春色里望月  中 〽アレサいしらすとこち   はやくおいれヨ    たれぞくると      しそこなふ         から          ヨ エヽモウ   むねが   どき   〳〵   して  みゝが   あつく    なつ     て 〽そんなに  せわしない  ことをいわず       と  マア   しづかに   たのしみ     なせへ   だれも     くる   こと    しマア     ねエ      わな 〽おや〳〵〳〵   けしからぬ   ひる     ひなか   きつい    おたの     しみだ   そして    マア   あのよがり     やうは   どう    した     のだ     らう   せけんに    人も     ねへ    やうに   いつそ    きが    わるくなつ    てきた       ヨ 〽いゝ   ぐさ    も  なん   にも  でねエ こんな しまり   の  いゝ    ぼゞ    を  した   ことが    ない   ハア    〳〵〳〵 〽アヽモウよくなつてきたヨ   エヽモウハアムう〳〵〳〵〳〵 アヽいゝヨ〳〵〳〵    こんなにほかのおんなをしても     うれしがらせるかねエ    にくひ人だヨそれ〳〵またいくヨ      くひついてやるヨアヽいきが        はずんでどうも〳〵〳〵            アヽいゝ〳〵〳〵 【右絵のみ】 【左文】 《割書:ドンカチリ|  チリヽン》 揚弓(やうきう)のおとにて幕(まく)あく、イヨ中(ちう) 二階(にかい)のたてもの、おつくりだね、ト行(ゆき)すぐ るを、〽(水ちやの娘おべん)す通(どを)りははつとだヨ、 粂(くめ)さん〳〵チツト およりな、トこえをかけられ、ズツトはいり、しやう ぎに腰(こし)をかけながし、 十月(しふぐわつ)のなかの十日(とをか)の みじかきにも、とんぢやくもなく、のらりく らりと日(ひ)をおくる、 江戸(えど)まへのうわきもの、 落葉(おちば)ふみわけおく山(やま)に、きつゝなれにし ちやみせのおべん、おつくりをしまひ、うぬぼ れ鏡(かゞみ)をかたづけて、 茶(ちや)を出(だ)しながら、 粂(くめ)が そばへ腰(こし)をかけ、〽(おべん)このごろはおとぶ〳〵しい ねへ、どこぞにおツこちでもできたのかへ、〽(粂)ばかア いひねへ、ト〽(はなうた)さき ̄ やさほどにもおもやせぬのに、 こち ̄ やのぼりつめ、」おらアおめへにおツこちだヨ、 〽そりやア大(おほき)ナ門(かど)ちがへサ、〽(粂)おべんさん、緋(ひ)がのこ にむらさきのはらをはせデ、ごうぎにあどけ                   中ノ一 ねへの、 大(おほ)かたこゝが、ト股(また)ぐらに手(て)を入(い)れて、 こらアとしまダらう、〽(おべん)ヲヤいやヨ、 口(くち)のわりい、ソリヤア そうと、モウ〳〵霜(しも)がれでいけねへ、 銀杏(いてふ)のは が黄(き)いろになるとこゝろぼそくなるヨ、こ のごろは、さツはりおきやくがねへから、〽(粂)そ うヨ、こゝばかりじやアねへ、よし原(はら)も芝居(しばや) も、さむくなツちやあアいけねへのヨ、しかし しばやニヤア、かほみせといふものがあツて、紋(もん) かんばんの、かざりもんのと、にぎやかだガ、よし 原(はら)じやア、俄(にはか)がすむと、ちや屋の二階(にかい)で、 わた入(い)れものをするやうになツち‾ やア、モウ いかねへ、 〽(おべん)ヲヽさむい、なんぞあツたかいも の(ン)でも くひてへもんダ、〽(粂)そんならなんぞおごろう、 取(と)ツ てきねへ、トいふところへ、となりの土弓場(どきうば)の むすめ、 紙(かみ)をもちながらちよこ〳〵とあゆみき たり〽チヨツト間男(まをとこ)のでんじゆは、これこの紙(かみ) に、きりをふき、 音(おと)のしねへようにもみま して、ハイさやうなら、お手水(てうづ)にト、にこりと笑(わら)ひ、 行(ゆ)くあとに、 〽(おべん)あの子(こ)をみねへナ、 内(うち)に子(こ)がある やうに‾ やアみえねへのウ、 〽(粂)そうヨ、 〽(おべん)この間(あひだ)お客(きやく) が、わたしにおめへに秘書(ひしよ)をやらう、コリヤア褥合(しとねがつ) 戦(せん)のせめ道具(だうぐ)だ、トいつてこんなものヲおくれ だが、なんだかサツはりわからねへ、トみせるをみ れば、危檣丸(ほばしらぐわん)の書(かき)つけなり、 〽(粂)ムヽ四(よ)ツ目(め)屋(や)か、 こゝにやアおめへのうれしがる、道具(だうぐ)がたくさん あるゼ、〽(ぐんしよの心いき)よろひ、かぶとに、りんの玉(たま)、しかもその 日(ひ)の大将(たいしやう)は、 人(ひと)もしツたる弓削(ゆげ)の道鏡(どうきやう)おほ べのこ、まらの威勢(いせい)のつよきこと、おそれぬもの のあらばこそ、 西(にし)は九州(きうしう)ひごずゐき、 東(ひがし)はまつ まへおツとせへ、 風(かぜ)もふかぬにぼゞの毛(け)の、な びかぬものこそなかりけれ、」〽(おべん)ナニヲいふのかとお もへば、なんだいやヨ、 〽(粂)ヨウちよツとはなしがあ                 中  三 るから、こゝへきねへ、 〽(おべん)なんだへ、 〽(粂)この中(ぢう)からいは ふとおもツたが、けふはひまでちやうどいゝ、けふ こそおれがいふことをきかせねへじやアならねへ、 〽(おべん)ナニ こゝでか、イヤ〳〵こんな所(とこ)で、この頃(ごろ)にいゝ間(ま)があツ たら、その時(とき)のことにしねへナ、 〽(粂)ナニヲいふンだ、とうか らこうしやうとおもツてナ、あたまの物(もん)は、小間(こま) 物(もの)やのへどほども、買(かつ)てやるし、お白粉(しろい)といやア、 百閒中屋(ひやくけんながや)のしらかべをぬるほど、しおくツてお いたア、なんのためだとおもふ、こうしやうばツかり だ、ばかアいはずとなリヤト、いひながら、手(て)ごめに 股(また)へわりこめば、いやだ〳〵といひながら、起(おき)んと するをおこしもたてずに、のツかり、いきりきツた る一物(いちもつ)を、さしあてがへば、 口(くち)にはいやといふものゝ、ハヤ ぬら〳〵と出(だ)すところへ、 入(い)れるやいなや、アヽモウ こてエられねへ、そらいくヨ、 又(また)いく〳〵ト取(とり)みだ したるありさまは、 前後(ぜんご)夢中(むちう)に大(おほ)よがり、 男(をとこ)                中 四 もふかくつき、あさく入(い)れ、 種々(しゆ〴〵)さま〴〵の手(て)をつ くせば、おべんはなき出(だ)しすゝりあげ、タヾすう すうといだきつき、 男(をとこ)もまだ〳〵気(き)をやりて、《割書:クシ‾ ヤ| 〳〵〳〵》 《割書:ピチ‾ ヤ| 〳〵〳〵》と、あたりもうきになるばかり、たがひに出(だ)し たりださせたり、これまでなりと、 二人(ふたり)は、やう〳〵 立(たち)あがり、折(をり)から響(ひヾ)く鐘(かね)のこゑ、〽ボヲン、〽(おべん)ヲヤモウ 九(こゝの)ツだ、日(ひ)がみじけへのヲ、おらガ所(とこ)のきまぐれ は、はやく弁当(べんとう)をよこせばいゝに、〽(粂)いぢのきた ねへ、おらもけふはいく所(とこ)があツたつけ、〽女(をんな)の とこかへ、 〽(粂)ばかアいひねへ、モウおそくなツた、ドリヤト いふとたんに又(また)          かねのこゑ           〽ボヲン 引                   中 五