【表紙】 【右上端ラベル】341 Hok’sai 9256 -gg- 【右下端ラベル】JAPONAIS 608     自序 古往(イニシエ)より物の象を写す事。天に日(ジツ)月(ゲツ)星(セイ)。 地に山(サン)林(リン)魚(ギヨ)鳥(テフ)あり。門(モン)と書 家(イエ)と読 田舎(イナカ)と 唱ふ。始形に起り後理に寄か。篆書(テンシヨ)すらかくのことし。 世に画工の名を呼(ヨバルヽ)に及んては。宮室精舎も 其 繽紛(イリクミ)たる処豈能画かさらむや。爰に雛形□ 表題して久く世に行る物あり。書肆是□ 続篇を画けと乞ふ。元本は匠工の著 ̄ス所伝るに 法を以 ̄テ教 ̄ユ。今も新 鄙形(ヒナカタ)は画の為に象を 尽(ツクサ)ん事を主とす虎に似たる猫鷹に等しき 鳶(トビ)とやせんされと能 ̄ク晴雨を知つて啼。鼠を形に 至ては虎も亦しかす。一 失(シツ)一 能(ノウ)各造化の命 すはる所。必 ̄ズ用 ̄ルる時あらは。崐(コン)山の片(ヘン)玉。桂林の 一枝と。誇(ホコラ)む事を思ふのみ。           画狂世人卍述【印】  天保七丙申の      孟春    董斎盛義書【印】 【左帖上側】 昔より委からさるを顕し画に志す人々の便となす 神社仏閣の写法 四柱の鳥居 八棟の楼門 船館 鐘楼門 鐘の画法 六重の党塔 三十六棟作【?】 廊下橋 無杭橋 橋の反 ̄リ幕の法 水車の自左【?】 《割書:葛飾|画本》新鄙形(しんひなかた) 畳の祖神 箭大臣 隋身の形 風吹の天 ̄マ狗 五大尊明王 忿怒の二王 花形 ̄ウ虹梁蟇股 龍の類 双 ̄ヒ鳳凰 喰合獅子 亀魚 風下ノ流 登 ̄リ浪下 ̄リ浪 干珠満珠 飛泉 諸薬看板向 ̄キ 【左帖下側】 禽獣虫魚の類 三方正面の意 諸細工の下絵 勇猛力士羅漢 仙人風流遊客 山水の人物等 宮殿楼閣堂塔迦檻は木匠之家々の 秘説にして容易に画工の知るへき事に あらすさるからに往古より委く画く事を せさる也たま〳〵需る人有に任せ不得已 時々に此法を定め画を学ん者の要に 依る已而猶高楼深殿等眼の及さるも 多く円方長短の誤り尺寸の違ひは 言ふへくもあらす挌好の善悪抔是や 昔よりいゝ伝ふ絵虚咅なれは其道の人々 咎め叱する事を赦して只々一笑あれかし  分登る麓の道はおゝけれと  おなし高根の月を見るかな 【①】斧の類は      神農氏より         発ると也 【②】鋸(のこぎり)鑿(のみ)は      周の代魯国の臣         孟荘子作ると云 【③】矩尺(さしかね)斗墨(すみつぼ)は     黄帝の時に        始りしとか 【① 】船楼館(ふなやかた)      剖劂の労甚しきを      厭ひて大略して只其      形而已を出す 【② 】畳の縁の分      固に      たゝみの      濫觴を      次キに出ス 【③ 】片妻は      裏より      写すへし 【右帖】 日本記神代巻曰一云以無目堅間為浮木以細縄繋著 火々出見尊而沈之所謂堅間是今之竹籠也于時海底 自有可恰小汀乃尋汀而進忽到海神豊玉彦之宮云云 此彦火々出見尊と奉号は地神四代の御神也此神 竜宮国《割書:今の琉球|国なり》に御出有時海神の娘豊玉媛 奉見父豊玉彦小告給豊玉彦則 八重畳を敷て 彦火々出見尊を奉迎是 日本にて畳の始なり 【左帖】 古事記に海驢の皮畳八重に其上に敷と有 尤【㔫左ヵ】尊奉敬の儀也今田舎にて貴人或は珍客 来迎の時は畳の上に表敷亦は花胡座等を敷 其上に居らしむ是八重畳の其縁也 神代の昔は山に住居貴人は鹿の皮 海辺に住居する貴人は海驢の皮 其外諸の神達は蘽を編或は 茅を編てしき物とし給となり 今用る畳は海の宮の八重畳より発 故に海神を祖神と奉崇祭者也   天保六辛未年仲秋 敬写  故人藤原興宣門人                   藤原秀国敬白 【① 】紙中狭く其上     剞劂の労を     おもふがゆゑに多く     形を略すとしるべし 【② 】欄干の右の鼻は     此節まで写して     裏返して次く也 【③ 】鐘の画キ方      寸法は     家根の      次にしるす  【① 】傍に鬼板の形を     出す抑ふきの形は     末にゑかく 【② 】前にもいふことく     紙中狭く猶さらに     剞劂の労甚し     からんを思ひて     大小略すとしるべし 【③ 】猶委しくせんと     おもふ人は山門の     箱むねへ登りて     見給ふへし遠見     大図のみ也 【④ 】此印よりの左を     うつしうらがへし     右の軒へ合せて      ぜんたいを       なすべし 【① 】かねは丸みあり     ゑはひら【かヵ=両論あり得る】みにて     寸法あまる也 【② 】かねは右の除法     入らずとしるべし 【③ 】口のわたり三寸ならばめぐりは九寸としるべし 【④ 】これゟ下を四ツに割り其四ツ一トぶんを又四ツにわりて立すじとすべしかねには九寸ヲ四ツに割り其一ト分ヲ四筋にワル 【⑤ 】四句の文によりてかこと〴〵く     四ツの数を用すとみへたり     すぼりもさし渡シ三寸を四ツに     割其一ツをすぼむなるべく     りうずも右のわりとみゆる也     かさ中カといへるならんかたゞし     かさ下タの割は追て     いだすべし 【⑥ 】丈ケ四寸二分」四ツにワル」一寸五リン也」上の一寸五リン」を二ツにワリ」五分二リン五毛」これをかさに」とり残リ」三寸一分五リンヲ」四ツにワリて」本形をくらべ」かんべんすべし 【⑦ 】 是生滅法     諸行無常     生滅々已     寂滅為楽 【⑧ 】四ツ割」の内ヲ」半分」笠に」とる也 【⑨ 】撞木の長サは鐘の惣高サに積ルをよしとするとか 【⑩ 】口のわたり三寸也四分ヲマシ惣丈ケ四寸二分トスル 【① 】鐘工にては此形ヲ      笠下タの割とか      云へきか笠の寸法ヲ      増たるゆへに      形チ長シ 【② 】笠に七の穴を穿ツ      螺髪なく隷書か一百八字有リ 【③ 】此図は墨賦【目偏】に      有ルを爰に出ス      板本にあらす奉書に      押シたる物にて書画共に      左表なるを其儘に写す 【④ 】鐘工伯陵が事を誌せしとか云      磨滅して読ム者なし 【① 】豊磐間戸ノ命      櫛磐間戸ノ命      衣冠相同シ故に一神ヲ略す      白衣也 【② 】祭神に寄ツて画くべし      矢太神と称するの始メか         常に在ル処の            隋臣の像      左右等しけれは      一体を画く 【③ 】二王と唱るものこれにあらず      次キの篇にいふ 【④ 】金剛垣の形は      末に出す也      左右共に      岩台に立ツべし 【① 】辺鄙      雪解の比      而已あり      踈ノ嬾サ橋      般に用る      偸懶帚と      名付ルの      たぐひより       かく呼ならんか 【① 】華形ウ      雌雄の      鳳凰      黒白には       あらず 【② 】自流の彩色      画具のたかい等      別巻に        出すべし 【③ 】辺鄙谷の渡      麻の糸に小石を      くゝり向岸へ      投越しそれに      麻縄を引カせ      次第に大綱を      引渡すと也その      丹誠思ひ斗ルべし 【④ 】晩春より初冬迄      往来す其余は      通路を禁す 【⑤ 】桧綱九寸        廻りなりとか 【① 】橋の反りヲ画くの心へは      向ふの岸よりこなたへ      図のごとく水縄を      引わたしその      なはのたるみを      つもりて      かつこうを      つくべきか 【② 】河の幅長短により      水縄の目方にて      たるみ不同あり      そのたるみ中ほど      にて何丈      何尺とつもりて      そのたるみたるを上へ      打かへしてはしの      そりとなすのこゝろにて      ゑがくべしされは      長キはそり高く短キは      そりなきにて           しるべし 【③ 】そりはしは丸を      中カよりわる事      もちろんなれども      これにも唐やうの      画き方あり      末篇橋の編に      くわしくいふべし 無杭橋 天明の比本所 堅【竪が正ヵ】川三ツ目に 掛たりしか委クは 其地の古老に たつねべし 【① 】 般橋末篇に出 略したる仕方 【② 】 水田深く 橇轎の 及さる所に 用ると也 【① 】 角亢氐房心尾箕斗 逆に返して後順なり軍器の法なるや 【② 】 牛女虚危室壁奎婁 下略 【③ 】 陽のまゝは縫目上より伏へく乳かづ二十八有 天此二十八宿に表スなるべし上に記す 陰のまゝは縫目下より上を包み乳のかづ 三十六 地の三十六禽に象るか末に記す 物見九つ有ルべし 上の二ケ所は大将の物見に 次□三ケ所は侍大将の物見下の四ケ所は 平士の物見なるべし 紐は三色なり 白は天浅黄は人なり黒は地は地とさつすべシ 【④ 】 軍器とは   別物也 廊下橋 【⑤ 】 蜻蛉頭は 古法九ツに割と也 臨兵闘 者皆陣 列在前 【① 】 惣領の幕をかくと心得て画くべしや 【② 】 二男のまくはかくあるべきなり《割書:物見九ツを九曜星に象るもあり但シ|日やうせい月ようせいを上に名付ル故にまへに同じ》 【③ 】 三男の幕これにてしかるべしや 【④ 】 四男より以下のまくの形右にてしかるべし 【① 】 和州西の京  西大寺にも     此形見へたり 【② 】 九輪の挌好亦品々ある也 追々画くへし 仏経に定寸有へからす 【① 】 六重の塔 其製作一ならす紙中狭く猶 剞劂の労をさつして漸く 十にして其三ツをあらはす 外に曼陀羅やうの外組み亦 多宝塔追々に画くへし 【② 】 目録にいふ八ツ棟の楼門 三十六棟の宝塔をもらす 巻中丁数限り有ル故に 上事【るヵ】を次の冊におくる 【文字なし】 【右帖】 客来ツて叱つて曰ク 足下の細画委きに 過たり故にゑにあらずと 譏る人多し改ルにしかじ 答て智者は其智に誇る 業等閑にして文雅を 礼としあるは流行を常 として智を以て世に鳴ル わざ鈍キは老て下タる事 速なり幸に天我をして 遇ならしむ剩文盲にして 古法に縄セられず去年 を悔ヒきのふをはぢひとり 塞翁が馬に鞭うつて 此道に走る事をほしひ まゝにす齢八旬にちかしと いへど眼気筆力壮年に かわらず百歳の命を 保チて独立のこゝろざしを じやうじゆせん事を思ふ 是客も命あらば老人が 言の違ざるを見給ふべし 客いかつて帰る不学者の 論一笑に備ふ而已 【左帖】 齢七十七《割書:前北斎為一改》画狂老人卍筆【印】  剞劂        江川留吉【印=五常亭】 《割書:諸識|画本》葛飾新鄙形(かつしかしんひながた)《割書:出来|発兌》《割書:界方木(ひじやうき)に馴(な)れさる初心(しよしん)の人〳〵の|為(ため)に其(その)大体(たいてい)を略(りやく)すのみ余(よ)は冊々(さつ〳〵)|を操返(くりかへ)して自得(じとく)し給ふべし》 同  中編《割書:初編目録(しよへんもくろく)に漏(もれ)たるを著(あらは)し猶(なほ)つくさざる後(のち)の巻(まき)に画(ゑが)く|画(ぐわ)を学(まな)ぶの外(ほか)諸細工(しよさいく)の一助(いちじよ)とならん事を要(えう)すされば|宮殿堂塔(きうでんだうたふ)の外 数々(しば〳〵)の形像(けいぞう)を写(うつ)すものなり》 同  下編《割書:前の二冊は初学(しよかく)の■安(いりやす)きのみを専(もつは)らにす三 編(へん)に至(いたつ)て|良(やゝ)往昔(わうせき)より写(うつ)しがたきむづかしき形(かた)入組(いりくみ)たるを著(あらは)す|桟(さん)船(セん)水車(すゐしや)器材(きざい)等 人物(じんぶつ)鳥獣虫魚(でうじうちうぎよ)に至(いた)る迄を図(づ)する也》 新鄙形続編(しんひながたぞくへん)《割書:見馴(みなれ)ざる上世(じやうせい)の製作(セいさく)偶(たま)〳〵存在(そんざい)するといへとも層(そう)〳〵たる|徑路(けいろ)或(あるひ)は険岨(けんそ)にして雅地(がち)にあらざれば風流(ふうりう)の遊客(ゆふかく)は|さら也 旅人(りよじん)も爰(こゝ)に入事 稀(まれ)なるべしと其(その)珍(めづら)しきを出(いだ)すのみ》 天保七申年正月         京都寺町通松原             勝村 治右エ門         大坂心斎橋安堂寺町             秋田屋太右エ門  三都書林   江戸日本橋通弐丁目             小林 新兵衛         同 四丁目             須原屋佐 助         同 壱丁目             須原屋茂兵衛 【文字なし】 【裏表紙 文字なし】 【背面 文字なし】 【上側面】 【側面】 【下側面】