増補訓蒙図彙序  蓋聞 ̄ク陋-巷無‾術之徒 ̄ノ育_レ ̄スル子 ̄ヲ乳-哺含-飴 之餘 ̄リ動 ̄モスレバ輒 ̄チ喋々 ̄タル乎無‾稽之説以 ̄テ引_二‾伸 ̄シ怪-乱【亂】之 事_一 ̄ヲ不_レ ̄ト已 ̄マ惟 ̄レ襁‾褓 ̄ノ所_レ熟 ̄スル為_レ ̄リ性 ̄ト附_レ ̄クノ朱 ̄ニ之物為_レ ̄ルトキハ丹 ̄ト則 ̄チ 我 ̄レ恐_三 ̄ルト窃【竊】‾癖姦‾疾之子弟出_二 ̄コトヲ其 ̄ノ間_一 ̄ニ云 ̄フ昔 ̄シ者婦人 身(ハラム)_レ子 ̄ヲ自‾持有_レ ̄レトモ厳 ̄ナル猶且 ̄ツ堤_二-防 ̄ス視-聴 ̄ノ或(モシクバ)不_一レ ̄ンカト正 ̄シ及_二其 【角印 陰刻】《割書:自■【盈ヵ】|楽■【才ヵ】》 【丸印 朱  中央に冠を頂く鳥(鷲ヵ鷹ヵ)の図を囲むように円形の文字列】BIBLIOTHÉQUE IMPÉRIALE MAN. 【二重丸印 朱】 R.F./BIBLIOTHÉQUE NATIONALE :: MSS :: 【上欄書入れ】Fase.1        1     【柱】頭書増補訓蒙図彙序     甲     【柱】頭書増補訓蒙図彙序     甲 已 ̄ニ生_一 ̄ルヽニ雖_二不_レ知不_一レ ̄ト議択_レ ̄ンデ人 ̄ヲ使_レ ̄ム為_二 ̄サ之 ̄レガ則_一 ̄リヲ故 ̄ニ邪‾色 不_レ染焉淫‾声無_レ触 ̄ルヽ焉唯《割書:〴〵》善是 ̄レ倣 ̄フ所_レ謂 嬉-戯之設_二 ̄ル礼-容_一 ̄ヲ有_レ ̄ンカ本 ̄ヅノコト焉乎本立 ̄テ而道 生 ̄シ根固 ̄シテ而材成 ̄ル自_レ古記_レ之亦【今ヵ】夫 ̄レ道徳之広 皆本_二 ̄ヒテ于文-字_一 ̄ニ而問【向ヵ】_二 ̄フトキハ其津_一 ̄ヲ則 ̄チ学‾者以_レ識_レ ̄ルフ【ルヲヵ】字 ̄ヲ為 _レ本 ̄ト無_二異論_一而 ̄レドモ筆研之於_二 ̄ル孩-提_一 ̄ニ其 ̄ノ始 ̄メ若_レ ̄ク苦 ̄キガ 【二重丸印 朱】 R.F./BIBLIOTHÉQUE NATIONALE :: MSS :: 若_レ ̄シ辛 ̄キガ自_レ ̄リハ非_レ ̄ル有_二 ̄ルニ善‾誘 ̄ノ在_一 ̄ル殆 ̄ド不_レ可_レ得於_レ是有_二 ̄リ 若(カクノゴトキ)中‾村‾氏訓‾蒙図‾彙之術_一可_レ ̄シ謂 ̄ツ善‾誨 不_レ ̄ル倦者 ̄ノト頃 ̄ロ又其増‾補刻成 ̄ル其人使_三余 ̄ヲシテ讃_二 一-辞_一 ̄ヲ余一 ̄タビ披_レ ̄キ巻 ̄ヲ閲_レ ̄ス之 ̄ヲ数【類ヵ】 ̄ト与方‾名 ̄トハ不_レ容_レ ̄レ言 ̄ヲ 啓‾蒙之要‾訣記‾字之捷‾径上 ̄ミ自_二雲‾行雨‾ 施之略_一不 ̄モ至_二鳥‾飛魚‾躍之状_一 ̄ニ品‾物畢 ̄ク陳 ̄ネ 【上欄書入れ】2     【柱】頭書増補訓蒙図彙序     乙     【柱】頭書増補訓蒙図彙序     乙 図‾象可_レ愛 ̄ス設(モシ)令_レ ̄ムモ有_二 ̄ラ陋‾巷無‾術之徒_一当_下 ̄テ諸 ̄レヲ 無-稽之説引_二-伸 ̄スル怪-乱_一 ̄ヲ者_上 ̄ノニ為_二 ̄ストキハ顧-復【後ヵ】之資_一 ̄ト則 ̄チ 襁-褓 ̄ノ所_レ熟為_レ性附_レ ̄クノ朱 ̄ニ之物 ̄ハ為_レ丹乃古之道 ̄ノ之不 _レ遠 ̄カラ文 ̄ノ之習 ̄ノ之所_レ導 ̄ビク自‾然向_二 ̄ンモ立‾身之階‾梯_一 ̄ニ亦何 ̄ゾ 疑 ̄ン盛 ̄ナルカトキ哉時 ̄カ乎時也此 ̄レヲ為_レ序 ̄ト戊‾申 ̄ノ冬十一月望             越前 力丸光撰【印 陰刻】《割書:東|山》 《割書:力印|之光》 訓蒙図彙叙 夫 ̄レ学 ̄ハ須_レ ̄ク愛_レ ̄ム日 ̄ヲ也無用 ̄ノ之弁  不急 ̄ノ之察 ̄ハ君-子棄 ̄テ而不_レ治 ̄メ 然 ̄トモ力-行 ̄ノ之余 ̄マリ游-芸 ̄ノ之際 ̄タ 凡 ̄ソ典-籍 ̄ニ所_レ ̄ノ載 ̄スル之品-物欲_レ  ̄スルトキハ窮_二 ̄ント其 ̄ノ微意 ̄ノ之所_一レ ̄ヲ寓 ̄スル則必 【上欄書入れ】3     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    一     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    一 因_二 ̄テ其名_一 ̄ニ以審_二 ̄ニシ其象_一 ̄ヲ以察_二 ̄ニス 其_情_一 ̄ヲ矣夫-子以_三多 ̄ク識_二 ̄ヲ鳥 -獣草-木 ̄ノ之名_一 ̄ヲ為_二 ̄ルコト学_レ ̄ノ詩 ̄ヲ之 一-益_一 ̄ルト蓋為_レ ̄メナラン之 ̄カ也名-義情-状 ̄ハ 皆可_下以_二訓-釈_一 ̄ヲ認_上レ ̄ム之 ̄ヲ若_二 ̄キハ夫形- 象儀-文_一 ̄ノ則不_レ如_下 ̄カ験_二 ̄ムルカ于図 ̄ニ 之亮_上 ̄ナルニ於_レ是 ̄ニ乎後-世有_二 ̄リ百 -藥 ̄ノ之図_一有_二 ̄テ六経 ̄ノ之図_一而至 ̄ル _レ有_二 ̄テ三才 ̄ノ之図【訓点一】焉近 ̄コロ又得_下 ̄タリ一 巻 ̄ノ雑-字書画対-照 ̄シテ以便_二 ̄スル 于啓-蒙_一 ̄ニ者_上 ̄ヲ矣吾_家 ̄ニ有_二児 -女_一皆方 ̄ニ垂-髫焉内 ̄ニ無_二 ̄ク姆 ̄ノ可_一 ̄キ 【上欄書入れ】4     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    二     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    二 _レ従 ̄フ外無_二伝 ̄フノ可_一レ ̄キ就 ̄ク乃倣_二 ̄テ対-照 ̄ノ 之制_一 ̄ニ連_二-綴 ̄シ四-言 ̄ノ千-字_一 ̄ヲ副 ̄ルニ 以_二 ̄シ國字_一 ̄ヲ傍 ̄ルニ以_二 ̄シテ画象_一 ̄ヲ而授_レ之 ̄ヲ 矣児-女尽_日 ̄ス翫-覧 ̄シテ不_レ釈 ̄テ焉 自_ ̄ヨリ後/稍(  〳〵)覩_レ ̄テ物 ̄ヲ呼_レ ̄ヒ名 ̄ヲ聞_レ ̄テ名 ̄ヲ 弁_レ ̄シテ物 ̄ヲ以 ̄テ至_三 ̄ル略識_二 ̄ルニ字-様_一 ̄ヲ意(アヽ) 芸文 ̄ノ之学 ̄タモ猶及_二 ̄テ于実-践 ̄ノ 之暇_一 ̄ニ而多-識 ̄ノ之資 ̄ケハ又得_二于文 学 ̄ノ之余_一 ̄ニ况此閑雑 ̄ノ之事 ̄ヲヤ乎 但用_レ ̄ルコト之 ̄ヲ当_二 ̄ルトキハ其可_一 ̄ニ則亦 ̄タ不_レ為 _レ無_レ ̄ト所_レ補焉微-物 ̄ノ之難_レ ̄コト棄 ̄テ 也如_レ ̄キカ斯 ̄ノ夫此-隣 ̄ニ有_二 ̄リ書肆_一 一-閲 ̄シテ 【上欄書入れ】5     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    三     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    三 欲_レ ̄ス梓_レ ̄ニセント之 ̄ヲ初以_レ非_レ ̄ルヲ所_二 ̄ニ嘗 ̄テ期_一 ̄スル辞 _レ之 ̄ヲ然 ̄トモ以_二屡_請 ̄テ不_一レ ̄ルヲ已 ̄マ故 ̄ニ不_レ得_二 固 ̄ク拒_一レ ̄コトヲ之 ̄ヲ於_レ是 ̄ニ重-修有_レ ̄テ日而 成 ̄ル焉列_レ ̄ヌルコト図 ̄ヲ凡 ̄テ一千其_間有_二 ̄テ 複-名 ̄ノ者_一該_レ ̄ルコト字 ̄ヲ一-千一百有六- 十 ̄ニシテ而相_二_避 ̄ク同-文_一 ̄ヲ矣附 ̄スル者又四-百 余-図通-編分 ̄テ為_二 十-七類二十 巻_一 ̄ト簽 ̄シテ曰_二訓-蒙図-彙 ̄ト奈_何 ̄カセン其 所_レ ̄ノ纂 ̄ル名-物出_二 ̄ル於億-度_一 ̄ニ者雖【訓点二】 別_レ ̄テ之 ̄ヲ不_一レ ̄ト混 ̄セ而猶不_レ免_二 ̄レ間(マ)有_一レ ̄コトヲ強 ̄ルコト _レ所_レ不_レ ̄ル知 ̄ラ且印 ̄シテ而行_レ ̄トキハ之 ̄ヲ則遣_二 ̄ルノ惑 ̄ヲ 于人_一 ̄ニ之罪実 ̄ニ莫_二 ̄シ得 ̄テ辞(し)_一 ̄スルコト焉 【上欄書入れ】6     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    四     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    四 深 ̄ク恨謀_レ ̄コトノ始 ̄ヲ之不_レ ̄シテ謹 ̄マ而今剞- 劂 ̄ノ之事已 ̄ニ就_レ ̄トキハ緒 ̄ニ則無_二 ̄コトヲ以 ̄テ及_一 ̄フ矣 斯 ̄レ不_レ ̄ル得_レ已 ̄コトヲ耳何 ̄ソ敢 ̄テ逃【訓点二】 ̄ン識 ̄ル_者 ̄ノ之 譏_一 ̄ヲ唯恐 ̄クハ不_レ ̄ル識 ̄ラ者採_レ ̄テ之 ̄ヲ不_レ ̄ンコトヲ択 ̄ハ 也乃叙_二 ̄シ纂-輯 ̄ノ之所_一レ ̄ヲ由 ̄ル并 ̄ニ條_二 ̄シテ其 ̄ノ 凡-例_一 ̄ヲ以属_二 ̄クト于肆_一 ̄ニ云寛-文丙午 秋七月惕-斎識 ̄ス 【上欄書入れ】7     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    五     【柱】頭書増補訓蒙図彙旧序    五 三才千字文序(さんさいせんじもんのじよ) 先(それ)人(ひと)の智(ち)あるは自然(しぜん)也(なり)見聞(けんもん)する所(ところ)を心(こゝろ)に記(しる)して事物(じぶつ)の理(ことはり) を弁(わきま)ふるに賢愚(けんしぐ?)の別(べつ)ありといへど其/馴(なる)るに随(したが)ひて其(その)端(はし)を覚(さと) らざる者(もの)なし学問(がくもん)の優劣(ゆうれつ)他(た)なし只(たゞ)識(しき)と不識(ふsきき)とにあり近世(きんせい) 惕斎先生(てきさいせんせい)訓蒙図彙(きんもうづい)を著(あらはし)て童蒙(どうもう)に便(たより)す則(すなはち)人をして品物(ひんぶつ)の名象(めいしやう) を識(しら)しめんとする已而(のみ)吾家(わがいへ)の児女(じじよ)輩(はい)此書(このしよ)を玩(もてあそん)で先生(せんせい)の余沢(よたく)を蒙(かうむ)る 事(こと)少(すくな)からす故(ゆへ)に能書生(のうしよせ)某(それがし)に属(ぞく)し書中(しよちう)の四言千文(しごんせんもん)を筆(ひつ)せしめ剞劂(きけつ) に附(ふ)して世(よ)に伝(つた)へ童子(どうじ)をして是(これ)を玩(もてあそば)しめ傍(かたはら)書学(しよがく)に便(たより)せんとす就中(なかんづく) 本書(ほんしよ)に考(かんが)へて図画(づぐわ)訳文(やくもん)を見時(みるとき)は童稚(どうち)の識(しること)を博(ひろ)くするの一助(いちじよ)ならずや 天明元辛丑之夏謙斎序 増補訓蒙図彙凡例(ぞうほきんもうづいはんれい) 一/凡(およそ)此(この)_編(へん)事(じ)-物(ぶつ)之(の)名(めい)-称(しやう)雖(いへとも)_下/皆(みな)以(もつて)_二漢字(かんじを)_一題(だいすと)_上レ/之(これに)而(しかも)実(じつは)以(もつて)_二和(わ)-  名(みやうを)_一為( す)_レ主(しゆとす)【「しゆとす」の「す」は衍字ヵ】蓋(けだし)本(ほん)-邦(ほう)中(ちう)-華(くは)風(ふう)-土(ど)之(の)殊(ことなる)如(ごときだも)_二乾(けん)-象(しやう)坤(こん)-儀(ぎ)之(の)名(めい)-  状(じやう)飛(ひ)-潜(せん)動(どう)-植(しよく)之(の)形(けい)-色(しよく)【訓点一】猶(なほ)不(す)_二必(かならずしも)-同(おなじから)_一矣/況(いはんや)人(にん)-俗(ぞく)工(こう)-技(き)之  所(ところ)_レ習(ならふ)堂(だう)-宇(う)器(き)-服(ふく)之(の)所(ところ)_レ制(せいする)豈(あに)得(ゑんや)_二牽(けん)-強而(きやうして)合(あはすることを)_一レ之(これに)故(ゆへに)随(したがつて)_二国(こく)-  俗(ぞくの)称(しやう)-呼(こに)_一各(おの〳〵)取(とりて)_二漢(かん)-字(じ)之(の)事(じ)-義(ぎ)形(けい)-状(じやう)近(ちかく)_似(にたる)者(ものを)_一以(もつて)名(なづく)_レ之(これに)観(みる)_  者(もの)須(すべからく)【左ルビ「べし」】_二先(まづ)知(しる)_一レ之(これを)其(その)未(いまだ)【左ルビ「ざる」】_レ得(ゑ)_二 以(もつて)名(なづくること)_一レ之(これに)之(の)字(じ)者(をば)欲(ほつす)_下題(だいするに)以(もつて)_二和(わ)-名(みやうを)_一  続(つがんと)_上レ之(これに)然(しかれども)未(いまだ)【左ルビ「ず」】_レ暇(いとまあら)_レ及(およぶに)_レ此(これに) 一/凡(およそ)一(いち)-事而(じにして)数(すう)-名(めいなる)者(ものは)以(もつて)_二正(せい)-名(めいを)_一為(して)_レ標(へうと)而/注(ちうす)_二異(い)-名(みやうを)于/其(その)_下(したに)_一  或(あるひは)為(ため)_レ拘(かゝはるが)_二于/属(ぞく)-対(たいに)_一或(あるひは)為(ために)_レ避(さるが)_二于/重(ぢう)-字(じを)_一題(だいするに)以(もつてする)_二異(い)-名(みやうを)_一則(ときは)注(ちうするに)以(もつてして)_二 【左頁上欄書入れ】8     【柱】頭書増補訓蒙図彙凡例    一     【柱】頭書増補訓蒙図彙凡例    一  正(せい)-名(めいを)_一曰(いはく)某(それがし)_也/曰(いはく)某(それが)_之/一(いち)-名(みやう)曰(いはく)某(それ)謂(いふと)_二之(これを)某(それと)_一若(もし)一(いち)-類而(るいにして)  殊(しゆ)-品(ひん)一(いつ)-体而(たいにして)分(ふん)-支(しする)者(ものは)則/注中(ちう〳〵)隔(へだてゝ)_レ圏(けんを)而/附(つく)_レ之(これを)標(へう)-題(だいを)為(して)  《割書: |レ》綱(かうと)而/余(よを)皆(みな)為(するなり)_レ目(もくと)也/其(その)所(ところ)_レ図(づする)倶(ともに)主(しゆとす)_二正者(せいなるものを)_一若(もし)併(ならびに)画(ゑがく)_二附(ふする)者(ものを)_一  則(ときは)就(つひて)_二図(づ)-中(ちうに)_一識(しるし)_二-別(わかつ)之(これを)_一 一/諸(しよ)-品(ひんの)名(めい)-称(しやう)大(おほ)-抵(むね)漢字(かんじは)以(もつて)_二方(はう)-俗(ぞく)従(じう)-来(らい)熟(じゆく)-知(ち)慣(くはん)-用(よう)者(するものを)_一為(す)  《割書: |レ》標(へうと)異(い)-称(しやうは)以(もつて)_二近(ちかく)_レ俗(ぞくに)宜(よろしき)_レ今(いまに)者(ものを)_一属(つく)_レ之(これに)其(その)和(わ)-名(みやうも)亦(また)有(ある)_二俗(ぞく)-呼(こ)_一則(ときは)  必(かならず)採(とつて)_レ之(これを)不(ず)_レ避(さけ)_二鄙(ひ)-俚(り)猥(わい)-雑(ざつを)_一皆(みな)欲(ほつしてなり)_二幼(ち)【稺】童(どう)蒙士(もうしをして)易(やすからんことを)_一レ暁(さとり) 一/諸(しよ)-品(ひんの)形(けい)-状(じやう)並(ならびに)象(かたどる)_二茲(この)邦(くに)之(の)風(ふう)-俗(ぞく)土(と)-産(さんに)_一矣/凡(およそ)所(ところの)_二目(もく)-撃(げきする)_一者(ものは)   便(すなはち)【𠊳】筆(ひつして)_而/摹(もす)【うつすヵ】_レ之(これを)或(あるひは)拠(より)_二画家(ぐはか)之(の)所(ところに)_一レ写(うつす)或(あるひは)審(つまびらかに)問(とひ)_二識(しる)_者(ひとに)_一然(しかして)_後(のち)  侖(ろんじて)_レ工(こうに)描(べう)_二-成(せいす)之(これを)_一其(その)間(あひだ)有(ある)_二本(ほん)-土(との)所_レ無(なき)及(および)有(う)-無(む)未(いまだ)【左ルビ「ざること」】_一レ審(つまびらかなら)則(ときは)並(ならびに)  以(もつて)_二異(い)-邦(はうの)風(ふう)-物(ぶつを)_一補(おぎなふ)_レ之(これを)然(しかれども)豊(ほう)-偉(い)之(の)体(てい)非(あらず)_三小(せう)-図(づの)所(ところに)_二能(よく)_容(いるゝ)_一繊(せん)  宻(みつ)之(の)_文(ぶん)非(あらず)_三曲(きく)-鑿(さくの)所(ところに)_二能(よく)_鐫(ゑる)_一況(いはんや)只(たゞ)墨(ぼく)-印(いんして)而/無(なきをや)_レ施(ほとこすこと)_二暈(うん)-彩(さいを)_一乎  所(ところ)_レ得(うる)止(たゞ)依(い)-稀(ちたる)【依稀「いき」ヵ。絺「ち」。】疎(そ)-影(ゑいをや)乎 一/引(いん)-証(しよう)之(の)図(と)-書(しよ)漢字(かんじは)以(もつて)_二/三(さん)-才(さい)図(ず)-会(ゑ)農(のう)-政(せい)全(ぜん)-書(しよ)及(および)諸(しよ)-家(かの)  本(ほん)-草(ざう)之(の)図(づ)-説(せつを)_一/為(す)_レ主(しゆと)凡(およそ)訓(くん)-詁(こ)注(ちう)-疏(そ)稗(はい)-史(し)雑(ざつ)-編(へんの)-中(うち)有(ある)_二明(めい)  徴(てう)_一則(ときは)採(さい)-摭(しやして)【採摭「さいせき」ヵ「さいしゃく」ヵ】以(もつて)稗(ひ)-益(ゑきす)矣/国書(こくしよは)以(もつて)_二源氏(げんじが)和(わ)-名(みやう)-集(しうを)_一/為(し)_レ本(もとゝ)以(もつて)_二  林(りん)-氏(しが)多(た)-識(しよく)-編(へんを)_一継(つぐ)_レ之(これに)凡(およそ)類(るい)-編(へん)雑(ざつ)-抄(せう)如(ごとき)_二字(じ)-鏡(きよう)壒(あい)-囊(のう)下(か)-学(がく)  節(せつ)-用(やう)之(の)等(たぐひの)_一並(ならびに)参(まじへ)_レ之(これに)補(おぎなふ)_レ之(これを)若(もし)質(たゞし)_二諸(これを)華(くは)-人(じんの)帰(き)-化(くはする)者(ものに)_一問(とひ)_二諸(これを)  交(かう)-游(ゆうの)博(ひろき)_レ物(ものに)者(ひとに)_一咨(とひ)_二諸(これを)技(き)-術(じゆつ)親(しんする)_レ事(ことに)者(ものに)_一詢(とひ)【訓点二】諸(これを)樵(せう)-魚(ぎよ)処(しよする)_レ野(やに)者(ものに)_一  合(がつ)-巧而(こうして)独(どく)_二-断(だんする)之(これを)_一則(ときは)必(かならず)称(しようして)_二今(こん)-按(あんと)_一以(もつて)別(わかつ)_レ之(これを)其(その)未(いまだ)【左ルビ「さる」】_レ審(つまびらかにせ)者(ものは)称(しようして)_二 【左頁上欄書入れ】9     【柱】頭書増補訓蒙図彙凡例    二     【柱】頭書増補訓蒙図彙凡例    二  或(あるひは)_曰(いはくと)_一以(もつて)備(そなふ)_二参(さん)-閲(ゑつに)_一矣/敢(あへて)正(たゞすとなれや)_二其(その)-名(なを)_一也哉/即(すなはち)以(もつて)_レ疑(うたがひを)伝(つたふる)_レ之(これを)耳(のみ)  弁(べん)_二-明(めい)揀(れん)_三-繹(ゑきすることは)之(これを)_一在(あり)_レ/人(ひとに)也 一/今(いま)以(もつて)_二目(もく)-次(し)之(の)数(すうを)_一別(べつに)為(なし)_二大(たい)-字(じの)冊(さく)-子(しと)_一呼(よんで)曰(いふ)_二/三(さん)-才(さい)千(せん)-字(じ)-文(もんと)_一  無(なし)_レ他(た)便(たよりすとなり)于/戯筆(きひつに)_一也 一/原(げん)-本(ほんの)図(づ)-彙(いに)所_二遺漏(いろうする)_一随(したがつて)_レ得(うるに)補(おぎなふ)之(これを)然(しかれども)事(じ)-物(ぶつ)之(の)無(なき)_レ限(かぎり)可(べき)_レ玩(もてあそふ)  者(もの)亦(また)多(た)-端(たん)近(ちかごろ)尋(たづね)_レ彼(かれに)問(とひ)_レ此(これに)撰(ゑらび)_下益(ゑきある)_二于/愛(あい)-玩(ぐはんに)_一者(もの)数(す)-百(ひやくを)_一【訓点「上」ヵ】為(なす)_二続(ぞく)-  編(へんと)_一其(それ)行(ゆく〳〵)将(まさに)【左ルビ「すと」】_レ嗣(つがんと)_レ刻(こくを)云(いふ) 頭書増補訓蒙図彙目録(かしらがきぞうほきんもうづゐもくろく)   巻(くはん)之(の)一  天文之部(てんぶんのぶ) 両儀(りやうぎ)     七政(しちせい)     太極(たいきよく)     陰陽(いんやう)    倭国(わこく) 国常立尊(くにとこたちのみこと) 秋津洲(あきつす)     日本国(にほんごく)    大唐 (たいとう)   盤古氏(はんこし) 北辰(ほくしん)     列宿(れつしゆく)     日(じつ)《割書:ひ》     月(げつ)《割書:つき》     星(せい)《割書:ほし》 斗(と)《割書:北斗(ほくと)》    晦(くはい)《割書:つごもり》    朔(さく)《割書:ついたち》   弦(けん)《割書:ゆみはり》     望(ばう)《割書:もちづき》 参(しん)《割書:からすきぼし》  昴(ばう)《割書:すばるぼし》   彗(せい)《割書:はゝきぼし》   孛(はい)《割書:ぼつせい》     日蝕(につしよく)《割書:むしくひ》 月蝕(ぐわつしよく)《割書:むしばむ》 天漢(てんかん)《割書:あまの| がは》   牽牛(けんぎう)《割書:ひこぼし》  織女(しよくじよ)《割書:たなばた|  つめ》 長庚(ちやうかう)《割書:ゆふづく》 太白(たいはく)《割書:あかぼし》  虚空(こくう)《割書:そら》    雲(うん)《割書:くも》     煙(ゑん)《割書:けふり》     風(ふう)《割書:かぜ》 露(ろ)《割書:つゆ》     霧(む)《割書:きり》     雨(う)《割書:あめ》     氷(へう)《割書:こほり》     雪(せつ)《割書:ゆき》 【上欄書入れ】10     【柱】頭書増補訓蒙図彙目録        一 頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻(くはん)之(の)一   天文(てんぶん)《割書:此部(このぶ)には日月(じつげつ)星辰(せいしん)雨露(うろ)霜雪(さうせつ)のたぐひあり|日月(じつげつ)星辰(せいしん)は天(てん)の文章(ふんしやう)なれば也/易(ゑきに)曰/仰(あふひで)見(みる)_二於/天文(てんぶんを)_一》 【上段】   両儀(りやうぎ) 天地開辟(てんちかいひやく)のときかるくして 清(すめ)るはのぼりて天(てん)となりおもく してにごるはくだりて地(ち)となる 天(てん)を陽(やう)とし地(ち)を陰(ゐん)とす陰(ゐん) 陽(やう)を両儀(ちやうぎ)といふなり ○七政(しちせい)とは日月(じつげつ)と五/星(せい)と合(あは)せ ていふ又は七/曜(よう)ともいふなり 日月五/星天(せいてん)の政(まつりこと)をなすなり 木星(もくせい)を歳星(さいせい)といひ火星(くはせい)を熒(けい) 惑(こく)といひ土星(どせい)を鎮星(ちんせい)と云/金(きん) 星(せい)を太白(たいはく)といひ水星(すいせい)を辰星(しんせい) 【上欄書入れ】Fase.2        2   30     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         一    【柱】頭書増補訓蒙図彙一         一 【右頁上段】 といふ木(もく)火(くは)土(ど)金(ごん)水(すい)の五/行(きやう)の 星(ほし)をめぐりて陰陽(いんやう)をなし歳(とし) をわす此(この)五/星(せい)を五/緯(い)ともいふ ○太極(たいきよく)は天地(てんち)いまたわかれず 陰陽(いんやう)わかれざるとき渾沌(まろがれ)たる 事/鶏子(とりのこ)のごとし溟滓(くゞもり)て牙(きざし) をふくめりこれを鴻毛(こうもう)の未判(びはん) といふ其(その)清(すみ)陽(あきらか)なるものは薄(たな) 靡(びき)て天(あめ)となり重(おもく)濁(にごる)ものは淹(とゞ) 滞(こほり)て地(つち)となるこゝにおゐて天(てん) 地(ち)開闢(かいひやく)して其間(そのあいだ)に万物(ばんぶつ)生(しやう)ず 開闢(かいひやく)以前(いぜん)を太極(たいきよく)といひ天地(てんち) 陰陽(いんやう)わかれたるを両儀(りやうぎ)といふ ○国常立尊(くにとこだちのみこと)は天地(てんち)既(すで)にわかれ て其中(そのなか)に物(もの)ありかたち葦牙(あしがい) 【左頁上段】 のごとし則(すなはち)化(くは)して神(かみ)となる これを国常立尊(くにとこたちのみこと)といふ人の 始(はじめ)なり日本(につほん)を芦原国(あしはらごく)といふも 此(この)義(ぎ)なり是(これ)より天神(てんじん)七/代(だい)地(ぢ) 神(じん)五/代(だい)あひつゝきて人の代(よ)と なれり唐(もろこし)にては天地(てんち)開闢(かいひやく)し て盤古氏(ばんこし)はじめて出(いづ)是(これ)人の 始(はじめ)なりこれより三/皇(くはう)五/帝(てい)三/王(わう) とつゞきて人の代(よ)となる ○倭(やまと)は日本(につほん)を倭(やまと)と号(なづく)る事/天(てん) 地(ち)開闢(かいひやく)の後(のち)は地(ち)は皆(みな)山(やま)にして平(たいら) なし人の代(よ)となりて山(やま)をひら き平地(へいち)となして住(すめ)りよつて 日本(につほん)を山跡(やまあと)といふ義(ぎ)をもつて 倭国(やまとごく)とはいふなり 【上欄書入れ】31     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         二     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         二 【右頁上段】 ○秋津洲(あきつす)といふは 人皇(にんわう)のはじまりを 神武(しんむ)皇帝(くはうてい)と申 奉(たてまつ)る即位(そくゐ)三十一年 四月/帝(みかど)諸国(しよこく)に幸(みゆき) ましまし日本(につほん)の地(ち) 形(きやう)蜻蛉(あきつむし)に似(に)たるを もつて秋津洲(あきつす)と 名(な)づけたまふ ○それ日本国(につほんごく)は唐(もろこし) 中華(ちうくは)の地(ち)より東(ひがし)に あたるゆへに日東(につとう)と も扶桑国(ふさうごく)ともいふ 又/須弥山(しゆみせん)の南(みなみ)にあ たるゆへに南瞻部(なんせんぶ) 【左頁上段】 州(しう)ともいふ用明天皇(ようめいてんわう) のとき五/畿(き)七/道(とう)を さだめ給ふ文武天皇(もんむてんわう) の御代(みよ)に六十六ヶ国(こく) にわかちて諸国(しよこく)に守(しゆ) 護(ご)をすへ東武(とうぶ)に将(しやう) 軍(ぐん)ありて諸国(しよこく)を守(しゆ) 護(ご)せしめ西京(せいきやう)中国(ちうごく) に天子(てんし)の都(みやこ)をかまへた まひぬ田地(てんぢ)の数(かず)凡(すべて) 九十四万七千八百一町 米高(こめだか)弐千弐百八 万五千四百八十弐 石なりとそ 【上欄書入れ】32     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         三     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         三 【右頁上段】 ○日(ひ)は陽(やう)の精(せい)なり空虚(くうきよ)にして かたどりがたしよつて烏(からす)をもつて日 の形(かたち)とす陽鳥(やうてう)なればなり三/足(そく)と するは陽数(やうすう)のこゝろなり ○月(つき)は陰(いん)の精(せい)なり空虚(くうきよ)にして かたどりがたしよつて兎(うさぎ)をもつて月 の形(かたち)とす兎(うさぎ)は陰(いん)の獣(けだもの)なればなり 白兎(はくと)陰(いん)の色(いろ)なり ○北辰(ほくしん)は北極(ほくきよく)ともいふ天(てん)の枢(くるゝ)なり 一周(いつしう)天のめぐる事/此(この)北辰(ほくしん)を枢(くろゝ)か なめとしてめぐるなり北(きた)に位(くらい)して 諸(もろ〳〵)の星(ほし)これにむかふ也/北辰(ほくしん)の座に 七/星(せい)あり四/星(せい)あり ○列宿(れつしゆく)此星(このほし)天(てん)の東西南北(とうざいなんぼく)に位(くらい) して四/方(ほう)各(おの〳〵)七/星(せい)づゝなり合(あはせ)て二十 八/宿(しゆく)なり是(これ)を三十日にくばりて 毎日(まいにち)をつかさどるなり 【左頁上段】 ○晦(くわい)毎月(まいけつ)大なれば三十日小な れば二十九日を晦(くわい)といふ月/地下(ちか)に かくれて光(ひかり)なしよつて晦(くわい)の字(じ) をくらしとよむなり昏晦(こんくわい)暗晦(あんくわい) のこゝろなり ○昨(さく)は蘇(そ)なりよみがへるとよむ月 は十五日より晦日(つごもり)までにかけつきて 又/朔日(ついたち)よりよみがへりてはじめて 明(めい)を生(しやう)ずるといふ義(ぎ)にて朔(さく)といふ ○弦(けん)は上十五日を上弦(しやうげん)といひ下十 五日を下弦(げげん)といふ上/弦(げん)は西(にし)の方 下弦(げげん)は東(ひがし)の方(はう)なり上/弦(げん)は七日 八日九日下/弦(げん)は廿二日廿三日廿四日 にあり月の光(ひかり)よこにあり ○望(ばう)は十五日の事なり十五日は 日月/東西(とうさい)にあひ望(のぞ)むゆへに望(ばう) といふ又もち月ともいふなり日 【上欄書入れ】33     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         四     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         四 【右頁上段】 月/相対(あひたい)して月の光(ひかり)地(ち)の方(はう)に有 て天(てん)になし故(ゆへ)に満月(まんげつ)なり ○日蝕(につしよく)は日月/天(てん)に有て日(ひ)は上(かみ) なり月は下(しも)なり朔日(ついたち)は日月の 会(くわい)なり日月/上下(しやうか)にありて道(みち)を 同(おなしく)して会(くわい)すれば地(ち)より見(み)るとき は日は月のためにおほはる是(これ)を日蝕(につしよく) といふなり ○月蝕(くはつしよく)は月はもと光(ひかり)なし日の 光(ひかり)を受(うけ)て明(あきらか)なるものなり日月 道(みち)を同(おなじう)して相(あひ)むかふ地(ち)は月にあた るゆへに日の光(ひかり)地(ち)に遮(さへきつて)月蝕(ぐはつしよく)す ○星(ほし)は陽精(やうせい)なり陽精(やうせい)日(ひ)となる 日わかれて星(ほし)となる故(ゆへ)に日(ひ)生(しやうず) とかきて星(ほし)とよむ ○斗(と)は北斗(ほくと)なり七/星(せい)有一二三四 を魁(くわい)とし五六七を杓(ひやう)とす揺光(ようくはう)は 【左頁上段】 破軍星(はぐんせい)なり輔星(ほせい)はそへぼし也 ○参星(しんせい)は西方(さいはう)七/宿(しゆく)の一なり俗(ぞく) に是(これ)をからすきぼしといふ也 星(ほし)の列座(れつざ)からすきに似(に)たり ○昴星(ばうせい)は西方(さいはう)の一/宿(しゆく)なり旄(はう) 頭星(とうせい)ともいふ俗(ぞく)にすばる星(ぼし)と いふ是(これ)なり星(ほし)の列座(れつざ)間(あひ)せまく してすばりたり ○牽牛(けんぎう)は星(ほし)の名(な)おたなばたなり ひこぼしともいふ又/河鼓星(かこせい)とも いふ七月七日/織女(しよくぢよ)牽牛(けんぎう)に嫁(か)す と桂陽(けいやう)の武丁(ぶてい)といふ仙人(せんにん)がいひし より七夕(たなはた)といふ事/始(はじま)れり ○織女(しよくぢよ)は星(ほし)の名(な)めたなばたなり 七月七夕/瓜菓(くは〳〵)を庭上(ていしやう)にそなへ五 色(しき)の糸(いと)を竿(さほ)に掛(かけ)て願(ねか)ふことをいのる に三/年(ねん)の内(うち)に必(かならず)かなふと也/是(これ)を乞(きつ) 【上欄書入れ】34     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         五      【柱】頭書増補訓蒙図彙一         五 【右頁上段】 巧奠(こうでん)とも七夕祭(たなはたまつり)ともいふ ○天漢(あまのかは)は天河(てんか)とも銀河(きんか)ともいふ七夕 に烏鵲(うじやく)翼(つはさ)をのべて橋(はし)とし此(この)河(かは)を渡(わた)し 牽牛(けんぎう)織女(しよくぢよ)の二/星(せい)あひ合(あふ)といへり ○孛星(ほつせい)は妖星(ようせい)なり此(この)星(ほし)出(いづ)るとき は旧(ふるき)をのぞきて新(あたらしき)に改(あらため)又は火災(くはさい)に たゝるの瑞(ずい)有/俗(ぞく)に是(これ)を御光星(ごくはうぼし)と云 ○彗星(はゝきぼし)は妖星(ようせい)なり色(いろ)青(あをき)は王候(わうこう)【「候」は「侯」ヵ】死(しす) 赤(あかき)は強国(きやうこく)おこる白(しろき)は兵乱(へうらん)おこる天(てん)下 に災(わざはひ)あるときあらはるゝ星(ほし)なり ○太白星(たいはくせい)は金星(きんせい)なりあかぼしとな づく俗(ぞく)にあかつきの明星(みやうじやう)といふ日にさ きだちて出(いづ)るなり啓明(けいめい)ともいふ ○虚空(こくう)はそらともおほぞらとも よむ太虚(たいきよ)太空(たいくう)ともいふ天(てん)なり天は 円(まとか)にして空々(くう〳〵)として物(もの)なくかたち なしよつて虚空(こくう)となつく 【右頁下段】 太白(たいはく) 《割書:あか| ぼし》 日出 虚空(こくう)《割書: |そら》 霧(む)《割書:きり》 煙(ゑん) 《割書:け|ふ| り》 【左頁上段】 ○霧(きり)は陰陽(いんやう)のみだれより生ず 地気(ちき)のぼつて天気(てんき)応(あふ)ぜざるを 霧(む)といふ天気(てんき)くだつて天気(てんき)応(あふ)せ さるを雺(ぼう)といふ風(かぜ)吹(ふい)て土をふら すを霾(つちふる)といふ ○煙(けふり)は火(ひ)の昇(のほ)る気(き)なり烟(けふり)同し 又/水(みづ)より煙(けふり)いづる ○長庚(ゆふづく)は金星(きんせい)なり日(ひ)におくれ て入/是(これ)を長庚星(ちやうかうせい)といふ俗(ぞく)に是(これ) をよひの明星(みやうじやう)といふ ○風(かぜ)は大塊(だいくわい)の噫気(あいき)なり陽(よう)の体(たい) にして散(さん)じて陰(いん)の用(よう)となる故(ゆへ)に 風(かぜ)吹(ふく)ときは土(つち)必(かならず)かはく又/旋風(せんふう)飊(へう) 風(ふう)はつじかぜ ○露(つゆ)は夜気(やき)露(つゆ)となる陰(いん)の液(ゑき)也 白虎通(びやくこつう)に露(つゆ)は霜(しも)の始(はじめ)なりと いへり露(つゆ)をばをくといふ降(ふる)といわず 【左頁下段】 長庚(ちやうかう) 《割書:ゆふづく》 入日 風(ふう)《割書: | |かぜ|のわき》 露(ろ)《割書:つゆ》 【上欄書入れ】35     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         六      【柱】頭書増補訓蒙図彙一         六 【右頁上段】 ○雲(くも)は山川(さんせん)の気(き)なり地気(ちき)のぼ りて雲(くも)となり天気(てんき)くだりて雨(あめ)と なるなり雲(くも)は陰(いん)の体(たい)なり昇(のぼり)て 陽(やう)の用(よう)となるみな雨湿(うしつ)の気(き)なり ○雨(あめ)は水(みづ)蒸(むし)て雲(くも)となりくだつて 雨となるむらさめを暴雨(ばうう)といひ ながあめを霖雨(りんう)といひ夕(ゆふ)だちを 驟雨(すうう)といひ時雨(しくれ)を澍(えう)といふ ○雷(らい)は陰陽(いんよう)あひ激(げき)する声なり 王充(わうしう)論衡(ろんかう)といふ書(しよ)に雷(らい)の形は一人 の力士(りきし)ありて累々(るい〳〵)たる連皷(れんこ)を左(ひだり)に 持(もち)右(みぎ)の手(て)に鞭(むち)をもつてうちて声(こへ) をなすといへり ○電(いなびかり)は二月に有(あり)この月/陽気(ようき)漸(やうやく) さかんにして陰気(いんき)をうつその激(げき)す るひかりを電(でん)といふ俗(ぞく)にいなびかり いな妻といふ雷神(らいじん)を電母(でんぼ)といふ 【右頁下段】 雲(うん)《割書:くも》 雨(う)《割書:あめ》 雷(らい)《割書:いか| づち》 《割書:なる| かみ》 《割書:かみ| なり》 電(でん)《割書:いなつま|いなびかり》 【左頁上段】 ○暈(うん)は日月のかたはらの気(き) なりかさといふ日/暈(かさ)あるとき はひでりし月/暈(かさ)あるときは 三日のうちに雨(あめ)ふるといへり ○雪(ゆき)は雨(あめ)こりて雪となる天地(てんち) の積陰(せきいん)あたゝかなるときは雨と なりさむきときは雪(ゆき)となる 花をなすを雪(ゆき)といひ円(まとか)なる を雹(あられ)といふ又/銀花(ぎんくは)とも六出(りくすい) 花(くは)とも銀屑(ぎんせつ)ともいふ ○氷(こほり)は陰気(いんき)のあつまるところ もれざるときはむすぼふれて ■(こほり)【「冫+氷」冰ヵ】となる氷(へう)と書(かく)はあやまり也 ■(へう)【「冫+氷」冰ヵ】と書(かく)べし■(こほり)【「冫+氷」冰ヵ】つもれると凌(へう)【訓蒙図彙は「れう」】と いふ■(こほり)【「冫+氷」冰ヵ】さかんなるを凍(とう)といふ■(こほり)【「冫+氷」冰ヵ】 ながるゝを凘(し)といふ■(こほり)【「冫+氷」冰ヵ】とくるを泮(はん) といふ氷室(へうしつ)はひむろなり 【左頁下段】 暈(うん)《割書: |かさ》 雪(せつ)《割書: |ゆき》 氷(へう) 《割書:こほり》 【上欄書入れ】36     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         七     【柱】頭書増補訓蒙図彙一         七  【右頁上段】 ○虹(にじ)は日雨(ひあめ)と交(まじはり)て質(かたち)となす也 日のひかり雨にうつるによつて虹(にじ) あらはる朝(あした)には西(にし)にあり暮(くれ)には 東(ひがし)にあり色(いろ)鮮(あさやか)なるを雄(おにじ)とし 闇(くらき)を雌(めにじ)とす俗(ぞく)に蛇(じや)のいきといふ 螮(てい)蝀(とう)霓(けい)同ともににじなり ○雹(あられ)は雪(ゆき)こほりて円(まとか)なるを 雹(あられ)といふ寒気(かんき)つよきときは雪(ゆき)と なりて軽(かろ)し寒気(かんき)うすきときは 雪(ゆき)おもくしてとけやすし又/雹(あられ)となる 瑗瑶(ゑんよう)玉粒(ぎよくりう)砕玉(さいぎよく)銀米(ぎんべい)明珠(めいしゆ) 同し雪(ゆき)雨(あめ)にまじはりふるを霰(みぞれ) といふ ○雪水(ゆきみつ)寒(かん)にむすぼふれて軒(のき) のしたゞりこほりて氷柱(つらゝ)となる 氷筋(へうきん)氷条(へうでう)とも書(かく)べし又/氷筍(へうじゆん) ともいふなり 【右頁下段】 虹(こう)《割書: |にし》 雹(はく)《割書:あられ》 氷柱(へうちう) 《割書: つらゝ》 【左頁】 頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻(くはん)之(の)二    地理(ちり)《割書:此部(このぶ)には山川田園(さんせんでんゑん)林丘村市(りんきうそんし)のたぐひあり|地(ち)の条理(ぢうり)なり易云(ゑきにいはく)俯察(ふしてさつす)_二於/地理(ちりを)_一》 【左頁上段】 ○山は高大(かうたい)にして石(し)あるを いふ広雅云(くはうかにいはく)山(さん)は産(さん)なりよく 万物(ばんぶつ)を産(さん)するなり説文(せつもん)に山(せん) は宣(せん)なり ○峰(みね)は山の端(はし)なり山大にし て高(たかき)を峰(はう)といふ山小にして たかきを岑(しん)といふともにみね なり唐(もろこし)にては香爐峰(かうろはう)日(に) 本(ほん)にては冨士峰(ふじはう)なと也/嶺(みね)同 ○巓(いたゞき)は高山(かうざん)のいたゝきなり絶(ぜつ) 頂(てう)なり詩経(しきやう)に采(とり)_レ苓(れいを)采(をとる)_レ苓(れいを) 首陽(しゆやう)之(の)巓(いたゞき)といへり山巓(さんてん)とも又 【左頁下段】 山(さん) 《割書:やま》 巓(てん) 《割書:いたゞ|   き》 峰(ほう) 《割書: みね》 坂(はん)《割書:さか》 【上欄書入れ】37     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         八      【柱】頭書増補訓蒙図彙二         八  【右頁上段】 高巓(かうてん)ともいふ ○坂(さか)は坡坂(ははん)なり山中(さんちう)の高(たか) くけはしき所なり小坂(こさか)を嶝(とう) といふ磴(とう)同し ○嶽(だけ)はけはしき高山(かうざん)をいふ 山城(やましろ)如意嶽(によゐがだけ)近江(あふみ)の比良(ひら)の が嶽なとなり ○谷(たに)は両山(りやうさん)の中(なか)の流水(りうすい)なり 渓(けい)谿(けい)同し水(みつ)谿(けい)にそゝくを谷(たに) といふ山(やま)の間(あいた)に水あるを澗(かん)と いふたにがはとよめり ○丘(おか)は土(つち)の高(たか)き所(ところ)をいふ又/四方(しはう) たかくして中央ひくきを丘(きう)といふ ともあり阜(ふ)同狐(きつね)死(し)するとき は丘(をか)を枕(まくら)とす  ○盤(ばん)は大石(たいせき)なり盤石(ばんじやく)ともいふ 俗(ぞく)に大盤石(たいばんじやく)といふは重言(ぢうごん) 【右頁下段】 谷(こく)《割書: |たに》 丘(きう) 《割書: をか》 嶽(かく) 《割書: だけ》 盤(ばん)《割書: |いは》 【左頁上段】 なるべし ○巌(かん)はいはほなりさゞれ石(いし) のいはほとなりてとよめるなり 石窟(せきくつ)を巌(がん)といふ石(いし)のするど にしてたかくそびへたるをいふ 詩経(しきやう)に維石巌々(これいしがん〳〵たり)といへり 岩(がん)同 ○崖(かけきし)は山辺(さんへん)なり山(やま)の一/片(へん)に そはだちのそみたるをいふ厓(かい) 同し又/懸崖(けんかい)ともいふかけぎし 補/俗(ぞく)にがけといふなり ○瀑(はく)は滝(ろう)とも書(かく)なりながれ おつる色(いろ)白(しろ)くして布(ぬの)を瀑(さらす)が如(ごと) くなるによつて瀑布(はくふ)とも云 日本にも布引(ぬのびき)のたきといふ ありもろこしには廬山(ろさん)に名(な) 高(だか)き滝(たき)あり又/滝(たき)を飛泉(ひせん) 【左頁下段】 巌(がん)《割書: |いはほ》 瀑(はく) 《割書: たき》 崖(かい) 《割書:かけ| ぎし》 【上欄書入れ】38     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         九 ■   【柱】頭書増補訓蒙図彙二         九  【右頁上段】 ともいふ ○桟(さん)は棚(はう)なり閣(かく)なり木(き)を閣(かく) して道(みち)をなすを桟道(さんどう)とも閣(かく) 道(どう)ともいふ《割書:補》けんその山坂(やまさか)補【□の中に「補」】道(みち) きれて通(かよ)はれざるに橋(はし)をかけて 道(みち)としかよひとするをいふ ○洞(ほら)は深(ふかく)通(つう)ずるを洞(とう)といふいは あなありて道(みち)を通(つう)ずる所(ところ)也 仙洞(せんとう)は仙人(せんにん)のすむ洞(ほら)なり峒(とう)同じ 山に岩穴(がんけつ)ありて袖(そで)に似(に)たるを 岫(しう)といふくきなり ○麓(ふもと)は山足(やまのふもと)なり林(はやし)山(やま)につゞく を麓(ろく)といふ麓(ろく)は鹿(しか)のあるところ かるがゆへに字(じ)鹿(しか)に従(したがふ)【从】なり鹿(しか)は このんで林(はやし)にすめばなり ○林(りん)は平地(へいち)にして叢(むらがる)木(き)ある所を林(りん) といふ又/野外(やぐはい)を林(りん)と云/樹林(じゆりん)松林(せうりん)竹(ちく) 【右頁下段】 桟(さん)《割書:かけ| はし》 麓(ろく)《割書:ふ| もと》 洞(とう)《割書: |ほら》 【左頁上段】 林(りん)などいへり木(き)のあつまり生ず るを林(りん)といひ草(くさ)のあつまり生ず るを薄(はく)といふ薄(はく)はくさむら叢(さう)同し ○岬(みさき)は山(やま)のかたはらなり海(うみ) などへつき出(いて)たる所をいふ也 越前(えちぜん)に金岬(かねがみさき)などいふ所有 ○村(むら)は人のあつまりゐる所也 村落(そんらく)といふ本(もと)は邨(そん)につくる字(し) 通(つう)に経史(けいし)に村(そん)の字(じ)なし邨(そん)は 邑(ゆう)に従(したが)【从】ひ屯(あつまる)に従(したがふ)【从】別に村(そん)につく るは非(ひ)なり今(いま)通(つう)じもちゆ 邑(ゆう)同し ○川(せん)は穿(せん)なり地(ぢ)を穿(うがつ)てなが るゝの心をもつて川(せん)となづく又 河(かは)とも書(かく)なり補【□の中に「補」】大なるを大 河といひ小なるを小川といふ なり補【□の中に「補」】江はゑなり 【左頁下段】 林(りん)《割書: |はや| し》 岬(かう) 《割書:みさき》 川(せん) 《割書: かわ》 村(そん) 《割書:む| ら》 【上欄書入れ】39     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十      【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十  【右頁上段】 ○洲(す)は水中(すいちう)の居づき所なり 人(ひと)鳥(とり)などのあつまり息(いこふ)所也 小洲(しやうしう)を渚(しよ)といふなぎさなり水 渚(しよ)石(いし)あるを磧(せき)といふいそなり 水(みづ)沙上(しやじやう)にながるゝを瀬(せ)といふ湍(たん) 同/磯(き)はいそなり ○波(なみ)は風(かぜ)水(みづ)をうつて紋(もん)をなすを 波(なみ)といふ水波(すいは)は水紋(すいもん)なり浪瀾(らうらん) ともに同し大波(たいは)を涛(とう)といふ又 漣(れん)はさゞ波(なみ)なり又/濤(なみ)を潮頭(てうとう)と いふなり ○渦(うづ)は水(みづ)めぐるなり水めぐつて 巴(は)【左ルビ「ともへ」】の字(じ)をなすといへり又/泡漚(はうをう) 沫(まつ)はあわなり ○島(しま)は海中(かいちう)に山ありてよるべき を島(とう)といふ隝(とう)嶋(とう)嶼(よ)ならびに 同じ蓬莱(はうらい)方丈(はうじやう)瀛洲(えいしう)を海(かい) 【右頁下段】 波(は) 《割書:なみ》 渦(くは) 《割書:うづ》 洲(しう) 《割書:す》 【左頁上段】 中(ちう)の三島といふ ○海(かい)は晦(くわい)なり荒遠(くはうゑん)にして冥(めい) 昧(まい)なる意(こゝろ)なり又/海(かい)は穢(けがれ)をうけ て其(その)水(みづ)く黒(くろく)して晦のごとしとも いへり湖(こ)はみづうみなり潮(てう)はうし ほなり ○岸(がん)は水/涯(ぎの)の高(たか)き所をいふ 住(すみ)の江(え)のきしによる浪(なみ)よるさへや とよみ又/岸(きし)の姫松(ひめまつ)と歌(うた)によめり ○浜(はま)は水際(すいさい)なり涯(かい)はほとり浦(ほ)は うらならびに同し水際(すいさい)の平(へい) 沙(さ)を汀(てい)といふみぎはとよむなり 海浜(かいひん)ひろきを㵼(しや)といふかたなり 河浜(かひん)水浜(すいひん)海浜(かいひん)ともにはま也 ○田(た)は土(つち)を耕(たがやす)の名(な)囗は田(た)の四方 のかまへなり中に十の字(じ)は田(た)の 阡陌(せんはく)とてみぞのこゝろなり畎(けん)【左ルビ「たみぞ」】 【左頁下段】 島(とう)《割書:しま》 海(かい) 《割書: うみ》 岸(がん) 《割書:き| し》 濱(ひん) 《割書: はま》 【上欄書入れ】40     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十一 【右頁上段】 畝(ほ)【左ルビ「うね」】町(てう)【左ルビ「まち」】畔(はん)【左ルビ「くろ」】 ○畔(はん)は田(た)の界(さかひ)なりぐろとも又は あぜともよむなり又/塍(せう)【左ルビ「ぐろ」】堘(せう)【左ルビ「あせ」】同じ 周(しう)の国(くに)には耕(たがやす)ものは畔(くろ)を譲(ゆづる)と いふなり ○溝(みぞ)は田間(でんかん)の水(みづ)なり溝(かう)は構(かう)なり たてよこにまじへかまへたるなり 渠(きよ)同 ○独梁(ひとつばし)は独木梁(どくぼくりやう)ともいふなり 又/狐橋(こきやう)ともいふ丸木(まるき)ばし一本(いつほん) 橋(ばし)などいふ ○塚(つか)は平(たいらか)なるを墓(ぼ)といひ土(つち)を 封(はう)ずるを塚(ちよう)といふ又すぐれて 高(たか)きを墳(ふん)といふともにつかなり 塚(つか)のうへにしるしの木(き)をうゆる 事なり ○場(ちやう)は五穀(ごこく)をおさむる圃(はたけ)なり 【右頁下段】 畔(はん) 《割書: ぐろ| あぜ》 塚(ちよう)《割書: |つか》 溝(かう)《割書: |みぞ》 田(でん) 《割書: た》 独梁(どくりやう) 《割書:ひとつ|  ばし》 【左頁上段】 土(つち)を築(きつく)を壇(だん)といふ地(ち)を除(はらふ)を 場(ぢやう)といふ神(かみ)をまつる所なりと あり農民(のうにん)の米穀(へいこく)をこなす所 を場(ぢやう)といふ又ほしばなどゝいふ 市場(いちば)売場(うりば)などいふ又/塲(ば)とも かくなり ○井(せい)は伯益(はくゑき)といふ人くつりはじ め給ふなり鴆(ちん)は毒鳥(どくてう)なり羽井(はねゐ) の内(うち)におちて人その水(みづ)をのめば 死すよつて井(ゐ)のもとに桐(きり)を うゆ鴆(ちん)は鳳凰(はうわう)を懼(をそる)鳳凰(はうわう)は梧(き) 桐(り)にすむものなれば鳳(はう)のゐ んことを鴆(ちん)に懼(おそれ)しめん為(ため)也 ○幹(かん)は井垣(せいゑん)なりとあり俗(ぞく)に いげたゐづゝといふ井筒(ゐづゝ)と書(かく) はあしゝ韓(ゐづゝ)のかたはらに竹(たけ)を うゆべし鳳凰(はうわう)は竹(たけ)の実(い)をくら 【左頁下段】 塲(ちやう) 《割書: ば》 幹(かん) 《割書:い| づゝ》 井(せい) 《割書: ゐ》 【上欄書入れ】41     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十二 ふものなれば鴆(ちん)をおそるゝがた めなり ○沢(さは)は水(みづ)のあつまり聚(あつまる)ところ なり沢(さは)には杜若(かきつばた)河骨(かうほね)蓴(しゆん)さ いなどはへ螢(ほたる)とびかふ夏(なつ)の夕暮(ゆふぐれ) の景色(けしき)もおもしろし ○石(いし)は山骨(さんこつ)なり塊(つちくれ)久(ひさ)しうして 石となる石(いし)変(へん)じて金銀(きん〴〵)銅(どう)鉄(てつ) を生(しやう)ず星(ほし)おちて石(いし)となる木(ぼく) 石(せき)に怪(くわい)あり石より火を生(しやう)ず ○礫(れき)は小石(しやうせき)なりさゞれいしとも 又つぶてともよむなりその石(せき) 礫(れき)にならつて璃龍(りれう)の蟠(わだかまる)とこ ろをしらすといへり ○沙(いさご)は細散(さいさん)の石(いし)なり別(べつ)に沙(しや)【頭書訓蒙図彙「砂」】とかく はあやまりなり説文(せつもん)に水少(すいしやう)に したがふ水(みづ)少(すくなき)ときは沙(すな)あらわる 【右頁下段】 澤(たく) 《割書: さは》 礫(れき) 《割書: さゞれ|   いし》 石(せき) 《割書:いし》 沙(しや) 《割書:すな|いさご》 【左頁上段】 の義(き)なり繊沙(せんしや)はまなごなり まさごいさこすなご同訓(とうくん)なり ○池(いけ)は地(ち)をうがつて水を溜(たむ)る をいふ沼(せう)も同じ四/角(かく)なる 池(いけ)を方池(はうち)といふ ○泉(いづみ)は源水(けんすい)なり下(した)より涌(わき) 出(いづ)るを濫泉(らんせん)といふ垂(たれ)いづるを 沃泉(ようせん)といふ穴(あな)より出るを汎(はん) 泉(せん)といふ病(やまひ)を治(ぢ)するを温泉(をんせん) といふいでゆなり地下(ちか)を黄泉(くはうせん) といふ ○塘(つゝみ)は池塘(ちとう)なり池(いけ)のほとり のつゝみなり俗(ぞく)にためいけと いふ柳(やなぎ)をうへたるを柳塘(りうとう) といふ柳塘(りうとう)莫々(ばく〳〵)暗(くらし)_二啼(てい)鴉(あ)_一と 詩(し)にもつくれり ○園(ゑん)は果(くだもの)をうゆる所なり又/鳥(とり) 【左頁下段】 池(ち) 《割書: いけ》 泉(せん)《割書: |いづみ》 塘(とう)《割書: | |つゝ|  み》 【上欄書入れ】42     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十三     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十三 【右頁上段】 けだものをやしなふ所を苑 といひ垣(かき)あるを園(ゑん)といふいづ れもそのと訓ず補【四角枠の中に「補」】園(その)は今/俗(ぞく) にうらせどなとゝいふ ○圃(ほ)は菜(さい)をうゆる所をいふ也 又/果(このみ)瓜(うり)をうゆるを圃(ほ)といふと もいへり又はたけなり我(われ)不(ず) _レ如(しか)_二老圃(らうほに)_一と孔子(こうし)ものたまへる事 論語(ろんご)に見(み)へたり ○閭(りよ)は里門(りもん)なり今(いま)いふ在所(ざいしよ) の惣門(さうもん)なり又/家(いゑ)二十五/軒(けん) ほどある在所(さいしよ)を閭(りよ)といふ閭(りよ) 巷(こう)といふ ○郊外(かうぐはい)を野(の)といふなり野(の)は ひろくして平(たいらか)なるをいふ 高(たか)くして平(たいらか)なるを原(げん)と云 これをあはせて野原(のはら)といふ 【右頁下段】 閭(りよ) 《割書: さと》 園(ゑん) 《割書: その》 圃(ほ) 《割書: はたけ| その》 【左頁上段】 埜(や)同し墅と書はあやまり也 ○道(とう)は道路(どうろ)なり途(と)同し 径(けい)はこみちなり 用明天皇(ようめいてんわう)のとき五/畿(き)七/道(どう)に わかつ文武天皇(もんむてんわう)のとき六十六 箇国(かこく)をわかつ ○畷(てつ)は田(た)の間(あいた)のみちなりなは てなり俗(ぞく)に縄手(なはて)と書(かく)は縄(なは)を 引(ひき)たるがごとく直(なを)けれはなり ○衢(ちまた)は四/達(たつ)の道(みち)なりよつて 十/字街(じかい)といふちまたなり俗(ぞく) に辻(し?う?)の字(じ)を書(かき)てつじと読(よむ) 街衢洞達(かいくのとうたつ)とあり ○城(しろ)は黄帝(くはうてい)つくりはじめ たまふとも又/鯀(こん)といふ人つくり はじめ給ふともいふ内(うち)を城(せい)と いひ外(ほか)を郭(くはく)といふ天守(てんしゆ)狭間(さま) 【左頁下段】 道(とう) 《割書:み| ち》 野(や)《割書: |の》 衢(く) 《割書:ちまた》 畷(てつ) 《割書:なは|  て》 【上欄書入れ】43     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十四 【右頁上段】 多門(たもん)  武者屯(むしやだまり) 櫓(やぐら) 犬走(いぬはしり) 虎魚(しやちほこ) ○塹(ほり)は城(しろ)をめくる水なり又 坑塹(あなほり)なり坑(かう)壕(かう)ならびに同 城郭(しやうくはく)のほりなり ○封疆(はうきやう)は土(つち)を封(はう)じて疆(さかひ)をか ぎるをいふ俗(ぞく)にこれをどてと いふ洛陽(らくやう)にむかし大閤秀吉公(たいかうひでよしこう) のとき東西南北(とうざいなんぼく)に封疆(どて)をつき て竹(たけ)をうへ給ふ今にあり ○橋(はし)はもろこし禹王(うわう)といふ聖(せい) 人(じん)つくりはじめたまへり梁(はし)とも 書(かく)なり矼(こう)はいしばしなり圯(い) はつちはしなり板橋(はんきやうは)いたばし 石橋(せききやう)はいしばし土橋(どきやう)はつちばし 歩橋(ほきやう)はふみこへばし ○市(いち)は神農(しんのう)はじめたまふ 【右頁下段】 城(じやう)《割書: |しろ》 橋(きやう) 《割書:は| し》 塹(せん) 《割書:ほり》 封疆(はうきやう)《割書: |どて》 【左頁上段】 又祝融(しゆくゆう)はじめ給ふともいふ 売買(ばい〳〵)の所(ところ)を市(いち)といふ補【四角枠の中に「補」】今 俗(ぞく)に是を店(たな)といふ魚(うを)のたな 呉服(こふく)だななどゝいふなり ○津(つ)は水(みづ)の会(あつまる)ところなり舟 つき又わたしばなり難波津(なにはつ) 大津(おほつ) 今津(いまづ) 甲斐津(かいづ)など いふたぐひなり伯(はく)【訓蒙図彙「泊」】はとまり也 ○浮橋(ふきやう)はうきはし又/浮梁(ふれう)と も書(かく)べし又ふなばしは舟(ふね)をつ なぎならべてはしとする也 水(みづ)ふかくして橋(はし)ぐい立かたき所 などふなばしをかくるなり ○堤(つゝみ)はふさぐともとゞこほる共 よむ土(つち)をもつて水(みづ)をふさぎと どこほらしむるをもつて堤(つゝみ)と いふ隄(てい)とかくはあしゝ塘(とう)堤(てい)同 【左頁下段】 市(し) 《割書:いち》 浮橋(ふきやう) 《割書: うきは|   し》 津(しん)《割書: |つ》 【上欄書入れ】44     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十五     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十五 柳堤(りうでい)は補【四角枠の中に「補」】堤(つゝみ)に柳(やなぎ)を植(うへ)たるを云 ○閘(かう)は水門(すいもん)なり俗(ぞく)にこれを 樋(ひ)の口(くち)といふ田(た)に水(みづ)を入るとき は引(ひき)あげ入ざるときはおろす ○堰(いせき)は蛇籠(じやかご)に石(いし)をいれて水(みづ)を ふさくものなり又/埭(たい)とも書也 水辺(すいへん)に田地(でんぢ)又は屋敷(やしき)あれば堰(いせき) をするなり補【四角枠の中に「補」】俵(たわら)に土砂(どしや)を入て水(みつ) ふせぎともするなり ○水柵(すいさく)は竹木(ちくほく)をあんでこれをつ くる水よけなりうたにも 山川に風のかけたるしがらみは なかれもあへぬもみち成けり とよめるなりしがらみといふは 水柵(すいさく)なり ○関(せき)はゆきゝのうたかわし き人をとゞめたゞす所(ところ)なり 【右頁下段】 水柵(すいさく) 《割書: しがら|     み》 堤(てい) 《割書:つゝ|  み》 閘(かう) 《割書: ひのく|   ち》 堰(ゑん) 《割書:ゐせき》 【左頁上段】 不破(ふは)の関(せき) 鈴鹿関(すゞかのせき) 逢坂関(あふさかのせき) これを天下(てんか)の三/関(せき)といふ今は たへてなし箱根(はこね)の関(せき)といふ あり其外(そのほか)関所(せきしよ)あり 補【四角枠の中に「補」】峠(とうげ)は山坂(やまさか)をのぼりおはりて いたゞきの所をいふあるひは山中(やまなか) の峠(とうげ)鈴鹿(すゞか)の峠(とうげ)なといふ山道(やまみち)の 往来(わうらい)には峠(とうげ)をいくつもこゆる事 なり 補【四角枠の中に「補」】森(もり)は木(き)の多(おほ)くな生(はへ)しげりた る所といふ狐(きつね)の森(もり)螢(ほたる)のもり 又/鷺(さぎ)の森(もり)などいふ所あり ○牧(まき)は六/畜(ちく)をやしなふ所を いふ又/郊外(かうぐはい)を牧といふ言(いふこゝろ)は六 畜(ちく)をはなち牧(まき)すべき所なり 国(くに)の守護(しゆご)を牧(ぼく)といふも民(たみ) をやしなふの義(き)にとる 【左頁下段】 《割書:補》森(しん) 《割書: もり》 𨵿(くわん) 《割書: せき》 《割書:補》峠 《割書:とう| げ》 【上欄書入れ】45      【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十六     【柱】頭書増補訓蒙図彙二         十六 ○墓(ぼ)は慕(ぼ)の字(じ)の意(こゝろ)にて したふといふ事なり子孫(しそん)か 先祖(せんぞ)を思慕(しぼ)するなり塚(ちよ)も 同し天子(てんし)のはかを陵(みさゞき)といふ 塋(ゑい)同し壙(くはう)つかあななり 補【四角枠の中に「補」】沼(ぬま)は池(いけ)の大(おほい)なるものをいふ 又/水(みづ)少(すくな)く泥土(でいど)なるものなり池(いけ) 沢(さわ)沼(ぬま)は同じたぐひなり山(やま) 城国(しろのくに)伏見(ふしみ)に大沼(おほぬま)あり葦(よし)芦(あし) など多(おゝ)くはへ水鳥(みづとり)の住所(すみどころ)也 補【四角枠の中に「補」】薮(やぶ)は竹林(ちくりん)なり苦竹(まだけ)淡竹(はちく)の 二/種(しゆ)を用(もち)ひて其(その)性(じやう)かたくよつて 薮となして造作(さうさく)又は器財(きざい)に用(もち) ゆる事かぞへがたし 【右頁下段】 墓(ぼ)《割書:は| か》 沼(せう)《割書:ぬま》 牧(ぼく) 《割書: まき》 薮(すう)《割書:やぶ》  【左頁】 頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻之三   居処(きよしよ) 《割書:此部(このぶ)には宮殿(きうでん)門戸(もんこ)壁檣(かべかき)庭窓(にはまど)のたぐひ|すべて家居(いゑゐ)宅所(たくしよ)につきての文字(もじ)あり》 ○殿(てん)は堂(だう)の高(たか)くして大(おゝい)なる ものなり天子(てんし)の居(ゐ)給ふ所を殿(てん) といふ殿(てん)の天井(てんじやう)に藻(も)をゑがくは 藻(も)は水草(すいさう)なれは火災(くはさい)をさく るのころゝろなり ○棟(むね)は屋極(をくきよく)なり屋脊(をくせき)を甍(ほう) といふいらかなり鴟尾(しび)はくつかた 蚩吻(しふん)おにがはら ○檐(えん)は簷宇(ゑんう)同し遶(めぐる)_レ檐(のきを)点(てん) 滴(てき)如(ごとし)_二琴筑(きんちくの)_一と詩(し)にもつくれり 又/檐(のき)のあやめ檐(のき)の玉水(たまみづ)などゝ 歌によめるなり 【左頁下段】 棟(とう) 《割書:むね》 殿(てん) 《割書: との》 檐(ゑん) 《割書:のき》 榑風(はふ) 蔀(ほう) 《割書:しと| み》 楹《割書:ゑい》 《割書:はしら》 礎(そ) 《割書:いしずへ》 階(かい) 《割書:きざは|  し》 欄干(らんかん) 《割書: おばしま》 【上欄書入れ】46     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         十七     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         十七 ○楹(はしら)は殿門(てんもん)の両方(りやうはう)にありよつ て両楹(りやうゑい)といふ柱(はしら)同じ短柱(たんちう)は つかばしらなり ○欄杆(らんかん)は階除(きざはし)の木句欄(きこうらん)なり 闌干(らんかん)とも書(かく)なり干(かん)又/檻(かん)に作(つく) るおばしまなり直欄(ちよくらん)横杆(わうかん) ○階(きざはし)は砌(みぎり)なり堂(だう)に昇(のぼ)る道(みち)也 階級(かいきう)階除(かいぢよ)階梯(かいてい)ともいふ俗(ぞく) にきざはしといふ堦(かい)につくるは あやまりなり ○摶(は)【搏ヵ】風(ふ)は風(かぜ)を摶(うつ)【搏ヵ】とよむ火災 をさくる為(ため)の名(な)なり■【逆五角形の中に○の図形。『頭書増補訓蒙図彙』では下段図中の懸魚の図形】是(これ)を 懸魚(げんぎよ)といふ魚(うを)は水に住(すむ)もの なれば火災(くはさい)をさくるの名也 ○蔀(しとみ)は屋(いへ)の檐(のき)につりあげ て光明(あかり)をさらへおほふものなり 俗(ぞく)にうはしとみといふつれ〴〵 【右頁下段】 庭(てい)《割書:には》 廊(らう) 《割書:ほそ| どの》 牆(しやう)《割書:つい|ぢ》 《割書:かき》 門(もん) 《割書:かど》 扉(ひ)《割書:とび|ら》 磚(せん) 《割書:しき|がはら》 砌《割書:せい| みぎり》 【左頁上段】 草(ぐさ)にもやり戸(ど)は蔀(しとみ)の間よ りもあかしといへり蔀はうは あかりなり ○礎(いしずへ)は柱(はしら)の下の石(いし)なり詩(し)を 作(つく)るに韻字(ゐんじ)をふむを礎(そ)と云 磉(さう)礩(しつ)并(ならび)に同し  ○庭(には)は門屏(もんへい)の内(うち)を庭(には)と云 又/砌(みぎり)といふも庭(には)なり ○門(もん)は両戸(りやうこ)あはするを門(もん)と云 楣(まくさ)閾(しきみ)棖(ほこたて)みな門(もん)にあり ○廊(ほそどの)は殿下(てんか)の外屋(ぐはいをく)なりと ありわたりどの共云/廊下(らうか)廻(くわい) 廊(らう)などなり本殿(ほんでん)へかよふ ひさしなり ○牆(かき)は墻(しやう)垣(ゑん)墉(よう)並(ならひ)に同又門 屏(へい)を蕭墻(しやう〳〵)といふ蕭(しやう)が言(こと)は 粛(しゆく)なり君臣はあひまみゆる 【左頁下段】 華表(くはへう)《割書: |とりゐ》 瑞(ずい) 籬(り) 《割書:みつ|がき》 宮(きう)《割書: |みや》 【上欄書入れ】47     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         十八     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         十八 【右頁上段】 の礼(れい)は門屏(もんへい)にいたりて粛(しゆく) 敬(けい)をくはふるなり ○扉(とびら)は木(き)にて作(つく)るを扉(ひ)といふ 竹(たけ)にてつくるを扇(せん)といふ門扉(もんひ)は 戸扉(こひ)柴扉(きいひ)【さいひヵ】竹扉(ちくひ)などいふ ○磚(せん)はしきがはらなり又/㼾(ろく) 甎(せん)ともいふ又/壁磚(へきせん)ともいふ 塼(せん)磚(せん)並同/禅堂(せんたう)などに有 ○砌(みぎり)は階甃(かいしう)なりいしだゝみ俗(ぞく) にいふいしかき通(つう)じて庭(には)の 事なり ○宮(みや)は唐(もろこし)にては至尊(しそん)の居所(ゐどころ) を宮(きう)といふ和朝(わてう)にては神(かみ)の 居(ゐ)たまふ所を宮(きう)といふ又/社(しや) とも祠(し)ともいふなり ○華表(とりゐ)は神前(しんせん)にたつる鳥(とり) 井なりとりゐといふ事は神(しん) 【右頁下段】 樓(ろう) 《割書:たか| どの》 雪(ゆ) 打(た) 宅(たく) 《割書:いゑ》 櫺(れい) 《割書: まど》 【左頁上段】 門なりともいふ又/天(てん)の字(じ)のかた ちなりともいふ鳥井(とりゐ)と名づくる 事/火災(くはさい)をさくるのこゝろの名なり ○瑞籬(みづがき)は神前(しんぜん)社前(しやせん)のかき也 玉垣(たまがき)ともいふ不浄(ふじやう)の人これ より内(うち)へ入(いる)べからず ○楼(たかどの)は重屋(ちやうをく)なり高(たか)くかさね 上(あげ)て物見(ものみ)をするなり今(いま)俗(ぞく) にちんといふ ○櫺(れい)は隔子(かくし)なり櫺子(れんじ)なり俗(ぞく) にむしこといふ木(き)のまどを櫺子(れんじ) といふ土のまどを土窓(つちまど)といふ ○雪打(ゆた)は仏殿(ぶつでん)楼閣(ろうかく)又は二/階(かい) などに有物なり雨(あめ)雪(ゆき)などの 打(うち)かゝるをうくるものなり俗(ぞく) にあま戸(ど)といふなり 【左頁下段】 厨(ちう) 《割書:くり|  や》 窖(かう)《割書:あな| ぐ|  ら》 【上欄書入れ】48     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         十九     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         十九 【右頁上段】 ○宅(たく)は択(たく)なりよき所を択(ゑらん) でいとなみたつるゆへなり又 人の詫(たく)する所といふ義も有 舎(しや)家屋(かをく)ともに同又は第宅(だいたく) ○厨(くりや)は烹飪(かうじん)する所なり今云 料理所(れうりどころ)なり又/庖厨(はうちう)といふ略(りやく) してくりともいふ補【四角枠の中に「補」】俗(ぞく)に名付て 台所(たいどころ)といふなり ○窖(あなぐら)は地蔵(じざう)なり丸(まるき)を竇(とう)と云 方(けた)なるを窖(かう)といふともにあな ぐらなり地(ぢ)をほりて穴をこし らへ家財(かざい)を入/置(をく)所(ところ)なり ○寺(てら)はもと官人(くはんにん)の居(ゐ)る所(ところ)の 名なり天竺(てんぢく)より仏経(ぶつきやう)を白(はく) 馬(ば)におほせて鴻臚寺(こうろじ)といふ 官人(くはんにん)の居(ゐる)所へ来りしより仏氏(ぶつし) の居所(ゐどころ)の名(な)とす 【右頁下段】 塔(たう)《割書: |あら| らぎ》 寺(じ) 《割書: てら》 亭(てい)《割書:あば| らや》 【左頁上段】 ○塔(たう)はもろこしの長安(ちやうあん)に慈(じ) 恩寺(をんじ)といふ寺あり塔(とう)あり鴈(がん) 塔(とう)といふ進士(しんじ)名(な)をその下に 題(たい)す塔婆(とうば) 浮図(ふと)同じ ○亭(あばらや)は道路(だうろ)の舎(やどる)所(ところ)なり亦(また) 行旅(かうりよ)宿会(しゆくくはい)の館(やどる)【舘】所(ところ)なり ともいへり俗(ぞく)にひとやどりまた はたごやなり高(たか)くた立(たて)たる楼(ろう) をも亭(ちん)といふ ○屋(をく)は舎(しや)なり大屋(たいをく)を厦屋(かをく)と いふ又まやともいふ家(いゑ)の真中(まんなか)を 母屋(もや)といふ四方面(しはうめん)の家(いへ)を四阿(あづま) 屋(や)といふ俗(ぞく)に屋(や)をやねといふ ○廬(いほり)は田(た)の中の屋(いゑ)なり稲(いね)など かり入る所なり草(くさ)にてやね をふきたる屋(いゑ)をいふ菴(いほ)同 かりほの廬(いほ)のといふに廬(いほ)の字(じ) 【左頁下段】 廬(ろ) 《割書: いほ|   り》 屋(をく)《割書: |や》 厠(し) 《割書: かはや》 【上欄書入れ】49     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十 【右頁上段】 を書(かき)たり ○厠(し)は圊(せい)なり溷(こん)なり俗これ を雪隠(せつちん)といふ古は清(せい)といふ不(ふ) 潔(けつ)を清(きよめ)除(のぞく)をもつての名なり 釈名(しやくめう)に雑(ざう)なり人そのうへに 雑厠(ざうし)するなり ○坊(まち)は邑里(ゆうり)の名ちまたなり 町(まち)なり京(きやう)二/条通(でうとをり)を銅駝坊(どうたばう)と いふがことし又は別屋(べつをく)を坊(はう)と いふ僧坊寺坊(そうはうじばう)などなり ○店(いちくら)は物(もの)をひさく所なりたな なり茶店(さてん)酒店(しゆてん)などいふなり 店屋物(てんやもの)などゝもいふ肆(し)㕓(てん) 舗(ほ)同し心(こゝろ)なり ○槅子(かうし)は格子(かうし)とも書(かく)なり組(くみ) 入槅子(いれかうし)狐槅子(きつねかうし)釣槅子(つりかうし)台槅(だいかう) 子なとあり禁裏(きんり)又は寺社(ししや)など 【右頁下段】 坊(ばう)《割書: |まち》 槅子(かうし) 店(てん)《割書: |いち| ぐら》 倉(さう)《割書:く| ら》 【左頁上段】 にあるは狐槅子(きつねかうし)なり ○倉(くら)は五/穀(こく)を入(いる)るを倉(さう)といふ 米を入るを廩(りん)といふ財宝(ざいほう)を いるゝを蔵(さう)といふ書物(しよもつ)を入るを 庫(こ)といふ土庫(とこ)はぬりごめなり 府(ふ)もくらなり ○斎(さい)は潔(けつ)なり心(こゝろ)を洗(あらふ)を斎(さい)と いふ学問所(がくもんじよ)をいふ又/燕居(ゑんきよ)の室(しつ) なり学問(がくもん)をする人/斎号(さいがう)を 付(つく)ことは我(わが)学問所(がくもんじよ)の号(な)をつく なり ○廡(ひさし)は堂下(たうか)の周廊(しうらう)なり大屋(たいをく) の四辺の重(かさなる)檐(のき)なり ○窓(まど)は釈名(しやくめう)に窓(さう)は聡(さう)なり 内(うち)より外(ほか)をうかゞひてもつて 聡(みゝとき)をなすの義なり牕(さう)牗(よう)並 に同し紙窓(しさう) 紗窓(しやさう) 【左頁下段】 齋(さい) 廡(ふ) 《割書:ひさし》 窻(さう)《割書: |まど》 瓦(ぐは)《割書: |かは|ら》 蟆股《割書:かへる|また》 戸(こ) 《割書:と》 【上欄書入れ】50     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十一     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十一 ○戸(と)は一/枚(まい)とびらの門(もん)を戸(と) といふ又/内(うち)を戸(と)といひ外(ほか)を門 といふともいへり民家(みんか)ならび つらなるを編戸(へんこ)といふ ○瓦(かわら)は唐(もろこし)夏(か)の昆吾(こんご)といふ人つ くり始(はしめ)しなりめがわらを瓪(はん)といふ おかわらを𤭆(とう)【瓦+同】といふ又/魏(ぎ)の文帝(ぶんてい) 瓦(かわら)をちて鴛鴦(をしとり)となると夢(ゆめ) 見給ふといふ故事(こじ)ありよつて 鴛鴦瓦(ゑんおうぐは)といふ ○蟇股(かへるまた)は榑風(はふ)の下にあり蟇(かへる) の股(また)に似(に)たればなり蟇(かへる)は水中(すいちう)に 住(すむ)ものなれば火災(くはさい)をさくる為(ため) なり鴨居(かもゐ)といふも同(おなじ)意(こゝろ)也 ○臥房(ぐはぼう)は寝室(しんしつ)ともいふ又/閨(けい) 房(ぼう)ともいふ天子(てんし)の御寝所(きよしんじよ)を 夜殿(よんのおとゞ)といふ 【右頁下段】 楗(けん)《割書:くわんのき》 扃(けい)《割書:とざし》 卧(ぐは) 房(ばう) 《割書:ねや》 鋪首(ほしゆ) 壁(へき)《割書:かべ》 【左頁上段】 ○楗(くわんのき)は限(かきる)門(もんを)木(き)【門を限る木】なり今いふくは んの木(き)なり𢩠(せん)【戶+睘】閂(せん)並に同 ○扃(とざし)は外(ほか)より閉(とづ)る関(くはん)なり又 門(もんの)扉(とびら)のうへの鐶(くはん)鈕なり又/関(くはん) 戸(こ)の木(き)なりくはんの木(き)又は鎖(じやう)也 ○鋪首(ほしゆ)は今/按(あん)ずるに門(もん)又は 襖(ふすま)障子(しやうじ)などのひきて鐶(くはん)なり 鈕(ちう)はつほなり ○壁(かべ)は城(しろ)のかべを壘(るい)といふしらかへ を粉壁(ふんへき)といふ又/画壁(ぐはへき)板壁(はんへき)など あり室(しつ)の屏(へい)蔽(へい)なり ○廳(まんところ)は政(まつりこと)をきく所なり検非(けび) 違使(ゐし)のゐる所なり公事(くじ)訴訟(そしやう) をとりさばきする所をいふなり 庁(ちやう)同 ○厩(むまや)は馬舎(ばしや)なり猿(さる)の異名(ゐみやう)を 馬(ば)父といふによつて厩(むまや)に猿(さる) 【左頁下段】 廳(ちやう) 《割書:まん| どころ》 《割書:ひと| や》 牢(らう)獄(ごく) 厩(きう)《割書: |むまや》 柵(さく) 《割書:し|がら| み》 【上欄書入れ】51     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十二     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十二 【右頁上段】 をもつて祈祷(きとう)とするとぞまた 厩(むまや)の上に馬をつなく木を猿(さる) 木(き)といふ ○牢獄(たうごく)は罪人(つみびと)を囚ところなり 皐陶(かうよう)といふ人つくりはじめ給ふ なり周(しう)の代(よ)には囹圄(れいぎよ)といふ今 籠(ろう)と書(かく)はあやまりなり ○柵(しからみ)は木(き)をあみて是(これ)をつくる軍(ぐん) 陣(ぢん)にて人馬(じんば)をふせぐものなり 笧(さく)同し俗(ぞく)に駒(こま)よせとも馬(むま)ふ せぎともいふ ○閨(ねや)は婦人のねやなり東坡(とうば) が月(つき)の夜(よ)故郷(こきやう)の妻(め)をおもふの 詩(し)にも閨中(けいちう)唯(たゝ)独(ひとり)看(みるらん)と作(つく)れり ○浴室(ゆどの)は沐浴(ぼくよく)して身(み)をきよむ る所なり俗(ぞく)に湯殿(ゆどの)といふ禅(ぜん) 寺(でら)には風呂屋(ふろや)を浴室(よくしつ)と額(がく)す 【右頁下段】 閨(けい) 《割書:ねや》 籬(り)《割書:ませ| がき》 浴室(よくしつ) 《割書:ゆどの》 樞 《割書:く|るゝ》 【左頁上段】 ○籬(まがき)はませともいふ竹(たけ)にてあ みたるかきなり藩芭(はんは)ともに同 陶淵明(とうえんめい)が詩(し)に 採_二 ̄テ菊 ̄ヲ東- 籬 ̄ノ下_一 ̄ニ悠-然 ̄トシテ対 ̄ス南山_一 ̄ニ ○枢(すう)はくるゝなり言行(げんかう)は君子(くんし) の枢機(すうき)なりといへり又/北極(ほくきよく)は 天(てん)の枢(すう)なりともいへり門枢(もんすう)戸(こ) 枢(すう)扉枢(ひすう)などいふ ○駅(むまやど)は道中(どうちう)のはたごや馬(むま)つ ぎをいふ駅館(えきくはん)とも又/駅舎(ゑきしや) とも駅伝(ゑきでん)ともいふ ○護摩堂(ごまたう)は護摩(ごま)は梵語(ぼんご) なり焚焼(くんしやう)【ふんしやうヵ】と翻訳(ほんやく)すしか れば護摩(ごま)たくといふは重言(ぢうごん) なり護摩(ごま)を修(しゆ)する護摩(ごま) するなとゝいふべしとぞ ○台(うてな)は四/方(はう)にしてたかきものを 【左頁下段】 驛(ゑき) 《割書:むま| やど》 護(ご) 摩(ま) 堂(だう) 【上欄書入れ】52     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十三     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十三 【右頁上段】 台(たい)といふ台上(たいしやう)に屋(をく)を架(か)する を台門(たいもん)といふ又/楼台(らうたい) 舞(ぶ) 台(たい)歌台(かたい)うてな ○櫓(やぐら)はやぐらなり城上(じやうじやう)の望(ばう) 楼(ろう)なり狭間(さま)をあけて歒(てき)の 多少(たしやう)をうかゞひのぞみ弓(ゆみ)鉄(てつ) 炮(はう)をいだす所なり又/戦棚(せんはう)と もいふなり ○桟敷(さんじき)は見物(けんぶつ)の棚(たな)なり桟(さん) 敷(じき)はうつ又はかけるなどゝいふ べからず桟敷(さんじき)かまゆるといふ べしとぞ ○蹴鞠坪(しうきくのつぼ)といふは鞠蹴場(まりけば)也 四/本(ほん)がゝりとて四/隅(すみ)に松竹 桜(さくら)楓(かへで)をうゆるなり鞠(まり)はもろ こし蚩尤(しゆう)がかうべをかたどり てける事なり 【右頁下段】 臺(たい) 《割書: うてな》 桟(さん) 敷(じき) 櫓(ろ)《割書:やぐ|  ら》 蹴(しう) 鞠(きくの) 坪(つぼ) 【左頁上段】 ○輪蔵(りんざう)は一切経(いつさいきやう)を入/置(をく)蔵(くら)也 転(まわる)やうにこしらへたるによつて 輪蔵(りんざう)とも転蔵(てんざう)とも経蔵(きやうざう)と もいふ一/度(と)転蔵(てんざう)をまわせば一 切経(さいきやう)を転読(てんどく)したる道理(だうり)なり 前(まへ)に居(ゐ)るは傅大士(ふだいし)といふ人なり 仏(ぶつ)在世(ざいせ)一/切経(さいきやう)を守護(しゆご)せし人也 ○護朽(こきう)は今いふ擬宝珠(ぎぼうし)なり 橋(はし)又は高欄(かうらん)にあり ○枅(ひぢき)は臂木(ひぢき)と俗(ぞく)に書(かく)雲(くも)がた をほり付(つく)るゆへに雲臂木(くもひぢき)と云 曲(まかれる)枅(ひぢき)を栱(けう)とも欒(らん)ともいふ枓(ますがた) をのする木なり ○枓(ますがた)は柱(はしら)の上の四/角(かく)なる栱(ます) 斗なり方枓(はうと) 栱枓(けうと) 枡枓(せうと) ともいふ又は欂櫨(はくろ)ともいふ ○桁(けた)は屋(いゑ)の横木(よこぎ)なり又足がせ 【左頁下段】 輪(りん) 蔵(ざう) 護(ご) 𣏓(きう)【木+亐】 【上欄書入れ】53     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十四     【柱】頭書増補訓蒙図彙三         二十四 【右頁上段】 頸(くび)かせを桁(かう)といふ事もあり 又/衣類(いるい)をかくるを衣桁(いかう)といふ 翡翠(ひすい)鳴(なく)_二衣桁(いかうに)_一と杜子美(としみ)が詩(し)に つくれり ○榱(たるき)は椽(たるき)なりもろこし秦(しん)の 世(よ)には椽(えん)といふ周(しう)の世には榱(さい)と いふ齊(せい)の世(よ)にはこれを桷(かく)といふ ○藻井(さうせい)は天井(てんじやう)なり藻(も)をゑかく によつて藻井(さうせい)といふ藻(さう)といひ 井(せい)といふみな火災(くはさい)をさくるこゝろ なり天井(てんじやう)と書(かく)も此(この)意(こゝろ)なり みな水(みづ)の縁(ゑん)をとる ○窯(かはらかま)は瓦竈(ぐはそう)なりかはらやくかま なり窰(よう)同このかまのうちにかは らを入/柴(しば)にてふすべやくなり 炭(すみ)やくかまも此たぐひなり 【右頁下段】 榱(すい)《割書:はへ| き》 《割書:たるき》 枅(けい)《割書: |ひぢき》 桁(かう)《割書:けた》 枓(と)《割書:ます| かた》 藻井(さうせい) 窯(よう) 《割書: かはら|   がま》 【左頁】 頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻(くはん)之(の)四    人物(じんぶつ) 《割書:此部(このぶ)には士農工商(しのうこうしやう)そのほか異朝(ゐてう)の国(こく)|俗(ぞく)をすべて一さいの人類(じんるい)をあつむるなり》 【左頁上段】 ○公(こう)は三公(さんこう)なり 太政大臣(だいじやうだいじん) 左大臣(さだいじん) 右大臣(うだいじん)を三公(さんこう)といふ 内大臣(ないだいじん)ともに公(こう)なり 唐名(からな)は大師(だいし) 大傅(だいふ)大(たい) 保(ほ)といふ補【四角枠の中に「補」】図(づ)する処(ところ)は 束帯(そくたい)の図(づ)なり束(そく) 帯(たい)には帯剣(たいけん)なり是(これ) 公卿(くぎやう)ともに式礼(しきれい)の 服(ふく)なりくつも靴(くわのくつ)を めさるゝなり 【左頁下段】 公(こう)《割書:きみ》 【上欄書入れ】Fasc.3  3  54     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         一     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         一 【右頁上段】 ○卿(けい)は公卿(くぎやう)なり 大納言(たいなごん)中納言(ちうなごん)三(さん) 位(み)以上(いじやう)を公卿(くきやう)と云 又/月卿(げつけい)ともいふ 天子に付(つき)そひ給ふ 故(ゆへ)の名也補【四角枠の中に「補」】三位/以(い) 下(げ)を殿上人(てんしやうびと)といふ 図(つ)する処(ところ)は衣冠(いくわん) のていなり是(これ)常(つね) の服(ふく)にて裾(きよ)なく 下はさし貫(ぬき)なり 束帯(そくたい)はさしこ【指袴】なり 装束(しやうぞく)の色(いろ)は四/位(ゐ)以 上は黒(くろ)五/位(ゐ)は赤(あか)六 位は青色(あをいろ)なり 【右頁下段】 卿(けい)《割書: | |きみ》 【左頁上段】 ○士(し)は《割書:補》さふらひ也  学問(がくもん)して 位(くらゐ)にあるを  学士(がくし)といふ《割書:補》又   文官(ぶんぐわん)とも いふなり剣(けん)を  帯(たい)し甲冑(かつちう)を   着(ちやく)するを 武士(ぶし)といひ《割書:補》これ  を武官(ぶくわん)と称(しやう)ず 四民(しみん)といふは  士(さふらひ)農人(のうにん)工(しよくにん)   商人(あきひと)なり  すべては万民(ばんみん)とは    いふなり 【左頁下段】 士(し) 《割書:さふ| らい》 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH NATIONALE  【上欄書入れ】55     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         二     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         二 【右頁上段】 ○女(をんな)はいまだ   嫁(よめいり)せさるを    女(ぢよ)といひ すでに嫁(よめいり)  したるを婦(ふ) といふ嫁(よめいり)しても  父母(ふぼ)よんで    女(むすめ)といふ ○婆(ば)は嫗(あう)媼(おう)   ならひに同じ とりあけうばは   穏婆(をんば)    とも  早婆(さうは)とも   いふなり 【右頁下段】 婆(ば)《割書: | |うば》 女(ぢよ)《割書:をんな|むすめ》 【左頁上段】 ○嬰(ゑい)は人(ひと)始(はじめ)てむまる るを嬰児(ゑいじ)といふ胸(むね)の 前(まへ)を嬰といふこれを 嬰前(ゑいぜん)にかゝへて乳養(にうよう) す故(ゆへ)に嬰といふ又女を 嬰(ゑい)と云/男(おとこ)を児(じ)と云 ○童(どう)は男(おとこ)十五/以下(いか)を 童子(どうじ)といふ童(とう)は獨(どく) なり言(いふこゝろ)はいまだ室家(しつか) あらざるなり鬣子(うないこ)【𩮓子】 総角(あげまき)みな童子(どうじ)の 事なり ○翁(おう)は長老(ちやうらう)の称(しやう)也 又人の父(ちゝ)を称(しやう)じて 翁(おう)といふ叟(そう)【左ルビ「おきな」】同 【左頁下段】 童(どう)《割書:わら|  はべ》 嬰(ゑい)《割書:みどり|   こ》 翁(おう)《割書: |おきな》 【上欄書入れ】56       【柱】頭書増補訓蒙図彙四         三     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         三 ○兵(へい)は武具(ぶぐ)の   惣名(さうみやう)なり 今(いま)甲冑(かつちう)を  帯(たい)する武士(ぶし)   を兵(へい)といひ ならはせり  戎(つはもの)同し 《割書:補》 頭(かしら)たる者(もの)を   将(しやう)といひ従者(じうしや)    を士卒(しそつ)と  いふ又軍士(ぐんし)   軍兵(ぐんべう)など    いふなり 軍勢(ぐんぜい)は士卒(しそつ)の  惣名(さうみやう)なり 【右頁下段】 兵(へい)《割書: | |つはも|   の》 【左頁上段】 ○農(のう)は厲山氏(れいさんし)子(こ)   あり農(のう)と     名(な)づく 百穀(ひやくこく)をうゆる  事(こと)を能(よく)す   よつて物(もの)を 作(つく)るものを農人(のうにん)  といふ又/神農(しんのう)    五穀(ごこく)を植(うゆ) る事をおしへ  たまふよつて   農(のう)と名(な)  づくるとも   いふなり 【左頁下段】 農(のう) 《割書:もの| つくり》 【上欄書入れ】57      【柱】頭書増補訓蒙図彙四         四     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         四 ○工(こう)は百工(ひやくこう)とて    もろ〳〵の     細工人(さいくにん)  の惣名(さうみやう)なり   工匠(こうしやう)ともいふ   木工(もくこう)は大工(だいく)なり    漆工(しつこう)は     塗師(ぬし)也 《割書:補》 其外(そのほか)指物(さしもの)  桧物(ひもの)ざいく 絹布(けんふ)織物(をりもの)るい  金物(かなもの)ざいく すべて工(こう)といふ  是(これ)を職人(しよくにん)と     もいふ也 【右頁下段】 工(こう)《割書:たくみ| だいく》 【左頁上段】 ○商(しやう)はひさき人(びと)   又あきびと也 居(ゐ)ながら売(うる)を  賈(こ)といひもち    ゆきて うるを商(しやう)といふ  商(しやう)と書(かく)べし   啇(しやう)とかくは あやまりなり  《割書: |補》商(しやう)賈(こ)通用(つうよう)す     ともにあき 人の事なり  販(ひさく)といふは    売(うる)事     なり 【左頁下段】 賈(こ)《割書: |あき| びと》 商(しやう) 《割書:あき| びと》 【上欄書入れ】58      【柱】頭書増補訓蒙図彙四         五     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         五 ○医(い)は病(やまひ)を治(ぢ)   するには酒(さけ)を もつて薬(くすり)を製(せい)  すよつて酉(ゆふ)の字(じ) に書(かく)と有/和朝(わてう)  いにしへは和気(わけ) 丹気(たんけ)といふ医家(いけ)  あり俗人(ぞくじん)なり ○卜(ぼく)は卜筮(ぼくせい)なり  卜(ぼく)は赴(ふ)なり来(らい) 者(しや)の心(こゝろ)を赴(むかふる)なり  亀(かめ)を灼(やい)てうら なふを卜灼(ぼくしやく)といふ  又/蓍(めど)をとりて    うらなふ 【右頁下段】 醫(い)《割書: | |くすし》 卜(ぼく)《割書: | |うら|  なひ》 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH ・ NATIONALE 【左頁上段】 ○膳夫(ぜんぶ)は腹部(かしはて)【膳部ヵ】   ともいふなり     今いふ 料理人(れうりにん)なり  包丁(はうてう)といふ人     能(よく)牛(うし)を 解(とく)事(こと)を得(え)たり  今その名(な)を    かつて 刃物(はもの)の名(な)とす  又/膳夫(ぜんぶ)の名(な)    として   包丁人(はうてうにん)とは     いふ      なり 【左頁下段】 膳夫(せんふ)《割書:かしはで》 【上欄書入れ】59     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         六     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         六 【右頁上段】 ○画工(ぐわこう)は絵師(ゑし) なり《割書:補》唐(もろこし)には名(めい) 画(ぐわ)あまたありて かぞふるにいとま あらず日本(ひのもと)にて は巨勢(こせ)の金岡(かなおか) 古法眼元信(こほうけんもとのぶ)又 雪舟(せつしう)などむかし の名画(めいぐわ)なり中(ちう) 古(こ)は永徳(えいとく)探幽(たんゆう) 等(とう)その外(ほか)あまた あれどもこれを 略(りやく)す土佐家(とさけ)は 禁裏(きんり)の御/絵所(ゑどころ) なり 【右頁下段】 画(ぐわ)  工(こう) 《割書: ゑし》 【左頁上段】 ○祝(しく)は祭(まつる)に賛(さん)  詞(し)をつかさどる 者(もの)なりとあり  神前(しんぜん)にてのつ とをあぐる神主(かんぬし)  なり《割書:補》又/神職(しんしよく) ともいふあるひは  祢宜(ねぎ)ともいふ ○巫(ふ)は女(をんな)の神(かみ)に  つかゆるもの也 巫(ふ)は神(かん)をよろこば  しむるものなり ともあり《割書:補》按(あん)する  に神楽(かぐら)みこ   なるへ      し 【左頁下段】 祝(しく)《割書:かんぬ|   し》 《割書: はふ|  り》 巫(ふ)《割書:かん| なぎ》 《割書: み|  こ》 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH. NATIONALE ・ 【上欄書入れ】60     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         七     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         七 【右頁上段】 ○僧(そう)は浮図(ふと)の 教(をしへ)にしたがふ者(もの) なり沙弥(しやみ)沙(しや) 門(もん)委門(さうもん)比丘(びく)苾(ひつ) 芻(すう)ともいふなり 又/僧正(そうじやう)僧都(そうづ)上(しやう) 人(にん)和尚(おしやう)長老(ちやうらう)など は《割書:補》僧官(そうぐわん)なり国師(こくし) 大師(だいし)号(がう)あり ○尼(じ)は女僧(ぢよそう)なり 比丘尼(びくに)なり仏(ほとけ)の 四/部(ぶ)の弟子(でし)なり 尼姑(じこ)ともいふ《割書:補》 尤(もつとも)宗門(しうもん)によりて 僧官(そうぐわん)異(こと)なり 【右頁下段】 尼(に)《割書:あま》 僧(そう)《割書:よすて|  ひと》 【左頁上段】 ○鍛(たん)は磨(ま)なり    推錬(すいれん)なり 金(かね)を治(ぢ)する  にて鉄(てつ)を   鍛ものなり 鍛冶(たんや)といふべし  鍛治(かぢ)と字(じ) 似(に)たるかゆへ  にむかしより あやまり  きたりて 鍛治(かぢ)とはとな  ふるなり   といへり 【左頁下段】 鍛(たん) 《割書:かぢ| や》 【上欄書入れ】61     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         八     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         八 【右頁上段】 ○陶家(たうか)は土(つち)にて 茶碗(ちやわん)鉢(はち)皿(さら)などを つくるものをいふ陶(たう) 冶(や)ともいふ《割書:補》瓦工(ぐはこう)は瓦(かはら) さいくしなり舜(しゆん) 河濱(かひん)にすへものつ くりすといへりしか れば此さいくは舜(しゆん)を はじめとするか ○冶(や)は鋳匠(たうしやう)とも 炉匠(ろしやう)ともいふ《割書:補》鍋(なべ)釜(かま) 火鉢(ひばち)其外(そのほか)金(かな)どう 具(く)をゐるものなり 唐(もろこし)の蚩尤(しゆう)といひし ものつくりはしめし とかや 【右頁下段】 陶家(たうか) 《割書: すへもの|   つくり》 冶(や)《割書: |ゐもの|   し》 【左頁上段】 ○鬼(き)は人(ひと)死(し)して 肉(にく)骨(こつ)は土(つち)に帰(き)【皈】し 血(ち)は水(みづ)に帰(き)【皈】し魂(こん) 気(き)は天(てん)に帰(き)【皈】すそ の陰気(いんき)せまり 存(そん)して依(よる)ところ なしかるがゆへに 鬼(き)となる ○仙(せん)は遷(せん)なり飛(ひ) 行(ぎやう)してこの山(やま)より かしこの山へうつ るゆへに仙人(せんにん)と名(な) づく《割書:補》唐(もろこし)にはあまた 有/和朝(わてう)にも久米(くめ) の仙人(せんにん)とて有 【左頁下段】 鬼(き)《割書:おに》 仙(せん)《割書:やま|  びと》 【上欄書入れ】62     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         九     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         九 【右頁上段】 ○仏(ぶつ)《割書:補》は西方(さいはう)の  聖人(せいじん)なり 如来(によらい)ともいふ  仏(ほとけ)は人に弗(あらず) とよむ凡人(ほんにん)に  あらざれば      なり ○薩(さつ)は菩薩(ぼさつ)  なり菩(ぼ)はあま ねく薩(さつ)はすくふ  とよむあまね く衆生(しゆじやう)を  すくふといふ   こゝろなり 【右頁下段】 薩(さつ)《割書:ぼさつ》 仏(ぶつ)《割書:ほとけ》 【左頁上段】 ○楽(がく)は八/音(をん)を   ならして 奏(そう)するなり 《割書:補》楽人(がくにん)といふ 黄帝(くわうてい)のとき  伶倫(れいりん)といふ者(もの) 楽(がく)をよくす  よつて楽人(がくにん) を伶人(れいじん)といふ 《割書:補》楽(がく)を管絃(くわんげん) ともいふ日本(ひのもと)の  楽(がく)を神楽(かぐら) といふかぐら男(お)  などいふもの      あり 【左頁下段】 楽官(がくくわん) 《割書: がく|   にん》 伶(れい)  人(じん) 《割書: まひ|   びと》 【上欄書入れ】63     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十 【右頁上段】  俳優(はいゆう)《割書:わさ| をき》 ○俳優(はいゆう)は雑戯(ざうけ)  なりとあり しかれば今(いま)いふ   狂言師(きやうげんし)の  たぐひ   なるべし 猿楽(さるがく)の類(るい)  とはすこし   違(ちが)ひある     べし 素盞烏(そさの)の   みことより  はじまると     いへり 【右頁下段】 俳優(はいゆう)《割書:わざおき》 【左頁上段】 ○染匠(せんしやう)はべにや 紺屋(こんや)茶染屋(ちやそめや)な どのるいなり ○蚕婦(さんふ)は蚕(かいこ)をか   ひてわたを とる女(をんな)なりむかし  親(おや)に孝行(かう〳〵)なる 女(をんな)死(し)して   蚕(かいこ)といふ むしとなり  庭(には)の桑(くわ)の木(き)に きたり綿(わた)を  はきて親(おや)を やしなひけるより  はじまれり 【左頁下段】 染匠(せんしやう) 《割書:そめどの》 蠶婦(さんふ)《割書:こがひ》 【上欄書入れ】64     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十一     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十一 【右頁上段】  機女(きぢよ)《割書:はた| をり》 ○機女(きぢよ)はもろこし  より呉服(くれは)   綾織(あやは)と いへる二人の   女きたりて をりはじめ 《割書:補》これよりくは    しくなり しとかや上機(かみはた)は  万(よろづ)の織物(をりもの)を をる下機(しもはた)は  布(ぬの)木綿(もめん)   などをる      なり 【右頁下段】 機女(きぢよ)《割書:はたをり》 【左頁上段】 ○矢人(しじん)は矢作(やはぎ)なり 矢(や)は唐(もろこし)にては牟夷(ぼうゐ)と いふ人/作(つく)り始(はじ)む又/浮(ふ) 遊(ゆう)と云人/始(はじむ)ともいへり 和朝(わてう)は神代(かみよ)に始(はじま)る ○弓人(きうじん)は弓削師(ゆげし)也 弓(ゆみ)は庖犧氏(はうぎし)より始(はじまる) 又/黄帝(くわうてい)尭(げう)舜(しゆん)より 始(はじまる)とも又/黄帝(くわうてい)の臣(しん) 揮(き)と云人/始(はじむ)ともいふ 日本にては神代(かみよ)に始(はじまる) ○函人(かんじん)は鎧(よろひ)ざいく也 鎧(よろひ)は蚩尤(しゆう)始(はじめ)て作(つく)る 又/黄帝(くわうてい)の時/玄女(げんぢよ) 始(はしめ)て作(つく)るともいふ 日本は神代(かみよ)に始(はしま)る 【左頁下段】 矢人(しじん)《割書:やはぎ》 弓人(きうじん)《割書:ゆげし》 凾人(かんじん)《割書:よろひ| ざいく》 【上欄書入れ】65     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十二     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十二 【右頁上段】 ○硯(すゞり)は黄帝(くわうてい)玉(たま)を 以(もつ)て始(はじめ)て造(つくり)給ふ と有/硯(すゞり)を墨池(ぼくち)と云 ○銀匠(ぎんしやう)は白(しろ)かねざいく をいふ刀(かたな)のかざり目(め) 貫(ぬき)又/鍼(はり)等(とう)のさいく 人なり ○玉人(きうじん)は玉(たま)を琢磨(たくま) するものなり山よ り出(いづ)るたまを玉(きよく)と云 海(うみ)より出(いづ)るを珠(じゆ)と云 ○櫛(くし)は伊弉諾尊(いざなぎのみこと) の御ときつくりは じめたり是(これ)を楊(ゆ) 津(づ)の爪櫛(つまぐし)と     いへり 【右頁下段】 櫛引(くしひき) 硯工(けんこう) 《割書: すゞり|   きり》 銀匠(ぎんしやう) 《割書: しろかね|    ざいく》 玉(きう)  人(じん) 《割書:たま| ざい|   く》 【左頁上段】 ○烏帽子折(ゑぼうしをり)は京(きやう) 都(と)室町(むろまち)三/条(でう)に あり烏帽子(ゑぼうし)は立(たて) 烏帽子(ゑほうし)是は高位(かうゐ) の着(ちやく)し給ふ物なり 風折(かざをり)梨打(なしうち)左折(ひたりをり) 右折(みきをり)小結(こゆひ)荒目(あらめ) 等(とう)なり ○褙匠(はいしやう)は今いふ   表具師(へうくし)の     事なり 表補(へうほ)とも表褙(へうはい)  ともいふ表(へう)   紙(し)も同      じ 【左頁下段】 烏帽子折(ゑぼうしをり) 褙匠(はいしやう) 《割書: ひやうぐ|     し》 【上欄書入れ】66     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十三     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十三 【右頁上段】 ○傘工(さんこう)は雨傘(あまがさ)日(ひ) 傘(がさ)挑灯(ちやうちん)をはる さいく人(にん)なり ○皮匠(ひしやう)は今いふ足(た) 袋屋(びや)などなり 又/切付(きりつけ)屋とて 皮(かは)ざいくする人 をもいふ ○針磨(はりすり)は京(きやう)姉(あねが) 小路(こうぢ)の名物(めいぶつ)なり 今は三/条(でう)寺(てら)町の 辺(へん)に多(おほ)く有み すやといふ者(もの)長崎(ながさき) より針(はり)を取よせ 売弘(うりひろ)めたるより名(な)         付(づく) 【右頁下段】 皮匠(ひしやう) 《割書: かはざいく》 傘(さん)  工(こう) 《割書:かさ| ばり》 針磨(はりすり) 【左頁上段】 ○牙婆(かば)は今いふ すあひなり衣(い) 類(るい)をきもいりて うりかいするもの なり ○筆工(ひつこう)は筆結(ふでゆひ)也 筆(ふで)はもろこしに て蒙恬(もうてん)といふ人 つくりはじめ給ふ ○薦僧(こもぞう)は梵論(ぼろ)と もいふ梵論字(ほんろんじ)漢(かん) 字(し)ともいふ又/暮(ぼ) 露(ろ)とも書(かく)なり尺(しやく) 八(はち)をふき諸国(しよこく)を修(しゆ) 行するなり 【左頁下段】 薦僧(こもぞう) 牙婆(がは) 《割書: す|  あひ》 筆(ひつ)  工(こう) 《割書:  ふで|   ゆひ》 【上欄書入れ】67     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十四     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十四 【右頁上段】 ○石工(せきこう)は石(いし)を切(きり)て 石/垣(かき)石/灯籠(とうろう)いし 橋(ばし)石塔(せきたう)などする ものなり石にて 器(うつはもの)をつくるさいく 人をもいふ石を芋(いも) 茎(じ)をもつて煮(に)れ はやわらかになるとぞ ○圬者(うしや)は今いふ 左官(さくわん)なり圬人(うじん) とも泥工(でいこう)とも泥(でい) 匠(しやう)ともいふなり 圬(う)は杇(う)【𣏓】につくるべし 竈(へつい)その外(ほか)土(つち)ざいく するものも同じ 【右頁下段】 石工(せきこう)《割書: | |いし| きり》 圬者(うしや) 《割書: かべぬり》 【左頁上段】  相撲使(ことりづかひ) ○相撲(すもふ)は乃見(のみの)   宿祢(すくね)と    橛速(くゑはや)【蹶速ヵ蹴速ヵ】と いふもの二人  取(とり)はじめ    たり  角抵(かくてい)と云   膂力(りよりよく)を    争ふ   わざ     なり 【左頁下段】 相撲使(ことりづかひ) 《割書: すもふ|   とり》 【上欄書入れ】68     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十五     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十五 【右頁上段】 ○扇(あふぎ)はもろこし   にては舜(しゆん)と いふみかどつくり  はじめ給ふ 日本(につほん)にては  神功(しんごう)皇后(くわうかう)の とき蝙蝠(かふもり)の羽(はね)  を見てつくり はじめしとなり  京(きやう)にてはみゑい 堂(どう)を賞(しやう)ず ○漆匠(しつしやう)はうるし  ざいくするもの をいふ今は  塗師(ぬし)といふ 【右頁下段】 扇工(せんこう) 《割書:あふ| ぎ|  や》 漆(しつ)  匠(しやう) 《割書:ぬ| し》 【左頁上段】 ○侏儒(しゆじゆ)はかたち短(みじか) き人をいふ今いふ 一寸(いつすん)ぼうしなり短(たん) 人(しん)ともいふ ○駝背(たはい)はせむし也 医書(いしよ)にては亀背(きはい) といふ背(せ)の高(たか)き馬(むま) を橐駝(たくた)といふ駝馬(だば) に似(に)たるゆへせむしの 人を駝背(たはい)といふ也 ○兎唇(としん)は欫唇(けつしん)とも 兎欫(とけつ)ともいふ兎欫(いぐち) は赤子(あかご)のとき上手(じやうず) の外科(げくわ)に切てぬ はすれば成人(せいじん)して みへぬものなり 【左頁下段】 駝背(だはい) 《割書: せむし》 侏儒(しゆじゆ)《割書: |一寸|  ぼうし》 兎唇(としん) 《割書:いくち》 【上欄書入れ】69     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十六     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十六 【右頁上段】 ○蜑(あま)人は海中(かいちう)  に入て蚫(あはび)貝(かい) 昆/布(ぶ)あらめの   たぐひを      とる ものなり   海人(あま)とも書(かく) 女(をんな)の業(わざ)なり   又/塩(しほ)くむ女    もあまと いふいづれ海(かい)   辺(へん)のわざ  なればともに   同じ類(たぐひ)    なるべき       か 【右頁下段】 蜑(あま)  人(しん) 《割書:  あま》 【左頁上段】 ○釣叟(てうさう)はつり   するおきな をいふ太公望(たいこうばう)  厳子陵(けんしれう)が   たぐひなり 《割書:補》日本(ひのもと)にも神代(かみよ)   よりありし    よしなり ○樵夫(せうふ)は薪(たきゞ)を   とるものなり 又は山賤(やまがつ)とも  いふ《割書:補》木(き)つくり    杣人(そまひと)なども 此たぐひのもの  なるべし 【左頁上段】 釣叟(てうさう) 樵夫(せうふ) 《割書: きこり》 【上欄書入れ】70     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十七     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十七 【右頁上段】 ○猟師(れうし)は弓(ゆみ)   鉄炮(てつはう)を以(もつ)て 鳥(とり)獣(けたもの)をとる    ものなり 虙羲氏(ふつきし)の世(よ)に  天下(てんか)に獣(けたもの)多(おほ)く 田畠(でんはた)をそこ  なふ故(ゆへ)に人に 猟(かり)をおしへ給ふ  より始(はじま)りし      とそ 《割書:補》 冬(ふゆ)の猟(かり)に利(り)  ありとす又 海(うみ)河(かは)にて魚(うを)を  とるを魚猟(きよれう)と云 【右頁下段】 猟師(れうし) 《割書: かり|  うど》 【左頁上段】 ○瞽者(こしや)は目(め)なき   ものなり盲(もう)    目(もく)盲人(もうじん)とも いふ論語(ろんご)に冕(へん)  者(しや)と瞽者(こしや)とを   見(み)てはと有 《割書:補》 又/琵琶法師(びわほうし)とも  いひてむかしは びわを弾(たん)じ平家(へいけ)  をかたりし今は琴(こと)   三絃(さんけん)をわさとす  座頭(ざとう)ともいふ尤(もつとも)   検校(けんげう)勾当(こうとう)四分(しぶん)    などゝて位階(ゐかい)        あり 【左頁下段】 瞽者(こしや) 《割書: もう|  もく》 【上欄書入れ】71     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十八     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十八 【右頁上段】 ○販婦(はんふ)はあき   なひをする 女(をんな)をいふ買婆(ばいば)   ともいふなり 《割書:補》 都(みやこ)にはすくなし  鄙(いなか)におほく   あるもの也 ○乞児(きつじ)は乞丐人(こつがいにん)   なり又/乞(こつ)    食(じき)とも      いふ ものもらひ  なり又/非人(ひにん)    ともいふ 人/非(ひ)人/外(ぐわい)の義      なり 【右頁下段】 乞児(きつじ) 《割書:  ものもらひ》 販婦(はんふ)《割書: | |ひさき|    め》 【左頁上段】 ○漁父(ぎよほ)はすな   どりするもの なり燧人氏(すいじんし)の  世(よ)に天下(てんか)に水(みづ) おほし故(ゆへ)に人(ひと)  におしゆるに 漁(すなどり)をもつてす  《割書:補》   今/猟師(れうし)と    いふなり ○舟子(しうし)は今いふ   船頭(せんどう)なり海(うみ) を渡(わた)す舟(ふね)に有  又/篙工(かうこう)とも棹(とう) 子(し)ともいふ但(たゝ)し  川舟(かはふね)にも船頭(せんどう)と         云 【左頁下段】 漁父(きよほ) 《割書: すなどり》 舟(しう) 子(し) 《割書:ふなこ》 【上欄書入れ】72      【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十九     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         十九 【右頁上段】 ○牧童(ぼくどう)は広野(くわうや)   にて牛馬(きうは)    に牧(まき)する  童(はらわ)なり牧童(ほくとり)   遥(はるかに)指(さす)杏花(きやうくはの)    村(そん)と詩(し)に  も作(つく)れり牛飼(うしかひ)   はらわなり必(かならず)     笛(ふへ)を吹(ふく)  よつて牧笛(ぼくてき)と いふ詩(し)に牧童(ぼくどう)寒(かん)   笛(てき)倚(よつて)牛(うしに)吹(ふく)と  いへるも太平(たいへい)      の姿(すかた)       なり 【右頁下段】 牧童(ぼくどう) 《割書: うし|  かひわら|      わ》 【左頁上段】 ○鏡造(かゞみつくり)鏡(かゞみ)と   いふは神代(かみよ)に 天(あま)の糠戸(ぬかど)といふ  神(かみ)天照太神(てんしやうだいしん)   の御影(みかげ)を うつして始(はしめ)て  つくり給ふと也 《割書:補》 鏡(かゞみ)は姿(すかたの)善悪(よしあし)  を見(み)るも心(こゝろ)の    曲直(きよくちよく)を 正(たゞ)し改(あらた)めんが為(ため)  なりとかや 神前(しんぜん)に鏡(かゞみ)を  掛(かゝ)るもこの   いわれなるべし 【左頁下段】 鏡造(かゞみつくり) 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH. NATIONALE ・ 【上欄書入れ】73      【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿 【右頁上段】 ○娼婦(しやうふ)は倡優(しやうゆう)と て女の楽(かく)を奏(そう)する ものなり娼(しやう)は誤(あやま)り なり倡(しやう)と書(かく)べし 又/倡妓(しやうき)ともいふと有 《割書:補》 是むかしの事にて 今は絶(たへ)てなき也/敢(あへ) て聞及(きゝおよ)ばす中比(なかごろ)白(しら) 拍子(びやうし)といふものあり 今いふ遊女(ゆふぢよ)舞子(まいこ) などの類(たぐひ)ならんか 傾城(けいせい)又/傾国(けいこく)など いふものは別(べつ)なるもの ならんむかしより ありしやうに聞(きゝ)    及びしなり 【右頁下段】 娼婦(しやうふ) 《割書:   うかれめ》 遊女(ゆうぢよ)《割書: |う| かれめ》 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH. NATIONALE ・ 【左頁上段】 又/髹工(きうこう)ともいふ  蒔絵師(まきゑし)と いふも此(この)類(るい)の   ものなり ○渉人(せうじん)は渡(わたし)    守(もり)なり 大河(おほかは)小川(こがは)を  舟(ふね)にてむか ふのきしへわた  すものなり 大河(おほかは)には   所々(しよ〳〵)に舟(ふな)  わたしありて 往来(わうらい)の人の  たすけと   なるなり 【左頁下段】 渉(せう)  人(じん) 《割書:わた|  し| もり》 【上欄書入れ】74      【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿一 【左頁の「髹工ともいふ蒔絵師といふも此類のものなり」は106コマ「漆匠」の乱丁か。】     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿一  ○駕輿丁(かよてう)は   駕輿(かご)かきの     事なり 酒(さけ)を漉酌(こしかい)   藤二【杜氏】を漉酌(ろくしやく)    といふすぐれ て大なる男(おとこ)とも  なり駕(かご)かく男(おとこ)   も漉酌(ろくしやく)といふ ○浪人(らうにん)とは所領(しよれう)に   はなれて流(る)     浪(らう)する 人をいふ牢人(らうにん)と  書(かく)はあやまり     なり 【右頁下段】 駕(か)輿(よ)  丁(てう) 《割書: かごかき|  ろく|   しやく》 【左頁上段】 ○傀儡師(くわいらいし)は   人形(にんぎやう)まはし の事なり  でくゞつと いふ淡路島(あはぢしま)   といふ所より 毎年(まいねん)正月に  きたりしよし 近年(きんねん)絶(たへ)てこの  ものなし又 田楽法師(でんがくほうし)と  いふものありし よし今(いま)はその  名(な)ばかり残(のこ)     れり 【左頁下段】 傀儡師(くわいらいし)《割書:でくゞつ》 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH. NATIONALE ・ 【上欄書入れ】75      【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿二     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿二 【右頁上段】 ○車借(くるまかし)は車(くるま)つかひ の事なり鳥羽(とば)白(しら) 川(かは)にあるよし庭訓(ていきん) にみへたり今はさが 其外(そのほか)所々(しよ〳〵)にある也 天子(てんし)の車(くるま)つかひを 御者(ぎよしや)とも徒御(くるまぞへ)と も舎人(とねり)ともいふ ○問丸(とひまる)は今(いま)いふ問(とひ) 屋の事なり売買(ばい〳〵) の相場(さうば)を毎日(まいにち)問(とひ) あはする宿(やど)なり よつて問(とひ)屋と云 又/道中(だうちう)にて問(とひ)屋 といふは馬(むま)駕輿(かご)を 出す所(ところ)なり 【右頁下段】 くるま   つかひ 問(とひ)  丸(まる) 《割書: とひや》 【左頁上段】 ○馬借(ばしやく)は馬奴(まご) 又は馬口労(ばくらう)とも いふ大津(おほつ)坂本(さかもと)の 馬借(ばしやく)と庭訓(ていきん)に あり今(いま)は馬(むま)さし を馬借(ばしやく)といふ又 馬口労(ばくらう)といふもの 別(べつ)にありて牛馬(ぎうば) の売買(うりかい)のせわを する者(もの)なり ○伯楽(はくらく)は馬(むま)の病(やまひ) をりやうぢする人 を伯楽(はくらく)といふむか しは京(きやう)室町(むろまち)にゐ けるにや室町の 伯楽(はくらく)と庭訓(ていきん)に有 【左頁下段】 馬借(ばしやく) 《割書: むまさし》 《割書:むま| くすし》  伯楽(はくらく) 【上欄書入れ】76     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿三     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿三 ○土器(かはらけ)は京(きやう)   西山(にしやま)嵯峨(さが) 又/北山(きたやま)畑枝(はたゑだ)  下(しも)は深草辺(ふかくさへん) よりつくり出(いだ)   せり庭訓(ていきん) にも嵯峨(さが)  がはらけとあり ○大原(おはら)の黒木女(くろぎめ)は   京/北山(きたやま)大原(おはら) の女(をんな)黒木(くろぎ)をいたゞ  きて京(きやう)に出(いで)て あきなふ事は  むかし平(たいら)の惟盛(これもり) の妻(つま)阿波(あわ)の内侍(ないし)  平家(へいけ)亡(ほろ)びて後(のち) 【右頁下段】 土器(かはらけ)   師(し) 大原(おはらの)  黒木女(くろぎめ) 【左頁上段】 おはらに住(すみ)  て世(よ)わたり のため売(うり)給ひし  より始(はじま)れり そのほか八瀬(やせ)  又は雲(くも)が畑(はた)高(たか) 雄(を)の梅(むめ)が畑(はた)など  同く女(をんな)木柴(きしば) をあきなふなり ○屠者(としや)は牛(うし)馬(むま)の   肉(にく)を屠(ほふり)割(さく)もの なり今いふ   穢多(えた)なり  又/屠児(とじ)とも    いふなり 【左頁下段】 《割書: ゑた》 屠(と)  者(しや) 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH. NATIONALE ・ 【上欄書入れ】77     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿四     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿四 ○中国(ちうごく)は中華(ちうくは)とも漢(かん) とも唐(とう)どもいふ近(ちか)き比(ころ) まで明(みん)といひしが韃(たつ) 靼(たん)にしたがひ今(いま)は大(たい) 清(しん)といふみやこなり ○朝鮮国(てうせんごく)はむかしは三(さん) 韓(かん)とて三/国(ごく)なり新羅(しんら) 百齊(はくさい)高麗(かうらい)といひしが 今(いま)は一/国(こく)もなる日本(につほん)に したがふなり ○琉球国(りうきうごく)は中山国(ちうざんごく)と名(な) つく日本(につほん)にしたがへり男(おとこ) は羽毛(うもう)をもつて冠(かんふり)とし 珠玉(しゆぎよく)をかざる女(をんな)は白羅(うすもの) をもつて帽(はう)として雑(ざつ) 毛(もう)を衣(ころも)とす 【右頁下段】 中国(ちうごく) 琉球(りうきう) 朝鮮(てうせん) 【左頁上段】 ○天/竺(ちく)は仏(ほとけ)出(いて)し所(ところ)也 また大国(たいこく)の大熱国(だいねつこく) なり国内(こくない)に聖水(せいすい)あ りてよく風濤(ふうたう)をや む商人(あきびと)瑠璃(るり)の壺(つぼ)を もつて水(みづ)をもりたくはふ ○蒙古(もうこ)は韃靼(たつたん)の一種(いつしゆ) なりむかし日本(につほん)へ攻(せめ)来(きた)り 神風(じんふう)に吹(ふき)破(やぶ)られしと なり是(これ)を蒙古国(むくりこく)裏(り)といふなり ○肅慎(しくしん)は女直(ぢよちよく)とも女(じよ) 真(しん)ともいふ国人(くにひと)足(あし)かる くして道(みち)をゆく事 鳥(とり)のとぶかごとしよつ てあしはせと名(な)づく 【左頁下段】 天竺(てんぢく) 蒙古(もうこ) 肅慎(しくしん) 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH. NATIONALE ・ 【上欄書入れ】78     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿五     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿五 【右頁上段】 ○占城(せんせい)はちやんはん といふ安南(あんなん)に近(ちか) き国(くに)なり大象(だいざう) 多(おほ)し国に鰐(わに)有 公事(くじ)訴訟(そせう)の者(もの) ありて《割書:補》理非(りひ)分明(ふんみやう) なれば鰐(わに)にあたふ 科(とが)あるものは鰐(わに)こ れを食(くらふ)といへり ○安南国(あんなんこく)は交趾(かうち) とも東京(とんきん)とも云 男子(をとこ)は盗(ぬすみ)をこのみ 女は淫(いん)をこのむ女(をんな) をめとるに媒(なかだち)なし みづからあひ合(あふ)国(くに) に肉桂(につけい)おほし《割書:補》他国(たこく) 【右頁下段】 占城(せんせい) 《割書: ちやん|   はん》 【左頁上段】 にいだす此/国(くに)の肉(につ) 桂(けい)を上品(じやうひん)とす ○暹羅(せんら)は国(くに)に海(かい) 浜(ひん)おほし男子(なんし)はい とけなきより陽(やう)を さく甘波邪(かぼちや)とも いふ此国(このくに)の染色(そめいろ)を にせて日本(につほん)にしや むろといふなり ○東番(とうばん)はたかさご 《割書:補》 とも又たいわん国 ともいふ安南(あんなん)にちか きゑびす国(くに)なり 《割書:補》 むかし国性耶(こくせいや)この 国(くに)をきりとり住(ぢう)せ しなり今(いま)唐(とう)に従(したが)ふ 【左頁下段】 安南(あんなん)《割書:かうち》 暹羅(せんら) 《割書:  しやむろ》 東番(とうばん) 《割書:  たかさご》 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH. NATIONALE ・ 【上欄書入れ】79     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿六     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿六 【右頁上段】 ○南蛮(なんばん)は阿媽港(あまかう) 人(じん)なり阿蘭陀(おらんだ)も 此/類(るい)なり《割書:補》すへて 南(みなみ)の島国(しまぐに)をなん ばんといふ其(その)品類(ひんるい) 多(おほ)くありて人物(じんぶつ) 種々(しゆ〴〵)にわかれり 西(にし)のゑびすを西(せい) 戎(じう)といふ是(これ)もその 数(かず)多(おほ)くあり ○東夷(とうゐ)は蝦夷人(ゑぞびと) なり人物(じんぶつ)勇猛(ゆうまう)に して常(つね)に山野(さんや)に 出(いで)て獣(けだもの)を射(ゐ)とり 《割書:補》 又は海中(かいちう)の魚類(きよるい) をとりて食(しよく)とす 【右頁下段】 南蛮(なんばん)《割書:みなみの| ゑびす》 東夷(とうゐ)《割書:ひがしの| ゑびす》 《割書: ゑぞ》 呂宋(りよそう)《割書: |るすん》 【左頁上段】 ○惣(さう)じて中国(ちうこく)より 東(ひがし)にある島国(しまぐに)を 東夷(とうゐ)といひ西(にし)に有 島国(しまぐに)を西戎(せいじう)といひ 南(みなみ)にあるを南蛮(なんばん) といひ北(きた)にあるを 北狄(ほくてき)といふ ○呂宋(りよそう)はるすんと て中国(ちうごく)にちかき 国(くに)なりよく器(うつはもの)を 製(せい)し絹(きぬ)をおり いだす ○長脚(ちやうきやく)は足(あし)ながき 国(くに)なりよくはし る事/獣(けだもの)のごとし 【左頁下段】 長脚(ちやうきやく) 《割書: あし|   なが》 【縦長楕円印 朱】MSS/BIBLIOTH. NATIONALE ・ 【上欄書入れ】80     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿七     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿七 ○長臂国(ちやうひごく)は 東海(とうかい)の  しまぐになり 国人(くにびと)手(て)ながく  して地(ち)にたる 布衣(ふい)をきる  長(たけ)一/丈(じやう)三尺八寸 又/臂(ひぢ)なき  くにもあり  無臂国(むひごく)といふ 又/臂(ひぢ)ひとつ   ある国(くに)も  あり一臂国(いつひこく)    といふ      なり 【右頁下段】 長(ちやう) 臂(ひ) 国(ごく) 《割書: てなが|   じま》 【左頁上段】 ○崑崙(こんろん)は西南(せいなん) の海中(かいちう)の島国(しまぐに)也 その人物(しんぶつ)色(いろ)くろ きこと黒漆(こくしつ)のご とし海底(かいてい)に入(いり)て 自由(じゆう)をなすまた よく高(たか)きにのぼる ことを得(え)たりと よつて異国(ゐこく)の渡(と) 海(かい)の船(ふね)にはかならず 此(この)崑崙(くろんぼう)をした がへりといふ世(よ)に色(いろ) 黒(くろ)きものを崑崙(くろん) 坊(ぼう)といふなり 【左頁下段】 崑(こん)崙(ろん) 《割書: くろ|  ぼ|   う》 【上欄書入れ】81     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿八     【柱】頭書増補訓蒙図彙四         廿八 【右頁上段】 ○小人(しやうじんごく)此(この)国(くに)東(とう) 方(ばう)にあり身(み)の長(たけ) 九/寸(すん)又は一/尺(しやく)五/寸(すん)と もいふ此(この)国(くに)に鶴(つる)に 似(に)たる鳥(とり)ありて小(しやう) 人(じん)をとりくらふこれを おそれてひとり行(ゆく) ことなしあまたつれ たちゆくといへり ○長人国(ちやうしんごく)はむかし明(みん) 州(じう)の人(ひと)難風(なんふう)に船(ふね)を 吹(ふき)ながされてある 島(しま)にいたる人(ひと)の長(たけ) 一/丈(じやう)余(よ)なりよく水(みづ) をおよぐとなり 【右頁下段】 長人(ちやうじん)  国(ごく) 《割書: せたかじまと|      いふ》 小人(しやうじんごく) 《割書: こびとじまと|     いふ》 【左頁】 頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻(くはん)之五    身体(しんたい)【體】《割書:此部(このぶ)には耳目(みみめ)鼻口(はなくち)毛髪(けかみ)頭足(かうへあし)のたぐひ|すへて人(ひと)の身(み)のうへの事あるなり》 【左頁上段】 ○頭(づ)頂(いたゞき)顖(おどりこ)蟀谷(こめかみ)【蜶谷】額(ひたい)頬(ほう)輔(つら) 車(がまち)頷(おとがい)頸(くび)結喉(のんど)このほか靨(ゑくぼ) 黒子(ほくろ)黒痣(あざ)皺(しは)など有/首(しゆ)同 ○口(くち)吻(ふん)咡(じ)ともにくちわき とよめり脣(しん)はくちびる人中(にんちう) ははなの下のみぞ齶(がく)はあぎと ○目(め)眼(まなこ)は肝(かん)の臓(ざう)のつかさ どる所なり睛(ひとみ)眸(まな)眶(まかぶら)瞼(まぶた)外(ま) 眥(しり)内眥(まがしら)眵(まぐそ)翳(まけ)【「翳」ひまけヵ】涙(なみだ)雀目(とりめ)近(ちか) 視(め)瞟眼(すがめ) ○耳(みゝ)は腎(じん)のつかさとる所也 【左頁下段】 頭(づ)《割書:かしら》    蜶谷(こめかみ)     頸(くび)        頬(ほう) 輔車(つらがまち) 顖(あたま) 額(ひたい)      頷(おとがい) 結喉(のんど)        頬(ほう) 輔車    蜶谷(こめかみ)     頸(くび) 耳(に)《割書:みゝ》 輪廓(りんかく) 垂珠(すいしゆ) 鼻(び)《割書: |はな》 口(こう) 《割書:くち》 目(もく) 《割書:め》 上瞼 外眥 下瞼 上眥 眉(び) 《割書:まゆ》 歯(し) 《割書:は》 牙(げ)《割書:きば》   板(いた)歯(ば) 【上欄書入れ】Fasc.4   4  82     【柱】頭書増補訓蒙図彙五         一     【柱】頭書増補訓蒙図彙五         一 【右頁上段】 輪廓(りんくわく)はみゝのわ垂珠(すいしゆ)はみゝの たびら耳門(にもん)はみゝのあな完(くわん) 骨(こつ)はみゝのほね■(てい)【日+丁、耵ヵ】聹(ねい)はみゝ くそ聤耳(ていに)はみゝだり聾(しう)は みゝしひ ○鼻(はな)は肺(はい)のつかさとる所 なり頞(あつ)ははなばしら鼻梁(びりやう) 同/準(じゆん)はなさき皶鼻(さひ)はざ くろばな洟(てい)すゝばな衂(ちく)は はなぢなり ○眉(まゆ)年(とし)たけたるを眉寿(びじゆ) といふ睫(まつげ) ○歯(は)は骨(ほね)のあまり腎(じん)のつか どる【つかさどるヵ】所なり牙(きば)板歯(むかば)齨(うす) 歯(ば)齲歯(むしくひば)齦(はぐき)齗(同)歯(は)■(がすみ)【「浦+土」。歯垽(はがすみ)ヵ】 ○舌(した)は釈名(しやくみやう)に舌(ぜつ)は巻(けん)なり 【右頁下段】 舌(ぜつ)《割書:した》 鬚(すう)《割書: |したひげ》 髭(し)《割書:うは|  ひげ》 鬢(びん) 髪(はつ)《割書: |かみ》  筋(きん)《割書:す| ぢ》 毛(もう)《割書:け》 顱(ろ)《割書:は| ち》 骨(こつ)《割書: |ほね》 【左頁上段】 食物(しよくもつ)を巻(まき)制(せい)して落(おち)ざら しむ涎(ぜん)はよだれ唾(だ)はつば き心(しん)の臓(さう)これをつかさどる ○髪(ばつ)は頭髪(づばつ)なり胎髪(たいばつ) はうぶかみ髻(けい)はもとゞりなり 鬟(くわん)はみづら ○鬚(すう)は釈名(しゃくみやう)に秀(しう)なり 物(もの)成(なつ)て秀(ひいで)人(ひと)成(なつ)て鬚(ひげ)生(しやう) す髯(せん)はほうひげ ○髭(し) 字彙(じい)に髭(し)は口上(こうじやう) の毛(け)を髭(し)といふ下にある を鬚(すう)といふ頬(ほう)にあるを髯(せん) といふなり ○鬢(びん)は額(ひたいの)傍(かたはら)の髪(かみ)也/鬂(びん)髩(びん) 同/䭮(ふつ)はひたいがみ蝉髩(せんびん)はつと ○筋(すぢ)は絡脈(らくみやく)【脉】なり肝(かん)の臓(ざう) 【左頁下段】 腹(ふく)《割書:はら》    肋 缺盆 胸 鳩尾 臍 小腹    肋 背(はい)《割書:せなか》  腢   膁     臀   胛 ■【月+毎】 項  脊     尻   胛 ■【月+毎】  腢   膁     臀 【上欄書入れ】83     【柱】頭書増補訓蒙図彙五         二     【柱】頭書増補訓蒙図彙五         二 【右頁上段】 のつかさどる所なり色(いろ)あをし 醋(す)をのめば筋(すぢ)ゆるぐ ○毛(け)は血(ち)のあまりなり毫(がう) 同/肺(はい)のつかさどる所なり 旋毛(せんもう)つし皮(ひ)かわ膚(ふ)はだへ 皴(しゆん)しは ○顱(ろ)は頭骨(づこつ)なり顱会(ろくはい)は 頭(かしら)のはち髑髏(どくろ)はしやれかう へ脳(のう)はなづき ○骨(こつ)は肉核(にくかく)なり骸(かい)同/髄(すい) ほねのあぶら節(せつ)ふし ○腹(はら)欠盆(かたほね)【缺盆】胸(むね)肋(あはらぼね)鳩尾(みづをち) 臍(ほそ)小腹(ほがみ)乳(ち)肚(わきばら)前陰(ぜんいん)陰(いん) 茎(きやう)陰嚢(いんのう)脂似(しじ)なり ○背(せなか)項(うなじ)肩(かた)腢(かたさき)胛(かひかね)■(そじゝ)【月+毎。膂宍(そじし)】腰(こし) 膁(よはごし)髂(こしぼね)尻(しり)臀(いざらひ)膂(せほね)脊(せ) 【右頁下段】 脚(きやく) 《割書: あし》 腿(たい) 《割書:もゝ》 膕(くわく)《割書:ひかゞみ》  腓(ひ)《割書: |こむら》  内踝(ないくわ)《割書:うち| くるぶし》 踵(てう) 《割書:きび| す》 内臁(ないれん) 《割書: むかばき》 跗(ふ) 《割書:あしの| かう》 蹠(せき) 《割書:あしの| うら》 手(しゆ) 《割書: て》 掌(しやう)《割書:たな| ごゝろ》 腕(わん) 《割書:うでくび》 臂(ひ)《割書: ひぢ》 肱(かう)《割書:かい| な》 肘(ちう)《割書:ひぢしり》 【左頁上段】 ○手(て) 掌(しやう)はたなごゝろ腕(わん)は たゞむきうで臂(ひ)はひぢ肘(ちう)は ひぢしり肱(かう)はかいな ○脚(あし) 足(そく)同/胯(こ)また腿(たい)もゝ 膝(しつ)ひざ脛(けい)はぎ臁(れん)むかばき 膕(こく)ひつかゞみ腓(ひ)こむら跗(ふ)あし のかう蹠(せき)あしのうら踵(てう)くびす ○指(ゆび)大指(たいし)おほゆび拇(ぼ)同/食(しよく) 指(し)ひとさしゆび中指(ちうし)たけたかゆ び又/将指(しやうし)ともいふ無名指(むみやうし)べに つけゆび小指(しやうし)こゆび又季指(きし)共いふ ○掌(けん)は手(て)を屈(かゞむ)るなりにぎ りこぶしなり ○乳(ち) 説文(せつもん)に人(ひと)および鳥(とり)子(こ) をうむを乳(にう)といふ獣(けだもの)を産(さん)と いふ嬭(ねい)奶(ない)ならびに同じ 【左頁下段】 拳(けん)《割書:こぶし》 肋(ろく) 《割書:あばら| ぼね》 指(し)《割書: |ゆび》 心(しん)《割書:むね|こゝろ》 《割書:肺系|脾系|肝系|腎系》   肺(はい)《割書:ふく〳〵|   し》 乳(にう)《割書:ち》 脾(ひ)《割書:よこし》 【上欄書入れ】84     【柱】頭書増補訓蒙図彙五         三     【柱】頭書増補訓蒙図彙五         三 【右頁上段】 ○肋(あはらほね)は釈名(しやくみやう)に肋(ろく)は勒(ろく)なり 五/臓(ざう)を検勒するゆゑん也 かたはらぼねたすけのほね あばらぼね液(えき)脇(けう)脅(けう)なら びにわきなり ○心(しん)は五/臓(ざう)のうちにして 一身(いつしん)の主(しゆ)なり胸(むね)のあいだ にあり色(いろ)あかし火(ひ)なり ○肺(はい)は五/臓(ざう)のうちなり胸(むね) のあいたにあり蓮花(れんげ)をうつ むけたるかたちのごとし 六/葉(よう)両耳(りやうに)あり孔(あな)ありて よく声(こゑ)をいだし痰(たん)を生(しやう) ず色白し金(かね)なり ○脾(ひ)は五/臓(ざう)のうちなり土 なり食(しよく)ふくろなり色(いろ)黄(き) 【右頁下段】 腎(じん)《割書: |むらと》 膽(たん)《割書:ゐ》 肝(かん)《割書:きも》 膀(ぼう) 胱(くわう)《割書: |ゆばり》 包絡(はうらく)   胃(い)《割書:くそ| ぶくろ》 【左頁上段】 なり腹(はら)の中脘(ちうくわん)にあり ○腎(じん)は五/臓(ざう)のうちなり 腰(こし)にあり水(みづ)なり色(いろ)くろ しかたち卵(たまご)のごとし左(ひだり) にあるは腎(じん)なり右(みぎ)に有 は命門(めいもん)なり ○肝(かん)は五/臓(ざう)のうちなり 左(ひだり)のわきにあり木(き)なり 【左頁下段】 臓(ざう) 腑(ふ) 腸(ちやう)《割書:はらわた》 小(せう) 腸(ちやう) 大(だい) 腸(ちやう) 胞胎(はうたい)《割書:はら| ごもり》  胎衣(たいい)《割書:ゑな》 膻中  臍  丹田  溺道  精道  穀道  尻 脳 髄海 至陰 通骶 喉通気 咽通食 肺 肺 肺 肺 肺 肺 心 心包 脾系 胃系 肝系 腎系 隔膜 脾 脂𫆳【月+曼】 幽門 胃 賁門 肝 肝 肝 肝 肝 肝 膽 腎 小腸【膓】 闌門 大腸【膓】膀胱 命門 直腸【膓】   【上欄書入れ】85     【柱】頭書増補訓蒙図彙五         四     【柱】頭書増補訓蒙図彙五         四 【右頁】 色(いろ)あをし七/葉(よう)あり魂(こん)のかくるゝ所なり○膽(たん)は肝(かん)の臓(ざう)の腑(ふ)なり肝(かん)の下に有 膽(たん)のぼるときは人いかりを生(しやう)ず○小腸(しやうちやう)は心(しん)の臓(さう)の腑(ふ)なり色(いろ)あかし小便(しやうべん) これよりつたへて膀胱(ばうくわう)にいづるなり○大腸(だいちやう)は肺(はい)のさうの腑(ふ)なり腰(こし)にあり 十六/廻(くわい)あり色(いろ)しろしはらわたといふはこれなり○胃(ゐ)は脾(ひ)のざうの腑(ふ)なり食(しよく) 物を脾(ひ)よりつたへて大腸(だいちやう)にをくるくそぶくろなり○包絡(はうらく)は心包絡(しんはうらく)なり命門(めいもん) の下/右腎(うじん)の上にあり心包絡(しんはうらく)といふその腑(ふ)を三/焦(せう)といふ○膀胱(はうくわう)は腎(じん)の臓(ざう)の腑(ふ) なり小便(しやうべん)ぶくろなり水分(すいぶん)の穴にて水(すい)穀(こく)分利(ぶんり)して穀(こく)は大腸(だいちやう)へゆき水(みづ)は膀胱(ばうくわう) へゆくなり ○臓腑(ざうふ) 心(しん) 肝(かん) 腎(じん) 肺(はい) 脾(ひ)を五/臓(ざう)といふ小腸(しやうちやう) 大腸(だいちやう) 胃(ゐ) 膀胱(ばうくわう) 三/焦(せう) 膽(たん)を六/腑(ふ)と いふ○包胎(はうたい)はらごもりなり五/臓論(ざうろん)に曰一月は珠(たま)露(つゆ)のごとし二月は桃花(もゝのはな)のごと し三月は男女(なんによ)わかる四月は形象(かたち)そなはる五月は筋(すじ)骨(ほね)なる六月は毛(け)髪(かみ)生(しやう)ず 七月はその魂(こん)をあそはしむ児よく左(ひだり)の手(て)をうごかす八月はその鼻(はな)をあそばしむ 児(に)よく右(みぎ)の手(て)をうごかす九月は三たび身(み)を転(てん)す十月は気(き)をうくる事/足(たる) 【左頁】 頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻之六   衣服(いふく)《割書:此部(このぶ)には衣裳(いしやう)冠帯(くわんたい)すべて|きる物(もの)のたぐひあり》 【左頁上段】 ○冕(へん)は天子(てんし)の冠(かふり)なり十二/流(りう)有 前(まへ)にたれたるは邪(よこしま)を見まじき ためなり旁(かたはら)に黈纊(とうくはう)といふ物あり 讒言(さんげん)を聞(きく)まじき為(ため)なり ○冠(くわん)は貫(くわん)なり髪(かみ)を貫(つらぬき)つゝむ也 と釈名(しやくみやう)にみへたり冠(かんむり)は首(かしら)にある ゆへ元(けん)に从(したが)ふ法制(ほうせい)有ゆへ寸(すん)に从 ○和冠(わくわん)は漆塗(うるしぬり)にして紗(しや)也/髪(かみ)を おほふ物を巾子(こし)と云うしろに立(たち) たる物を羅(ろ)と云/貫(つらぬく)物を串(くし) といふ又/簪(かんざし)ともいふ ○纓(ゑい)は冠(かむり)のうしろにたるゝ物也 今/燕尾(ゑんび)といふ紗(しや)にて作(つく)る 【左頁下段】 ○冕(べん) 《割書:たま| の|かむり》 冠(くわん)《割書:かう| ぶり|かむり》 巾子  簮  串 緌(い) 纓(えい) 唐冠(たうかふり) 官 品ノ 玉- 冠 【上欄書入れ】86     【柱】頭書増補訓蒙図彙六         一     【柱】頭書増補訓蒙図彙六         一 【右頁上段】 ○幞(ぼく)は後周(ごしうの)武帝(ふてい)のつくり はじめ給ふ唐人(とうじん)のかむり也 幅巾(ひとはゞのぬの)を戴(たい)して四/脚(あし)を出す ○緌(い)は両方(りやうはう)耳(みゝ)をおほふ物なり 冠(かむり)の紐(ひも)なり領【訓蒙図彙では「頷」】の下に垂(たる)る物也 ○巾(きん)は頭巾(づきん)なりその製(せい)品(しな) おなじ方(けた)なるを巾(きん)といひ円(まとか) なるを帽(ばう)と云ともいへり ○帽(ばう)は頭衣(づい)なり唐(もろこし)には上 官(くわん)より下官(げくわん)にいたるまでも 帽(はう)をきる冠(かむり)の下(した)にきる物なり ○帽子(もうす)は僧(そう)の冠(かむり)なり仏会(ぶつゑ) 法事(はうじ)のとききるなり ○笏(こつ)は手板(しゆはん)なり天子(てんし)は玉(たま) 諸候(しよこう)【「候」は侯の当て字】は象牙(ざうげ)太夫(たいふ)は魚須(うをのひれ)文(ま) 竹(だけ)士(し)は木(きに)籀文(こもんじ)をほりてみな 用(もち)ゆ官人(くわんにん)の手(て)にもつ物なり ○烏帽(うばう)は紙(かみ)にてつくり漆(うるし)に 【右頁下段】 幞(ぼく) 幞頭 唐巾 巾(きん) 頭巾(づきん) 帽(ばう) 帽子(もうす) 笏(こつ)《割書: |しやく》  木笏(もくしやく) 牙笏(げしやく) 烏帽(うばう) 《割書: ゑ|  ぼし》 【左頁上段】 てぬるなり左折(ひたりをり)は侍従(じしう)以上 着(ちやく)す右折(みきをり)は五/位(い)已上(いしやう)これを 着(ちやく)す侍従(じじう)以上(いじやう)は糸(いと)の緒(を)四 位(い)已下(いげ)は紙(かみ)の緒(を)にて結(むす)ぶ ○袞(こん)は天子(てんし)の御衣裳(おんいしやう)なり 一に龍(れう)二に山(さん)三に花虫(くはちう)【雉子】四に 火(くは)五に虎(とら)以上/衣(ゐ)に有六に 藻(さう)七に粉米(ふんべい)【米粒】八に黼(ほ)【斧の形】九に黻(ふつ)【「亜」字形】 以上/裳(しやう)にありこれを九/章(しやう) の御衣(ぎよい)といふ ○裳(しやう)は上(うへ)を衣(い)といひ下(した)を 裳(しやう)といふ裳(しやう)の紋(もん)の事/藻(さう) 粉米(ふんべい)黼(ほ)黻(ふつ)なり九/章(しやう)の内(うち) なり天子(てんし)御衣(きよい)の裳(しやう)なり ○珮(はい)は官人(くわんにん)の腰(こし)におぶるもの なり上(かみ)に双衡(さうかう)あり衡(かう)の長(なが) さ五寸ひろさ一寸/下(した)に双璜(さうくはう) あり璜(くはう)のわたり三寸也/蠙(ひん) 【左頁下段】 袞(こん) 裳(しやう) 《割書: も》 珮(はい)《割書:をもの》  帯(たい)《割書: |をび》 【上欄書入れ】87     【柱】頭書増補訓蒙図彙六         二     【柱】頭書増補訓蒙図彙六         二 【右頁上段】 珠(しゆ)をその間(あいた)におさむ ○帯(たい)は字(じ)のかたち珮玉(はいぎよく)を つなぐかたちなり石帯(いしのおび) あり下帯(さげおひ)有/掛帯(かけをび)あり ○袍(はう)はながき繻絆(じゆばん)なり 今(いま)朝廷(てうてい)へ出仕(しゆつし)のとききる 服(ふく)を袍(はう)といふ又ふるわたを いれたる服(ふく)を緼袍(をんはう)といふそ めたるを素袍(すはう)といふ ○衫(さん)は小襦(しやうじゆ)なりはだぎ也 袖(そで)端(はし)なきを衫衣(さんい)といふ又 紗衫(しやさん)布衫(ふさん)偏衫(へんさん)あり 類(るい)おなじ公服(こうふく)の下着(したぎ)なり ○袴(こ)は股衣(こい)なり又/大口(おほくち) 袴(はかま)あり襞襀(ひだ)あり俗(ぞく)に 上下(かみしも)といふ上(かみ)を褶(しう)といひ下(しも) を袴(こ)といふ ○靴(くわ)は革(かは)のくつなり官人(くわんにん) 【右頁下段】 袍(はう)《割書:うへの| きぬ》 衫(さん) 《割書: かた|  びら》 袴(こ)《割書: |は| かま》   靴(くわ)《割書: |くわのくつ》 【左頁上段】 これをはく石公(せきこう)が靴(くつ)李白(りはく) が殿上(でんじやう)の靴(くつ)これなり日本(につほん)に ては鞠(まり)の靴(くつ)これなり官人(くわんにん) 僧(そう)などの韈(くつ)は異(こと)なり ○裾(きよ)は衣裳(いしやう)のあとにさがる ものなり俗にとびの尾(お)と いふなり ○裙(くん)は婦人(ふじん)の下(した)にきる裳(も) なり帬(くん)につくるべし唐(から)に もあかく染(そむ)るゆへに茜(せん)【左ルビ「あかね」】裙(くん)と いふなり ○半臂(はんひ)は楽人(がくにん)又/能衣裳(のふいしやう) などにあり袖(そで)のゆきみじ かくして半(なかば)臂(ひぢ)いづるゆへに なづくるなり ○奴袴(ぬこ)はさし貫(ぬき)のはかま也 禁中(きんちう)にて女中(ぢよちう)のきるは かまなり女のきるは色(いろ)赤(あか)く 【左頁下段】 裾(きよ)   裙(くん)《割書:も》 半臂(はんひ)   奴袴(ぬこ)《割書:かり| ば|  かま》 【上欄書入れ】88      【柱】頭書増補訓蒙図彙六         三      【柱】頭書増補訓蒙図彙六         三 【右頁上段】 そむるなり ○欠(けつ)【缺】掖(ゑき)は大臣(だいしん)のしやうぞく 又は能衣裳(のふいしやう)にあり両掖(りやうわき) 欠(かけ)【缺】ほころびたるゆへになづく ○襟(きん)は衣(ころも)の衽(ゑり)にまじはる 所なり内襟(ないきん)はしたがひ外(げ) 襟(きん)はうはがひなり ○袊(れい)はころものくびなり領(れい) とおなじ綱領(かうれい)要領(ようれい)といふ も領(れい)は衣(ころも)のゑりぐひの事 にとる ○布衣(ほい)は狩衣(かりきぬ)に紋(もん)なきを いふ下官(げくわん)の服(ふく)するものなり 紋(もん)あるを狩衣(かりぎぬ)といふこれは 高位(かうい)のめさるゝ服(ふく)なり ○袖(しう)は衣(ころも)の袂(たもと)なり長袖(ちやうしう)はふ りそで袪(きよ)はそでぐち ○袈裟(けさ)は大衣(たいゑ)七/条(でう)五/条(てう)是(これ) 【右頁下段】 缺(けつ) 掖(ゑき) 袊(れい) 《割書:ゑ|り》 襟(きん) 《割書:ゑり》   布衣(ふい) 袖(しう) 《割書:そ|で》 【左頁上段】 を三/衣(ゑ)といふ大衣(たいゑ)は九/条(てう)より 二十五/条(てう)にいたる僧衣(そうい)なり ○直掇(ぢきとつ)は僧服(そうふく)なりいにしへ は偏衫(へんさん)𢂽(くん)【巾+君】子(す)を服(ふく)すのちに 上下(じやうげ)をつらねて直掇(ちきとつ)と名(な) つくるなり ○魚袋(ぎよたい)は官人(くわんにん)の腰(こし)に帯(おぶ)る ものなり公卿(くぎやう)は金魚袋(きんぎよたい)四(し) 品(ほん)以下(いげ)は銀魚袋(ぎんぎよたい)なり ○革帯(かくたい)は公家衆(くげしう)装束(しやうぞく)の 上(うへ)にする帯(をび)なり金帯(きんたい)玉(ぎよく) 帯(たい)石帯(せきたい)角帯(かくたい)あり ○韤(べつ)はたびなり足袋(たび)と も単(た)【單】皮(び)とも書(かく)なり又は 韤子(へつす)といふ ○絡子(らくし)は又/掛子(くはし)となづく又 掛絡(くはら)ともいふ俗(ぞく)あやまつて 環(くわん)を掛落(くはら)とよぶ 【左頁下段】 袈裟《割書:けさ》   直掇(ぢきとつ) 魚袋(ぎよたい) 韤(へつ) 《割書:したう|   づ》 革帯(かくたい) 《割書:いし|  の| をび》 【上欄書入れ】89      【柱】頭書増補訓蒙図彙六         四     【柱】頭書増補訓蒙図彙六         四 ○幅巾(ふくきん)は白(しろ)ききぬにてつ くる深衣(しんい)をきて緇布冠(しふくわん) してこれをもつて冠上(くわんじやう) をつゝむなり唐人(とうじん)の装(しやう)ぞく也 ○緇布冠(しふくわん)はくろきぬのにて つくるなり ○帨(せい)は手(て)のごひなり帨巾(せいきん) ともいふ手(て)のごひかげを帨(せい) 架(か)といふ ○帕(はく)は紅絹(もみのきぬ)にて額(ひたい)を■(つゝむ)【抺ヵ】 をいふとあり帛(はく)はふくさ物 帊衣(はい)包袱(はうふく)並同 ○履(り)は草(くさ)を屝(ひ)といふ麻(あさ)を 屦(ろう)といふ皮(かわ)を履(り)といふされ ども木(き)にてつくる ○被(ひ)は寝衣(しんい)なり俗(ぞく)に夜(よ) 着(ぎ)といふ又/睡襖(すいをう)ともいふ 又/被(かふむる)_レ襖(ふすまを) 【右頁下段】 絡子(らくし)《割書: | |くは|  ら》 履(り) 《割書:く|つ》 ■(くり)【烏ヵ】皮履(かはのくつ) 淺履(あさぐつ) 幅巾(ふくきん) 緇(し) 布(ふ) 冠(くわん) 被(ひ)《割書:ふすま》 睡襖(すいをう) 帨(せい)《割書: |ての| こい》 《割書:ころも|つゝみ》 帕(はく) 【左頁上段】 ○毛裘(もうきう)は鹿子(かこ)又/狐(きつね)の皮(かは)にて つくる衣服(いふく)なり寒気(かんき)を よくふせぐ異朝(いてう)にて上人(じやうにん) 冬月(とうけつ)これをきる ○深衣(しんい)は儒者(じゆしや)の着(ちやく)する 衣服(いふく)なり白(しろ)き布(ぬの)にてつ くる帯(をび)も白(しろ)し五采(さい)の糸(いと) をもつて帯(をび)のむすひめを 固(かた)む又/黒色(くろいろ)にそむるも有 ○涎衣(せんい)は小児のよだれか けなり■(い)【湋ヵ瑋ヵ。「幃」の当て字ヵ。】涎(せん)同 ○裹脚(くわきやく)ははゞきなり脚(きや) 絆(はん)なり裹脚(くわきやく)は裹(つゝむ)_レ脚(あしを)と よめり又/脛巾(けいきん)行纏(かうてん)行(かう) 縢(とう)ならびにはゞきとよむ ○幄(あく)は上下/四方(しはう)こと〴〵く まとふて宮室(きうしつ)にかたど るを幄(あく)といふ大将(たいしやう)の居(ゐる)所 【左頁下段】 毛(もう)裘(きう)《割書:かはごろも》   涎衣(ぜんい)《割書:よだれかけ》 深(しん) 衣(い) 裹(くわ) 脚(きやく)《割書:きや| はん》 【上欄書入れ】90      【柱】頭書増補訓蒙図彙六         五     【柱】頭書増補訓蒙図彙六         五 なり物見(ものみ)なきを幄(あく)といふ 周(しう)の世(よ)よりはじまれり ○幕(まく)は周(しう)の世(よ)よりはじまれ りよこ幅(はゞ)にして物見(ものみ)あるを 幕(まく)といふ布(ぬの)十二/端(たん)を二/張(はり)と して十二/月(つき)を表(へう)し乳数(ちかず)廿 八を廿八/宿(しゆく)に表(へう)す ○幔(まん)は十二/幅(はゞ)紋(もん)を出(いだ)さず竪(たて) 幅(の)ばかりにして上(うへ)のよこ■(の)【田+町】 なし下(した)のぬひはづし纐(きく) 纈(とぢ)なし乳付(ちつき)又はぬひなく ■【見ヵ】にもするなり ○座具(ざぐ)は僧衣(そうい)なり仏(ほとけ)を礼(らい) するとき下(した)にしく物也/三衣(さんゑ)一(いち) 鉢(はつ)座具(ざぐ)漉水嚢(ろくすいのふ)これを僧(そう) の六/物(もつ)といふ ○縁道絹(えんどうのきぬ)は法事(はうじ)のとき客(きやく) 殿(でん)より堂(だう)へ行(ゆく)道(みち)に布(ぬの)をしく 【右頁下段】 幄(あく)《割書:あ|げ|ば|り》 幔(まん)《割書:と|ば|り》 《割書:まだ| ら|まく》 幕(はく) 《割書:ま| く》 座具(ざぐ) 【左頁上段】 を云又/打敷(うちしき)水引(みづひき)を云ともいへり ○夾衣(かうい)は今(いま)云あはせなり裌(かう) 袷(く)同し単衣(たんい)はひとへもの 絮衣(ぢよい)はわたいれ 表(へう)《割書:お|も|て》裏(り)《割書:う|ら》 ○帳(ちやう)は女(をんじゃ)のかたなる【元禄八年版「かくるる」】所也/几帳(きちやう) 帷帳(いちやう)なり又/蚊帳(かちやう)緞(どん)帳/綿(めん) 帳(ちやう)紙帳(しちやう)あり ○褥(じく)はしとねなり臥具(ぐはぐ)なり 蓐(しく)茵(いん)并(ならびに)同/蓐茵(しくいん)は草(くさ)のし とねなり褥(しく)は絹(きぬ)のしとねなり 俗(ぞく)に蒲団(ふとん)とするは非(ひ)なり 蒲団(ふとん)は円座(えんざ)の類(るい)なり ○降緒(さげを)は刀(かたな)にあり太刀(たち)のは 平緒(ひらを)といふ ○雨衣(うい)はあまがつはなり襏(はつ) 襫(せき)とも云/紙(かみ)にてつくるを油(ゆ) 衣(い)といふ毛織(けをり)の類(るい)にてする を氈(せん)【毡】衣(い)と云/此(この)図(づ)は異朝(いてう)の 【左頁下段】 縁(えん) 道(どうの) 絹(きぬ) 降緒(さげを) 帳《割書:ちやう|かや》 夾(きやう) 衣(い) 《割書:あ| わ|  せ| き|  ぬ》 褥(しく)《割書:し|とね》 【上欄書入れ】91      【柱】頭書増補訓蒙図彙六         六     【柱】頭書増補訓蒙図彙六         六 【右頁上段】 氈(せん)【毡】衣(い)なり ○浴衣(よくい)はゆかたびらなり又/明(めい) 衣とも書(かく)なり又ゆてのごひ を浴巾(よくきん)といふ ○蔽膝(へいしつ)ひざをおほふとよめり まへたれなり韠(ひつ)同 ○鞋(かい)は糸鞋(いとぐつ)麻鞋(まぐつ)あり草鞋(わらんぢ) は屩(わらぐつ)とも屝(わらぐつ)とも書(かく)べし ○屐(げき)は木履(ぼくり)なり俗(ぞく)にあし だといふはなをゝ屐系(げきけい)と云 又/鼻縄(びじやう)といふ又/檋(や?しき)【かしきヵ。かんじき】といふ物 あり雪中(せつちう)にはく物なり ○嚢(ふくろ)底(そこ)あるを嚢(のう)といひ底(そこ) なきを橐(たく)といふともにふく ろなり袋(たい)同 ○道服(だうぶく)は道者(だうしや)の衣服(いふく)なり 胴服(どうぶく)とかくはあしゝ俗(ぞく)これを はおりといふ 【右頁下段】 雨衣(うい) 《割書:あま| がつは》 蔽膝(へいしつ) 《割書: まへだれ》 浴(よく) 衣(い) 《割書:ゆ| かた| び|  ら》 嚢(のう)《割書:ふくろ》 鞋(かい)《割書:いと| ぐつ》 絲鞋(しかい) 《割書: わら| ぐつ》 草(さう) 鞋(かい) 屐(げき) 《割書:あし|  だ》 木(ぼく) 履(り) 【左頁】 頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻之七   宝貨(はうくは)《割書:此部(このぶ)には金銀(きん〴〵)珠玉(しゆぎよく)銅鉄(とうてつ)石(せき)甲(かう)錦(きん)|鏽(しう)【元禄八年版は「繍」】綾羅(れうら)すべて一さいの宝(たから)をあつむ》 【上段】 ○金(きん)は紫磨(しま)黄金(わうこん)沙金(しやきん)な どあり日本(につほん)にてはむかし 奥州(おうしう)より出(いで)たり鍍金(ときん)はめつ きなり ○銀(ぎん)は白銀(はくぎん)なり南鐐(なんりやう)銀(ぎん) 鉼(べい)など有/俗(ぞく)にはへぶきと云 又/銀鈑(ぎんはん)といふはいたがねなり ○鉛(えん)は青金(せいきん)なり錫(しやく)しろ なまり俗(ぞく)にすゞなまりと云 白鑞(びやくらう)同/鉛(なまり)をやいて丹(たん)となる ○鐵(てつ)は黒金(こくきん)なり鉄(てつ)同/鉎鐵(せいてつ) はなまがね鍒(しう)同し鋼鐵(かうてつ)はは がね鏽(しう)はさびなり日本(につほん)むかし 【下段】 金(きん)《割書:こがね》   銀(ぎん)《割書:しろ|か|ね》   鉛(ゑん)《割書:なまり》 鐵(てつ) 《割書:くろ| かね》 銅(とう)《割書: |あか| がね》   銭(せん)《割書:ぜ| に》   珠(しゆ)《割書:たま》 【上欄書入れ】92      【柱】頭書増補訓蒙図彙七         一     【柱】頭書増補訓蒙図彙七         一 【右頁上段】 は越中(えつちう)より出たり ○銅(とう)は赤金(しやくきん)なり黄銅(くわうとう)鍮(ちう) 石(しやく)真鍮(しんちう)あり又/紫銅(しとう)はから かねなり褐銅(かつとう)同し白銅(はくとう) はさはりかね紫金(しきん)はしやく どうともに山より出る ○説文(せつもん)に銭(ぜに)の字(じ)の旁(つくり)上(うへ)に 一の戈(ほこ)の字(じ)下(しも)に一の戈(ほこ)の字(じ)有 銭(ぜに)は人をころす物にして人 さとらずといへり孔方(こうはう)青銅(せいとう) 鵝眼(ががん)ともに銭(ぜに)の異名(いみやう)なり ○珠(しゆ)は海(うみ)より出るたまを云/珊(さん) 瑚珠(ごじゆ)真珠(しんじゆ)のたぐひなり珍(ちん) 珠(じゆ)蠙珠(ひんじゆ)は貝(かい)のたまなり龍(りやう) 魚(ぎよ)虫(ちう)蛇(じや)の類(るい)みな珠(たま)あり ○玉(ぎよく)は山(やま)より出(いづ)るたまな り石(いし)の美(び)なるものを玉といふ 璞(はく)はあらたまいまだみがゝさる 【右頁下段】 玉(ぎよく)《割書:たま》 《割書:     璞》 礬(はん) 硃(しゆ)《割書: |朱砂  銀朱》 硫(いわう)《割書:ゆの| あわ》    《割書:発|燭》 硝(せう) 《割書:𦬆【芒】硝》 《割書:牙|硝》 磁(じ)《割書:はり| すい| い| し》 砒(ひ)《割書:どく| いし》  《割書:砒霜》 瑪(め) 瑙(のう)    玳瑁(たいまい) 【左頁上段】 物なり唐(もろこし)崑崙山(こんろんさん)より 玉(たま)をいだす ○礬(はん)は礬石(はんせき)なり和名(わみやう)たう すといふ光明(くわうめい)なるを明礬(みやうばん) といふ黒色(くろいろ)なるを黒礬(こくはん)と いふ緑色(みとりいろ)なるを緑礬(ろはん)と云 やきて赤(あかき)物(もの)を絳礬(かうはん)と云 ○硃(しゆ)は朱砂(しゆしや)なり辰州(しんしう)より出(いづ) るを辰砂(しんしや)といふ又/水銀(みうかね)を化(くは) して朱(しゆ)とするを銀朱(ぎんしや)と云 朱砂(しゆしや)は服(ふく)すれば心(しん)を鎮(しづ)め 神(しん)をやしなふ ○硫(いわう)は石硫黄(せきいわう)土硫黄(といわう)あり付(つけ) 木(き)を発燭(はつしよく)といふ硫黄(いわう)の出(いづ)る 山にはかならず温湯(いでゆ)あり 摂州(せつしう)有馬(ありま)又/加州(かしう)の山中(やまなか) なとのごとし ○硝(せう)は硝石(せうせき)なり木硝(もくせう)につくる 【左頁下段】 硨磲(しやこ)    瑠璃(るり) 琥(こ) 珀(はく) 玻瓈(はり) 琅玕(らうかん) 《割書: あをだま》 砥(し) 《割書:あは| せ| ど》 珊瑚(さんご)    熨斗目(のしめ) 礪(れい) 《割書:あら| と》 紗(しや) 《割書:も|じ》 【上欄書入れ】93      【柱】頭書増補訓蒙図彙七         二     【柱】頭書増補訓蒙図彙七         二 【右頁上段】 焔硝(えんせう)火硝(くはせう)ともに同しよく 火(ひ)につく鉄鉋(てつほう)にもちゆ又/芒(はう)【𦬆】 硝(せう)牙硝(げせう)は薬石(やくせき)なり痰(たん)をの ぞき燥(かわき)をうるほし小便(せうべん)を 通(つう)ずる能(のふ)あり ○磁(じ)は山(やま)の陽(みなみ)に鐵(てつ)を産(さん)す るものは陰(きた)にかならず磁石(じしやく) あり二/物(ぶつ)同気(どうき)なればなり よく針(はり)を引(ひき)すものなり ○砒(ひ)は砒石(ひせき)なり大毒(だいどく)あり練(ねり)た る物を砒霜(ひさう)といふ腫物(しゆもつ)の 毒(どく)を消(せう)し瘧(おこり)をきる外科(げくは) の用(もち)ゆる石(いし)なり斑猫(はんめう)と同 しく毒(どく)あり ○瑪瑙(めのう)は玉(たま)なり七/宝(はう)の内(うち) なりこの玉(たま)の色(いろ)馬(むま)の脳(のう)に似(に) たりよつて馬脳(めのう)となづく色(いろ) 黄(き)なり 【右頁下段】 綿《割書:きん》【訓蒙図彙では「錦」】 《割書:に|し|き》     繍《割書:しう|ぬい| もの》 絨(しう) 《割書:びらう| ど》    紅染(もみぞめ) 加(か) 賀(が) 絹(ぎぬ) 縠(こく)《割書:ちり| めん》 《割書:あこ| め》    繻子(しゆす)    繻珍(しゆちん) 綾(りやう)《割書: |あや    》綃(せう)《割書: |すゞし》    緞(たん)《割書:どん|  す》 【左頁上段】 ○硨磲(しやこ)は玉(たま)の名(な)七/宝(ほう)の一つ也 石(いし)の玉(たま)に似(に)たるなり一/名(めい)海(かい) 扇(せん)和名(わみやう)いたやがい ○玳瑁(たいまい)は亀(かめ)の名(な)甲(かう)に文(もん)あり 器(うつはもの)につくるべし櫛(くし)簪(かんざし)香(かう) 合(ばこ)などにつくる ○瑠璃(るり)は玉(たま)の名石(ないし)のひかり あるものなり七/宝(ほう)の内(うち)なり 色(いろ)あをし ○琥珀(こはく)は松脂(まつやに)地(ち)におちて 千年(せんねん)にして琥珀(こはく)となる能(よく) 塵(ちり)をすふ玉(たま)なり色(いろ)黄(き)也 ○玻瓈(はり)は玉(たま)の名七/宝(ほうの)一つ也 西国(さいこく)の玉(たま)なり頗黎(はり)とも かくへし ○琅玕(らうかん)は玉(たま)のひかりあるもの なり崑崙山(こんろんざん)に琅玕樹(らうかんじゆ)有 色(いろ)あをし 【左頁下段】 絹(けん) 《割書:き|ぬ》    線(せん)《割書:より|いと》 絲(し) 《割書:い| と》 絛(たう)  組  紃 《割書:くみ| ひ| ぼ》 綿(めん)《割書: | |わた》    八/丈嶋(じやうじま) 氊(せん) 《割書: もう|  せん》 金(きん) 薄(ばく)    水銀(みづかね) 高麗(かうらい)   織《割書:を| り》 【上欄書入れ】94      【柱】頭書増補訓蒙図彙七         三     【柱】頭書増補訓蒙図彙七         三 【右頁上段】 ○珊瑚(さんご)は海中(かいちう)の珠(たま)なりいろ あかし鐵網(てつもう)をもつて是(これ)を取(とる) 七/宝(ほう)の一つなり ○砥(し)は細(さい)砺(れい)【礪】石(せき)なり硎(まと)とも書(かく)べ し黄砥(わうし)はあはせどなり ○礪(れい)は麁砺石(それいせき)なりあらとなり 磑(あらと)とも書べし ○紗(しや)は金紗(きんしや)銀紗(ぎんしや)紋紗(もんしや)等(とう) ありうすものなり又/法螺漏(ほらろ) などいふ有/戻子(もじ)といふも有 ○熨斗目(のしめ)は筋(すぢ)ある織物(をりもの)也 祝義(しうき)に侍(さふらひ)のきる服(ふく)なり 又/能役者(のふやくしや)などもきるなり ○錦(きん)は五色(ごしき)の糸(いと)を織(をり)て錦(にしき) とす俗(ぞく)にいふ金襴(きんらん)の類(たぐひ)也 ○繍(しう)は五/采(さい)の刺文(しもん)なり ぬいもの ○絨(じう)は細毛布(さいもうふ)なりその美(び)な 【右頁下段】 革(かく) 《割書:つくり| かは》  《割書:韋》  《割書:革》    鐵線《割書:はりがね》 皮(ひ) 《割書: かは》 水精(すいしやう)《割書:みづとり|  だま》    火(くわ)精《割書:ひ| とり| だま》    緑青(ろくしやう) 雲(うん)  母(も) 《割書:き| らゝ》 【左頁上段】 る物を天鵞絨(ひらうと)といふ褐(かつ) 子(す)氆氌(ふら)兜羅綿(とらめん)みな毛(もう) 布(ふ)なり ○紅染(もみぞめ)は紅なり紅梅(こうばい) 緋(ひ) 桃色(もゝいろ)中紅(ちうもみ)茜(あかね)などあり共(とも) にあか色(いろ)なり ○加賀絹(かがきぬ)は加州(かしう)小松(こまつ)よりお りいたす絹(きぬ)なり ○縠(こく)は縐紗(そうしや)なり今(いま)いふちり めんなり俗(ぞく)に縮緬(ちりめん)とかく ○繻子(しゆす)は五/色(しき)有/島(しま)もあり ○繻珍(しゆちん)は五/色(しき)あり繒(かとり)【縑ヵ】を もつて織(をる)なり ○綾(りやう)はあやなり又/綾子(りんす)也 花綾(くはれう)は紋綾子(もんりんず)なり光(くはう) 綾(れう)はぬめ綾子(りんず)なり ○綃(せう)はすゞしなり生綃(さんせう)と 書べし熟絹(じゆくけん)はねりぎぬ 【左頁下段】 白(はく) 粉(ふん)《割書:おしろい》 石膽(せきたん) 《割書:たん|はん》 浮石(ふせき) 《割書:かろ| いし》 温石(をんじやく) 滑(くわつ) 石(せき) 鱉(べつ) 甲(かう) 麒(き) 麟(りん) 血(けつ)    幣(へい)《割書:にぎて》    木綿襷(ゆふだすき) 【上欄書入れ】95      【柱】頭書増補訓蒙図彙七         四 綿(めん)はまわた絮(ちよ)は木(き)わたなり○八/丈島(じやうじま)は日本(につほん)八/丈(じやう)か島(しま)よりをりいだす公方様(くばうさま)へ 貢(みつぎ)にそなゆるなり外(ほか)に八/丈島(じやうしま)といふはみなにせをりなるよし○氈(せん)【氊】はむしろ なり毛氈(もうせん)あり線氈(せんせん)あり花氈(くはせん)あり毛氈(もうせん)のすぐれたるを山/水(すい)といふ○金薄(きんばく)は 金(きん)をうすくのべたる物(もの)なれば薄(はく)といふなり薄(はく)はうすしとよむ銀(ぎん)銅(あかゞね)の薄(はく)同箔(はく) 同じ○水銀(みづかね)は性(しやう)寒(かん)なり毒(どく)あり馬歯莧(すべりひゆ)にも水銀(みづかね)あり又/汞(みづかね)とも書(かく)丹砂(たんしや)より いづるなり○高麗織(かうらいをり)は京(きやう)西陣(にしぢん)よりをりいだす○皮(ひ)かはけだものゝ皮(かは)に毛(け)あるとき の名(な)なり虎皮(とらのかは) 豹皮(へうのかは) 熊皮(くまのかは) 狐皮(きつねのかは) 麑皮(?にゝのかは)【鹿兒皮ヵ】などなり○革(かく)はけだものゝ皮(かは)なり毛(け)をさる を革(かく)といふ生(しやう)なりあらかは熟(じゆく)するを韋(い)といふなめしかはなり○鐵線(てつせん)ははりがね なり銅線(とうせん)はあかゞねのはりがね又/銅糸(とうし)ともいふなり○水精(すいしやう)みつとりだまなりい水中(すいちう)の石(いし)の美(び) なる物(もの)をいふ水晶(すいしやう)同し又/硝子(せうし)もみづとりだまなりびいどろなり○緑青(ろくしやう)は石緑(せきろく)とも いふ銅(あかゞね)のさびなり銅緑(とうろく)ともいふ水飛(すいひ)して画工(ぐはこう)采(いろとり)の具(く)とす○火精(くわしやう)ひとりだまなり火(くは) 斉(せい)同この火(ひ)をとりて灸(きう)をすゆれは虚熱(きよねつ)をさます○雲母(うんも)はきらゝ也/廬山(ろさん)の中(うち)よりいづる 五/色(しき)あり白(しろ)きものよし服(ふく)する事十/年(ねん)すれは雲気(うんき)つねにその上(うへ)におほふ膏薬(かうやく) にねる又/地紙(ぢかみ)にぬる○白粉(はくふん)おしろいは鉛粉(えんふん)なり鉛(なまり)をやきてつくるとうのつちといふ 又/銀粉(ぎんふん)ははらや粉霜(ふんさう)はやきかへし白粉(おしろい)は蕭史(しやうし)といふ人つくりはじめて秦(しんの)穆公(ぼくこう)のむ すめ弄玉(ろうぎよく)にぬらしむとなり○石膽(せきたん)たんはんは銅(あかゞね)ある所より出(いづ)煎(せん)し煉(いり)てなる石中(せきちう) 【上欄書入れ】96      【柱】頭書増補訓蒙図彙七         五     【柱】頭書増補訓蒙図彙七         四 【右頁上段】 ○緞(だん)は段子(どんす)なり花段(くはだん)錦(きん) 段(だん)毛段(もうたん)金段(きんだん)あり ○絹(けん)は加州(かしう)より出(いで)丹後(たんご)より いづる縑(けん)はもろぎぬなりまた かとりなり ○線(せん)《割書:補》はよりいとなりいとすじ とよむ綫(せん)同/漢(かん)の宮女(きうぢよ)冬(とう) 至(じ)の日より日ながくなりて 一/線(せん)のながきをそふると いへり ○糸(し)【絲】はいとなり蠶(かいこ)のはく所 なり緒(しよ)はいとくち纇(るい)いとふし 縷(ろ)いとすぢ経(けい)たて緯(い)ぬき 麻(ま)苧(ちよ)紵(ちよ)まを纑(ろ)うみを【績麻】 ○絛(たう)はくみひぼなり匾(ひらたき)を組(そ) といふ円(まるき)を紃(しゆん)といふ ○綿(めん)わた也/蠶(かいこ)をかふてとる 精(くはしき)を綿(めん)といふ麁(あらき)を絮(ちよ)と云 【右頁下段】 海盬(かいゑん) 《割書: しほ》 石(せき) 灰(くわい) 《割書:いし| ば| ひ》 頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻之八   器用(きよう) 《割書:此部は武具(ぶぐ)農具(のうぐ)そのほか|日用(にちよう)のうつはものをしるす》 【上段】 ○紙(かみ)は楮(かち)の木(き)にてつくる 後漢(ごかん)の祭敬仲(さいけいちう)といふ人 始(はじめ)てつくるといへりむかしは 帛(きぬ)に物(もの)をかきしゆへに紙(かみ) といふ字(じ)糸篇(いとへん)をかける ○筆(ふで)は秦(しん)の蒙恬(もうてん)といふ人 つくりはじむとなり蒙恬(もうてん) 此(この)功(こう)によつて管城(くわんじやう)といふ 所に封(ほう)せらるよつて筆(ふで)の 異名(ゐみやう)を管城子(くわんじやうし)といふ ○硯(すゞり)は黄帝(くわうてい)玉(たま)をもつて 【下段】 紙(し)《割書: |かみ》  帋(し)同    牋(せん)《割書:し|き|し》 筆(ひつ)《割書:ふで》  筆管(ひつくわん)  《割書: ふでのぢく》    筆帽(ひつほう)《割書:ふでの| さや》 墨(ぼく) 《割書:もく》 すみ 硯(けん) 《割書:すゞ|  り》 研(けん)同 書(しよ) 《割書: ふみ》 本同  《割書:横|巻》  《割書:冊子》 裱(へう)《割書:へう| し》 【上欄書入れ】97      【柱】頭書増補訓蒙図彙八         一     【柱】頭書増補訓蒙図彙七         五 の汁(しる)なり膽礬(たんはん)なり○浮石(ふせき)かるいしは水花(すいくは)ともいふ水(みづ)のあわ化(け)して浮石(かるいし)となる 西国(さいこく)よりいづる○温石(をんじやく)は一/名(めい)烏滑石(うくはつせき)といふ和漢(わかん)ともにあり■(い)【硫ヵ】黄(わう)のある山より出(いづ) る正真(しやうじん)まれなり火(ひ)にあたゝめて熨(のす)ときはよく痼疾(こしつ)をいやし瘀血(をけつ)を散(さん)ず ○滑石(くはつせき)はかわきをとめ小べんをつうじ油(あぶら)のものにしみたるに滑石(くはつせき)をふりかくれば 油(あぶら)けとるゝ白色(はくしき)なる物よし○鼈(べつ)【鱉】甲(かう)たいまい也/鼈(べつ)【鱉】は海中(かいちう)の大かめなり甲(かう)をはぎて うすくすけば斑文(はんもん)いづるこれを櫛(くし)笄(かんざし)香盒(かうばこ)等(とう)のうつは物につくる玳瑁(たいまい)といふ も同し又/藥(くすり)に用(もち)ゆ○麒麟血(きりんけつ)は麒麟(きりん)の血(ち)なりといへとも麒麟(きりん)といふけだもの つねに有ものにあらず馬血(ばけつ)なり血(ち)とめによし○幣(へい)はにぎて𧸁(へい)【敝+貝】とも書(かく)葈(からむし)にて するを白和幣(しらにきて)といふ麻(あさ)にてするを青和幣(あをにぎて)といふ串(くし)をもつてはさむ神(しん) 前(ぜん)秡(はらひ)【「祓」の誤字ヵ異体字ヵ】の具(ぐ)なり手(て)ににぎるといふ義訓(ぎくん)なり○木綿襷(ゆふだすき)は幣(へい)をとる時(とき)にかく るたすきなり木綿(もめん)のくみひぼなりむかしは楮(かうつ)の皮(かわ)にてつくれる幣を白木(しらゆふ) 綿といふ○海(かい)塩(ゑん)【盬】しほ也/食(しよく)塩(ゑん)【盬】なり海中(かいちう)の潮(うしほ)をくんで竈(かま)にてにて塩(しほ)【盬】とす賢(しん)に入(いり) て歯(は)をかたくす鹵(ろ)あらしほ鹵(ろ)丘(きう)【坵】はしほしり塩盤(ゑんはん)はしほがま○石灰(せきくはい)は火(ひ)にて石(いし)を やきて灰(はい)となす毒(どく)あり一切(いつさい)の腫物(しゆもつ)を治(じ)す又/白堊(しらつち)にして壁(かべ)をぬる