諸事米の飯     全 諸事米の飯 完 たかきやにのぼりて見れば煙(けむ)りたつたみのかまどはにぎわいにけりとは ありがたきぎよせい一代のまもりほぞんはめしとしるなりとは 一休(いつきう)おしやうのおふせのとをり花(はな)よりは だんご月を見るもだんごいろけより くいけぢうわりがくわんじんもくおふが【「が」の字が半分有るように見える】 ためおきる朝(あさ)めしねるにやしよく命(めい)は しょくにありほた餅【ぼた餅=牡丹餅】は棚(たな)にあり むしやうにかせぐもどふするも はなのした【口のこと】に つかわれる めしとしるとを しゆこふにして 大めしくいのぶてふほう【不調法】くうとじきにねると うしに なるとまふせばせふ事なしにあんどんをかきたて【搔き立て=燈心などを掻いて火の勢いを強くする】はんぶん ねて居(い)ていたし候まゝねぼけたそふだとおぼしめし御らんあそはし 可被下候 ここにお□【文字が消えているが多分「ふ」と思われる。「おふ百性」=「おお百性」】百性【姓】にてもとより りちぎいつへん【いっぺん】にておひ たゝしく【おびただしく】こめはつくれと 江戸ゑ【「江」とするところ】だしそのみは【身は】むき【麦】 ばかりくふゆへ人みな むきめしとなをつけ たいしよく【大食?】なれども はたらくゆへむびやう にてなにくらからず【何不足なく】 くらしける又そのころ 大坂のやまちうといふもの どのよふなしよくのいけぬ ものにもしよくをすゝめ さら〳〵とすますゆへ すましといふも もつともなり 〽大こん【大根】ねき【葱】とふ からしはところのやくにん なるゆへやくみといふは この事なり三人つれにて 【左丁】 来りむきめしに しよくをすゝ     める 【右丁 上部】 むきめしはひとりむすこいたつてびやうしん【病身】にて 百性のわざもできずこゝろまかせに あそばせておきせけんの人とはなすも きらいろふしやう【老少】のやうにわり【割り麦の略】ばかり くふゆへこれをわりめし【ひき割り麦を混ぜて炊いた飯】とつけ ふたおやながらくにするゆへ こゝろやすきもの来りて         はなす 【右丁 下部】 そ□□□【文字うすく判読不能】 はかり して いても すまぬ  ちと 江戸へ  でも でゝ  たの しむか よかろふ 【左丁 上部】 とふからし わりめしとすましが はなしのよふすを しのびて  きく とうがらしは にげたが ちつとのむと あの人もあかくなる 【左丁 下部】 また おゝさへ【御押さえ=相手が酒をさそうとするのを、押さえて重ねて飲ませること】か   【右丁 上部】           【右丁 下部】   なめしのひとり              女川   むすめ女川こしもと          わりめし   きのめをつれはな見に    【このあとの数行、                   文字うすく判読不能】   いでよもをながめて              たのしむおりふし              わり                   めし【ひき割り麦を混ぜて炊いた飯】も    花を    なが めんとたゝひとり 女川を見そめ ちゃ屋の しやうぎにこしを かけしに なにもの ともしれずふかあみ がさにかほをかくし てまえのほうより わりめしにあたりて けんくゎをしかけけれども 【左丁 上部】 いろ〳〵わびるゆへ このばはたがいにたち            わかれけり                 【左丁 右下部】                       人にあたつて なせあいさつを せぬ                            さわり ましたら                       【このあと数文字ありそうだが文字が消え判読不能】 ませ 【左丁 下部左端】                 わりめし  なんぎ                            【右丁 右上】 そばきりがおい うんとんは すこしおろかなる ものなれとそばも このなきゆへあと しき【跡職】をもゆず らんとおもへと そばほどのはたらきは なきぶてう ほう【無調法】ま事 にしん るいゆへ わがこ とう せん【同然】に おもふこのしんるいの 事をいつのころよりかめんるい〳〵といふ也 おろかなものをとんだ【「どんだ」=「鈍太郎 どんだろう」のこと】といふもうどんより はじまりけり なめしがむすめ女川を 見そめとうからしをたのみいなりの かんぬしあづきめしがかたにて そふたんする 【右丁 中段】 〽うんどんは やらずのかさず かんぬしの 小しやうに ほれるうんどんは 小しやうがきつい すきなり 【左丁】 〽とうからしかんぬしとしめしあわせ 女川をうばいとらんと はたらく うんどんどのがあのやうにのびては たまらぬととうからし ゆへから〳〵〳〵とわろふ 【神社の鳥居の額】 稲荷大明神 【右丁 上部】 とうからし うんどんに たのまれ こしもと きのめに あてみを くわせ 女川をうはい ほうびにせんと はたらきせちがらき やつからきめ【「おお辛き目」か】にあふといふは此とうからしよりはじまりけり 【右丁 下部】 ほうびは のぞみ しだい じや おれ き□ の じや□ と いふ あらもの【荒者=乱暴者】だ 【左丁 上部】 とうからしは女川をぬすみやう〳〵と ちそが所へかくしてもらい ちそがとうからしをかくせし よりいまにちそまき とうがらしとかくせし ばかりでめいぶつに   なりけり 【左丁 下部】 ひへめし【冷飯或は稗飯】といふわかもの ちそかところへ 見なれぬ 女はいりしゆへ つけこみ ゆすりかけ 弐百や 三百では きかず やう〳〵いつ ほんで りやう けん【了見…我慢】 する 【右丁 上部】なめしはむすめ女川を なにものともしらず ばいとられ【奪い取られ】所のなぬし ゆへとしよりみな〳〵 より合そうだんする ゆへなめしをたいて ふるまふなめし五人ぐいと 【左丁 上部】 いふはこれなりなめし女ぼう おでんおつとは きついでんがくかすき なれどもぶせうものゆへでんがく ほどのやきどうふへみそかくずを かけいくじかなきゆへひきづ□【「り」?文字半分欠けていて判読しづらい】とふふと いふなり     〽 さあ〳〵みなさまあがりませ    もふなんにもてませぬそれを    あがつてかうしんまちのきで    おはなしなされまし    【中央下部の文字】         これは〳〵おかみ         さまいつも         ながらこぞう         さ【御造作】わしか         かゝもこの         おりやうりが         きついすき              た    【左丁 左下部】          おまへも          おせうばん【相伴】           なさり            ませ          【右丁 上部】 わりめしは江戸へ出そくさい になり大のいきしん【粋人】と なりてまい日〳〵ならちや屋へ あそびにゆき そのころの なだいもの かめやの かすがのつぼやの こみ山五井やの わかもりわたやのかんばやし日のや あかしやのあわゆきそのほか なだいものおびたゝしくあつめ 【右丁 下部】 くるほどの人 ちやめしに うかされよとを し さわぎ あそぶ のま【?】□□□【この行何文字かうすくて判読不能】といきに 【この行も上部何文字かうすくて判読不能】 てし□【文字うすく判読不能】と 【左丁 下部右端】 なり        つとめる 【左丁】 かすがのになじみ むしやうやたらにてを たゝき太平ちやわんと おごりかけむかし ろくかうのおくやまん ねんやは人がたのしみに ゆきしものが今は江戸に おびたゝしく できてはやり けりこれを思ふ に女郎のちやを ひくといふも人を ちやにするといふも このちやめしからはじまりし事か またちやめしといへばとうふのぐつに【ぐつ煮=長時間とろ火で煮ること。またその煮物。「豆腐のぐつ煮」はポピュラーな料理だったよう。】 ひつこいものなれどどふ でもきやくはひつこいのが よいと見へてはやり くずだまり【葛溜り=葛餡のこと】もしたじ【下地…味付けのもととなるものの意から醤油のこと】 よりよいとみへて きやくがあるなり 【右丁 上部】 わりめしはならちや屋に あそひすごしかね四ツ まいかとおもひかへりしか もはや九ツすぎあそんで いてはよのふけるもしれず うどんわりめしが 江戸にいる事を きゝ女川がかけ       おち      したる ゆへわりめし めをぶつちめん【ぶちのめす・たたきのめす】と かへりをまちぶせ してやなぎばしにて でつくわせくらやみにて さん〴〵にちやうちやく【打擲】し 二人ともに にけかへる 【右丁 下部】 なぜ今 しぶん おかへり あそはす 【左丁 上部】 ちやう ちんをけし なん し 【左丁 中央部】 こんだ しほに □□□【文字うすくて判読し辛い】 き や し   た 【右丁】 わりめしはあそひより のかへり    かけ   なにもの   ともしら   ずちやう   ちやく【打擲】に  あいむねんには おもへどもそれと いふてかわりもなく ばんし【万事】の事にものおぢしてうしじま へんのへつそうをかいものしづかにくらし いるおりふし女の二人のあんないありし ゆへたちいで見ればそのいぜん花見の おり見そめし女たがいにあかしやい うちへいれけり 【左丁】 見れは ほかに ともゝなし がてんが  まいらぬ みめぐりからでもおいで ではないかたじ【堅地】  やねぶね【屋根船】があやしう        ごだる 【右下】 おはなしもふ せはながい□ よふ〳〵□・・ まい□ ました□、、、 【右丁上部】 女川が うし じまに いるおり あさ くさの もの とをり かゝり いわん かたなき うつ くしき ふう ぞくほしかるもの やまのごとしせめて なんぞしゆこうも あらんとひろこうし【広小路=東京都台東区上野を南北に通じる大通り、および、その付近の通称。江戸初期の明暦の大火以後に寛永寺黒門から南へ延びる通りを拡張してできた。】へ 女川なめしといふもの をはじめければすさまじくはやり だん〳〵にるいみせ【類店】おゝくできいつれが 女川らいるかとおしなべてはんじやうし 和中さん【和中散=近世売薬の一】のやうにとれがほんけ【本家】か しれぬやうにうれもつとも でんかくのじんじやう【尋常=ありさまが立派なこと。品のよい、しとやかなさま】もすべて 女川かふうぞくにならひしなり 女川なめしのじつせつ【実説=実話】なり 【右丁 右下部】 まづおかんおんさままいつてからよ□【文字うすく判読不能】 【後の2行も文字が消え判読不能】 【右丁 左下部】 女川とやらは なに や□ と やらか うけこし たてはないか 【左丁 上部】 わりめしは江戸にいては 人めにたゝんと 女川をつれてたちのきやう〳〵と あれたる百性の いゑにやどを たのみけれはやさしき ばゞにてやどをかし なにもなけれど あわのめしを しんぜませうと ふるまいければそれは日本一にて候と さいみやうじどの【最明寺殿=北条時頼】ゝやうによろこび そうおう【相応】なるうつはもなけれは まつのはにのせいたしけれは こゝろざしはまつのはと かんしやうじやう【菅丞相=菅原道真の異称】のせりふにて ま事にさむしきときまづい ものなし女川もじんじやうな くちにしてはなか〳〵よくくい よろこぶおりふし【折節…丁度その時】このやの あるじぢゝめしおやぢ かへりかゝりひとたくみ          する 【左丁 下部】 おまえかたもなにかわけのあり そふな 事わしが あわめしを おふるまい もふし ろせい【盧生】    といふ人は    あわめしかしく【炊く】うち ゑいがのゆめを 見たといふ事 二人あやかつて ゑいくわを なさり ませ 【左丁 左中央部】 やさしきばゞさま ゆへよろこぶ 【右丁 上部】 ばゝめしがしらせにて うとんは女川をばいとらん【奪い取らん】と とうからしをたのみ来りし にねき大こんにでつくわせ【「出交わす」=でくわす。偶然に出会う】 むごいめにあいあまつさい【あまつさえ=「剰え」=それだけでなく】うどんはふみのめされ【踏みのめされ=したたかに踏みつけられ】たつ 事もならず今のよに いたるまてうどんのふま るゝいんゑん【因縁…いわれ、由来】はこのとき よりぞはじまり けりとうから しも大こん 二人おつはさ まれ【おっぱさまれ=「押挟まれ」=ぐっと挟まれ】からみなかま【「辛味仲間」】の つらよごし たゞさへ人に いやがられ そのうへ こんどの  かたきやく  りやうりのやくみも 【左丁 上部】 するものがそふいふ事で すむものかと大こんと大こんの 中へたてはさみ むしやう やたらに【無性やたらに=無闇やたらに…考えもなく度を越すこと】 おろせし ゆへふつ かけ【ぶっかけ=ぶっかけそば「打掛蕎麦」の略。かけそば】の とう からし ゆどう ふの  とう  からし。 【右丁 下部】 ばゝ めしほう ひはおもひ のほか 此□【?】を 見て むねに つかへる □□ かき   は こめ ん 〳〵  と ひやむ  ぎに なりて 【泣いて の誤りヵ】 あやまる 【左丁 中段】 大こん おろしの あかいの【紅葉おろし】は これより まへはなき 事なり二人 にてとぐてあ かせ【意味不明】いやみ【嫌味】 からみ【辛味】の こじらい れき【「故事来歴」=昔から伝わってきた事物についてのいわれや歴史】 これにて さらりと わかりけり 【左丁 下部】 たゞさへおのれ げすはつたと【下司ばったと】 わさびにいわれさん しよはこつぶでも たいていはらをたつて いるとたかのつめ のよふな もの なれ  と ま事に これが てん しやう まもり【天井守】あをとう からし ようからくして 竹のつゝゑ【「江」とあるところ】も いれられての事で つか□□どく【「気のどく」か】     なり 【右丁 上部】 うどんがだん〳〵のわる たくみねぎと大こんに きめられそばきりかたへ つれ来りやうすのこらず はなしければそは きりはもつてのほかの いきどうりめんるいの つらよごしてうちに せんとりつふくする そのばにそうめん いやわせまづりやうけんも あらんととゞめおはら たちはごもつともそれ がしなどはずいぶん こゝろをすぐにもち きをながくして 人にさからはずひや ぞうめんがきらいの人 ならにうめんときけんを とりわがまゝではすみま せぬそばきりどのも そのとをりごぜん【御膳】〳〵と 【左丁 上部】 もちいられ たいかい【大概】きらい な人はなしそれに こなたはふとい人と きめつけられてそば きりそうめんは きりやうしだいほそく すれとまん〳〵年の そのすへもうとんはほそく ならぬ事そうめんが いちごんなり 【右丁 下部】 お【?】くのてまいもめんぼく ないそれほどなわるたくみ するこんじやうとは おもわぬ よふしやふの ときよりがくもん させてほんのはし 〳〵見おぼへて たいがいのかぜくらい はあせをかゝせて さらりとなをし 人々をよろこばす もおれがかけ【御蔭と「かけ」の掛詞ヵ】もふ りやうけんがならぬ ときめつくる 〽ねぎ大こんはそは きりがけつはく【潔白か】ひと とふりのなかでは なじまづ□□□□く とゆふあんとの  【このあたり意味不明】 とを□をむぎ めしどのに 【左丁 下部】 はなしその うへで□【文字うすく判読不能】 そばに うとんを つなぐ 事  此 とき より  ぞ はじ まり けり 【右丁 上部】 ねぎ大こんは そはきりが  しんてい【心底】を むぎめしに はなし そのもとへ ぎり たたぬ    と ついぞ   ない うどんを てうちに するといわれ やふ〳〵とまづしづめて かへりましたと むぎめしきゝ さて 〳〵 それはきのどくな 事 ひつきやう【畢竟】 せがれめかこゝろ まかせにくわせて おけばはらがくろいから いろ〳〵の事しいだし 【左丁 上部】 そばきりとのへのいゝわけに かんとう【勘当】するわりめしを かんとうしたらなにを くらうかそれでおもひ しりおるであろふ ねぎ大こんもりやう ほうのわけをきゝ とりあつかわん しやん【思案】なく こまりはてけり 【右丁 右端中部】 さゝぎ【「ささげ」のこと】めしは いなりのかん ぬしあづき めしとは 【右丁 下部】 ゑんある ゆへ う ど ん の し り も ち したる事 わびに 来り ひ と やくにて むぎ めしが やふすを きゝなか〳〵 いゝたし てもす むま□【済むまじ ヵ】【これより以下数文字判読不能】 【右丁 中央部から左丁中央部】 女川がはゝおでん わりめし二人か ありかゞしれむぎ めしか女ぼうにあい なにとぞおもひおもふたなか ふうふ□【夫婦に ヵ】【文字半分消え判読不能】したきよし おつとにかくしそう だんに来たる 【右丁 上部】 めしのそうおかしら 米のめしそはむぎめしの ていりをきゝたまいそう ほふにわけをつけ給ふ もつともめいは【「わ」となるところ】くなる事 ゆへいちごんのへんとうも なしむぎめしがせかれ わりめしなめし むすめ女川と ふうふにいたすへし うどんはさき にてとくしんも せぬ事にてごめ になし事に とうからしを たのみ し ふとゞき このうへはやくみといつしやうつきやいは ならぬすこしいこゝろ【医心=医者の心得】あるゆへ こせう【胡椒】をいちみゆるす此うへは ずいふんみもちをたいせつに してほしうとんともなり なば きにん【貴人】のまへゑ【「江」となるところ】も いだすべしあづきめしとのも おとなしからぬいたしかた 【左丁 】 あかのまんま【赤飯】にとゝ【魚】そへてと こどものやうではすみませぬ こわめしのやうにもちいられ わざと あつき めしでも たきませうとやすく いわれぬやうにするか ましさゝぎめしは しんるいゆへすいぶん きをつけつかわすへし なにからなにいるまで こめがすこしはなれては ならずどふかそばは しはいちがいのやふなれど あごておさへ【最後に出すもの】に めしがでる 壹人りとして きらいなく これかきらいに なるくらいでは おいとまごい     なり 【右丁から左丁にかけて 下部】 とうかうしにはくわたい【過怠】 をいゝつけるずいぶん うまくないものも むしやうにすゝ めて人々の ためになれ いわしのぬたで むしやうに のんでばかり いては  すまぬ 〽みな〳〵  ありかたく   おもふ いぢきたないぢみやうはなつ□□【?】三冊ものゝさうし 上からおわるまでくふ事御子様方がこのよふに くふ事ばかりおつしやるとぢきにきふ【灸】を すへられこれはきついむりなり とこぞ【何処ぞ】へゆかふではないかもくふ事 あそびにゆくもよくするよきその はなしも今はよい百まんへんも 内からこんだて月雪花にはおさだ まりもつともくいものにおしかりは あるまいがなんぞいきなこんだてが めいぶつなとでとおぼしめしも あらんがそこがかの米のめし こいつはよいと御ひやうばん よろ しく ねがい たて まつり   候 【下】 のゝさまを おが みやれ なに事も かみしん じん 【両頁文字無し】 【裏表紙 「帝国図書館藏」の押圧文字あり】