化物鼻がひしげ 市場通笑著 全 安永十年印本 化物(もゝんぢい)鼻がひしげ はけものはこねのさきと いふくさそうしにはけものは はこねのさきへゆきし事は 御子様かたごぞんじあとに のこりしきつねどもばかす つもりでいれともなか〳〵 今のよのなかにそうめん でもあづきもちでも くふものはなし二つや 三つになるおこたちも からい【辛い?】といつて【いつち=道理?】もうそしやと おもふ【空言い(からいい)と(を)言っても嘘じゃと思ふ】 もゝん ぢいも ひさ しい ものと こわからず むかしとちかい ひやくものかたりはすたる なんにもよふかなかはしも【「用がない」から中橋につなげる洒落】 あんまりふるいからあたらしくはしを そうたんにゆく のらきつねの なかにもあたまの けまでも しろく なりし おやふんの きつね わかての もの来り しゆへ ばけものゝ おとろへ たる事を くちをしく おもひ さて〳〵 おいらが わかい じぶんは なんでも しよかつた【しやすかった、の意?】 とかく人が なんでも ゆだんせず そのうへを くさぞうしの さくしやめが とんたやすく しやあがつて すなをな こどもしゆ までもなんの おもしろくもない ばけものと やすくさせむしやう やたらにだいつふ 〳〵としやれやがる このへんほふには そばだといつても くふまいから てうちじやと いつてくわせねば ならぬしばいの さくしやもたいせつな おふやさまを やすくしてたな でもおわれたら どふしたもんだ 【障子のかげで】 「いつそいきること【?】じや【いつそ生きる苦じや?】【いっそ生きる身じや?】 【右ページ下】 ぬし たちの なりはあじたの【味だの?】 人けんには□されはせぬか【人間に化かされはせぬぬか】 たゝいまはかふいふみで なくてはまいり【=今はこういう姿でなくてはなりません】 ませぬおまへかたの ようにしては やい□とばけ ものとのみ こみに なり ます【=化物とわかってしまいます】 【のみこみ=承知すること】 ばけものゝそふ さがしら 大にうどう はこねのさきへ ひきこみあきない しやふにはもとても なしでんじてんはたも もたずぜに三文もなく されどもむかしのかぶは たやさずせんたく ものでも大しまの ぬのこ女ほうおろくが なかにできし ひとつ まなこを てふあいし どふして くらす事やら こゝか【ここが】ばけもので しれず いつぞは じせつを まちひと はたあけんと おもひし ところに 江戸のきつねが かたより じやふ【状(手紙)】 来り もはや江戸の 事はとんと おもひ きらしやれと【思ひ切る=断念する】 いふてよこし けれはちからを おとし たのしみの ねがきれ ひさしい ものじやか また 〳〵 いかぬそう だんを はじめずは なるまひ 【右ページ下】 女ほう おろくさしで ものにて【さしでもの=でしゃばり?】 のぞく た□□きつねより【たぬききつねより?】 来□してかみをよむ【来りし手紙をよむ?】 【左ページ下】 おとつさん【ひとつまなこのセリフ】 にんけんはこわいの こゝろ だに ま事の みちに かないなば いのらず とてもかみや まもらんと はけものども うぬがこゝろの まがりたる事を しらずとかくふつじん【仏神】の ちからでなくはいくまいと【力でなくばいくまいと】 おもひ大いそのちぞうそんは てまいのなかまとおもひたのみに 来りけれはおれはみなのしるとふり 小ばやしのあさいな【小林朝比奈】におふきなめに あつたそれにあさくさのじぞうの ごりしやうのじまのちぞうおび たゝしくほうこうにんをかゝへ それほどにはなくともおとなしく せねばならぬうぬしたちのなかまは ごめんだかならずわるいこゝろを もちやるなといけんし給ふ 【「あさひな」など「ひ」になりそうな部分も「い」と同じ書体で、どうすべきか悩みますが、見たまま「い」にしました。。】 此ちそうそんはみもち ふらちなりしかかたくなり 給ひ今かたひ人を いしのやふだといふ 事はこのそんぞう よりはじ まり けり きつねは江戸より しやふ【状(手紙)】をよこし それにても わからぬゆへ そうめうだいに壹人 来り江戸のやうすを はなすぬしたちが あつちにいたときとは またちがいました今では こけのいつしん【虚仮の一心】のろま なぞといふものもなし べらぼうなしたわけ なしやぼといふもの なしはけものは もちろんとはなせは たぬきもねこ またもあきれはて そしてまあ どふいふところが いまはいゝのと たづねければ おとこもおんなも いきといふ事が はやり みなつうと いふものになり なにいつても ありがたい〳〵と むしやふ【無性】に ありがたがり このほうども いちゑん がてんゆかず どうか やまし にでも つかまつて ばかされそうで きみがわるい それで まゆげを ぬらして います 【左ページ下】 かのこもちの【?】 かんしん【?】 □やく【早く】おちやを あげろ みこし入道 なかま いつ とうに おや だま と そん きやふ【尊敬】 せられ ばけもの たいてん しては かぶに はなれその うへかわゆひさいしの事を おもひなんでもひとつこじ つけんとさいみやうしどのと いふみにてゑちごより いてたるそうにて候といづく ともあても なくいとまこい していてけるゑちごの くにのおふぼふず とはこのことなり 【右ページ下】 ぼうに けがでも させやるな 子ゆへの やみとは ばけものゝ 事なり 【左ページ上】 みこし入道 いつくとも なく たち いで も はや よあけまいに なりけれは やどを とらんと たのみ ませうと いふもめん とうゆへ くびばかり うちに いりなにか はなし【首ばかり内に入り何か話し】 から だわおとも どうせんに【体はお供同然に】 おもてに □【ま】つている ちやも たばこも のまぬと みへて ても もんの そとに あり 【左ページ下】 おうかめはかり おくりて来りし ゆへおくりおう かめといゝつたへ しなり みこし 入道は しやうじのうちへ ぬつとくひを さしたしけれは ひさしふりにて さかたの きんとき ぴつくりすれは これ〳〵おぼう こわい事はない まつはなしやれ 〽坂田の金時は 御子様かたの ご存知のとふり 四てんわうの【四天王の】 すいいちてなみの【随一、手並みの】 ほとはよに【ほどは世に】 しらぬ ものなし なれとも 十【?】四ねん ほとさきの 事金平は もといづの山 うばの子 なりと 上るりにも あれども しゆつしやうも しれず せんじゆつを ゑて今に そくさい にて いづの やまおくに ひきこみ くまやさるを あいてにして いたりしが 入道来りし ゆへうちへ いれむかし はなしを はじめる だん なのたば こはきつか ろう さけの さかなは こほうに とう からし 金平 ごほう【?】 も □【かすれている】 □□【かすれている】 なり みこし入道おもわず金平が所へ 来りしがむかしにひきかへ あらき事なく入道も あんにそういしておまへ さまはとうしてこのやうに おとなしくおなり あそばしました わたくしどもが おちをとらうと おもへはばんくるわせ なかまのものも こまりはて ましたといへば うぬしかいふとをり 金太郎子ぞうのじぶんから わんはくものいたつらものうてんきも【腕白者。いたづらも、能天気も】 わかゐうちいくつになつてもおなじ 事てすむものかどし〳〵の【年々の】しんはんに【新板に=新作に】 【左ページ上】 わかとの様まて ごひいきになされ このうへののぞみも なしよいとしをして しやれとやらもてき まいしいろ事は むかしからきらい くまやてんぐを あいてにして やまのうし【ち?】は おれひとりが らくじや 【この後ろに大きなやぶれがある】 【右ページ下、台詞等】 てまへも いつまでばける つもりた とふりて【道理で】 ひさしい ものを ばけ □□り【かゝり?】 だと いふ ぞ 【左ページ鼻をすりこぎにする天狗に】 はなが いたくはよしなに なされ 【右頁は上部が大きく破れている】 きつねたぬきと いへはきりもんきなぞは【きりもん=着物のこと】 あるまいとおもへど 入道がゆくへをあんじ 【ここまで一部が破れている可能性あり】 【左ページへ】 ほう〴〵と たづねあるき よう〳〵とめくりあい よろこふこれをおもへは 人けんものをしらずと じやうなしの事を わらうはづなり 【右ページ下】 入道金平が いゑにすこし こゝろをやわらき しよせんばけものゝ しやうばいでおち も とれ す いくつ に なつてもむすこ【息子株=親離れしていない子供】 かふのやうにふん べつをしかへんと おもひなをとろう【名を取ろうより】 よりとらむきの【取らむ気の工夫?】 くふう人はいちたい なわまつだいと【人は一代名は末代と】 いふととへは【云ふと問へば】 きかつかず【きはつうず?】 げひのほうへ【芸のほうへ?】 かた むき こゝが どふでも ばけ ものなり【ものなか】【化物仲間…と続く可能性】 □…【1行あるかもしれない】 【入道を探し当てた狐と狸は】 金平に でやいしと きゝ きもを つぶす 【右ページ入道の台詞】 みなかわる 事も なかつたか 【看板】 曲 大坂 下り 廿四 【木戸番?の台詞】 まちふだ 〳〵 【看板】 大坂 下り 【右ページ下】 きりんが【麒麟=享保時代の軽業師の名前】 すさまじい と おもつ たが いまの かるわ さは つがも ない 【左ページ下】 けしからぬいりた【けしからぬ=とんでもない】 たんば の くに も ひさしい ものた これはこしらへ ものであ ろう 【左ページ看板】 丹波の国 【左ページ上】 入道とかくぜにもふけをあんじても くふうもなしてうやはなよとおもう【工夫もなし。蝶やはなよと思う】 ひとりむすこをみせものと おもひつきつかみどりのきにて 大やすうりしやうのものを たつた四文ぜにはもとりにて □文【廿文?】ぜにゝしてはたつた【銭にしては、たった】壹【?】文 今は十六文か廿四文のみせ ものでなければみてはなし とうせいをしらぬ なるほとやぼと ばけもの なり 御子様方へ申上ますわたくし□□【よく?】御そんじの とをりふてうほうものとて【不調法者とて】ひさしく 初春のおわらひぐさとなりました ところにちかごろはとかく大つうとやら                 ばかり おなぐさみあそはしはけものかなんの こつたろくろくびかひさしいもんだと きよい【=きおい、威勢よく】あそはし【遊ばし】ますれどもわた くしどものい■ねいこゝろからは おぼう様やおあねいさまにはいきな 事をごろふじたらおわるかろうと おもんじますこのしんはんのふてふほう【不調法】 又々しゆこふいたしかへ御気けん直しに【趣向いたしかへ御機嫌直しに】 御覧に入ますそのため口上すみからすみまてとは はけものに■■しやいさよふに【?】 通笑作 清長画