《割書:妙薬|功験》腹内窺機関 【右丁 白紙】 【左丁】 《振り仮名:妙薬功験|□□□やくかうけん》   英笑画 腹内窺機関(はらのうちのぞきからくり) 丙戌 春 新販 り【朱書・千】四百六拾弐 西與板 文政九丙戌 春新板冊 南仙笑楚満人挍 腹内窺(はらのうちのぞき) 機関(からくり)《割書:全二冊|合巻》 春齋英笑画 永寿堂版 大凡治病先正_二其名_一 不_レ正_二其名_一者猶_二縁_レ木 而求_一レ魚也疝癥俗曰_二 下風_一内經馬玄台注 土積高大者謂_レ山疝 者漸積之謂也病源 疝通也疝有_二 七疝_一厥 疝癥疝寒疝気疝盤 疝腑疝狼疝也是巣 氏叙_レ之亦曰寒疝水 疝気疝血疝狐疝㿗 疝筋疝是張子和所 _レ叙也各雖_レ分_レ名其元 水気之変病也  医(い)は三世(さんせい)にあらずんば薬(くすり)を服(ふく)すること勿(なか)れ といへど又(また)三世(さんせい)の書(しよ)を読(よま)んには三世(さんせ)の医(い)に 異(こと)ならねば其家(そのいへ)は勿論(もちろん)素人(しろうと)にても心(こゝろ) 懸(がく)べきは医道(いとう)なりされは兼好(けんかう)が つれ〴〵草(ぐさ)にも第三ばんめには医(い)を 学(まな)ぶべきよしをいへり此書(このしよ)もとより 児戯(じげ)といへども東山堂(とうさんだう)の疝積湯(せんしやくとう) は古今(こゝん)無類(むるい)の名方(めいはう)なればそれをあま ねく四方(しはう)へ伝(つた)へ知(し)らさんとの仁心(じんしん)より おこれば戯虐(けげき)といへとも思(おも)ひより出(い)づ 因(より)てその理(ことわり)を述(のぶ)るになん  文政九年戌春 南仙笑楚満人誌■【花押ヵ】 昔(むかし)唐山(もろこし)張(ちやう)の 国(くに)に文中子(ぶんちうし)と いふ名医(めいい)あり或時(あるとき) 応声虫(おうせいちう)を病者(やむもの)あり この病(やまひ)は其(その)病人(やむひと)のいふ 程(ほど)の事(こと)を腹中(ふくちう)にて答(こた)ふる也 文中子(ぶんちうし)爰(こゝ)に おいて 本(ほん) 草(ざう)を 開(ひら)き 病人(びやうにん)をして薬(くすり)の 名(な)を読(よま)しむ果(はた)して 藍(あい)と雷丸(らいぐわん)にいたつて口(くち)に いへど腹中(ふくちう)にてこたふることなし 文中子(ぶんちうし)藍(あい)と雷丸(らいぐわん)を  服(ふく)さしめて其病(そのやまひ)      遂(つい)に       治(ぢ)す 【紙面左上 丸額】 医者 意也 【紙面中央下部】 肉桂 大黄 流行(はやり) 医者(いしや)を 題(だい)して よめる 医師(いしや)  の/身(み)は 匕(さじ)がまはれば  まはるほど 病家(びやうか)へ  まはる ことぞ  おそけれ 驛亭  駒人 【紙面左上】 はやりいしや 〽ヲヽいそがしい〳〵 けふも十四五けんも あるいてきたが今から 又五六十けんも見ま はずはなるまいあしたは かごにせうすすそがきれてつゞかぬ 【下】 はやりげいしや 〽コレサきのふはまことに よつてしまつたが けふはおやしき だからちつと まじめにならふ あしたも あさつても やく そくが ある から モウ〳〵 こと わりを いふに こまる のう [本文よみはじめ]頃はあしかゞ将軍の御代と きこへしが信州みのぢ郡くめぢばしを うちこへて新町のしゆくとてゐなかに まれなるはんくわのちありそこを さることとほからずして竹房村といふ 所に代々/医(い)をぎやうとしてほそき けむりをたてゝあるやぶ/竹庵(ちくあん)といふ ものありうまれつき正直りちぎに してよくかげうにせいをいだしびやうかより むかふるときはくひかけたるめしをもすてて かけゆきけるゆゑに人みなちくあんさま〳〵と もてはやしぬ此ちくあんあまりのはやあし にてかけまはりけるゆへ人みなとび あしのやぶいしや〳〵とあだ名なせし かばしらぬ人はそのわざをつたなし とおもひけるぞぜひもなしこれかの つれ〴〵ぐさにかけるゑの木のそうじやう のたぐひにしていかんともせんすべなし 竹あんもとよりかゝる正直なるこゝろ なればわが家げうのいどうはこほう こうせいはいふにおよばずがくもんも大かたは つとめまなびけるがとかくにそのわざのつた なきをなげき とにかく病人のはらの うちへ入りて見とゞけ ざればそのびやうこんを しりがたしさればとて いきたる人のはらの中へ 入らんこと小野のたか むらがいきながらぢごくへ ゆきかひしたるよりもむづ かしき事なりたやすくは かなふまじたゞおん神のちからを かるよりほかなしとところのうぢがみ なればくまのごんげんへきせいをかけ しやうじんけつさいして一七日いのりけるに 七日まんずる夜ゆめのうちにひとりの らうおうこつぜんとあらはれいで 〽よきかな〳〵われはこれくまのごん げんの神使なんぢがこゝろざしの しんびやうなるによつで今こゝに あらはれいでたりなんぢもつはら じんじゆつをむねとしてにんげんの はらのうちへ入りびやうこんを さくりこれをりやうぢせん事を ねがふこともつともなりかるがゆへに このまくらをあたふるなり[つぎへ] 【右丁下】 〽アヽ わしは けさ あさ めしも くはずに きた から はらが へこ〳〵 して ならぬ 【左丁下】 くすりとり曰 〽そのくすりも きゝがよいが くすりおしろいの 仙女香もよく きくといふことだ 同いはく 〽しよどくを けして さけの ゑひを さます には 西村の かんろ ゑんが きめうに いゝよ 【[ ]内の文字を矩形で囲む】 [つゞき]そも此まくらはかの もろこしの呂義といふ 仙人がろせいといふものに あたへて五十年のゑい ぐわのゆめをみせし かんたんの▲ ▲まくら にもあらず さればとて菊じどうが 五百さいのじゆをたもちし まくらにもあらずふうがでも なくしやれでもなくせうことなしの くゝりまくらはぼうずさうおうのものなれば なんぢにあたふるなりもしびやうにんのはらの うちへ入らんとするときはまづあんふくをなし びやうにんねむりにつかばなんぢも此まくらを してともにねむるべししかるときはしぜんと ふくちうへ入りてそのびやうこんをさぐらん事 こゝろのまゝなるべしゆめ〳〵うたがふことなかれと 大どろ〳〵にてもんきりかたのとほりかき けすごとくにうせ給へはゆめはさめにけり ちくあんこゝろつきておきあがり見れは ふしぎやまくらもとに一ッのまくらあり ちくあんよろこぶこと大かたならす御しん たくなればうたがふことはあるまじ何にも せよありがたしととこのまにかざり おみきをそなへしん〳〵してゐるかどぐちを とん〳〵〳〵とけはしくうちたゝくをたれじや いづかたよりきたられしととへばむらの あるきのこゑとしてちくあんさま〳〵 せう屋さまが御ぢびやうのせんきで こしがひきつりますから今きて くださりませはやく〳〵と せきたちけり 【下】 〽この まくらを あた ゆるぞ ゆめ〳〵 うたがふ ことな かれ 〽あり がたう ござり ます しかし くさぞう しの しゆかうに ゆめといふやつは ふるいがどうも しかたがない 【[ ]内の文字を矩形で囲む】 ちくあんきゝて大きによろこびまことに女の大ひやうかしやく 男の大びやうがせんきにしてせんきは七せんとてなゝとほりありて むつかしきものゝだいいちなりいざやまくらをもつてふくちうに入り せんきのねだやしして くれんとあるきと ともにいでゆきけり かくてちくあんは あるきもろとも せう屋なる杢六 兵へかもとに いたりかどぐち にてづきんを とりながら ごめんなされ ちくあんでござる といとおうへいに はいるにぞ下女 があないにおく のまへうちとを れはあるじもくろ 兵へこれは〳〵よう こそ夜中にまア〳〵 こちらへそれおたばこ ほんおちやもてこいとあいさつのうち女房 おはたおくよりいでこれは〳〵御くろうさま さゝ一ッめしあがりませぬかとあいさうの よさうつくしさもとより女すきのちく あんらう大のまなこをほそくしてこれは〳〵 ありがた山のほとゝきすあんまり おまへさまの御ちそうがすぎます ゆへだんなのおこしがいたみもろはく の御ちそうよりわたくしへはあなたの はだの白ざけがたつたひとくち いたゞきたいとたはむれながら あんふくしてやれば もくろ 兵へは よき こゝろ もちに なりしと 見へて すや〳〵と ねいり けり 【下】 〽わん〳〵〳〵 わはんの わん 〽おたのみ 申し ます 〳〵 〽どうで ごさるの あんまり きさまの うちの かゝしゆが うつく しい から それで びやう きが なを らぬ のじや ちくあんは病人のねるを見てわれらも 夕部【ゆうべ】のびやうにんにてすこしもふせり ませぬゆへだんなのおそばでおせう ばんにひとねいりいたしませうといへば ないぎかそんならおまくらをあげませう といふになにさ〳〵おこゝろづかひ御むよう ぼうずのことなればいつかたへまゐつてもとかく まくらにことをかきますれはくゝりまくらを ぢさんいたしましたとふところよりかの くまのごんげんよりさづかりしまくらをとり いだしそばへころりとねたりしがげにしん とくのしるしにやぜんごもしらずねいりける ゆめのうちにむかふよりだいの男大口を あいてひやうばん〳〵大酒くだりはらの からくりこれより入つてごらうじろ 代はおもどり〳〵といふに 竹あんこれを見てさて こそむかしもろこしの ひちやうぼうといふ人 ちいさきつぼのうちに 入りて天地の大がら くりを▲ ▲ しかけて おきしといふことじやが このをとこもそのひちやうぼうの たぐひならんとちかくすゝめばかの男は大ごゑ あげだいがかはればせんしやくのわづらひあるひは さしこみくだりはらこしのひきつりせんきの つりいと百ひろみちのめい しよきうせきこうもんの ぬけあなおめとまりますれば へがとぼつてまゐると口にまか せてしやべるにぞちくあんは えたりかしこしこしとしりひつからげはをりわきざし とりすてゝぬつとはいればはぐきのつゝみのんどのせきを うちこへて右は気道左りは食道(じきどう)しよくどうのほうを ゆくにしかじとあゆみゆきはいひゐいの中へさしかゝれば ぬまやらかはやらどろたぼうよう〳〵とたどりつきて[次へ] 【右丁下】 〽こゝは なんと いふ ところ であらふ [つゝき] ほつと いきをつきて ちくあんおもふやうむかし ばなしのうはばみにのま れし人はかういふもので あらふかと思ひながら たどりゆくにひとつ のひろのへ出たり と見ればかたはらにほうじくいありて 右はぼうこうの池左り疝(せん)しやくいたみの介りやうぶん としるせりちくあんこれを見て左りの道へ坂をくだり 見ればいたみの介がやしきと見へてりつはなる門がまへあり やう〳〵たどりゆきもんのそばへたちよりもんばんにむかひ わたくしは信しう水田のものでござりますがめづらしき からくりのいとにひかれこれまでまゐり ましたが道がしれいでなんぎいたし ますどうぞいちやのやどりを おかしなされてくださりませと いへばもんばんとつくとあらため さて〳〵ふしぎな事だ 人でもうをでもあをもの でもほうてうめは もちろんいづれ はのあとがあるはづ なんぼあたまが まるいとて そのみそのまゝ まるのみとは うはばみりやう ではあるまいし よつほどめづらしい 事だそしてまア 手めへは何しやうばいじやと たづぬればこゝぞとちくあん せきばらひしてぐろう事は もろこしぎばへんじやくがおとしだね▼▲ 【右丁下】 ▼▲はるか此日のもとへわたりし丹波の 雅志(まさたゞ)がこういんにやぶ竹庵といふ いきやくしなりといへはばんにん 大きにおどろきイヤ此 せかいにてはいしやや やくしは大きんもつ なりさすればひと ばんの事は おろかはんとき なりともおく ことならず [次へ] 〽がつてん ならねへ 〳〵 〽どうも わりい さけだ かんろ ゑん でも くれば いゝ 【左丁下】 〽おれが かん にん しても ▲むしが せうち しねへ [つゞき]さア〳〵はやくかへらしやれと おひたつればちくあんきいてこれは ちかごろぶてうほうせんばん あたまが丸いゆゑについ口から でほうだいに今のやうには 申したものゝまことはいしや ではござり ませぬ むら〳〵の 日まち月まち などにやとはれて じやうるり長うた 又はおどり などを▲ ▼おとりて 酒のきやうをそへ 世をわたりまするたいこもちと いふものでござりますがそのやうな しやうばいじやと申したらふらち ものとおしかりもあらんかと それゆへいしやと申し たれどまことはかくの 通りてござります どうぞおとめなされて くださりませともん ばんのたもとへ こだまぎんの つゝみやくれいに もらひしを そつと なげこめば 門ばん さつそく のみこみて それはてうど よいさいはひこの せつごしんるいさま方の かんしやくさまがたもみな 御とうりうなれは[次へ] 【右丁上から】 いたみの介 〽のどもと つば吉 ちうしん とは きづかは しい おほかた ろくな ことではあるまい はやくいへ なんと〳〵 竹あん 〽もしおくさまやおこしもとがた 江戸で今一ばんのかほの くすりは京ばしの いなりじん道の 仙女香につゞくのは ござりませんこんど まゐるときもとめて きてあげませう 【左丁上】 〽ほんに その 仙女香は 此せかいでも きゝ およ ん で とう から もと め たかつた 【右丁下】 〽ご ちう しん 〳〵 [つゞき] その よし おかみへ 申しあげんと にこ〳〵ものきて おくの方へ入れば 竹庵は心の内に さて〳〵ぢごく のさたも金 しだいといふが はらのうちでも やつぱりおなじ事だと かんしんならむ かくてもんばんはうはやくの むなさきつてもんをもつて とのさまへ申しあげしに たいこもちとあらば御方へ よびよせいとのぎよい さつそくちくあんをやしき のうちへともなひける ころしもあらんうふり つゞきたるしせろとき ならぬふじゆんのじこうに せんしやくあらやうは時こそ きたれともんばんながや さむらひべやけんくわとう ろんおびたゝしくのゝしり さわぐを見てちくあん ふくちうかくのごとく なればいかさま人〴〵 せんしやく にて〼 なんぎするも ことわりなれと 心にうなづき おく人いたり とのさまの あひてになり おどりはねて酒をのみ ゐたるところへごちそうしん〳〵と よばはつて うけ来るは ここうのふくしん のど元つば呑いき つぎあへずごぜんに ひれふしこの ごろせんしやく殿の