書名 養生主論2巻 【撮影ターゲットのため以下略】 【表紙 題箋】 《題:養生主論  乾》 【資料整理ラベル】 498.5 MAT 日本近代教育史  資料 孝(かう)なりさて我身(わかみ)壮健(さうけん)ならずんは父母に孝養(かうやう)尽(つく)しがたし父母は 唯(たゞ)その子の病(やまひ)を憂(うれふ)と聖人(せいしん)も諭(さと)し給へは常(つね)に其身(そのみ)をよく慎(つゝ) しみ保養(ほやう)し病のなきやうになし家業(かぎやう)をよくつとめ父母(ふほ)の心(こゝろ)をや すくせしむべき事なり将又(はたまた)養生は惣(そう)じて勉(つとむ)る事をよくつとめ おこたらざるにあり仮初(かりそめ)にも怠(おこた)り休(やす)む事をこのみあるひは暑(あつ)き とき涼(すゞし)きところに安臥(あんくは)し寒(さむ)きとき火(ひ)によりて身(み)を動(うご)かさゞる など養生(やうしやう)にあらず朝(あした)は早(はや)く起(お)き夜(よる)はおそくいね寒(さむ)き暑(あつ)き をもしのびて身(み)を動(うご)かしはたらくべしたとへ富貴(ふうき)の人なりとも 此/心得(こゝろえ)をもつてつとめ行ふべし又/平生(へいせい)の養生(やうじやう)は心を静(しづ)か にして騒(さは)がしからず緩(ゆる)やかにしてせまらず気(き)を柔(には)らかにし荒(あら)らか ならす声(こゑ)を髙(たか)くせず高く笑(わら)はず常(つね)に心を悦(よろこ)ばしめて帰ら さる事を悔(くやま)ずもし過(あやまち)あらは一度は我身(わかみ)をせめて二たひ悔(くゆ)べからず 或人(あるひと)のいへるに養生者(やうしやうしや)に短命(たんめい)なるあり不養生者(うやうしやうしや)に長命(ながいき)な るあれば必(かな)らずしも養生(やうしやう)によらずといふはいとも拙(つた)なしいかほど 養性(やうじやう)しても短命(たんめい)なるはこれ定業天命(ちやうこうてんめい)なり孔子(こうし)第一の弟子(でし) 顔淵(がんゑん)なる人いかてか不養生(ふやうじやう)ならんやしかれども三十にして死(し) す是/天(てん)の定業(でうごう)なりもし凡人(ぼんじん)ならは三十までもたもち得(え)ず二十 にいたらずして死すべし此道理(このどうり)をおしてしるべきなり不養生(やうじやう)に ても六七十までは生(いき)る人これ百歳(ひやくさい)まても生へき人ならんた とへは家業出情(かぎやうしゆつせい)すれども天命(てんめい)にて富貴(ふうき)なりがたき人も甚(はなはだ)しき 貧乏(びんぼう)はせざるがごとく養生をつとむる人は大病(たいびやう)にいたる事なく 命(いのち)もながく其/天年(てんねん)を終(おは)るべしとたがふべからず予は愚(おろか)に拙(つた)な き生質(うまれ)にてしかも貧賤(ひんせん)なるがゆゑもの事思ふに任(まか)せず養生 の道は知(し)りながら止事(やむこと)を得(え)ずして人に勝(すく)れて心気(しんき)を労(ろう)する仍(よつ) て年(とし)よりも耳目(じぼく)もよはり毎日/是(これ)では短命(たんめい)なるべしと思ひしか 養生の二字をわすれずして身分(みぶん)成(なる)べき丈(たけ)の養生せしゆゑにや 二十年このかた煩(わづ)らひし事なくされは心(こゝろ)がけ計にても養生は成 事なり    身(み)の持(もち)やうの心得 身の持(もち)やうに四季(しき)の心得(こゝろえ)ありされと強(あなが)ちに朝夕(てうせき)かくせよといふに はあらずたゞ其心得をのみいふなり ○春(はる)三月(みつき)は陽気(やうき)上(のぼ)りて万物(はんもつ)を生(しやう)ぜるがゆゑに人(ひと)の心(こゝろ)もおの  づからいさみ生(しやう)ずるやう心得/朝(あさ)もことさら早く起(おき)て業事(ぎやうじ)  をつとめ隙(ひま)あらんには広(ひろ)き庭(には)になど立出て草木(くさき)の芽(め)を出  し陽気(やうき)ばむを見て心を楽(たのし)ましめ心を悠長(ゆうてう)にもつべしされば  とて俗(ぞく)にのらつけといふにはあらずことさら正月は朝(あさ)とく起出(おきいで)て業(ぎやう)  事(じ)を勤(つと)め冬の条(てう)に載(のせ)たる心持/肝要(かんやう)なり ○夏三月は陽気(やうき)さかんなるがゆゑに人の心(こゝろ)もちもなるほど  盛(さかん)になるやうに持(もち)て朝(あさ)も早(はや)く起出(をきいで)終日(ひめもす)気(き)を張(はり)ていきほひ  よく業事(ぎやうじ)をつとむべしさていとまある日には涼(すゞし)き処に居(ゐ)て  よしなし事などいひて気(き)をなくさむべし民俗(みんぞく)五月頃よりは  ひる寐(ね)をなす大なる不養生なり田夫(でんぶ)は日中(につちう)炎天(ゑんてん)に田畠(でんはた)に  出て耕(たがやす)ことをいとひ昼休(ひるやすみ)と称(しやう)し縄(なわ)なひ又は草鞋(わらじ)なと内業事(うちしごと)  をなすこと也しかるをひるやすみといへるをひる寐(ね)る事(こと)と心得る  は僻事(ひがこと)なり又/涼(すゝしき)をよしとして夜々(よる〳〵)川辺(かはべ)なんど出るは大なる不  養生なり《割書:予》かしる人/書見(しよけん)なすに宅(たく)は挟少(けうせう)なるが上(うへ)蚊(か)の声(こへ)の  いぶせしとて夜々(よる〳〵)鴨川(かもかは)の床几(せうぎ)をかりて暮過(くれすぎ)より夜半(よなか)をかぎりに  六月のはじめより七月のすゑつかたまで勤学(きんがく)なしたりしが八月の中  ころより重(おも)き痢病(りびやう)をやみて天死(わかじに)なしたり又ある富家(ふか)のあるし  これも又/川端(かはばた)に家居(いへゐ)をしつらひ夜々(よる〳〵)川辺の床(ゆか)に飲食(いんしよく)せしが  同し頃より瘧(きやく)をやみて終(つひ)に命(いのち)を失(うしな)ふ恐るべしたとへ適々(たま〳〵)たり  とも暮(くれ)より初夜(しよや)までは水辺(すいへん)に遊ぶべし初夜(しよや)よりのちは水辺  を遠ざくへし 〇秋三月は天地(てんち)の気(き)も収斂(しうれん)するほどに我が気(き)を外(ほか)に発(はつ)  せぬやうにおさめて妄(みだり)に気(き)をつかはぬやうに持(も)ち朝(あさ)とく起(お)き  涼(すゞし)き気(き)にあたりて夏(なつ)の暑気(しよき)をはらし涼気(すゞしきき)を受(うく)べし尤  俗(ぞく)にあきぐちといひて食物(しよくもつ)等ことに気(き)を付べし 〇冬三月は陽気(やうき)閉蔵(へいざう)して水(みづ)こほり地(つち)も凍(いて)坼(さく)る程なるに  よりて気(き)をつかはず心神(しん〳〵)を臍下(さいか)におさめて気(き)をうごかさぬやう  に心得べし春夏の人の病は多くは冬の寒気にあたりたるより  出るなり冬(ふゆ)寒気をうけざれば春夏(はるなつ)にやむ事/稀(まれ)なるもの也  尤冬/寒気(かんき)をうくるも全(まつた)く夏(なつ)の養生(やうじやう)あしきによりて起る也  夏のあつさを凌(しの)がんとて冷物(ひへもの)をたしみ水を多(おほ)くのみ涼気(れいき)を  もとむれば暑(しよ)とうち合て却(かへつ)て大に汗(あせ)を出す汗(あせ)出(いづ)ること甚し  ければ表(ひやう)の陽気(ゆうき)おのづから虚(きよ)して冬/寒気(かんき)をうくる也/惣(さう)して  暑気(しよき)には腹中ひへるものなればあたゝめるが養生なりしかるを  冷物(ひへもの)もて腹中(ふくちう)をひやすが故病を生(しやう)す冬も寒(さむ)しとて入湯(にうとう)な  と過度(たび〳〵)し炭火(すみひ)にもつよくあたれは陽気(やうき)もれて大に閉蔵(へいざう)  の理(り)にそむきてあしく四季ともよく考へ心得へし 凡養生の術に十二少(じうにせう)といふ事あり食(しよく)を少(すくなく)し飲(いん)を少(すくなふ)し五味の 偏(へん)を少し欲(よく)を少し言語(ものいふこと)を少し事(こと)を少し怒(いかり)を少し憂(うれひ)を少し  心(こゝろ)をば     常(つね)に    おさめて     しづかに        し   身(み)をば      ほどよく    うこがすぞ        よき 悲しみを少く《割書:憂と悲しみとのたがひはうれひといふは常におのが身にある事悲しみは|人に対してある事なり君子は悲しみを同しうすといへるに同し》 思(おも)ひを少し臥(ふす)ことを少し眠(ねむり)を少すべしと也平生心を静(しづか)にして 騒(さはが)しからずゆるやかにしてせはたしからず柔(やはら)かにして剛々(こは〳〵)しからず 声(こへ)を髙(たか)くせず高(たか)く笑(わら)はず常に心(こゝろ)をよろこばしめて怒(いか)らず帰(かへ)ら ざる事を悔(くひ)す過(あやまち)あらは一度は我身(わがみ)をせめてふたゝひ悔(くゆ)べからず 悦(よろこ)ぶ事も甚(はなはだ)しけれは気(き)ひらけすきて性気(せいき)を減(へら)す憂悲(うれひかな)しみ 多ければ気結(きむす)ぼれてふさがる皆/元気(げんき)の害(かい)也○津液(しんゑき)【左ルビ:つは】は一身(いつしん)の 潤(うるほ)ひにして源腎水(もとじんすい)と一家(ひとつ)なり常(つね)にをしみて吐(はく)べからず飲(のむ)べし 化(くは)して精血(せいけつ)となる仙人(せんにん)はこれを金釃玉漿(きんれいぎよくしやう)などゝ称して大切に する事なり痰(たん)は吐(はく)べし潤(うるほひ)とはならず○歯(は)は常にたゝくがよろし 早く落(おち)す口中(こうちう)の熱(ねつ)をもさるなり毎夜(まいよ)寐(ね)る時に塩茶(しほちや)にて うがゆなしいぬべし養生(やうじやう)に五冝(ごぎ)といふことあり髪(かみ)は多く梳(くしけつ)るが宜(よろ)し 手は常(つね)に面(かほ)にあるによろし《割書:面をひたと|なづる事也》歯(は)はしば〳〵たゝくによろし 津(つ)は常(つね)に飲(のむ)によろし気(き)は常(つね)にしづかなるによろし○よる臥(ふす)と きは右(みき)を下(した)にして両手(れうて)共/大指(おほゆび)をかゞめ四ツの指(ゆひ)にて握(にぎ)り右の 手(て)を屈(かゞ)めて臥(ふす)べし手を握(にき)るは胸(むね)をふさぎておそはれざらんが 為(ため)なり後(のち)には習(ならひ)となりて眠(ねむり)のなかにもひらかざるものなり《割書:是は|医書》 《割書:にも|見えたり》扨/頭(かしら)は頭北西面右脇臥(づほくさいめんうきやうぐは)といひて北枕西向(きたまくらにしむき)に臥(ふす)べししか るに北枕西向(きたまくらにしむき)は忌嫌(いみきら)ふ人多しこれ養生(やうじやう)をしらざる也/仙経(せんきやう) の中に東貧南病西福北寿(とうひんなんびやうさいふくほくじゆ)とありて北枕(きたまくら)は命長(いのちなが)しといへり 孔子(こうし)の東枕(ひがしまくら)し給ふは東(ひがし)は陽(やう)のはじめ頭(かしら)も又 陽(やう)の会(あつま)る所にして 形(かたち)のはじめなればなり東貧(とうひん)とあれども聖人は貧福(ひんふく)を欲(ほつ)し 給はず唯(たゞ)其/理(ことはり)を以て主(しゆ)とし給ふゆゑなり其/用捨(やうしや)は其行ふ人の 心のまに〳〵すべし○常(つね)に自(みづか)ら大小便(だいせうべん)に気(き)を付べし小便(せうべん)赤(あか)き か濁(にこ)らば病(やまひ)あり早(はや)く保療(れうぢ)すべし大便は滑泄(こつぜい)をいむといひて泄(せい)【左ルビ:つたり】【ママ】は 能(よろ)しからぬことは人/皆(みな)しれとも滑(なめらか)なるは人(ひと)左(さ)ほどにも思はぬもの也 是/脾胃(ひゐ)の調(とゝの)はざる故也/飲食(いんしよく)に心を付べし腹中(ふくちう)を見ること能(あた)は ざれとも腸胃(ちやうゐ)の調(てう)不調(ふてう)をしるは是(これ)より明(あきらか)なるはなし命(めい)は脾胃(ひゐ) だけのものなれば常に只(たゞ)脾胃を随分(ずいぶん)大切に補養(ほやう)すべしまた 自分(じぶん)顔色(かほいろ)目(め)のうちなどを見るべし老人(ろうしん)出家(しゆつけ)たりとも鏡(かゝみ)を以て 毎度(まいど)容皃(かほかたち)を考(かんがう)べし総(さう)【惣】じて身心(しんしん)を養(やしな)ふはたとへは銭(せに)かねをしまつ するがことく毎日(まいにち)わづかづゝにても倹約(けんやく)すれば年分(ねんぶん)大分ちがふ物 なり養性(やうじやう)もこれに同(おな)じ日々に心(こゝろ)かくれば一年の内(うち)には大にその しるし有ものなり況(いはん)や年(とし)を重(かさ)ねは其/利益(りやく)はかるべからず或は 胸腹(むねはら)を撫(な)であるひは毎日家(まいにちいへ)のうちにありても歩行(ほこう)するがごとき 少しつゝの事(こと)をも是を捨(すて)ず怠(おこた)らざれば切【功ヵ】をつみて大に其(その)志かし    飲食(いんしよく)の心得 万(よろづ)の食物(しよくもつ)過食(くひすご)するは不養生(ふやうじやう)の第一なり三度(さんど)の食事(しよくじ)も椀(わん) 数(かず)をさだめ重菜(ちやうさい)ならば飯(はん)を減(げん)ずべし尤/四季(しき)とも冷物(ひへもの)は食す べからず一切の食物(しよくもつ)別(べつ)して魚鳥(きよてう)などの厚味(かうみ)を喰過(くひすご)すは早く 脾胃(ひゐ)よはりて或(あるひ)は病(や)み又は若死(わかじに)したとひ死(し)にいたらずとも長(ちやう) 寿天命(じゆてんめい)を全(まつた)ふしかたしたとへは草木(さうもく)に糞(こやし)するが如く其/糞(こやし)強(つよ) けれは却(かへつ)て枯(か)るゝごとく食味(しよくみ)厚膏(あぶらおほきもの)なれば元気(げんき)を損(そん)ず其故 は食味(しよくみ)淡(あは)うして又食を減(へら)する時は脾胃(ひゐ)に空所(すきたるところ)ありて元気(げんき)めぐり 安く食(しよく)もこなれ安(やす)く其 膏味(かうみ)皆(みな)全身(せんしん)の養(やしなひ)と成て病(やまひ)少(すくな)く身 も壮健(さうけん)なり若(もし)食/多(おほ)くして腹中(ふくちう)に充満(しうまん)すれば気(き)めぐらず却て病 を求(もと)む甚しきは頓死(とんし)する事/間々(まゝ)あり肉(にく)と野菜(やさい)のるい飯(めし)より少く 食すべし千金方(せんきんはう)に曰く山中(さんちう)の人は命(いのち)長く海辺(かいへん)の人は短命(たんめい)也 是/魚肉(きよにく)のとぼしきと多きとによつてなりと又 獣肉(じうにく)は我邦(わかくに)の 人の脾胃(ひゐ)には必(かならず)よろしからず冬(ふゆ)の日/或(あるひ)は虚弱(きよしやく)の人/薬喰(くすりぐひ)とて 猪鹿(ちよろく)あるは牛熊(ぎうゆう)なんどの肉(にく)を食して寒気(かんき)を防(ふせ)き又/元気(げんき)を助 んとす大なるひがことなり獣肉(じうにく)いかで人間の精神(せいしん)を助(たす)けんや人は 万物(はんもつ)の長たるもの牛鹿(ぎうろく)の精血(せいけつ)に助けられんやたとへ虚弱(きよしやく)の人 一端(いつたん) 獣肉のために精気(せいき)を得るが如(こと)く覚ゆとも化消(くはしやう)し大便(たいへん)に解(げ)してのちは 精気を保(たも)つことなふして却(かへつ)て胃中(ゐちう)に獣肉の熱毒(ねつどく)残りて決(けつし)て 軽(かろ)きは頭瘡(づさう)疥瘡(ひぜん)を発(はつ)し甚しきにいたりては重き腫物(しゆもつ)となりて 長病(てうびやう)を引出すこと多し必(かな)らず薬餌(くすりくい)とて肉食(にくしよく)をなすべからず且又 食のむら喰(くひ)とて気合(きにかなは)ざる野菜(やさい)にては食を減(けん)じ好(この)める厚味(かうみ)にては 飽食(おほぐひ)する事病を求(もと)むる一/端(はし)なり《割書:予》江戸に居(ゐ)たりしとき浅草(あさくさ)辺に 四十余の道心者(どうしんしや)きはめて貧(まづ)しく住(すみ)たりしが何(なに)の病(やまひ)ともなく俄(にはか)に 虚弱(きよじやく)になり歩行(ほこう)苦(くる)しく杖(つへ)にすかりて居(ゐ)たるに後(のち)は躄(あしなへ)同前(とうせん)に 一歩(いつほ)もあゆみがたくされど貧(まつし)ければ服薬(ふくやく)をなさて悩(なや)み難渋(なんじう)せし を《割書:予》或(ある)とき尋ぬるは汝(なんぢ)は檀家(だんか)にて一時(いちし)に飽食(ほうしよく)等なせし事/毎々(たび〳〵) なかりしや彼者(かのもの)こたへて達者(たつしや)なるうちは近(ちか)き頃(ころ)まで不断(ふだん)に物(もの) 乏(とぼ)しければ適(たま〳〵)供養(くやう)に逢(あふ)ときはむさぼり喰(くら)ふ事/度々(たび〳〵)なり《割書:予》か曰 汝か病根(びやうこん)これなり今日(けふ)より一日に一食(いちじき)ツヽになすべし尤(もつとも)初めは飢(うへ)て 心地(こゝち)死(し)すべく計(ばかり)に堪(たへ)がたかるべしこれを忍(しの)びたらんには必(かな)らず本(ほん) 復(ぶく)すべしといふ彼者(かのもの)夫より一食づゝにして其余(そのよ)断食(だんじき)せしに自然(しぜん) と病(やま)ひ本復(ほんぶく)なしたり都(すべ)て貧(まづし)き人又はたくはつなどにて暮 す道心者などの病あるとき薬(くすり)も得(え)服(ふく)しかね食(しよく)もかつ〳〵にて看(かん) 病人(ひやうにん)もなく戸(と)をさして数日(すじつ)床(とこ)にふしゐるに自然(しぜん)重病(じうびやう)の本(ほん) 服(ふく)するもの世間(せけん)に多しこれ全(まつた)く飽食(はうしよく)より出る病なり凡(およそ)人は 飢飽(きはう)ともよからぬ事なれど是(これ)らを以て見れば飢(うゆる)かたは病(やまひ)によろ しきと見えたり皆(みな)人(ひと)飢(うへ)て死(し)するは甚(はなはだ)稀(まれ)なり食に飽(あき)て死(し)するは きはめて多し都(すへ)て病あるときは数日(すじつ)食(しよく)せざれとも其病の邪(じや) 熱(ねつ)が食(しよく)になつてある故くるしからず多くは断食(だんじき)よろしき事/医書(いしよ) にも見えたり勧(すゝ)みがたきを強(しゐ)て食(しよく)すれば却て養ひにはならず食 道(とう)をふさげて薬(くすり)もめぐらず弥(いよ〳〵)病を増(ます)といへり天竺(てんじく)にては諸病を断(たん) 食(じき)にて治する事/義浄三蔵(きじやうさんざう)の南海寄帰伝(なんかいききでん)に見えたり三蔵/天(てん) 竺(ぢく)より帰り給ひ此事をすゝめたまひしかども唐土(もろこしの)医者(ゐしや)も其世に は用ひざりしよしなれば本朝(ほんてう)にも此/術(じゆつ)つたはらず三蔵は自(みづか)らこの 此/療術(れうじゆつ)を用ひて九十/余歳(よさい)をたもてりとそ東坡(とうば)は朝夕に 魚肉(きよにく)一品より多(おほ)からしめず一には分(ぶん)を安(やす)んして福(さいはひ)を養(やしな)ひ二には胃 を緩(ゆる)め気(き)を養ふ三つには費(つゐえ)をはぶきて財(さい)をやしなふといへりこれ 養生と倹約(けんやく)と兼行(かねおこな)ふものなり都(すへ)に食物(しよくもつ)にかぎらず養性につき てはおのづから倹約に成(な)る事/多(おほ)し能事(よきこと)は何(なに)も角(か)もよきもの也 去(さり)ながら養生の事に付はわづかの費(つゐえ)をはいとふべからず○酒(さけ)は百薬(ひやくやく) の長(てう)といへば少しつゝ嗜(たし)むときは気血(きけつ)をめぐらし身を潤(うるほ)すしかれ共 過酒(くはしゆ)するときは肺(はい)をかはかし熱毒(ねつとく)を帯(をび)て百病これより生す酔(よひ) 臥(ふす)こと大に身を害(かい)す寐酒(ねさけ)は大に不養生なりすべて酒(さけ)によつて 病(やまひ)を生する事はさらに解(とか)ずといふとも人のよく知る所也/慎(つゝし)み心得ふ へし○湯茶(ゆちや)渇(かつ)するときばかり用ひて其/余(よ)は呑(のむ)べからず脾胃(ひゐ) は湿(しつ)を憎(にく)む又/飲物(のみもの)多けれは小便(しやうべん)しげし小便につれて身(み)の 潤(うるほひ)もぬけて元気(げんき)をへらす飲物(のみもの)少けれは脾胃つよく東坡(とうは)曰 昔(むかし)ある人/若(わか)きより湯水(ゆみづ)を禁(きん)じて年八十三に及ひて形気(かたち)四 五十歳のごとしといへり凡(およそ)食事をなすときは心を静(しつか)にして 思慮(しりよ)する事/物(もの)いふ事/笑(わら)ふ事など大なる毒(どく)なり食(しよく)前後(ぜんご)も これに同し食後(しよくご)煙草(たばこ)をこのむ人は用(もち)ひて気(き)を休(やす)めしこふして 胸腹(むねはら)をしづかになでさする事/百度(ひやくど)に及ふべし必/臥事(ふすこと)なかれ つとめて歩行(ほかう)すべし夕飯(ゆふめし)には必(かな)らず野菜(やさい)のかろきものにて食 すべし決(けつ)て厚味(かうみ)を食すべからず冬の日/他(た)より帰(かへ)り冷(ひへ)たりとて 直(たゞち)に至極(しこく)の温物(あつきもの)食すべからず肺脾(はいひ)を損(そん)ず夏の冷水(れいすい)を禁(きん)ずるに 等(ひと)し冬春/北国(ほつこく)雪中(せつちう)往来(わうらい)の人に温酒(あたゝめざけ)をあたへずといへり温酒を 呑(のむ)ときは却(かへつ)て雪中に冴(こゞへ)る事あり此外/食物(しよくもつ)に心得(こゝろへ)夥(おびたゝ)しといへ とも一々/挙(あぐ)るにいとまあらず自(みづ)から考(かんか)へ慎(つゝし)むべし古人(こじん)のいはく 色欲(しきよく)は遠(とふ)ざくべし食欲(しよくよく)はしりぞけがたし小児(せうに)といへども食欲は同し 禍(わさわひ)は口(くち)より出(いで)病(やまひ)は口より入る又いはく盟(めい)をやぶるは一言(いちごん)にあり腹(はら)を 損(そこな)ふは一椀(いちわん)にありと宜(うべ)なるかな     房事(ほうじ)の心得 夫(それ)男女(なんによ)和合(わごう)は子孫(しそん)相続(さうぞく)の基(もと)ひにして更(さら)淫(たはぶれ)たる事にあらず されど人欲(しんよく)の内(うち)に慎(つゝしみ)がたきは色欲(しきよく)の一ツなり凡(をよそ)人の生質(うまれつき)にして 強弱(けうじやく)ありといへどもたとへ強壮(つよくさかん)なりとも度(ど)を守(まも)るべしいはんや虚弱(きよじやく) の人におゐてをや足(た)らざるは身(み)をやしなひ過(すぐ)るは身を削(けづ)り命(めい)を 縮(ちゞ)む又/過度(くはど)する人は極(きは)めて風寒(ふうかん)に傷(やぶ)られやすしされど其(その) 情(じやう)をむりに堪(こた)ゆるは又(また)鬱症(うつしやう)となる事ありて害(かい)となるされば 人三十/歳(さい)までは其/生質(うまれつき)の強弱(つよくよはき)にしたがひ多少(たしやう)自(みづか)ら考(かんが)ふべし さりながらたとへ強壮(つよくさかん)なりとも月(つき)に五六/回(たび)にすごすべからず虚弱(きよじやく) なる人は三四/度(ど)をすごすべからず四十/已後(いご)は慎(つゝし)み第(だい)一なるべし 月に一度(ど)強(しゐ)て両度(にど)五十已上は淫事(いんじ)たつべしといへども月に 一度くらゐは交(まじはり)て却(かへつ)て鬱(うつ)を散(さん)ずべし六十已上にいたりなは強(つよく) 弱(よはく)ともかならず思ひとゞまり其/情(じやう)をもらすべからず《割書:予》が知己(しれるひと)に若(しやく) 年(ねん)の頃(ころ)淫事(いんじ)を恣(ほしいまゝ)にして病気(ひやうき)を得(え)年(とし)久(ひさ)しく悩(なや)み医師(いし)厳(きび)し く女色(しよしよく)を禁(きん)じ己(おのれ)もまた身(み)に害(かい)ある事を覚(おほ)え一切(いつさい)女色を禁(きん)し 保養(ほやう)なせしかば元来(もとより)壮年(さうねん)の折なれは終(つひ)に本快(ほんぶく)をなし其のち歳(とし) 四十にいたりて更(さら)に志願(しぐはん)をたて仮(かり)にも目に淫(たはふれ)を見す耳(みゝ)に聞(きか)す もとより女色を絶(たち)て五十にいたる迄/慎(つゝし)みしが其後(そのゝち)は色欲(しきよく)の思(し) 念(ねん)さらに忘(わす)れて淫念(いんねん)おこる事なく今九十/歳(さい)に近くして眼耳(がんに) 歯(し)に少しも若年(じやくねん)とかはらず容貌(ようはう)五旬(ごじう)の人と見へたりさらは慎(つゝしむ)に しくはあらじ又/交合(かうごう)に禁日(いみひ)あり毎(まい)月朔日十五日 正月元日 三月 三日 五月五日 七月七日 九月九日外に五月十三日十四日 立春(りつしゆん)立夏(りつか) 立秋(りつしう) 立冬(りつとう) 甲子(きのへね) 庚申(かうしん) 日蝕(につしよく) 月蝕(くはつしよく) 婦人(ふじん)経水(けいすい)の後(のち)七日これらは急と 交合(まじはり)を慎むべし又交合のゝち其まゝ臥(ふ)すべからず手(て)洗(あらひ)口(くち)そゝぎて身心 を鎮(しづ)めしかふして臥べしこれ養性(やうじやう)のひとつなり序(ついで)にいはん今の人 己(をの)が淫欲(いんらく)【ママ】のために外妾(てかけ)を置て淫楽(いんらく)を事とすなげくべきの 甚しき也/先(まつ)己(おの)が身を削(けづ)るのみならず夫婦(ふうふ)の情合(しやうあひ)自から薄(うす)くなり 且(かつ)不和合(ふわがう)の基(もとひ)にして一家(いつか)みだるゝのはじめなり其/所以(ゆゑ)は一家(いつか)の主(あるし)と して色欲(しきよく)を事とするときは子(こ)弟(おとふと)下臣(けらい)奴僕(しもべ)等/色乱(しきらん)を教(をしゆる)がごとし 故に其家/斉(とゝのひ)がたし只/節(せつ)を守(まも)り慎(つゝしん)て家人(かじん)を保(さすん)ず是(これ)真(しん)の其身幷 その家の養生(やうじやう)といふべし抑(そも〳〵)交合(まじはり)ははじめにもいへるごとく人倫(しんりん)の はじめなれば心(こゝろ)を清浄(しやう〴〵)にしてましはるべし必(かならず)愁苦(しうく)するとき交る べからず大病後(たいびやうご)久(ひさ)しく交(まじは)るべからず大酒(たいしゆ)飽食(はうしよく)して交(まじは)るべからず遠路(ゑんろ) 歩行(ほこう)し労(つか)れたるとき交(ましは)るべからず重(おもき)荷をかづき又は力業(ちからわさ)なしてのち  飲食(いんしよく)は    わが身(み)   やしなふ     ためなる         を   口(くち)より     身(み)をば     やぶる       愚(をろ)        かさ  百薬(ひやくやく)の    長(ちやう)なる   さけも    十分(じうぶん)に  すぐれは    たゞに   百/毒(どく)     の長 交(ましは)るべからず微熱(びねつ)あるとき交るべからず只心(たゞこゝろ)に思ふ事(こと)なく身体(しんたい)すこ やかにしてまじはるべしこれ房事(はうじ)の心得(こころえ)なり    小児(しやうに)を育(そだ)つる心得 夫(それ)小児を育(そだつ)る事/甚(はなはた)其心得多しといへども先(まつ)産子(うぶこ)のうちよりあらは ざれば成長(せいちやう)して色黒(いろくろ)しなどいひて日々/浴(ゆあみ)行水(きやうずい)をなさしむる事 大なる毒(とく)なり顔色(がんしよく)黒白(くろしろき)は其子(そのこ)の血色(けつしよく)による事なれは洗(あら)ひ たりとも白くなるに決(けつ)せしにもあらず度々(たび〳〵)産子(うぶこ)より行水をなさし むれは疳(かん)を発(はつ)し甚(はなは)だしきは驚風(きやうふう)となる故(かるがゆへ)に唐士(もろこし)には小児に行水 をなさしめずやはらかなる絹(きぬ)をもつて度々(たび〳〵)/拭(ぬぐ)ひ疱瘡(はうさう)なして後(のち)は行水 をなさしむるといへりされば暑中(しよちう)なんどは汗(あせ)ぼのいづるを患(うれ)ひて度々 行水なさしむる事/遠慮(ゑんりよ)なすべし乳(ちゝ)をのませること年久しき程(ほど) 其子/壮健(さうけん)なりといひて七八才までもあたゆるは大(おほい)なる誤(あやまり)なり本 より乳(ちゝ)は寒(かん)なる故に小児(しやうに)脾胃(ひゐ)を損(そん)ずるなり大抵(たいてい)四/歳(さい)までは 乳を以(もつ)て育(そだ)て其のちは食物(しよくもつ)をあたふべし将(はた)又わらへ風の子など いひて冷(ひや)すことあしゝ生質(うまれつき)虚弱(よわき)の小児に度々(たひ〳〵)風をひかすれば 終(つひ)に大ひなる病身(びやうしん)となるさればとて暖(あたゝ)めすぐるもあしゝ又風は すこしあてるとも水なぶりはなさしむべからず暑寒(しよかん)ともいたつてあし し三四歳の頃(ころ)よりも灸治(きうぢ)をなすべし尤(もつとも)小児(こども)殊(こと)にきらふものなれ どもかたはらに灸賃(きうちん)をおきてよく〳〵いひきかせてすゆるべししかるに 今の親(おや)たちつね〳〵其児(そのこ)を戒(いましむ)るにやいとをすゆるぞなんど威言(おどしこと)に いふが故に灸(きう)といへは恐(おそ)ろしき事と思ふがまゝ灸治(きうち)せんとすればいたく 恐(おそ)れ泣(なき)わめくを引捕(ひきとら)へすゆるは大にあしく心気(しんき)逆上(ぎやくじやう)なし惣身(そうみ)熱気(ねつき) 動(うご)きし処に灸(きう)なすがゆへ却(かへつ)てよろしからず是等親たる人の心得べ き事なりかし必(かな)らずしも親子の愛(あい)におほれかへつてあしき道 にいさなふ事ありあしき事あらは幼稚(やうち)なりともゆるすべからずつよく いましめ折檻(せつかん)すべくつよくをしゆるときは其児内気(そのこうちき)になくといふ人あれ どもきはめてひとの親のたとへむごくきびしく教(をし)ゆるとも肉身(にくしん)の愛(あい) 情(しやう)にて人目にはやはらか成ものなり扨又/冨有貴人(ふくゆうきにん)たりとも小児には 麁食(そしき)をあたへ美食(ひしよく)なさしむべからずもとより美服絹布(ひふくけんふ)を着(き)せへ からずたとへ表(おもて)には絹(きぬ)なりとも裏(うら)は木綿(もめん)たるべし去(さる)に今の世間(せけん)を見るに 親(おや)は麁食を喰(くひ)ながら愛(あひ)におぼれて厚味(かうみ)を与(あた)へ身分(みぶん)ふ相応(そうわう)の絹布 を身に纏(まと)はせそのうへに帯(おひ)頭巾(つきん)羽織(はをり)などに風流花奢(ふうりうくはしや)を尽(つく)して 楽(たのしみ)とす故に成長(せいちやう)して衣食(ゐしよく)にすき嫌(きらひ)をなし身体虚弱(しんたいきよしやく)にしてしか も奢(おこり)の心(こゝろ)出來(でき)身をつとめざる故/自(おのづか)ら多病(たびやう)ものとなる也/高貴(かうき)の 御子は幼稚(いとけなき)のときは里(さと)に預(あづく)るとて都(みやこ)ちかき田舎(いなか)へ預(あづ)けるひ年(とし)六七 才にして取戻(とりもと)し育(そたて)ゐふこれいとけなきときより厚味(かうみ)なき田舎(いなか)の 身(み)を勤(つと)めて麁食(そじき)を食(しよく)する乳(ちゝ)汁を以て育(そだ)て又/麁味(そみ)を食(しよく)せしめおの づから田舎(いなか)の不自由(ふじやう)なると身を働(はた)らかし勤(つとむ)るを見聞(けんもん)なさしむるため なりとぞたとへ冨貴(ふうき)の家に育(そだつ)るとも大事(たいじ)にかけすぐるときは其児(そのこ)きは めて病身(びやうしん)なり貧賤(ひんせん)の子(こ)の健(すこやか)なるを見て考(かんが)ふべし就中(なかんづく)女子は 猶さら衣食(いしよく)も麁食麁服(そしきそふく)を与(あた)ふべしさなくとも美味花麗(びみくはれい)を好む は女の生質(うまれつき)なれば養育(やういく)も男子(なんし)よりまた厳重(けんぢう)なるべし    総論(そうろん) 孝経(かうきやう)にいはく身体髪膚(しんたいはつふ)これを父母(ふぼ)にうけたりあへて毀破(そこなひやぶ)らざるは孝 のはじめ也と又/身(み)をたて名(な)を揚(あく)るを孝のおはり也と孔子(こうし)ものたまへりされは 親(おや)よりうけ得(え)たる髪(かみ)一筋もみだりに損(すん)ずべからずいはんや身体(しんたい)をやまた 身をたてるにも名をあぐるにも不養生(ふやうじやう)にし身体(しんたい)虚弱にして勉(つとむ)る事の なしがたきにいかで孝のおはりをとぐる事あたはんや養生(やうじやう)を専(もつぱ)らとする時 は身体を損(そこな)ふ事もあらず勤(つと)め学(まな)ひて身をたつるにいたるべしこゝを以て 養生は親孝君忠(しんこうくんちう)の第一といふべし扨(さて)養生(やうしやう)の心得/前(まへ)条にのぶる如し といへども其/原(もと)は衣食住(いしよくぢう)の三より発(おこ)る其/故(ゆゑ)いかんとなれは衣食住 の三欲(さんよく)より女色(ちよしよく)過酒(くはしゆ)念慮(ねんりよ)の三毒(さんどく)出る色酒(しきしゆ)にて虚損(きよそん)し厚味(かうみ) を食して身を働(はた)らかさゞる故/飲食(ゐんしよく)和(くは)せず念慮(ねんりよ)とは妄想(もうさう)なり 女色(しよしよく)酒(しゆ)の二ツも妄想より起(おこ)り身の害(かい)となる事をも兼(かね)て心得(こゝろえ)あり ながら暫時(さんじ)の快楽(くはいらく)に生涯(しやうがい)の大害(たいかい)をわするゝは豈(あに)大愚(だいぐ)のいたりならずや 身体(しんたい)労(ろう)すれば善心(せんしん)生(しやう)じ身体(しんたい)逸(ほしいまゝ)なれば悪心(あくしん)生(しやう)ずと尤(もつとも)なる古言(こげん)也 扨又世の人/養生(やうしやう)といへは只(たゞ)命(いのち)ををしむやうに心得(こゝろえ)侍士(さむらひ)又/出家(しゆつけ)などの 有ましき事などそしる人あり養生と天寿(てんじゆ)は別(べつ)の事なりといへども 不断(ふだん)養性を守(まも)る人は無病(むびやう)にして天寿(てんじゆ)を十分に全(まつたく)して死期(しご)に及んて 苦悩(くなう)なし平日(つね〳〵)不養生にして身(み)を守(まも)り慎(つゝし)まさるは常(つね)に多病(たびやう)にて快楽(くはいらく) をも十分になしがたく終(つひ)に長病(ちやうびやう)に臥(ふ)して身体(しんたい)苦痛(くつう)し昼夜(ちうや)家人(かじん) の厄介(やくかい)をうけあまつさへ二便(にべん)だに人手(ひとで)にかゝり後(のち)には女房(によばう)わか子弟(してい)にさへ 飽(あか)るゝやうなるはいとも浅間(あさま)しき事なりけり常(つね)に養生よき人はかゝる 浅間(あさま)しき病気(びやうき)はあるべからずたとへは身心(しん〴〵)を養ふは銭金(せにかね)をしまつする が如(こと)したとへ纔(わづか)づゝにても毎日(まいにち)倹約(けんやく)なせは年分(ねんぶん)には大分(だいぶん)違(ちが)ふものなり 故に大病(たいびやう)といへる借銭(しやくせん)も日々(うち〳〵)に始末(しまつ)なして其余計(そのよけい)を以て少(すこ)しづゝにても 償(つくの)へば終(つひ)に情財(じやうざい)をも返済(へんさい)なすべし日々(にち〳〵)養生(やうじやう)をもつて身(み)を守(まも)るときは 数年(すねん)積(つみ)たる病根(びやうこん)をも散断(さんだん)すべしいはんや借銭(しやくせん)も病根(びやうこん)もなきに 養生をつむときは其利益(そのりやく)をして知るべし又此養生の道(みち)を行(おこな)ひて不思(ふし) 議(ぎ)なる事は予がしる人其/気質(きしつ)荒々(あら〳〵)しくて貪欲(とんよく)も又深(ふか)かりしが此人 に逢(あふ)たびごとに養生(やうじやう)の道を解(とき)きかせしにはじめは馬耳風(はにふう)の如(こと)きさまな りしがいつしか耳(みゝ)に止(とゝ)まるやうになり後(のち)には養生(やうしやう)の書を求(もと)め自(みづ)から 勤(つと)め学(まな)びしかは身持(みもち)ふるまひ正(たゞ)しくなりて慈悲心(しひのこゝろ)深(ふか)くなりしは 是則/養徳(やうとく)といふへきものなり   予/上(かみ)にいへるごとく朝夕(てうせき)養生を心かくるゆゑにや久(ひさ)しく煩(わづ)らは   す壮健(すこやか)なりといへども定業(ちやうこう)は朝(あした)をも期(こ)せずしかれども此/篇(へん)に   述(のぶ)るところは皆(みな)聖賢(せいけん)の明言(めいごん)なれは養性の道(みち)に志(こゝろざし)あらん   人は用ひたまふに足(たり)なんか去(さん)ぬる頃(ころ)東武(とうぶ)に長命(ちようめい)の術(じゆつ)を指(し)   南(なん)するものあり其比(そのころ)大坂に養生(やうじやう)ふかき男此江戸の指南者(しなんしや)   のことを聞(きゝ)つたへ何とぞ態々(わざ〳〵)江戸へ行(ゆき)て長命(ちやうめい)の術(しゆつ)をきゝたく   おもひたりしかども遠路(ゑんろ)の事にて其志(そのこゝろさし)をとけざりし内(うち)に江戸   の指南者(しなんしや)五十八才にて頓死(とんし)なしたるよしを告来(つけきた)るに大坂人   大に悲歎(ひたん)し其術を聞(きか)ざりし事を悔(くひ)たるにかたへに居(ゐ)たる人大に   笑(わらひ)て御身いと愚(おろ)かなる事(こと)をいふ人かな其/江戸(ゑど)の指南者(しなんしや)いかて   長命(ちようめい)の術をしる者(もの)ならんや若(もし)其術をしるとせは五十/有余(ゆうよ)を以て   死(し)すべけん是/術(しゆつ)をしらさるの証(せう)なりといふに大坂人/答(こた)へてそれは   御身こそ愚(おろか)なる詞(ことは)といふべし既(すで)に広(ひろ)き江戸にありて長命の指(し)   南者(なんじや)と唱(とな)へ百余里を隔(へたて)たる京摂(けいせつ)にまで聞(きこ)ゆるにはいかて其術を   しらざるへけんや然(しか)れ共/養生(やうじやう)にかぎらず諸道(しよたう)ともしらずしてよく   行(おこな)ふ者ありしつて而(しか)も行(おこな)ふことあたはざるものあり彼(かの)指南者(しなんしや)も   これを知つて行(おこな)ふことあたはざる者(もの)にて有(あり)しものならんすべて   知恵(ちゑ)と行(おこなひ)は別(べつ)の事なりといひけるとなり孔子(こうし)の宣(のたま)はく言(こと)を   以て人を不用(もちひす)人を以(もつ)て言(こと)を捨(すて)ずとされはおのれ愚昧(くまい)短才(たんさい)なれ   共/希(こひねが)はくは此/編(へん)の言(こと)を捨(すて)給ふ事なかれと云爾 〇/因(ちなみ)にいふ足(あし)の三里(さんり)の灸(きう)たへずすゆべし大に血分(けつぶん)をめぐらし  長寿(ちやうじゆ)の功あり尤(もつとも)近(ちか)き頃/三州(さんしう)戸井郡小泉村の万平といふもの  弐百弐十/余歳(よさい)を経(へ)今に壮健(さうけん)なり先年(せんねん)公に召(め)されて斯計(かばかり)  長/寿(じゆ)なせるには子細(しさい)もあるやと問(とふ)給ふに外に勉(つとめ)て養生(やうしやう)といふ事も  これなく候得共/先祖(せんぞ)より伝(つた)えて毎月朔日より八日迄/足(あし)の三里に  灸治仕り候尤其すへやう有之よしにて申上し其法は   朔日《割書:左十|右九》 二日《割書:左十一|右十》 三日《割書:左十六|右十六》 四日《割書:左九|右十》 五日《割書:左十|右九》 六日《割書:左十|右九》   七日《割書:左九|右十》 八日《割書:左八|右八》  斯毎月勉てすへ申よし外に子細なく  但し其/家族(かぞく)皆々(みな〳〵)此灸をすゆが故にや万平が妻弐百余歳  同しく子(こ)百八十余歳/孫(まご)百四十余歳いづれも長命(ちやうめい)なるは全く  この灸/法(はふ)によるにやといへりとぞいとも有難き事なれは爰(こゝ)に記す 養生主論上《割書:終》 【裏表紙】 【表紙 題箋】 《題:養生主論  坤》 【見返し 右丁 白紙】 【蔵書印 横向き】 東京学芸大学蔵書 【右丁】 養生主論 下   食性扁目録(しよくせいへんもくろく)   ○穀部(ごこくのぶ) 餅(もち)《割書:初丁|オ》  大麦(おほむぎ)  小麦(こむぎ)    粟(あわ)    黍(きび) 稗(ひへ)《割書:初丁|ウ》   蕎麦(そば)  小豆(あづき)  大豆(まめ)  豇豆(さゝげ) 豌豆(ゑんどう)    縁豆(ぶんどう)   玉蜀黍(なんばきび)  蜀黍(とうきび)    さんご米(べい) 麩(ふ)《割書:二丁|オ》   薏苡仁(よくいにん)  芥子(けし)  胡麻(ごま)  榧子(かや) 酒(さけ)     焼酎(しやうちう)  酒糟(さけのかす)《割書:二丁|ウ》 糠味噌(ぬかみそ) 餻(だんご) 美淋酒(みりんしゆ)  艾餻(よもぎたんご)  粽(ちまき)   白酒(しろざけ) 麪(うとんのこ) 醴(あまざけ)   蓮飯(はすめし)   湯餅(うどん)《割書:三丁|オ》 葛餅(くすもち) 索麪(そうめん) 䬣餻?(こむぎだんご)  飴(あめ)   瓊脂(ところてん)  砂糖(さとう)  饅頭(まんぢう) 養生主論   食性編篇(しよくしやうのへん)      穀部(こくのぶ) ○餅(もち)  温(うん)にして熱(ねつ)ものなり二便(にべん)をかたくす実正(じつしやう)の人は斟酌(しんしやく)すべし ○大麦(おほむぎ) 心(しん)を補(おきな)ふて諸病(しよびやう)によろし夏(なつ)の日(ひ)は尤(もつとも)よろし       炒(いり)たるはあしく鯉(こい)と食(しよく)すべからず ○小麦(こむぎ) 冷素麪(ひやそうめん)はあしくやはらかにして少(すこ)し食(しよく)すれば       うんどんとかはる事なし ○粟(あわ)  小便(しやうべん)を利(り)す粟飯(あわめし)は病人(びやうにん)よろしからず ○黍(きび)  毒(どく)あり常人(つねびと)にもよろしからず白酒(しろざけ) 飴(あめ) 蜜(みつ)と       同(おな)じく食(しよく)すべからず葵菜(あふひな)と食合(くひあは)すれば痼疾(こしつ)となる ○稗(ひへ)   脾胃(ひゐ)を補(おきな)ふといへとも冷症(ひへしやう)の人はよろしからず ○蕎麦(そば)  多(おほ)く食(くら)へは毒(どく)となる脾胃(ひゐ)の湿熱(しつねつ)をのぞくまた       多く食(しよく)して入湯(にうたう)を禁(きん)ず田螺(たにし)と同食(どうしよく)大にあしゝ ○小豆(あづき)  水道(すいどう)を利(り)す熱毒(ねつどく)をさり酒毒(しゆどく)をけす ○大豆(まめ)  脾胃(ひゐ)よはく泄瀉(くだり)などに宜(よろし)からず黒大豆(くろまめ)大略(おほかた)同し ○豇豆(さゝげ)  気(き)と腎(じん)とを補(おきな)ふといへども諸病(しよびやう)に宜(よろし)からず ○豌豆(えんどう)  小便(しやうべん)を通(つう)じ渇(かつ)を止(や)むしかれども多(おほ)く食(しよく)すべからず ○緑豆(ぶんどう)  気(き)をくだし水(みづ)を利(り)す脾胃(ひゐ)虚(きよ)の人はあしゝ ○玉蜀黍(なんばきび) 胃(ゐ)をとゝのふといへども諸病(しよびやう)によろしからず ○蜀黍(たうきび)  温(うん)にして小便(しやうべん)を通(つう)ずといへとも諸病(しよびやう)にあしゝ ○さんご米(へい) 脾胃(ひゐ)に宜(よろ)しからずかろき物(もの)は脾胃(ひゐ)を損(そん)じて畢竟(ひつきやう)       よろしからず ○麩(ふ)   毒(どく)なく病人(びやうにん)によろし労熱(らうねつ)を去(さ)る ○薏苡仁(よくいにん) 筋骨(すぢほね)の湿(しつ)をのぞくといへども食(しよく)すべからず ○芥子(けし)  諸病(しよびやう)に忌(いま)ず糯類(うるのるい)と同前(どうぜん)なり ○胡麻(ごま)  脾胃(ひゐ)をやしなひ耳目(みゝめ)をあきらかにす ○榧子(かや)  毒(どく)なし肌(はだへ)をうるほす多(おほ)く喰(くら)へば痰(たん)を生(しやう)ず ○酒(さけ)   血脈(けつみやく)をめくらし肌膚(はだへ)をうるほし湿気(しつき)を散(さん)ずしか       れども大酒(たいしゆ)するときは却(かへつ)て神(しん)をやぶり寿(じゆ)をちゝむ       常(つね)に寐酒(ねさけ)を飲(のむ)はあしく臓腑(ざうふ)にしみて水腫(すいしゆ)の病(やまひ)と       なる ○焼酎(しやうちう)  毒(どく)あり胃中(ゐちう)の寒積(かんしやく)をさる然(しか)れ共/多(おほ)く飲(のむ)べからず ○酒糟(さけのかす)  五臓(ござう)をあたゝむ毒(どく)なしといへども和交(あへ)ものあるひは       汁(しる)などにして腹中(ふくちう)をそこなふことあり ○粃味噌(ぬかみそ) 胃(い)をあたゝめ気(き)をくだし食(しよく)をすゝむ ○餻(たんご)   胃(い)をつよくし中(うち)を和(くは)す ○美淋酒(みりんしゆ) 毒(どく)あり多(おほ)く飲(のむ)べからず皮膚(はだへ)をうるほす能(のう)あり ○艾餻(よもぎだんご)  冷(ひへ)をあたゝめ痢(くだり)をとゝむ毒(どく)なし ○粽(ちまき)   毒(どく)なし嘔(ゑづき)或は頭痛(づつう)によろし ○白酒(しろざけ)  能毒(のうどく)大抵(たいてい)美淋酒(みりんしゆ)に同じ ○麪(うどんのこ)  腸胃(ちやうい)をとゝのへ気力(きりよく)をます多(おほ)く食(しよく)すべからず ○醴(あまざけ)   少(すこ)し飲(のむ)ときは脾胃(ひい)をとゝなふ ○蓮飯(はすめし)  脾胃(ひい)を和(くわ)して食気(しよくき)をすゝむ 【注】 ○湯餅(うとん)  毒(とく)あり脾胃(ひい)虚(きよ)の人はよろしからず ○葛餅(くずもち)  胃熱(ゐねつ)をのぞき酒毒(しゆどく)を解(け)す病人(びやうにん)にあつべし ○索麪(そうめん)  腸胃(ちやうゐ)をとゝなふ多(おほ)く食(くら)へば気熱(きねつ)を生(しやう)ず ○䬣餻?(こむぎたんご)  脾(ひ)をつよくすれども病人(びやうにん)には斟酌(しんしやく)すべし ○飴餹(あめ)  肺(はい)をうるほすが故(ゆへ)に嗽(せき)をとゞむ目(め)を病(や)む者/忌(いむ)べし ○瓊脂(ところてん)  冷物(れいぶつ)なり虚弱(きよじやく)の人はよろしからず ○砂糖(さとう)  酒毒(しゆどく)をのぞく多(おほ)く食(しよく)すれば歯(は)を損(そん)ず小児(しやうに)には       疳(かん)によろしからず ○饅頭(まんぢう)  脾胃(ひゐ)を和(くは)す多(おほ)く食(しよく)すれば疳虫(かんちう)を生す小児(しやうに)には       尤(もつとも)よろしからず 【注 「はすめし」の漢字表記は「荷飯」だが、「蓮飯」の誤と思われる。】     魚部(うをのぶ) ○鯛(たい)   生(なま)も塩(しほ)も諸病(しよびやう)によろし多(おほ)く食(しよく)すべからず ○鯛子(たいのこ)  是(これ)も大(たい)がい同(おな)じものなり ○尨鯛(くろだい)  鯛(たい)よりすこし毒(どく)あり ○方頭魚(あまだい) 性(しやう)かろくして病人(びやうにん)などによろし ○石伏魚(こり) 大(たい)がい前(まへ)に同(おな)し食(しよく)にあつべし ○火魚(かながしら)  毒(どく)なし平和(へいわ)なり病人(ひやうにん)に用(もち)ゆべし ○鱖魚(もうお)  脾胃(ひゐ)を和(くは)し瘀血(おけつ)をやぶる ○くぢ   諸病(しよびやう)にさし合(あひ)なし ○鯉(こひ)   常(つね)に少(すこ)しツヽ食(しよく)すれば元気(けんき)を補(おきな)ふ生(しやう)はあしゝ       葵菜(あふひな)と食(しよく)すべからず又/胡椒(こしやう)と食(しよく)すればあしゝ ○鮒(ふな)   脾胃(ひゐ)を調(とゝの)ふ煮(に)て食(しよく)すれば元気(げんき)をたすく膾(なます)は病       人にいむ鮒鮓(ふなずし)も同し蒜(にら)と食(しよく)すれば熱(ねつ)となる ○魴(まなかつお)  生(しやう)はあしゝ常(つね)に食(しよく)して平和(へいわ)なり ○鱸(すゞき)   平和(へいわ)なり痰症(たんしやう)あるひは病人(びやうにん)など指身(さしみ)はいむへし ○松魚(さけ)  虚(きよ)を補(おきな)ふ瘡毒(さうどく)または婦人産後(ひじんさんご)に宜(よろ)からず ○鱈(たら)   性(しやう)かろくして病人(びやうにん)に忌(いま)ずぼうたらは化(くは)しがたし ○鰺(あし)   常(つね)に食(しよく)して宜(よろし)一さい瘡類(くさるい)熱病(ねつびやう)にいむべし ○鯒(こち)   平和(へいわ)なり病人(びやうにん)に斟酌(しんしやく)すべし ○魳(かます)   油(あぶら)づよきものは痰症(たんしやう)にいむべし ○鰣(ゑそ)   平(へい)なり病人(びやうにん)によろし臭(か)悪(あ)しく胸(むね)に阻(さゝ)ふ ○鯔夷(ぼら)  よく五臓(ござう)をとゝのふ膾(なます)なと生(しやう)にてはあしゝ ○魬(はまち)   諸病(しよびやう)に忌(いま)ず味少(あじすこ)し酸(す)き故/脾病(ひびやう)には斟酌(しんしやく)すべし ○鱧(はも)   平(へい)なりかまぼこにして虚(きよ)を補(おきな)ふ食用(しよくやう)によろし ○鯖(さば)   病人(びやうにん)にはよろしからず刺鯖尤(さしさばもつと)も斟酌(しんしやく)すべし ○/ 𩶤(とびうを)   諸病(しよびやう)に忌(いま)ず婦人(ふじん)に尤(もつとも)よろし ○鰻鱺(うなぎ)  脾胃(ひゐ)の毒(どく)なり小児(しやうに)に尤いむ腎陽(じんやう)をたすくる       山椒(さんしやう)と食(しよく)をいむ梅酢(うめず)と同食(どうしよく)をいむどく甚(はなはだ)し ○鰍(どじやう)   常人(つねびと)によろし病人(びやうにん)にいむべし多食(おほくしよく)すればくだる ○鰆(さはら)   脾胃(ひゐ)実熱(しつねつ)の人にはよろしからず ○鱪(しいら)   常(つね)に食用(しよくやう)によろし病人(びやうにん)に用ゆべからず ○鯷(しろうお)   痰病(たんびやう)には斟酌(しんしやく)すべし ○河豚(ふぐ)  温(うん)にして陽(やう)を補(おきな)ふ毒魚(とくうを)なり食(くら)ふべからず       柿(かき)と同食(どうしよく)すれば人を殺(ころ)す煮(に)るとき煤(すゝ)を禁(きん)ず過(あやまつ)       て 煤(すゝ)入ればかならず害(かい)あり又これを食(しよく)して風呂(ふろ)に       入事(いること)を禁(きん)ず又/房事(ぼうじ)を禁す其外/薬品(やくひん)にさし合/甚(はなはだ)       多(おほ)し服薬(ふくやく)する人は必(かなら)す食(くら)ふべからず ○鰤(ぶり)   痰熱(たんねつ)胃熱(ゐねつ)によろしからず病人(びやうにん)は斟酌(しんしやく)すべし       椎茸(しいたけ)と同食(どうしよく)すれば酔(よひ)て醒(さめ)がたし ○鰚(はらか)   かずの子(こ)と同し病人(びやうにん)に用ゆべからず ○鯢魚(さんしやううお) 毒(どく)あり食ふべからず ○佐古士(さこし) 平(へい)なり諸病(しよびやう)にいむ事なし ○金糸魚(いとより) 平和(へいわ)なり病人にもちゆべし ○鱘(ふか)   平人(へいにん)にはよろしく病人(びやうにん)には用捨(やうしや)すべし蕎麦(そば)       と食(しよく)すれば音声(おんせい)をうしなふ ○鮫(さめ)   病人(ひやうにん)はもとより平人(へいにん)とても食すべからず ○鱎(たちうお)?  毒(どく)あり食(しよく)すべからず是(これ)を食して死(し)すといへり ○鰯(いわし)   温(うん)なり毒(どく)あり病人/斟酌(しんしやく)すべし ○鱒(ます)   胃(ゐ)をとゝなふ瘡毒(さうどく)ある人は食(くら)ふべからず ○鯰(なまず)   腸胃(ちやうゐ)を厚(あつ)ふして大に益(ゑき)あり但し目赤(めあか)く髭赤(ひげあか)く       腮(あご)なきものは毒(どく)あり食すべからず ○/𩹨(いしもち)【注①】  毒( どく)なし性軽(しやうかろ)し はす わたかうぐゐ同性(どうしやう)なり       常食(しやうしよく)によろし病人には用捨(やうしや)すべし ○古万米(ごまめ) 鰯(いわし)と同性(どうしやう)なり ○鰹(かつお)   小毒(せうどく)あり人によりて酔者(よふもの)あり鰹節(かつをぶし)は病人(びやうにん)にも       いむことなし ○鮬(せいご)   平和(へいわ)にして諸病(しよびやう)にいまず ○鮟鱇(あんかう)  五臓(ござう)を補(おきな)ひ諸病によろし ○【魚+蚤】(ひごい)【注②】    鯉(こひ)よりは少(すこ)し軽(かろ)き性(しやう)なり ○鯯(このしろ)   毒(どく)あり病人(びやうにん)は本(もと)より常人(つねひと)も食(しよく)すべからず赤苣(あかぢさ)と       食すれは煩悶(もだへ)し吐(と)す又/此魚(このうを)を炙(あぶ)るに火(ひ)の中(なか)に       若(もし)綿実(わただね)あれば忽(たちま)ち人を殺(ころ)す恐るべし ○鯨(くじら)   疝気(せんき)に大に悪(わる)し身鯨(みくじら)かぶら骨(ぼね)皮(かは)とも同性なり       総(さう)【惣】じて鯨(くじら)の類(るい)はみな毒(どく)なり ○烏賊(いか)魚 平(へい)なり常人(つねひと)はよろし病人(びやうにん)は斟酌(しんしやく)すべし鯣(するめ)も       同し多(おほ)く食(くら)へば脾胃(ひゐ)を損(そん)ず 【注① 𩹨」は『大漢和辞典』に見えず。】 【注② 音「ソウ」、語義は「みごい」。「にごい(似鯉)の古名。鯉に似て肉に細刺あり。味劣る。】 〇/章魚(たこ)   平(へい)にして陽(やう)を起(おこ)す病人(びやうにん)にはよろしからず梅酢(うめす)にて        食(くら)へは害(がい)あり《割書:たこにあたりたるにはまさきの葉の|しぼり汁をのむべし》 〇/海蛇(くらげ)   脾胃(ひゐ)虚寒(きよかん)の人は宜(よろ)しからず婦人(ふじん)瘀血(おけつ)によろし 〇/海鼠(なまこ)   病人には忌(いむ)べし熬海鼠(いりこ)はよく煑(に)てやはらかにしては        諸病(しよびやう)に用ひてよく串鰒(くしあはび)と同事なり 〇/海鼠腸(このわた)  海鼠(なまこ)に同し虚寒(きよかん)の人は食(しよく)すべからず 〇/鰕(ゑび)    くるまゑび伊勢(いせ)ゑび何(いづ)れも同し病人はし斟酌(しんしやく)すべし 〇/鰕(ゑび)ざこ  小(こ)ゑびも網(あみ)ざこも同し病人には用捨(やうしや)すべし 〇小あいざこ 小毒(さうどく)あり病人は用(もち)ゆべからず 〇かますご  小毒あり病人/平人(へいにん)とも食(しよく)すべからず 〇/蟹(かに)    病人/食(しよく)すべからず胃(ゐ)をとゝのへ食(しよく)をすゝむ        蜜柑(みかん) 梨(なし)棗(なつめ)柿(かき)と食(しよく)すべからず毒(どく)あり人を害(がい)す 〇/牡蛎(かき)   温(うん)なり中(うち)をとゝのへ酒熱渇(しゆねつかつ)を止(とゞ)む病人にいまず 〇/蚌(はまぐり)    胃熱(ゐねつ)ある病人は用捨(やうしや)すべし生(しやう)にては尤毒(もつともどく)なり         煤灰(すゝはい)にまじりたるを食(く)ふべからずどくとるゐ 〇/鰒(あはび)    平(へい)なり介類(かひるい)第一/益(ゑき)あり脾虚(ひきよ)の人は化(くは)しがたし 〇/串鰒(くしあはび)   よく煑(に)てやはらかにして病人(びやうにん)さんごにも用ゆべし 〇/蚶(あかゞひ)    内(うち)をあたゝめ益(ゑき)ありしかし病人には用捨(やうしや)すべし 〇/波比(はひ)   病人には忌(いむ)べし 〇/挙螺(さゞい)   毒(どく)なし脾胃虚(ひゐきよ)の人はいむべし 〇/蓼螺(にし)   脾胃(ひゐ)よはき人は食(しよく)すべからず化(くは)しかたし砂糖(さとう)又        蜜(みつ)と食(しよく)すべからず 〇/江琲柱(たいらき)  五臓(ござう)を和(くは)し食(しよく)をすゝむ胃熱(ゐねつ)の者(もの)は忌(いむ)べし 〇/蚌(からすがひ)   眼(め)を明(あきらか)にし酒毒(しゆどく)をのぞく 〇/鰷魚(はへ)   胃中(ゐちう)をとゝのへてやはらく雉子(きじ)と同しく食す        れは大病(たいびやう)おこる 〇/沙魚(かまつか)   温(うん)にして気(き)をます毒(どく)なし 〇/鰕虎魚(はぜ)  毒(どく)なし病人によろし 〇/鯇魚(あめのうを)   鱒(ます)と同し瘡毒(たうどく)にはいむべし 〇/鱵(さより)    毒(どく)なし食(しよく)して疫病(えきびやう)をのぞく 〇/?魚(いさゞ)    性(しやう)かろし食用(しよくやう)にあつへし 〇/竹麥魚(はうぼう)  毒(どく)なし病人にても食(しよく)すべし 〇/火箆帋(やがら)  膈噎(かくいつ)のやまひによろし 〇/?子(からすみ)    性温(せいうん)にして諸(もろ〱)の瘡類(かさるい)によろしからず 〇/責魚(にしん)   瘡(かさ)ある人は尤(もつとも)いむべし 〇/責魚子(かずのこ)  性熱(しやうねつ)にして消化(しやうくは)しがたし積気(しやくき)にいむべし 〇/金瘡魚(はつ)  諸(もろ〱)の瘡(かさ)を生(しやう)ず毒(どく)あり食(く)ふべからず 〇/?魚(あら)    性温(しやううん)なり一切(いつさい)の瘡(かさ)ある人はいむべし 〇/背魚(うれい)   脾(ひ)をとゝのへ気(き)を益(ま)す病人(びやうにん)によろし 〇/蜆(しゞみ)    胃熱(ゐねつ)をさり小便(しやうべん)を通(つう)ず 〇/鼈(すつぽん)    気(き)の不足(ふそく)をまし瘀血(おけつ)をやぶり腰通(こしのいたみ)によろし但        三足(みつあし)のもの足赤(あしあか)きもの目(め)一つあるもの頭足縮(かしらあしちゞま)ら        ざるもの腹(はら)の下(した)に王の字(じ)あるひは十の字(じ)あるもの        腹(はら)に蛇(じや)がたあるもの皆(みな)毒あり食(く)ふべからず鶏肉(けいにく)         鶏卵(けいらん)または家鶏(あひる)芥子(けし)桃(もゝ)と同食(どうしよく)すれば害(がい)あり 〇/鮓(すし)     何(なに)にても鮓(すし)は平人(へいにん)も虚弱(きよじやく)の人は食(しよく)すべからず 〇/鱠(なます)     是(これ)も虚人(きよじん)は食(しよく)すべからず病人は猶忌(なをいむ)べし 〇熨斗(のし)    平(へい)なり諸病(しよびやう)によし鰒(あわび)は猶(なを)よしとす  △諸魚類(もろ〱のぎよるい)にあたりたるには其魚(そのうを)の骨(ほね)を黒(くろ)やきにして呑(のみ)てよし    鳥部(とりのぶ) 〇/鶴(つる)     温(うん)なり陽気(やうき)を補(おぎな)ひ虚(きよ)をとゝなふ老人虚寒(らうしんきよかん)に         よろし瘀血労咳(おけつろうがい)のものにはこれを忌(いむ)べし 〇/鴈(がん)     虚(きよ)を補(おきな)ふこと鴨(かも)よりも大に益(ゑき)あり 〇/鴨(かも)     平(へい)なり脾胃虚寒(ひゐきよかん)の人は斟酌(しんしやく)すべし鴨(かも)の類尤(るいもつとも)         多(おほ)し何(いづ)れも同し悪瘡(あくさう)によろし 〇/鶩(あひる)     毒(どく)あり病人にはいむべし卵(たまご)も同し 〇/鷺(さぎ)     性(しやう)かろく毒(どく)なし青さぎは少(すこ)しまされり 〇/鵠(かう)     毒(どく)あり食(く)ふべからず 〇/鸊鷉(かいつぶり)   毒(どく)なしといへども小毒(せうどく)あり食(く)ふべからず 〇/鶏(にはとり)    本草(ほんざう)に多(おほ)く能(のう)をちげたり虚(きよ)をおきなふといへとも        虚寒(きよかん)にはよろしからず 〇/鶏卵(たまこ)   平(へい)にして虚利(きより)を止(やめ)しむ痘疹(ほうそうはしか)にはいむべしあひる        の卵鼈(たまごすっぽん)また李(すもゝ)と同食(どうしよく)すれば害(がい)あり 〇/雉子(きじ)   小毒(せうどく)あり諸(もろ〱)の瘡毒(そうどく)を発(はつ)す 〇/鵞(とうがん)     臓熱(さうねつ)をさるといへども多(おほ)く食(く)ふべからず 〇/鴫(しぎ)    中(うち)をとゝのへて功能(こうのう)多し  老(おい)わかき        その    ほどくを   分(わか)つ      遍し   同し    飲食(ゐんしよく)   おるし     遊(あそ)びも  厚味(かうみ)をは    しよくせし   あとは    あじはひの   淡(あは)しきものと     心(こゝろ)づく遍             し 〇/雀(すゞめ)   腰(こし)の冷(ひへ)をさり小便(しゆべん)をとゝなふ妊婦(はらみをんな)はいむべし       李(すもゝ)と同(おな)じく食(く)ふべからず〇/凡鳥類自(をよそとりるいみづか)ら死(し)して目(め)       を閉(とぢ)ざるもの足(あし)ののびざるもの白(しろ)き鳥(とり)にくろき       首(くび)また黒(くろ)き鳥(とり)の白(しろ)き首(くび)又は三足(みつあし)あるひは四つ       趾(けづめ)あるもの六つゆび四つ翼(つばさ)あるもの其外(そのほか)異形(ゐぎやう)なる       鳥色(とりいろ)かはるもの皆毒(みなどく)あり食(く)ふべからず 〇/鶉(うづら)   大(おほひ)に五臓(ござう)をとゝのへ食(しよく)して益(ゑき)あり病人( びやうにん)に忌(い)まず 〇/鳩(はと)   つちくれもどばとも山ばとも同性(どうしやう)どくなし 〇/蟠(はん)   鴨(かも)のかろき性(しやう)なり食(しよく)して害(がい)なし 〇/小鳥(ことり)  平和(へいわ)なり食(しよく)によろし鶯鵑(うぐいすほとゝぎす)などは食(く)ふべからず 〇/雲雀(ひばり)   食(しよく)してよろし塩鳥(しほとり)は病人(びやうにん)によろし 〇/鶫鳥(つくみ)  鵯同性(ひよとりどうしやう)なり尤/鵯(ひよどり)はおとれり毒(どく)なし食(く)ふへし 〇/白鳥(はくてう)  脾胃(ひゐ)虚寒(きよかん)久瀉(きうしや)に効(こう)あり元気(げんき)を補(おきな)ふ中風虚(ちうぶうきよ)       症(しやう)に食(しよく)して益(ゑき)あり鶴(つる)よりも功(こう)つよし虚人(きよじん)また       老人(ろうじん)には益(ゑき)あり    獣部(けもののぶ) 〇/豕(ぶた)   腎(じん)を補(おきな)ふ金瘡(きんさう)ある人はいむべし生姜(しやうが)また蕎(そ)       麦(は) 梅(うめ)砂糖(さとう)鹿(しか)鼈(すつほん)鶴(つる)鶉(うづら)を忌(い)む 〇/鹿(しか)   気(き)をまし五臓(ござう)をとゝなふ血(ち)をめくらずしかれども       多(おほ)く食(く)ふべからず雉子(きじ) はゑ ゑび同食(どうしよく)すべか       らず害(がい)あり              〇/熊(くま)    筋骨(すじほね)をやはらげ不仁(ふしん)を治(ぢ)す積熱(しやくねつ)にいむべし 〇/牛(うし)    腰(こし)をあたゝめ胃(ゐ)をとゝなふ 〇/野猪(いのしゝ)   中(うち)をとゝのへ癲癇(てんかん)に効(こう)あり服薬(ふくやく)には忌へし 〇/兎(うさぎ)    胃気(ゐき)を和(くは)し気血(きけつ)をめぐらす 〇/狸(たぬき)    痔疾(ぢしつ)に効(こう)あり 〇/水獺(かはうそ)   腫病(はれやまひ)によろしく労熱(らうねつ)をさる凡(すべ)て六畜自(ろくちくみづか)ら        死(し)して北(きた)に向(むか)ふもの又/口(くち)を閉(とぢ)ざるもの足赤(あしあか)きもの        肉(にく)を煑(に)て熱(ねつ)ならざるもの酢(す)をかけて肉(にく)の色(いろ)        かはらざるもの肉地(にくち)におちてよごれざるもの肉水(にくみづ)        に入(いり)てうくもの肉一夜(にくいちや)を経(へ)て煑(にへ)ざるもの肉中(にくちう)        に星(ほし)のごときあるもの毒(どく)箭(や)にあたりて死(し)したる        もの皆毒(みなどく)あり食(く)ふべからず    果部(くだものゝぶ) 〇/李(すもゝ)    平人(へいにん)にも毒(どく)なり食(く)ふべからず砂糖(さとう)をいむ蜜(みつ)と食        すれば五臓(ござう)を損(そん)ず水(みづ)と食(く)らへは霍乱(くはくらん)となる雀(すゞめ)と        食(くら)へば毒甚(どくはなはだ)し 〇/梅(うめ)    食して益(ゑき)なし梅干(うめぼし)は煑(に)て病人に用ゆへし豕(ぶた)と        食(しよく)すれば脾胃(ひゐ)を害(がい)す 〇/桃(もゝ)実   毒(どく)あるは大に害(がい)あり毒(どく)なきは薬(くすり)となりて寿(じゆ)を延(の)ぶ 〇/栗子(くり)   よく煑(に)て食(くへ)ば少(すこ)しは腎(じん)をおきゐふ生栗(なまぐり)は脾胃(ひゐ)に害(がい)        ありて毒(どく)なり病人(びやうにん)によろしからず痰(たん)には大(おほひ)に毒(どく)也         飴(あめ)と食(しよく)すれは化(くは)せずして病(やまひ)を発(はつ)す 〇/棗(なつめ)     大に脾胃(ひゐ)にあたる食(く)ふべからず病人は猶更(なほさら)なり 〇/梨子(なし)    常(つね)の人(ひと)も病人も脾胃(ひゐ)を損(そん)じてあしく大酒後(たいしゆご)に        少々(すこし)食(しよく)して口中(こうちう)すゞしくなるを以(もつ)て病人にもその        心得(こゝろえ)を用(もち)ゆるは誤(あやまり)なり熱病(ねつびやう)にもよろしからず  櫨子(ぼけ)   平人病人(へいにんびやうにん)ともよろしからず 〇/林檎(りんご)   諸病(しよびやう)によろしからず病人(びやうにん)など胃冷(ゐひへ)て不食(ふしよく)す砂糖(さとう)        をいむ 〇/柿(かき)     多(おほ)く食(く)ふべからずさはしたる柿(かき)は病人にすこしは苦(くる)        しからず 〇/榲桲(まるめろ)   常人(つねひと)は少(すこ)しは用(もち)ゆべし病人(びやうにん)には宜(よろ)しからず 〇/柘榴(ざくろ)   前(まへ)に同し 〇/蜜柑(みかん)   脾胃(ひゐ)虚寒(きよかん)の人は用(もちゆ)べからず火(ひ)に暖(あたゝ)めて少(すこ)し用ゆべし 〇/橙(だい〱) 柚(ゆ)  金柑(きんかん)三物(さんぶつ)とも常人(つねびと)は少(すこ)し用ゆべし病人には        用捨(やうしや)すべし 〇/仏手柑(ぶしゆかん)  砂糖漬(さとうづけ)の仏手柑(ぶしゆかん)または天門冬(てんもんどう)など多く食(しよく)す        べからず脾胃(ひゐ)を損(そん)じ陽気(やうき)を伐(う)つ 〇/枇杷(びは)   常人(つねびと)も多く食(く)ふべからず 〇/揚梅(やまもゝ)   平人(へいしん)にもよろしからず尤病人(もつともびやうにん)は忌(いむ)へし 〇/胡桃(くるみ)    病人にても毒(どく)にはあらねども多く食(く)らへは気塞(きふさが)る 〇/榛(はしばみ)    平(へい)にしてよろし多く用ゆべからず 〇/橡実(とち)   餅(もち)にして脾胃(ひゐ)を補(おきな)ふ病人にもよろし 〇/葡萄(ぶどう)    病(やまひ)ある人はよろしからず脾胃(ひゐ)よはく大便滑(たいへんくはつ)なる人は悪し 〇/砂糖(さとう)    黒(くろ)きも氷(こほり)も替(かは)る事なく病人/小児(せうに)など宜し         からず 〇/蓮実(はす)    瀉(しや)しやすき人は用ゆべからず 〇/藕(はすのね)     胃気(ゐき)を損(そん)じて病人に宜(よろ)しからず 〇/菱実(ひし)    毒(どく)あり食(く)ふべからず 〇/黄実(みつぶき)    蓮(はす)の実(み)と同し 〇/茘枝(れいし)    心(しん)の邪熱(じやねつ)をのぞく目(め)をあきらかにす 〇/龍眼肉(りやうがんにく)   久(ひさ)しく食(しよく)すれば諸(もろ〱)の虚損(きよそん)を補(おきな)ふ多(おほく)食すべからず 〇/榧子(かや)    眼(め)をつよくし痔疾(ぢしつ)を治(ぢ)す病人はよろしからず 〇/無花果(いちじく)   洩痢(くだり)を止(や)む餅(もち)と同食(どうしよく)すれば寸白(すんはく)おこる   〇/枳?(けんほなし)    胃熱(ゐねつ)を▢り酒毒(しゆどく)を解(げ)す 〇/覆盆子(いちご)   痰(たん)をひらき渇(かつ)をのぞく病人(びやうにん)は斟酌(しんしやく)すべし 〇/胡頽子(ぐみ)   水瀉(すいしや)によろし病人にあしく益(ゑき)なし 〇/山椒(さんしやう)    小毒(しやうどく)あり五臓(ござう)をあたしめ腹中(ふくちう)冷痛(ひへいたむ)によし 〇/胡椒(こしやう)    温(うん)にして痰(たん)をきり冷気(れいき)をあたしむ桃(もゝ)/李(すもゝ)/揚桃(やまもゝ)         と同食(どうしよく)する事を忌(い)む 〇/椎子(しい)    病人小児(びゃうにんしやうに)など食(く)ふべからず 〇/茶(ちや)     挽茶(ひきちや)/濃(こい)も薄(うす)きも煎(せん)し茶(ちや)も病人(びやうにん)によろしからず         其中/煎茶(せんじちや)のうすく性(しやう)のよはきは用(もち)ゆべし 〇/煙草(たばこ)    毒(どく)ありしかれども今の人このんて暫(しばら)くもやめずつ         よからぬやはらかなるものを用(もち)ひてよし    菜部(あをなのぶ) 〇/萵苣(ちさ )    小毒(しやうどく)あり筋骨(すぢほね)をかたくす少き若葉(わかば)のとき宜(よろ)し         蜜(みつ)と同食(どうしよく)すれば腹瀉(はらくだ)る 〇/莧(ひゆ)    気(き)を補(おきな)ひ熱(ねつ)をのぞく大便(だいべん)を通(つう)せしむ多(おほ)く食(く)ふ         べからず鼈(すつぽん)と同食(どうしよく)すべからず  〇/蕃椒(とうがらし)   寒癖(かんへき)をやぶり疝(せん)を治(ぢ)す病人はいむべし 〇/蕨(わらび)    膀胱(ばうくはう)の熱(ねつ)をさり小便(しやうべん)を利(り)す病人にあし 〇/薇(ぜんまい)    小便(しやうべん)を通(つう)じ腫気(はれ)をのぞく《割書:わらびぜんまいと鳥貝(とりかい)と|同食大にいむべし》 〇/藜(あかざ)    少毒(すこしどく)あり脾胃虚寒(ひゐきよかん)の人はよろしからず 〇/蕨餅(わらびもち)   無病(むびやう)の人用ゆべし性寒(しやうかん)にして瀉(くだ)しやすく緑豆(ふんどうまめ)と        同食(どうしよく)すれは人を害(かい)す 〇/芋(いも)    中(うち)をとゝなふといへども多く食(しよくす)へからず 〇/芋茎(いものくき)   やはらかに煑(に)て病人にも少し用ゆ干(ほし)たるを汁(しる)にし        ては猶(なほ)よしと唐(とう)のいもの茎(くき)は尤よしとす 〇/芋魁(いもがら)   芋(いも)の子(こ)と同し 〇/薯蕷(やまのいも)   性冷(しやうれい)なる故(ゆゑ)多は用れば泄瀉(せいしや)するなり甘藷(つくねいも)も        同し 〇/零余子(むかご)   虚人(きよじん)に益(ゑき)あり大抵(たいてい)やまのいもに同し 〇/竹筍(たけのこ)   胸(むね)をひらき痰(たん)をさる江南竹(もうそうたけ)は性(しやう)やはらかにて        食用(しやくやう)に佳(か)なり積気(しやくき)にいむ砂糖(さとう)もいむ 〇/茄子(なすび)    小/毒(どく)あり寒熱(かんねつ)をのぞき血(ち)の痛(いたみ)をやはらく  何事(なにこと)も     たるに      まかせて     自由(じゆう)すな    残(しづ)の      住居(すまひ)の     長寿(ちやうじゆ)      見るにも 〇/壷瓢(ゆううり)   よく煑(に)て用(もち)ゆるときは毒(どく)なし病人にもよろし 〇/冬瓜(かもうり)   脾腎(ひじん)の虚(きよ)して腫(はれ)たるゝ病にはいむべし 〇/越瓜(あたうり)   よく煑(に)て用ゆべし生(しやう)にては害(がい)あり 〇/胡瓜(きうり)   小毒(しやうどく)あり多(おほ)く食(く)ふべからず香物(かうのもの)もあし 〇/?瓜(まぐは)    脾胃(ひゐ)よはき人は少(すこ)しも食(く)ふべからず 〇/西瓜(すいくは)   胃熱(ひゐ)をさり小便(しやうべん)を通ず多(おほく)食ふへからず 〇/菠薐(はうれんさう)   よく煑(に)てひたしのものにて用ゆべし婦人/鉄漿(かねつけ)つけたてに        食すべからず 〇/韮(にら)    少/温(うん)にして腰膝(こしひざ)をあたゝむ病後(びやうご)には忌(いむ)べし蜜(みつ)と        食するを忌む 〇/葱(ひこもへ)    脾胃(ひゐ)虚弱(きよじやく)なる人は斟酌(しんしやく)すへし蜜/棗(なつめ)雉子(きじ)などゝ        同食すへからず 〇/胡葱(あさつき)   性温(しやううん)にして気(き)を下(くだ)す病人はいむべし 〇/蒜(にんにく)    微毒(すこしどく)あり風邪(ふうじや)をさり瘡毒(さうどく)を治(ぢ)す実症(じつしやう)の人は忌(いむ)         生魚(なまうを)と多く食(くう)へば陰嚢(いんのう)を病(や)む 〇/芥(からし)    毒(どく)なし痰咳(たんせき)によし気(き)を下(くだ)す 〇/大根(だいこん)   葉(は)も根(ね)もよろしく中気(ちうき)を和(やは)らく効(かう)あり 〇/生姜(はじかみ)   気(き)をひらき痰(たん)を治(ぢ)す 〇/胡蘿蔔(にんじん)  常(つね)に食(しよく)して益(ゑき)あり虚(きよ)を補(おきな)ふ 〇/芹(せり)    よく煑(じ)てb病人にも用(もち)ゆべし気血(きけつ)をめぐらす 〇/山蒜(のびる)   性熱(しやうねつ)なり五臓(ござう)をあたゝめ補(おぎな)ふ 〇/?菜(わさび)    辛(から)く温(うん)にして気(き)を下(くだ)し痰(たん)をのぞく 〇/蓴(じゆんさい)    常(つね)にもよろしからず気(き)を下(くだ)し渇(かつ)をさる数(かず)のこと同食忌(どうしよくいむ) 〇/繁縷(はこべ)    諸(もろ〱)の悪瘡(あくさう)によろしさん後(ご)/乳(ちゝ)汁/少(すくな)きに食(しよく)すべし 〇/高麗菊(かうらいぎく)   苗(なへ)を菹(ひたしもの)にして食用(しよくやう)にすべし 〇満たゝび   性熱(しやうねつ)なり常(つね)の人は用(もち)ゆべし病人(びやうにん)はいむべし 〇たかぢさ   ちさよりもやはらかにしてよし 〇たんぽゝ   毒(どく)なし食用(しよくやう)によろし滞気(とゞこふり)をくだす 〇/薺(なつな)     平人(へいにん)はよろし病人(びやうにん)には宜(よろ)しからず 〇/蕪(かぶら)     毒(どく)なし常(つね)に食(しよく)して気力(きりよく)をます 〇/仏座(ほとけのざ)    すゝな すゞ しろ たひらこ五形菜(ごきやう)何(いづれ)も病人(びやうにん) にいむ 〇/旱芹(みつば)    心気(しんき)をひらき腸胃(ちやうゐ)を利(り)す 〇/茗荷(めうが)    邪気(じやき)をさり瘧(おこり)によろし外(ほか)の病(やまひ)にはよろしからず 〇/海帯(あらめ)    よく煑(に)て病人(びやうにん)にも用ゆべし 〇/昆布(こんぶ)    化(くは)しがたし脾胃弱(ひゐよは)き人はよく煑(に)て食すべし 〇/若和布(わかめ)   常(つね)に食(しよく)して害(がい)なし水道(すいどう)を通(つう)ず 〇/海?(みろ)     水腫(すいしゆ)によろしく病人(びやうにん)には用(もち)ゆべからず 〇阿まのり   をこのり とさのり ひるのり いづれも病人(びやうにん)にいむ 〇/水雲(もづく)    毒(どく)あり食(く)ふべからず 〇/大凝菜(ところてん)   常人(つねひと)にもよろしからず用(もち)ゆべからず 〇/乾海(あをのり)    諸(もろ〱)のむしをころす病人(びやうにん)には用(もち)ゆべからず 〇/木耳(きくらげ)    毒(どく)あり気力(きりよく)をつよくす色赤(いろあか)きもの食(く)ふべからず 〇/石茸(いはたけ)    目(め)をあきらかにし小便(しやうべん)を遠(とを)くす食して益(ゑき)あり 〇/重菰(まひたけ)    病人(びやうにん)にはいむべし 〇/椎茸(しいたけ)   瘀血(おけつ)を破る病人にはよろしからず 〇/玉蕈(しめし)   病(やまひ)ある人はよろしからず好物(こうぶつ)ならば少(すこ)し用ゆべし 〇/天花蕈(ひらたけ)  多(おほ)く食(く)ふべからず柳木(やなぎ)に生(しやう)ずるは尤(もっとも)よろし 〇/黄縵頭(いくち)  麥蕈(しやうろ) 青頭蕈(はつたけ) 胴脂蕈(つにたけ)毒(どく)あるものに食(くひ)あはせば        害(かい)あり病人には用ゆべからず 〇/松茸(まつたけ)   精気(せいき)をまし脾胃(ひゐ)をやしなふ五月松茸(さまつたけ)は劣(おと)れり        病人にあしく粳米(うるこめ)の中へ入(いれ)たるを食(く)へば毒(どく)あり        雪花菜(とうふのから)と食すれば酔(よひ)て吐(と)す諸(もろ〱)の茸(たけ)あぶらけの        ものと同食(どうしよく)すれば害多(がいおほ)し茸(たけ)を煑(に)て生姜(しやうが)と        飯粒(めしつぶ)と入て見るに色黒(いろくろ)くなるものは人をそこなふ        又/茸(たけ)の上(うへ)に毛(け)ありて下(した)に紋(もん)なきもの仰(あふ)ぎ巻(まき)        赤色(あかいろ)なるもの夜(よる)ひかりあるものさきて見るに筋(すぢ)        通らざるものは皆毒(みなどく)あり食(く)ふべからず 〇/黄蕈(きしめし)   病人(びやうにん)は用ゆべからず 〇/掃箒茸(てづみたけ)  同断 〇/松毛茸(はりたけ)  同断 〇/菜茸(うらたけ)   同断 〇/梔花(くちなしのはな)  毒(どく)なし常人(つねびと)もこのむまじ病人は忌(いむ)べし 〇/五加葉(うこぎ)  枸杞(くこ)葉二とも病人に忌(い)む脾胃(ひゐ)虚寒(きよかん)の人には必(かならず)        忌(い)むべし 〇/蒟蒻(こんにやく)   毒(どく)あり渇(かつ)をさるぶどう酒(しゆ)と同食すれば咽(のど)いたむ 〇/防風(ほうぶう)   常人(つねひと)にはよろし病人(びやうにん)は用(もち)ゆべからず 〇/独活(うど)   用ひて害(がい)なく生(しやう)にて多(おほ)く用(もち)ゆべからず風(かぜ)を除(のぞ)く 〇/黄精(わうせい)   性寒(しやうかん)にして胃(ゐ)を損(そこな)ふ脾胃(ひゐ)強(つよ)き人は害(がい)なし 〇/何首烏(かしゆう)  脾胃(ひゐ)弱(よは)き人は食(しよく)すべからず大便(だいべん)をゆるくす 〇/紫蘇(しそ)   毒(どく)なし病人(びやうにん)にても苦(くる)しからず魚毒(きよどく)を解(げ)す但し        鯉(こひ)と食すれは悪瘡(あくさう)を発(はつ)す 〇/葛粉(くづのこ)   脾胃(ひゐ)虚寒(きよかん)の人は斟酌(しんしやく)すべし 〇/歟冬(ふき)   害(かい)なし心肺(しんはい)をとゝのへ痰嗽(たんぜん)を治す 〇/馳膚(はゝきく)   小便(しやうべん)を利(り)す腹(はら)くだる病には用ゆべからず 〇/蓼(たで)    水気(すいき)を下(くだ)し目(め)に益(ゑき)あり病人は用捨(やうしや)あるべし 〇/菊葉(きくのは)   花(はな)も葉(は)も損益(そんゑき)なし 〇よめ菜   むねをひらき食(しよく)をすゝむ脾胃弱(ひゐよは)きものはよろし        からず串柿(くしがき)と食(しよく)すれば腹(はら)いたむ酢(す)と食(しよく)すれば        眼をやましむ 〇/筆頭菜(つく〱し)  病人は斟酌(しんしやく)すべし芥子(けし)と同食(どうしよく)すれば腹(はら)くだる 〇すぎ菜(な)  常人(つねびと)もよろしからず 〇/艾(よもぎ)    病人にも平人(へいにん)にも害(かい)なし団子餅(だんごもち)にして用ゆ 〇/鶏冠苗(けいとうのなへ)  若葉(わかば)を汁(しる)にし又あへ物にして食(く)へども毒(どく)なり 〇/牛房(ごばう)   常(つね)にもちひて大に益(ゑき)あり諸病(しよびやう)によろし 〇/萱草(くはんざう)   心熱(しんねつ)をさまし諸(もろ〱)の血病(けつびやう)によろし 〇/鹹蓬(まつな)   性温(せいうん)にして胃(ゐ)を和(くは)し腎水(じんすい)をやしなふ 〇/裙帯豆(じうはちさゝげ)  腸胃(てうゐ)をとゝのへ腎(じん)をかたらす 〇/刀豆(なたまめ)   中気(ちうき)を下(くだ)し?逆(しやくり)をとゞむ効(かう)あり 〇/蚕豆(そらまめ)    五臓(ござう)をよく和(くは)し中(うち)をとゝなふ 〇/甘藷(りうきういも)    脾胃(ひゐ)をとゝなふ食して益(ゑき)あり 〇/券丹(ゆりね)    中(うち)をとゝのへて百病(ひやくびやう)に益(ゑき)あり肺(はい)をあたゝむ 〇/?蚕(ちやうろき)    血症(けつしやう)のいたみをのぞき風気(ふうき)をさる 〇/慈菇(くわい)    産後(さんご)の瘀血逆上(おけつきやくじやう)を治(ぢ)す 〇/南瓜(かほちや)    五臓(ござう)の気(き)をやしなふ脚気(かつけ)の証(しやう)に食(く)ふべからず         ?(はへ)と同食(とうしよく)すべからず 〇/紫菜(あさくさのり)   咽喉(のんと)の熱(ねつ)をさる 〇けし葉(は)   瀉利(くたり)をとめる多(おほ)く食(しよく)すべからず 〇/豆腐(とうふ)    小/毒(どく)あり中(うち)をゆるくす多(おほ)く用ゆべからず 〇/雪花菜(とうふのから)   中(うち)をゆるめ酒毒(しゆどく)を解(げ)す 〇/豆腐皮(ゆば)   病人は食(しよく)すべからず 〇/豆黄(なつとうじる)   性寒(しやうかん)にして脾胃(ひゐ)になづむ多(おほ)く食(くら)ふべからず 〇/鹹豉(はまなつとう)   中気(ちうき)をとゝのへ中(うち)を和(くは)す 〇/麪筋(ふ)    気力(きりよく)をとゝのへ労熱(ろうねつ)をのぞく病人(びやうにん)によろし