役原居 「あゝら くづれたりな.やけたり な〳〵.扨(さて)もこんどの大地(おゝぢ) 震(しん).くずれたうへに猿若町(さるわかまち).瓦(かはら)が 先(さき)へ真赤(まつか)にやけ出(いだ)し.もの 音羽屋. おそろしや.心(ころ)関三 璃寛(りかん)とすれど. あしがらみ 高麗蔵(こまぞう)や.孫(まご) 彦三を引きつれて. にげて行のも 奥(おく)山や.荷物(にもつ)をはこんで 紀伊国や.寒(さむ)い 勘彌(かんや)を 明石(あかし)やも.こういふこと は又と 嵐吉.なにはともあれ役者中(やくしやぢう).市蔵(いちざう) 怪我(けが)もなく有(あり) 我童(がどう)ござると.小団次(こだんぢ)あい.その 中(なか)でのこるとは めうがに叶(かな)ふ 福助(ふくすけ)や.竹三(たけさ) 市村よろこんで よき事を 菊次郎(きくぢろう).鶴蔵(つるぞう) 歌女之丞(かめのでう)と前(まへ)岩井して.酒(さけ)でも 粂三(くめさ)と いふおりから.又ゆりかへさんとゆする所(ところ). しばらくがわりに 権十郎(ごんじうろう).なまづのひげを かいつかみ.西(にし)の海(うみ)とはおもへども.ぢしんの ことなれば鹿嶋(かしま)がおきへさらり〳〵