【表題】 夜無情(よはなさけなく)  |浮世有様(うきよのありさま) かけ合い せりふ 【凡例】 ▼【実際は扇形】横櫛(よこぐし)のお富(とみ) 🔳きられ与三 ▲太左衛門 ●蝙蝠安(かうもりやす) 【本文】 ▼ 〽思(おも)ひ出(いだ)せは過(すぎ)し頃(ころ)駿河路(するがぢ)かけて小田原の 地震(ぢしん)と聞(きく)もおそろしい 🔳 〽潰(つぶ)れて音(おと)が身(み)の仇(あだ)と京信濃路(きやうしなのぢ)も喰(くひ)つめて 小ゆすり津浪(つなみ)におし【わ】たりこゝで逢(あ)ふのも 三年目(さんねんめ)久(ひさ)しぶりであつたよな ▲ 〽ちよつと見(み)るから高(たか)ゆすりたとへば 地震(ぢしん)雷(ごろつき)でも 鹿嶋(かしま)の神の 御恵(おめぐみ)みで ひんぼう動(ゆるぎ)も さしやア しねへぞ ● 〽なる程(ほど)こいつはおつりきな あんべいだきられの与三なら 三(み)すじの疵(きず)こふもり安(やす)が付(つき)ものなれど おれは鯰(なまづ)の親(おや)ぶんにはなれぬ中(なか)ののらくら者(もの) ひやうたんなまづておさへて居(ゐ)やすヨ