春色ねやの望月   下 〽いろはしな川 うき名はたか なわたのしみ あればくるし      み あり といたながし       は いとはねど ひよつとかう いふあさましい すがたをかの 人にみられ     たら あいそがつきる てありませう そればつかりが かなしうござり       升 とまふねの お客やせん どうしゆ なさけこゞろ      が あるならは わたしがまへ       は ふうしのうちへ たのみます 〳〵 〽いく野さんこしの つかひやうはこれで やうごさりませうか なんだかじやニきらて わたくしのこしがふら〳〵 いたしますからどうして よいのかわかり     ません もつと ふかく いれま せうか ねまで いれ たら おせつな からうかと そんじて おもひきつて つかれません 〽どうも   〳〵 まことに   かんしん    〳〵〳〵 よくつて   〳〵〳〵 ほんの おとこに  給ひ   まゝ    とうも これより ほかに いたしやうは ござり ます   まい アゝモウ いゝくらへい もが いたか しねません アゝいゝ〳〵〳〵 「このごろの  はやりものだ  からけんで   やらうさう  マアきゝなせへ 「さては  とぼゝに  いうごとははいるへのこは  みひよごしゆびぬらし  なめくじりでまいりやしよ  なんだかじく〳〵だしかけた  ぼゞさねにへのこがすい  こまれたおとはずぼ〳〵  どですかてんけつから  はめやしやうサアしなせへ  しやん〳〵〳〵しやんトうしろから  ちやうすでまいりマしやう  「そんなこぢつけをいわずとゝち    ほんとうによくきを   やらせてしておくれな    なんだかおかしな   きになつてきたわな  「おめへはおかしなきになつた   はづたおいらアへのこづ木になつた     そつちはきやくとりだと      いわれるからこつちは        きよくどりと          やらかすつもりだ            サアきなせへ             サアきなせへ         なんだかじやんじやらだ 麻吊丸勇 【右絵】 【左】 大液(たいえき)のふようの顔(かんばせ)うるはしく、さては末央(びわう) の柳腰(やなぎごし)、つめびきのどゞいつで、こゝろいきを しらせやうといふとこを、ぐツとひねツて、恋哥(こひか)に て、たけものゝふの心(こゝろ)をあぢにやわら毛(げ)の、うツ すりとしたはりたなべ、尻(しり)いちはやき中(ちう)ど しま、 〽(おふぢ)おまへは《割書:ナニヨ|  ヲ》お見だへ、田舎源氏(いなかげんじ)か、 〽(源)アイこ の本(ほん)も作者(さくしや)がかはツて、おもしろくなかツたが、 こんどの作(さく)は、又(また)せんのやうで、おもしろふござい ますヨ、 〽(ふぢ)おめへそんなものヲ見るより、ほんの源氏(げんじ) を見ればいゝのに、〽(げん)さやうさね、しかしほんのも此(この) 田舎源氏(いなかげんじ)も、モウちつとゝいふ、かんじんのとこをか かねえエから、をしいやうだ、 〽(ふぢ)そうサ、そこでわたしがね、 あふひの巻(まき)の、 紫(むらさき)もかゝねへかのとこを書(かい)たのサ、 おまへによんで聞(きか)せやうか、 紫式部(むらさきしきぶ)がうはてを いくつもりサ、よむからおきゝ、 〽(本文)紫(むらさき)の君(きみ)ねびとゝのひ て、あかぬところなきもゆかしければ」、ト間(あいだ)を とばして、 〽(本分)ひめ君(きみ)は、たゞいきのしたにて、 何(なに)と やらんきゝさすやうに、いらへたまふも、いとはづかしげ なり」、これからがかんじんのとこだゼ、 〽(本分)まだはづかし き初(うひ)ごとなれば、 言葉(ことのは)もかはし給はで、 雛(ひいな)のやう なる、さゝやかなる御手(おんて)にて、 君(きみ)をまとひ給ひて、 ものしたまふに、 男君(をとこぎみ)は、年月(としつき)のつらさもうさも 下(した)ひもニ、ともにとけあふ今夜(こよひ)なれば、さま〴〵と 御手(おんて)のかずつくし給ふに、み心(こゝ)ちもいみじく なりて、しづくもよゝとものし給ふ、うすらかなる おん毛(け)に、しろきものゝつきたる、 春(はる)のわか草(くさ)の もえそめしに、あは雪(ゆき)のすこしふりかゝりたるやう なわんかし」、どうだね、〽(げん)よくできました、わたくしな どは、ここの田舎源氏(いなかげんじ)でなければわかりません、それだ からはやりますことは、田舎源氏(いなかげんじ)のふうの絵(ゑ)さへ出(で)ま すト、よくうれると申しますヨ、〽(ふじ)コウ源(げん)さんなんだカ、源(げん) 氏(じ)のはなしが身(み)にしみたら、のぼせて来(き)た、サア こツちへおよりな〽(げん)アイとはいへど顔(かほ)あかめ、ものを もいはず、 間(ま)のわるそうに、モヂ〳〵と、〽(げん)おまへさん、アノ ごてんにおいでのときは、サゾごふじゆうでござり ましやうねヘ、そのをりはどんなおたのしみがござイ ましたへ、はなしておきかせなさイましナ、うけた まはりましたが、 女(をんな)どうしでも、いゝ事(こと)ができま すでばござイませんカ 人(ひと)の申しますには、ほんのお とこよりもいゝといふことでござイます、トいへば、 〽(ふぢ)おまへマア、そんなことアどうでもいゝじやアねへか、 わたしがするとをりになツておいでヨ、トそばへ引(ひき) よせて、おとこの帯(おび)もわが帯(おび)も、とくより恋(こひ)にこが れつゝ、股(また)ぐらへ手(て)をさし入(い)れ、一物(いちもつ)をにぎツて見 れば、年(とし)のいかぬに似(に)もやらで、ふとくたくましきこと いはんかたなければ、おふぢは思(おもひ)の外(ほか)にえならずよ ろこび、サアトあてがふをりからに、男(おとこ)もいつかこう しやにて、さねがしらのあたりを、そろ〳〵と一物(いちもつ) にてこすりければ、おふぢはよさにたへかねて、もだ へてだきつき、入(い)れておくれといひながら、尻(しり)をもぢ〳〵 もちあげて、物(もの)をもいはでありければ、男(おとこ)もこゝぞ と、ぬツと入(い)れてすぐツと出(だ)し、入(い)れたり出(だ)したりす るほどに、おふぢは久(ひさ)しぶりでのことゝいひ、いよ〳〵ます〳〵 たへかねて、《割書:アヽ|  モウ》どうしやうねヘ、いツそもう、かんしん だト、おやしきの地(ぢ)がねにて、《割書:ヌル〳〵|    ベタ〳〵》出(だ)しかけ て、いくよ〳〵とはかなくもいはざるは、さすが宮(みや) づかへの、むかしわすれぬたしなみよく、 音(おと)なふも のとては、タゞスウ〳〵ト鼻(はな)いきのあらきのみにて、 目(め)をふさぎ、 一(いつ)しんふらんによがりければ、男もつゞ けてきをゆりしまい、 〽(げん)まことにうれしうございます といへば、 〽(ふぢ)わたしもモウどんなにうれしからう、おまへモウ うわきをだして、わたしヲわすれておくれでないヨ、 間(ま)のいゝことアいくらもあるから、その時(とき)アなんにも いはずに、わたしがするとをりになツておいでヨ、《割書:  |モウ〳〵〳〵》 アヽよかツた、いつまでもわすれられねヘト、〇(おもいれ)のとこ ろに、《割書:となりの二階(にかい)にて|  ひくめりやす》〽(もんく)いつまでぐさの、いつまでも、な まなかまみへものおもふ、たとへせかれて、ぼゝふるとて も、」ヲヽそうじや、〽あひみての後(のち)のこゝろにくらぶれば むかしはものをおもはざりけり、アヽなにごとも、 こゝろにまかせぬは、 世(よ)のならひ、またもあひたい したいのも、なんのいんぐわデ、このやうにあらう ぞトいふヲ、 〽(げん)わたしもおなじむねのうちあけて いはれぬものおもひ、ナントいゝふんべつはございま すまいか、 〽(ふぢ)おまへかそういふこゝろなら、モウひと しあんしてみようかと、 立(たち)あがりたがひにみ かはす顔(かほ)と顔(かほ)、      琴(こと)のこゑ六だんのしらべ        テントンツテトツチテトン             チンチテ〳〵ツチトツトン