《題:ひともと菊《割書:下》 ときはひかしのたいやゆきしそく申 さんといひけれははりまの三位申やう 宮の入せ給ひけるかさらは申給へよこの ひる程に浅ましき事こそ有つれ さへもんのつほねこんの少将申けるは 宮のかよはせ給ひ候へともかなふへくも 候はすこれ程にならせ候へはいか成ふしの さもあらんに見えさせ給ひて我〳〵 おもはこくみ給へと申せはひめきみ聞  入たまはす候ひつるをやかてくるまよせの せまいらせておいするほとに浅まし くて宮の入せ給はゝいかゝ申へきそと 申けれと返事もせす行ゑもしらす 出させ給ひて候あさましき事にてさ ふらふと申給へと有けれはときわ まいり此よし申けれはさやうの事 はよもあらしはりまの三位かしわさ成 あはれ兵衛の介なかされし時取いたして いつかたにもおかんと思ひし物を心を くれしてうきめをみるかなしさよいかな らん有さまにてうしなひつらむいまた命 もあるらんはかなくもなし参らせつらんと ちゝに御心をくたかせ給ひて爰かしこを 御覧しけれ共物のくそくなんともした ためすたゝかりそめに出たる様なりと ひめきみおはしましたる所をなつかし くおほしめしてはらく御さまりけ れとも人なけれは御心にもそます なくさみもをはしまさすこ覧しまは し給ひけれはきちやうのひほにむ すひたる物有取て御覧しけれはひめ きみの御手にてかくなん  うき人になをさしそへてかなしきは  たゝつれなきはいのち成けり 身はうきふねのよる方もなく成ぬる なりいかにも聞しめす事あらは後 世たすけ給へとそかゝれたり宮是を 御らんしてあはれやすからぬ事かな とおほしめしはりまの三位をいかに〳〵と うたかわせ給へとも今の御門の御めのと にてかたをならふる人もなし思ふともかな ふまし今たゝうちしつれ御なみた計 なり御名残もをしけれはこれにてよ をあかさはやとお覚しけれとも三 位をる?ましくおもひてうちにてわら はん事もはつかしかへらんとおほしめし て御くるまにのりみやす所へ帰り給ひ てより後はひんきも聞しめさす しのひの御なみたはかりやるかたも なし扨そのとしもやう〳〵暮あ くるやよいの比にも成しかは宮のはゝによ うご聞しめしいかにや宮の御なやましけ にわたらせ給ふいかゝしてなくさめ参らせ たまへ春のあそひにはまりに過たる物 はなしとて大内にしかるへき人〳〵参り てみやの御内にて御まり有人々はよろ すの御あそひにも兵衛の介とのゝ御 事おほしめしわすれ給ふ事なし いか成御やうたいにてかをわすらんと みななみたをなかさせ給ふ中つかさの 中将のたまふやうされはこそししうのな ひしみかとにたにもなひき給はぬか 此ひやうゑのすけにあひそめてしのひ〳〵 にかよひけるかあかぬわれをかなしみ て御宮つかひもしたまはてたゝつほね になきしつみゐたまへなと申給へは 宮聞しめしてけにやしゝうのなひ しははかなきよしをきゝし物をなつ かしくこそおほゆれいてやとふらはんと て御なをしあさやかにめして大内へ参 給ひけり扨もまつかのつほねを御覧し けれはなひしは柳五つきぬきてさく らつくしのこうちきもみちきぬかた はらにぬきてをきひき物によりかゝ りうちふしたるまくらにより給ひて おはしける宮仰けるやういかにやおな しゆかりと思ひ給へよとふらはんと てまいりたりとのたまへはなひし うけたまわりひやうふきやうの宮に てわたらせ給ふにやとてもみちきぬひ きてちとなやむ事にてふして候と 何となく申てうちそはみたるけし きひやうゑのすけおもひつきけるも 事わりなりされとも我うしなひて なけく人にはおとりたり人を御覧 つるにつけてもひめ君こひしくお ほしめしけり又かたはらを御らんしけれ はやなきかさねのあふきありけるを 何となく御覧しけれはけんそうの やうきひとつれさせ給ひてりんそう きうに御ゆきなりなんてんのうちや う〳〵しつまり物すこくしてけいしやう うんかくの袖かせにひるかへすたひに たへまのかさりくもる成のちにことな らすちやうせいてんに出給ひみかとや うきひのてをとり給ひて天にあらは ひよくの鳥と成地にあらはれんりの ゑたとならんとちきり給ひてたち ける所をあふきに      かゝれたり 【挿絵】 宮これを御覧すれはなひし申けるはむ かしもためしあれはこそゑにもうつ しつたふらん今人ことにかなしき恋 をするとて  やうきひのことつてしけるむかしより  いきてわかるゝ我そかなしき と申けれは宮いまよりはかよふにい ひてこそなくさみ候はんつれとてゆかり の草とおもひ給へとせんしありけれ はなひしあらかたしけなやとそ申ける 扨宮かへり給へは人こそおほけれはりまの 三位まいらせてうちゑまいり御門に申 やうひやうふきやうの宮こそなひしの 本へかよはせ給ひ候へかのないしをはせん し成て四位の少将にあはせたひ給へと 申けれはひやうふのつほねこれをきゝ てないしのつほねにかたりけるやうさん みこそしか〳〵との給ふなれと申給へは ないし心うやたれゆへにあかぬわかれ をして物おもふ身とはなりぬるそや これにかくて候はゝいか成事も候はぬさ きに大りを罷出んと思ひ候なりうれ しくもきかせ給ひ候物かな此世におゐ ていかてかわすれまいらせんやかてまかり 出候はんとのたまへはひやうぶ御名残をし みなき給ふなひしめのとのもとへ文を つかひ給ひてちとかせの心地有しは らくいたはらんとおもふ成のり物いそき〳〵 とかゝれたりあはてゝくるまをまいらせ けれはなひしさすかになこりをしくて 我十三よりまいりてことし七ねんに成 そかし何と仕ける御宮つかひのはて そやとかなしみてしはらく出もやら すみくるしき物ともとりひそめいて出 けるころはやよひ十日あまり事なれは おほろ月花のこすえにまかひてことに あはれに見えしかはひやうぶのつほね かくなん  我あらはなをたちかへれ春かすみ  うらみにおもふ雲ゐ成とも とゑいし給へはまたないしも  春かすみたちはなれなは雲にいり  月に出るとめくりあふへき かやうにうち詠なひしなく〳〵くるまに のり出給ふめのとのもとにゆきつきて そのまゝうちふしなくより外のことそ なきさるほとにその年の暮にめの としよりやう【所領】たまわりてないしの枕に たちより申やうふんこ【豊後】こそよろこひ にあひ候へさつまの国をたまはりてこそ 候へたゝならはかくはかりよろこふへきに 候はねともゆへなくなかされ給ひしひ やうゑの介とのおはしますかたにて候 とても御宮つかひもすさましくを ほしめし候はゝ思ふにはとら【虎】ふすのへに くしら【鯨】のよる島と申ためし候なり 出させたまへさつまの国えく【具】しまいら せんと申せはないしよろこひて父はゝ にかくれめのと斗【計-ばかり】をたのみやよひ廿日 比に都を出いつしかならぬふねの内のすま ひを心ほそくあけぬくれぬと行程に さつまかたへそつきにけり国のしんはいま つり事然るへきようにしてめのと人 にとひけるはなかされ人すみ給ひ つる所やしろしめしたるかをしへ給へ とありけれは人の申やうなかされ 人わたり候    ところは是よりほとなく     はつか廿四てうと申       けれは 【挿絵】 めのとよろこひひめきみに申やう 御文あそはしてまいらせ給へこれよ りほとなく候と申けれはないし 取あへす  身をすてゝみるめかりにやあた波の  うらまてふねをいそきけるかな おほろけにやなんとゝかゝれたりない しのめのと子にいまたはらはにて ありけるをめしてこれをもちてまいれ とてよくをしゑてまいらせけれはかの 所へたつねゆきひやうゑのすけとのに御 文をまいらせけれはよろこひ給ふ事か きりなしやかて返事あり  あたなみの浦にいか成ちきりして  身をすてゝのみみるめかるらん とかくの申ことなしたゝいそき〳〵入 せ給へとかゝれたりめのとよろこひ てあしろのこしにのせ奉りておはし ますないし御覧しつれは磯へにかけ たるいゑのさすかよし有てゐに見えた りいその春風いと身にしみ給ふらん かゝる所にをはしたるよと見るに なみたもとゝまらすたかひにやせく ろみたる恋のすかたにてとかくの こと葉も出すやゝありて御物かたり 有わかれしよりいままての事とも かたり給ひけれはよそのたもと もしほりけりさるにても都には 何事か候ひつるととひ給へはなひし 申給ふ三条のひめきみこそうせさせ 給ひて候へみやはたゝ一すしの御物 おもひにてくこ【供御】も聞しめさすとかた り給へは兵衛の介殿なひしにあわせ 給ひ此ほとの事ともすこしはるゝ 心ちしたまふにいもうとの姫君うせ たまふときゝ給ひて又かきくらす心ち してあはれさたとへんかたもなし思ひ つる物を命をやうしなひつらん又いかなる 物にもとらせてやあるらん今は此世に あらしされは今一とあふ事もかたかる へしさらはしゆつけをもしたゝ一すち に此人の後世をとむらははやと思へとも ちゝはゝにもかくれわれを頼くたり給へ るないしをうちすて奉り候らはんもさ すかにおほえていまはしら?〳〵【他本「いましはらく」】ほとへて いかにもならんと覚しめしいままては まひ日御きやうよみ給ひともそのゝ ちは御きやうよみ給へ共いもうとの後 世たすけたまひ給へと朝夕いのらせた まひけるさるほとにひめきみはきや うにて四条あたりにをしこめられて なきふし給へりそのいゑのあるしのし たしき物はりまの国のもくたい【目代】にて 有折ふし此家に入けるかすきまに 此さしきのかたを見るほとに姫君を物 こしにみ奉りあらいつくしやと思ひ うちへ入まついふへき事はさしをきて 此さしきにはいかなる人のすみ給ふや らんさもいつくしきすきかけ【透き影】の見えつ るはといひけれはあるし申やうあれは やこやとなき人の世をしのひておはします とかたりけれはあわれとかむる人をわ せすは我にあわせ給ひかしたれもい ちことほしき事あらせしと申けれ はあるし思ひけるははりまの三位はい かにしてうしなひ奉らんとのたまへ ともいたわしさにあかしくらすなり さらは此人にあわせはやと思ひむす め十二三はかり成をよひてけふはさしき殿 へまいり御みやつかひ申て夕さりは しやうしのもとにふしてかけかねはつ しあの人をいれまいらせよとよく〳〵を しえけるれいならすきりめきはたらき けれはこんの少将あやしくおもひて 此物をすかしとはんと思ひうれしくも まいりたりなとや此程は参らさりし そ今よりは我をおやと思ひていわんこ とを何事も人にかたるなよ我も人 にかたらしさるにてもさき〳〵は参らさ りしか何のやうにまいりたるそとひ とつもへたてす有のまゝにかたれよ ゆめ〳〵人にいふましとさま〳〵にとひ けれはをさなき物にて何心なくありの まゝにそかたりける姫君きゝもあ ゑすなき給ふこんの少将あらうらめしの 御事や兵衛の介とのなかされ給ひし 時つゆともきゑさせ給ふへきに今 まてなからへさせ給ひてかゝるうきめを 御覧する事のかなしさよねかわく はかみ仏たすけ給へといのりけるこ そあはれなれけふは日も暮すして あれかしとねんしけれともかひそな きさる程に日もくれけれはこんの少将 おさあひものを我あとにふさせて姫 君をはさへよりあなたへやりまいら せて我身はひめきみのおはしける所 にふし夜にかく成ぬれは火をしやうし よりあなたにとほしてかけかねよく かけたら清水のかたへむかひて南無大 ひくはんせおん我十三より月まふてを申 三十三くはんの御きやうをよみまいらせし ひくわんむなしからすは姫君のよの内 のなんをはらゐてたひ給へそれかなはぬ ものならは御命をとらせ給へと申ける され共夜ふけけれはかのたゆふきたりて 爰あけよやおさあい物とてしやうし うちたゝきひめきみやおわすらんとひき あけれともうちよりつよくかけたれ はひけともさらに       あかさりけり 【挿絵】 しきふの大夫をそろしき声にてあらおこ かましこよひこそ入させ給はす共あした はとく〳〵参りけんさんに参らせ候へき由 こよいはゆるしまいらせ候とて帰りけるこ そくはんおんの御たすけとうれしくこ よひこそのかるゝ共あすはおし入らんと 心うくてねもいらすさしきたかくてい つくよりもれ出つへきやうもなし四 条をもてのしとみたかくあけけれは卯 月のつきなれはくまもなくことに物哀成 あかつきに上のかたより笛のねかすかに 聞えける是きかせ給へよひやうゑの介殿 のおもしろく吹給ひし物をいかなる所にて ならせ給ひけん浅ましの事共やとな きたまひてかとの方を御覧して入せ給へ はくるまのおと聞えふえのねちかく成 けりめのと申やうひやうふきやうの宮の御 ふえのねににさせ給へる物かなと心をし つめて聞けれは笛ふきすさひて 誠にけたかき御声にて月はくまなく てらせともともに詠る人もなしあはぬ 物ゆへよもすからはかなき恋ちにほた されてたいあんとうをたつぬとて月に のりてそ行帰るとゑいし給ひけるを 聞けれは宮の御こゑにてわたらせ給 ひけりいかにとむねうちさわきひめ きみにいかにや宮の御声にて候そ やとさわきけり宮はおほしめししつ み給ひてきよみつに参りたまひ七日 御こもりありて御下向成四条おもて を過させ給ふときわも御ともにてむま のうへに見えて有嬉しさかきりなく てこんの少将すこしもしのふ事なくも ちたるあふきにてまねきあれはとき わかといひけれはたれ成らんとさしき のきわへむまうち寄けれはときは にておはするかこんの少将こそ是に候へ立 よらせ給へ物申さんといひけれはときわ こんの少将にてまします嬉しさよと 申ける少将申やうはりまの三位におし こめられて此ほとうきめを御覧して おはしませはたはかり出し参らさせ 給へといひけれはときわ聞て御待候へ とて宮の御くるまにをいつき参ら せんいまたともかくも申さて御車た まはらんと申けれは宮何事共聞わけ させ給はすときわか申事なれはを りさせ給ふ御車たまはりてかの所へや り入て爰あけよやはりまの三位の本 よりそこよひの御とのい【宿直】はたそはや 〳〵あけよといひけれはさんみといふに したかひてやかて門をあくる車をやり 入はや〳〵めせと申けれはひめ君のり 給へは人〳〵嬉しさ夢の心ちしていそき 御とも申けり宮御車にのりうつらせ 給ひてわかれ給ひしより今まての御 恋しさいか成所におはしますとも かせのたよりのをとつれおもなとや かくともしらせ給はぬそとうらみ給へ はひめきみとりあへす  たよりをも今はほしきを山かせの  いはまの水にせかれけるかな 宮これを聞しめし御返事にかくなん  せかれける岩間の水をしらすして  もらさぬとのみうら身けるかな とかやうにおほせありて御車をさぬき かもとへと有けれは御めのとさぬきの もとへ入せ給ふ姫君たゝならす入らせ給 へは八に御さんの月なれは御祈 かきりなしその御しるしにやあたる 月にも成しかは御さんへいあんにわか君 出き給ふ宮の御よろこひかきりなしはゝ にようこ聞しめしあやしの物成とも 宮のわりなくおほしめしなはをろか 成いはんや右大臣の宮はらなりわさと もの御事なり    しかもわかきみさへ     出きたてまつり給ふ      ありかたき        事とかや 【挿絵】 あやしの所にいかてをき奉るへき是へ とて御むかいに車七両御しやうそく に十二きぬくれなゐの御はかまとり そへてまいらせ給ふをくりの車やり つゝけてきさきたち成ともこれには すきし宮す所へ入せ給へは御母によう こ御覧して有かたき世のすゑにも かゝる人はためしなしと覚しめし ける御まこの若宮をいたきたまひて御 らんし父宮のおさなくおはしますに はるかまさらせ給へりこれをは我御子 にあそはし奉らんとてやことなくか しつきもてなし給ふ事かきりなし かくてあけぬ暮ぬとせしほとに無 神付のはしめより今のみかと御なや み有はるのころつゐにかくれさせ給 ふいまたまふけのきみもましまさ さりくきやうせんきあるやうひやう ふきやうの宮御位につかせ給ふへき なりさるほとにひやうゑのすけの いもうとの姫君きさきにたゝせ給ひけり 若宮東宮に御立あるみかとのせんし にはさつまの方えなかされし兵衛の 介をかへすへしとて御むかひまいり けり兵衛の介御よろこひかきりなし たゝよのつねにてめしかへさんたにも うれしくおはしまさんにいはんやゆく へもなくうせ給ひし姫君きさきに たゝせ給ふ事一かたならぬよろこひに若 宮さへ出き給ひてめしかへされんことの 嬉しさよとてしゝうのないしとうち つれて都へのほり給ひけり心の内いかは かりうれしくおほしけん仏神三ほう のかこ【加護】おはしけれはなみ風たへなく上り 給ふ程にはやくとはへつき給ふ御む かいの人〳〵かすをしらすまつせんそなれは とて三条へ入せ給へははりまのつほね 四位の少将あはてさつき内より出けり あら物さわかしやまつしはらくおわせよ かし物かたりせんと有しかともうし ろをたにも見かへらすして出る兵衛の介 とのあけんもおそく候へとてきさきの 御かたへそまいりたまへと申せはきさ き出させ給ひてわかれまいらせし時の かなしさ今の嬉しさはいつれをろかな らすとて嬉しなからなき給ふ兵衛の介 殿これを御らんしてかくなん  ふえ竹のなきしうきねも忘られて  うれしきふしを見るに付ても かきくとき給ふきさきのたまふやう我より も御門のなをも恋させ給ふにまつとく〳〵 入せ給やと有けれはあけもせてまたよふ かきに内へ入せ給ふ御門せいりやうてんより 御覧せられ給ひていかにやしめちか原【標茅原】と ちきりしは   これをいひし    そやいまのよろこひには     三位の中将になす      へしとせんし       なり 【挿絵】 打つゝき大納言に成給ふ御門扨もはりまの 三位四ゐの少将をはいかにはからふへきさつまの 方へなかすへしとせんし有は兵衛の給ふ やう仰にて候へ共父大臣草の影にてみ候はんも 哀に候へはこんとのよろこひにるさいを御 とゝめ候やと申されけれはさるにても あまりにくき物成はかむりおはいくはん【他本-ひくわん】を とゝめてなを浅ましと覚ゆれはおやこ三人を は都の内をおい出してやとさためぬ物とな すへしとせんし成けれは九重の内出され けりさる程に后の宮打つゝき二の宮出き させたまふ其御よろこひに大なこんくはん白 てんかと申けるしゝうのないしは北のまん所と 申ける御門わか宮二人姫宮二人出き給ひぬ 一の宮に御位ゆつり給ひ二宮とうへくうに立 給ふ姫君一人いせの斎宮に立給一人はかもの さいくうに立給くわんはく殿もわか君姫君 あまたをはしますちやくしとうの中将二郎殿 は三位三郎殿は四位の少将とそ申ける 見る人めてたき御くわほうとそ申ける 【挿絵】 一の宮位につき給ひきさきに立梅つほの后と 申けるこんの少将むし【他本-ないし】の守に成かた〳〵さかへ給ふ 昔今にいたるまて仏神の御ちかひをろかな らす殊くはんおんの御りせうすきたることなし しひ第一心をやさしく持人かやうにゆく末 はんてうにめてたき御くはほう有なり これを以て聞人清水のくはんおんよく〳〵 しんしんあるへし物かたりこれめてた きくわほうとそ申つたへ侍りけり