【題読めず】 【ラベル】JAPONAIS 5345 1 RESERVE 1517 F. III ころは九月廿日あまりの事 なれはしくれはよもの山めくり もろきこのははみちをうつみ あらしこからしみちすからなさけを かくる人もなくしも夜のかねの とこさしてこかけさひしきあけ ほのにやもめからすのうかれこゑ きりたちこむるあさちかはら をくしらつゆのたまちりてなみた にあらそふそてのうへはらひかね たるたひころもしくれのそらそ はれまなきつくりみちをもうち すきてとはのみなみのもんより 【右頁】 ふねにのりあかひかはらをうちすきて よとのわたりを見給へはみきはの とりはかたよりてうはけのしもを うちはらひさい中将のいにしへあつ まへくたり給ひしにすみたか川のほとり にてみやことりいさこととはんとな かめけんふるさとしのふねをなき てといまさらなかめ給ひけるも おもひしられてあはれなりおとこ 山をふしおかみなむしやう八まん大 ほさつねかはくはあかてわかれし 中将殿わか君二たひみやこへわれ らをかへしてみせ給へとてふしおかみ 【左頁】 給ふ中にもいつそや中将殿のしやう けいにたち給ひし御おもかけいま さらの心ちしておつるなみたははく せんかうはんしはみなゆめのことし うき身のつらさはかきりなし中将の かの所へはしめてわたり給てちよ ふる心ちこそすれとの給ひしこと かす〳〵思ひいたしてたえこかれ又 わか君のこひしさはたとへんかたも さらになしいたきまいらせていてし そのおもかけいつの世にかはわするへき かみならぬ身のかなしさはそれをか きりとしらさりけるこそかなしけれ 【右頁】 かゝるへしとしらましかはよく〳〵 みるへかりける物をとてちたひくや しき御ことのみおほかりけりきのふ まてはみやこのたよりもきゝし うちのそら物おもはぬたひならは いかはかりおもしろくこそ侍らめみや こに心ありし人々にみせたてま つりてといひて御なみたのひま よりかくなん   ものうさをなけく      なみたのつゆけさに     またうちそふる        わかのうらなみ 【左頁】 いつしかふねのうちのさひしさつれ〳〵 かきりなしありしことのみかたりいた してすけもろともにたもとは なみたにしほれけりさてかいまん〳〵 となかめやるかきりあらんいのち のいまいくるかはゆきめくりてさの み物をおもはんとかなしけれはそこ のみくつともなりはてんと思ふに たゝわかれし人々のこひしさかきり なけれは又たちかへりかひなきい のちもおしかりけりしのふにたへぬ おもひのいろは御ともなるおのことも いみしくいたはしくあはれにおもひたて 【右頁】 まつるさもそうつくしかりける御あり さまかな中将殿いかになけかせ給ふ らんわれらまてかへりきこしめさん 事おそろしくおほしていろ〳〵 の御くた物ところにつきたる御さかな まいらせたれともつゆも御らんせ られすたゝむかしにかはる身のあり さまになさけもありかたくこそとて たゝつゆよりもろきなみたはか りにて見いれ給ふ事もなかり けり 【左頁絵】 【右頁】 さてみやこには大みやのひめ君 の御返事をひめ君たちとのへ もちておはしましてはゝうへにみせ たてまつりてなけき給へはけにいか はかりおほしけんこれほとみめかたちを はしめて心さまふるまひやさしき 人はありかたくこそいかに〳〵中将の なけきたまはんすらんとかねて おもふも心くるしくおほす中将は 此御事はゆめにもしりたまはすたゝ ぬれはゆめさむれはおもかけのみ たちそひてこひしくかなしくおほし めす御事かきりなしひめ君はたゝ 【左頁】 わか君の御事をのみの給ひておと なしきものならはいかに〳〵たつね 給はんすらんなとたゝおなしことを のみの給ひてなきふし給へりすけ もろともにうちはひつゝうらめしき 世のならひかなさりとも中将殿は それほとはおほしすてたてまつり 給はし物をとすけ申しけれはひめ君 いさとよおとこの心と川のせは 夜のまにかはるならひなりまして めつらしき花のたもとになれそめ てはかなき身にはつゆのなさけを もかくへきにあらすなと夜もすから 【右頁】 かたりあかしてあかつきかたになり ぬれは月も山のはにかたふきて あけぬとつくるとりのねもほの めきわたれはすけ此とりのねかね のこゑをきゝても人まちたてま つるおりとおもはゝせめてうれし かりなんと申せはひめ君の給ひ けるは中将のかのところへゆき そめ給ひしあかつき夜ふかくかへり おはしてとりのねかねのこゑいと 心くるしくまちかね給ひけんと の給ひし事もいと心くるしく いまのやうにおほゆるとの給へはすけ 【左頁】 とりあへす   なに事も見はてぬ      ゆめとおもふにも     いとゝつゆけき        そてのうへかな ひめきみ   さそなけにうきも      つらさもをしなへて     みはてぬゆめの        心ちこそすれ 夜あけぬれはふねさしよせて のせまいらせてゆくほとにふる さとはくもゐはるかにこきすきて 【右頁】 きんやかたのをうちすきてくすは のさとをすくるには人のうらみも よしなくてわたなへのはしにも つきぬゆくすゑはるかなるしま ありあのしまをはなにといふそと おほせられけれはおともの人あれ なんあはちしまと申又あれに みえたるゆきの山はみむろの山 と申侍るときこゆれはなにのみ きゝしをいまみる事のはかなさ よとひめ君はいよ〳〵おもひしつみ 給ふあしやのさともかすかにてひな のすまゐそあはれなりあまの 【左頁】 つりふねとにかくに物思はぬ人たに もたひのあはれはある物をおきつ しらなみたゝよひてこきゆくふねも うきしつみなにそ入えのみおつくし つくす心もよしなしやなみにむれ ゐるうきとりのゆきかたしらすたち まよひこゑ〳〵になきわたりあ はれのとりやなにといふとりそと とひ給へはふな人ちとりと申みやこ にてはいくとし月をふるともみる事 あらしともまとはせるむらちとりとは これなりとおほしてかきくらす心の うちいはんかたなし 【右頁絵】 【左頁】 さていつくともしらぬあしのやの みなみむきにすみたる所にいれ たてまつる物あはれにさすかに みやこ人のすみかにやしやうしに ゑなとかきすさみて心あるさま にそみえたるをくりおきまいらせ て御ともの人々はみなかへりにけり あるしのあま君あないとおしいかゝ してかゝるところにすみわたり給ふ へきといたはしくていたはりかしつき たてまつれとも日にしたかひみ やこのこひしさわか君のおほつかなき 御事のみ思ひ給ふ事かきりなし 【右頁】 なにはのあまはみたてまつりて あなうつくしかゝる人も世にはおはし けることよたかきもいやしきも おんあひのみちはおなし心なる也 あかぬ御中のわかれにてわたらせ 給ふらんよとてさま〳〵なくさめ たてまつりたゝいにしへのこひしさを いかにしてたへしのひ給ふへきあけ くれはふししつみ給て中将わか君 見なれにし人々こひしくて心に 御なみたひまもなし此御ありさま いかゝしてなくさめたてまつらんと 申けれともかひなき御ありさまなり 【左頁】 松風なみのをとしきりにして心 ほそさかきりなしちとりこゑ〳〵 うちなきてたちさわきけれは みやこのともゝこひしくていとゝかき くらしけれは   なに事もはかなき     ゆめとおもひなさは    さむるこゝろの       せめてあれかし 御つれ〳〵かきりなきまゝなかうたを かきをき給へる  うき世をは はかなきゆめと  みるものと おもひなせとも 【右頁】  いとゝなを さむるこゝろの  なきわひて うきことのみは  日にそへて なにあやにくに  まさるらん つきぬ思ひは  ふるさとに とゝめをきにし  みとりこの みしおもかけの  わすられて しつのをたまき  くりかへし むかしをいまに  なすよしも かなはぬ身には  かくはかり そてのしからみ  せきあへす なにはのうらに  なくちとり うき身をつくし  なみをわけ かはくまもなき 【左頁】  からころも さてやはてなん  しもかれの あしのうらはに  風さして  物あはれなる  ふゆのゆふくれ おもひいりえにうちなきつゝなかめ ゐ給へるさまなまめかしくうつ くしき御事かきりなしあま君 はいたはしく心くるしくそおもひ きこし給へる 【右頁絵】 【左頁】 さるほとに中将は此御事をは ゆめにもしりたまはすとかくひま をうかゝひて大みや殿へおはしたり けれは人もおはせすいかにと御むね うちさはきて大かた殿へやおはせ たるとおもひひめ君のすみ給ひし 所へ入て御らんすれはすみあらし たるさまにて御しやうしにうた ともあまたかきすさみたりこれを みるにあやしきさまなれはめも くれ心もきえてさなからゆめの 心ちしてうつゝともさらになかり けりわれとおはしけるにや又殿より 【右頁】 かくし給へるにやとふしきにて とのもりのいやしきしも女をめし いたしてたつねさせ給へはいつかたとも うけたまはらすにはかにあかつきかたに 御くるままいりていてさせ給ひ候つる 御なけき中々申もをろかにていても やらせおはしまさゝりしをしきりに 御ともの人々申ていたしたてまつり しかはたかひになく〳〵わかれまいら せて候と申もあへすそてをかほに をしあてゝなきけれは中将は物も おほしたまはすさてわか君はとおほせ られけれはよひのほとにあはのつ 【左頁】 ほねいたきまいらせていてさせ給ひ しと申けれはさてはおおかた殿より よそへやらせ給ひけるとおほすうら めしのうき世の中のありさまやよし いまはみやこのうちにあとをとゝめて みえたてまつらはこそとおほしてあは のつほねはしりたるらんとていそき おはして大みやのひめ君はいつくへそ ととひ給へはあはのつほね御いたは しくてかくと申さはやと思へとも 大将殿此事申たらんものはとかに をこはふへしとかへす〳〵おほせられ けれはおそろしくていさやしりたて 【右頁】 まつらすと申おさあひものはとたつ ね給へはそれはわらはか御むかひに まいりてこれへはいれまいらさせ給ひ て候と申けり中将はたのみたり つるあはのつほねさへしらぬと 申けれはたれにたつね給ふへき かたもなしあきれたるさま中〳〵 いふはかりなししはしありてわか 君これへとおほせけれはつれたて まつりてまいりぬ中将いたき給て あなむさんやさりともおとなしき ものならははゝのゆくゑはしりな ましありしをかきりにてありける 【左頁】 よとてしのひかねたるなみたの いろいふはかりなしあはのつほね もけにさこそおほすらんとともに なみたをなかしけり 【右頁絵】 【左頁】 とのゝひめ君御ふたり一ところにて此 御事ともの給ひけるところへ中将 おはしてさても大みやのひめ君は いつかたへとかきこしめして候と申させ 給へはもとより此ひめ君に申かよ はすとてわれ〳〵にはかくさせ給ひたる 御事なれはいさやしりまいらせす候 にはかに物へ御まいりときゝまいらせ たりしほとにとりあへす御ふみをまい らせたりし御返事あり御らんせよ とてとりいたし給へりとりて見給へは かきくらすなみたはつゝみあへ給はす もののすかたもみえ給はす御かほに 【右頁】 をしあてゝうつふし入ておはしけり 一かたのなけきをたにもかほとおほす に大みやのひめ君の御思ひさこそ とをしはかられてあはれさかきりなし 中将はつく〳〵と思ひつゝくるにわか 君の御わかれふるさとをたにいたさ れてさこそかなしくもうらみふかく おほすらんとおもひやらるゝにきえも うせぬへし中将はなみたのひまより おほせられけるはさりともくやしく おほされんすらめとて御そてを かほにあてゝたち給ぬ 【左頁絵】 【右頁】 又なく〳〵大みやへわたり給てひめ 君のおはせしところにうちふし給 てなにとなく御あたりをみ給へは まくらのしやうしのやふれにかみを さしはさみたりとりて見給へは御て ならひのほうくなりさま〳〵のこと かき給へる中にことにあはれなるは   あひみすは人に      うらみはよもあらし     なか〳〵いまは        くやしかりけり まことになつかしくうちむかひたる 心ちして御かほにをしあてゝなき 【左頁】 ふし給へりその夜は大みやにふし 給ひて夜あけぬれともおきも あかり給はすふししつみてそおはし ける御ともに候はりまのかみをめし おほせられけるは此人のゆくゑ をきかすは世になからへてあるへし ともおほえすいかゝしてせめてゆめ にもみるへきとの給へははりまのかみ こひしき人をゆめにも見たく候 にはその人ときたるきぬをかへし てぬれはかならすゆめにみるとうけ たまはり候と申しけれは中将うれしく おほしてみなみのたいへおはして 【右頁】 めしたる御とのい物をとりよせて うちかへしてひきかつきてふし 給へりされともまとろむ事なけ れはゆめもむすはすいとかなしくて  さ夜ころもかへして      ぬれとまとろます    ゆめにも君を       みぬそかなしき いかなるところにわれをもわかきみ をもこひしくみやこもしのはしく てあかしくらし給ふらんと思ふに 御むねせきあけてくるしかりけり いかにしてあり所をきかましとて 【左頁】  こひわふるこゝろは      はやきみなせ川    なかれあふへき       すゑをしらせよ とうちなかめてたゝ思ひやる人の 心のうちせんかたなし  とにかくに物そ      かなしきさよころも    そてのみぬれて       ゆめもむすはす むかしけんそうくはうていあんろくさんと いふものはくわいかのへにてやうきひを ころしてしよくのくにゝ世をいとひて 【右頁】 あけくれおほしなけきてはるの風 にとうりの花のひらく日を御らん してもうれへのなみたをこほし あきのつゆにことうのはのおつる をきこしめしてかなしみのおもひを ますふるきまくらふるきふすま たれをともとかせんとて御なけき ありけんもかくやと思ひしられたり かんのりふしんはんこんかうの けふりに身をこかし給ひしふていの 御思ひも身にしられて思ひむすほゝ れてなみたにむせひつゝおはしける ところに 【左頁絵】 【右頁】 大将殿より御つかひありていらせ 給へと申けれときくもいれたまはす 御つかひひまなくまいりけれとも おはせすしてその夜もなきあかし て夜もすからなけきつゝいまは人 にもしたかひまいらせはこそこれから ゆきかたしらすあしにまかせてと にもかくにもなりなんとふかくおほし けれともわか君をいま一め見はやと おほしめして殿へおはしましてわか 御かたにわたらせ給てあはの つほねにわか君くしてまいれと おほせけれはいたきたてまつりて 【左頁】 まいりたりいたきまいらせてつく〳〵 まもり給へはわか君いかゝおほしけん うちゑみ給へりにほやかなる御すかた うつくしくはゝ君の御おもかけ さなからおほしいて給ふあなむさん やなはゝにこそわかれめ又われに さへすてられてはたれかなんちを あはれみはくゝむへきとてはら〳〵と うちなき給ひてわか君いたき なからあねきみの御かたへまいり 給ひていまは此こをあはれむへき 人も侍らすはゝにもわかれ又みつ からもおもひたつ事侍れはみなしこ 【右頁】 になりはて候はんする事のみゆく さきのさはりともなり侍らんとかな しくおほし侍るなりふひんにおほ しめしてわかかたみとも御らんせよ とて御ひさのうへにうちをき給ぬ あさましやいかなる御事をおもひ たち給ふらんと心くるしくてそて をそひほり給ふ 【左頁絵】 【右頁】 さて中将はよろつ心うくて大かた 殿へもまいり給はすはゝうへはこれ をきゝ給ひてよしなきことかな かやうにもてなしかなしむも中将を おもふゆへにこそかなと心くるしく 物をおもはせうきめをみせたまふ 事のつみふかさよと殿に申させ 給へはいふかひなしとてきゝいれたま はすさりなから世に心くるしくそ おほしめしける中将はかくて物をもふ も心うしとてはりまのかみたゝ一人 めしくして御むまにてたちいてた まひぬこれをかきりの事はれはみや 【左頁】 このなこりちゝはゝ御をとゝいの御 なこりわか君一かたならぬかなしさ たとへんかたなしさりとてはとゝ まりて世にたちましるへき心ち もせねはいつくをさすともなくこま にまかせてたちいてゝうはのそら にまよひ給ふ御心のうちせんかたなし  なけきわひこまに     まかせてわけゆけは   ゆめちをたとる      心ちこそすれ かやうにうちなかめていかならんれい ふつれいしやにもまいりて身の 【右頁】 ゆくすゑをもいのり申さはやとおほし めしてまつ津のくになにはかたは ひろきところなれは心にくしとて いそき給ひけりつくりみちをも うちすきてやはたの御かたをふし おかみその夜はつのくになにはと いふところにとゝまり給ひぬもの おもはぬ人たにもたひねのとこは つゆけきにたつねわひたるこひの みちいかてまとろみたまふへきふし のけふりのなかそらにて夜もすから おもひあかし給ふほとにあたりち かき所に物すこきこゑにてなかめけるは 【左頁】  こひしさはおなし      心にあらすとも    こよひの月を      君見さらめや と心ほそけになかめけれはわれなら ぬ人もおもひはするやらんといとゝもよ ほすそてのうへとこもまくらも うくはかりなりその夜はあかし給て しはのとほそ【芝のとぼそ(枢)。「あけ」に続く序詞。】のあけかたにそこ ともしらぬたひころも又たちいて てあさきりのあとをたつねて 山と【大和】をしまつ心さすかたなれは てんわうし【天王寺】へまいり給ふ 【右頁絵】 【左頁】 かたしけなくもしやうとくたいしの 御こんりうふつほうさいしよのれい ちにてふつしやりをわうくうにのこし まつせのしゆしやうをみちひかん ためなりしかれはふつほうしゆこの こうりうはたいたうのしたをみやこ とさため日々におかみをいたすかめ いのみつと申はほたいしんをもて のみぬれはすなはちわれほとけ なり又あしき心もすなほになる 御ちかひなれはこんせこせたのも しくおほゆるしかるへくはたつぬる 人にいま一とあはせてたはせおはし 【右頁】 ませとふかくきせい申てさいもん にてはるかににしをみわたせはかす かにみゆるあはちしまかよふちとり のこゑ〳〵にともよひかはすこゑすみ てこきつらねたるあまをふねなみ にたゝよふありさまはわか身のうへ とあはれなりこゝすみよしの松 みえて人まつ風そ身にはしむ いく世へぬらんきしのひめ松と うちなかめ給てうそふき給ける そよしなき神ならぬ身のかなし さはなにはのうらにすみなからたか ひにしりたまはぬこそかなしけれ 【左頁】 物まうての人々おほくゆきかふも わかおもふ人ににたるやおはすると 人しれす心をつくし給ひけるひめ 君は風のたよりにもみやこのをと つれやあるとうはのそらにまち くらしたまふいかなるつみのむ くひにておなしさとにありなから 御心をくたき給ふらん ひめ君の御心のうち物によく〳〵 たとふれはむかしちやうあんし? かのむすめのあき人にすてられ てしんやうのえのほとりにて たゝひとりひはをたんし給ひけん かくやとおもひしられてあはれ なりさても中将はすみよしの みやうしんはあら人かみにてまし ますなれは身のゆくすゑをもい のり申さんとてすみよしへまいり 給ひてみやしろをふしお 【右頁】 かく申て七日さんろうし給ひける ころはしも月の廿日あまりの事 なれはあらしのをとたかく松風 はけしくこうようにはにちりし きてをらぬにしきとうたかはれ しも夜のつるのもろこゑはわかみ のうへとなきあかし物をおもはぬ 人なりともあはれなるへきにおりふし みやこのうちかみさひて心すむ事 かきりなしさりともみやうしんは すてたまはし物をとふかくたのみ をかけたてまつりてこほりをくた きてこりをかきひねもすに 【左頁】 三千三百三十三とのらいはい を申て五たいをちにつけて 一しんにまことをいたしておもふ 人あんをんにていま一とあひみ せ給へときせいしてさま〳〵の【下に赤印中にBnF MSS】 りうくはんをそたてられける 【文字無し 【裏表紙】