【表紙 題箋】 新歌仙 【題箋下丸ラベル】 jap 96 【右下 資料整理番号のラベル】 SMITH-LESOUEF   JAP   96-1 【右丁 表紙裏(見返し) 文字無し】 【左丁 白紙】 【右丁 白紙】 【左丁】    左   前中納言定家 しら玉のをたえのはしの名もつらし  くたけてをつる袖のなみたに    右   従二位家隆 かきりあれは明なむとする鐘のねに  猶長きよの月そのこれる    左   参議雅経 【右丁】 しら雲のたえまになひく青柳の  かつらき山にはる風そふく    右   讃岐 山高みみねの嵐に散はなの  月にあまきるあけかたの空    左   右衛門督為家 たちのこす梢もみえす山桜 【左丁】  秋や来ぬらんおかのへの松    右   式子内親王 なかむれは衣手寒し【ママ】久かたの  天の河原の秋のはつかせ【ママ】    左   土御門院 伊勢海のあまの原なる朝霞  空に塩やくけむりとそみる 【右丁】    右   俊成卿女 下もえにおもひきゑむ煙たに  跡なき雲のはてそかなしき    左   順徳院 ほの〳〵と明ゆく山の桜はな  かつ降まさるゆきかとそみる    右   前内大臣通光 【左丁】 雲のゐる遠山ひめの花かつら  霞ほかけて吹あらしかな    左   仁和寺宮 荻のはに風のをとせぬ秋もあらは  涙のほかに月はみてまし    右   前大納言忠良 夕つく日さすや庵の柴の戸に 【右丁】 淋しくもあるかひくらしの声    左   後法性寺入道前関白太政大臣 霞しく春のしほちをみわたせは  みとりをわくるおきつ白波    右   土御門内大臣 折しもあれ月はにしにも入ぬらん  雲のみなみに初雁の声 【左丁】    左   後京極摂政前太政大臣 空は猶霞もやらす風さえて  雪けにくもる春のよの月    右   前大僧正慈鎮 身にとまる思ひを荻のうはゝにて  此比かなし夕くれのそら    左   西園寺入道前太政大臣 【右丁】 桜花みねにも尾にもうへをかむ  みぬよのはるを人や忍ふと    右   大納言通具 いそのかみふるのゝ桜たれうへて  春はわすれぬかたみ成らん    左   後徳大寺左大臣 なこの海の霞のまより詠【ながむれ】は 【左丁】  入日をあらふおきつ白波    右   清輔朝臣 柴の戸に入日のかけはさしなから  いかに時雨ゝ山へなるらん    左   権大納言基長 秋ふかき紅葉のそこの松の戸は  誰すむみねの庵成らん 【右丁】    右   丹後 吹はらふ嵐の後のたかねより  木の葉くもらて月や出らん 【左丁 白紙】 【右丁 白紙】 【左丁】 二月中旬     基雄 【右丁 白紙】 【左丁】 花のあたりにかゝるしら雲    右   隆祐 時わかぬ河瀬の波のはなにさへ  わかれて帰るはるの雁金    左   大蔵卿有家 朝日かけ匂へるやまの桜はな  つれなくきゑぬ雪かとそみる 【右丁】    右   具親朝臣 花くもるかけをみやこにさきた【「て」が脱落】ゝ  時雨とつくる山のはの月    左   宮内卿 かきくらしなを故郷の雪の中に  跡こそ見ゑね春はきにけり    右   藤原秀能 【左丁】 夕されは塩みちくらし難波江の  あしのわか葉をこゆる白雲【「波」の誤記】    左   大輔 春風のかす【「み」が脱落】吹とてたゑまより  みたれてなひく青柳の糸    右   小侍従 いかなれはそのかみ山のあふひ草 【右丁】  年はふれともふたはなるらん    左   信実朝臣 あけてみぬたかたまつさそいたつらに  また夜をこめて帰る雁金    右   家長朝臣 春雨に野沢の水はまさらねと  もえ出る草そ深成ゆく 【左丁】    左   寂蓮法師 かつらきや高間の桜咲にけり  立田のおくにかゝる白雪    右   俊恵法師 ふるさとの板井の清水み草いて  月さへすます成にけるかな    左   正三位俊成 【右丁】 またやみむかたのゝみのゝ桜かり  花の雪ちる春のあけほの    右   西行法師 おしなへて花の盛に成にけり  やまのはことにかゝる白雲    左   後鳥羽院 立田姫風のしらへもこゑたてつ 【この冊子に乱丁あり。後鳥羽院の哥の下の句はコマ4の左丁に続き、コマ4の右丁の続きはコマ10の左丁です。】 【左丁】 にようこ【女御】きさきにもたゝすへきそかし 此たひ御みあるならは返事申たまへ 人〳〵此よしこゝろへてをわせよとの たまへはまたひるほとにときわを 御つかひにてかくそありける  ゆきかよふあとはしらねとあふ坂の  せきはいとこそこへまほしけれ このたひはうちあらはれて返事をとり てきたれよと仰られけれはときわ うけたまわりてみてうへゆきてみなみ 【右丁】 のたいにてひやうふきやうのみやよりと 申けれは女はうたち出てこれはい かにをもひよらす人たかへにて候や とく〳〵かへり給へと御ふみを取 いれすときわむなしくかへりぬ宮 又をし返しかくなん  くれなゐのすゑつむ花や我ならん  ふみかへさるゝ身ともなりけり とあそはしたるをとりてゆき やう〳〵に申せとも人も出す返事 【左丁】 もなしときわをさなき心にねたうくや しくおもひて申やうこのらくちうに すまん人のわかきみの御みいかはかり めさましもてなしたまはぬひんなさ よとりたにいれさせたまはぬそとて みすの内へなけいれけりされとも御 返事もなし宮はいろ〳〵御心をつ くしはみひまなし日ゝにつかわ されけれともゆく水にかすかく心 ちして返事もなしみやはねた 【右丁】 くもいひそめぬるおかなさゝはさてこそ あらめはゝにようこの御かたゑもきこ ゑなんはつかしやとみやはつや〳〵 御わすれもあらわれて一すしの御 ものおもひなりかくて日かすをふる程 にある時みやのゐんちうにすみわたり 物あはれなる折ふしときわおさな 心にみやのおほししつませ給ふをみ しりまいらせてまちかくまいりて申 やうさて此御事はしらけてやおはし 【左丁】 ましさふらふへきかつねにゆきて見候へ ともかい〳〵しくとかむる人も候すと かく仰せ候はんよりしのひて入らせおはし まし候へしかもこよひはひやうゑの すけは御うち【内裏】の御はんにて上へま いらせ給へはたかくるまともなくあまた 出入くるまにまきれさせ給ひては出候へ 御くるまをちうもんにたてさせ給 ひてものゝていおも御覧候へかしくら【或は「今」ヵ】 あふし【?】は御かうしおろしなとそゝ 【右丁】 めくまきれにみなみのつま戸よりい りたまひてかの御かたおもは給はし とて御心にもあわせ候つゝまきれて ゐらせ給へと申けれはみやはよろこひ 給ひて御めのとさぬきのせうかくるま をめしててんしやう人のまねをして みやす所を出させ給ふときわ御とも 申す時しもかみな月一日の事なれは うちしくれかせはけしく身にしみ てものあかれ【物別れ】成に 【左丁】  おほつかなたそかれ時の夕くれに  うわの空にもいてにけるかな 扨三条へいらせ給ひておゝく出入くるま にまきれてちうもんよりいらせ給ひぬ みすかうしをろし御とのいあふしなん とひそめきあゑるまきれにつま戸 より入せ給ひてかうしにしのひたゝ せ給へは御うちにはゆめにもしらす してひをとほしかきたてゝそ有 け御覧すれはまことにきよけに 【右丁】 ひやうふきちやうたてならへ御まへには にようはうたち二三人こそ見えけれ 一人はくちは【朽葉色】のひとへにくれなひのは かまにてこれは姫君のためのとこんの せうしやうなり又ひとりは二たつあひ のひつかさね【引重ね】にしろきはかまにて 候をさへもんのつほねと申けり壱人は みやけと申すはしたなりさては人も 見えす又おくを御覧つれはきちやうさし よせちやうたいのひき物あけてとしの 【左丁】 ほと十六七とおほしくて菊のにほひ いつれももみちかさねのこうちき【小袿】くれ なひのはかまふみなかしひきものに よりかゝりておはしけるかたちあり さまかみのかゝり【髪のかかり=髪の垂れ下がっている様子】よりはしめてうつ くしとも中〳〵心もをよはす宮おほし めしけるはおゝくの人を見しかとも かゝる人をはいまたみす此ころはいか成 にようはうも心にいらすおもひつるに かゝる人にあはんとてのことにやとわか 【右丁】 身のうけられん事はしらね共うれし くもおほしめしけるいつをいつとか まつへきみたれもいらはやとおほし めしけれともさすかにてたゝすみ 給ふころは無神月はしめの事なれ はあらしこからしはけしくてつま 戸をさつとふきあけ御まへのともし 火きへけれはこんのせうしやう申さ れけるはあえなくもふけけしたる 物かないま又ひかしのたいへ火なんとゝ 【左丁】 申さんもれいのこと〳〵しく有なんこ よひは御とのこもり候へとてさゑもんの つほねひやうぶのきわにふすこんの少将 はきちやうをろしひめきみの御あと にふしぬみやはよろこひ給ひてやか ていらせ給ふこんの少将申やう人かけ しけれはこはいかにさゑもんのつほねか 何の御よふそと申せは返事もなし みやはひめ君の御かたへいらせ給ひなを しかふりのかけしけるをこんの少将さ 【右丁】ゝ わきて是はたそやあらうつゝなやた れにておはするそやけみやうはけ物か いかゝととりつきたそや【誰そや】〳〵としきり にとかむれはみやはうちはらひ給ひて なとやいたくあやしめ給ふそや侍に 心つよくおはしませはうらめしくて かくたはかり参りたりいまはこうくわい なしとてはらわせ給へはめのといまた たれともきゝしりまいらせしいすた とひたれにてもおはしませいまたな 【左丁】 らわせたまわてさわかせ給ひ候へは こよひはゆるさせ給ひてとく〳〵かへ らせ給へと申せは宮はつれなけにてこの ほとの心まとひ【心惑い】にみちもおほえす いかにかへるへきとてきぬひきかけて うちふし給へはこんの少将ちからおよ はすかくて候はんもひんなきとてつ きのまへ出にけり扨もこよひのつ ま戸をはいつれの人のかけさりけるそ あらゆいかひなや【言甲斐無や】なんとゝいひけれはおかし 【右丁】 ときゝたま給ひひめきみ  おもひよらぬ事   なれはいかゝせん    となけき給ふ     みやはおほしめし      そめしより御心       まよひし事かき        くときの給へとも         御返事も          なし 【左丁 絵画 文字無し】 【左丁】 みや仰けるはいかに〳〵かた時もたち さるへくもおほえす千世を百ゝよと もかさねたくおもひ候へとの給へはひ めきみも心ならすちからなしひよくれ むり【比翼連理】の御契あさからすやう〳〵しのゝ めもあけとりのこゑもきこえぬれは あけかたき夜半のしけきにをきわか れ【起き別れ=共寝した男女が朝別れる】御なをしひきつくろい袖のうへつ ゆけきありさまなりくれなはとく とちきり給ひてあかぬわかれ【飽かぬ別れ=なごりつきない別れ】のうつり 【左丁】 か【移り香】御身にそひてかへらせ給ひくるゝを おそしとをほしめしけり無神月 のころにやいとくらしかたくやう〳〵 まちくらし給ひてまたときわはかり 御ともにて入せ給ひぬ秋の夜なかし と申せともあふ人からにはあくるも ほとなし今は一夜のへたてもなく あさからすかよひ給へはしのふとは おほしけれとも姫君のまゝはゝはり まの三位きゝつけてよはあかつきに 【右丁】 ちうもんに人をたゝせ見せられけ れはかの宮かよひ給ふあさましく ねたくおもひむすめのそつのつほね をよひていかゝすへきにしのたいの ひめきみのかたへひやうふきやうの宮 夜ことにかよはせ給ふをひころしら さるかとよといひけれはむすめこれを きゝあさましやいか成たよりそやい またまうけのきみ【皇太子】もましまさす いか成こともわたらせたまわし此ひやう 【左丁】 ふきやうの宮こそ御くらゐにもつかせ へけれ此姫きみうつくしくおはし けれはみやおほしめしつきなは さためてきさきにたゝせ給ふへき なりかくならすしなして我ものに せんとおもひさふらふに宮おほしめし つかぬさきにひめきみをうしなは はやと申けれはさんみ申やう姫きみ うしなはんことはやすけれともあ にのひやうゑのすけあらんほとはいかに 【右丁】 おもふともかなふましまつひやうえの すけをうしなひてそのゝちひめき みをもうしなはんことを心にかけて あんしける所にやう〳〵五せつ【五せち(五節)】に も成にけり此四位のせう將右大臣 の御子なれともあにのひやうゑの すけとのにもにす【似ず】みめかたちも をとりて心はあくまてもわろく我 よりうへの人をもおそれすみかとの 御めのとの子のきみよくして我心の 【左丁】 まゝに何事をもをこなひけれはくきやう てん上人もにくきものにそおもはれ けるみな〳〵おなし心にて五せつの やみうちにせんとおの〳〵いさなひけ りひやうえのすけとのはちゝう大臣 くさのかけにて御覧せんことさすかに て此事いろうましとありけり扨五せ つの夜にもなりけれはくきやうてん 上人我も〳〵とまいりたまひけり四位 の少将てんしやうのくちにたちてまた 【右丁】 れいのことく   我まゝに    おこなひけれは     くきやうてん上人      ひころこしらへたる       事なれは少将の        かふりうちをとし         さん〳〵にひきちら          しいきかひなくし           なしける 【左丁 絵画 文字無し】 【右丁】 やう〳〵をきあかりはゝのはりまのつほ ねへ行て我こそやみうちせられて かふりなをしひきさかれていきたる かひなく成て候へとなく〳〵申させ 給へは三位のつほねよきつゐてと おもひてそつのつほね少将おやこ三人 つれて御かとの御まへにまいりなく 〳〵申けるは少将やみうちにせられ かふりなをしさん〳〵にひきみたされ ていきたるかひなくなりて候これは 【左丁】 しかしなからひやうえのすけのしわさ なりよしんはなにしにかくはつか まつるへきひやうえのすけちゝ右大臣のあ とをわれこそとおもひしに少将あと をしるとてつねにうしなはんとおもひ しにつゐて【ついで=機会】なくしてうち過つるか 人〳〵かたくいてやみうちにし候こはし ひやうえの介をいか成ふかきつみにもし つめあておこなはせたまひ候はすは 我らおやこ三人てんしやうにてかみ切すて 【右丁】 いか成山にもとちこもりとんとなきく とき申けれは御かとをとろかせ給ひて てん上にて■ゆへあるへしとてへんのな されけりせんし成やうひやうえの介に ふかきとか有まつ一はんにとかなき 四位の少将をうしなはんとする事かた 〳〵いてつみふかしいかならんとか にもあておこなふへし    とせんしあり         けれは 【左丁 絵画 文字無し】 【右丁】 くわんはくとのをはしめていか成とか におこないせきまふへきと申されけ れはかふりゐくはんをとゝめてもなを あさくおほゆる明日たつのこくい せんにさつま      の国いわうか       しま【硫黄が島】え        なかすへきと         せんし           あり 【左丁 白紙】 【右丁 白紙】 【左丁 裏表紙に見返し】 【裏表紙 文字無し】