【表紙】 【題箋】 《割書:民家|日用》広益秘事大全二.巻上ノ二 【扉】 【題箋】 《割書:民家|日用》広益秘事大全 二 【左丁頭書】 【赤角印 帝国図書館藏】 女人はよろしよろづ慎(つゝし)みてみだ りにうごくべからず待人はおそく 来るべし間(あひだ)にてひまどる事有 他国(たこく)へ出る門出にわろし但し さきにて久しく居(を)るたぐひには よし方角(はうがく)時刻は寅卯なり 町人(ちやうにん)はよろし何事も辛抱(しんばう)して 大利あり武士(ぶし)はわろし海川を わたるに忌(いむ)べしもしわたる事 あらば昼より後にわたるべし ○第四/仏滅(ぶつめつ)の星にあたる日は 何事にも凶(あし)し慎みてみだりに 事をなすべからす但し物をうり 財(たから)を出しすべて損(そん)じて益(えき)ある 事にはよろし他国(たこく)遠行(えんかう)の首(かど) 途(で)男女の縁談(えんだん)公事(くじ)沙汰(ざた)いづ れもみなわろし待人はさたも 【左丁本文】 【赤角印 白井光】 【赤丸印 帝国・昭和十五・一一・二八・購入】  ○蝨(しらみ)をさる法 一 白鳥(はくちやう)の羽(は)の茎(くき)に水銀(すゐぎん)をいれて下帯(したおび)に ゆひつけ置ば蝨(しらみ)こと〳〵く死す又/衣服(いふく)を 一夜(いちや)外(そと)へ出し地上(つちのうへ)に直(じき)に肌着(はだぎ)下帯をひろ けておくべし悉(こと〴〵)く死す甚しきは土中(どちう)へ 埋(うづ)めておくべし又方 牽牛子(あさかほのみ)を肌着(はだぎ)の袖(そで)にいれおけば蝨(しらみ)うつらず うつりても早(はや)くさる也又 百部(ひやくぶ)。秦艽(しんげう)。二味/粉(こ)にし焼(やき)て衣を燻(ふす)ふれば 蝨こと〴〵くさる湯(ゆ)に煎(せん)じて洗ふもよし  ○頭(かしら)の蝨をさる法 一 藜蘆(りろ)を粉(こ)にし髪(かみ)の中にすりつけて一夜 おけば蝨(しらみ)こと〴〵く死す  【枠外丁数】十九 【右丁頭書】 なく来らぬ也/女人(をんな)など人に順(したが) ひてあるものはよし子午の時に は少く動(うご)きてもよし海川(うみかは)を渡(わた) るに甚(はなはだ)わろし万事/信心(しん〴〵)して 無難(ふなん)なり怠(おこた)るべからず ○第五/大安(だいあん)の星にあたる日は 万事心のまゝにて大に吉なり 物を仕(し)そめ縁(えん)をくみもろ〳〵 の勝負ごと公事(くじ)の類いづれも 利運(りうん)を得べし商(あきな)ひは買(か)ふかた よろし売物(うりもの)はよろしからず巳亥 の方角(はうがく)殊(こと)に吉事あり待人は 早く来る又思ひの外なる幸(さいはひ)の 出来るかたちあり大にすゝみて 何事をもなすべし恐(おそ)れ憚(はゞか)り てはかへりて凶なり最上(さいじやう)の吉日 とすべし首途(かどで)尤よし 【左丁頭書】 【挿絵】 ○第六/赤口(しやくこう)の星にあたる日は あしき事多し唯(たゞ)日中(につちう)には吉 事あり事をなすは此時なるべし 武士(ぶし)出家(しゆつけ)医者(いしや)などは財宝(ざいほう)をば 失(うしな)ふとも誉(ほまれ)をとり名をあぐる 類(たぐひ)にはよき事あり平人(たゞのひと)は大にわ ろし動(うご)かば損(そん)をする事あるべし 方角(はうがく)は丑未よし待人は来らず 【右丁本文】 【挿絵】  ○虫(むし)を生ぜぬ物だねの収めやう 一 臘月(しはす)の雪水(ゆきみづ)を壺(つぼ)に入れ陰所(ひかげ)にうづみ 貯(たくは)へ置/五穀(ごこく)のたねを浸(ひた)し植(うへ)ればよく旱(ひでり)に たへ虫(むし)を生ぜずしてみのりよし  ○菓樹(くだものゝき)に実(み)おほくする法 一 果樹(くわじゆ)の皮(かは)をうがちて鍾乳(しようにう)の粉少ばかり 【左丁本文】 入るれば実(み)おほく味もまた美(び)なり樹木(じゆもく)の 老(おい)たるも鍾乳(しようにう)をぬりつくればまた繁(しげ)りて さかんになる尤(もつとも)根(ね)の上に泥(どろ)をぬりおくべし  ○白紙(はくし)にて文通(ぶんつう)する法 一 白紙(しらかみ)に酒(さけ)にて文字をかき乾(かわか)してのち 火(ひ)に炙(あぶ)れば文字(もじ)こげて顕(あらは)るゝ也水に入 てもよし又/鉄醬(かね)にて書(かき)て水に入るゝも よし白くあらはるゝ也/此法(このほう)は先方(せんはう)の人と かねていひ合せおきてする事也  ○寒中(かんちう)河(かは)を渡(わた)りて凍(こゞ)へざる法 一 寒気(かんき)の時川をわたるには手足(てあし)に古酒(こしゆ) をぬり胡椒(こしやう)をのみて渡るべし凍(こゞ)ゆる事 なしすべて水を遣ふに用ゆべし 【枠外丁数】二十 【右丁頭書】 物事長びきて埒のあかぬ事有 ば此日より事をはじむべからす たゞ人と共にせず自分ばかり する事は行ひてもよし万づに ひかへめにして信心すべし  ○右にいへるは概略(あらまし)なり星(ほし)の  黒白(くろしろ)に心をつけて其事を  考(かんが)へ判断(はんだん)して行ふべし  ○十二/運(うん)くりやう 【よこ十三・たて六の升目の図】    金性  木性  水性  火性  土性 長(ちやう)  四月  十月  七月  正月  七月 沐(もく)  五   十一  八   二   八 官(くわん)  六   十二  九   三   九 臨(りん)  七   正   十   四   十 【左丁頭書】 帝(てい)  八   二   十一  五   十一 衰(すゐ)  九   三   十二  六   十二 病(びやう)  十   四   正   七   正 死(し)  十一  五   二   八   二 墓(ぼ)  十二  六   三   九   三 絶(ぜつ)  正   七   四   十   四 胎(たい)  二   八   五   十一  五 養(やう)  三月  九月  六月  十二月 六月 右十二/運(うん)の図(づ)は産(うま)れ月にて 善悪(ぜんあく)を考(かんがふ)る事なりくりやうは たとへば金性(かねしやう)の人にて四月の産(うまれ) ならば金(かね)の処(ところ)を緯(よこ)に見て四月の 所を見それより経(たて)に見て長(ちやう)の 運(うん)と知(し)りさて下(しも)の長(ちやう)の所を読むべし 【右丁本文】  ○小き蜜柑(みかん)を大にする法 一 蜜柑(みかん)のはじめ実(みの)る時/半分(はんぶん)ほど取て半 分を木(き)にのこしおけば残(のこ)りたる蜜柑(みかん)大に なり色(いろ)紅(くれなゐ)にして味(あぢ)きはめてよし  ○竹(たけ)の根(ね)のはびこるを防(ふせ)ぐ法 一 皁莢刺(さうけうし)【「サイカチノハリ」左ルビ】をあつめて土中(どちう)に埋(うづ)むべしよく 竹根(たけのね)をさへぎり留(とむ)る也又/油麻梗(ごまがら)をうづむ るもよし  ○足(あし)の疲(つか)れたるをかろくする法 一 旅(たび)にて足つかれたる時は塩(しほ)を口にてかみ足の うらにぬり火にてあぶるべし又/細(ほそ)き物にて 両(りやう)の股(もゝ)をかたくむすぶべし足/軽(かろ)くなる但(たゞ)し 洗足(せんそく)して後も塩(しほ)をぬりてあぶるべし足つかれず 【左丁本文】  ○薫物(たきもの)の方(ほう)品々(しな〴〵) 一 梅花(ばいくわ)《割書:春|》    沈香(ぢんかう)《割書:四両|》  丁香(てうかう)《割書:二両|》  甲香(かいかう)《割書:二分|》 甘松(かんしよう)《割書:二朱|》 麝香(じやかう)《割書:|二朱》 一 荷葉(かえう)《割書:|夏》   沈(ぢん)香《割書:七両|》   甘松(かんしよう)《割書:一分|》  丁(てう)香《割書:二両|》 藿(くわく)香《割書:一分二朱|》 白檀(びやくだん)《割書:一分三朱|》 【枠外丁数】廿一 【右丁頭書】 【○の中に「長」】《割書:ちやう|》 この運(うん)にあたる月の産(うま)れの人は 長寿(ながいき)して夫婦(ふうふ)むつまじく家業(かげふ) 大に繁昌(はんじやう)しよろづよし子孫(しそん)も 無病(むびやう)にていのち長し東西(とうざい)にかけ まはり家業(かげふ)に精(せい)を出していと なむべし怠(おこた)らば貧(ひん)なるべし ○この運(うん)にあたれば兄弟(きやうだい)ともによし 其内/他所(たしよ)へ別々(べつ〳〵)になりてよろし 兄弟同しいとなみは宜(よろ)しからず 商買(しやうばい)をかへて世(よ)わたりすれば かならず繁栄(はんえい)するなり但し 奢(おごり)をつゝしむべし 【○の中に「沐」】《割書:もく|》 この運(うん)にあたる月の生(うま)れは夫婦(ふうふ) の縁(えん)はじめはかはるべし男女(なんによ)共に 二度めの縁(えん)にて定(さだ)まるべしさすれ 【左丁頭書】 【挿絵】 ば家業(かげふ)繁昌(はんじやう)して富(とみ)さかえ何事 も成就(じやうじゆ)し子孫もそくさいなり但(たゞ)し 兄弟(きやうだい)むつましからぬ事あるべし ○此運(このうん)武家(ぶけ)ならば兄弟いよ〳〵 むつまじからず互(たがひ)に威(ゐ)をあらそふ 心/絶(たえ)ずよく〳〵慎(つゝし)みてよし此運(このうん) 【右丁本文】  一 菊花(きくくわ)《割書:秋|》  沈(ぢん)香《割書:二両|》 丁(てう)香《割書:一両|》 甲(かい)香《割書:三分|》   薫陸(くんろく)《割書:三朱|》 甘松(かんしよう)《割書:三朱|》 射香(じやかう)《割書:|二分》 一 侍従(じじう)《割書:冬|》  沈香《割書:四両|》 丁香《割書:二両|》 鬱金(うこん)【欝は俗字】《割書:二分一|朱》   甘松《割書:一分一朱|》 一 黒方(くろはう)   沈香《割書:五両|》  丁香《割書:二分|》 白柤(びやくだん)《割書:一両|》   甲香《割書:一両|》 薫陸(くんろく)《割書:一両|》 射香《割書:|二分》 右各/粗末(あらこ)にして蜜(みつ)にてねるべし当分(たうぶん)は 蜜(みつ)の気(き)ありて香(か)よろしからず蜜香(みつかう)をとる 事口伝なり 一 懸香(かけかう)の方/梅花(ばいくわ)《割書:名|》   梅花《割書:三匁|》丁子(てうじ)《割書:三匁|》 甘松《割書:二匁|》 竜脳(りうのう)《割書:五分|》   射香《割書:七分|》白柤《割書:七分|》 一 花橘(はなたちばな)《割書:名|》 丁子《割書:四匁|》 射香《割書:|一匁》 竜脳《割書:六分|》 【左丁本文】  蜜をそゝぎて袋に入べし 一 蘭(らん)《割書:名|》  丁子《割書:三匁|》 藿香《割書:一匁|》 白柤《割書:一匁|》   甘松《割書:一匁五分|》 竜脳《割書:五分|》 射香《割書:|五分》 一 忍草(しのぶぐさ)《割書:名|》 射香 竜脳 梅花《割書:各二匁|》   丁子 茴香(ういきょう)《割書:各一匁|》 一 勅方(ちよくはう)《割書:名|》 射香 竜脳 片脳(へんのう)《割書:各五分|》 丁子   白柤 藿香《割書:各一匁五分|》 甘松《割書:二匁|》 青木香(しやうもくかう)《割書:六分|》   右紙につゝみて袋に入るべし 一 鬢洗香水(びんせんかうすい)【「鬂」は俗字】《割書:髪のあらひ水也蜜丸にしおきてぬる湯に|ときて用ゆ》   丁子《割書:三両|》 射香《割書:少|》 甘松《割書:二両|》 白柤《割書:少|》  皁莢(さうけう)《割書:八両|》 枸杞(くこ)《割書:一両|》 一 鬚洗香水(しゆせんかうすい)《割書:月代鬚などそる時湯にときて用ゆふ|ふのりにて平たくかためおくなり》  丁子《割書:一匁|》 皁莢《割書:二匁|》  射香 竜脳《割書:各二分|》 【枠外丁数】廿二 【右丁頭書】 の人は芸術(げいじゆつ)秀(ひいで)たるか或は威勢(ゐせい)あ りて人の首領(かしら)となるべし 【○の中に「官」】《割書:くわん|》 此運にあたる月の生れは夫婦(ふうふ)中 天理(てんり)にかなひむつましくいのち長し 威勢(ゐせい)つよくよき子をまうけ 方々より縁(えん)を求(もとむ)る人多かるべし しかれども重縁(ぢうえん)の親類(しんるい)にあらざ れば縁談(えんだん)すべからず ○この運(うん)の人は兄弟/国(くに)をへだ つるか又/海川(うみかは)をへだてゝ住居(ぢうきよ)す れば中むつましかるべしさなければ 不和(ふわ)にしてわざはひ多し又/火災(くわさい) の難(なん)あり神仏(かみほとけ)に信心(しんじん)すべし 【○の中に「臨」】《割書:りん|》 この運の月のうまれは夫婦中(ふうふなか) むつまじしかれどもたがひに疑(うたが)ひ 【左丁頭書】 隔(へだ)つる心あるべし万(よろづ)をつゝしみて うたがひの心なく夫婦(ふうふ)和合(わがふ)す れば家業(かげふ)さかえ子孫(しそん)繁昌(はんじやう)す べし ○この運(うん)の人は兄弟運つよく 同し家(いへ)に住居(ぢうきよ)し又は近隣(きんりん)に住(すみ)て 徳行(とくかう)をなさば大にさかゆべし 兄弟あらそひねたむ心あるか遠(とほ) くへだてゝすまばわざはひ多(おほ)かる べし 【○の中に「帝」】《割書:てい|》 此運にあたる月のうまれは男(なん) 女(によ)ともに半吉なり男は入壻(いりむこ)など にゆきてよし然れどもやゝもす れば災難(さいなん)きたりて身(み)の害(がい)を なす事おほし心(こゝろ)正(たゞ)しく家業(かげふ)怠(おこたり) なくば末(すへ)繁昌(はんじやう)すべし 【右丁本文】  ○渋糊(しぶのり)の方 一 蕨(かね)の粉(こ)一升/渋(しぶ)八合水六升ばかり入てよし 此(この)渋(しぶ)のりにて物を張(は)ればつよくしてふたゝび 取はなるゝ事なし  ○渋紙(しぶかみ)のこしらへやう 一 右のしぶのりにてこはき刷毛(はけ)にてむらなき やうにして紙を合すべしさて日陰(ひかげ)にて乾(かわか)す がよし日にあつればこはくなりてしなへず能(よく) 乾(かわ)きたる時/二番渋(にばんしぶ)に水を少しくはへて 裏表(うらおもて)よりひくべしかねの粉は食物(しよくもつ)にする さらし粉はわろし  ○柿(かき)のたくはへやう 一 新(あたら)しき柿(かき)の蔕(へた)のまはりを漆(うるし)にてよく 【左丁本文】 【挿絵】 ぬり壺(つぼ)にいれ葢(ふた)をよくしておくべし  ○柿(かき)の年切(としぎり)するを実(みの)らする法 一正月に大なる錐(きり)にて木をもみ鰹節(かつをぶし)を打 こみおくべし年切せずして実をむすぶ こと多し又/渋(しぶ)き柿は灰汁(あく)を根(ね)にそゝげは 翌年(よくねん)より甘(あま)くなる也 【枠外丁数】廿三 【右丁頭書】 ○この運(うん)の人は兄弟/運(うん)つよし 幼少(ようせう)のうちは中よからず十二三才 より十五六までの内に病(やまひ)あり兄 弟とも養子(やうし)にゆき人の家督(かとく)を つげばことの外/繁昌(はんじやう)する也 【○の中に「衰」】《割書:すゐ|》 この運にあたる月の生れは夫婦(ふうふ) の縁うすく縁(えん)ありても初(はじめ)のえんは 死別(しにわかれ)するか離別(りべつ)するか二三度も かはりて後に定(さだ)まるとかく病(びやう) 身(しん)がちなるべしよく〳〵養生(やうじやう)す べし ○このうんの人は兄弟中よけれ共 とかく仕合(しあはせ)よろしからず浮沈(うきしづみ)たび たびあり物言(ものごと)辛抱(しんぼう)つよく一心(いつしん)に かせがば後々(のち〳〵)は仕合なほるべし 信心(しん〴〵)してよし 【左丁頭書】 【挿絵】 【○の中に「病」】《割書:びやう|》 この運にあたる月の生れは夫婦 の縁(えん)おもはしからず無常気(むじやうき)ざして 発心(ほつしん)出家(しゆつけ)の望(のぞみ)たえず又/妻(さい)を うとみ妻にも疎(うと)まるゝ運なり たがひにむつましくせば末(すゑ)にては よき事あり ○此運の人は男女(なんによ)とも兄弟中 【右丁本文】  ○白ねり酒の方 一 上諸白(じやうもろはく)《割書:壱斗|》餅米(もちごめ)《割書:壱斗|よくむして》 右二品/壺(つぼ)へ入れよく封(ふう)じ置第七日めに 石臼(いしうす)にて挽(ひ)き又七日やすめおけば風味(ふうみ)よし  ○ 塩魚(しほうを)の塩気(しほけ)をぬく法 塩肴(しほさかな)の塩をぬくには木槿(むくげ)の葉(は)とともに 水にひたし半日ほどおけばよくぬけるなり 又上を藁(わら)にて包(つゝ)みて一夜土中にうづみ ておけば塩ぬけて生身(なまみ)のごとし  ○金箔(きんばく)のすゝけたるをあらふ法 一 綿実(わたざね)がらの灰汁(あく)を熱(あつ)くわかして火に かけおきさめざるやうにして刷毛(はけ)にて度々 すり洗(あら)ふべし新(あたら)しくなる事妙なり案(あんず)るに 【左丁本文】 この灰汁(あく)ねあかを洗ふに甚(はなはだ)佳(よ)し布(ぬの)など あらへば雪(ゆき)のごとくなる晒布(さらしぬの)に用ゆべし  ○塗物(ぬりもの)の煤気(すゝけ)とりやう  一 餅米(もちごめ)の藁(わら)の灰汁(あく)を布ぎれにひたし あらへばよく落る水気(すいき)乾(かわ)きたる時油にて ぬぐふべし新(あらた)なるが如し  ○油(あぶら)一合にて一月ともす法 一 浮萍草(うきくさ)《割書:六月土用中に取|》瓦松(ぐわしよう)《割書:瓦のうへに生ずる|杉菜のごとくなる》 《割書:草なりこれも|土用中にとる》遠志(をんし) 黄丹(わうたん) 蛤粉(がふふん)《割書:おの〳〵一両|》 右細末にして油一合の目かたの三分一入れ 燈心(とうしん)を浸(ひた)し火を点(とも)すべし  ○一寸にて一夜ともる蠟燭(らうそく)の法 一 唐蠟(たうろう) 松脂(まつやに) 槐花(くわいくわ)《割書:各一斤|》  浮石(かるいし)《割書:四十目|》 【枠外丁数】廿四 【右丁頭書】 睦(むつま)じからず仇敵(あだがたき)のおもひをなして 和合(わがふ)せず兄(あに)の心/正(たゞ)しからぬゆゑ 已下の兄弟も深切気(しんせつげ)なしよく よく慎(つゝし)みてむつましくすべし 【○の中に「死」】《割書:し|》 此うんにあたる月の生(うま)れは夫婦(ふうふ) の縁(えん)うすく死(しに)わかれの悲(かなし)み有 またその身(み)も多病(たびやう)なり養生(やうじやう)し てよしとかくに慈悲(じひ)善根(ぜんごん)をなし て神仏(しんぶつ)をいのらば末(すゑ)さかゆべし ○此運の人は兄弟中あしく心(こゝろ)猛(たけ) くして和合(わがふ)しがたししかし武家(ぶけ)なら ば武芸(ぶげい)其余(そのよ)の家業(かげふ)にても身(み) を惜(をし)まずかせぎとかく力業(ちからわざ)を このみて人に敬(うやま)はるゝなり 【○の中に「墓」】《割書:ぼ|》 此運にあたる月の生れは仲人(なかうど)なし 【左丁頭書】 に夫婦(ふうふ)のやくそくをする事有 然るゆゑにはじめは中むつまし けれども後(のち)にはうとみうとまるゝ 事あり深(ふか)くつゝしまば仕合(しあはせ)よか るべし ○このうんの人は兄弟/運(うん)はよし 家職(かしよく)もしかと定(さだ)まり和合(わがふ)する なりしかしとかく気転(きてん)のきかぬ 性(しやう)にて物事まはりどほき分別(ふんべつ) おほしよろづ智恵(ちゑ)ある人に 相談(さうだん)してなすべし 【○の中に「絶」】《割書:ぜつ|》 この運の月にあたる生れは夫 婦の縁(えん)大にわろし口舌(くぜつ)事/多(おほ)く 常(つね)に災難(さいなん)来りて身(み)あやふく 夫婦/離別(りへつ)するか病身(びやうしん)なるべし 深(ふか)く信心(しん〴〵)せば凶(きよう)変(へん)じて吉(きつ)となる 【右丁本文】 右一ッに煖(あたゝ)め溶(とろ)かし燈心(とうしん)一把(いちは)を布につゝみ 蠟(らう)の中までしむほどによく〳〵浸(ひた)し取上(とりあげ) てかわかし火をともすなり一夜にともる こと僅(わづか)に一寸ばかりなり  ○石に墨(すみ)の付たるをおとす方 一 大根(だいこん)を小口切にして摺(す)るべし奇妙に おつるなり  ○しくい土の法 一 へな土《割書:一升|》 石灰(いしばひ)《割書:五升|》 塩(しほ)《割書:三升|》 右土を四五日/干(ほ)し細(こま)かにくだきふるひに懸(かけ) 石灰(いしばひ)塩(しほ)少しづゝ入れねりかため一時ばかり むしろをかけおき其後/下地(したぢ)をよくかため 置てたゝき付る也/厚(あつ) ̄サ一寸/許(ばかり)にてよし 【左丁本文】  ○砂糖漬(さたうづけ)の方 一 何によらず砂糖漬(さたうづけ)にしたき時は石灰(いしばひ)を 水に入れかきまぜ濁(にご)らせ何にても漬て取 出し砂糖(さたう)に漬(つけ)おくべしかやうにせざれば 物によりて臭(くさ)ること有又砂糖につけて 【挿絵】 【枠外丁数】廿五   【右丁頭書】 事あるべし ○此運の人は兄弟はやく死別(しにわかれ)す べしもし死別せずば遠(とほ)く国(くに)を隔(へだて) たがひに力(ちから)になりがたしその上/中(なか) あしく常(つね)に他人(たにん)のごとくにうとみ あふ運なり慎(つゝし)みて和合(わがふ)すべし 【○の中に「胎」】《割書:たい|》 この運(うん)にあたる月のうまれは夫婦(ふうふ) 中よししかし中をへだてゝ居(を)る 【挿絵】 【左丁頭書】 ことあるべし家業(かげふ)ははんじやうし 人に重(おも)く用(もち)ひられ仕合(しあはせ)よししかし ながら若年(じやくねん)のうちはわざはひ 多し慎(つゝし)むべし ○此(この)運(うん)の人は兄弟/他所(たしよ)に遠さかり 隔(へだて)て住(すむ)べしたがひに助(たす)け合(あ)ひ力(ちから) とならば仕合よし随分(ずいぶん)神仏(かみほとけ)を 信心し慈悲(じひ)善根(ぜんごん)をなさばおも はぬ福(さいは)ひきたりよろこび事 おほかるべし 【○の中に「養」】《割書:やう|》 この運(うん)にあたる月の生れは夫婦(ふうふ) 同年(どうねん)の縁(えん)ならば長(なが)く繁栄(はんえい)すべし はじめは障(さはり)あれども後(のち)ほど仕合 よく何事も心にかなふ不信心(ふしん〴〵)な れば大にわろし ○此(この)運(うん)の人は人前(ひとまへ)をかざる心ある 【右丁本文】 後に石灰(いしばひ)を少しふりかけておくもよし  ○饑(うゑ)たる時/早(さつ)そくしのぐ法 一 食物(しよくもつ)なき時大に饑(うゑ)たる時は黄蠟(きらう)を少し 食すべしよく饑(うゑ)をしのぐべし山野(さんや)の猟(かり) 遠境(えんきやう)の旅行(りよかう)などにはかねて懐中(くわいちう)すべし  ○鏡(かゞみ)にかきたる画(ゑ)久しくおちざる法 一 雌黄(しわう)《割書:一匁|》 軽粉(はらや) 磠砂(ろうしゃ)《割書:各一分|》  右三味/末(まつ)となし水膠(みずにかは)にてとき絵(ゑ)をかき て乾(かわ)きたる後火にてよくやきさめて後 鏡(かゞみ)をとぐべしとぎ様は常(つね)のごとし  ○鏡(かゞみ)とぎ薬の方 一 白礬(はくばん)《割書:六匁|》水銀(すいぎん)《割書:一匁|》錫(すゞ)《割書:一匁|》鹿角灰(ろくかくはい)《割書:一匁|》 右の薬にて鏡(かゞみ)をとぐべし 【左丁本文】  ○正面(しやうめん)石摺(いしずり)の法 一 鉄(てつ)のせんくづ《割書:少|》   白芨(はくぎう)《割書:中|》  白礬(はくばん)《割書:大|》 右三味/醋(す)にてときおもふ事を書(かき)乾(かわ)きて 後上より墨をひくべし又方 一 白芨(はくきう) 細粉(さいふん) 白礬(はくばん)《割書:各等分|》 右三味/酸漿草(かたばみくさ)のもみ汁にてとき字を かき墨(すみ)をぬりよくほして後薬の粉(こ)を払(はら) ひおとすべし白字(はくじ)きはやかにあらはるゝなり かたばみは醋(す)にてもよし《割書:細粉はあとより入てよく|するべし》  ○十日廿日/饑(うゑ)ざる法 一 黄茋(わうぎ) 赤石脂(しやくせきじ) 竜骨(りうこつ)《割書:各三匁|》 防風(ばうふう)《割書:五分|》  烏頭(うづ)《割書:一匁|》 右/石臼(いしうす)にてつき蜜(みつ)にて団粉(だんご)ほとに丸(ぐわん)じて 【枠外丁数】廿六 【右丁頭書】 ゆゑ兄弟の中も実義(じつぎ)うすし 他人(たにん)には愛(あい)せられ用(もち)ひらるゝ也 されどもとかく誠(まこと)すくなき性(しやう)な れば末(すゑ)とげかたしよく〳〵実意(じつい) をつくし人にまじはりてよし  ○二十八宿(にじふはつしゆく)吉凶(きつきよう)の事 二十八/宿(しゆく)を年月日時に配当(はいたう)して 吉凶(きつきよう)をことわることもふるき事 にて古人(こじん)の用ひたる証(しやう)あればこゝに 記(しる)して童蒙(どうもう)に示(しめ)す毎宿(まいしゆく)の注(ちう) 初(はじめ)は暦(こよみ)に配当(はいたう)する年月日中は 人事(にんじ)に当(あて)たる行事(かうじ)の吉凶/末(すゑ)は 本命(ほんめい)にかゝる人(ひと)一代(いちだい)の吉凶なり 【星二ッ結ぶ(すぼし)の図】角(かく) 金(きん)に属(ぞく)す 角(かく)の二星(にせい)は東方(とうばう)第一の宿星(しゆくせい)也 造化(ざうくわ)をつかさどる此星(このほし)光(ひかり)あきら 【左丁頭書】 かなれば天下(てんか)大/豊年(ほうねん)也 ○此(この)星(ほし)にあふ日は衣服(きもの)の着(き)ぞめ 元服(げんふく)袴着(はかまぎ)婚礼(こんれい)移徒(わたまし)柱立(はしらだて)井掘(ゐほり) 竃塗(かまぬり)神事(じんじ)仏事(ぶつじ)等(とう)何にもよし 但(たゞ)衣服(いふく)をたつにいむべし ○この星にあたりて生(うま)るゝ人は 若(わか)き時は妻子(さいし)につきて苦労(くらう)多 けれとも末にいたるほど諸事(しよし) 心のまゝになるなり 【星四ッ結ぶ(あみぼし)の図】亢(かう) 火に属す 亢の四星/明(あき)らかなれば四海(しかい)太平(たいへい) にして臣下(しんか)君(きみ)に忠(ちう)をつくし人民(じんみん) 病(やまひ)なし動(うご)けば病多く見えざれば 旱魃(ひでり)なり ○この星にあふ日は牛馬(ぎうば)を求(もと)め 婚礼(こんれい)種(たね)まきによし家造(やづくり)にはいむべし 【右丁本文】 【挿絵】 食(めし)をあくほど喰(くひ)たる後に一丸(いちぐわん)呑(のむ)べし十日 ばかりはうゑぬなり又/餅米(もちごめ)《割書:三合いりこがして|》 黄蠟(くわうらう)《割書:二両わかして|》合せねり丸めおきて食(しよく)す べしもし後に食事(しよくじ)せんとせば胡桃(くるみ)を二ッ くひて後に食すべし 【左丁本文】  ○鋸(のこぎり)の切口(きりくち)きれいにする法  一 鋸(のこぎり)の引目(ひきめ)をうるはしくするには先(まづ)鑿(のみ)にて ひと打うちて鋸(のこぎり)を入べし又/竹(たけ)などは紙(かみ)にて はりおきて乾(かわ)きたる後にきるべし切口甚 きれいなり  ○薄板(うすいた)に穴をあける法 一 錐(きり)のさきをぬらしてもめばわれぬなり  ○砥石(といし)の直しやう 一 剃刀砥(かみそりど)のゆがみたるを直(なほ)すには板(いた)の上に こまかなる砂(すな)をまきおきて砥石(といし)をするべし 至てよくおりるもの也/荒砥(あらと)などにては狭く して摺(すり)にくし此方尤/便利(べんり)なり  ○漆(うるし)にてものかく法 【枠外丁数】廿七 【右丁頭書】 【挿絵】 ○此(この)星(ほし)にあたりて生るゝ人は 福禄(ふくろく)ともしく老(おい)にいたりて凶(きよう)あ れども奢(おごり)をはぶき身(み)をへりくだ れば後に栄(さか)ゆる也 【星四ッ結ぶ(ともぼし)の図】氐(てい) 土に属す 【左丁頭書】 氐の四星明らかなれば大臣(だいじん)后妃(こうひ) 節(せつ)をうしなはずもし見えず又は 動けば内(うち)乱(みだ)れ旱魃(ひでり)す ○此星にあたる日はよめ取/種(たね)まき 酒造(さかつくり)造作(ざうさく)はよし田畑(たはた)をかひ蔵(くら)を たて葬礼(さうれい)にはわろし ○このほしにあたる人は福禄(ふくろく)あつく 望(のぞ)み事かなひて末めでたし 【星四ッ結ぶ(そいぼし)の図】房 土に属す 房の四星/明(あきら)かなれば王者(わうしや)興(おこ)る 政事(まつりこと)あきらか也/驂星(さんせい)光(ひかり)つよく大 なれば慎(つゝし)みあり驂星(さんせい)とは左右の 星なり ○富貴宿(ふうきしゆく)といひて此(この)星(ほし)にあたる 日は神事(じんじ)仏事(ぶつじ)造作(ざうさく)棟上(むねあげ)移徒(わたまし)に よし嫁娶(よめどり)ものたち田畑(たはた)を求る 【右丁本文】 一 漆(うるし)にて字(じ)をかくにねばりてかきにくき もの也/樟脳(しやうのう)を少しいれてしんなしの筆を みなわりてかくべし自由(じゆう)にかける也  ○生蠟(きらう)にてものかく法 一 蠟(らう)をわかして物をかくに早(はや)くかたまりて 筆(ふで)動(うご)きかぬるもの也/塩(しほ)を少し入てかけば そのうれへなし  ○硝子(びいどろ)にものを彫(ほ)る法 一 硝子(びいどろ)にものほるによく切(きる)る刃物(はもの)はかへつて うけぬものなり生鉄(なまがね)の刀(かたな)をよくとぎて ほるべしうけよくして心のまゝに彫(ほら)るゝなり その上をよく切る刃物(はもの)にてさらへてよし  ○池田炭(いけだずみ)の引きりやう 【左丁本文】 一 池田炭(いけだずみ)をきるに皮(かは)はじけて不/手際(てぎは)に なるもの也/初(はじめ)に白汁(しろみづ)をかけてよくほして きればその難(なん)なし  ○土瓶(どひん)のひゞきもるをとむる法 一 土瓶の底(そこ)にひゞきめ出来て水もるには 粥(かゆ)をたくべし忽(たちま)ちとまる也又うどん粉(ご)を煮(に) るもよし白大豆(しろまめ)の汁(しる)にてぬりたるを焼(やき)ても とまる也/但(たゞ)し大にもるはとまりがたし  ○金焼付(きんやきつけ)滅金(めつき)のやきやう 一 下地(したぢ)の銅(あかゞね)をふくさ藁(わら)にてよく磨(みが)き梅(むめ) 酢(ず)をぬりて又わらにてみがき亜鉛(とたん)と水銀(すいぎん)とを 和(くわ)したるをぬり金箔(きんはく)をおきて焼(やく)べし又/水銀(すいぎん) に箔(はく)を和(くわ)して焼(やき)たるを七度(しちど)やきといふ金(きん) 【枠外丁数】廿八 【右丁頭書】 には凶(きよう)なり ○この星にあたる人は威徳(ゐとく)あり て福(さいはひ)ある也されども若(わか)き内吉に して老(おい)てあしき事あるべしよく よく身(み)を慎(つゝし)みてよし 【星三ッ結ぶ(なかごぼし)の図】心(しん) 火に属す 此星/中(なか)の星(ほし)を天子(てんし)とす明(あきら)かなれば 道(みち)さかんなり前(まへ)を太子(たいし)とすくら ければ太子/位(くらゐ)を得(え)ず後(うしろ)を庶子(しよし) とす明らかなれば庶子(しよし)位(くらゐ)をつぐ ことあり ○喜多宿(きたしゆく)といふ神事(じんじ)移徒(わたまし)に よし衣(きぬ)をたち財(たから)を出すはわろし ○此星にあたりて生るゝ人は火難(くわなん) 盗難(とうなん)にたび〴〵あふべしされども福(ふく) 禄(ろく)あつく心の望(のぞ)みをとぐるゝ 【左丁頭書】 【星九ッ結ぶ(あしたれぼし)の図】尾(び) 水に属す 尾の九星そろひて明かなれば国(くに) 豊(ゆたか)なりうつり動(うご)けば国(くに)のうれひ ありて大/洪水(こうずい)の災(わざはひ)あり ○富智宿(ふちしゆく)といふ薬(くすり)を合せ造作(ざうさく) にはよし衣を裁(たつ)にはわろし ○此星にあたりて生(うま)るゝ人は 【挿絵】 【右丁本文】 多(おほ)く入る故/濃(こく)して美(び)なり○やき付のごとく よく摺(すり)みがきて水銀(すいぎん)をぬり金箔(きんはく)をおきて やきたるを滅金(めつき)といふ也  ○赤銅(しやくどう)のやき様(やう) 一 銅(あかゞね)百目/白鑞(びやくらう)三十匁/加(くは)へてわかしたるを煮(に) 黒(ぐろ)めといふこれに金(きん)四銭目/加(くは)へて又わかすべし 【挿絵】 【左丁本文】 そのゝち酢(す)四両/緑青(ろくしやう)四銭目水一升を合(あは) して濃(こ)く煎(せん)じこれに浸(ひた)せばくろむなり 偽物(にせもの)は素銅(すあかゞね)の上を右の煎汁(せんじしる)にひたし或は 硫黄(いわう)の煙(けふり)にて薰(ふす)べたる物なり  ○色付(いろつけ)四分一(しぶいち)のやきやう 一 銅(あかゞね)の下地(したぢ)を油気(あぶらけ)なきやうによくみがき 銀箔(ぎんはく)十/枚(まい)梅酢(むめず)にてひた〳〵にして指(ゆび)にて よくときたるをすり付て焼(やく)べし  ○胎内(たいない)の子(こ)男女(なんによ)を知る法 一 夫(をつと)の年(とし)の数(かず)と婦(をんな)の年の数と合せて 九払(くばらひ)にして残(のこ)る数/耦(てう)ならば女子/奇(はん)ならば 男子(なんし)としるべし九払(くばらひ)にしても余(あま)るときは 六十一年を引て残る数を九払(くばらひ)にすべし 【枠外丁数】廿九 【右丁頭書】 福禄(ふくろく)はあれども火難(くわなん)にあひ財(たから)を うしなふ事ありよく〳〵慎(つゝし)むべし 【星四ッ結ぶ(みぼし)の図】箕(き) 《割書:土に属す|已上東方の宿也》 箕の四星明らかなれば五穀(ごこく)よく みのり上下/安楽(あんらく)なりもし光(ひかり)くら ければ米穀(べいこく)の価(あたひ)高くなる ○無財宿(むざいしゆく)と云この星にあたる 日は池溝(いけみぞ)をほりたからをゝさめ 庭(には)をつくるによし嫁(よめ)どりものたち にはよろしからず ○此星にあたる人は住所(ぢうしよ)定(さだま)り がたし又/年(とし)老(おい)てわざはひ有しか れども人をあはれむ心あらば老(おい) て望事かなひ幸(さいはひ)を得べし 【星六ッ結ぶ(ひきつぼし)の図】斗(と) 木に属す 【左丁頭書】 斗宿(としゆく)の六星(ろくせい)形(かたち)破軍(はぐん)星に似(に)たり 明(あきら)かなれば天下(てんか)太平(たいへい)なりくらく 小なれば宰相(さいしやう)に憂(うれひ)あり ○不家宿(ふかしゆく)といふ新(あたら)しき衣服(いふく)をた ち地掘(ぢほり)蔵(くら)たてによし ○この星にあたりて生るゝ人は 福禄(ふくろく)うすししかれども才能(さいのう)あ りて賢(かしこ)き人に愛(あい)せられ幸(さいはひ)を 得る事あるべし 【星六ッ結ぶ(いなみぼし)の図】牛(ぎう) 木に属す 牛の六星大なれば王道(わうだう)隆(さかん)なり 明かなれば豊年(ほうねん)なりくらくして 曲(まが)れば五穀(ごこく)みのらず七夕に祭(まつ)る 星これなり ○吉祥宿(きちじやうしゆく)といふ此星にあたる日 万(よろづ)よし午(むま)の時を別(べつ)して大吉祥(だいきちじやう)とす 【右丁本文】  ○書(かき)たる文字(もじ)夜(よる)光(ひかり)をはなつ法 一 烏賊(いか)の墨(すみ)を器(うつは)にたくはへ陰干(かげぼし)にしてよく かわかしかた紅(べに)に合せて極上(ごくじやう)の墨(すみ)をすり右 の二味をいれて念仏(ねんぶつ)題目(だいもく)の類をかき香炉(かうろ) に抹香(まつかう)をふとくもり五寸ほど隔(へだて)てたくべし 火よく移(うつ)りし時みれば抹香(まつかう)の火(ひの)光(ひかり)といかの 墨とひかりあひて光明(くわうみやう)赫奕(かくやく)たるがごとし  ○不祥(ふじやう)の香(か)の座敷(ざしき)へ来らぬ方 一 蘿麻草(らまさう)《割書:俗にかとり草ともいふ|はんやのなる草なり》を陰干(かげほし)にして たくべし不祥(ふじやう)をさくること奇妙なり  ○大酒(たいしゆ)して酔(ゑは)ざる法 一 極上(ごくじやう)の美濃柿(みのがき)をへぎて臍(へそ)にあてゝ酒を のむべし何ほど呑(のみ)ても酔(ゑは)ず且(かつ)あてらるゝ 【左丁本文】 といふ事なし  ○酒(さけ)に中(あて)られたる時の法 一 酒にあたりたるには黒豆(くろまめ)の煎汁(せんじしる)をのむ べしけんぽなしの絞(しぼ)り汁もよし蘆根(あしのね)をつき くたきて其(その)汁(しる)を飲(のむ)もよし  ○硯(すゞり)のねばりを取る法 一 硯(すゞり)の墨(すみ)粘(ねば)りてものゝ書がたきには耳の 垢(あか)を少しいれて摺(すり)まぜてつかふべしねばり さりてよろし又/紙(かみ)木(き)の類(るい)にじむものに かく時も此法/甚(はなはだ)よろし少しもにじまぬ やうになるなり  ○蕎麦麺(そばきり)を大食(たいしよく)して満腹(まんふく)せぬ法 一 山桃(しふき)の皮(かは)を粉(こ)にして服(ふく)して後(のち)そば切を 【枠外丁数】三十 【右丁頭書】 牽牛(けんぎう)星ともいへり ○このほしにあたる人/福禄(ふくろく)は具(そな) はれども短命(たんめい)なりもし長命(ちやうめい)な らば貧(ひん)なるべしされども心を正直(しやうじき) にもち身(み)をへりくだり人とむつま じく交(まじは)り神仏(しんぶつ)を信心(しん〴〵)すれば 末(すゑ)よろしかるべし 【星四ッ結ぶ(うるきぼし)の図】女(ちよ) 水に属す 女宿四星明らかなれば天下/豊(ゆたか) にして女工(ぢよこう)さかんなり動けは婦女(ふぢよ) に殃(わさはひ)多く/難産(なんざん)のうれひあり ○七夕に祭(まつ)る織女(しよくぢよ)星これなり この星にあたる日/芸能(げいのう)を学(まな) び兵器(へいき)をつくるによし新(あたら)しき 衣服(いふく)を着(き)そめ又は葬礼(さうれい)を出 すにはわろしすべて人と争(あらそ)ふ 【左丁頭書】 ことを忌(いむ)べし ○此星にあたりて生るゝ人は 福禄(ふくろく)うすく人と争(あらそ)ひ禍(わざはひ)にかゝ ること多く眷属(けんぞく)につきて心労(しんらう) おほし慎むべし 【星二ッ結ぶ(とみてぼし)の図】虚(きよ) 金に属す 虚宿二星あきらかなれば天下 安(やす)しくらく動けば疫癘(えきれい)に死(し)する 者(もの)おほし ○富貴宿(ふうきしゆく)といふ此星にあたる日 衣服(いふく)をたち又/着(き)そめ学問(がくもん)を はじむる類よろし ○此星にあたりて生(うま)るゝ人は福 禄うすく人に先立(さきだち)て争(あらそ)ひを このみ殃(わざはひ)多し万事(ばんじ)よく〳〵慎 みてよし 【右丁本文】 【挿絵】 食(しよく)すべしいかほどもくへる也そば切にて腹(はら)の はりたるにも是(これ)をのむべし腹(はら)すみやかにへる  ○小児(せうに)の陰茎(いんきやう)はれたる時のまじなひ 小児(せうに)の陰茎(いんきやう)時としてはれる事あり俗に蚯蚓(みゝず) に小便(せうべん)しかけたりといふ此時/女子(によし)をして火吹(ひふき) 竹(だけ)にて吹(ふか)しむべし直(なほ)ること妙なり 【左丁本文】  ○あらひ粉の方 一 赤小豆(あづき)《割書:五合|》 一 滑石(くわつせき)《割書:二匁|》 一 白檀(びやくだん)《割書:一両|丁子もよし》 右/細末(さいまつ)にして用ゆべし但し滑石(くわつせき)を去て枸杞(くこ)の 葉(は)を加(くは)ふるもよし  ○歯磨(はみがき)の方 一 寒水石(かんすゐせき)の粉(こ)に竜脳(りうのう)を少しくはへて朝毎(あさごと)に 歯(は)をみがくへし  ○傘(からかさ)などに物をかく法 一 青松葉(あをまつば)一握(ひとにぎり)ばかり五分(ごぶ)ほどにきざみ一夜 水にひたし其水にて墨(すみ)をすりてかけばよく かけるなり又/鉄漿(かね)を墨にすりませてかく もよろし急(きふ)なる時は燈心(とうしん)にて能々(よく〳〵)傘(からかさ)を すりおきて書べし墨(すみ)よくうけるもの也 【枠外丁数】卅一 【右丁頭書】 【挿絵】 【星三ッ結ぶ(うみやめぼし)の図】危(き) 土に属す 危宿三星/火(ひ)守(まも)れば王者(わうしや)兵(へい)を 行(おこな)ふ金(かね)守(まも)れば飢饉(ききん)す水(みづ)守れば 下(しも)上(かみ)をはかることあり ○無性宿(むしやうしゆく)といふ家作(いへづくり)壁(かべ)ぬり竈(かま) ぬり船(ふね)ぶしん出行(しゆつかう)薬(くすり)を合(あは)し 【左丁頭書】 麻(あさ)を植(うゑ)財宝(ざいほう)を納(をさ)め酒(さけ)を造(つく)る によし衣(きぬ)をたち高き所を造(ざう) 作(さく)するにはいむべし ○この星にあたる人は望(のぞ)み事 遂(とげ)がたく吉事(きちじ)ありとも凶事に 変(へん)じ安(やす)しよく〳〵慎(つゝし)めは福(さいは)ひを 得べし 【星八ッ結ぶ(はついぼし)の図】室(しつ) 木に属す 室の八星明らかなれば国(くに)壮(さか)んなり 小にしてくらければ鬼神(きしん)祭(まつり)をうけ ず疫癘(えきれい)流行(りうかう)す ○不信宿(ふしんしゆく)といふ願(ぐわん)はじめ袴着(はかまぎ) 嫁娶(よめどり)造作(ざうさく)移徒(わたまし)井掘(ゐほり)竈塗(かまぬり)薬(くすり) をのみ仏事(ぶつじ)橋普請(はしぶしん)等によし ○此星にあたりて生るゝ人は若(わか) き内は悪し老(おい)ては望(のぞみ)事かなふ 【右丁本文】  ○金箔(きんはく)の上にものかく法 一 金銀(きん〴〵)箔(はく)のおきたるうへに物をかくは天鵞絨(びらうど)の きれにて拭(のご)ひ其後(そのゝち)かけば墨(すみ)をはぢかず又 熱(あつ)き灰(はひ)を紙につゝみ拭(のご)ひてかくもよし  ○墨(すみ)ぬきの方 一 紙(かみ)に墨(すみ)のつきたるをぬくは大根(だいこん)を薄(うす)く切 その上に墨(すみ)のつきたる所をのせ上より大根 の切口(きりくち)にてしと〳〵とたゝくべし板(いた)に付たるは 塩(しほ)をつけて指(ゆび)にてすればおつる也又大根の 香物(かうのもの)を二ッに切てこするもよし衣服(いふく)に付たる は杏仁(きやうにん)の皮(かは)を細末(さいまつ)にし挽茶(ひきちや)と等分(とうぶん)にして 墨のつきたる上にふりかけ湯(ゆ)にてしめしよく すり付て後/洗(あら)へば墨おつる也又/梅干(むめぼし)をすり 【左丁本文】 【挿絵】 つけあらふもよし又/棗(なつめ)を嚼(かみ)たゞらしすり 付/冷水(ひやみづ)にて【挿入】あらへば跡なくおつるなり  ○咽喉(のど)のかわきをとめる法 一 みそはぎの葉(は)を口へ入れば忽(たちま)ち止(とま)るなり 陰干(かげほし)にして常(つね)に懐中(くわいちう)すべし 【枠外丁数】卅二 【右丁頭書】 一生(いつしやう)の内/旅(たび)へいでゝ物を失(うしな)ふ ことありつゝしむべし 【星二ッ結ぶ(なまめぼし)の図】壁(へき) 《割書:土に属す|右七星北方に有》 壁の二星明かなれば小人(せうしん)退(しりぞ)き 君子(くんし)進(すゝ)み文道(ふんだう)盛(さかん)におこり 国(くに)安(やす)しくらければ文道/衰(おとろ)へ 小人すゝむ ○寿命宿(じゆみやうしゆく)といふ首途(かどで)造作(ざうさく)婚(こん) 礼(れい)によし但(たゞし )南(みなみ)へゆくをいむ ○此星にあたる人は多病(たびやう)にて 短命(たんめい)なりしかし心/正(たゞ)しく人を めぐみ飲食(いんしよく)をつゝしめば命(いのち) 長(なが)し 【星十六結ぶ(とかきぼし)の図】奎(けい) 金に属す 奎の十六星明かなれば天下(てんか)太(たい) 【左丁頭書】 平(へい)にて文武の道(みち)大におこる 星に角(かど)あれば政事(まつりごと)正しからず ○因業宿(いんがふしゆく)といふ衣服(いふく)をたち 宮造(みやつくり)家たて蔵建(くらたて)井掘(ゐどほり)竈塗(かまぬり) 橋(はし)かけ元服(げんふく)袴着(はかまぎ)仏事(ぶつじ)出行(しゆつかう) 酒(さけ)つくり等によし ○この星にあたりて生るゝ人は 命長けれども老(おい)て凶(きよう)多(おほ)しよく 【挿絵】 【右丁本文】  ○醬油(しやうゆ)の善悪(よしあし)を見分(みわく)る法 一 青磁(せいじ)の茶碗(ちやわん)に醬油(しやうゆ)を少(すこ)しばかり入(い)れ箸(はし) にてよく〳〵かきたてゝ見るべし枇杷色(びはいろ)なる 泡(あわ)たちて暫(しばら)く消(きえ)ぬは極上(ごくじやう)なり又うす赤(あか)き あわのたつは中分(ちうぶん)なり  ○新(あたら)しき道具(だうぐ)を早(はや)くふきいるゝ法 一 よきほどに煤(すゝ)にてむらなく拭(のご)ひその上へ生渋(きしぶ) に水/等分(とうぶん)にして引(ひき)其後/木(き)の実(み)の油(あふら)にて 拭(のご)ふべし一月ほど如此(かくのごとく)すれば数年(すねん)ふき込(こみ) たる物のごとくなる也  ○紅(べに)を用ひずして紅染(へにぞめ)する法 一 とうきび売(がら)【壳】を早稲藁(わせわら)の灰汁(あく)にてせんじ 絹(きぬ)木綿(もめん)何にてもそむべし色よくして誠(まこと)の 【左丁本文】 紅(べに)にすこしもたがはず但し桃色(もゝいろ)より濃(こ)くては わろし紅欝金(べにうこん)などは右の上にうこん粉を熱(あつ)き 湯にたてゝ染(そむ)べし紅藤(べにふぢ)は下(した)を浅黄(あさぎ)の色を 薄(うす)くそめおき桔梗(ききやう)ははな色の上を右の通 にてそむべし  ○漆(うるし)を用ひずして塗物(ぬりもの)する法 一 何にても下地(したぢ)を墨にてぬり生渋(きしぶ)をはき其 上を真綿(まわた)にて艶(つや)の出るほどふきさて膠(にかは)を上へ ひくべし漆(うるし)のぬり物にかはらず春慶(しゆんけい)は黄柏色(きわだいろ) 下地(したぢ)それ〳〵に望(のぞみ)次第(しだい)に色をつくべししかし 継(つぎ)物はならず  ○庭石(にはいし)に苔(こけ)を付る法 一 何石にても肌(はだ)をあらくし米汁(しろみづ)をかけ其上へ 【枠外丁数】卅三 【右丁頭書】 〳〵身(み)をつゝしみ人をあはれ まば免(まぬ)かるべし 【星三ッ結ぶ(たたらぼし)の図】婁(ろう) 木に属す 婁の三星明かなれば国(くに)安(やす)し 直(ちよく)なれば殃(わざはひ)おほし ○因業宿(がういんしゆく)といふ造作(ざうさく)よめ取 衣服(いふく)をたち其余(そのよ)急(きふ)なる事に よし南へゆくはわろし ○此星にあたりて生るゝ人は わかき内は凶(きよう)なれども老ては歓楽(くわんらく) にして福禄(ふくろく)をたもつされども 放蕩(はうたう)なれば老てまづし 【星三ッ結ぶ(えきえぼし)の図】胃(ゐ) 金に属す 胃の三星明かなれば四時(しじ)和平(くわへい) なり天下/平(たひら)かにして民(たみ)安(やす)し 【左丁頭書】 くらければ五穀(ごこく)みのらず ○因業宿(いんかうしゆく)といふ造作(ざうさく)嫁(よめ)どり はかま着又は公(おほやけ)の事よし私(わたくし)の 事はわろし衣服(いふく)をたつに忌(いむ)べし ○此星にあたりて生るゝ人は わかき時は病身(びやうしん)にて諸事(しよじ)心の儘(まゝ) ならず老て後(のち)は何事もよろし 【星七ッ結ぶ(すばるぼし)の図】昴(ぼう) 水に属す 昴の七星/明(あきら)かなれば国人(くにたみ)安く 天下/平(たひら)かなりくらければ讒者(ざんしや) はびこりうれひ多し ○敬信宿(けいしんしゆく)といふ牛馬(ぎうば)をもとめ 袴着(はかまぎ)婚礼(こんれい)移徒(わたまし)社参(しやさん)仏参(ぶつさん) 井掘(ゐほり)竈(かま)ぬりよし衣をたち造(ざう) 作(さく)するにはわろし ○此星(このほし)にあたる人はわかき時は 【右丁本文】 古(ふる)きむしろをかけて日陰(ひかげ)におけば殊(こと)の外に むさくなる其時/古屋根(ふるやね)の苔(こけ)をとりてつくべし 能(よく)つきておひ〳〵茂(しげ)ること妙なり  ○蚫(あはび)がらに生(うま)れの如く物かく法 一 こき墨(すみ)にて蚫売(あはびがら)【壳】に物のかたちをかき乾(かわか)し て後/貝(かひ)の穴(あな)をふさぎ醋(す)をもりておくべし 久しくして後/墨(すみ)をぬぐひされば其あと うづたかくなり物のかたちあざやかなり  ○旅中(りよちう)病(やまひ)をうけぬ方 一 早天(さうてん)にたび立する時は生姜(しやうが)ひとつを口 にふくめば霧(きり)露(つゆ)湿気(しつけ)山嵐(さんらん)すべて不正(ふせい)の邪(じや) 気(き)におかされずして病をうけず又/暑気(しよき) の時分(じぶん)の旅(たび)には蒜(にゝく)の実(み)を臍(へそ)にあてゝ手拭(てぬぐひ) 【左丁本文】 の類(るい)にてしめおけば暑気(しよき)にあたらず  ○船(ふね)に酔(ゑは)ざる法 一 船(ふね)にゑふ人は乗(の)る時/塩(しほ)を臍(へそ)にあて紙(かみ)にて その上を張(はり)置べしかくのごとくすれば船に ゑふ事なし又方 白さゝげを酒(さけ)にひたし粉(こ)にして懐中(くわいちう)にし 【挿絵】 【枠外丁数】卅四 【右丁頭書】 苦労(くらう)多けれども老にいたり て仕合(しあはせ)なほり万事(ばんじ)よかるべし 【星八ッ結ぶ(あめぶりぼし)の図】畢(ひつ) 水に属す 畢の八星明かに大なれば夷狄(いてき) 来りて貢物(みつぎ)を捧(さゝ)げ天下太平 なり動けば淋雨(りんう)洪水(こうずい)あり ○悪性宿(あくしやうしゆく)といふ神事(しんじ)婚礼(こんれい)造(ざう)さ く溝(みぞ)を通(つう)じ橋(はし)をかくる等よし 衣服をたつにはわろし ○此星にあたりて生るゝ人は 福禄(ふくろく)たもちがたく望(のぞみ)事かなひ がたししかれども身(み)をつゝしみ 心を正直(しやうぢき)にもてば禍(わざはひ)をまぬかれ 福(さいはひ)を得べし 【星三ッ結ぶ(とろきぼし)の図】觜(し) 金に属す 【左丁頭書】 觜(し)の三星明かに大なれば天下 泰平(たいへい)にして五穀(ごこく)よく熟(じゆく)す動(うごい)て 明かなるは旱(ひでり)して国(くに)安からず ○慙悪(ざんあく)宿といふ入学(にふがく)杣入(そまいれ)によし 衣服を裁(たつ)はわろし ○此星にあたりて生るゝ人は一生(いつしやう) の内/住宅(ぢうたく)さだまりがたく老に至(いた) りてあしく然れども人を憐(あはれ)み 人に悖(もと)らず陰徳(いんとく)を施(ほどこ)し身(み)を収(をさ) むる時は仕合なほり福(さいはひ)を得べし 【星十結ぶ(からすきぼし)の図】参(しん) 《割書:木に属す|右七宿西にあり》 参の十星明かに大なれば臣(しん)に 忠(ちう)あり子(こ)に孝(かう)あり動(うご)けば讒者(ざんしや) はびこり賢人(けんじん)退(しりぞけ)けらる ○炭富宿(たんふしゆく)と云/財(たから)をもとめ養子(やうし) をとり門立(かどたて)造作(ざうさく)などによし衣服 【右丁本文】 乗(の)る前(まへ)に飲(のむ)べしいかなる難風(なんふう)にあふともゑふ ことなし 一 船(ふね)に酔(ゑひ)たる時は何魚(なにうを)にても腹(はら)こもりの魚 を水にてのむべし又ふかの干(ほし)たるを呑もよし  ○寒風(かんふう)の肌(はだ)をとほさぬ法 一 風(かぜ)肌膚(はだへ)にとほりて寒(さむ)き時は紙(かみ)をひろげ て衣服(いふく)の間(あひだ)にはさみ入れば風を通(とほ)さず して寒気(かんき)をふせぐなり  ○旅(たび)にて饑(うゑ)を凌(しの)ぎ并(ならびに)まめ出ざる法 一 挽茶(ひきちや)を懐中(くわいちう)して出ればよく饑(うゑ)を凌(しの)ぐ 又/生(なま)の蓬(よもぎ)をとりてそのまゝくふべし是も 饑(うゑ)をしのぐもの也又/火附木(つけぎ)【左ルビ イヲン】一さき懐中(くわいちう)す れば足(あし)にまめ出ぬものなり 【左丁本文】  ○蛙(かへる)のなくをとゞむる法 一 かへる鳴(なき)てやかましき時は野菊(のぎく)の花(はな)を 粉(こ)にして風上(かざかみ)より風(かぜ)にまかせてまきちらせば 三五日はなくことなし妙なり  ○香具(かうぐ)のたくはへやう 一 丁子(てうじ)白檀(びやくたん)の類(るい)すべてにほひある物は刻(きざ)みて たくはへおくべからずこしらへ合する時きざみ て用ゆべし剉(きざ)みておけば気(き)ぬけて香(か)うすし 燻物(たきもの)などたくはふるにも香箱(かうばこ)に入上を蠟紙(らうがみ) にてつゝみ気(き)のぬけざるやうにすべし  ○膏薬(かうやく)かぶれを愈(いや)す方 かうやくにかふれたるには杉(すぎ)の葉(は)をせんじ あらふべし杉(すぎ)なき時は青木(あをき)の葉(は)を用ゆべし 【枠外丁数】卅五 【右丁頭書】 をたつはわろし ○この星にあたりて生るゝ人は 一生/福禄(ふくろく)をたもち命(いのち)長(なが)し何事 も心にかなふ也しかれども驕(おご)れば 必(かならず)わろし 【星八ッ結ぶ(ちちりぼし)の図】井(せい) 水に属す 井の八星は南方(なんばう)第一(だいいち)の宿(しゆく)也/明(めい)大(だい) なれは封侯(ほうこう)国(くに)を建(たつ)る色(いろ)をうしなふ 時は災(わざは)ひはなはだし ○遇寝宿(ぐうしんしゆく)といふ神事(しんじ)造作(ざうさく)井掘(ゐほり) 種(たね)まきによし貧者(ひんじや)に物を施(ほどこ)せば よき報(むくい)あり衣をたつはわろし ○此星にあたりて生るゝ人は妻(さい) 子(し)に縁(えん)うすし然れとも老(おい)にい たりては万(よろづ)心のまゝにて仕合(しあはせ)なほ るべし信心(しん〴〵)してよし 【左丁頭書】 【挿絵】 【星五ッ結ぶ(たまおのぼし)の図】鬼(き) 木に属す 鬼宿五星/明(めい)大(だい)なれば五穀(ごこく)よく 登(みの)るくらければ人民(じんみん)和せず動(うご) けば病(やまひ)流行(りうかう)して人(ひと)多(おほ)く死(し)す 【右丁本文】  ○油(あぶら)なしの燈火(ともしび)の法 一 乳香(にうかう) 硫黄(いわう) 松脂(まつやに) 乾漆(かんしつ)   《割書:各一両|》   黒まめの粉《割書:四両|》焔硝(えんしやう)《割書:二匁|》 右うるしにて◯これほどづゝに丸(まろ)め鉄板(てつはん) の上にてともすべし  ○早(はや)にべの方 一 鹿角(ろくかく)の粉(こ) おもとの葉《割書:火にてやき|角の三分一》 膠(にかは) 右一所にねり合(あは)せ弓(ゆみ)にても何にてもつぐべし 朝(あさ)つげば昼(ひる)用(よう)にたつなり  ○冬(ふゆ)茄子(なすび)をならする法 一 苗(なへ)のうちより根(ね)に膠(にかは)をおき花(はな)のさく時は ひとしほしげく置花さきたらば摘(つみ)とり〳〵 して咲(さか)せず九月より四方(しはう)を石(いし)にてかこひ 【左丁本文】 根(ね)へ馬糞(ばふん)を沢山(たくさん)におき南(みなみ)の方へ口を明(あけ)て 朝(あさ)より昼(ひる)までの日をあてゝ八ッ時分(じぶん)よりの 日をあてずかくの如(ごと)くすれば十月の ころより花(はな)をもち霜(しも)月へかけて実(みの)る也  ○炭(すみ)一ッにて終日(しうじつ)きえぬ煙草(たばこ)の火 一 椿(つばき)の木を炭(すみ)ほどに切(きり)干(ほし)かわかし灰(はひ)の中に うづみおきさて犬蓼(いぬたで)を黒焼(くろやき)にして其木の うへにかけ小き火をそのくろやきの灰(はひ)の上に おくべし如此(かくのごとく)すれば自然(しぜん)と火うつりて 一日火をもつなり  ○紙(かみ)に血(ち)の付たるをおとす方 一 紙(かみ)に血の付たるを落(おと)すには生姜(しやうが)をう すくへぎて血(ち)のつきたる上におくべし 【枠外丁数】卅六 【右丁頭書】 ○争論(さうろん)宿といふ万事(ばんじ)大によし 富貴(ふうき)を主(つかさど)る星なり社参(しやさん)仏参(ぶつさん) 袴着(はかまぎ)隠居初(いんきよはじめ)宮建(みやたて)家蔵(いへくら)たて 井掘(ゐほり)竈(かま)ぬり万(よろづ)よし但し婚礼(こんれい) にはいむべし西(にし)の方へゆくべからず ○此星に生るゝ人はわかき時は 辛労(しんらう)あれども老(おい)て大によし 【星八ッ結ぶ(ぬりこぼし)の図】柳(りう) 火に属す 柳の八星明らかなれば人民(にんみん)酒(しゆ) 食(し)をゆたかにす色(いろ)をうしなへば 凶年(きようねん)三年をまたず五穀(ごこく)大にたかし ○財宝(ざいほう)宿と云/決断事(けつだんごと)悪(あく)を除(のぞ) くに用ゆべし杣(そま)を入るもよし造(ざう) 作(さく)葬礼(さうれい)衣服(いふく)をたち和合(わがう)する 事にはわろし ○此星に生るゝ人は一生(いつしやう)福禄(ふくろく)を 【左丁頭書】 保(たも)つといへども人とあらそふ事 おほしよく〳〵つゝしむべし 【星六ッ結ぶ(ほとおりぼし)の図】星(せい) 水に属す 星の七星/明(めい)大(だい)なれば王道(わうだう)さかん なりくらければ賢良(けんりやう)望(のぞみ)をうしなふ 色(いろ)をうしなへば后妃(こうひ)難(なん)あり ○諂曲(てんきよく)宿といふ馬乗初(むまのりぞめ)厩造(むまやつく)り 薬(くすり)を飲(のみ)そむるは宜し婚礼(こんれい)葬礼(さうれい) 衣服(いふく)をたち五穀(ごこく)のたねまくには 用(もち)ゆべからず ○此星(このほし)にあたりて生るゝ人は福(さいはひ) おほく望(のそみ)事かなふなり然れども 老年(らうねん)にいたりて心労(しんらう)おほし 【星六ッ結ぶ(ちりこぼし)の図】張(ちやう) 水に属す 張の六星明大なれば国家(こくか)壮(さかん)に 【右丁本文】 【挿絵】 生姜(しやうが)をひたと取(とり)かゆれば血いつとなく落(おつ)る  ○沈金(ちんきん)ぼりの法 一 塗物(ぬりもの)には小刀(こがたな)すべりて立(たち)がたきものなり是 を彫(ほ)るには鼠(ねずみ)の歯(は)を小刀(こがたな)に代(かへ)て用(もち)ゆべし いかやうの細(こまか)なる画(ゑ)にてもおもふまゝにほら るゝものなり 【左丁本文】  ○金(きん)しづめやう  一 彫(ほり)たる所へ金(きん)をしづめ入るゝ法/漆(うるし)をほり たる上にぬりよく拭(ぬぐ)ひとりて金箔(きんはく)金ふん をいれそのゝち角粉(つのこ)にてみがくべし漆(うるし)の 光沢(つや)を出さんとおもふ時はすりうるしにて つやを出すべし金箔(きんはく)はこまかにして指(ゆび)にて すりこむなり  ○鼈甲(べつかう)をつぐ法 一 鼈甲(べつかう)の折(をれ)たるをつぐには両方(りやうはう)よりをれ めをしかと削(けづ)り合(あは)せさて両方(りやうはう)とも上につけ 木/二枚(にまい)ヅヽあてゝくゝり置《割書:竹の皮にて巻|包むもよし》はさみ 金(がね)をよく焼(やき)てつけ木の上よりはさむべし 火気(くわき)とほればつがるゝ也 【枠外丁数】卅七 【右丁頭書】 して強(つよ)し色を失へば国(くに)安(やす)からず 動(うご)きうつれば讒者(ざんしや)はびこる ○音楽(おんがく)宿といふ婚礼(こんれい)和合(わがふ)の事 にもちひてよし又/神仏(かみほとけ)を祈(いの)り 奉公(ほうこう)するによし蚕(かひこ)をかへば大に利(り) を得/衣服(いふく)をたてば悦(よろこ)びにあふ其 外(ほか)大低(たいてい)万よし 【挿絵】 【左丁頭書】 ○此星にあたりて生るゝ人は立身(りつしん) の望(のぞみ)をとげ万事心のまゝなり又 貴人(きにん)は冠位(くわんゐ)を進(すゝ)みその禄(ろく)も増(ます)べし 【星二十二結ぶ(たすきぼし)の図】翼(よく) 木に属す 翼の二十二星明大なれば礼楽(れいがく)起(おこ) り四夷(しい)来朝(らいてう)すうごけば蛮夷(ばんい) そむく色(いろ)を失へば人民/憂(うれ)ひ有 ○無家宿(むかしゆく)といふ衣類をたち農(のう) 業(げふ)種(たね)まきによし高(たか)き所に家(いへ)を立(たつ) るはよろしからず ○此星(このほし)にあたりて生るゝ人は 多(おほ)くは貧(ひん)也もし貧(ひん)ならざれば短命(たんめい) なり心ひろく人を憐(あはれ)む時は天(てん)より さいはひを下(くだ)し命(いのち)長(なが)しよく〳〵 身(み)を慎(つゝし)むべし然らば老(おい)て後は 安楽(あんらく)なるべし 【右丁本文】  ○同/和(やは)らかにする法 一 藁(わら)の灰汁(あく)にて煮(に)れば暫時(ざんじ)に和(やは)らぐ也/是(これ) にて細工物(さいくもの)を思ふまゝにこしらへその上を木 賊(くさ)むくの葉(は)にてすり角粉(つのこ)にてみがくべし  ○目鏡(めがね)の水晶(すゐしやう)と硝子(びいどろ)とを知(し)る法 一 水晶(すゐしやう)は舌(した)のさきにあてゝこゝろむるに甚(はなはだ) ひやゝかにして透(すか)して見れども筋紋(すじもん)なし 硝子(びいどろ)は舌(した)にあてゝ冷(ひやゝ)かならずすかして見る に水のたゞよふがごとき筋紋(すじもん)あり  ○漆(うるし)の善悪(よしあし)を知(し)る法 一 水(みづ)のまじりたる漆(うるし)は紙燭(しそく)につけてともすに もえず油のまじりたるは紙(かみ)につけてあぶれ ば雑(まじ)りたる油(あぶら)こと〴〵くちる也  【左丁本文】  ○長命酒(ちやうめいしゆ)の方 一 生酒(きざけ)一升 氷砂糖(こほりざたう)《割書:百目|》 梅干(むめほし)《割書:廿或は|三十》 梅(むめ)をよくあらひ塩(しほ)をおとし一所に壺(つぼ)に入 れ口をよく封(ふう)じ五十日或は百日/土中(どちう)に埋(うづ)め 置(おき)て後とり出すに梅(むめ)の香(か)よくまはりて 風味(ふうみ)よろし痰(たん)を治(ぢ)し気血(きけつ)をめぐらし 腎水(じんすゐ)をまし疝気(せんき)を癒(いや)す  ○湯香煎(ゆがうせん)の方 一 飯(めし)のこげ《割書:おこして炭火の上にてよくあぶり裏表むら|なくあぶりたるを薬研(やげん)にておろして粉にす》  白胡麻(しろごま)《割書:ざつといり|粉にする》 山椒(さんせう)の粉 右/湯(ゆ)つぎに湯(ゆ)をつぎ合せて用ゆ又/白湯(さゆ)にも入る  ○胎内(たいない)の子/男女(なんによ)を知る法 一 懐妊(くわいにん)したる婦人(ふじん)の南(みなみ)へ向てゆく時/後(うしろ)より 【枠外丁数】卅八 【右丁頭書】 【星四結ぶ(みつかけぼし)の図】軫(しん) 《割書:水に属す|右七宿南方に在》 軫(しん)の四星(しせい)明かなれば天下(てんか)さかんにて 万民(ばんみん)易(やす)く四海(しかい)王化(わうくわ)に帰(き)し康寧(かうねい) なりと云 ○巨福(こふく)宿といふ上棟(むねあげ)厩造(むまやづくり)橋掛(はしか)け 井堀(ゐほり)嫁娶(よめどり)社参(しやさん)隠居(いんきよ)はじめ入学(にふがく) 衣服(いふく)をたつによし急(きふ)のことに用(もち) ひてよし北(きた)に向(むか)ひてゆくはわろし ○此星(このほし)にあたりて生るゝ人は福有(ふくいう) なり老(おい)てます〳〵仕合(しあはせ)よし 紙細工(かみさいく)の仕(し)やう ○屏風(べうぶ)の張(はり)やう 先(まづ)釘(くぎ)をしめて継紙(つぎがみ)にてはる 四隅(よすみ)には初(はじめ)に板(いた)を入るかまたは 【左丁頭書】 水ばりをすべし張(はり)をはりて 水をうつべし次(つぎ)にみのをかくる 骨(ほね)ごとに粘(のり)をつくべし次にみ のおさへをして端(はし)をたちきり 蝶(てう)つがひをすべし板(いた)を間(あひだ)に はさむなり厚(あつ)さ一分 余(よ)蝶(てう)つ がひの紙(かみ)はあつき一重(ひとへ)よしその 上を合せ紙(がみ)にてはる是をくるみ をかくるといふはりて切(きり)次(つぎ)に浮(うけ) ばりをする耳(みゝ)ばかりにのりを つけ骨(ほね)にはつけずうけばりの 上に表張(うはばり)をすべし下の一段を はりて屏風(べうふ)をさかさまに立 てはるなり後(のち)に上をはるこれ にて裏表(うらおもて)六へんなり裏(うら)はうけ ばりの上一二へんはりて粉地(ふんぢ)を すべし 【右丁本文】 呼(よび)かくるに左(ひだり)より見かへるは男子(なんし)右(みぎ)より見かへる は女子(によし)と知るべし又/婦人(ふじん)厠(かはや)へゆく時/夫(をつと)後(うしろ)より よびかくるに見かへる時右のごとく左右(さいう)を以(もつ)て 男女(なんによ)を知(し)る又/乳房(ちぶさ)にかたまりあるに左にある は男子(なんし)右にあるは女子(によし)とする也/尤(もつとも)秘事(ひじ)也 【挿絵】 【左丁本文】  ○子(こ)をまうくる法 一 婦人(ふじん)経水(けいすい)たえて後(のち)一日三日五日めに 夜半(やはん)の後やどるを男(をとこ)とすかならず命(いのち)長(なか)く して智(ち)さとく経水(けいすゐ)の後二日四日六日めに やとるを女とす六日を過てはやどらぬ也  ○煤(すゝ)をとく法 一 すゝをとくには水に酒(さけ)をさしとけば能(よく) まじる也又/茶(ちや)にてとくもよし  ○蛇(へび)のまとひたるをおとす法 一 尾(を)のさき弍寸上を小刀(こがたな)か瀬戸物(せともの)の破(われ)にて 切さき疵口(きずぐち)へ胡椒(こしやう)を入るべし忽(たちまち)とける也  ○寒中(かんちう)さむからざる法 一 雄黄(をわう) 赤石脂(しやくせきじ) 丹(たん) 乾姜(かんきよう) 松香(しようかう) 【枠外丁数】卅九 【右丁頭書】 ○粉地(ふんぢ)の方 胡粉(ごふん)《割書:百目|》墨《割書:一匁|》 《割書:五分|》右 細末(さいまつ)にし水にてねり粘(のり) をくはへて引べし次に海蘿(ふのり)に 墨(すみ)を加(くは)へてかたをおくべし ○蝶(てう)つがひ寸法 五尺(ごしやく)の屏風(へうぶ) ならば上下を五寸にして中(なか)を 四ッにわるおよそ六 尾(つがひ)なり大 小によりて又/異(こと)なり ○縁(へり)つけやう 竪縁(たてべり)を付て 横(よこ)を端(はし)まで通(とほ)すなりまた 切合(きりあはせ)にしたるもよし ○縁(へり)寸法 高さ五六尺の 時は縁(へり)のひろさ一寸七八分 但(たゝ)し 子縁(こべり)ともなり子縁(こへり)は二分半三 分までなり高(たか)さ三四尺には 縁一寸四五分 横(よこ)三尺高さ八 九尺の時は二寸七八分なり 【左丁頭書】 ○屏風(べうぶ)押絵(おしゑ) 先(まづ)上下を定(さだ)む るには押絵(おしゑ)の紙(かみ)を屏風(べうぶ)の一 間(ま) 縁(ふち)より内にて一方によせて 余(あま)る所を三ッにわりて上二ッ 下一ッと定(さだ)む但(たゞし)上の十分一を 下に加(くは)ふべし横(よこ)の寸法は脇(わき)によ せてあまる所を三ッにわりて 上二ッ下一右ッと定(さだ)む但上の十分 一を下に加ふべし横(よこ)の寸法は脇(わき)に よせてあまる所を二ッにし左右 にもちゆ又 両(りやう)の端(はし)の一 枚(まい)は入おぜ の方を他(た)と同寸(どうすん)にして竪縁(たてべり)の 方を狭(せま)くするなり ○色紙(しきし)短尺(たんざく)絵押(ゑおし)やう 先(まづ)冠(かふり)を定め次(つぎ)に履(くつ)をさだむ 左右を見合(みあは)せておす也これを 角(かく)といふ四方(しはう)の角(すみ)を定むると 【右丁本文】 右/五味(ごみ)等分(とうぶん)に細末(さいまつ)して桐(きり)の子(み)の大さに丸じ 毎日(まいにち)十/粒(りう)ヅヽ酒にて飲(のむ)べし尤(もつとも)十日ほどの間 服(ふく)すれは身(み)あかくなるなりそれより煖(あたゝ)かに なりて雪(ゆき)の中を裸(はだか)にてゆくにも寒き事なし  ○夏(なつ)綿入(わたいれ)を着(き)て暑(あつ)からぬ法 一 雌黄(しわう) 白石脂(はくせきじ)《割書:二味水|飛して》 丹(たん) 礠石(じしやく) 白松香(はくしようこう) 各(おの〳〵)等分(とうぶん)人の乳(ち)と蜜(みつ)とにて桐子(きりのみ)の大さに 丸じ毎日(まいにち)十/粒(りう)ヅヽ服(ふく)すれば十日が間に身(み) ひやゝかになり炎天(えんてん)に綿入(わたいれ)二ッ三ッ着(ちやく)しても 暑(あつ)きことなし  ○泥鰌(どぢやう)を袋(ふくろ)に入て一日/死(しな)ざる法 一 とぢやうを布(ぬの)につゝみ白豆(しろまめ)四五/粒(りう)と一所(いつしよ)に 入て水ををり〳〵沃(そゝ)げば六七/里(り)ほどの道(みち)を行(ゆく) 【左丁本文】 【挿絵】 にも死(し)することなし  ○水に溺(おぼ)たる人を抱(いだ)き上る法  一 水におぼれたる人を救(すく)ふ時/前(まへ)より抱(いだ)くべ からず抓(つか)みいくときは二人/共(とも)に沈(しづ)みはつべし 後(うしろ)より抱(いだ)きてすくふべし 【枠外丁数】四十 【右丁頭書】 いふことなり又二ッならべて押(おす)を 重(ちやう)といふ四ッ六ッ等も同じまた 三五七は半(はん)といへども一ッは押(おさ)ず 色紙(しきし)短尺(たんざく)におしゑ等を押交(おしまぜ) るも同じ上下 左右(さいう)の寸法を定 めて四隅(よすみ)よりおしはじめて中は いかやうにもすべし四時(しゞ)の歌(うた)の こゝろえ御製(ぎよせい)の歌絵(うたゑ)も真草(しんさう)の 心得あり墨絵(すみゑ)は上 位(ゐ)に押(おす)べし 二ッ三ッならべ押(おし)たる間の寸(すん)を極(きは) めて違(たが)はぬやうにすべしその 寸の半分(はんふん)を用ひて付札(つけふだ)と 色紙(しきし)との間の寸に定むべし 上下の寸法は上の寸の半分(はんぶん)を履(くつ) の寸とし上の十分一を加(くは)ふべし ○表具(へうぐ)の仕やう 表具(へうぐ)す べきものから打したるは水を引 【左丁頭書】 【挿絵・屏風の骨を作っている】 てのし張(はり)にかけ置 絵(ゑ)の裏(うら)に 水をつけ下地(したぢ)の裏紙(うらがみ)をさりて 摺紙(すりがみ)を用ひて腐粘(くされのり)にてうら 打し絵(ゑ)の表(おもて)を外にして假張(かりばり) につけおきはなして矩よく切(きり) 一 文字(もんじ)をつけ中縁(ちうべり)又上下を つけ軸挟(ぢくはさみ)の紙(かみ)をつけすらぬ 紙にて裏(うら)を打をはりて中縁(ちうべり) 【右丁本文】  ○水(みづ)のかはりに中(あた)らぬ方 一 焼塩(やきしほ)に田螺(たにし)の殻(から)をいれて飲(のめ)ばあたる事なし 又/道(みち)の間(あひだ)にて所々(ところ〴〵)水を一口(ひとくち)づゝのみてゆけば あたる事なし試(こゝろ)みたる法なり  ○水の至極(しごく)よきを知る法 一 至極(しごく)の清水(せいすゐ)は一合(いちがふ)のかけ目(め)三十匁ありこれ 上々の清水(しみず)也と知るべし  ○織物(おりもの)の金(き)の真偽(しんぎ)を知る法 一 織物(おりもの)の金(きん)の見分(みわけ)がたきは人の肌(はだ)へあて暫(しばら)く あたゝめてみるべし本金(ほんきん)は色(いろ)変(かは)ることなし 真鍮箔(しんちうはく)は色(いろ)かはる也その変(かは)りたるを元(もと)の如く 色(いろ)をもどすには雪隠(せついん)の内へ持行(もちゆき)しばらく釣(つ)り おけばもとのごとく色(いろ)出(いづ)るなり 【左丁本文】  ○生花(いけばな)を久(ひさ)しく持(もた)せ花/早(はや)く開(ひら)く法 一 梅桜(むめさくら)の類(るい)何にても生(いけ)んとする時/硫黄(いわう) を壱匁/花筒(はないけ)の底(そこ)にいれ置/熱(あつ)き湯(ゆ)を 入れてさせば萼(つぼみ)こと〴〵く開(ひら)き花の色 栄(さか)えて久しく持(たも)つこと妙なりまた 牡丹(ぼたん)芍薬(しやくやく)の類は口の小き花筒(はないけ)に湯(ゆ)を いれて花をいけ花筒(はないけ)の口をふさぎ おけば三五日もしぼまず見るなり  ○花筒(はないけ)の水/凍(こほ)らざる法 一 右のごとく硫黄(いわう)をいれおけばいかなる 寒気(かんき)にも水こほることなし又/蜜(みつ)を 水のかはりに入(いる)れば氷(こほ)らすして花(はな)久し くたもち蜜(みつ)も損(そん)ずる事なし 【枠外丁数】四十一 【右丁頭書】 の通(とほり)よりうらの方へ引かへし風(ふう) 帯(たい)をつけ乾(かわか)し置又 裏(うら)よりう すく水を引 板(いた)の上にてしはなき やうにかわきたる刷毛(はけ)にてよく なで四方(しはう)にのりをつけ假張(かりばり)に かけ四五日を経(へ)てはなして両 端をたちきり鬼薏苡(おにづすだま)【注】にて うらをすり後に軸(ぢく)と標木(ひやうもく)を つけて金具(かなぐ)をうち緒(を)を付る きぬ表具(へうぐ)の時は両端(りやうはし)を折返(をりかへ)し て後 惣裏(さううら)をうつなり◦さげ 風袋(ふうたい)は一 文字(もんじ)と同色(どうしよく)なり 付風袋(つけふうたい)は中縁(ちうへり)と同色なり ○腐粘(くされのり)のつくり様 冬月 雪(ゆき)を取て水とし醤麩(しやうふ)をねり 壷(つぼ)にいれ土中(どちう)に半(なかば)うつみて 日用とす数年(すねん)を経(へ)てもよし 【左丁頭書】 腐(くさ)れ過(すぎ)てつかずは新らしき 粘(のり)を加(くは)ふべし大幅物(たいふくもの)には粘(のり)つ よく小幅(せうふく)にはうすくすべし急(きふ) 用(よう)には麹室(かうじむろ)にいるゝなり ○軸物(ちくもの)巻切(まききり)の方 先(まづ)軸(ぢく)をそぎ切(きり)にして置 奥(おく) の紙の終(をは)る所を矩(かね)の手(て)をよく あはせ折(をり)て折目(をりめ)に粘(のり)をつけて 軸(ぢく)にまきて別(べつ)にもとゆひ紙(かみ)の やうに小く切たる紙(かみ)を以(もつ)て小口(こくち) を堅(かた)く巻付(まきつけ)て軸(ちく)を一方(いつはう)ばかり さし入て口より一分ばかり内 に押(おし)いれて此 軸(ぢく)の小口を目当(めあて) にして切る也又 一方(いつはう)もかくのご とくして何もなき方より軸木(ぢくき) をつき出(だ)し引ぬきてこれに粘(のり) をつけさし入るなり 【右丁本文】  ○井水(ゐのみづ)の濁(にご)るを清(すま)す法 一 雨など降(ふり)て井(ゐど)の水にごりたる時は 大豆(まめ)五十/粒(つぶ)杏仁(きやうにん)五十すりつぶして井の 水へ入るべし早速(さつそく)水すむなり  ○汲(くみ)おきたる水を澄(すま)す法 一 瓶(かめ)に汲(くみ)たる水の濁(にご)れるをすますには 生姜(しやうが)を三ッ四ッ沈(しづ)めおくべしすみやかに 水すむこと妙なり  ○湯茶(ゆちや)なくして渇(かわき)を留(とむ)る法 一 白砂糖(しろざたう)《割書:四十匁|》白伏苓(はくぶくりやう)《割書:三十匁|》薄荷(はくか)《割書:四十匁|》   甘草(かんざう)《割書:十匁|》  右/粉(こ)にして棗(なつめ)の大さほどに丸(ぐわん)しおきて貯(たくは) へもつべし一丸(いちぐわん)ヅヽ口中(こうちう)にふくめば数里(すうり)の 【左丁本文】  道を急(いそ)ぎゆきても渇(かわ)く事なし  ○炎暑(あつさ)の時/煮(に)たる物を貯(たくはふ)る法 一 口(くち)の広(ひろ)き瓶(かめ)の類(るい)にわら灰(ばひ)を底(そこ)にしき 煮(に)たる物を椀(わん)の類にいれたるまゝその上に おき瓶(かめ)の口を小(ちいさ)き布団(ふとん)の類(るい)にて葢(おほ)ひ その上に瓦(かはら)を壓(おもし)にして風(かぜ)のあたらぬやう 【挿絵】 【枠外丁数】四十二 【注 鬼数珠玉、ヨクイニン、ハトムギ】 【右丁頭書】 ○唐紙(たうし)裏打(うらうち)の方 うらをうつべき紙(かみ)を羽重(はがさね)にして 浮石(かるいし)にて紙(かみ)のはしをすり切り くひさき紙(かみ)のごとくすべし四方(しはう) ともにかくのごとくして粉麩(しやうふ)の 粘(のり)にてつぎて巻(ま)き置(おき)さて唐(たう) 紙(し)うらより水を少(すこ)しはけにて しめし巻(まき)おくべし又つぎたる 紙(かみ)を唐紙(たうし)の横(よこ)の巾(はゞ)にくらべて 本紙(ほんし)より少し広(ひろ)く切ておき其 後/板(いた)の上に唐紙(たうし)をおき表(おもて)を下 にして刷毛(はけ)にて皺(しは)なきやうに なでつけさてばしめ【はじめヵ】切置たる紙(かみ) を取て表を下になし唐紙(たうし)の 裏(うら)にあてさて裏紙(うらかみ)の余(あま)りたる 所を一方/板(いた)に粘(のり)を引てつけおき 粘(のり)をつけたる所は二重(にぢう)にまがらせ 【左丁頭書】 板(いた)の脇(わき)へ引かへしさてうら紙(かみ)の おもてに粘(のり)を引て上下の角(かど) をば両(りやう)の手にてとり初(はじめ)のごとく 唐紙(たうし)の上にかぶせかけて上より 水刷毛(みづはけ)にてなでつくるなり此 引かへす時大事なり手しきめば しはになるによりずいふん手心 をやはらかに引かくべしさて仕廻(しまひ) たる所はまきよせて又その次も 始(はじめ)のごとく次第(しだい)に打よせすでに をはりて他(た)の所(ところ)へかけて乾(かわ)かし おくなりその後(のち)にかはぢをして 日用(にちよう)に備(そな)ふる也 ○膠水(にかはみづ)の法  黄膠(すきにかは)《割書:十匁|》 明礬(みやうばん)《割書:五匁|》水《割書:一升|》はじめ膠(にかは)を 水にいれてほとばかしやはらかに なりたる時/器物(いれもの)の中へ熱湯(にえゆ)を 【右丁本文】 にして置(おく)べしいかなる暑中(しよちう)にても二三日 は腐(くさ)ることなしさて取出(とりいだ)し用る時/兼(かね)て 鍋(なべ)を焼(やき)あつくしおきてそのまゝ入て煮(に)る なり若(もし)瓶(かめ)より鍋(なべ)へ入るゝ時/間(あひだ)あれば忽(たちま)ち 味(あぢは)ひ損(そん)ずる也  ○急用酢(きふようす)の法 一 烏梅(うばい)一合を上々の酢(す)五合に浸(ひた)しおき 梅(むめ)に酢(す)を吸(すひ)こみて酢の尽(つき)たる時よく 乾(かわか)して粉にしたくはへおくべし用ゆる時 この粉(こ)を水に入れば上々の酢(す)となる也  ○果物(くだもの)を久しく貯(たくはふ)る法 一 梨(なし)柚(ゆ)蜜柑(みかん)の類(るい)いづれも上々の疵(きず)なき 物を択(えら)み湿気(しつけ)なき床(ゆか)の下(した)を掘(ほり)摺米粃(すりぬか) 【左丁本文】 を厚(あつ)くしき其上(そのうへ)に梨(なし)柚(ゆ)の類をすれ合(あは) ざるやうにおき上に藁(わら)のはかまをあつく 一遍(いつへん)に敷(しき)べしいかほどにても如此(かくのごとく)段々(だん〳〵)にならべ て風のあたらぬやうに木(き)の蓋(ふた)をして おけば久しくしても色(いろ)かはらず風味(ふうみ)もよ きなり又/枇杷(びは)林檎(りんご)楊梅(やまもゝ)の類(るい)は寒水(かんのみづ)に 薄荷(はくか)一握(ひとにぎり)明礬(みやうばん)少し加(くは)へ入れて壺(つぼ)の中に 漬置(つけおく)べし久しく保(たも)ち味(あぢ)もかはらず又 西瓜(すいくわ)南瓜(ぼうぶら)【左ルビ タウナス】の類は高(たか)き処に釣(つり)ておくべし 久しくして損(そん)ぜず南瓜(ぼうぶら)は竈(かまど)の上などに 釣(つり)おけば来年(らいねん)二三月の比(ころ)まで少しもそん ぜぬ事妙なりまた橙(かうじ)蜜柑(みかん)などは菉豆(ぶんどう) の中にすれ合(あは)ぬやうにして入れおくべし 【枠外丁数】四十三 【右丁頭書】 いれて手(て)をとゞめずかきまぜ 膠(にかは)のとけたる時みやうばんの粉を いれてかきまぜひやして後(のち)刷(は) 毛(け)にて唐紙(たうし)に引べしぬれたる 時そのまゝ裏(うら)の耳(みゝ)にのりを付 假張(かりばり)にはり付中に風を吹(ふき)入 たるもよし○唐紙(たうし)一/枚(まい)に水 【挿絵・唐紙の裏打ち作業ヵ】 【左丁頭書】 一/合(がふ)のつもり紙(かみ)おほくは七/勺(しやく)屏(べう) 風(ぶ)には五/勺(しやく)にてよし絹地(きぬぢ)には水を 三/倍(ばい)にしてよし ○假張(かりばり)の方  膠地(にかはぢ)をしたる 唐紙(たうし)の表(おもて)に水を引てかへして 裏(うら)のまわりに粘(のり)をつけ又その 真中(まんなか)に水を引て両手(りやうて)にてお こしかりばりに押(おし)つけ水はけに てなでつけはるなり但(たゞし)紙(かみ)を 少し切て裏紙(うらかみ)の終(をはり)のた【左ヵ】の竪(たて)の 端(はし)につけ置てへぐ時にこれ より箆(へら)をいるゝなり張(はり)て後に はり切(きる)る事あり心をつくべし ○煤(すゝ)のぬきやう  蕎麦稭(そばがら)を せんじその汁をさましおき表(へう) 具(ぐ)をとりて板(いた)の上にひろげ置 その上に又/外(ほか)の紙(かみ)をへだてゝはけ 【右丁本文】 又/瓜(うり)茄子(なすび)は一度(ひとたび)干(ほ)し染物(そめもの)屋の淋退灰(あくのたれかす)に 埋(うづ)みおくべし用る時/米泔水(しろみづ)に漬(ひた)せば生(なま)の ことくなりて味(あぢ)かはらず  ○西瓜(すいくわ)甜瓜(まくはうり)を水なくして冷(ひや)す法  一 西瓜(すいくわ)甜瓜(まくわ)ともに指(ゆび)の爪(つめ)にて処々(ところ〴〵)掻破(かきやふ)り 日中(につちう)に日(ひ)にあてあつくなりたる時/陰(かげ)処に取(とり) 入(い)れ能々(よく〳〵)さまして喰(く)ふべし冷(ひやゝ)かなる事 氷(こほり)のごとし  ○瓜(うり)茄子(なすび)の粕漬(かすづけ)青(あを)くして貯(たくはふ)る法 一 瓜(うり)茄子(なすび)のかけめ壱貫目に塩(しほ)五百匁/粕(かす)に 入れてかきまぜ銭(ぜに)五十文をならべたる上に 右の粕(かす)を入れ瓜(うり)茄子(なすび)を入れ又其うへに 銭(ぜに)五十文ならべかくの如(ごと)くして十日/過(すぎ)て銭を  【左丁本文】 取出し粕(かす)を替(かへ)て別(べつ)の壺(つぼ)にいれ貯(たくは)ふべし 久しくおきても青(あを)きこと浅漬(あさづけ)のごとし また茄子(なすび)は浅漬(あさづけ)にても塩(しほ)強(つよ)ければ赤(あか)くなり 易(やす)きもの也其時は水を塩(しほ)に合(あは)せいれて銭(ぜに) を入置べし青(あを)き事妙なり但(たゞ)し銭は鍋(なべ) がねの銭(ぜに)をば入まじきなり  ○茶(ちや)を久しく貯(たくはふ)る法 一 茶壺(ちやつぼ)の底(そこ)にわら灰(ばひ)を敷(しき)茶を紙(かみ)に包(つゝ) みて灰(はひ)の上に詰(つ)め壺(つぼ)の葢(ふた)をよく〳〵封(ふう)じ たくはふべし茶の湿気(しつけ)自然(しぜん)に灰(はひ)にうつり て炒(いる)ことなけれども味(あぢ)尤(もつとも)よし或(あるは)は灰(はひ)の 代(かはり)に炭粉(すみのこ)をしくもよし  ○蜜漬(みつづけ)の菓子(くわし)の味(あぢ)を直(なほ)す法 【枠外丁数】四十四 【右丁頭書】 にてぱつ〳〵と五六/度(ど)かけて 乾(かわか)し置べし煤(すゝ)ぬくるなり ○書画(しよぐわ)の破(やぶれ)をつくろふ法 板(いた)の上に別(べつ)の紙(かみ)を本紙(ほんし)より巾(はゞ) を広(ひろ)くして置水を引てよく 板(いた)になでつけその上に本紙(ほんし)を表(おもて) を下にしてのせ又はけにて水を 引よくしはなきやうになでつけ うら打あらばよくしめりたる 時/裏打(うらうち)の紙(かみ)を静(しづか)に取さり 本紙(ほんし)のやぶれかけたる所を類紙(るいし) に粘(のり)をつけてつくろひ折目(をりめ) あらば紙(かみ)をほそくたちて粘(のり)を つけてあつべしこれをかすがひ といふさて新にうら打して乾(かわか) しおき乾(かわ)きたる時/板(いた)の上にのせ 裏(うら)にはけにて水を引しめり 【左丁頭書】 わたりたる時しはなきやうになで つけ四方(しはう)のはしに粘(のり)をつけ假張(かりばり) にはり付/乾(かわか)すべし ○渋紙(しぶかみ)の仕(し)やう 上と下とは全紙(ぜんし)を用ゆこれを 先(まづ)えらびつぎ又中に用る紙(かみ)は半(はん) 切にてもよし長くつぎて巻(まき)おく べしさて生渋(きしぶ)に焼(やき)ふのりを加(くは) へ水を少し入て用ゆうすき渋(しぶ) には水をくはへず作る時は板敷(いたじき) の上に四方に紙(かみ)よりをはり四所(よところ) に釘(くぎ)を打て先(まづ)水(みづ)を板(いた)にひき 全紙(ぜんし)をひろげつぎめにしぶ粘(のり) をひきてつぎひろげ紙(かみ)よりの 上より外へ二寸あまり出し扨(さて) 二へんめは其上におくべき紙(かみ)の巾(はゞ) ほどしぶを引つぎ紙(かみ)をかたはし 【右丁本文】 【挿絵】 一 蜜漬(みつづけ)の菓子(くわし)味(あぢ)わろくなりたるは壺(つぼ)にいれ たるまゝ湿(しめ)りたる砂の中に埋(うづ)みおくべし 味(あぢは)ひ奇妙(きめう)になほるなり秘法なり  ○破(わら)ずして鶏卵(たまご)の善悪(よしあし)を知る法 一 手桶(てをけ)に水をいれたる中に卵(たまご)をうかめて 【左丁本文】 試(こゝろ)むべし中の損(そん)じたるは浮(う)き全(まつた)きは沈(しづ)む なり是(これ)速妙(そくめう)の法なり  ○汗臭(あせくさ)きを去る匂(にほ)ひ袋(ぶくろ) 一 丁香(てうかう)《割書:一両|》 一 山椒(さんしやう)《割書:六十粒|》 右二味きざみ絹(きぬ)の袋(ふくろ)に入れて懐中(くわいちう)すべし 汗臭(あせくさ)き香(か)をさる奇方(きはう)なり  ○闇夜(やみよ)に五町/四方(しはう)の人足(ひとあし)をきく法 一 これは匍匐(はらば)ひて耳(みゝ)を地(ち)に附(つけ)よく〳〵 心を静(しづ)めてきくなり五町/四方(しはう)の人足(ひとあし)は かならず響(ひゞ)くもの也/昔(むかし)上手(じやうず)の忍(しの)びの者(もの) の伝(でん)なり疑(うたが)ふべからず  ○早糊(はやのり)の法 一はぜ《割書:籾(もみ)の炒(いり)|たるを云》少しあぶりて粉(こ)となし紙袋(かみぶくろ) 【枠外丁数】四十五 【右丁頭書】 【挿絵】 よりひろげ刷毛(はけ)を用ひてその 上にしぶを引ずして能々(よく〳〵)すり つけ白(しろ)き所とふくれとのなき様 にとくとおもひ合ふ時また次(つぎ)に うつる摺(すり)つけやう何べんにても同 じくよく〳〵すりつけてよし 三べん四へんも同前(どうぜん)也 紙(かう)よりの 外へも内と同じくしぶを引(ひき)て右 【左丁頭書】 のごとくに合せ四へんめ右の如く して紙捻(かうより)より外四 枚(まい)よく思ひ あひたるを其上に渋(しぶ)をひきて 紙(かう)よりを下より上にあげて紙(かう) よりの外を内に返(かへ)して能(よく)すり つけさて又 紙(かみ)を上に一へんはり 付る事右のごとくして是(これ)も 端(はし)を少しあまし釘(くぎ)をぬき 惣(そう)やう打返(うちかへ)して端(はし)のあまり たる紙(かみ)に渋(しぶ)を引 表(おもて)に返(かへ)して よくすりつけ惣(そう)やうの上に古(ふる)き しぶ紙(かみ)をひろげよく踏(ふみ)つけて 後日にほすべし乾(かわ)きて後(のち)又 薄(うす) しぶ二三べん引て毎度(まいど)ほすべし 勿論(もちろん)表裏(おもてうら)一度(いちど)にひくべからず 先(まづ)表(おもて)をほして後かわきて裏(うら)に ひくべし 【右丁本文】 に入おきて懐中(くわいちう)すべし用(よう)の時水にてとけば すぐに糊(のり)となる也又しやうふ糊(のり)を乾(ほ)して 粉(こ)となしおくもよし  ○箱(はこ)の類(るい)見事に色(いろ)付(つく)る方 一 鉄漿(おはぐろ)と石灰(いしばひ)とよきほどに見合せあはせ むらなく箱(はこ)に引(ひき)よく干(ほし)て後すり落(おと)し 油をつけて紙にてすれば光沢(つや)出て尤(もつとも) 見事になるなり  ○黒柿(くろがき)のこしらへやう 一 常(つね)の柿木(かきのき)を生木(なまき)の時/潺湲(せゝなぎ)へ漬(つけ)ておき 久くして引揚(ひきあぐ)れば泥(どろ)の色(いろ)しみて黒柿(くろがき) となるなり  ○屋上(やね)に毛虫(けむし)のわくを除(のぞ)く法 【左丁本文】 一 屋根(やね)うらに毛虫(けむし)多(おほ)くわくを除(のぞ)くには 荒海布(あらめ)を煎(せん)じ其/汁(しる)を藁箒(わらばうき)につけて やねうらをはくべし虫(むし)悉(こと〴〵)く死(し)しておち跡(あと) に再(ふたゝ)びわかぬり又/鱣(うなぎ)をやく煙(けふり)をあつ れば毛虫(けむし)皆(みな)死(し)して落(おつ)るなり  ○湯風呂(ゆぶろ)水船(みづふね)等のもるを止(とむ)る法 一 酒(さけ)の糟(かす)を入れたる香物(かうのもの)の漬(つけ)がらいか にも古(ふる)きに銑屑(せんくず)をねりまぜしくひにかふ べし能(よく)干(ほし)て後水を入れば永代(えいたい)もらず  ○紙(かみ)を継(つぎ)で永代/離(はな)れぬ法 一 曼朱沙華(まんしゆしやけ)《割書:俗にしびと花又|きつね花ともいふ》の根(ね)をすりつぶし これにて紙(かみ)をつげばいかやうにしてもはなるゝ 事なし奇妙(きめう)なり 【枠外丁数】四十六 【右丁頭書】 ○焼海蘿(やきふのり)の法 ふのりを水に入れ塵(ちり)を去(さり)て 一所にかため焼飯(やきめし)のごとくにぎり 堅(かた)めて紙(かみ)にてつゝみ熱灰(あつばひ)の下 に入て上より火をたきよき時(じ) 分(ぶん)に取出し雷盆(すりばち)にて能(よく)すり 生渋(きしぶ)をまぜてすり合(あは)せ葛籠(つゞら) などを張(は)るにわらびのりよりは つよし又しぶ紙(かみ)に用ひてよし 但(たゞ)しよくさめて渋(しぶ)を入べしあつ き時入れば渋(しぶ)よわし ○合羽(かつは)の法 えごの油(あぶら)一升 唐蝋(たうらう)十五匁 たうの土(つち)二十匁もし 青(あを)くするには青黛(せいたい)八匁或は十匁 もし黒(くろ)くせば灰墨(はひずみ)十匁まづ 蝋(らう)を鍋(なべ)にいれ火をもつて暖(あたゝ)め よくとけたる時えごのあぶらを 【左丁頭書】 入る油(あぶら)入てひゆる故に蝋(らう)かたく なるを火にていよ〳〵あたゝめよく とけたる時 唐(たう)の土 青黛(せいたい)などを いれかきませてかたまりなく なりてよき時に今少(いますこ)しおきて 早く揚(あげ)煖(あたゝ)かなる内に早く引べし さて引たびごとにあたゝめて引 刷毛(はけ)のぬけるを去(さり)てまづ表(おもて) より一とほり引日に少(すこ)しほして 又 陰干(かげぼし)にし裏(うら)を一とほり引て 又右のごとくほし又 表(おもて)をひきむ らをなほすべし布(ぬの)は縫合(ぬひあは)せて よくはりて引べし久しく日 にほすべからす暫(しばら)くほしてよし 荏油(えのあぶら)一升にて合羽(かつは)三ッほど引 るゝなり 又方えのあぶら一升 唐土(たうのつち)五十匁 【右丁本文】  ○膠(にかは)つぎの物/永代(えいたい)はなれぬ法 一 藜藘(おもと)【藜蘆】の根(ね)を黒焼(くろやき)にして膠(にかは)をねるとき よきほどに加(くは)へ煉(ねり)合せ何にてもつぐへし  ○鉄針(てつはり)のさびざる方 一 杉(すぎ)の木の炭(すみ)を粉(こ)にしてその中へ入置べし 又/桃(もゝ)の核(さね)を焼(やき)て粉にしたるもよし 【挿絵】 【左丁本文】  ○鼠(ねずみ)のあれぬ法 一 鼠(ねずみ)を一疋(いつひき)とらへて銅網(かなあみ)の中へいれ食(しよく) 物(もつ)をあたへて飼(かひ)おくべし他(た)の鼠(ねずみ)これを見 て少(すこ)しも荒(あれ)ぬ事妙なり  ○刀(かたな)脇差(わきざし)柄糸(つかいと)の積(つも)りやう 一 其(その)まくべき柄(つか)の長(なが)さ緑(ふち)より柄頭(つかがしら)まで の寸(すん)十二たけあれば相応(さうおう)なりと知るべし それより短(みじか)きは足(たら)ぬなり  ○鏡(かゞみ)の磨(とぎ)やう 一 下地(したぢ)を和(やは)らかなる切藁(きりわら)を以(もつ)てすりおき 砥(と)の粉(こ)にて磨(みが)き塩気(しほけ)なき梅干(むめぼし)にて能(よく) すりてさて錫(すゞ)三分/水銀(みづかね)壱匁/先(まづ)錫(すゞ)を土(かは) 器(らけ)にいれ火の上に置よくとけたる時/水銀(みづかね)を 【枠外丁数】四十七 【右丁頭書】 灰墨(はいずみ)二十匁 白蝋(びやくらう)六匁 蜜陀僧(みつだそう) 六匁 滑石(くわつせき)六匁右 鍋(なへ)にいれ煎(せん)じ たてあたゝかなる内に引なり ○青漆(せいしつ)は青黛(せいたい)壱両半きわ う半両 墨(すみ)をすりて少し入れ きぬにつゝみ豆(まめ)のこにいれふり 出すなり油(あふら)より前(まへ)にひくべし ○あかり障子(しやうじ)をはるには紙(かみ)の たけをよき程(ほど)に切合せたるを おほくつぎて後(のち)その紙に普(あまね)く 水をざつと引まきてしめり合 せ障子(しやうじ)ぼねにのりをひきて 右の紙(かみ)をその上にひろげ一 枚(まい) だけを張(はり)て又 段々(だん〳〵)右の如(ごと)く はるなり障子(しやうじ)をはるには 下に障子(しやうじ)をおきてはるべし ○雨(あめ)のかゝる蝋障子(らうしやうじ)には蝋(らう)を 【左丁頭書】 用(もち)ひずこんにやくのりを引べし 損(そん)じがたくして雨(あめ)をふせぎ色 かはらず ○腰張(こしばり)の仕やうはふのりをう すくこしらへてそろへたるみなと 紙(かみ)によくつけて下よりはる也 左より右へはりて左の方下に なるやうにはり下のつぎめ一所 にならざるやうにすべし ○火鉢(ひばち)など瓦器(ぐわき)を紙にて はるには大豆(だいづ)の煮汁(にしる)のあめの ごとくなるをのりに用ひ紙を もみてはるべしつねの糊(のり)にては はなれやすし ○紙帳(しちやう)を造(つく)る法 紙を二方(にはう) の端(はし)の出るやうに筋(すじ)かひに羽重(はがさね) にして粘をつけ紙帳の広(ひろ)さを 【右丁本文】 入れそのまゝ土器(かはらけ)をとり上てふり合(あは)せ茶(ちや) 碗(わん)に水(みづ)を入れたる中へ錫(すゞ)水銀(みづかね)をうつし入れ さて水をすて錫(すゞ)と水銀(みづかね)をよく〳〵搗(つき)合せ ねれたる時/香箱(かうばこ)などに入置これをもつて とげは光(ひかり)出来りて美(うるは)しくなるなり  ○釘貫(くぎぬき)なくして釘(くぎ)をぬく法 一 釘(くぎ)のかしらを小刀(こがたな)にても何にても持(もち)て 少しおこしかけおき手巾(てぬぐひ)を濡(ぬら)してまとひ 付すなほに引ぬくべし心安くぬける也  ○ちやんの方 一 水中(すいちう)に用る諸具(しよぐ)はちやんを塗(ぬら)ざれば 朽(くち)損(そん)じ或(あるひ)は水もりて用に立(たち)がたし其方  松脂(まつやに)壱升 胡麻油(ごまあぶら)壱合これは固(かた)き物に 【左丁本文】 【挿絵】 ぬるちやん也それよりは油(あぶら)を一合まし二合 ましほどにしてよきほどに煉合(ねりあは)すべし  ○絵絹(ゑぎぬ)に物(もの)書損(かきそん)じたるをぬく法 一 絵絹にものかき損じたる時は大根(だいこん)をおろし て絵(ゑ)また書(しよ)にても書損(かきそん)じたる処を摺(す)るべし こと〴〵く落(おつ)ること妙なり 【枠外丁数】四十八 【右丁頭書】 はかり四方と天井(てんじやう)の紙(かみ)をつぐ べしさて天井の紙を畳(たゝみ)の上 に置 幅(はゞ)をきはめ四角(しかく)に釘(くぎ)をさし 細(ほそ)き苧縄(をなは)を四角(よすみ)の釘にかけて 引はり天井の紙のはしをのり にて苧縄につけさて四方のた れを付るたれの四隅(よすみ)は後につ ぎ合すべし尤(もつとも)すそ広(ひろ)くなる様に 角(すみ)の方に背を入べし ○折本(をりほん)の折やう 先(まづ)紙をつ ぎかたく巻(ま)き継(つぎ)たる粘(のり)を一夜ほ ど乾(かわか)し置て折幅(をりはゞ)三寸にすべし とおもふ時は折形(をりかた)を六寸にして 【挿絵】かくのごとくにし紙の 表(おもて)を下にして折かたの木(き)を当(あて) 折目(をりめ)を付るなり但(たゞし )初(はじめ)に紙(かみ)の下 の方を定木(ぢやうぎ)にてゆがみなきやうに 【左丁頭書】 裁(たち)そろへて継(つぐ)べし折目(をりめ)を付る 時下の方にて揃(そろ)へて折目(をりめ)をつく べし終(おはり)までかくのごとく折目(をりめ)を つけさて折目(をりめ)を口(くち)の方(かた)より右の 手にておさへひろき竹箆(たけへら)にて重(かさ) ねたる小口(こぐち)をたゝきそろへ後(うしろ)の 方を小口をおさへたる手をとり かへ左の手にて折目(をりめ)をつくべし かくのごとく折(をり)をはりて後(うしろ)の 方のをりめに重(かさ)ねながら刷毛(はけ) にて水を引てしめし前(まへ)のかた のをりめを板にあて手ごゝろを 和らかに持て紙(かみ)のゆすりあふ様(やう) に心持(こゝろもち)してたゝき付べし小口 そろひたる時 直(すぐ)なる板(いた)の上にの せ上より直なる板(いた)の類(るい)を置(おき) 押をかけ乾(かわか)しおくべし押(おし)をかく 【右丁本文】  ○どうさせぬ物に墨(すみ)のちらぬ法 一 絹布類(けんふるい)にものかく時は墨ちり又はにじむ物 なり生姜(しやうが)の汁(しる)また糯米(もちごめ)の粉(こ)を入て墨 をすりてかくべし墨ちらず  ○藁筆(わらふで)の製(こしら)へやう 一 新藁(しんわら)のはかまをとりしべをなかく揃(そろ)へ 常(つね)の香物(かうのもの)を漬(つけ)るが如く糠(ぬか)みその中へつけ おき半年(はんねん)ほどへて取出しそのまゝ水を 入てしばらく煮(に)て常(つね)の筆(ふで)のごとく 製(せい)すべし唐毛(たうけ)の筆にかはる事なし  ○青竹(あをだけ)を白(しろ)くする法 一 花生(はないけ)などに作(つく)る青竹を白くするには 荒海布(あらめ)と竹(たけ)と一ッに煎(に)るべし白くなる也 【左丁本文】  ○盆山(ぼんさん)庭石(にはいし)等(とう)の破(われ)たるを継(つぎ)補(おぎな)ふ法 一 漆(うるし)にうどん粉をまぜてつげば継(つが)るゝ物 なれど継目(つぎめ)見えてみぐるしきものなり 蛞蝓(なめくじり)のぬめりにて継(つげ)ば水に入てもはな るゝ事なし又/盆山類(ぼんさんるい)かけて後その欠(かけ) を失(うしな)ふ時は白笈(びやくきう)を細末(さいまつ)にし熱湯(ねつたう)にて ねり合せつぎ補(おぎな)ふべしかたくして後は 石となる也/色(いろ)は見合にて絵(え)の具(ぐ)を和(まぜ)て つくべし  ○磁器類(やきものるい)に穴(あな)を穿(あく)る法 一 磁器(やきもの)に穴(あな)をあくるには極暑(ごくしよ)の時/杉木(すぎのき)に て錐(きり)をこしらへ此/錐(きり)のさきに蛞蝓(なめくじり)をさし 炎天(えんてん)に干(ほせ)ば乾(かわ)きつくもの也此/錐(きり)にて穴を 【枠外丁数】四十九 【右丁頭書】 る時にじりゆがまぬやうにす べし ○唐本(たうほん)に裏打(うらうち)する法 先(まづ)うら打の紙(かみ)を板(いた)の上にひろ け醤麩粘(しやうふのり)をうすくときたるを 一面(いちめん)に刷毛(はけ)にて引その上へ本紙(ほんがみ) を一枚 表(おもて)を上にしてひろげ 真中(まんなか)より乾(かわ)きたる刷毛(はけ)をおろし 両方(りやうはう)へしはなきやうになで付 べし又その上へうら打紙(うちがみ)を重(かさ) ね粘(のり)をひき右のごとく本紙 をひろげてなで付べし二十 枚(まい)も 三十 枚(まい)もかさねて後(のち)一枚づゝ うら打紙の端(はし)をとりて棹(さを)又 はほそ引(びき)を引(ひつ)はりたるにかけ て乾(かわか)すべしよく乾きて後(のち)小口(こぐち) を折て石盤(せきばん)にて打べし 【左丁頭書】 ○唐本(たうほん)はおほく巻末(くわんまつ)に破(やぶ)れ たる紙(かみ)を用るゆゑにやぶれ損(そん)じ てちるものおほし初に海蘿(ふのり)汁 のうすきを以て端(はし)をつけ置 べしすべて唐本(たうほん)をつくらふに はふのりを用ゆべし ○唐紙(たうし)をうつ法 紙(かみ)百 張(ちやう)を 一重(いちぢう)にすべし張(ちやう)ごとにぬれたる 紙(かみ)を一枚上にかさね十一枚づゝ 段々(だん〳〵)にかさねあげ百十張を一 かさねにし直(すぐ)なる板の上に置 又上にも直(すぐ)なる板(いた)をおき石を おもりにおけば一時の間をへて 上下ひとしくしめりあふ時 石盤(せきばん) にてかたはしより念(ねん)を入二三 百ほどうつさて右の内 半分(はんぶん)を 日にほし残(のこ)りたるしめり紙(かみ)と 【右丁本文】 あくれば心(こゝろ)易(やす)くあく也又/鋸(のこきり)小刀(こがたな)の類(るい)を もこしらへ同くなめくじりを干付(ほしつけ)て用(もちゐ)れ ばいかなる磁器(やきもの)にても切るゝなり  ○鉄(てつ)かな物に錆色(さびいろ)をつくる法 一 鉄(てつ)のかなもの鍔類(つばるい)に錆色(さびいろ)をつくるには 栗土(くりつち)をつけて遠火(とほび)にてやくべし如斯(かくのごとく) 三五度すればよきさび色(いろ)になるなり  ○書物(しよもつ)の表紙(へうし)に引(ひく)どうさの方 一 表紙(へうし)或は敷(しき)ぶすま等に引てよきどうさは 葛粉(くづのこ)二合を水一升にてねりて葛糊(くずのり)にし て引べし又方 ところてんを水に入わかしとらかして引(ひく)べし 若(もし)ところてんなき時はかんてんを沸(わか)して引 【左丁本文】 べし絹(きぬ)にひけばつやありて一段よし絵絹(ゑぎぬ) のどうさにもよし  ○摸様紙子(もやうがみこ)の法 一 大高檀紙(おほたかだんし)にて作(つく)るをよしとす其外は 奉書(ほうしよ)西(にし)の内(うち)にてもたけ長(なが)き紙(かみ)よろしそれを 【挿絵】 【枠外丁数】五十 【右丁頭書】 一枚づゝへだてゝ段々(だん〳〵)にかさね上 てうつかくのごとくする事三四度 一 張(ちやう)もねばり付 合(あひ)たる紙(かみ)なき にいたるを度とす再(ふたゝ)び五七張づゝ 取て打かへし石盤(せきばん)にてうち とゝのへその光(つや)滑(なめら)かにして油紙(あぶらがみ) のごとくになりたるをよしとす ○地(ぢ)をしたる紙の皺(しは)を熨(の)す法 地(ぢ)をしたる紙を水ばりにして 干て後 茶筅(ちやせん)にて右のかみに 水をうち幾重(いくへ)にもかさねて おもき壓(おし)をかけておけばしは のびてよろしくなる也 【右丁本文】 継(つぎ)たてゝ摸様(もやう)は心任(こゝろまか)せに絵具(ゑのぐ)にてかくべし 小紋(こもん)はから紙(かみ)の板木(はんぎ)のごとくこしらへ置べし このもやう出来て後/菎蒻(こんにやく)だまの皮(かは)をさり おろし雷盆(すりばち)にてよくすり水見合に入て紙(かみ)に ひき日(ひ)に干(ほし)て後(のち)よく〳〵揉(もむ)べし随分(ずいふん)と つよきもの也/継目(つきめ)の糊(のり)は芋(さといも)を焼(やき)て皮(かは)を去(さり) 押合(おしあは)せて用ゆこんにやく玉もよし又右の 紙(かみ)にて足袋(たび)を造(つく)り或(あるひ)は畳(たゝみ)のへりにも用ゆ つよき事/革(かは)のごとし  ○うら打紙(うちがみ)を水に入(いれ)ずして離(はな)す法 一 米櫃(こめびつ)のうちへ入れ米(こめ)にて能々(よく〳〵)埋(うづ)みおく べし一夜ばかりして取出(とりいだ)しみればよき程(ほど)に しめりてはなるゝ事/妙(めう)なり 【左丁・白紙】 【見返し】 【裏表紙】