画本物見岡 【整理ラベル】京乙 255 【白紙ページ】 画本物見岡    序 絵(ゑ)の事(こと)は素人(しろうと)なりと 後(のち)の譏(そし)りをも恥(はち)すおよはさる 道(みち)にいまた迷(まよ)ひつたなき 【印あり】 「東京図書館蔵」角印  「購求・明治二四・六・二三」丸印 筆(ふて)の行先(ゆくさき)もわきまへす 東都の名所をこゝかしこ得(ゑ)たり ねかわくは乳房(ちふさ)をつくる 手枕(たまくら)に夢(ゆめ)はかりなるなかめとも なれかしと題(たい)を物見岡(ものみかをか)と ものして 桜木(さくらき)にうつす 春(はる)のあした関清長自序    青陽     [角印] あら  玉の 空(そら)   青(あを)み たるとの 一ふしは 此花街(このくるわ)に  とゝまり 娼門(せうもん)  家〳〵の 松錺(まつかさり)の 青(あを)きは 春(はる)の  近を あらわし 袨服(けんふく)の 黒小袖(くろこそて) 明(あけ)の  烏(からす)と ともに  来る おふ  よう   なる 日の出に 諸君(しよくん)の 容窕(あてやか)  なる 道中は 佐保姫(さほひめ)を あさ  むく   かと  あやし 【印あり】 「東京図書館蔵」角印 如月(きさらぎ)は午(むま)   祭りにて いつくも   同し 賑(にき)わひなれど   別して 当社(とうしや)は 稲荷(いなり)の   統領(とうれう) なりとて 毎年(まいねん) 十二月 八ケ国 狐(きつね) 此所に  あつまり   おひたゝし 田畑(たはた)のよし    あしと 所の民(たみ)  うらなふ 年毎(としこと)に   刻限(こくげん)   おなし    からす 一夜  とゝまれば   見るといふ 当山(とうさん)は 第一の   霊場(れいぜう)   なり いにしへは   諸集(しよしう)にも 古歌(こか)おゝし 桜樹(さくら)の   古木(こぼく)    おゝく 生ひしけり  御かりの    頃は 貴賤(きせん)   群(くん)を    なして 好人の    詩歌(しいか)  筆にも   つくし    かたし 春(はる)の頃 うらゝ  なる日 汐干(しほひ)とて なまめ   ける女 若(わか)とのはら  うちましり われ  おとらしと 貝(かい)を 拾ふさまも   おかし 海原(うなはら)は    八十限(やそくま)の 霞(かすみ)をへだて 房総(ほうそう)の 両州をなゝめに 真帆片帆(まほかたほ)の いて入る舟に  目をよろこはしめ 殊(こと)に文(ふみ)月廿六日夜は 万客群集(まんきやくくんじゆ)して 昼夜を わかたす まことに 喜見城(きけんぜう)   とも いうへし 卯月(うつき)の    頃 つれ〳〵  なるまゝに 日くらし   辺(へん)にきて そこはかと    なく 行みれは 此辺の 寺院(じいん) おの〳〵 庭(にわ)を まふけ 所〳〵に 亭(てい)を かまへて いと 興(きよう)あり 四時に 遊(ゆふ)人 おゝく 此山より 見わた   せは 風景 すくれ たること 江都(こうと) 遊観(ゆうくわん) 第一の 地と いふ かけまくも 当社(とうしや)は 筑紫(つくし)宰府(さいふ)の 聖廟(せいびよう)を 遷座(せんざ)まし〳〵て いと尊(とうと)く 真如(しんによ)の月(つき)は 心字(こゝろじ)の   池(いけ)に澄(すみ) 璥門(けいもん)廻廊(くわいらう)の 玲瓏(れいらう)たるは 五塵(ごちん)六欲(りくよく)を  はらふ ことさら 初夏(しよか)の頃は 名木(めいほく)の   藤花(とうくわ) 咲(さき)みたれ 口すさむ 遊客(ゆうかく)の妙文(めうぶん)は 連歌堂(れんがどう)に      満(みち) 才人の 佳句(かく)は ふじの花(はな)と ともに  さかりて 初夏の 遊興(ゆうきよう)こゝに  つくせり 【亀戸天神社の様子か】 晋子(しんし)か雨乞(あまこひ)の  名句より 黄口(かう〳〵)の赤児(せきし)迄 此処の名高きを 知て糸遊(いとゆう)の 長閑(のどか) なる日は 嫁菜(よめな) 蒲公草(たんほ)の 摘草(つみくさ)に 秋葉(あきは)の道を 忘(わす)れ 畔上(あぜみち)の つぼ 菫(すみれ)は 鼻紙(はなかみ)の □□しほれ 三伏(さんふし)の 暑(あつき)日は太郎 大黒やが洗鯉(あらいこひ)に 汗熱(かんねつ)の苦(くるしき)を濯(そゝ)き いや高き 公子(こうし)繁華(はんくわ)のうかれ人 爰に燕酒(さかもり)して杯(さかつき)の    朽(くち)るをもしらす いせ物かたりに 遠(とを)くもきぬる    ものかなと 筆(ふで)すさみし 名ところも    いつしか ことかはり 今(いま)は江都(ゑと) 随一の景地(けいち)と      なり 春秋(しゆんしう)の遊舟(ゆうせん)  このわたりに     □□ (ふくそう)【輻輳?】し むかし男の  いさこととはんと よみたまひし 都鳥(みやことり)も 妓女(ぎちよ)舞(まい)子の     三弦(さみせん)に馴(な)れ 振袖(ふりそで)のとめ木は 甲子屋か     薫(かほり)に      出さる ことに  隅田(すみだ)八景も この所にて 四時の眺望(てうぼう)    おゝし きぬ〳〵の噂(うわさ)をなかす         宮戸(みやと)川に 歓喜(くわんき)の御社(おんやしろ)森〻(しん〳〵)として 貴賤(きせん)此処の杜(もり)を 見ても 心をうこかすも ひとへに 此神を恋(こひ)の 媒(なかたち)とや   いわん 清風(せいふう)起橋辺(きやうへんにおこり) 名月(めいけつ)入楼船(ろうせんにいる)と      納涼(すゝみ)は 三国一ともいふへし 避暑(あつさしのぐ)涼舟(りうせん)に 妓女(きじよ)の三絃(さみせん)は 雲舞(かるわざ)の太皷(たいこ)にまがへ 諸講師(しよこうし)の戦談(こうしやく)にも 皷角(ときのこへ)かとあやしまる 三伏(さんふく)の暑(しよ)きに あわ雪の〳〵聲(こへ)に 聞なれぬ鄙人(いなかもの)のきもを   つふすもおかし 夕汐(ゆうしほ)のさしくる 浪(なみ)にさき立て 影(かげ)みつまたと 歌(うた)にもよみし 月の名所にして 初夏(しよか)の頃より 扇(あふぎ)わするゝおりまでは 大河(だいが)も集舟(しうせん)して 流(なかれ)をとめ 陸(くが)は茶店(さてん)の 万燈星(まんどうほし)を あざむき 昼夜の わかちなく 誠に繁花なり 故人 半井(はんせい)の 翁か美しき 月も二八の 十六夜月も みつまたある ものでないとは さりとては 後世に あたりし     事     かな かけ  まくも 此 精舎(みてら)は 江東(ほんぜう)第一にして 法雲(のりのくも)香(かう) 臺(たい)を 繞(めぐ)り 祇樹(きよらかなる)諸天(きてん)に 連(つらな)り賞心(おのづから) 出塵(きよきにいづ)梵宮(ぼんとう)には 釈迦(しやか)に二尊(じそん) ならひに五百(いを)の 尊者(みでし)いける     ことし 真(まこと)に鷲嶺(わしのみね)の 説法(せつほう)も かくやと あやまる百尋(いやたかき)の 大士閣(くわんおんどう)は秩坂西(ちゝぶばんとうさいこく)の 三所(さんしよ)の□通(くわんぜおん)を写し奉る 俗染万慮(きたなきこゝろもよろづのおもひ)を揮(はらふ)ておのつから 普陀(くわんおんのぜうと)にのほり眼(め)を眺(のぞめ)ば万井(みやこのまち〳〵) 入檻(らんかんによる)遊賞(ゆうせう)こゝにとゝめたり 風土(ふど)洛東(らくとう)の 祇園(ぎおん)に似(に)て 花車(きやしや)都(みやこ)に はぢす待宵(まつよい)の 月は塩浜(しおはま)の 盃(さかづき)に照(てり)二 軒(けん) 茶屋の 酔覚(ゑひさめ)は 十六夜(いざよひ)の 入(いる)かたを おしむ をもひを たてし 矢来(やらい)の 数(かづ)〳〵をうたひ しは東(あつま) 歌(うた)の風流 なるへし 羽織芸者(はをりけいしや)の 一節(いつせつ)に楼(やかた)船 家根舟(やねふね)をも かたむけん事 火縄箱(ひなわはこ)の  縄の  たゝん   うちに     あり この廓(さと)の賑(にきわい)      燈籠(とうろう)は 玉菊(たまきく)より はしまり八朔の 白無垢(しろむく)は 高橋(たかはし)より とやら 此朔日 より 稲荷(いなり)の 祭礼(さいれい)とてねりものを いだす日〳〵の物好寄(ものすき)に 黄金(こかね)を瓦(かはら)のことくにし 長袖能舞禿(てうしうよくまふかむろ)の おとりやたい妓婦(きふ) のうたふ獅子(しゝ)の きやり万客(まんきやく)これが ために魂(たましい)を 飛(とば)して 山谷船(さんやふね)もど    かしく 四手駕籠(よつでかご)に  羽なきを   うらむ 顔見世(かほみせ)の  ありさま まことに 待(また)るゝ花(はな)の ことし 明(あけ)の春(はる)とて 桟敷(さんしき)の雑煮(ぞうに)は 周(しう)の代(よ)の元朝(くわんてう) 積(つみ)ものゝ 井籠(せいらう)は 孝霊(かうれい)五年の 冨士(ふじ)なるへし くだり役者(やくしや)の 盃(さかつき)は手の うちのさんご珊瑚(さんご) の珠(たま)を愛し 狂言(きやうげん)の評(ひよう)は 一日に千里を はしる 今生(こんぜう)にて 歌舞伎(かぶき)を見ぬ ものは来世(らいせ)も 野暮(やぼ)の果(くわ)は  のがるへからす 袴(はかま)着(ぎ) 帯解(おびとき)   の 産神(うぶすな)まいり かゝる 花麗(くわれい) なること 他国(たこく) にきかず 髪置(かみおき) のことは 弁(べん)□ 【鹿の下に毛】と 左伝(さでん)にも 見へたれとも 詩酒(ししゆ)を設(もうけ)しことも なければ    こつちの 国の賑(にぎわひ)をみせたし 花紅葉(はなもみぢ)に 衣装(いせう)の繍(ぬい)を     あらそひしは これや 吾妻(あづま)の 袖(そで)くらべ なら ん  東第一の大市 なり極月十七  八日にかぎり 往来(おうらい)は馬(むま)駕籠(かご)を とゞめ船は   川を せましとす 陣笠(じんがさ)は朝霜(あさしも)にきら めきわたり革(かわ) 羽織(はをり)のいかめし きは 潤(くわつ)達(だつ)なり 蕎麦切(そばきり)は裏(うら) 店をかりて 仕込(しこみ)餅(もち)は 十五日より 竹の皮(かわ)に    つゝむ 醴(あまさけ)は嘉例(かれい)と        なり 燗酒(かんさけ)はたちなから 呑(のむ)にさだまる 商(あきない)物に千代(ちよ)を つむらんと     よまれし 為頼卿(ためよりきよう)は 猪牙(ちよき)にて 市にたゝれ  つらんかいふかし 《割書:後|編》続物見岳 《割書:此絵本は風流なる|地名のものたるを著》    画 工  關 清長 【角印】清長       《割書: |江戸本石町二丁目》     書 林  西村源六 版 【上段】 画図勢勇(ぐはとせいゆうだん) 《割書:鳥山石燕筆|奇談を画たる本なり》             《割書:全三冊| 》 《割書:𠮷原|契情》新美人合自筆鏡(しんびじんあはせじひつかゞみ)《割書:北尾政演画|さいしきずり》             《割書:折本全一冊| 》 烟花清談(ゑんくはせいだん) 《割書:駿守亭作|古代遊君客人の珍話》            《割書:全五冊| 》 《割書:挿|花》手毎(てごと)の清水(しみづ)《割書:師をもとめずして投入|のけいこをする本なり》             《割書:全一冊| 》 滸都洒美撰(ことしやみせん) 《割書:𠮷原のけいせいのてうちん|の相しるし何屋のたれと》       《割書:いふことをしるし|     全一冊》 《割書:契|情》手管智恵鏡(てくだちゑかゞみ)《割書:こんたんでんじゆてくだ|のしなんしたる本なり》          《割書:    全一冊| 》 □□□本記 《割書:□□・・・□きよりたん〳〵|□・・・□る本なり》           《割書:    全一冊| 》 【整理ラベル】京乙 特別 255 【下段】 気(き)のくすり 《割書:同作|当世のおとしばなし》       《割書:      全一冊| 》 《割書:座|奥》腹筋三略巻(はらすじさんりやくのまき) 《割書:ざしきのたはむれを品々【?】|しるす》             《割書:    一枚摺| 》 小紋新法(こもんしんほう) 《割書: 山東京傳作|おもしろくこぢつけたるこ》       《割書:もん帳なり|        全一冊》 客衆肝照子(きやくしゆきもかゞみ) 《割書: 同作|あそびのてくだをくはしく》         《割書:しるす|        全一冊》 《割書:遊君|稚言》柳巷化言(さとなまり)《割書:物からのふあんど集|けいせい□□□□》         《割書:をしるす|  □□冊》 《割書:通神|孔釈》三教色(さんきやうしき)《割書: 唐来三和作|儒仏神の詞にてしや□》 《割書:                全一冊| 》  江戸本町筋北ヱ八丁目通油 書肆   蔦屋