柯樹子(しゐのみ)○干蔔(ほしぶ) 萄(とう)○蘿蔔(だいこん)切(きつ)て一度むし干(ほし)あげて汁(しる)のみ又/煮(に)しめかてとす葉(は)も 時々(とき〴〵)干(ほ)せば久しくたくはふべし○水蘿蔔(はたなたいこん)○胡蘿蔔(にんじん)○野胡蘿蔔(のにんじん) 根(ね)甘(あま)し生(なま)にて食(しよく)す○菘(な)○薺(なづな)○牛蒡(ごぼう)くきをきりさかさまに埋(うづ)め 置(おき)又みそにつけおくときはみそかはらず葉(は)茎(くき)とも食(くら)ふべし ○芋(いも)横(よこ)にきり串(くし)にさし干(ほし)あげたくはふ葉(は)くき干(ほし)あげ貯(たくは)ふ ○紅瓜(きんとうぐわ)うすく切(きり)ほしおく二三寸に切(きり)みそ漬(つけ)にしてよし○茄(な) 子(す)うすく切(きり)干(ほし)あげたくはふ○豇豆(さゝげ)○裙帯豆(じふろくさゝげ)○豌豆(ゑんどう)○菜豆(いんげん)○紫(とうの) 芋(いも)○蹲鴟(やつがしら)○青芋(あをいも)からも青(あを)赤(あか)ともよし○黄独(かしう)○南瓜(とうなす)○野山薬(じねんじよう) ○甘藷(りうきういも)○仏手薯(つくねいも)○薯蕷(ながいも)○蚕豆(そらまめ)○玉蜀黍(とうもろこし)○䅟子(ひへ)○稷(うるきび)○秫(もちあわ)○黍(もちきび) 蜀黍(もろこし)○蔓菁(かぶらな)根(ね)をつき餅(もち)としたくはへ凶年にむして食(しよく)す《割書:以上|上品》 ○商陸(やまごほう)白根(しろね)をうすく切(きり)灰湯(あく)にてよくにさわす葉(は)もゆびき水 によくひたし食す○百合(ゆり)○巻丹(おにゆり)○土圞兒(ほと)○慈姑(くわい)○烏芋(くろくわい)○ 欵冬(ふき)は蕃椒(たふがらし)を入(いれ)生醤油(きぜうゆ)にていりつけたくはふ○槖吾(つわぶき)四時(しじ)食(くら)ふ ふきと同じ魚毒(うをのどく)を解(げ)し河豚(ふぐ)の毒(どく)をげすほしたくはへおくべし ○芣苢(おほばこ)煮(に)ほしおきかてとすひたしものよし○艾葉(よもぎ)にてかて とす○接続草(すぎな)よくゆひきさわし麦(むき)米(こめ)にまぜかてとす○ 大薊(やまあさみ)小薊(のあざみ)あくゆにてよく煮水をかへさわし食(しよく)す○䕲蒿(よめがはぎ)ゆ びく○苦芺(さはあざみ)よく煮(に)さわす○紅藍縷(あいたで)よもぎ同様(とうやう)○繁縷(はこべ) ゆびく○綿絲菜(おひらこ)同前○虎杖(いたとり)右の数種(すうしゆ)塩(しほ)をかくべからす妊(はらみ) 婦(おんな)にいむ○地膚(はきぐさ)○藜(あかざ)○灰藋(あをあかざ)○莧菜(あをひやう)○白/莧(ひゆ)○赤莧○班(まだら)莧○ 野莧○馬歯莧(すへりひゆ)○山蒜(のびる)○独活(うと)○草石蠶(ちよろぎ)○野蜀葵(みつばぜり)○菊英(きくはなびら)黄白紫赤 葉(は)もよし○紫蘇(しそ)○耳菜(みゝな)○蒼求(をけら)黒皮をきりうすく切二三/夜(や)水(みづ)に ひたしにかみをさりよくにさわし食(しよく)す○黄精(なるこゆり)わかばをゆひき 水にひたし苦みをさり醤(せうゆ)塩(しほ)を調合(てうかう)す根(ね)は九度むし九度さらし よく煮(に)て食(しよく)す○蕨(わらび)○薇(ぜんまい)根をほりたゝき水(すゐ)ひし粉(こ)をとり餅(もち)に 作りかてとし食(くら)ふ製法(せいほふ)わらび同様(とうやう)○蕺菜(どくたみ)根をよくむし飯(めし)の うへに置(おき)むし食(しよく)す○蜀漆(こくさき)よわき人(ひと)食(しよく)すべからす一宿(いとよ)水に浸(ひた)し ゆびく蜀漆はこくさき臭梧桐はくさぎ葉(は)大(おほひ)なり二物/別(べつ)なり ○稀薟(めなもみ)○蒼耳(おなもみ)ゆびき水にひたしさわし塩醤/調(とゝの)ひ食す○萱(わすれ) 草(くさ)わらび粉(こ)をとるごとくして餅(もち)に作(つく)りかてとす○防風(やまにんじん)わかば ゆびき食(しよく)す○䑕麹草(はゝこぐさ)五行(ごぎよう)蒿(よもき)といふくきは米の粉にまぜむし て餅(もち)とし食(くら)ふ製方(せいはう)よもぎと同じ○桔校(ききやう)ゆびき水にひたし 苦(にが)みをさりさわし食(しよく)す○羊蹄(ぎし〳〵)苗又/和大黄(わだいわう)葉(は)ばかりゆひき食(しよく) す○雁来紅(はげいとう)製(せい)前(まへ)に同し○雀麦(からすむぎ)皮をさりつき麺(めん)としむし餅(もち) に作(つく)る初生の青葉(おをば)の汁を米の粉(こ)に和(くわ)し餅(もち)につくる○燕麦(ちやひきくさ)○ 薏苡仁(よくいにん)飯(めし)にたきかゆにつくり麺(めん)にして食(しよく)す米と同しく酒に作 るべし煮(に)くだけかたきものなれは粉(こ)にしてむしもちたんごに 作るをよしとす○団慈姑(かたくり)製方(せいはう)天花粉(てんくわふん)に同じ○葛粉(くず)くぞふじ のねの粉(こ)なり冬根をとりつきくたき汁(しる)をとり水(すゐ)ひし十/余(よ)篇(へん) してもちとし飢(うゑ)を助(たすく)る事/穀(こく)につぐ葉もわかきをゆびき食(しよく)すべし たけたるは干(ほし)て馬にかふ○麦粉(せうふ)米(こめ)麦(むぎ)の粉(こ)こぬかにまぜ食(しよく)すべし ○瓜樓根(くらすうり)は天花粉(てんくわふん)なり根(ね)をとりて皮(かは)をさり白き所(ところ)を寸々(すん〴〵)に 切(きり)水にひたし一日に一度つゝ水をかへひたし四五日へて取出(とりいだ)し つきたゝらかし布(ぬの)の袋(ふくろ)にもりてこし極細末(ごくさいまつ)にし或は根をさらし つき麺(めん)となし水にひたしすましこすこと十余へんおしろいの 如くして用(もち)ゆやきもち煎餅(せんべい)等(とう)によしわらひにはいむ○萆薢(ところ)横 にきざみて後(のち)は大体(たいてい)葛粉(くづ)の製(せい)しに同し久(ひさ)しく食( しよく)し大便(たいへん)秘(ひ) 結(けつ)せば白米をにくたし度々(たび〳〵)のめば毒(とく)解(け)す又引わり麦(むぎ)の如(ごと)くし 米にまぜめしとす上品(じやうひん)なり○夏枯(うつぼ)草うばのちと云ゆひきさわ しかてとす○枸杞(くこ)○木通(あけび)の嫩芽(わかもへ)○忍冬葉(すいかづら)○木天蓼(またゝび)の葉(は)○藤(ふち) わかめ皆よくにさわし用ゆ○五加苗(うこぎ)飢民(きみん)食毒(しよくどく)にあたりたる時 根を煎(せん)じて飲(のめ)ばいゆ○芡實(みづふき)おにはすのみなりくき葉皮をさり 食(しよく)すつぶは七八月/取(とり)おさめ飢(うゑ)に備(そな)ふ根(ね)はさといもの如し實(み)を粉(こ) にしてはすの實(み)米(こめ)の粉(こ)にまぜだんごに作(つく)り食(しよく)すくきは三四月 食すあくゆにてゆびき食(しよく)す○蓮(はす)の實(み)つきくだき米にまぜかゆ 又めしだんごむし餅(もち)○蓮根(はすのね)をつきくだき汁(しる)をとり水(すゐ)ひし かげ干(ほし)だんごもちにすべし○鼓子花(ひるがほ)あめふり花(はな)と云(いふ)根(ね)を掘(ほり) きざみよくにてさわし麦(むぎ)にまぜかゆとす葉(は)も食(しよく)すべし久(ひさ) しく食すべからず○香蒲(がま)がばのわかめ食(しよく)すべし根かわをさり よくさらしゆびきて麺(めん)にひき餅(もち)とす○菰首(こもづの)がつごのめ也まこも の根(ね)より生(しやう)ずるめなりかてとすべし子(み)はつきて米(こめ)麦(むぎ)に合(あは)せて 粥(かゆ)とす○蘆(あしづの)よしのめよしの子(み)なり春ほりてとるゆびき調食(てうしよく) す根(ね)生(なま)にて食(しよく)す○菖蒲(しやうぶ)水にひたしあしき味(あしわい)をさり煮(に)て食す 切てあくゆにてよく煮(に)水をかへ二三宿(にさんや)ひたす○水芹(みづぜり)○昆布(こんぶ)○ 裙帯菜(わかめ)○黒菜(あらめ)○羊栖菜(ひじき)○瓊脂(ところてん)○菌(きのこ)○香蕈(しいたけ)○松(まつ)蕈○餹(はつ)蕈○ 題頭菌(まいたけ)○玉蕈(しめじ)○木耳(きくらけ)○石耳(いわたけ)○乾魚(ひもの)○決明乾(ほしあわひ)○串海䑕(くしこ)○木魚(かつをぶし) かみて少しづゝのめば死せずといふ○鼈(すつほん)○亀(かめ)○獣(けものゝ)皮せつたの皮 をかみて命をつなぎしものもあり○松の白皮つきて水に数(す) 日ひたしよくむし穀(こく)をまじへ餅として用ゆ○鳥獣(てうじう)○魚貝(ぎよばい) の肉(にく)よく煮(に)熟(じゆく)し食べし○糖藁(あめわら)○麦/稗(ひゑ)などの茎(くき)炒(いり)て細末(さいまつ) にして湯にかきたて呑べし飢(うゑ)を救(すく)ふ○革道具よく煮熟す れば食すべし○清正の家士/蔚山(うるさん)籠城(らうじやう)の時/糧(かて)つき壁(かべ)土を水に かきたて呑たることありすさの藁(わら)あるゆゑにや○海(うみ)に鹿(つの) 角菜(また)○海蘊(もづく)其外/海藻(にきめ)類あり食ふべし○山に石/麫(むぎ)あり肥 後より出たることあり其年きゝんなり毒なくしてうゑを止(やむ) といふ○観音粉(いしのやに)あり皆/飢(うゑ)をすくふといへども遠き方なれば用 ひざるがよし本草/必読(ひつとく)に見(み)ゆ○安永年中万治の糒(ほしい)と塩(しほ)とを 蓄(たくはへ)しを見る性(せい)損(そん)ぜずと云人あり○竹實(またけ)䇹竹(くまざゝ)一名ちまきさゝ 實(み)のかたち小麦(こむぎ)に似(に)て上下すこし鋭(とが)れり俗(ぞく)に自然粳(じねんこう) 又竹麦と号(な)づく飯となし団子(だんご)或は饂飩(うんどん)につくりて食す 【上段】 常(つね)に食(しよく)し妨(さまたげ)なく飢饉(きゝん)の備用(そなへ) 比類(ひるい)なき貴(たふと)きものなりといへり          飛州(ひしう)に出来(てき)          し図(づ)左(さ)の          如(ごと)し  【自然粳の図】    【下段】  ○兵粮丸方(へうらうぐわんのはう) ○晒(さらし)米《割書:十五匁|》蕎麦粉(そばこ)《割書:五匁|》勝尾(かつを) 武士(ぶし)《割書:三十匁|》鰻鱺(うなぎ)白干(しらぼし)《割書:三十匁|》梅干(むめぼし) 肉(にく)《割書:三十匁|》生松/甘(あま)はだ《割書:三十匁|》酒蒸(さかむし) 右の薬(くすり)粉(こ)にして梅干肉(むめぼしにく)に松(まつ)の 甘(あま)はだ段々(たん〴〵)に入(いれ)能(よく)押合(おしあわ)す径(わた)  り三分/余(あまり)に丸(ぐわん)じて一日に二三/粒(りう) づゝ用(もち)ゆ七八日の飢(うゑ)をしのぐ 【全段】 ○又方○蕎麦(そば)《割書:三合|》晒米(さらしごめ)《割書:三分|》人参(にんじん)《割書:一両|》梅干肉(むめぼしにく)《割書:十匁|》松甘(まつあま)ハタ五十目 甘草(かんざう)《割書:一匁|》右/丸(まろ)め一日に二度(にど)用(もち)ゆ飢(うゑ)をしのぎ心気(しんき)を強(つよ)くす妙(みやう) なり○又方○干蚫(ほしあわひ)《割書:二十匁|》大麦(おほむぎ)《割書:十匁|》鯉(こい)《割書:三十日|よく干(ほす)》餅米(もちこめ)《割書:五十目|》茯苓(ぶくりやう)《割書:十|匁》 《割書:大白上|》海䑕(なまこ)《割書:三十目|》右/粉(こ)にして丸(ぐわん)じ朝夕(あさゆふ)一粒づゝ用ゆ常(つね)に遠行(えんそく)食(しよく) 心もとなき所(ところ)へは持(もつ)へし○又方○人参(にんじん)《割書:一両|》松脂(まつやに)《割書:一斤|》白米(はくまい)《割書:五合|》 右/丸(ぐわん)して用ゆ十五人三日の食に成る○又方○桑實(くわのみ)の不熟を 干(ほ)し末(こ)にし湯(ゆ)にて呑(の)めば三日の飢(うゑ)をしのぐ○又方○田螺(たにし)を 生醤油(きせうゆ)にて煮(に)て干(ほす)なり十(とを)ばかり懐中(くわいちゆう)すべしそれをかみ喉(のんど) かわくに湯(ゆ)を呑(のめ)ば食(しよく)になる又/串海䑕(くしこ)を醤油(せうゆ)にて煮(に)食(しよく)す れば廿四時もつなり又/椎茸(しいたけ)芋茎(いもがら)を生(き)ぜう油(ゆ)にていり付( つけ) 持(もつ)又/焼塩(やきしほ)をくゝみても飢をしのくといふ○右/試(こゝろ)みて用(もち) ゆべし右の法(ほふ)は戦場(せんぢやう)を経(へ)し人の秘伝(ひでん)なり後人(のちのひと)又/伝(つた)へて 秘伝とす狭(せま)き心得(こゝろえ)といふべしたとひ敵国(てきこく)たりとも饑歳(きゝん) に糶糴(うりよねかいよね)を求めなばおくり與(あた)ふべし勝敗(しやうはい)は徳(とく)にありて糧(かて)に あらず○十死一生(じふしいつしやう)の妙訣(てんじゆ)食物(しよくもつ)もたえせん方なき時(とき)は津液(つばき) を口中にためてはのみ〳〵する時は廿/余(よ)日を保(たも)つと古人(こじん)記(しる)しおけり   ○火(ひ)を用(もち)ひす調食(めしをたく)事 ○糒(ほしいひ)の粉(こ)と餅米をむし寒(かん)の内(うち)に水(みづ)にてつけ干(ほし)四五度さらして よく干かためあらくひき袋(ふくろ)に入(いれ)持(もち)て食ふときはひたし用(もちゆる)也   ○鍋(なべ)を用(もち)ひず調食事 ○米をこもに包(つゝ)み水(みづ)につけて取出(とりいだ)し地(ち)に置(おき)土(つち)を少(すこ)し上(うへ)へかけ 其(その)下(した)を掘(ほ)り下よりたくなり又こもの上に土(つち)をかけ其上にて 火をたくもよし米半分食半分/程(ほど)に出来(てき)るなり一説(いつせつ)に穴(あな) を掘(ほり)火をたきあつくなりたる所へぬれごもをおき米を入れ又 ぬれごもをかけうすく土をかけ其上にて火をたくともいへり   ○米たくはへやうの事 ○籾(もみ)ともに置(おく)なり若(もし)米にて置(お)かばわらを俵中(たはらのうち)へ米と交(ま)ぜて 俵(たわら)にすれば米の性(しやう)損(そん)ぜさるものなりもみともに置き時々(とき〴〵)にす りて用ゆ糠(ぬか)藁(わら)は馬(むま)の飼料(かひりやう)とするなり又しぶかみへ包みおくもよし   ○塩(しほ)置(おき)やうの事 ○床(とこ)の上(うへ)は悪(あし)しすなの上に置へし若(もし)塩(しほ)に尽(つき)たる時は下の砂(すな)を 水に入(いれ)てこし水をつかへは塩水になるなり   ○同/味噌(みそ)の事 醤油(せうゆ)のかす糖大豆塩を合(あわ)せてよし又/兼(かね)て鰯(いわし)鰹(かつほ)まぐろあぢこの しろ等(とう)をたゝき塩(しほ)等分(とうぶん)に合せ塩辛(しほから)にして置(おけ)ば上(じやう)味噌(みそ)になる 今/海辺(かいへん)山中(さんちゆう)の味噌は皆/此(かく)の如(こと)しといふ   ○早汁(はやしる)調法( こしらへやう)の事 ○芋(いも)のくきなどを味噌せうゆにてよくにしめ能(よく)干(ほし)縄(なは)になひ 持(もつ)なり水に切込(きりこみ)煮ればよき汁になるなり大根(だいこん)のきり干(ほし)もよし   ○潮水(うしほ)にて食調(しよくこしら)へやうの事 ○鍋(なべ)の内(うち)へ茶碗(ちやわん)を一(ひと)つうつむけて入其上に米を入さて潮(うしほ)を 入てたくなり此の如くして食ふなり塩気はありといふとも 潮にて直に煮たるよりは遥にまされり茶碗の中にのこる也   ○温食《振り仮名:不_レ饐|すゑざる》法の事 ○腰兵粮(こしへうらう)など入持時(いれもつとき)ゆげをさまして器(うつは)につめるは饐(すゑ)るなり 成程(なるほど)温鍋の中より直(すぐ)に器(うつは)に入(いれ)其(その)まゝよくつめ蓋(ふた)を仕置(しおけ)ば 何程(なにほど)炎暑(えんしよ)の時節(じせつ)といふとも少(すこし)も饐ざるなり火気(くわき)退(しりぞき)たる食(しよく)は 却(かへつ)て饐(すゑ)るものなり   ○粳米(うるち)を乾(ほ)し飯(めし)にする法(ほふ)   ○うる米を寒水(かんすゐ)に四五日/浸(ひた)しせいろうにて蒸(むし)さらし乾(かわか)して瓶 に入/貯置(たくはへおく)べし用る時/熱湯(ねつとう)に浸(ひた)せば飯(めし)となる   ○寒(さむさ)を凌(しの)ぐ薬方(やくはう) 葛(くず)の粉(こ)を寒(かん)の内(うち)酒(さけ)につけほして持(もつ)なり   ○天明(てんめい)饑歳(きゝん)米穀(へいこく)高直(かうじき)の略抄(りやくせう) ○奥州辺(おうしうへん)金一分に付/米二升八合(みはるせんだいへん)○四升八合(あいづでは)○四升五合(水戸御領やしう)○六升(しらかは)○ 七升(ゑちご )○七升五合(やしう )○あわひゑ六升五合より七升○つき麦(むぎ)九升八合 ○から麦(むぎ)一斗四升○小麦(こむき)一斗四升○大豆一斗二升五合○小豆(あづき)八升 四合○銭百文に付/生麩(せうふ)二升八合○八百文に付ひゑ糠(ぬか)一/俵(ひやう)○十六 文/大根(たいこん)一本○五十文ひば一/連(れん)委(くわ)しく農喩(のうゆ)に見(み)ゆ求(もとめ)てみるべし   ○凶饑(きゝん)悲惨(いたましき)の状(ありさま)を記(しる)しておこたりをいましむ ○享保丑年のきゝんに上方(かみがた)の豪商(かねもち)米うりきれたれば金持(かねもち)ながら 難義(なんぎ)せしことあるよし我(わが)つゑと云(いふ)書(しよ)に見(み)ゆ○宝暦(はうりやく)五のきゝん にある人/越後(えちご)の国(くに)へゆきしに流莩満路(にけさりゆきだふれ)多しある家(いへ)にたちいり 見(み)るに小児(せうに)二三人を柱(はしら)にくゝりつけたり何(なに)ゆへと問(とふ)にかつへ候ゆへ 兄弟(きやうだい)たがひにくひ合候に付かくするといひたりき○又/隣家(りんか)に て何かさはかしかりしかば何事(なにごと)ぞと尋(たづ)ぬれは箒(はゝき)うる翁(おきな)一飯(いつはん)を 乞しゆへめしにしゞみ汁をそへてあたへしにからとも狼呑(まるのみ)し て気絶せしとぞ湯河洲叟/語(かた)りき○食(しよく)もつなくては婦人(ふじん)の 乳(ちゝ)出(いで)ざればちぶさをくひ切(き)られ死(し)するもあり又は子どもかつ ゑ親(おや)に喰付(くひつく)もあればぜひなく櫃(ひつ)の中(うち)へいれ死(し)を待(まつ)て捨(すつ)るも ありしとぞ○天明のきゝんに百金(ひやくきん)を腰(こし)にせし浪人(らうにん)餓死(うへじに)せし 事(こと)ありとぞ金銀(きん〴〵)珠玉(しゆぎよく)うゑて食(くら)ふべからず寒(こゞえ)て着(き)るべからすと誠に しかり○同時わけて大きゝんの所(ところ)にては食物(しよくもつ)つきて牛馬(ぎうば)の肉(にく) 犬猫(いぬねこ)までも食(く)ひつくしつゐに闔門相枕籍以死(かるいのこらずまくらをならべてし)にけりかまど四五 十もありし里々(さと〴〵)もみな死(し)につくしなき跡とむらふものなければ 死骸(しがい)は堆積(つみかさね)腐爛(くさり)て鳥獣(とりけもの)のゑじきとなり一村(ひとむら)粛然(さひしく)噍類(いけるもの)なく あはれさたとへん方(かた)なしとそみづから見(み)ぬ事はきゝんたりとも さまでのことあるまじと思(おも)へるは愚(おろか)なる事なり○享保午の秋米 頻(しき)りに高直(かうじき)にて万民(はんみん)困窮(こんきう)し盗賊(とうぞく)所々(しよ〳〵)に徘徊(はいくわい)す夜分(やぶん)往来(ゆきゝ)なく 昼(ひる)も僻遠(いなか)の人なき所(ところ)は往来(ゆきゝ)なしとぞ   ○避穀仙方(ひこくせんはう)略抄 ○黒豆五斗水にてゆり洗(あら)ひこしきに入むすこと三べん黒(くろ)き皮 さり又/麻(あさ)の實(み)三斗水に浸(ひた)して一夜(いちや)蒸(むし)候て三べんいづれも一へん ごとにさまし麻(あさ)の實(み)上(うへ)の皮(かわ)口(くち)を開(ひら)き候を日(ひ)に干(ほ)し其/皮(かわ)を 去(さ)り内(うち)の肉(にく)ばかりとりさて右の黒豆のむしたると一所(いつしよ)に臼(うす)に 入れ手杵(てきね)にて能(よく)槝(つき)まぜ粒(つぶ)のこれなき程(ほと)つきて取出(とりいだ)し握(にき)り拳(こぶし) ほどづゝに丸(まろ)め又/甑(こしき)に入/夜(よ)の五時(いつゝどき)より九時(こゝのつどき)までむし釜(かま)の内 の湯(ゆ)減(へ)り候はゞ湯(ゆ)をかへてむし其儘(そのまゝ)にて火を引差置(ひきさしおき)暁(あけ)七時(なゝつどき)比 にこしきより取出(とりいだ)しさまし置(おき)昼(ひる)九時に日に干粉にはたき夫 より湯水等をたべ《振り仮名:不_レ申|もうさず》粉(こ)ばかりすき腹(はら)に飽(あき)候まで給(たべ)申候其 後(のち)は一切(いつさい)の食物(しよくもつ)を食(しよく)し申間鋪儀(もうすまじきぎ)と相聞(あいきこ)へ申候○但右の文に 大豆(たいづ)とばかり御座(ござ)候へ共/異国(いこく)にて大豆と計(ばかり)申候へば黒大豆(くろたいづ)に御座(こざ)候《割書:云| 云》 秋(あき)五穀(ごこく)皆無(かいむ)に御座(ござ)候へば翌年(よくねん)五月/比(ころ)麦(むき)出来(でき)候/迄(まて)日数(ひかず)多(おほ)く凌(しのき)かたく候 節(せつ)は右(みき)製(せい)し候に時節(じせつ)宜(よろし)く《振り仮名:奉_レ存|そんじたてまつり》候/右(みき)薬方(やくはう)の外(ほか)にも種々(しゆ〴〵)御座候へ共/相試(あひこゝろみ) 不_レ申候ゆへ試(こゝろみ)候方のみ申上候 天明七丁未年五月中澣 墾田永年 印 右官工凾人春田播磨 医師墾田永年右両人相試四十日/程(ほと)《振り仮名:無_レ障|さゝはりなく》 こらへ候よし   ○飢歳(きゝん)にて食物(くひもの)にあたりたるを療法(なをすほふ) ○解諸果菜毒方(くだものやさいのとくをげすはう)○童尿和乳汁服(どうぼんにちゝをませてのむ)○醋(す)をのむもよし○鶏(にはとり)の失(ふん) をやき細末(こまか)にしてのむ○頭垢棗大含嚥汁能起死人(あたまのあかきなつめのみをふくませしるをのみこめばしにんもいきる)○何(なに)とも しらず俄(にはか)に倒(たふ)れたる時(とき)○甘艸(かんざう)と薺苨(つりがねさう)を口中(こくちゆう)に入(いる)ればいきる○大便(たいべん) つまりたる時(とき)に○大黄(たいわう)一両/牽牛子(あさかほのみ)半両/細末(こまか)にして三匁/蜜(みつ)の湯(ゆ)に てのめばよし○又/蕎麦粉(そばこ)二匁半/大黄粉(たいわうのこ)一匁右二味ねる時(とき)酒(さけ)にて給(たべ)る ○続随子(ほるとさう)利大小腸下悪滞物(たいせうやうをつうじはらをさらへる)○《振り仮名:二便不_レ通|つうじあしきに》には桃葉(もゝのは)をつきしるをのむ ○又/射干根(ひあふきのねを) 茶碗に一杯/呑(のめ)ばよし○小便(せうべん)通(つう)ぜさるにはねぎの 白根(しろね)をこまかにきざみきれに包(つゝ)みあつくして二(ふたつ)にてかわる〴〵 臍下(へそのした)をあたゝむればよし   ○救急方 ○墮水凍死(みづにおちこゞえしぬ)に火を以(もつ)てあぶる事(こと)なかれ布(ぬの)の袋(ふくろ)にあつき灰(はい)を入(いれ)れ 胸上(むねのうへ)をあたゝむべし息(いき)出(いづ)ればかゆをくわせかん酒(ざけ)せうが湯(ゆ)を呑(のま) すべし○縊死(くひれじに)はそのむねをしかとおさへ抱(かゝ)へ起(おこ)ししづかに縄(なわ) をときてまだあたゝかならば口鼻(くちはな)をおほひ両人(ふたり)にて左右の耳(みゝ)を 吹(ふく)べし○回禄烟薫時(くわじけむりにまかるゝとき)は大根(だいこん)をかみ汁(しる)をのむべし蜜柑(みかん)もよし冷(ひや) 水(みづ)をのむもよし○一切(いつさい)打撲(うちみ)傷損(けが)に海盤車(たこまくら)又きゝやう貝(がい)と云もの をやき灰(はい)とし白湯(さゆ)にてのむ妙(めう)なり○一切/筋骨損(すぢほねのけが)大黄(だいわう)《割書:一両|》乱髪灰(かみのけくろやき) 《割書:たまごの|大さぼど》桃仁(もゝのたね)《割書:四十|九枚》をせんじ小児の小便(せうべん)と酒(さけ)とをいれあたゝめ呑(のむ)こと 三度○熱油焼(あぶらのやけと)痛(いたむ)に白蜜(はくみつ)をぬる○湯/火傷(やけど)灼/醋(す)をぬる○又/馬糞(ばふん) を水にてとき厚(あつく)ぬる妙○雷震死(らいにうたれたる)にみゝずをつきたゞらかし臍(へそ)に はる○又たうきびをせんじのむ妙なり○卒墮壓倒打死(おちてしにおされてたふれうたれてしぬもの)心頭(むねあたま) あたゝたかみあれば本人をすわらせうしろより髪(かみ)を手(て)に巻付(まきつけ)強(つよ)く 引(ひき)はなし半夏(はんけ)の粉(こ)を鼻(はな)の中(なか)へ吹込(ふきこみ)いきかへらばせうがの汁(しる)を のます一切/打身(うちみ)打傷(けが)してものいふ事もならぬは急(きう)に其口(そのくち)を開(ひら) かせあつき小便(せうべん)をそゝぐよし○卒魘死(おそはれしぬ)には韮(にら)の汁(しる)を鼻(はな)の孔(あな) へそゝぐはげしきには両耳(りやうみゝ)にそゝぐ○驚怖死(おとろきしぬる)によき酒(さけ)をそゝ ぐ○入浴暈倒(ゆけにあがる)に醋(す)一枚(いつはい)【杯】のめばよし睾丸(きんたま)へ水(みづ)かけるもよし○ 《振り仮名:雑物入_レ目|そうもつめにいる》に白蘘根(めうがのね)の心(しん)をつきくだき汁を目のうちへいる○ 蛇咬傷(へびにくはるゝ)に杠板帰(いしみかは)のくきはをつき汁(しる)としてのむ酒(さけ)も人々(ひと〴〵)の分(ぶん) 量(りやう)ほどのむ○毒蛇咬(どくしやのかむ)にはひきかへるをつきたゝらかしきぬに包(つゝ)み しはりおくすべて毒虫毒獣にかまれたるには三稜針(さんりやうしん)にてまはり をさして血(ち)を出(いだ)すがよし○《振り仮名:蛇蟠_二 人足_一|へびのあしにまき》つきたるは小便をしかけて よしあつき湯(ゆ)もよし○蛇《振り仮名:入_二 人竅_一|ひとのあなにいり》たるはなはにてしかとくゝり 尾(を)に灸(きう)をすゑ又は尾のさきをたちわりこせうの粉(こ)をいる○ 蜈蚣咬傷(むかてのかむ)には鶏胥(にはとりのたまご)をぬる又すべりひゆもよし野蓼(のたで)の自然(しぼり) 汁(しる)をぬる塩(しほ)をかみぬるもよし○蜂蠆螫傷(はちにさゝるゝ)に生蜀椒(なまざんせう)をかみ つける蛞蝓(なめくぢ)もよし芋梗(いもがら)をつけるもよし○《振り仮名:山行避_レ蛭|やまゆきひるをさける》に足(あし)へ 猪(ゐ)の膏(あぶら)をぬる煙草(たばこ)の粉(こ)をぬるもよし○䑕咬(ねつみにかまるゝ)に灰(ばい)あくにて洗(あら)ひ 猫(ねこ)のよだれをつける○猫咬(ねこかみたる)に薄荷(めくさ)の汁(しる)をぬる○猧子咬(ちんのかむ)には 青柚(ゆづ)をもみてつける○猘犬毒(やまひいぬのどく)には三稜針にてつき血(ち)を出(いだ)し 大根おろしにてよくあらひ小便をしかけひきかへるの皮(かわ)をはる ○又人の糞(ふん)をつけるもよし○馬咬(むまかみたる)には薄荷(はつか)をぬる○牛馬(ぎうば)囓(かむ) に白砂糖をつける○蝮蛇咬(まむしのかむ)にむかでをやき粉にしてつける又 ひきがへるをつきたゞらかしつけるもよし○熊(くま)に傷(やぶ)られたるに は葛根(くすのね)をつきたゝらかしつくべし葛根汁(くずのしる)を一二/杯(はい)のむべし○ 百虫(むし)耳(みゝ)に入には韭汁(にらのしる)を灌(そゝ)げば出づせうがの汁(しる)もよしあぶら るゐをさすもよし○河豚毒(ふぐのどく)鮝魚(するめ)をせんじひやしてのむ○ 《振り仮名:𩶾魚|かつを》大黄末(たいわうのこ)五分/冷水(ひやみづ)にてのむ○鶏子毒(たまごのどく)醋(す)少(すこ)しのむ○鼈毒(すつほんのどく)には こせうをかみてのむ○雉毒(きじのどく)は犀角(さいかく)一匁のむ○鵞鴨毒(がかものどく)には秫(もち) 米(あは)の泔(とぎみづ)よし○蟹毒(かにのどく)には瓜汁(うりのしる)冬瓜(とうぐわ)もよし○魚鱠不消(なますのつかへたる)には大黄(たいわう) 《割書:三両|》芒消(ばうしやう)《割書:二両|》右をかんざけにて用(もち)ふ○猪肉毒(いのにくのどく)には大黄汁(だいわうじう)又/杏仁汁(きやうにんじう) 又なま大根(たいこん)よし○諸魚毒(すべてうをのどく)には橘皮(きつひ)よしの根の汁(しる)又/大豆(たいづ)の汁よし ○煙草毒(たばこのどく)白砂糖(しろさとう)を水にてのむ又くみたての水/味噌(みそ)もよし○ 諸骨硬(のどへほねさす)に白/飴(あめ)糖大口にかみてのむ○魚骨硬咽(うをのほねたつ)には猪牙(ちよげ)皂角(さうかく)の 末(こ)をはなに吹(ふき)くさめする又/鸕鷀(うのとり)かしらをくろやきにして水にて のむ○誤呑餻(もちをくひて)咽(のんど)につかへたるにはつよき醋(す)を鼻(はな)へそゝぐ又/大根(だいこん)の しぼり汁(しる)をのむ○《振り仮名:誤呑_二鉄丸_一|てつをのみたる》には韭葱(にらねぎ)を食(くら)ふべし○中菌毒(きのこのどく)には 鴛鴦(にんどう)草を啖(くら)へばよし又/樺皮(かばさくらのかは)をせんじのむもしなければ桜(さくら)の皮(かわ) を代用(かへもちひ)て可(か)なり○《振り仮名:誤飲_二水蛭_一|ひるをのみたる》には雄黄(けいくわん)よく解(げ)す又/藍(あい)汁をのむ ○《振り仮名:竹木刺在肉中不_レ出|たけきのとげおれこみぬけぬに》は鹿角(しかづの)を焼(やき)水(みづ)にて和(ねり)塗(ぬ)る    凶歉(きゝん)には寒気(かんき)をも犯(おか)し山林(さんりん)川谷(せんこく)にも入(い)りてあまねく食(しよく)    を求(もとむ)れば墜墮折傷(いろ〳〵のけが)及(およ)び虫獣毒(むしけもののどく)に触(ふる)ることなきにあら    されば親(した)しく試(こゝろみ)るの薬物(くすり)并(ならび)に古老有識(こらういうしき)にも就(つき)て問(と)ひあら    ましをしるせり實(じつ)に佔嗶(がくもん)の波(よじ)及/老婆心切(せわすきおもひすき)に出(いで)たり識者(しきしや)    その浅陋(ふつゝかなる)をゆるし誤(まちがひ)をたゞし短(みじかき)を補(おきな)ひたまはゞ何(なん)の幸(さいはい)か是(これ)    にしかん   ○救荒見合(きゝんすくひみあはせ)の書 ○荒政要覧(くわうせいえうらん)○康濟録(かうせいろく)○荒政輯要(くわうせいしうえう)○広恵編(かうけいへん)○軺車雑録(えうしやざつろく)《割書:下二書|近刻》 ○農政全書(のうせいせんしよ)○救荒本草(きうくわうほんざう)○救荒野譜(きうくわうやふ)○同/補遺(ほい)○文献通考(ぶんけんつうかう)○鹽(ゑん) 鉄論(てつろん)等(とう)数(かず)多(おほ)く経史(けいし)にも渉(わた)りて吟味(ぎんみ)あるべし和書(わしよ)にも農業全(のうぎやうぜん) 書(しよ)○民間備考録(みんかんびかうろく)○田園雑録(てんゑんざつろく)○地理細論(ちりさいろん)○貫行(くわんかう)○励行弁(れいかうべん)○尚倹(しやうけん) 撮要(さつえう)○農喩(のうゆ)等(とう)に至(いた)るまで其(その)数(かず)多(おほ)しいづれも深切(しんせつ)なり見(み)るべし 書(しよ)は読(よむ)に従(したが)ひて益(ゑき)あり本を忘れずして博(ひろ)かるべし博(ひろ)からざれ は用(よう)をなすことすくなし 歳之凶荒不 ̄シテ_レ可_二予知_一、而備予之策 ̄ハ則有_レ之矣、漢之常平、隋之社倉、 良法歴歴載_二史乗_一、今年凶荒、民頗 ̄ル病、 公家雖_下有_二賑濟_一而民不 ̄ト_上_レ飢、博-施康-濟、唐虞之所_レ病、至_二荒-陬窮-郷_一、則 不_レ保 ̄セ_レ無_二莩餓_一也、余嘗有 ̄テ_レ志_二于救急_一、著 ̄ス_二救荒要録及附録_一、救急之方、 則有_レ備焉而一介之士、無_三力之可_二以施_一、則豈無_三慨_二-然乎胸中_一耶、因 摘_二-抄 ̄シ嘗所_レ著書及諸書_一名 ̄テ曰_二救荒便覧_一、区区小箋雖_レ不_レ足_レ尽_二其微 意_一、僻遠乏_レ書之郷、若取 ̄テ以 ̄テ為 ̄セハ_二救荒之一助_一、則贖_二素志之万一_一云爾、 天保四年癸巳八月        紀伊  白鶴義齋遠藤通謹識           救荒名物補遺審定         坂本純庵                         男 浩然    附記 ○軺車雑録 清の朱文端公著す所にして饑饉すくひの奏議を あつめたる書なり ○救荒要録《割書:并|》附録は凶歉予備救急の策を記して常平義倉社 倉勧糶粥廠等詳に載す附録は多く国字を用ひて見やすからしむ ○広恵編   清の朱文端公著す所にして飢歳第一のこゝろ えは一所に金銀米穀あつまらさるやうにすへき事なれは専ら勧 糶の事をしるしてその言慷慨義烈見る人肝をけし腸をたち かなしくも又あはれにもありて飢民をすくふの志をおこすの 書なり今清の聖諭像解に傚ひて解を作り画をましへ人を して感をおこさしむ陳情の表を読て不_レ墮 ̄サ_レ涙 ̄ヲ者其人必不孝とい へり広恵編を読て不_レ墮_レ涙者其人必不仁ならんかし    同社著述 ○救荒名物図考 救荒の食品はすでに大略を救荒便覧にのせ たれとも相似たるものゝ人をまとはしやすけれは今写真して人 の惑なからしめんがために作れり  坂本浩然審定并写真 ○揚州十日記○嘉定屠城紀略 右二書は明末清初の事を記たる書にて十日記は揚州の人王秀 楚といへるもの清の乱兵にあひ十日の間からきめうけし事を つふさに記してそのいたましくなけかはしき事/閲(み)るもの身の毛もよだち 魂もきゆる計なるありさまあり太平の人治に乱を忘れすおこたるまし き事をいましめり屠城紀略は明末南京亡ひてのち侯峒曽黄淳耀 等義兵をおこしたる始末つぶさにしるせり此二書救荒には與らされ とも飢歳盗賊のおそれあれは此に附記せり   齋藤 蠡校   天保四年巳九月上木                 本石町十軒店   英   大 助  発行       芝  露月町   和泉屋 半兵衛       麹町 四町目   角丸屋 甚 助  書林       四谷 竹 町   三田屋 喜 八 【四つ目菱紋】本居【矩形で囲む】技┃┃┃┃ 【裏表紙】