【表紙】 【題箋】 合本草双紙《割書:リ三而拾五| ㊁大惣かし本》 【左丁】 【上段・表題】 京山作 八ッめ うなぎ 因(いん) 縁(えん) 譚(ものがたり) 春亭画 【下段円内】 庚午 春梓 行 全三  冊  泉市   版 国立国会図書館  八ツ目鱣因縁物語3巻 207-1284 【右丁】 【印 ○に合】 《割書:関川(せきかわ)| 名物(めいぶつ)》《割書:      全部三冊|《題:《振り仮名:八ッ目鱣因縁物語|やつめうなぎいんえんものがたり》》|      泉市発行》《割書:山東京山作|勝川春亭画》 文化 七年 午春 新版 小雁斜侵 眉柳去    媚霞横     楼眼波来      京山 【左丁】 【赤印 帝國圖書館】 【赤印 圖 明治三二・五・一九・購求】 【上段】 京山 〽あいかわらず  御作が   できます  そうでござります   はやくはいけん    いたしたい 〽いやもふ   つまらぬ事ばかり    かいておきました   おはづかしう      ござります 【右の人の着物 京山  東山の模様】 【左の人の着物 ミヤウ】 【下段】 [京山]これは〳〵伝笑さんよくお出なさり ましたサア〳〵こちらへ〳〵[伝せう]《割書:つくえのわきにすはり|たばこきらひなれば》 《割書:あふぎをばち〳〵|いはせながら》せんせい此あいだはあれからどちらへぞ おいでなさりましたか[京山]亥(い)の日だから聖天(せうでん)へ まゐるつもりで道ではからずほうゆうにあひ まして夕ぐれになりきやうにじやうじて花柳(くはりう) の街(ちまた)へまゐり思はぬほとゝとぎすをきゝました [伝]それはおたのしみでござりましたらう 時にお作はちとかた付ましたかね[京]イヤモウ 何も かもふるくなつて趣向(しゆかう)にもこまりますのさほんに それ〳〵《割書:トといひながら竹ざいくのしよだなから|くさぞうしのたねほんをとりおろし》此あいだ てんま丁の大わだでおはかれ■【申ヵ】てうなぎから思ひついた 三さつ物おまへもおなじみのせん市へやるつもりでゆふべ までにかきあげておきました四人のたちやくが かたきやくにころされて八ッ目うなぎにげんぢやく するといふすぢさどうだらう見ておくんなせへ [伝]八ッ目うなぎはまだだれもつかひませぬ三さつ ものにはおしいしゆかうでござりますどれはいけんと ひらき見ればさのごとし 【[  ]は話者の名を矩形で囲むを表わす】 【右丁】 【上段枠内】 《題:孝》 みさほが    兄   孝(かう)太郎 【下段枠内】   兵作つま小いそ よこしま  悪五郎 【左丁】 【上段枠内】 《題:貞》 氏井(うぢゐ)  仁内(じんない)娘(むすめ)   みさほ 【下段枠内】 越後国(ゑちごのくに)関川(せきがは)の  八ッ目(め)鱣(うなぎ)   孝子(かうし)を助(たすけ)て    悪人(あくにん)に     わざ      はひ       す     氏井兵作 【右丁】 【上段枠内】 為千金不倍穢行【横書】 【下段枠内】 ○播州(ばんしう)月輪(つきのわ)  家(け)の浪人(らうにん)  氏井(うぢゐ)   仁内(じんない)    兵衛(ひやうゑ) ○轟坂(とゞろきざか)の悪僧(あくそう)がまん坊(ぼう) 【左丁】 【上段枠内】 擁一恩有盡公道【横書】 【下段枠内】 ○回国(くわいこく)の修行者(しゆぎやうじや)  《振り仮名:鷲の峯|わし  みね》     鉄丸(てつぐわん) ○ゑちごの国 羽根井(はねゐ)の里人(さとひと)    絹(きぬ)あき人 正直(しやうじき)正作(しやうさく)     元(もと)はばんしう松くら家のらうにん     花村文吾といふものなり 命の親【絵の中の文字】 【右丁】 【上】 今はむかし長ろくのころか とよゑちごのくにせき川の ほとりに氏井仁内と いふらうにんありけり わかかりしころはばんしう つき月のわのいへにつかえ 三百石のちぎやうとり なりしが三たびいさめて 身しりぞきたる 今のらうにんつまの をり江が女筆(によひつ)のしなん わづかのふでの命げに おつとをすぐし 一子孝太郎廿一才 娘みさほ十八さい ふたりともに いたつてのかう〳〵もの 所がらとてちゞみのいとを つむぎてわづかのあたへにかへ おやこ四人まづしきなかにも さまでくらうもなくくらしけり 仁内ある日せがれ孝太郎にむかひ わればんしうをたちのきしはなんぢ わづかに十才のとき今さらいふも くりことながらごしゆじんゆりの助さま わかげとはいひながらいんしゆにふけり くにのおきてもおろそかゆへごけらいの 身としてよそめに見るはふちうの第一 たび〳〵おいさめ申たがかへつて此身の       おちどゝなりねいかんじやちの 【左下】 〽ヲヽ  よう  おぼへ    てじや 〽見事の  おんさ   もじ  をくり    下され 【図中】 【妻をり江の着物】を 【手習い本の文字】 下され 【左丁】 【中】 くせものにざんげんされ   なにごとなしに    ながのいとま   なんぢと   むすめ   み    さほが   てを    ひいて  はる〳〵この   ゑちごのくにへ    くだりしも     わづかのしるべを     一つのはしらゆびを     をりてかぞふれば     ことしでちやうど十一ねん     いぜんの事わがみはぶうんに      つきのわのらうにんで         くらすともなんぢは          なあるおいへに           ほうこうして             ふたゝび              氏井の              かめいを              たてゝ              くれい             「つぎへ              つゞく」【二行矩形で囲む】 【左上】 〽わたしは これから 今川を さらい ます   よ 【右下】 〽おさ   がりを   すると  ぶんごの  おしせう  さまへ  ゆかねば  ならぬ 【下図中】 花明五嶺 春 十二才は■ 琴 鳳 九才  よし 【左下看板中】 女筆指【南ヵ】 【右丁枠外】  八ッ目 【右丁左丁上部】 寺(てら) 子(こ) や の 子ども 花見 の と こ ろ 【右丁】 「まへのつゞき」【矩形で囲む】人にすぐれしせがれと娘 子だから二人もちながら見るかげもなき やせらうにんゑちごちゞみの をくうますあしきすくせに あふくまがはうもれ木を 見るくちおしさよ 女房どもおりや はらがにへかへると うるむなみだを たもちかね しばたゝきたる まぶたより はら〳〵おつる つゆしぐれことはり せめてあはれなり 孝太郎も みさほも ともに さし うつ む き て なつ ゐたりしが 母のをり江かたはらより 〽これはしたりこちの人 けふにかぎつてかへらぬ くりこと子どもまでに あのなみだいふてかへらぬ むかしばなし今なつたは おてらのいりあひ 夕まゝにしましやうと 【左丁中段へ】 【中段】 〽すぐに つけ入て 小てを はらへ ヲヽ 見ごと 〳〵 【下段】 ▲これはふしぎと たちながらやうすを きけばこれもほうばいの ざんげんにて月のわの おいへよりいとまの みのうへおじ仁内を たより女房小いそを つれてくだりしとの事 なにはともあれ 内かたへゆきたまへ おしつけかへりて ゆる〳〵あはんと 此所をわかれけり 兵介【兵作ヵ】ふうふこれより 仁内がいへに かゝり人と なりて くらしけり 【絵の男】仁  【絵の女】み 【左丁】 【上段】 【女】をりへ  【男】兵作  【女】小いそ 【中段】 まぎらず人の むなさきへ つつはる しやくを まぎ らせ て おやこ 四人 が ぜん だて も ばんじに ことをかけぢやわん わかいへらくのかまのした をりたくしばのけふりさへ わびしきくらしとしられけり ○かくてつぎの日仁内が つまのをり江がてし子ども やくそくの花見なれば 子どものつむりへ梅のをりえだの つくりばなをさゝせつけたるたんざくへめい〳〵の 名をしるし花ぞのさしてたちいでけるに をり江はしせうの事なれば子どものけいご かた〴〵あとをまもりて花ぞのちかく きたりしにむかふよりくるたびすがた さてにた人もあるものと思ふうち ちかより見ればばんしうにのこりたる 仁内がいとこの兵作ふうふ▲ 【下段】 ○孝太郎(こうたらう) みさほ けんじゆつ けいこ する 【絵の男】考【孝ヵ】 【右丁】 【枠内】 《振り仮名:横嶋悪五郎が傳|よこしまあく      でん》 【右上 本文】 それはさておきこゝに又よこしま悪五郎ときこへしは氏井仁内と おなじくばんしう月のわゆりの助どのにつかへしものなりしが こゝろざしあくまできやうあくにしていんしゆにふけり さとがよひのかねにつまり月のわどのゝ軍用金をひそかにかすめとりさとの あそびにまきちらし軍用金 紛失(ふんじつ)とのとりさたも よそふく風(かぜ)としらぬふりひと月あまりも すごせしがてんとういかにゆるすべき 悪五郎にうたがひかゝりすでに とらへらるべきをいちみのものゝ しらせければどくくはゞ さらまでととのゝひそう せさせ給ふちどり丸といふ つるぎを うばひ▲ 【中央】 〽かう ゑすがたで さがされては たかぶけりを せにやあならねへ はへ 【下】 ▲やかたを たちのき こゝ ろしこ に 身を かくし けるが 月のわどの より六はらへ うつたへ 中ごく すじへ 悪五郎が ゑすがたを たてゝせんぎ きびしければ いづくのうらにも すまかひ ならず ゑちごのくにゝは 悪五郎がおぢ 大八といふもの あればこれを たよりてかのちへ さしてにげ のびけり 【左丁】 【上部絵中】 〽どつ こい な あく五郎  千百拾■【箱に】 正さく 〽そふは ゆか ぬは 【下 本文】 さてもよこしまあく五郎は中国のか すまひならずきそかいどうをしのび くだりてゑちごぢへさしかゝり のもせといふしゆくはづれの茶やに やすみてゐたりしにふろしきづゝみを せおひたるちゞみかいだしのあき人 正じき正作と名をとりしりちぎもの としわかきひとり身にてたれにも かわゆがられるあいきやう男あく五郎が かたはらにこしをかけ〽やれ〳〵けふは くたびれたあねさんもふなんどきで あらうなとこしさげのきせる だしながらたづぬれば茶屋の女 今七ッがなりましたときいては正作 そりやうか〳〵としてはゐられぬかへ おほかみとうげの山ごし日のあるうち せねばならぬと茶やもそこ〳〵 又 荷(に)をせおひたちいでけり悪五郎は さいぜんより正作がていたらく ちゞみの仲がいたしかにかねがと 心づき正作におひつきて道づれとなる 入相のころなにあふおほかみとうげに さしかゝりぬころしもあきのなかばにて むしのねすたく松は中あく五郎 じぶんよしとわらじのひもをなをす ふりしてあとにのこり正作をやりすごし ものをもいはずうしろげさあはやと 見ゆるに正作はこゝろへたりと身をひらき せおひしつゝみをうしろへなげすて用心にさす 一こしをすらりとぬいて身をかため 〽かねてかくあらんと思ひしゆへここつちもかくご われもむかしはぶしのはて「つぎへつゞく」【矩形で囲む】 【右丁】 【上段】 「まへのつゞき」【矩形で囲む】そううまくはめへるめへいかにもこゝにしまのさいふ 金も丁ど二百両ほしくばおのれがくびとひきかへへい〳〵〳〵〳〵 めつたにとられてよいものかと見かけにも にぬだいたんふてきいかさまむかしは ものゝふのやそ氏すじやうも ある人とてなみのほどにて しられたりさすがの あく五郎もあんに そういしこいつは なか〳〵ほねかある しかし見こんだ そのふところ うぬが命は ねくさつたと 又きりつくる つるぎのいなづま 所へかけくるておひぐま あく五郎にとびかゝる こなたはそれと見るよりも つゝみをせおひいつさんに あとをも見すして のがれけり ○それはさておき こゝに又かの氏井 仁内はこの日 一のみや明神へ さんけいの かへりがけ おほかみ とうげの ふもとを とほりけるが 【左丁中段へ】 【中段】 ○月をたよりにぬ のさらすしづのめ 〽まさしくこれこそ ちどりまる 【下段】 ▼▲そのまゝにいひければ 仁内いかにもちがひごさらぬが 金ばかりてほかにしなも ごさらぬかといはれて らうにんうぢつく ことば〽いやほかには なにも〽ないとの ことかいや こくな 大がたり めが 金子の ほかに いんばん ひとつ わりふがちがふは かたりのせうこ 〽なにそれがしを かたりとは 〽ヲヽさ かたりも かたり 大かたり と よく〳〵 見かはす かほと かほ 〽ヤア そな たは 【左丁右下へ】 【縞の着物の武士】仁 【左丁】 【上段】 ▲いんばん ひとつ これはたじかに みちゆく人のおとせしに ちかひなしたいまいの 二百両さぞかしなんき なるべししばしがあひだ 此所にてまちあはさば たづねにきたるは ひつぢやうならんと かたはらのつぢどうに こしをかけまつまも あらせずかけきる らうにんすかた 仁内がまへに こしをかゞめいま あれなる百しやうやにて さいぜんこゝをとほりし 村のあるきにうけ給はれば さいふに入し金子おひろひ ありしとのうはさいそぎのたびに 心せきとりおとせし金子なればなにとぞ おもどしくだされよといふに仁内小くひをかたむけ たびすがたとも見へぬらうにんこゝろへずと 思ひながらして又金子のたかはいかほど さいふのもやうわりふがあはゞいかにも おわたし申さんといふにらうにん いかさまこれはごもつともさいふは しまのてをりもめん金子は内に 二百両なんとちがひはござるまいと さいぜん正さくがいふこと▼▲ 【中央】 月のひかりに見つけたる あやしきひとしな とりあげ見れば しまのさいふ 内には金が 二百両 と▲ 【下段】 ■〽そふ おいやるは よこしま あく五郎 いぜんにかはる そのすがたは うはさにきこへた しやじんの 用金 「次へつゞく」【矩形で囲む】 【中央】 〽なにが なん と 【右下】 氏井 仁内【■脱】 【黒の着物の浪人】悪 【右丁】 【高札】開帳 【編み笠の人】仁 ならびにちとり丸を うはいとり こく ゑん なせしと あくじ 千りの その とり さた 今 こゝで あひしを さい はひ お身 に なは かけ やかた へ ひき それを ひとつの こうとして きさんの ねがひと 思へ ども ▲ ▲ そ りや あし がる ふぜ いの する こと 【左丁】 此仁内は まことの ぶし しゆ人の 目をぬく のみならず こゝら あたりを うろついて ひらうた うはさを かたりのてだて二百両に 目をかけるにんひにん ことばかはすもけがらはしいと そでをはらつて立さるを あく五郎たまりかね刀の つかに手をかけてぬきかくるこほりのやいば ふしぎやそらにむらがるちどり〽さては たしかにちどり丸といはれてきのつく あく五郎刀をさやにおもてをやはらげ むねんをこらへ此ばはそのまゝ立さりけり ○かくて仁内もわがやへ立かへらんと あをやぎばしをとほりかゝり見れば 男の身なげのやうすもしや二百両の かねゆへかとおびをとらへてひきとゞめ やうすをきけば正じき正作くせものに いであひ立のく道にてとりおとせし 二百両よんところないわけある金 せつはつまつて此ありさまと きいて仁内さてはとおもひ わりふもあひしさいふと いんばん金のたか「次へつゞく」【矩形で囲む】 【橋の上の男】正 【欄外】   八ッ目 【右丁】 おとしては 此人にうたがひなし とかねをかへしあたへければ 正じき正作おしいたゞき まことにあなたは命のおや 今此金子てにいらねばとても いきてはゐられぬ此身だん〳〵 ふかいわけのある金もとへもどるは あなたのおかげせめておれいにまゐりたし おやどはいづくおなはなんとゝとひければ 仁内につことうちわらひれはゞ うけたいとて金はかへさぬ見らるゝ とほりのやせらうにんされども心まで らうにんはいたし申さぬなに事にも おまへのうんがつよいさて〳〵 あやうき事かなと所も名をも あかしていはず金をわたしていへぢの かたへわかれけり正じき正作は仁内が かげ見おくりてふしおがみ〳〵 わがための神仏とも命のおやとも ごおんはわすれぬかたじけないとつゝみを せおひさいふをゑりにいそ〳〵よろこび とまりをいそぎて立さりけり ○さるほどによこしまあく五郎は 仁内にわかれいちみのものをかたらひで そのよ仁内がいへにしのびいり二百両を 【中央】 ○此所 やみ しあい おの〳〵 むごんにて ことば がき なし 【黒い着物】悪 【縞の着物】仁 【左丁】 うばひ とらんと よふけて かどに しの び より 戸を こぢはなし 内に入しに このよ 仁内が せがれ 孝 太郎 むす め みさ ほは 村おさ かたへ ひまち の てつだいに よばれて をりあはさず おいの善作ふうふ つまのをり江とも〴〵 に ぬす人ありとたちさはぐ ともしびきへてしんのやみ▲ ▲そのありさまは こゝにゑがきし づのごと し 【右下】 ○仁内が つまをり江 めいの 小いそと あいうち する 【女】を 【女】小 【男】兵 【右丁】 【上段】 かくて あく 五郎は 四人の ものに きり たてられ こは かなはじと にげいたす 仁内 つゞいて おひ ゆきしに 仁内が おいの 兵作を はじめとし おつとの みのうへ こゝろ もとなく あと より つゞ き て おひ ゆき しに 【左丁へ】 【中段】 ▲あく五郎がいちみのものどもかたへの しげみにまちぶせなしそれと見るより はせよつてきるやらつくやらめつたうち 仁内はもとより兵作もなみ〳〵ならぬ てしやなれどもたせいにぶせいそのうへ おとしあなにおち入てはたらきならず あはれむべし仁内は四十二を いちごとしさいの目にきりころされ ひめいのやいばに ししうせぬ 兵作も うち とられ をり 江 小いその 二人の女は がんぜんに おつとの かたき のがしはせじとたゝかひしが 女のうでのかいなくて二人のものも あく五郎がさしづにて手した の もの ども なさけ げも なくなぶりきり 目もあてられぬ しだい也 【下段】 〽はて おそ ろし い しう ねん じや ナア 【男】悪 【左丁】 あ く 五 郎 が わる だくみ かねて もうけし おとしあな さきへ すゝみし 仁内兵作 あし ふみ はづして おち入 しに ▲ 【右丁】 【枠外】  八ッ目 【上段】 あく五郎はおとしあなのはかりことにて てもなく仁内兵作をりへ小いそ四人の ものをうちとりてしがいはそのまゝ かたへなるせき川へざんぶりいはせ 此うへは仁内がいへに立かへり かの二百両をやさがしなし わいらにもわけくち やると身づくろひする をりしもあれ あたりのじゆもく めいどうし なまくさきかぜ ふききたりせき川へ うち入し四人がしがい うらみのこんばくとしふるうなぎに のりうつりわきばらにつらなりし八ッか まなこを見ひらきてうづまくなみより うかみいであく五郎をはつたとにらみし そのありさまたとへていはんものもなし あく五郎がいちみのものどもこれを見て おそれおのゝきあとをも見ずして にげさりけりあく五郎せゝらわらひ ちどり丸にてきりはらへば刀の いとくにおそれてや八ッめのうなぎは もとのなみへぞかくれけるあく五郎ひとりごと 今のおばけで手したのやつらにげゆきしは もつけのさいはひこれよりすぐさま 仁内がやさがしして二百両はおれひとり うまい〳〵とはせいだし仁内がいへに かけいりこゝやかしこをさがせども▲ 【中段右】 〽したくは よし 〳〵 【中段中】 〽わすれた ものは こざんせぬ かへ 【下段】 ▲かの二百両は正作がてに もどりしゆへやさがししても あらばこそたくはへおきし わづかのかねひろひ あつめて くわいちうなし ゆくへもしれす おちうせけり かくとはしらず 孝太郎 みさほらは むらおさの 日まちの ふるまひ ことをはりて やどへかへり やうすをみれば ぬす人の 入してい 仁内はじめ 四人とも をらざれば こはそもいかにと おどろきけり 「作者曰」【矩形で囲む】これより 次の日四人のしがい せき川よりあがり 孝太郎みさほが なげきのべに おくりてついふくを いとなみかたき打に いづる事いつもかはらず お子さまたごぞんじゆへ こゝにりやくす 【男】孝 【女】み 【左丁】 【右本文】 正じき正作が家の所蔵のたから命のいちゞく 【軸内一段目】   覚 一金二百両也   但文字小判 右は此度貴殿を 相頼み娘両人 寺どまりのくるわへ あそびに売申候 身のしろ金慥に 請取申候所実正也  長禄二年  又太夫   八月三日   正作殿 【軸内二段目】 一ふで申あけまいらせ候 さては御もとさま昨日 道中とゝこをりなく ■ と かく ゆ め の 世 の 中 あきらめまいらせ候 むすめお杉おたま 事も親のため とてはる〳〵 【軸内三段目】 三国のはてへ身を うりうきつとめ いたし事 よく〳〵の すくせあしき ものと不便に存 まいらせ候 あのかたあるしも 心たてよろ しき 人のよし 御申こし 【軸内四段目】 すこしは うきを わすれまいらせ候 二百両の うけとり 夫かた より さし あけ まいらせ候 くは しくは 御めも し にて 御 礼 申上へく候 めてたく かしく 【掛け軸本紙】   【刻印】  巳仲秋十一日   《題:命の親》   剛斉官大臣書【刻印】 【左本文】 丈ヶ三尺六寸よこはゞ二尺二寸ふうたい十もんじたからづくしの小きんらんそうげばちぢく てんちは手紙のほぐにてひやうぐしたるなり○此かけものゝわけ次にくはしくしるせり 【枠外】 八ッ目 【右丁】 【本文】 こゝに又正じき正作は仁内がために 二百両をひろはれすでに身を なげんとしたりしにをりよく仁内に 見つけられて二百両の金をうけ取 あやうき命をたすかりて ちゞみの仲がひかれこれの 用をたしはね井の里に 立かへりつく〴〵思ふに 二百両のかねをおとし あをやぎばしにて 身をなげんとしたる時 たすけてくれたる らうにんものはわが ためにいのちのおや 名も所もいはざれば れいをいふへきよすかも なしたいまいの二百両 よくをはなれてかへして くれたはまことに人の かゞみなりわがための まもり神せめて あさばんちやのはつほ そなゆるが身のみやうがと たつときちしきに 命のおやといふもんじを かゝせかけものにして とこへかけおきわが しなふとしたその日を かけものゝえん日と さだめその日は 【絵の下台詞】 〽けふは 命の おやの えん日 ほう しやの ために さいぜん も ろくぶ どのを とめて おいた それゆへ やしよく の したく も あれば 二人の しゆも とめて やり ましよ 【男】丸に正 【左丁】 【本文】 みきとうみやうなど そなへてれいはいし なほみのうへをいのりしは まことに正じき 正作がこゝろの ほどこそ しゆしやうなれ 「それはさておき こゝにまた」【二行矩形で囲む】 仁内がせがれ 孝太郎いもと みさほは ふたりのおや ならびに おじおばを うたれてむねん くちをしく ぶしのいへに うまれし身の ないてゐる 所でなしと 百か日までのついふくを てらへたのみいもとをつれて かたきうちとは思へども これぞとたしかなせうこはなし とやせんかくやとなげきの うちてんしるちしるの どうりにて 「つぎへつづく」【矩形で囲む】 【絵の下台詞】 〽をりも をり とて 此とりめ はて ふうん にも つき はて たか 〽たのみに おもふは おまへ ばかり これは ナア あに さんい のう 【男】丸に 孝 【女】丸に み 【右丁】 【上段】 「まえのつづき」【矩形で囲む】 たれいふとなく ばんしうゟ きたりたる あく五郎といふ わるものゝ しわざ なりと うはさをきゝ さてはおや人 つね〴〵おんものがたり ありしちどりまるを ぬすみとりこくゑん なしたるよこしま あく五郎こそおやの かたきにうたがひなし かれがおぢ大八と いふもの當国 かしは木に ありと きゝしがかれ ばんしうを立のき おぢ大八かたへ 【左丁上段へ】 【下段】 ▲此やの あるじ 立出つ 二人が なんぎの やうすを 見て いたはし くや 思ひ けん いち やの やどり を かす べき と 内へ とも なひ けり 此人はこれ正じき 正作なりけり 正作ふたりを いたはりつゝ いろりの たき火に あたら せて 【上部男】悪 【下部女】み 【下部男】孝 【左丁】 【上段】 おもむかんとして此せき川へんに さまよひしにうたがひなしとにかく かしは木へたちこへかたきのやうす うかゞはんときやうだいは打つれ たびだちけり○かくてふたりの きやうだいがたびたちしはあきの すへなれどもゑちごはゆきのふりき所 心もそらもはれやらずかう〳〵ものゝ 孝太郎此ほどなげきのあまりにや とり目となりくれ六つよりは めくらどうぜんその身はもとより いもとみさほがいちばいくらう ゆき道のはかどらずはや入あひの くれ六つどき目かいの見へぬ兄がてを ひいてたどりしよるのみち ゆきはます〳〵 まくしかけ かんきはだへに ひえとほりあし手こゞへてあゆまれず 人ののきばにたゝずみてしばしやすらひ あにはいもとをいたはりいもとはあにを かいほうのつらいはなしのきこへてや▲ 【中段右】 ▼▲見れば おわかいに きのどくな 目のやまひ とうぢにでも おいでにや又は しなのゝ ぜんくわうじ◼ 【中段左】 ◼ぐわん がけの もの ま ゐりか この 大ゆき にたび のそら いづく いかなる お人にやと たづねければ 「つぎへつゞく」【矩形で囲む】 【下段】 しぶちやを くんで のませ などし ▼▲ 【男】正 【掛軸】命の親 【台】㊣ 【右丁】 【枠外】   八ッ目 【上段】 かたきもつ身はほんみやうをそれとあか さすせき川へんのらうにんといふをきいて 正作さてはわが命をたすけられしかの せき川の人ときゝひとしほいたはる 心のみやうがとかくするうち孝太郎が かつぱをとればちやのうはぎもん所は 丸に仁のじ命をたすけしその人も たしかもんは丸に仁のじもしやと 思ひねどひはとひにせんかたなく 孝太郎あるじにむかひわれ〳〵きやう だいかゝるたびぢにおもむくも ふしぎな事父仁内といふひと せんげつ十五日おほかみとうげの おりくちにて二百両の金子を ひろひその金ゆへわけありてわれ〳〵が 此なんぎときいて正作むねに ぎつくりさてはと思ひ金をおとせし こと仁内にたすけられたること おとせし二百両は此所のがうし 又太夫といふものよんところなき したいあつて二人のむすめをたのまれ 寺とまりへ身をうらせてそのかねを あづかりかへり道にておとせし ぎりからめの二百両いひわけ なさにいのちをすてんとしたる事 くはしくかたりければ孝太郎みさほも ともにふしぎなえんと思ふにつけ さきだつものはなみだなり正作は いさいのわけかたきうちときゝ われもむかしはばんしうまつくらの 【下段枠内】 ○作者曰正じき 正作おゝかみ とうげにて 悪五郎に であひそれ ともしらず こよひ わがやへ とめしは すがたかはりし ゆへ見わすれ たるにや 正作がそこつ 作者もろとも いひ わけ なし 〽みれ ば みる ほど うつくしい 久しい物だが 心に した がへ 〽きくも なか〳〵 けがらは しい ころさばはやく ころしやい 〽まゝ くち をしや 〳〵 丸に悪 丸に孝 【左丁】 らうにんはな村文吾といひしもの しさいあつて今の身のうへ命のおやの 仁内どの命にかけてすけたちせんと きやうだいにちからをつけなにはとも あれこゝろざしのさけひとつと二人を のこしとくりをさげてゆきあかり となり村へといそぎけりほどなく ごやのかねのこゑかすかにひゞく一つやの のきにひきこむ風さむくゆきをれ竹の ひゞきさへいともさひしきわびすまゐ きやうだいふたりろにさしより 正作がしんじつをかたりあひてゐたりしに 思ひがけなきにうしろのふすまさらりと あけて立いづるくわいこくのしゆぎやうじや ふたりがわきをのさ〳〵とあゆみゆき 戸口のかけがねしつかとしめにつこり わらひにうなづきみさほはそれと こゝろづき〽ヲヽさいぜんあるじのはなしに きいたわたしらよりさきへこゝへとまつた おしゆぎやうじやわたしらがはなしごへに お目がさめたでござんしやうたびは 道づれ世はなさけひとつうちに とまるといふもいはゞえんづく いろりのはたでおちやひとつとあいそういふもその身のかき孝太郎みゝかたむけ〽ハヽアおあいやどの ろくぶどのかさゝこれへ〳〵あいさつすればいろりのはたに大あぐら〽コレ仁内のせがれの孝太郎よい所へ あつたナア見ればとり目のどう目くらはていゝざまだとけたふすよこがほ孝太郎さぐり手に刀を とつてひざまへなをし〽それがしが名をしつて今のりよぐわいなくなにものじやとたつぬればしゆぎやうじやは あざわらひ〽びつくりするないつてきかすぞくわいこくのしゆぎやうじやとはよをしのぶかりのすがたまことは おのれが父仁内おぢ兵作をりへ小いそ四人のものをてにかけしよこしまあく五郎だはときいて二人はびつくりし 孝太郎はおどりあがつて身をかためいもとぬかるなかつてんでござんすと「つぎへつゞく」【矩形で囲む】 丸に正 【右丁】 【上部】 ○四人の えん こん かたき うち の てい を 見 て よろ こ ぶ 「小いそ」【矩形で囲む】 「兵さく」【矩形で囲む】 「をり江」【矩形で囲む】 「仁内」【矩形で囲む】 【本文】 【上段】 「まへのつゞき」【矩形で囲む】よういのひとこしつばもとくつろげ〽ヤアめづらしや悪五郎 とゝさんはゝさんをはじめとしてふたりのおかたをてにかけし うらみをはらす女のねんりき岩もとほれと きりつくる あく五郎 身をひらき しやじやう とりのべ 刀を はつしと うち おとす こゑを あて どに 孝 太郎 目くら うち に きりつくる あく五郎 ひらりと とひのき 又切つくる 刀をくゞり うしろへ まはつて かたさき ひとたち みさほは おさへて まき ばこの あらなはにてはしらへ くゝりこなたとさいなみ 【左丁上段へ】 【中段】 ○正作 助だち ○孝太郎 八ッ目うなぎの きどくによりて とり目立ところに なをりおやの かたきをうち ちどり丸の つるぎを ぶんどり する 【下段】 ▼▲川風 さつと ふき きたり 水中 より かの 八ッ目 うなぎ おどり いて とび かゝる その いき ほひ また にげ かへる うしろ より 正作 さき に すゝみ つゝ 三人 づれの かたき うち 孝太郎 こゝろは やたけに 【左丁下段へ】 【右の男】丸に正 【左の男】丸に孝 【左丁】 【上段】 かなたをさいなみ がうあくひだうの ふるまひは あはれと いふも おろか なり かゝる 所へ ある じ の 正作 とく り を さげて たちもどり おせどしやくれど あかざる戸に内には二人が さけぶこゑこはそも いかにと戸をけはなし 見れば二人あやうき ありさま▲ 【中段】 ▲今は 町人 むかしは 武士 正作みさほが うちおとされし 刀をてばやく ひらめかしうむをいわずに きりつくるはげしき太刀風 あく五郎きりたてられてたぢ〳〵〳〵 こはかなはじとにはづたひゆきをけたてゝにげてゆく 正作みさほがいましめをときながらやうすをきけば今のは かたきのあく五郎さてはと正作しりひつからげうすでなれば孝太郎を たすけつゝひとすじみちをおふてゆく○さてあく五郎は正作がいへをにげいたし 村はづれのどばしのうへをわたらんとするにあしすくむこはいかにと思ふうち▼▲ 【中央】 ○ みさほ ほん ま う と ぐる ○四人のものゝ のりうつりたる 八ッ目うなぎあく五郎を なやましきやうだいに かたきを うた する 【下段】 はやれ ども とり 目の かな し さ くち を し さ 時に ふし ぎや 八ッ目 うなぎ 孝太郎が かほへいきを かくると 見へたるに たちまち なをる とり目の やまひ ゑち ごの くにの せき川の 八ッ目うなぎの こうのうを のちのよ までも つたへ けり 【女】丸にみ 【右丁】 【上段】 山東京山作 【刻印】丸に京山【矩形で囲む】 勝川春亭画 【壷印】勝【矩形で囲む】 ○京傳店れいの口上 とくしよ丸《割書:一つゝみ| 壱匁五分》 第一きこんのくすり 物覚をよくす ○きおう丸ごく上々の やくしゆをもつてせいし のりをいれずくまのいにて 丸ずこうのうかくべつなり ○しんがたきせるたばこ入 京でん京山自画さん あふぎしな〴〵 ○京山篆刻水晶印銅印 古ていをてい御好次第 ろう石は白字五分朱字七分 ゑんごくよりは印さいへ刻價 御そへ可被下より御いそぎの しなは日げんをかぎり 被出来可申候 京傳店にて取次 【下段枠内】 孝太郎あく五郎を打とり ちどりまるのつるぎを うばひかへしばんしうへ たちこへむかししゆじん 月のわどのへさしあげ ければおんよろこびなゝめ ならずきさんをゆるし かぞうをたまはり ふたゝび花さく 氏井のいへ めでたき はるを むかへ けり 「月のわ判官」【矩形で囲む】 「孝太郎」【矩形で囲む】 【下段左】 孝太郎が かたき うちのこと ばんしう まつくら けへも きこへ けるゆへ 正作が 義心の助だち ぶしのかゞみ なりとておなじくきさんかなひ みさほをむかへてつまとなし これもかはらず めてたし〳〵〳〵 「みさほ」【矩形で囲む】 「正作」【矩形で囲む】 【左丁】 【上部枠内横書】 文化七年 【紋】入山形に本 庚午新板 【上段】 《割書:小いな|半兵衛(はんべい)》《割書:山東京傳作 全部|《題:夜之鶴親父形気(よるのつるおやぢかたぎ)》|歌川豊国画 八冊》 《割書:禿池(かふろがいけの)|昔語(むかしがたり)》《割書:山東京傳作 全部|《題:梅於由女丹前(うめかおよしをんなたんぜん)》|勝川春扇画 六冊》 《割書:そろばんのお百|かけざんの一八》《割書:山東京山作 全部|《題:継子立身替音頭(ままこだてみかはりおんど)》|勝川春扇画 六冊》 《割書:    関亭傳笑作 全部|《題:新撰生姜市草創(しんせんしやうがいちのはじめ)》|    歌川豊広画 六冊》 《割書:刀屋半七(かたなやはんしち)|浮名仇討(うきなのあだうち)》《割書:曲亭馬琴作 全部|《題:梥月新刀明鑑(まつにつきしんとうめいかん)》|勝川春亭画 六冊》 《割書:末野珠名(すゑのたまな)|今様物語(いまやうものがたり)》《割書:曲亭馬琴作 全部|《題:打也敵野寺鼓草(うてやかたきのでらのたんほゝ)》|勝川春扇画 三冊》 【下段】 《割書:   十返舎一九作|《題:青嵐宗源物語(あをあらしそうげんものがたり)》|   近日出板》 《割書:全部|八冊》 《割書:      山東京山作|《題:《振り仮名:八ッ目鱣因縁物語|や   めうなぎいんえんものがたり》》|      勝川春亭画》 《割書:全部|三冊》 《割書:放駒(はなれこまの)長吉|濡髪(ぬれがみの)長五郎》《割書:山東京山作|《題:《振り仮名:二ッ蝶後日勝負附|ふた  てふ〳〵ごにちのしやうふづけ》》|草稿出来》 《割書:全部|八冊》 《割書:おちよ|半兵衛(はんべい)》《割書:東西菴南北作|《題:初夢(はつゆめ)ばなし》|勝川春扇画》 《割書:全部|三冊》 《割書:   東西菴南北作|《題:《振り仮名:筆初日の出の松|ふではじめひ  で   まつ》》|   歌川金蔵画》 《割書:全部|三冊》 《割書:    東西菴南北作|《題:鏡山後日俤(かゞみやまごにちのおもかげ)》|    勝川春扇画》 《割書:全部|六冊》 右不残出板売出し申候 芝神明前 《割書:甘泉堂》 和泉屋市兵衛版 【中扉】 【右丁】 《割書:《題:鶉権兵衛(うづらごんべゑ)》|《題:侠客話(たていればなし)》》 𠎣鶴堂【印】寉【印】喜 絵師菊川英山筆【横書き】 【左丁】 文化七年庚午春新鐫 江戸通油町 鶴屋喜右衛門梓 【枠内】 游君亀御前(いうくんかめごぜん)【横書き】 篠目娘(さゝめのむすめ)お雪(ゆき)【横書き】 頼光組仁侠四天王(らいくわうぐみをとこだてしてんわう)【横書き】 頼光源治左衛門(よりみつげんじさゑもん)秀虎(ひでとら) ◦わたなべのつな五郎 ◦きんとき金左衛門 ◦さだみつ定八郎 ◦すゑたけ末九郎 ▲ひとりむしや  保昌(ほうしやう)やす兵衛 【枠外】 春興《割書:赤本のをはりと春のはじまりは|いつもかはらすめてたし〳〵》三馬作【印】丸に式亭 【右丁】 化粧(けわひ) 坂(さか)の 花街(くるわ) 【女】丸に亀 【男】丸に五 出口柳 【本文】 今はむかしかまくらはんえいのころ世の中だてといふものおこなはれし 中にうづら権兵衛とて無類のはやわざ大力のものありけりかんにん つよくなさけふかきうまれつきゆゑぎりをみがきはぢをしる男気を かんじて人みなほめざるはなかりきこゝに又よりとも公ばつかの侍臣(じしん)に 大場(おほば)の三郎がおいの殿ときこえし頼光源治(よりみつげんぢ)左衛門 秀虎(ひでとら)と いふものありかれも男達とせうして別にひとくみをあづかり頼光(らいくわう) ぐみとよべり此組にかしららだちしものを四人すぐりて四天王になぞらへ その名を金時(きんとき)金左衛門 渡辺綱(わたなべつな)五郎 末武季(すへたけすへ)九郎 貞光定(さだみつさだ)八郎 ひとりむしや保昌やす兵衛なんどつねにまち〳〵を わうぎやうしてさま〴〵のわづ【がヵ】ままをふる まいぬそのころ扇がやつのぢうにん篠目(さゝめ) の八郎がちやくし同五郎 有国(ありくに)といふわか ものけはひ坂のいうくん亀ごぜんにふかく なれむつみてよるひるとなくかよひつめたがい に水もらさじとぞ ちぎりけるしかる に此かめごぜんに はよりみつ源治 左衛門ふかく▲ ▲れんぼしておなじくくるわ へかよへども心にしたが はざりければあるよひそ かに四天王のもの どもをまちぶせ さしめ篠目(ささめ)の 五郎が もどり みちを さへぎり てやみうちに せんとたくみ しをはやく もかめ ごぜんが● 〽うづら権兵へ ちゝつくわいちつと こうくわいひろぐで あんべい 【左丁】 〽なぶれ〳〵 あのやらうを なぶれ 〽 「マアい〳〵 よわい金時 赤夲のあか はぢかいた ざまを見ろ よわむし〳〵 〽がきめら おぼえて うせろ此 金時が どうするか 見をれ ●もとへしらする ものありければさゝめ の五郎大きにおどろきいま 此所にて身をすつるはやすけれどもばしよ あしければいへだんぜつせんことをふかく なげき思ひしをかのうづら権兵へ きくよりもかねてゐこんある らいくわうぐみのやつばらひと こぶしあてゝくれんわれにまかせ給へ とてさゝ目の八郎があみがさを かりてわがすがたをやつし出口の やなぎにちかよる所をかくとは しらで五人のわかもの前後より とりかこみ五郎やらじときりつくる をさしつたりと身をかはし五人を あいてに無刀(むとう)のはたらきかたなを うばひてむねうちにたゝきふせさては なんぢららいくわうぐみのほねなし どもよなうづら権兵へに何ゐしゆ ありてかくらうぜきひろぐぞと大 おんによばゝれば五人此こゑにおどろきて うづら権兵へとはしらざりし人ちがへ「つぎにつゞく」 〽なむさん きんとき ゆでさら■ しほが■だ たでるらい め見たか ヱゝ むねんな 【中央の人物】丸に権 【左下の人物】丸に金 【左上の人物】丸に金 【右丁】 【欄外】 うづら権兵へ 【男】丸に八 【女】丸に雪 【上段】 「つづき」ゆるされよとほえづらしてにげちつたり金時金左衛門は 大兵ひまんのからだゆえ身おもくして一人あとにをくれしを うしろよりかいつかんであたりのどろ田へ三げんばかりなげこんで はなうたうたふてあゆみゆく権兵へがはたらき天ぐに ひとしきふるまひと見る人したをふるひけりかくて 金時金左衛門は五たいをどろにうづまれてやう〳〵にはひ あがり惣身くろんぼうのごとくにてよろ〳〵とゐざり ゆくを見て日ごろのにくしみふるければわうらいの 人つぶてをうちつけさん〴〵にはやしたてければ金時 はふくにげかへるめんぼくもなきありさまなり これよりのちらいくわう組のものどもうづら 権兵へをかたきとなしてにくみけり ○こゝにさゝ目の八郎 有秀(ありひで)はちやく子(し)五郎 有国にいへをゆづりいんきよしてありしが娘 お雪といふものよわ〳〵しきうまれつきにて つねに多病(たひやう)なりければ八郎がおいの心に くらうたえず湯治(とうじ)などさせたらば 又こゝろよき事もやとすでにようい して伊豆の国へと心ざしぬ八郎 いんきよの身とはいへども他こく するには物がしらへねがふべきはづ なるがさありてはかれこれ事むづかしき ゆゑ娘一人をつれてしのびの道中 つひえをいとひまづ湯宿を とりてひとまはりの日をおくりぬ しかるに此となりの部(へ)やに てよしゆくするわかもの六人 いづれも武士と見えたるがはなはだ さつばつなるものどもにてちうやわが まゝをふるまひぼうぢやくぶじんのあり さまなりかの武士お雪があてやかなる すがたをかいまみてよりわれしたがへん 【左丁上段に続く】 【中段左】 〽せんばんきのどくに ぞんじまする ▼▲しんきをつからし娘がうつき をはらさんため湯治へともなひ かへつてわづらひのたねとなりしを くやみて今はさて 【左丁中段へ】 【下段】 ▲おどし つすかしつ さま〴〵らう ぜきにおよびし が此事父につぐる ときはおいのいつ てつにいかりをおとし かの武士どもとけん くわにおよばゝ大 事也とあけくれ 心むすぼれて ひごろのやまひ なほいやまさる おもひなり 八郎もひそ かに此ていを見て▼▲ 【左丁】 【上段】 われなびけんとたがひにいろをあらそひて 八郎がへやへ心やすく入来りなにがなして お雪を手にいれんとはからひしが八郎 もとより心をゆるさずお雪もあら くれし武士をおそれてひたすらにとほ ざからんことを思ひ はかりいかやうに すゝむるともかれらが へやにはゆかざりけり ○さればわかものども さま〴〵にてだてをつく せども八郎おや子 うちとけざれば湯の わうらいにお雪を とらへてむたいを いひかけ▲ 【中段】 すこしもはやく帰こく せんとぞ思ひ立ける 〽しからば いかていに 申ても金 子しやく用は ならぬじやまで ハテどういた さう ぜひがござらぬ 【男】丸に濵 【右丁】 さてかの六人の武士はお雪をさま〴〵にくど けどもしたがはずかへつて此ごろは道すぢを かへて湯治するやうすつらにくししやつめ をめいはくさするはかりことありとて 一人の武士八郎が方へゆきていふ やううけ給はる所そこもとは さゝめの八郎どのと申てより とも公御ばつかの武士御しのび にて御入湯のよしかねてうけ給 いりおよべりわれらは頼光 源次左衛門がけらい四天 王の下にくはゝるもの どもにて候御らんのごとく 入湯の内金銀をつかひ はたしたゞ今はたとなんぎにおよぶ何 とぞ金二十両はいしやく申たし帰国の 上はさつそく御やしきまでへんさいに及ふ べし武士のなさけはあひたがひのこと なればたゞ今御かし給はるべしとぞのべ にける八郎これをきゝてはなはだ めいわくし御らんのことくしのびの 入湯にて下人一人をめしつるゝほどの じぎなればかようの金もはづか のしよぢにて御用だつほどは手 まはり申さずべつしてより光 源次左衛門どのゝ御けらいとあれ ば何とていなみ申すべき有 あはせざるはぜひも なく御ことわり申すよしこたへければかの武士大きに いかりてその御あいさつ武士のいきぢにかけたりわれ〳〵は こしごえの太郎小ゆるぎの磯六龍の口の龍太夫ゆひ の浜九郎江のしま岩助星の井水右衛門とおの〳〵 せいめいをなのりてはづかしきことを申いだすも 【台詞】 〽此かたなをすりかへれは又二ばん めのきやうげんがかけるこまい〳〵 〽ちよつと一ト口 つけざしといふ所 どうだ〳〵 〽コレおむすさやう にやぼをの給ふな  君よ〳〵    君さまめ 〽わたくしはおゆる しなされませ 〽あねさんすぐに あんとおあきな ハテまあおたべよ 【人物名右より】 水 太 雪 岩 【左丁】 よりとも公御ばつかをれき〳〵の八郎どのゆゑ それをみこみて御たのみ申すなりはづか廿両 ばかりの目くさりがねををしみ給ふはより光 源次左衛門がいへを見くびりてのうたがひか よりとも公御ばつかの御れき〳〵廿両ばか りの金御しよぢなくてはばいしんの われ〳〵にははるかおとりしびんぼう にんなりさやうなひけうをいはず ともはやく御かしなされよとあく こうざうごんにおよべども八郎は しのびの入湯といひ一ッには むすめがふびんさにいかりを しのびいよ〳〵金子はしよぢ なきむねをのべてはぢをも いとはずことはりければさても〳〵 見そこなひのおいぼれかなそのてい にてはよりとも公すは御大事と いふときに馬ものゝ具もきうの 間にはあひ申すまじこのうへは むしんも いはずかま くらへ 帰国の上きつとお礼にまゐるべしとて 座をあら〳〵とふみ立てとなりのへや にぞかへりける八郎おや子むねんいやま さりてくちをしなみだにくれけるがしのび の道中にてきよじあらばせがれ五郎が なんぎせんことをかんべんしてやう〳〵 むねをさすりゐたり 【台詞】 〽げこでござれ ばごめんくだ されこれは したり 〽せつしやが刀の まへにたいしても このいつぱいは つがねばならぬ はこねのはこわう ヲットげさんは ならぬぞ 〽さて〳〵 むたいな 【人物名】 磯 八 龍 濱 【右丁】 さゝめの八郎つく〴〵思ふにしよ せんながゐせばあくじのもとひ 也すこしもはやく帰国せんと娘 お雪にさゝやきてすでに たひにもつとりかたづけ出たつの あさにいたりて又思ひけるは となりの武士どもはおとに きこえしらいくわう組のあふ れものなればあいさつなしに 打たゝばかへつて事を仕出 さんとたびよそほひして 娘引つれとなりのへやの 入口にてわかれをつげけれ ば武士六人おの〳〵■ をそろへて今日御帰 国とうけ給はりせつ かく御なじみ申せし ことなればせめて わかれのいつこんを くまんとぞんじ此 やどへ申つけて 御まちうけの 酒さかな此 とほりにとゝ のへあり いざ〳〵めで たく御さかづき 仕らんとありけれ ばおやこはな はだめいわくし もとより御酒 はふえてなればせつかくの御こゝろざし御さかづき 【台詞】 〽何事か おとつと子〽いたはしい ことだの 〽そのおやぢを ひきずれ 〳〵 〽娘がそひぶし きらつたゆゑあわび のかひのかた思ひとこ ぶしならぬいなかぶし なまくらぶし のなまりぶし めその いしゆ がへしにうでぶしをかうつかん だらふし〴〵がちと 【左丁右下へ】 【人物名右から】 太 水 濵ヵ 【看板】 御とまりや 【左丁】 【上段】 ばかりこれにていたゞき申さんといふいや〳〵それにてよろし からずこれへ御入候へたゞし御れき〳〵の方と申よりとも 公御ぢきさんの八郎どのへばいしんのわれ〳〵ふぜいがさかづき りよぐわいなれどもたびはしつれいをあらためずとおや 子をむたいに引入ければ八郎ぜひなく刀を入り口に おきて座になほりお雪もつゞいて入る所を又 二三人にて上座へすゝめ扨ていねいのりやうりにて さかづきをめぐらしぬされどもおや子はげこなるゆゑ すこしもはやくこゝをのがれんとすれども六人にて むたいにさけをすゝめ大さかづきにてしいつめたり このうち一人の武士ひまをうかゞひて座を しりぞき八郎が刀を入り口に さしおきしをとりあげておのれが 刀とすりかへおきつかぶくろを さしかへてしらぬふりして ゐたりけり八郎かく とはつゆしらず やう〳〵にわかれを つげてむすめを ともなひ座を たちさりかのひと こしをこしにたいして たち出ければ六人の武士 五六町がほど見おくりて りやうほうへたちわかれしかば おや子ははじめていきを つぎ虎口(ここう)をのがれし おもひなり 【左丁右下】 いとこぶしであんべいがな 【台詞】 〽そのかごをいそげ〳〵 〽思ひがけない そさうでござる たゞ今それ へまゐらう とぞんじた所 まづわけを おきゝ下され 〽とゝさま申 かならず〳〵 おはやまり あそばすな かなしや 〳〵 〽わけもひやうたんもいらねへ 大どろぼうのかす ざむらひ め もとの所へ うしやアがれ 〽だかむくれのへげ たれおやぢめかくご してうせをれ 【人物名】 八 磯 岩 龍 雪 右丁 さてありて八郎はみちのほど三里もすぎてたてばの茶やにやすらひ娘をのりものより出してきうそくさせありけるがふと心付たるにわがたいせしかたなとつかぶくろはにたれどもひとこしはわがしよぢの品にあらずさてはせんこく出立をいそぎて心あはてしゆゑかの武士の刀ととりちがへし物ならめ武士の身としておのれがさしりやうをとりちがへそこつともうろたへものいはんかたなきおちどなりすれども此ままにてはありがたしはぢをしのびてとりかへ来たんとおもへどもせつかく三里もすぎしことなり娘をつれてゆかば又又いかなるなんぎもはかられずとしもべにいひつけかの茶屋にのこしおき門口へ立んとせし所へ六人の武士いきを切てかけ来りやにはに八郎をひつとらへ刀のぬす人にぐるとてのがさんやちう代の刀をすりかへしはわうどうものよりとも公の御ばつかささめの八郎ともいはるるものがわが刀をとりちがへんどうりなし湯宿ににておこりしことなればのりものともにもとの所へ引かへせと八郎が▲ ▲わぶるをもかまはず大ぜいにてちうに引たてもとの湯宿へつれかへりさんざんにあくこうし此ぶんにさしおかれずとさうどうしければ湯宿をはじめしゆくろうむらおさ中に入りてさまざまなだめすかせどもさらにかけひくていもなし 左丁 かくて六人の武士口口にののしりけるは八郎をかまくらへ引つりゆきぬす人なりとごん上しそのうへねがひをもたつせずしてにう湯にたび だちしつみをかぞへてわれわれがいきどほりをはらすべし又それをなげかしくおもはばむすめおゆきをわれわれろくにんのうち一人へくれるか又さもなくはわれわれ六人と此ところにてうちはたすかいづれなりとも一條をかなへたらば此ばはあひすまさんとなり八郎此三が條をききてむたいのあるでういきどほれどもそこつのつみのがれがたくはじをすてすててわびことしいへのため子のためを思ひやり武士ににあはぬみれんながら手をすりてあやまりけり六人はいよいよかつにのりてののののしりやまず八郎いまはぜひなししよせんぜつたいぜつめい なりもとよりむすめをかれらが方へおくらんことをおもひもよらず子上はいさぎよく六人のやづばらとはたしあひうんめいを天にまかさんとおもひきはめしかじかのよし六人がもとへ申こみければをどりあをどりあがりてあざけりわらひなになによぼくれおやじめが此六人とはたし合んとやおもしろしおもしろししかしながらとうろうがおのをもつてりうしやにむかふがごとくただひとうちにてややいばのさびとなるべきにとしよりのひや水こそふびんなれさてさて手にもたらぬおいぼれにてちからづいえとちやうらうしいよいよ明あさ五ッ時このうみべにてはたしあはんとやくしけり 〇かかりしかば明あさ五ッ時はまことにぜつたいぜつめいなりとておゆきにこまごまときやうくんしおや子がわかれの水さかづきしてたがひになみだせきあへずわきてお雪はあるにもあられず父八郎にとりつきてほつにしあんはなきことかと天にめくがれ地にふしてなきくづれしぞどうりなる八郎思ひけるはわれおぼへあれどもしぜんうちぢにせしあとにてむすめをかまくらへつれかへらんこと下人にてはおぼつかなし「つきへ」 「どうぞしかたはござりませぬ か かなしやかなしや 「おんみも武士のむすめではないかみれんのなみだ見ぐるしいたしなみめされ 人物  雪  八 右丁 欄外 なんてもめづらしいことだ十六になる娘と七十になるぢいさまとはたし合だとさ 上枠内 「いそげいそげ  「はしれはしれ  「かけろかけろ [つづき」 たれをたのみて娘があんどをはからんとしばらくしあんする所にさいはひなるかな此ほどむかひなる湯宿にはうづら権兵へ入湯してとうりうするよし此人はかまくらになたかき男だてにてよわきをすくふときくからに権兵へにたのみ入らば娘が身のうへあんどなりとまづ湯宿におゆきをあづけおき権兵へがりよしゆくへ出ゆきけり湯宿にてもおゆきがなげきをおしはかりさまさまとかいほうしてともになみだのそでをしぼりぬさて八郎は権兵へにたいめんしてしまつをくはしくものがたりしうへおゆきがことをたのみければ権兵へさつそくとくしんし何か扨おれきれきの御たのみ町人の権兵へめうがにかなひしことなればいとやすき御事也少しも御気づかひし給ふなしかし御おぼえありとは申ながらあひてはくつきやうのわかもの六人此方は御ろうたいの御一人まづはあやふし又はたしあひには助太刀かなはずたとひかなふとも助太刀を御たのみともぞんぜねは身ふせうながらうづら権兵衛ごづめして御あとをまもるべしいさぎよく御はたらきあそばされよとありければ八郎なみだをながしてよろこびいかにもおぼしめしかたじけなしここに今一ッの御たのみありそれがしじやくねんよりいつしん流 のたうじゆつをたんれんしたればたとへむかふものがうてきなりともやりをとつて立合ふときは十人までは心におぼえありされどもしのびのたびなればもちやりもなくなんぎいたせりたちうちにてはろうたいのはなはだ心ぼそければおんみ何とぞこよひの内にやり一トすぢ御さいかく下さるべしこれ第二の御たのみなりとあるにぞ権兵へこころえ候ごこく御りよしゆくまでじさん仕るべしと心よくうけあひければ八郎が心中ぜんごにとうわくせしところたちまちくもはれて月のあらはれしごとくかたじけなみだをうち 「権兵衛こづめいたすうへはなほせいしんをはげまされものの見ごとにうちひしいでつかはされませ 人物名  権 左丁 欄外 「せいのたかさ一丈六尺の大男だといふことた 上部枠内 「さてもさても 「あれあれあれ  「おやおやおやあれあれあれめつさうだめつさうだ 「サアサアはたしあひがはじまつたはじまつた 本文 はらひりよしゆくにかへりまづおゆきをまねきさて権兵へがをとこぎありてしかじかのしんせつをかたりければおゆきはなほさらよろこびてぢごくにほとけをえたるごとくこころのうちすこしはあんどのおもひをなせり かかるところへやりひとすぢをとつてうづら権兵衛入り来たり おゆきにもたいめんしたがひに一れいをはりてのちすこしもゆだんなく御したくあるべしとて権兵衛もよういととのひ六人のかたへもあんないして夜のあけるをぞまちにける 右丁 「うづら権兵へこれにこれにてけんぶんごづめでござるぞ 本文 あくれば伊豆のはまべにおいて六十余の老人とけつきさかんのわかものら六人とのはたしあひありとてきんりんろうにやくくんじふせりほとなくあさ五ッどきのかねとともに惣方はまべに立むかふらいくわう組男だてのわかざむらひにはこしごえの太郎こやなぎのいそ六龍の口龍太夫?ひの浜九郎江のしま岩助星の井水右衛門以上六人しらめやのはちまきにはかまのそばたかくとりたまだすきして身がるにいでたちおのおのだんびら物をぬきもちておやぢひとうひとうちといはぬばか りにはないからしてひかへたり 「ふりよのことにてはたしあふもさだまるいんぐわいざまいらういかにいかに ○こなたよりは篠目(ささめ)の八郎有秀(ありひで)生年六十五さいしろもめんのはちまきしてはくはつをふりみだしおなじたすきにももだちたかく大身のやりをとつてりうりうと二三べん引しごき六人をむかふに見てつつ立しそのこつがらろうすいしてこぼくのこどく見ゆれどもきのふまでのやうすにことかはり壮士(さうし)もおよばぬばかりいふうりんりんといさましし 人物名  権   八 左丁 ○しかして双方なのりあひすきをうかがふをりからうしろの小だかき所よりうづら権兵へ身がるにいでたちてむづと座し男だてうづら権兵へ八郎がこづめとよばはりきんぜんとひかえければ六人にいかにがんしよくへんじてあんにさうゐのありさまなり 「ただひとうちだぞかくごしやれ 「はいやいさよはいやいさよでござい 「おひぼれのよまいごとくどいくどいいざいざしやうぶ 「ななかなかさよでございはみがきはんごんたんごようなら此めひだにおもとめなさい 「こひぐちのはなれそぶ?ぶのかねあひ 人物名  水  名無し  龍  濱   岩  太  右丁 そのとき六人のわかもの権兵へを見ておどろきたるすきまにつけいりさきに立たるこしごえ太郎がどうばらをぐさとつつつかれて太郎はどうとふすなむさんぼうゆだんせりとのこる五人が一手になりてとうまちくいのこどくとりかこむをささめの八郎すこしもひるまず大身やりをとりのべてろうごのおもひでなんじらをでんがくざしにしてくれんとやりさきするどくひらめかし上をはらひすそをからみ左右へはねのけたたきのけかすり手あまたをおはせて手しげくはたらきければ 「うづら権兵へひかへゐる 「ありやありやありや 「てなみにこりぬうんざいめらかたつはしからみなごろしだぞ 「どつこいな 人物名  権  八  浜 左丁 小ゆるぎいそ六たつの口龍太夫ほしの井水右衛門あるひはまつかうかたせをえらばず四人まではつきころされここかしこにたふれふす此すきをうかがふてゆひのはま九郎江のはま岩助ただ二人のこりのものどもよこあひより切かけしが何とかしけんささめの八郎濱九郎がうつた刀をうけそんじてかたさきよりのんどへかけて切さげられたふるる所をごづめの権兵へなむさんぼうといひさま八郎をすくふて二人めがけて切むすぶ 「なむさんつかれたかさうつつかけてきてお手になに 「これでしんだらばけものにでもなつてくらついてやらうしかしきんねんのくさざうしのやうにじきさまゆうれいにはなられまいまづ?者にきいて見ようか 人物名  太  岩  龍  ? 右丁 けんぶつ大ぜぜいくんじふする 「すさまじいはたらきのちいさまじや 「わかい大きな男がでたぞや ○うづら権兵へ大きにいかりていかづちのおちかくるごときいきほひをなしゆひのはま九郎がうつ壱刀をはらつてからたけわりに切はなしかへすかたなに江のしま岩助をこしぐるまにきりはなす此ひまにさいぜん手おひし小ゆるぎいそ六よろよろとおき上りておちたる刀をひろひとり八郎がうしろへゐざりよりてひとかたな切つくるをうづら権兵衛ふりかへりさまこれを見るよりまつふたつと切 「なむさん出しぬかれたか 「おぼえたかくそおやぢめ 人物名  八  岩  磯 左丁 われば小ゆるぎいそ六ふたつになつてぞうせにける権兵へ三尺一寸の大わざもの鉄のぼうのごとくなるを打ふつて六人がとどめをさしてさて八郎を引おとしさてさて御はたらき見ごとにて候四人を手の下につきおとしたる大じやうぶにてこれほどのてきずにひるみゐふはいかに八郎どの御心たしかに候かときつけをのましめ扨六人はとどめをさし候といひければ八郎ほそきこわねにて御しんせつかたじけなしもはやほんもうとばかりにてつひにむなしくなりにけり 「ちよこさいなやつ名ひしらせん 「むかふからこつてくるひらりとあたまでうけるなんときつからう 人物名 権  濱 右丁 欄外 宇津ら権兵へ     十 本文 さるほどにおゆきは父八郎がうせしとききてきやうきのごとくとりみだしなきかなしむぞどうりなるかくてあるべきことならねば六人のしがいはその所にてとりおさめさつそくかまつらなる篠目(ささめ)の五郎をよびのぼせかたのごとくはうぶりぬ 五郎はいつにはじめぬ権兵衛がなさけをかんしんしさきだつては五郎がために金時にからきめ見せ此たびは父八郎がためにごづめとなりてちからをそへくれしことかさねがさねのおんふかしこれも又らいくわう組のけんぞくのしわざなりかれもとより其地御?がいろをあらそふこころよりわれわれをかたきのごとくおもひてかくのごとくあたをなすゐこん置くにふかしかつ此たび父のあたをそくざにうちゐひし大おんひとへにいもとが命のおやなれば御こころにはかなふまじけれどやどのつまとなしゐけらばかたじけなしとありければ権兵へかぎりなくよろこびてこれよりお雪をよびむかへけり 「何事もすくせのいんぐわとあきらめて此のち権兵へどのの大おんをわすれずをつととあがめたいせつにしやれ 「ここへくるまでおたつしやなととさまわたしゆへにひがうの御さいごあそばしてゆきとかへりはことかはりおこつをかごのみちづれとはあんまりつらいなさけない 「おもはぬさいなん吉事とかわるもハテおもはぬえんぐみてごんす 人物名 五   権   雪 左丁 ここによりみつ源次左衛門は四天王の内金時金左衛門をてうちやくされそのうへ此たび入湯のばしよにてけらい六人はたしあひのせつこれ又うづら権兵へにけちをつけられもつての外いきどほりけれどもゆうのうがうけつのうづら権兵へなればうかつのことをしいだしてはかへつてはじのもとひ也とてだてをつくされけるがあるときわたなべの惣五郎をもつて権兵へが方へししやをぞ立られけるつな五郎かみしもをちやくしてうはぎは禁札(きんさつ)と鬼のうでくろくもいなづまをそめいだせしだていしやうか用つばの大小金ごしらへをおびて権兵へが方へあんないしおにひげ左右にかきなでてへいふくして申けるは主人源次左衛門ことかねてよりき公のゆうもうをしやうびいたされいてより御ちかづきになりたきぞんじよりのところ一日一日とおそなはりやうやう今日ししやをもつて申入候なにとぞみやう日御酒いつこんさし上たくぞんずるゆへおちかづきのためこの方やしきへ御いでくだされたく御むづかしながらたのみぞんずるむねのべければ権兵へいちもつありとさとれども心よくうけひきていねいにへんとうしければ惣五郎よろこびて立かへりぬ 「これはこれはおししやごくっらういづれみやうにちぎよいえませう 「さつそくに御ききすみ下されつかひにまゐつた惣五郎めが身のめんぼめんぼくかたじけなうぞんじまするしからば権兵衛どのには明日ごくわうらいを御まちまうすでござらう 人物名  権  金 右丁 あくれは権兵へは組のわかものどもをまねきて今日かやうの事にらいくわうくみへまねかるゝ也さつする所われにちかづきにならんといふはいつはりにてさいつこめのゐしゆをはらさんたくみなるべしよつて今日おの〳〵とわかれのさかづきしてゆく也とありければわかものどもこれをきゝていや〳〵おやかた一人にてはおぼつかなしわれ〳〵もともにゆくべしといふを権兵へおしとゞめ男を立る権兵へが大ぜいをおそれて手下のものを/具(ぐ)したりといはれなばいきてかへるともせんなし今日ぜつたいせつめいとかくごして大じやうぶのはらはたを見せしめわれ一人にてゆく也とてとゞむるをもかまはず一人よりみつがやしきへゆきまづおとづるゝに四天王のめん〳〵おの〳〵このみのだてもやうこゝをはれときかざりて権兵へにたいめんし手をとりて一と間の内へともなふそのぎやうぎはなはだていねいなり上段にはよりみつ源次左衛門すりばくしたるいなつまの大もやうついの大ひろそでにむらさきのはおりのひもはいかりづなのごのごとく四方かみにあつもとゆひにてまきたてたる大たぶさくわん〳〵と座しゐたるありさまはゑんま大王此世かいへゆるきいでたるかとあやまたるやがて権兵衛にむかひ一れいをはりていざ〳〵おくの間へ来られよ何はなくともいつこんくまんとて金ばりつけのふすま戸をおしひらきてともなひぬ 「いやしき町人のうつら権兵へおれき〳〵さまのおめどほりといひことにはごちさうの御酒をくださるとの事ありがたうぞんじまする御たがひにいらいは御こんいをおたのみ申ます 「いやはや金時どのには大きにおりよぐわい申たそのごあいさつでは権兵へめいたみ入ますハヽハヽヽヽ 「さきだつてのぶれいはうづらせんせいごめん下され 人物名  権  金 左丁 「かまくらに名たかい男ほどあつてうづら権兵へどのとやらハテさていさましいこつがら身どもはよりみつ源次左衛門と申てよりとも公ぢつきんの武士いごはおみしりくだされサア〳〵これへ〳〵 「わたなべつな五郎でござるうづら先生ようこそおいで下されたとのにもせんこくよりおまちかねでござつた 「さたみつ定八郎すゑたけ季九郎でござるおめをかけられてくだされ 人物名  頼 金  定  季 右丁 欄外 うづら権兵へ 本文 さておくの間へ入てみればたたみはとりはなせし板間にてここかしこくされおちたるくち木のはしらじうわうによこたはりくさおひしげりてくものす一めんにかけわたしそのけがらはしけがらはしきこといはんかたなし権兵へおくせずむむずと座せばおのおの此ところにゐならびいざいざ酒をすすめよとことはのしたよりたるのかごみをひらきてひしやくをそへおきまづ源次左衛門さけをこころみんとて大さかづきになみなみと 「おさかながふそくならばしろかね町の東林(とうりん)へ申つけませう 人物名  頼  金  綱 左丁 ひきうけてさかなをといふとき金時かたはらにすすみ出はっしをとりていかにへびのながやきにいたさんかとかげのいりつけいもりのほうろくむしいづれに仕らんといへばよりみつかふりをふりていやいやみけねこのさし身こそよかよからめとてうけてほし扨さかづきを権兵へにゐはる権兵衛大さかつきをいただきてりやうてにひかゆるときつな五郎しやくをとる又かのさかなをはさむにぞ権兵へこれをうけていふやう御れきれきのかたがたは御さかなもちんぶつなりこの権兵へいやしき町人なれどもさやうのむさきものはのどをとほさずも申さばひつぶのゆうとやらにてをとなげなきわざながらこれをくはずはひけうみれんの名をうけんもざんねんなりろくろくびのぬたなりとも見こしにうどうのうまになりともばけ物なりまのちんぶつをゐはるべしといひさま何かはしらずくちにいるるにつねのさかなにてべつにあぢはひかはらざればおのおのがたは子どもだましのおどしを御ちさうとや権兵へまづいつぱいくふたりといふてかの大さかづきをへんぱいす 「もうひとつおあひいたさう権兵へこんにやくではござらぬさけの事さけの事 人物名   季  権  保   定 右丁 枠外  うづら権兵へ        十三 それよりさかづきは四天王にまはりて一はいづつのみてhのみてはまはしまはしするほどにさすがの権兵へも二升も入らんと思ふさかづき十ぺんばかりまはりければ大きにめいていする所へひとりむしやほうしやうやす兵へおちかづきなり申さんとて又一ぱいうけさするお手もとおあいとしいければ権兵へもはやたべゑひたればのましのませんと四五人がたちかかりおしあふひまにしやくに立たる金とき金左衛門大てうしをとりなほして権兵へがみけんをめあてにうちつくる▲ 「ふたりいつしよにやるなやるな 「うめごぜんかこひのあたくものすやらうめかくごしろ 「さやであしらふとはおいらをえだ先のやうにしをつた 「えんの下からつんでたは九太夫ならぬささめの五郎おかしらのこひのゐしゆうぬもいのちがねくさつたはエ 人物名  金札 金  金札  金札  保 季 定 左丁 ▲大りきの金左衛門がちからにまかせてうちつけたるにあつがんの酒目に入りてまなこをひらくことかなはずよろめきてしりゐに座すを保昌やすすけすかさずとびこんみだんびらぬきてまつぷたつと切かくるこころえたりとめくらながらに身をひらけばちからまけにうつむけにのめる所にのこる四人ぬきつれてうちかかるさすがのがうけつ権兵へもかんつぶしによわりてただひとうちと見えにけりかかる所へいつのひまよりしのびけんささめの五郎えんの下よりめりめりとねだ板をさしあげてまてまてまてと大おんによばはりよばはりすつくと立たるいきほひに上にのりゐし両人はまつさかさまにたふれたふれけり 「ささめの五郎がきた上は権兵へどのに手もつけるな 「権兵へがんつぶしのふいをうたれてたふるる 人物名 五  権  金 右丁 此ときささめの五郎は四天王をあひてにしてぬき身をもちゐずさやながらにたたかひてやにはに二人をあてたる所へうづら権兵へまなこをひらきておきあがりおなじくさやながらにあしらひてじわうむげにはたらきければ四天王もひとりむしやもみなかたはしよりたたきふせられ半死半生のていたらくなりよりみつ源次左衛門これを見ていふかひなきものどもかなわれたちむかひてひとひしぎにしてくれんと大ひろそでのはをりをぬぎすてまけいしゆらわうのあれたるごとくいかれるとらひげ左右にみだし三尺五寸の大わざものこふりのごときをひらめかして両人にきりかかる 「いつのひまにかえんの下にしのびゐてわがいのちをすくはれしはかたじけなし五郎どのごたいぎごたいぎ 人物名  雪  権  頼  綱  金 左丁 権兵へ五郎二人ともにためしまれなるはやわざのゆうしやなればなんなく▲ ▲源次左衛門をとつてふせおさへてなはをぞかけにけrかけにける七人のらいくわう組はぎりしていかれどもはたらくものは目ばかりにて五たいはかなはずうごめくを両人うちながめてしばらくやすらひさて権兵へがいふやうしやつらはよりとも公のばつかなれば▼▲ 右丁下段へ ▼▲こうなんのおそれあり此のち町町をわうぎやうしてわがままをせざらんためいちいちにはなをそぎておひはなちいのちばかりはたすけてくれんとありければささめの五郎げにもつともととくしんしかれらがふたこしをふみくだきおしゆがめそののち一一にはなをそぎてぞ立かへりける 左丁 「今日ただ一人にてこの所来ゐひしときくよりもかねてしのびのささめの五郎いのちのおんある権兵へどのあやふきいのちをすくひしもこれすなはこれすなはちいのちのほうおんまづは御ぶじでめでたいめでたい 「むかしの四天王はつちぐもを此やうにおさへたが今はまたおさへられるこれもなんぞのいんえんかアアぜひもなきせいすいじやよなア 人物名  亀  五  保  委  定 欄外 うづら権兵へ 本文上 そののちうづら権兵衛がたていれにてけいひ坂のいうくいうくん亀御前をみうけしてささめの五郎がやどのつまとなしければかさねがさねのえんふかく権兵へが男気をかんじてすゑながくまじはりをあつうしふうふむつましくさかへけさかへけりめでたしめでたし 本文下         三馬作  刻印 三馬 うづら権兵衛はお雪とふうふ中よく一男二女をまうけてすゑながくはんじやうしけりとりわき男だてのその名たかく今の世までもきこえしはめでたかりけるためしなりめでたしめでたし 人物名 上  五  亀  下  権  雪 菊川英山 筆 ? 左丁 醒醒?山東翁著 骨董集(こつとうしふ)    近刻 二百年以後(いご)聞人(ぶんじん)の傳(でん)並に肖像(せうざう)珍?(ちんしよ)奇画(きぐわ)古制(こせい)のたぐひ諸(もろもろ)好事家(かうずか)の秘篋(ひきやう)にもとめ数(す)十 部(ぶ)の珍書(ちんしよ)を引(ひき)自己(じこ)の考(かんがへ)を加(くは)へ事(こと)を記(しる)し物(もの)を図(づ)したる漫録(まんろく)尚古(しやうこ)の書(しよ)なり 文化七歳新版稗史目 上段枠 契情(けいせいは)瓢象(ひさかた)侠客(おとこだては)荒金(あらかね) 冠(かむり)辞(ことば)筑紫(つくしの)不知火(しらぬひ) o一名 ふじ身太郎 式亭三馬作   全八冊 次枠 善悪両面 於竹(おたけ)大日(だいにち)忠孝鏡(ちうかうかがみ) 式亭三馬作   全七冊 下段枠 鶉(うづら)権兵衛(ごんべえゑ)俠膽話(たていればなし) 式亭三馬作   全三冊 次枠 小幡(こばた)小平次(こへいじ)前座之(ぜんざの)講釈(こうしやく) 鱇(このしろ)頓兵衛(とんべえ)幻草紙(まぼろしざうし) 式亭三馬作   前六冊 右のこらず出板うり出し申候此外別紙もくろくに諸先生作相しるし有之候よろしく御評ばん被遊御もとめ可下置く様奉?候 江戸通あぶら町  佳?屋 喜右衛門板 右丁 文化七歳庚午新版稗史 上段枠内 敵討(かたきうち)善知鳥(うとふ)乃俤(おもかけ)全六冊        山東京伝作 平野屋(ひらのや)徳兵衛(とくべゑ)天満屋(てんまんや)おな川 三世(さんぜ)相婦女(さうをんな)手鑑(てかがみ)全六冊         十返舎一九作 清水(きよみづ)観音(かんおん) 利釼(りけん)之(の)勲功(いさをし)      全三冊         十返舎一九作 姥桜(うばざくら)女清玄(おんなせいげん)    全六冊         曲亭馬琴作 下段枠内 浮世絵師名目 歌川豊国 歌川国貞 歌川国満 勝川春亭 菊川英山 のこらず出板売出申候此外別紙にもくろく有之候よろしく御評判遊され御もとめ御読被下置候様ひとへに奉希上候 午乃はつ春 江戸通油町書林 地本問屋 ?鶴堂 鶴や屋喜右衛門版 左丁 文字なし 裏表紙