【右丁 白紙】 【左丁】 疱瘡(ほうそう)の/説(せつ)幷にまへ薬の方 疱瘡(ほうそう)のせつ上古有る事なし/秦漢(しんかん)は/邈(はるか)たり 唐宋(とうそう)より以来その/説(せつ)/歴々乎(れき〳〵)として/錯(ましり)り出 明清(みんせい)に至りて/是(これ)を尽(つく)せりと言へともしかも その/説(せつ)/紛々(ふん〳〵)として一/定(しよ)する事なし/故(ゆへ)に今に おゐて/明験(あきらかしるし)とするの方なし/唯(たゝ)/解毒(けとく)/清冷(せいれい) 内托(ないたく)其/症(せう)に/応(おふ)するのみ/然(しかり)と云へとも/見点(けんてん)/蛇(しや) 皮(ひ)のことくにして/不起(おこらす)あるひは/蚕種(さんしゆ)のことく 【右丁】 にして壮(さかんに)熱(ねつ)しあるひは出痘(とういてゝ)六七日にして□頭(かしら) 不食(しよくせす)目(め)閉(とち)てのち魂(こん)なきものあるひは湯泡(とうほう) のことくあるひは火刺(ひてる)のことくあるひは皮肉(かわにく) 赤色(あかきいろ)にして乾くもの擦破(かきやふり)膿血(うみち)なきもの皆(みな) 治(じする)方(ほう)なししかる時(とき)は預ふせ〳〵の外(ほか)要(よう)たるは なし予 痘(とう)を治療(りようし)するに心を潜(ひそむ)る事 数(す) 十年 出痘(とういてゝ)稠(おふ〳〵)密(みつ)にして地界(しかい)分(わか)たすといへとも 気血(きけつ)順(しゆん)なるもの熱(ねつ)自(おのつから)退(しりそ)き起脹(きはりおこり)貫膿(うみをもち)其(その) 【左丁】 期(ひかす)に応(おふ)して【爿+文】(か)靨(せ)に至(いたる)る内毒(ないとく)小水に利(り)し外(ほか) 落痂(ふたをおとす)に及ふ皮膚(はたゑ)鮮明(つやゝか)にして形色(けいしよく)不病(やます)まへ の如し予か家(いへ)一方有り玉((きよく)兔(と)丸と名つく即(すなわち) 本草の兔(と)血(けつ)丸にして紫雪(しせつ)を加ふるものなり これを試(こゝろみ)る事数十年其 験(しるし)あらさる事 なし依(よつ)てひそかに思ふにこれ天下の奇(き) 方なり医道(いのみち)は天下の医道(いのみち)なり一人の 医道(いのみち)にあらすしかるを深(ふかく)〳〵これを秘(ひ)し 【右丁】 世に行はさる事 予(よ)か罪(つみ)なり又 弊(ついへ)を世に 伝(つたへ)て人をあやまつも又 我罪(わかつみ)なり天下の奇(き) 方(ほう)我(われ)一人に秘(ひ)するの罪(つみ)と其 弊(ついへ)を世(よ)に伝(つたふ)る の罪(つみ)と何(いつれ)か軽(かろ〳〵)くいつれか重(おも)からん是故(このゆへ)に 方(ほう)を顕(あきらか)にして以て高明(こうめい)に是正(ぜせい)せん事を 願(ねか)ふのみ夫人々 製(せい)して児(じ)を愛(あい)するの 父母 請(こう)【ママ】ふにしたかふて施(ほとこ)さは豈(あに)少恵(しようけい)なら さらんや用(もちゆ)るに時(とき)なし日々 其(その)児(じ)の年(とし)の 【左丁】 数(かす)ツヽ用(もちゆ)へし又 熱(ねつ)有るの病(やまい)は何(なに)の病(やまい)と云ふ 事を不論(ろんせす)して用(もちゆ)てよし熱(ねつ)をさる事 速(すみや)か也 出痘(とういてゝ)のよふす見ゆれは日々に三度ツヽ用へし 初(はしめ)熱(ねつ)より結痂(けつか)に至りて止(やむ)へし凡医(みしくのい)に委(たの) 付(み)して治(じ)をあやまつ事なかれ解毒(けとく)内托(ないたく)その 治(じ)を失(うしの)ふ時(とき)は医薬(ゐやく)なきにおこれり能(よく)其(その) 医(ゐ)を見てゆたぬへし心に叶ふ良医(よきゐ)なき ときは余薬(よやく)するに及はす此玉兔丸□□ 【右丁】 治(じ)するをまつへし又初生より日々おこ たらす男子は精通(せいつう)し女子は月水めくるまて 用る時は一生 痘(とう)のうれいなかるへし又 近隣(きんりん) 痘瘡(ほうそう)流行(はやる)の時節に当(あた)り是を除かんと 思(おもは)はゝ【ママ】朝夕(あさゆふ)用ゆへし夫(それ)紫雪(しせつ)の邪をさけ 熱(ねつ)を解(け)する事 皆(みな)医(い)の知(し)る所なり兔血 の痘瘡(ほうそう)におゐて主薬(しゆやく)たる事も亦(また)医(い)の しる所なり本草綱目を見て知るへし如此 【左丁】 して予防する時はたま〳〵邪(じや)を受(うけ)るもの有と 云へとも気血(きけつ)順(しゆん)なるか故に熱(ねつ)と毒(どく)と相離(あひはな)るゝ 事 其(その)期(ひかす)をたかへすして万一もあやまつこと なし痘(とう)の軽重(かろきおもき)は出痘(しつとう)の多少によらすして 気血(きけつ)に順(しゆん)と不順(ふしゆん)とによれるもの也 如何(いかん)とな れはそれ痘毒(とうとく)は父母 交会(ましわり)の始(はしめ)天元(きみづ)の一(ひと) 滴(しつく)にしてこれをうけ清濁(せいたく)相 極(きわま)るこれを動(うこかす) かす【衍】ものは疫気(ゑき)なり其 邪毒(しやとく)を載(のせ)て以 肌(はたへの) 【右丁】 表(そと)に発(はつ)す発(はつ)して解散(りさん)する時(とき)は熱(ねつ)と毒(とく)と 相離(あいはな)れて肌表(はたへ)に結痂(ふたむすふ)すこれを順(しゆん)といふ熱(ねつ) 毒(▢▢)相連て六経に伝(つと)ふるを内攻(ないこう)といふこゝに至 りては名医(めいい)良工(りようかう)と云ふとも救(すく)ふへきの術(しゆつ)なし こゝを以 痘(とう)はあらかしめ防(ふせ)くへき事 専要(せんよう) なり人事(しんじ)を尽(つく)してのち不及(およはさる)ものは誠(まこと)に 天命(てんめい)なりしからすして倒(たを)さるゝものあるは 豈(あに)痛(いた)ましからすや 【左丁】 古より痘病(とうひやう)有て痘神(とうしん)なしと云へとも我邦(わかくに)の 風俗(ふうそく)にてこれを神(かみ)に祭(まつり)新(あらた)に檀(たん)をもふけ 七五三(しめ)を曳(ひき)紅色を以これをかさりもつはら 紅衣(かうい)を用ゆ肌膚(はたへ)は紅(くれない)にてりては鮮(あざやか)なり故(ゆへ)に 随(したかふ)ふ【衍】へし又種々のいみ事ありしかりと云へ とも其(その)症(しよ)をさまたけす故にその家々の嘉例(かれい) に随ふへし又 病児(ひやうし)の機嫌(きけん)よしあし有り 神符(かち)祝方(きとう)は症をさまたけす故に又用ゆへし