泪(なみだ)如来(によらい)の損像(そんぞう)《割書:山の宿聖天町にて|有頂天(うてうてん)五十日の間開帳》 そも〳〵かりにあんじしたてまつるはしなのゝくに【信濃国】ぜんくわうじ【善光寺】の ほんぞんほつこく【北国 注④】でんらいしまおうごん【紫磨黄金 注③】の なみだによらいのそんぞうなりその むかしてれんてくだ【手練手管】うそ八百だいの みかどけいせい【傾城】てんわうのおんとき なまづだいじん【鯰大臣】のまつしや【末社】やけのやんはちと いへるものこのそんぞうにあつくなり ちうやあゆみをはこべ ともごりやく【御利益】なきを いきとふり【憤り】たゝらを ふませておはくろ とぶ【お歯黒どぶ、吉原周囲の堀のこと】へなげこみしを わかひものとんだどしみつ【本田善光(ほんだよしみつ)のもじり 注⑤】 やう〳〵ひきあけまいらせてせなかに おぶひたてまつりのろまのくにはなげ むらなるおきやくさんうねぼれじ【自惚寺】へつれ まいらせしばしかりねのおんちぎりあさ からずこれによつてこのたび山のしゆく【宿】 せうでんてう【聖天町、注①】をおんかりや【御仮屋】としてかいてう【開帳】し たてまつりぼんぶけちゑん【凡夫結縁】のために おとびらをひらきぼんのう【煩悩】ほたい【菩提】を によき〳〵とおやかし【生やかし=大きくする】たてまつるもの なりひとたびはいする【拝する】ともがら【輩】はたいへいの ぢしんをゆらせうつき【鬱気】をさんじ【散じ】みらいは かならずひとつはちすのうてな【注②】でくらしうてうてん【有頂天】へ のぼりてまんざいらく【萬歳楽】ねのたのしみにじゆめう【寿命】の はなげ【鼻毛】をのばすことうたがひなしごしん〴〵【信心】の おんかたは一ぶもつてとこへまはられませう 【注① 「ぜうでんつう」と読めるがせの濁点は汚損によるものと別本より判定】 【別本 石本コレクション】 【https://iiif.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/repo/s/ishimoto/document/79236a7c-6afe-4373-b3ae-ed46005bf7fe】 【注② 「はちすのうてな」は蓮の台で、極楽浄土に往生した者が座るという蓮の花の座のこと】 【注③ 紫色を帯びた純粋の黄金。最上級の黄金をいう。】 【注④ 新吉原は江戸城から見て北側なので北国とも俗称された】 【注⑤ 本田善光(ほんだよしみつ)は善光寺の開基と元となった人物】 【阿弥陀仏が水の中から飛び出してきて、本田善光の背中におぶさったとの伝説あり】