【題箋】 錦百人一首    全 錦百人一種あつま織全 難波津あさかやまは手ならふ人の はしめならし【であるらし】こゝに京極黄門の 小くら山荘色紙のうたはものいひ ならふうなひ子【「うなゐ子=髪をうなゐにした子供」とあるところ】のすさひにもまたは 手習ふ人のはしめにもなし侍りて みな人の口にありといふへしある日 青山堂と号して書をひさく人 この色紙歌の書を袖にし来りて 画の上にわか猨山先生の筆を もとむ予もまた心をうつし絵の 誠すくなしとはいかにいはんとめて 侍るよりゆきてわか先生に乞へハ 先生さらに紫のゆるし色なる かほはせならてひたすらいなひ の【稲日野】ゝゐなとのえ侍りけれは口をつく みのあちきなくもて帰りぬれと 青山堂しきりにわひもとめて やまされは如何はせんこしにはやくのとし 先生竹の葉【酒の異称】のなさけに酔ふし なから水くきの跡さきもたと〳〵し 【右丁】 けれとあまた侍りけるを反古ともの うちより見出て予か家にもてきぬ さま〳〵の古るうたとも侍りけるを とうてゝ見れは幸ひにこの百首も ましれゝはひとつふたつえり出し けるまゝにいつとなく十つゝ十になりぬ 是をこの画の上に冠しめはいかゝ 【左丁】 あらんといへは青山堂よろこひに堪す しかはあれとわか先生のうけひか さるをこゝろにまかせて あたへんもこゝろさしあさきに 似たれとも深く人のもとむるを しゐて心つよくもいらえかたくて  みたりにこれをゆるしはへるなり 【右丁】 その事をしるして序と なし侍るもつみさり所なく  安永三のとしはつ春    さやま門人      わたなへひろし識 【左丁】   自序 百人一首の人物形容は世々の画工其 おもむきを画【畫】せるを今はた今様のいま めかし心成に写【寫】してよと書林青山 堂の需【もとめ】に応【應】して秋の田のかりそめに 毫を採りてよりもゝしきの百にはみちる 哥の神と衣冠の正しからす地紋のたし かならさるは絵【繪】そら事の中のそら 【右丁】 ことの浮世絵なりと見ゆるし給へかし されば始に六歌仙のさゝれ事を□【「画」か。この字、『大漢和辞典』にも無し。「かきそえて」の意。】そえて いとくちを解き児女子の眼をよろこばし そへるもてあそひものとは南【なむ】しらぬ やすく永き【安永】き【「のえ」を補って読むと良い。】たつのとし【甲辰の歳】 春待月勝川春なお李林寒路【「露」とあるところか。】之下書 【左丁】 僧正遍昭はうたの さまは得たれとも まことすくなし たとへはゑに かけるをうな を見ていた つらに心を  うこかすか   ことし【如し】 朝みとり【浅緑色…「糸」にかかる枕詞】  いとより  かけて 白露を 玉にも  ぬける はるの   柳か 【右丁】 ありはらのなり ひらは其こゝろ あまりてこと葉 たらすしほめる 花の色なくて  にほひ   残れるか   ことし 月やあらぬ 春やむかし     の はるならぬ  わか身 ひとつは  もとの  身にし     て 【左丁】 文屋の康秀は ことははたくみ      にて そのさま身に  そはすいはゝ あき人の  よき衣 きたらんか  ことし 吹からに   秋の 草木の しほる   れは むへ山かせを  あらしと    いふらむ 【右丁】 宇治山の  僧きせん    は こと葉  かすか にして  はしめ をはり  たしか ならす いはゝ秋の 月を見るに あかつきの 雲に  あへるか ことし わかいほは  みやこの たつみしかそ     すむ よをうち山と  人はいふなり 【左丁】 をのゝ小町はいにしへの  そとをり姫の       流あり あはれなるやうにて  つよからす いはゝよき   をうなの なやめる所 あるににたり つよからぬは をうなの  うたなれは   なるへし 色見えて  うつろふ    もの      は 世の中の   人の    こゝろの   花にそ    ありける 【右頁】 大伴の黒主はその さまいやしく いはゝたき木 おへる山人の 花のかけに やすめるか ことし かゝみ山 いさたち よりえ 見てゆかん としへぬる 身はおひや しぬると 【左頁】   天智天皇 秋の田のかりほのいほ の苫をあらみわか ころもては露い ぬれつゝ      持統天皇 春過てなつ  来にけらし      白妙の 衣ほすてふ    あまのかく山 足曳の山鳥の 尾のしたり     おの【「お」の左に赤い点を打ち、「を」と修正あり】 なか〳〵し     よを ひとり かも ねん  柿本人麿 【右頁】 山邊赤人 田子の浦  にうち   出てみれば     白妙の ふしの  たかねに   雪は ふり  つつ 【左頁】 おく山に紅葉ふみ わけなくしかの こゑきく時そ 秋はかな  しき   猿丸大夫 【右丁】 中納言家持 かさゝきのわた せる橋におく 霜のしろきを みれは夜そ更 にける 【左丁】       かも 天原ふり     さけみれは   かすかなる  みかさの山   にいて    し     月   安倍仲麿 【右丁】  喜撰法師 我いほはみやこの  たつみ   しかそ     すむ  よをうちやまと   人は    いふなり 【左丁】 小野  小町 花の色はうつりにけり           な いたつらに わか身よにふるなかめせ しまに 【右丁】   蝉 丸  これやこ   のゆく しる   も も しら      帰る  ぬも    も あふさか  わかれ     の   て    関     は  【左丁】 和田のはら八十嶋       かけて 漕出ぬと  人には けよ つ あまの  つり    舟  参議篁 【右丁】  僧正遍昭 天津かせ  雲の    かよひ 路吹とちよ    をとめ       の すかたし   はしとゝめむ 【左丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線が朱書き。】 筑波ねの みねより  陽成院 おつる   みなの    川 恋そつもり      て  渕となり      ぬる 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名の上に棒線が朱書き。】 みちのくのしのふ にし もちすり誰ゆへ【「ゑ」とあるところ。】 われ にみたれそめ  なら          なく            に 河原  左大臣 【左丁】 君かため春  の野に    出て 若菜  摘わか  ころも 手に   雪は  ふり   つゝ 光孝  天皇 【右丁】 たち  わかれ   いなはの 山の  みね    に   おふる     中納言   まつと 行平 いま  し  帰  き   こむ  かは【「そ」に見える。】 【左丁】  在原業平朝臣 ちはやふる 神代もきか す龍田川  からくれなゐ  に水くゝる  とは 【右丁】 藤原敏行朝臣 すみの江の岸      に  よるなみ   よるさへや  夢のかよひち人   めよくらむ 【左丁】 伊勢難波  かたみしかき   芦【蘆】の     ふし      のまも あはてこの世を   すくして      よとや 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線が朱書き。】 元良親王 侘ぬれは   いまはた  おなし    難波なる 身をつくしても  あはむとそ思 【左丁】 素性法師 いまこむといひし        はかりに     なか月の  有明の月を    まち出     つるかな 【右丁】  文屋康秀      む   いふら  と あらし    を 山かせ」    むへ   るれは  草木のし ほ(を)【「ほ」の横に「を」と朱書き。】 吹からに秋の 【左丁】   大江千里 月みれは千々に        物 こそかなし     けれ わか身  ひとつ     の 秋には  あらねと 【右丁】 菅家 このたひ  はぬさも    とり     あへす     手向山  もみちのにしき    神のまに       〳〵 【左丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線を朱書き。】 名にし かつら しら       人  れ    も  おはゝ  に   て    かな    逢坂      くるよし 山の  さね 三條右大臣 【右丁】 貞信公              いま をくらやまみねの      ひと          もみち葉    たひ  御幸また    こゝろ     の     なむ     あらは 【左丁】     いつみ みかの  きとて  はら    か   わき    て なかるゝ  いつみ     川      中納言 こひし    兼輔  かるらん 【右丁】    源宗于朝臣 山さとは    冬そ  さひしさ   まさり     ける 人めも草も  かれぬと    おもへは 【左丁】  きくの    花 を(お)【「を」の横に「お」と朱書き。】き   まと  はせる しら こゝろあてに  お(を)【「お」の横に「を」と朱書き。】らはや お(を)【上に同じ。】らむ初霜                                 の  凡河内躬恒 【右丁】    みえし     わかれ       より 暁  はかり    うき    壬生忠岑 ものは 有明の    な  つれ     し  なく 【左丁】   ふれる  しら    雪 よし野ゝ  さとに あさほらけ 坂上    有明の 是 月とみる    則   まてに 【右丁】 山川にかせのかけたる      しからみは なかれも  あへぬ  もみち なり  けり 春道列樹 【左丁】 ひさかたの   ひかりのとけき  春の日に  しつ   こゝろな       く  花のちるら       ん      紀友則 【右丁】 藤原   なくに  興風 とも  な  ら たれ  をかも しる 人にせむ高砂       の むかし まつ   の   も 【左丁】      ける    にほひ   香に    はなそむかしの     故郷の(は)【「の」の横に「は(ハ)」と朱書き。】   しらす    こゝろも  人はいさ 紀貫之 【右丁】 なつの夜はまたよひ なから明ぬるを雲の いつこに月やとるらむ 清原   深   養    父 【左丁】 文屋朝康しら露 に風の吹    しく あきのゝは つらぬきとめ ぬ(の)【「ぬ」の横に「の」と朱書き。】玉そ   ちりける 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線が朱書き。】      いのちの       惜くも 右近     ある  わすら    かな     るゝ   身をは    思はす   ちかひて    し     人の 【左丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線が朱書き。】  参議等 あさ茅生の  をのゝしの原 しのふれと  あまりて なとか 人の こひ  しき 【右丁】  平兼盛 しのふれと色       に   出にけり     我恋は ものやおもふと人の        問【小丸が真下に、その横に「ふ」と送り仮名を、それぞれ朱書き。】まて 【左丁】 恋すてふ  我名は またき 立に けり 人しれ  壬生   すこそ 忠見  思ひそ【「そ」の左下に朱で「め(免)」と記入。】 め しか 【右丁】  清原元輔 なみこ さし  とは  契きな形見に  袖をし       ほりつゝ   すゑのまつ山 【左丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線が朱書き。】  權中納言淳忠 逢見て  のゝちの    こゝろに くらふれは  むかしは  ものをおもは     さりけり 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線が朱書き。】 中納言朝忠 あふ事の   絶てし  なくは中〳〵に人  をも身をも  恨   さらまし 【左丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線が朱書き。】 謙徳公あはれともいふ へき人はおもほえて   身のいたつらに     なりぬへ     きかな 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線が朱書き。】  恋のみち     かな 由良の  とをわた   る舟人     かちを たえ     曽祢  行ゑ【「へ」とあるところ。】も   しら    好忠     ぬ 【左丁】 八重葎しけれる  宿のさひしきに  人こそ   みえね  あきは来に      けり  恵慶法師 【右丁】  風をいたみ  岩うつなみ       源 の を(お)【「を」の横に「お」と朱書き。】のれの       重 みくたけて       之  物をおもふ  ころかな 【左丁】 見かきもり     衛士 の焼火のよるは    もえて       ひる         は きえ  つゝ   ものを  おもへ     こそ  大中臣能宣朝臣 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線を朱書き。】  君かため惜から   さりし    いのちさへ      藤 なかくも  原  かなと   思ひ  義    ける  孝     かな 【左丁】 かくとたに  えやは   いふきの  さし   もくさ さしも  しら   しな もゆるおもひを  藤原実方朝臣 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線を朱書き。】  朝   ほらけ    かな 明ぬれは  暮る  ものとは し  り  なから なを【「ほ」とあるところ。】  うらめ   し    き 藤原道信朝臣 【左丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線を朱書き。】 なけきつゝ  ひとり 明る ぬる  まは よの 右大将道綱母 如何に   ひさしきもの とかはしる 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名に朱で棒線。】 儀同三司母   かな     は  とも   かたけれ いのち まては      すゑ     ゆく 忘しの  けふ   をかきり       の 【左丁】 大納言公任瀧の    音は  たえて ひさしく  なり ぬれ   と 名こそなかれて  な を(ほ)【「を」の横に「ほ」と朱書き。】    きこ へ(え)【「へ」の横に「え」と朱書き。】けれ 【右丁】     おもひ 和泉   てに  式部  いまひと   あら たひ さ  の らむ    この世 あふ    事   の  もかな  外の 【左丁】    夜半の月 め     かな  くり  逢ひて  見  しや  それとも 雲  わかぬまに かく  れ 紫式部 にし 【右丁】  大弐【貮】三位    はする わすれや  人を   そよ いて  さゝ原風ふけは 有馬山い(ゐ)【「い」の横に「ゐ」と朱書き。】なの 【左丁】 やすらはてね【字母が「祢」だと思われるが偏が変。】なまし  ものを小夜    更て まての 月を    かたふく 見し  かな赤染衛門 【右丁】 大江やまいくのゝ  みちの   と を(ほ)【「を」の横に「ほ」と朱書き。】 けれ   は  また 文もみす 小式部   あまの  内侍 はしたて 【左丁】    ぬるかな    ににほひ    けふ九重 の八重さくら ならの都 いにしへの 伊勢大輔 【右丁】  清少納言 夜をこ  めて   とりの    空ねは      はかる よに さかの とも  あふ 関は   ゆる           さし 【左丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線を朱書き。】  はかりを      人伝【傳】ならて    いふよしも      かな 今  はたゝ おもひ  たへ【「え」とあるところ。】    なむ と左京大夫道雅 【右丁】 權中納言定頼   あさほらけ  宇治の    川霧 たえ〳〵に  あら    はれ  わたる   瀬ゝの あしろ木 【左丁】 相模恨わひほさぬ袖  たにあるものを こひ   に  くちなむ    名こそ     お(を)【「お」の横に「を」と朱書き】しけれ 【右丁】 もろともに  あはれとおもへ山桜はな   より外にしる人もなし 大僧正行尊 【左丁】      はかり かひ     なる  なく   たゝむ 手枕         に      名こそ 周防    お(を)【「お」の横に「を」と朱書き。】し  内侍    け         れ 春のよのゆめ    【右丁】 三條   院 心にも  あらて   浮世に    なからへは こひしかるへき 月   夜半の  かな 【左丁】 能因  法師 あら  し吹   御室の もみち葉は     山の  たつたの にしき      か わ(は)【「わ」の横に「は」と朱書き。】の   成    けり 【右丁】 良暹  法師 の   ゆふ    暮 さひし   さに宿をたち 出て     詠れはいつくも      おなし秋 【左丁】  大納言経信 秋風そふく  まろやに   あしの       て 稲葉を(お)【「を」の横に「お」と朱書き。】とつれ ゆうされは門田の 【右丁 頭部欄外に◯印、作者の役職名に傍線が朱で記入。】 音にきく  たかしの   浜【濱】の    あた     なみは  かけしや   袖のぬれも     こそすれ 祐子内親王家紀伊 【左丁】 高砂の尾上のさくら さきにけりとやま のかすみたゝすも あらなん 權中納言    匡房 【右丁】 源俊頼   朝臣  うかりける      人をはつせの いのらぬ     山颪   もの  はけし     を   かれとは  【左丁】 あはれことしの秋  もいぬめり  藤原基俊 契を(お)【「を」の横に「お」と朱がき】きしさせもか      露をいのち          にて 【右丁】 法性寺入道前関白      太政大臣  和田の原   漕出て     みれは し  ひさかたの  ら  雲井に   波  まかふおきつ 【左丁】 崇徳院  御製 瀬をはやみ  いはに   せかるゝ 滝川の  われても 末に  あはむ   とそ  おもふ 【右丁】 源兼昌  須磨之       関守  淡路    島  通布 千  鳥   農  鳴   声【聲】 覚    耳     奴   幾夜寝 【左丁 頭部欄外に◯印、作者の役職名に傍線が朱で記入されている。】      もれ       いつる なひく さ   月      や   の   雲の   け  影   たへま  さ  の     より 左京大夫     顕輔   あき風にた 【「たへま」の「へ」は「え」とあるところ。】 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線を朱書き。】  待賢門院堀川  なかゝらむ     心も   しらす    黒髪の みたれてけさは      ものを     こそおもへ 【左丁】 後徳大寺左大臣  ほとゝきす啼つる  かたを なかむ  れは     そ たゝ   のこ  有    れる  明の月 【右丁 頭部欄外に◯印、作者名に傍線を、朱で書き込みあり。】  おもひ侘さ なみた成 てもいのちは  けり  あるものを   うきに    たえ【「へ」とあるところ。】ぬは   道因法師 【左丁】 おもひいる   鹿   山の    おくにも そ 皇太后宮    鳴  大夫俊成         な 世中に(よ)【「よ」は朱書き】道      こそ る   なけれ 【右丁】 藤原清輔    朝臣 なからへはまたこのころや しのはれむうしと  みしよそ今は      恋しき 【左丁】       つれな   ねやの  かり    ひま   けり 夜も  さへ  すから    もの あけ  思ふ  や   ころ  らぬ【「で」とあるところ。】は    俊恵法師 【右丁】    かこち       かほな 歎け       る  とて     わか    西行 月やは 法師  ものを おも   はす     る なみた   かな 【左丁】 村雨の露もまたひぬ まきの葉に霧たち 寂蓮法師   のほる 秋の  ゆふ   くれ 【右丁 頭部欄外に朱で◯印、作者名に朱で棒線がひいてあり。】 難波江の  あしの かり  ねの ひとよゆへ【「ゑ」とあるところ。】       皇嘉 身をつくし        門院   てや恋         別   わたるへき  当【當】 【左丁】  式子内親王 玉の緒よたえなは   たえねなからへは    しのふる   事の よ は(わ)【「ハ」の横に朱で「わ(王)」と記入あり。】りもそ      する 【右丁】    見せ     はや 小島の   な  あまの   袖たに      も  ぬれ   にそ  ぬれし 色は  殷冨門院  かはらす   大輔 【左丁】 きり〳〵す啼や  しも夜の  衣  さむしろ   かた    に    し   きひとり     かも     ねん 後京極摂政前太政大臣 【右丁】 我恋【「袖」とあるところ。】はしほひに  みえぬ 沖の  石   の 人   こそ しらね  まも    かは【「ハ」の横に朱で「ワ」と記入あり。】く  なし 二條院讃岐 【左丁】 世中はつねに      もかもな なきさこく  海士の小ふね 鎌倉  右大臣  の   つな     手   かなしも 【右丁】    ふるさと寒く      ころも       うつ 三芳野    なり  の山の    秋かせ  さよふけ      て    参議雅経 【左丁】 前大僧正   慈円【圓】 おほけ     なく うき世の     民 におほふ     かな    わかたつ すみそめの  杣に      袖 【右丁】 花さそふ  入道前 あらしの庭の  太政大臣 雪  ならで ふり  ゆく ものは 我身  なり   けり 【左丁】 こぬ人をまつほの浦 のゆふなき   に  權中納言     定家 焼や藻塩の     身  もこかれつゝ 【右丁】 のゆふ暮は  従二位  みそきそ    家隆     夏の  しるし    成ける 風そよく ならのを川 【左丁】  人も お(を)【「お」の横に朱で「を」と記入あり。】し   ひとも  うらめし   あちき     なく 後鳥羽院  世をおもふ    ゆへに ものおもふ   身は 【右丁】  順徳院 もゝしきや  ふるき軒   端の    忍ふ     にも    猶あ     まり なり   ある  けり  むかし 【左丁】  書図【圖】  李(武陽)林勝川祐助藤春章  彫刻        (同)   井上新七郎 安永四乙未孟春【旾】       書林          同小石川伝【傳】通院前                 雁金屋義助  彩色摺墨摺 両品出来  【両丁 文字記入なし】 【裏表紙 型押しにて】   図【圖】 蔵 帝    書   国【國】 館