【表紙】 【見返し】【ラベル】 JAPONAIS 328 【文字無し】 【文字無し】 【文字無し】 【手書き中央】 1076【抹消】 328 【手書き右上】 R.B 1843【以上一括り】 3270 天智天皇(てんぢてんわう) 秋(あき)の田(た)の  かりほの 庵(いほ)の 苫(とま)を    あらみ わが衣手(ころもて)は  露(つゆ)にぬれつゝ 【上段】 鏡(かゞみ)の由来(ゆらひ)の事【四角で囲む】 夫 鏡(かゞみ)のおこりは天地ひらけて 後いさなきの尊(みこと)の御/時(とき)/白 銅鏡(ますみのかゞみ)ありしといふ事ふるき 史(ふみ)にもしるし侍(はへる)といへども正(まさ) しくは天照(てんしやう)太神宮の御 願(ぐわん) をうつしてゐ給ふより始(はじま)る とかやこのかゝみを八咫(やた)の かゞみと申奉る此 宝(たから)の鏡(かゞみ) を見まさん事 吾(われ)を見るが 如(ごとく)く【送り仮名のダブリ】すべしと太神宮の神 勅(ちよく)にまかせ則(すなはち)天照(てんしやう)太神宮 の御 神体(しんたい)とあかめさせ奉り 代々(だい〳〵)の帝(みかと)此 神鏡(しんきやう)と同し 御殿(ごてん)にましませけるが人皇(にんわう) 【下段】  持統天皇(ぢとうてんわう) 春過(はるすき)て夏(なつ)  きにけらし   白妙(しろたへ)の 衣(ころも)ほす    てふ あ  ま の かぐ  山(やま) 柿本人麿(かきのもとのひとまろ) あしびきの  山とりの おの  しだりおの なが〳〵   しよを  ひとりかもねむ 【上段】 十代 崇神(すうじん)天皇の御宇(きよう)に殊(こと) さら神威(しんい)をおそれ給ひて豊 鍬入姫の命(みこと)を附(つけ)奉りて 大和国 磯城(しぎ)といふ所に神(しん) 籬(り)を立て斎(いつき)奉り玉ひぬ 又 内裡(たいり)には神鏡(しんきやう)の御影を うつしてとゝめ給ふ此御神 鏡を内侍所とあがめ奉る 年は村上天皇天 徳(とく)四年 の九月にあたりて内裡(たいり)こと 〳〵く炎(えん)上す是によつて いにしへより伝りし御宝物も 此時おゝく焼失(やけうせ)たり然とも 神鏡は温明殿(おんめうてん)といふ御殿 よりおのづから飛出(とひいて)給ひて 南殿(なんてん)の桜(さくら)の木の上にかゝらせ 【下段】  山辺赤人(やまべのあかひと) 田子(たこ)の浦(うら)に  うちいでゝ みれば 白妙(しろたへ)   の ふじの   たかねに  雪(ゆき)はふりつゝ 猿丸大夫(さるまるだゆふ) 奥山(おくやま)に  もみぢ ふみ  わけ  なく    鹿(しか)の こゑきくときぞ  秋(あき)はかなしき 【上段】 玉ひしかは内侍(ないし)やがて袖(そで)に うけさせ給ふよりしてはじ めて内侍所と崇(あが)め奉る也 されは鏡(かゝみ)は神(かみ)の御 形(かた)ちを うつしたる物なれはすゑ〳〵 の者(もの)まても朝夕 鏡(かゝみ)にむ かふ度(たび) 毎(こと)にわか心の曇(くも)りを あらためてさてみめかたち をつくるべし鏡(かゝみ)はあきらか なる物なれはゐかり有れは いかりのかたちをあらはし かなしみあれはうれいの想(そう) をみする事たかふる事なし しかれはかたちをうつして 心(こころ)をあらたむる事かゞみに むかひておそれつゝしむべし 【下段】 中納言家持(ちうなごんやかもち) 鵲(かささぎ)のわた     せる  はしに をく  霜(しも)の しろきを   みれば 夜(よ)ぞ更(ふけ)にける  阿倍仲麿(あべのなかまろ) あまのはら  ふりさけ みれば  かすが    なる みかさの山(やま)に  いでし月(つき)かも 【上段】 明(あけ)くれみにくき形(かた)ちをあ らたむる物なれはゆめ〳〵 そまつにすべからす円鏡(ゑんきやう)と いゑるは円(まろ)きかゝみなり 柄(ゑ)の付たるをは手鏡(てかゝみ)と いふなり唐土(もろこし)にては黄帝(かうてい) の御時十二 面(めん)の鏡を月〳〵に 用ひ給ひしとかや又 堯(きやう)の帝 臣下(しんか)の尹寿(いんしゆ)といふもの始て 作り出せるよしふるき 文(ふみ)にもしるし侍(はべ)る誠(まこと)に 鏡は我 日(ひ)の本(もと)にして 第一のたからなる事(こと)を しりて女(おんな)はつね〳〵つゝし みにつゝしみをかさねて よく〳〵心得へき事なり 【下段】  喜撰法師(きせんほつし) わが庵(いほ)は  みやこの たつみ しか  ぞすむ よを うち山(やま)と 人(ひと)はいふなり  小野小町(をのゝこまち) 花(はな)の色(いろ)は  うつりに けりな いたづら    に  我身(わがみ) よにふる ながめ  せしまに 【上段】 【四角い囲みの中】 女 諸礼躾方(しよれいしつけかた)并 平(へい) 生(ぜい)たしなみ草(くさ) 〇人のかたち礼儀(れいぎ)を重して たしなむと徒にて嗜と 有り其たかひにすがたに あらはるゝ也 心(こころ)をきよく して身持(みもち)いやしからぬそ よし是第一の心得成るべし 〇人に礼をするを俗に辞義(しき) といふ実(まこと)に敬(うやま)ふか心を持て すへし 〇 盃(さかつき)をいただくより呑(のみ)て帰 すまて左りの手をつき 右のかた手にてすごし肴(さかな)は はなかみのうへにおき後く わい中すへし 【下段】  蝉丸(せみまろ) これやこの   行(ゆく)も かえる  も わかれては しるもしらぬも あふさかの関(せき)  参議篁(さんきたかむら) 和田(わた)の   はら 八(や)  十(そ)   嶋(しま)  かけて こぎ出(で)ぬと 人にはつけよ  あまの釣舟(つりふね) 【上段】 〇膳(ぜん)はめしより喰い(くい)はしめ汁(しる)さい とくふべししるより汁さいより 菜へわたるへからすはしをながく ぬれぬやうに心得てくふへし 〇かよひは皆(みな)こしをのして盆(ぼん) にてかよふべし只めしはかりは 手にていとぞこをつまみ取り もるべしふちをいとふまじき ためなり 〇めんるいはつねのやうにくふべし さして子細(しさい)なし但(たゝ)しそば切も 本式(ほんしき)はしるをかけす素麺と同 しやうにしてくふべし 〇 粽(ちまき)の食(くい)やうさして子細(しさい)なし 女の品(しな)よき処にくふべし惣じて 古実(こじつ)をしりかほにものをくふべ からずけつく見くるしき物也 〇 吸(すい)ものは汁(しる)をすいて後(のち)みを くふべしかへぬもの也 惣(そう)じて 【下段】  僧正遍昭(そうじやうへんぜう) 天津風(あまつかせ)/雲(くも)の  かよひぢ 吹(ふき)  とぢよ 乙女(おとめ)の すがた しばし   とゞめむ  陽成院(やうせいゐん) つくばねの  みねより おつる みなのか川(かは) 恋(こひ)そ  つもりて 淵(ふち)と成(なり)ぬる 【上段】 喰(くい)さしてふたをして置(おく)くは ちそうの料理(りやうり)をたばふ心也 〇まんちうは本めんるい也 本式(ほんしき)は 汁をそゆる物也地下にては くわし同前也二つにわり右を 紙(かみ)の上に置左りよりくふべし 〇 香(かう)をきくは左りの手に居(す)へ 右の手にてそと覆(おほ)ふへし 鼻(はな)へちかくよすべからず手をもつ て匂(にほ)ひをかぐはあしゝ但し 覆(おほ)ふはあらず右をそゆる也 〇 花(はな) を見るもかけ物(もの)を見るも 其まへの畳(たゝみ)のはしより左りの手 をつかへ見るべし床(とこ)まへの畳へ のるべからずみたりにほむべからず 只感(たゞかん)して心にほむる成べし 〇 濃茶(こいちや)勝手(かつて)立ならは上座(しやうさ)の一尺 ほどまへに茶(ちや)わんを置(おき)但しふく さを先(さき)に置ふくさの二寸斗 わきに茶わんを置立べし 【下段】  河原左大臣(かはらのさだいじん) みちのくの  しのぶもぢ ずり  誰(たれ)ゆへに みたれそめ     にし  我(われ)ならなくに 光孝天皇(くはうかうてんわう) 君(きみ)がため 春(はる)の野(の)   に いでゝ  わかなつむ 我衣手(わがこもろて)に  雪(ゆき)はふりつゝ 【上段】 〇こい茶(ちや)呑やうは茶わんを左りの 手にすへ右の手 添(そ)へのむべし 右の手ゆびさき茶わんより出ぬや うにそへてのむへし 〇茶わん茶のみしまひ茶わん みて下座より上座へ茶わんを 持(もち)参る上座より亭主(ていしゆ)へつかわ すへし一同に礼をいたし候也 〇人の前にてやうしをつかひ歯(は) をせゝり舌をかきあらひ楊枝(やうじ) をくわへて人に物いゝ又位なく して大やうじつかふ事は あしきなり 〇茶の水を手足につかひ又手水 にてあしを洗(あらひ)なとし朝の手水 つかはず髪(かみ)もゆわすして人の まへにいつべからず 〇戸障子(としやうし)あらく立明する事 并にゑん板(いた)を足音(あしおと)たかくあ るくべからす只ひそ〳〵と行べし 【下段】  中納言行平(ちうなごんゆきひら) 立(たち)わかれ  いなばの 山の みねに   おふる まつとしきかは 今(いま)かへりこむ 在原業平朝臣(ありはらのなりひらのあそん) 千早(ちはや)振(ふる)  神代(かみよ)も きかず たつた川(がは) からくれなゐに  水(みづ)くゞるとは 【上段】 〇貴人(きにん)のまへにてはなをかまんと おもはゝそと其間(そのま)を立てかむ へし 〇他(た)へゆく折紙等をみだりに見る べからず人のまへにて爪(つめ)をとり かみをすく事ずいぶん心得て たしなむべし 〇酒(さけ)の中(なか)ばにむさと立(たつ)べからず 又 盃(さかつき)を見て立事(たつこと)あしゝ 〇其(その)外たしなむへき事りんき のふかき男(おとこ)まじりのみだりなる ふるまひ夫(おつと)の留主(るす)に若きお のこをよびあつめ雑談(ざうだん)はなし 大わらひしばゐずきのいた ずら成る朝寝(あさね)のきづいなる我 か家内(かない)はんしかうして富貴(ふうき)なる とも他人のひん成る事を わらふべからず女は平生(へいぜい)の心 ちいさきものゆへ此事第一に 心得よく〳〵つゝしむべし 【下段】 藤原敏行朝臣(ふぢはらのとしゆきあそん) 住(すみ)のえの  きしに よる  なみ よる   さへや 夢(ゆめ)のかよひぢ  人(ひと)めよくらん  伊勢(いせ) 難波(なには)がたみじ  かき   あしの ふしのまも あはで  このよを すぐして  よとや 【上段】  神功皇后(しんくうくわうこう) 神功皇后(しんくうくわうこう)は仲哀天皇(ちうあいてんわう) の御 后(きさき)也三 韓(かん)王 命(めい)に 背(そむく)によつて武内臣皇后 を助(たす)けて新羅(しんら)を征伐(せいばつ) し給ふあつみいそらの臣 かんまの両珠(りやうしゆ)をたて まつりて其軍(そのいくさ)を助(たす)け しむ三韓 終(つい)にやふ れて王 命(めい)に帰しける となり 【下段】  元良親王(もとよしのみこ) わびぬれば  今(いま)はた おなじ なに   は    なる 身(み)を つくしても  あはむとぞ思ふ  素性法師(そせいほうし) 今(いま)こむと  いひし ばかり   に 長月(ながづき)の あり明(あけ)の     月を  まち出つるかな 【上段】  尼将軍(あましやうくん) 北條時政(ほうしやうときまさ)の女(むすめ)右将軍頼(うしやうくんより) 朝(とも)の御台(みだい)也 義経(よしつね)失(う)せ 玉ひて後(のち)静(しつか)を鎌倉(かまくら)へ召(めさ) れ鶴岡(つるかおか)にて舞(まひ)を見給ふに 只(たゝ)義経の別(わか)れをおしみたる ろうようをうたひかなで けれは頼朝(よりとも)大きにいか り玉ふを政子(まさご)しゐて是を いさめしづかをめぐみ 給ふ政子 君(きみ)におくれ 玉ひて天下の政事(せいし)を 司(つかさ)どり尼将軍としやうじける 【下段】  文屋康秀(ぶんやすひで) 吹(ふく)からに秋(あき)の  くさきの し  ほ   るれば むべ山(やま)かぜを あらしといふらん  大江千里(おほえのちさと) 月(つき)みれば    ちゝに 物(もの)こそ かな  し   けれ わが身(み)ひとつの  秋(あき)にはあらねど 【上段】  形名(かたな)か妻(つま) 舒明(じよめい)天皇の時ゑぞか島 謀(む) 反(ほん)す天皇 形名(かたな)を将軍(しやうくん)とし て是をうたしめ玉ふ軍利(いくさり)なく して敵(てき)の為(ため)にかこまれか たな終(つい)に英気(ゑいき)を失(うしな)ふ其(その) 妻(つまは)形名をはげまし一たび の敗軍(はいぐん)を見て勇気(ゆうき)を 落(おと)す事(こと)やあると夫(おつと)の弓(ゆみ) 矢(や)を取て召仕(めしつか)ふ女はら【おんなばら(女輩)=女の人々】 に兵杖(へいしう)【「兵仗(へいじょう)=兵器のこと】をもたせ守(まも)らせ けれは戎(ゑびす)あへて近(ちか)付す終(ついに) 謀(はかりこと)斗を以(もつ)てゑぞを従(したがい)し也 【下段】  菅家(かんけ) このたびは  ぬさも とり  あへす   手向山(たむけやま) もみぢのにしき 神(かみ)のまに〳〵  三條右大臣(さんてうのうだいじん) 名(な)にしおはゞ  あふさか山の さね か  づら 人(ひと)にしられで くるよしも     がな 【上段】  田道(たみち)が妻(つま) 仁徳帝(にんとくてい)の時ゑぞが島 謀反(むほん)す追討将軍(ついとうしやうぐん)田道 石の湊(みなと)に戦(たゝか)ひ死(し)す 良等(らうどう)【郎等】馬(むま)の手綱(たづな)を持帰 りて討死(うちじに)のやうを告(つ) ぐ田道がつま其(その)手綱 にてくびれ死(しゝ)たり其 後夫婦(ふうふ)か霊魂大蛇(れいこんだいしや) となりてゑぞのゑび すをそこなふ 【下段】  貞信公(ていじんこう) 小倉山(をぐらやま)  みねの もみぢ  葉(ば) 心(こころ)あらば  今(いま)/一(ひと)たびの 御幸(みゆき)またなん  中納言兼輔(ちうなごんかねすけ) みかの原(はら)  わきて なが  るゝ いづみ    川 いづみき とてか   恋(こひ)しかるらん 【上段】  鎌田妻(かまたがつま) 鎌田兵衛(かまたひやうゑ)か妻(つま)長田庄司(おさだしやうじ) か女(むすめ)也 父(ちゝ)長田 主人(しゆじん)たる 義朝(よしとも)をはかつて浴室(ゆどの)に おいてさし殺(ころ)し聟(むこ)鎌田 を討取(うちとり)たるよし鎌田か妻 きゝてかゝる不忠(ふちう)不 道(どう)の父(ちゝ) と同(おな)じからんやとて幼子(おさなご) をうばにだくして自殺(じさつ)して 失(うせ)ぬ頼朝 世(よ)に出給ひて 長田を討取(うちとり)鎌田か子孫(しそん)を求(もとめ) 玉ひしに女(によ▢)□【子ヵ】なりけれは父母 の忠節(ちうせつ)の恩厚(おんあつ)く報(ほう)し玉ひし也 【下段】  源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん) 山(やま)ざとは    冬(ふゆ)そ さびし   さ まさり   ける 人(ひと)めも草(くさ)も かれぬとおもへば  凡河内躬恒(おほちかうちのみつね) 心(こころ)あてに おらばやおらん  初霜(はつしも)の をきまどはせる  しらぎくの花(はな) 【上段】 新田忠常(につたたゞつね)が妻(つま) 忠常(たゞつね)おもき病(やまひ)に臥(ふ)す其妻(そのつま) 我身(わがみ)を以て其 病(やまひ)にかわらん事 を三島明神にいのり已(すで)に夫(おつと) の本服(ほんぶく)を得たり其後三島(そのゝちみしま) 明神へ参詣(さんけい)せしに江尻(ゑしり)の 渡(わた)しにて高波(たかなみ)の為(ため)に舟(ふね)を くつがへす船人(ふなびと)従者(じうしや)委々(こと〳〵)く 助(たす)かり新田つまも已に助(たす)か りけれとも一たひ明神に夫の命(いのち) をいのりて其加護(そのかご)を得たり今我(いまわが) 命(いのち)を明神の召し玉ふならんとて 再(ふたゝ)び波(なみ)に入にけり 【下段】 壬生忠岑(みぶのたゞみね) 有明(ありあけ)の  つれなく みえ し わかれ   より あかつき   ばかり うき物(もの)はなし  坂上是則(さかのうへのこれのり) 朝(あさ)ぼらけ  有明(ありあけ)の 月(つき)と みる  までに よしのゝ    さとに  ふれるしら雪(ゆき) 【上段】   ともへ女 木曽義仲(きそよしなか)軍利(いくさり)なく して江州(ごうしう)粟津(あはつ)に打死(うちじに) す此日 巴(ともへ)敵陣(てきぢん)を打(うち)や ぶつて大(おゝ)きにたゝかひ つゐに生(いけ)どられて和田(わだ) 義盛(よしもり)か妻(つま)となり一人 の男子(なんし)を生(う)めり出生(しゆつしやう) の子(こ)は朝比奈(あさひな)三郎 義(よし) 秀(ひで)是(これ)なり建保(けんほ)の乱(みだれ) に巴(ともへ)九十一才にて越中(ゑつちう) の国(くに)にて打死(うちじに)をせし となり 【下段】  春道列樹(はるみちのつらき) 山河(やまかは)に風(かぜ)の かけ  たる しがら   みは ながれも あへぬもみち     なりけり  紀友則(きのとものり) 久(ひさ)かたの    ひかり のど  け   き  春(はる)の日に しつ  心(こころ)なく花(はな)のちるらん 【上段】  和泉(いづみの)三郎が妻 和泉三郎 妻(つま)は佐藤庄(さとうせう) 司(じ)が女(むすめ)也家衡(いへひら)義経(よしつね)を 討(う)たんとはかりけるに上 分一人 組(くみ)せず我舘(わがやかた)に 立籠(たちこも)り已(すで)に落城(らくじやう)の日 つま二人の子(こ)をさし 殺(ころ)し夫婦表(ふうふおもて)にうつて 出(い)て四 角(かく)八 面(めん)に切立(きりたて) 城(しろ)に火(ひ)をかけついに 自害(じかい)してうせぬ 【下段】  藤原興風(ふちはらのおきかぜ) 誰(たれ)をかも  しる  人(ひと)に せむ 高砂(たかさこ)の 松(まつ)も  むかしの友(とも)ならなくに  紀貫之(きのつらゆき) 人(ひと)はいざ  心(こころ)も しらず  ふる   さとは 花(はな)ぞ  むかしの   香(か)ににほひける 【上段】  坂額女(はんかくぢよ) 城(じやう)の九郎 祐国(すけくに)か女に して小太郎 祐盛(すけもり)が伯(お) 母(ば)也祐 盛(もり)軍(いくさ)をおこし取(とり) 坂(さか)の城(しろ)に立籠(たてこも)る寄手坂(よせてはん) がくか為にさん〴〵大きに 討(うち)たる藤沢(ふぢさわ)四郎うしろ の山へ廻(めぐ)りよくねらひて はなつ矢に坂額(はんがく)もゝを 射(い)ぬかれ終(つい)に生捕(いけど)らる あさりのよ市申うけ て妻(つま)となせしと也 【下段】  清原深養父(きよはらのふかやぶ) 夏(なつ)の夜(よ)は    また 宵(よひ)  なから 明(あけ)ぬる    を 雲(くも)のいつこに  月(つき)   やどるらむ  文屋朝康(ふんやのあさやす) しら露(つゆ)に   風(かぜ)の ふき  しく  秋(あき)の野(の)は つらぬき とめぬ玉(たま)ぞ散(ちり)ける 【上段】  楠正行(くすのきまさつら)か母(はゝ) 楠正成(くすのきまさしけ)摂州(つのくに)湊川(みなとかは)に 打死(うちしに)す尊氏(たかうぢ)其首(そのくび)を 古郷(ふるさと)の妻子(つまこ)に送(おく)ら しむ一子帯刀(いつしたてわき)ひたん の余(あま)り持仏堂(ぢぶつどう)に入つて 自害(じがい)せんとす母是(はゝこれ)を いさめて大(おゝい)に教訓(けうくん)す よつて正(まさ)つら南朝(なんてう)を 守護(しゆこ)し父(ちゝ)が忠誠(ちうせい)をつ ぐ此時正行(このときまさつら)十四歳也 【下段】  右近(うこん) 忘(わす)らるゝ  身(み)をは 思はず  ちかひ   てし 人(ひと)の命(いのち)の  おしくも有(ある)かな   参議等(さんきひとし) あさぢふの  をのゝ しの  はら しのぶれと あまりてなどか 人(ひと)のこひしき 【上段】  有馬湯山(ありまゆのやま)の由来(ゆらい) 〇 摂州有馬山温泉(せつしうありまやまおんせん)の 由来(ゆらい)は往昔(そのかみ)人皇(にんわう)三十五代 舒明天皇(ぢよめいてんわう)三年秋九月 此所に御幸(みゆき)成(な)り給ひ三ヶ月 湯(ゆ)つぼに差入(さしいり)たるをゑいらん まし〳〵て 三日月(みかつき)のしほ湯(ゆ)にうつる         影(かげ)見れば  かた輪(わ)もなをる         七日〳〵に 三ヶ月も半月にしてかた 輪(わ)の形(かたち)なり七日〳〵十四日 此 湯(ゆ)に影(かけ)をさし入て満月(まんけつ) 【下段】  平兼盛(たいらのかねもり) 忍(しの)ぶれと  いろに 出(いで)に  けり わが  こひは 物(もの)やおもふと  人(ひと)の   とふまで  壬生忠見(みぶのたゞみ) 恋(こひ)すてふ  わか名(な)は まだ  き 立(たち)に  けり 人(ひと)しれずこそ  おもひそめしが 【上段】 の円(まどか)なる姿(すがた)になをるとの御製(きよせい) になん又三十七代の聖主孝徳(せいしゆかうとく) 天皇(てんわう)三年十月朔日に御幸(みゆき) まし〳〵武庫(むこ)のあんきうに入 玉ふ四十五代 聖武(せいむ)天皇の御宇(ぎやう) 神亀(しんき)元年甲子の年 行基(ぎやうぎ) 菩薩(ぼさつ)津の国 崑崙(こや)の里 崑崙山金養寺(こんろんさんきんやうし)に住(ぢう)し 玉ふ爰(こゝ)に一人の病夫来(びやうふきた)り て里近(さとちか)き道(みち)のかたはらに 臥(ふ)す行基(きやうぎ)ほさつ食(しよく)を 施(ほどこ)し憐(あわれ)【「隣」は誤記】み給ひしに病夫(ひやうふ) 魚肉(ぎよにく)を食(しよく)せん事を望(のそ)む 【下段】  清原元輔(きよはらのもとすけ) 契(ちぎり)きな  かたみに 袖(そで)を しぼり  つゝ すゑのまつ山 なみ  こさじとは   中納言敦忠(ちうなごんあつたゞ) あひみての   後(のち)の   心(こころ)   に くらぶれば むかしは  ものを おもはざりけり 【上段】 行基菩薩(ぎやうぎほさつ)自(みつか)ら水辺(すいへん)に 立より魚(うを)をとりて是を煮(に)て あたへ玉へは病夫(ひやうふ)次第(しだい)に快気(くわいき) す煮残(にのこ)し玉ふ半肉(はんにく)の魚(うを)を こやの池にはなち給へは 鰭(ゑら)をふりて再(ふたゝ)び水中に入る 土人(どにん)今に言(いゝ)伝ふ此こやの池 の魚半目(うをはんもく)成とよつて是を 食(くら)はずと也 然(しか)るに病夫(ひやうふ)のい わく我五体(わかこたい)くづれたゝれ 肉中(にくちう)に虫生(むししやう)しかゆき事 たへがたし願(ねかは)くは我 臭血(しうけつ)を すひてたび玉へと申けれは 【下段】  中納言朝忠(ちうなごんあさたゞ) あふ事(こと)の  たえてし   なくは 中(なか)〳〵に 人(ひと)をも  身(み)をも うらみざらまし  謙徳公(けんとくこう) 哀(あはれ)とも  いふべき 人(ひと)は おも  ほえで 身(み)のいたづらに  なりぬべきかな 【上段】 行基(きやうき)是をいとひ玉はず病(ひやう) 夫(ふ)の五 体(たい)をすはせ玉ふ其(その) 時(とき)ふしきやかの病夫金色(びやうふこんじき) しやうごんの仏体(ふつたい)と成り 善哉(よいかな)〳〵我は是温泉(これおんせん)山 正真(しやうじん)の薬師(やくし)なり汝(なんぢ)が精誠(せいせい) の心をしらんため方便(ほうべん)を もつてあらはれたり是(これ)より 津の国(くに)有馬(ありま)のふもと温(おん) 泉(せん)の屈(くつ)にいたり湯(ゆ)の山 を開起(かいき)して末世衆生(まつせしゆしやう) の病苦(ひやうく)をたすけよとし めし玉ひ光をはなち 【下段】  曽祢好忠(そねのよしたゝ) ゆらのとを   わたる ふな人 かぢを  たえ   行衛(ゆくゑ)も しらぬ  恋(こひ)のみちかな  恵慶法師(ゑけうほつし) 八重葎(やゑむくら)  しげれる やどの さびしきに  人こそ    みへね 秋(あき)は来(き)にけり 【上段】 白雲(はくうん)に乗(じやう)じてこくうに 失(う)せさせ給ふ行基(きやうき)仏勅(ふつちよく) にまかせ温泉(おんせん)の屈(くつ)にいた り泉府(せんふ)を封(ふう)し石像(せきぞう)の 薬師(やくし)を作(つく)り奉(たてまつ)り妙法(めうほう) 経(きやう)を書写(しよしや)し温泉(おんせん)の 底(そこ)にうつみ給ひ一 切衆生(さいしゆじやう) 諸病(しよびやう)めつしよと祈誓(きせい) をかけ加持供養(かぢくやう)にいたる をねんころに行(おこな)ひたまひ 末(まつ)世 衆生(しゆじやう)の病苦(ひやうく)を救(すく) はせ玉ふ 〇一 乗院(しやうゐん)の御宇(きよう)正徳【これは江戸時代の年号なので誤記と思われる】 【下段】  源重之(みなもとのしげゆき) 風(かぜ)をいたみ  岩(いは)うつ なみの をの れ  のみ   くだけて 物(もの)を    おもふ比(ころ)かな 大中臣能宣朝臣(おほなかとみよしのふのあつそん) 御垣守(みかきもり)  衛士(ゑじ)の たく  火(ひ)の 夜(よる)は  もえて ひるはきえつゝ  ものをこそおもへ 【上段】 三年 弥生(やよい)の比 和泉(いつみ)式部 播(はり) 州(ま)書写(しよしや)山にもふで帰(かへ)るさに此 所にいたり湯治(たうぢ)せられんとて 先薬師(まづやくし)の宝前(ほうぜん)にもふで玉ふに 俄(にはか)に月のさはりの有けれは かなしみにたへず一 首(しゆ)の哥(うた)を詠ず  元(もと)よりもちりにまじはる        我なれば   月のさはりと成るぞ        かなしき と詠し給ふに御戸帳の内 よりも  元(もと)よりもちりの浮世(うきよ)の       しやばなれば   月のさはりも何か         くるしき 【下段】  藤原義孝(ふぢはらよしたか) 君(きみ)がため おしから  ざり  し 命(いのち)  さへ ながくもがなと  おもひけるかな 藤原実方朝臣(ふぢはらのさねかたのあつそん) かくとだに   えやは いぶき  の さしもぐさ  さしも しら じなもゆる思ひを 【上段】 と御 尊詠(そんゑい)有りてゆるさせ給ふと也 〇人王七十三代 堀川(ほりかわ)の御宇 洪(こう) 水(すい)して山谷(さんこく)をくつがへし民屋(みんおく) 坊舎湯壷(ぼうしやゆつほ)までこと〳〵く沈没(ちんほつ) し其後(そのゝち)九十五年が間取たつ る人もなくたへはてけれは草木(さうもく) ふかく茂(しげ)り空(むな)しく禽獣(きんじう)の 住家(じうか)となりしに和州三吉野(わしうみよしの) 高原(たかはら)寺の住僧仁西(ぢうさうにんせい)上人 とて大 峯高験(みねこうげん)の大 行者(ぎやうしや) 熊野権現(くまのごんげん)の御 告(つげ)によつて 彼温泉(かのおんせん)の山にたづね行 玉ひ土人(どじん)をかたらひ湯(ゆ)ふね 【下段】 藤原道信朝臣(ふぢはらのみちのぶのあそん) 明(あけ)ぬれば くるゝ  物とは しり  ながら なをうら   めしき 朝(あさ)ぼらけ     かな 【上段】 を造(つく)り再(ふたゝ)【繰り返し記号「ゝ」の脱落】び是(これ)を開碁(かいき)し 玉ふ有馬中興(ありまちうこう)の上人にて 行碁菩薩(ぎやうぎほさつ)の再来(さいらい)成りとぞ 〇温泉(ゆぶね)の寸法之事 横(よこ)の広(ひろ) ̄サ 一丈弐尺五寸 おく行   一丈五寸 ふかさ   三尺八寸 一の湯(ゆ)南むき二 ̄ノ湯(ゆ)北むき 坪(つぼ)かず何(いづ)れも同(おな)じ事也 湯(ゆ)のあつさぬるさのかげん 四季(しき)ともに同し事也 湯相応養生(ゆさうおうやうじやう)を記(しる)事 一 中風(ちうぶう)   一かつけ 一 筋(すぢ)いたみ 一 第(だい)一ひえ 【下段】  右大将道綱母(うだいしやうみちつなのはゝ) 歎(なけ)きつゝ  ひとり ぬるよの  あくる   まは いかにひさしき   物とかはしる 【上段】 一 頭痛(づつう)   一 打身(うちみ) 一 骨(ほね)くだけ 一 金瘡(きんそう) 一 痔漏(ぢろう)   一 下血(げけつ) 一 腎虚(じんきよ)   一 労瘵(らうさい) 一 虚労(きよらう)   一 痃暈(けんうん)【「𤷍」に見えるが病の名ではない】 一 疝気(せんき)   一 㾉疾(れいしつ) 一 田虫(たむし)   一こせがさ 一 痳病(りんびやう)  一 腰気(こしけ) 一 白血長血(しらちながち) 一子の無き女此湯に入ば懐胎(くわいたい)す 此外 諸事(しよじ)のわつらひは金輪(き) 涌(めう)出の霊湯(れいゆ)也 仏神加祐(ふつじんかゆう)の宝(ほう) 泉(せん)なるにより男女とも此湯 に入ぬれは腎(じん)を補(おぎな)ひせい 【下段】  儀同三司母(ぎとうさんしのはゝ) わすれ   じの 行末(ゆくすゑ)  までは かた  ければ けふを  かぎりの 命(いのち)とも   かな 【上段】 つゞみが瀧(たき) 【下段】  大納言公任(たいなごんきんとう) 瀧(たき)の音(おと)は   たえて 久(ひさ)しく  なり   ぬれ     ど 猶(なを)  名(な)こそ  聞え  ながれて   けれ 【上段】 きをましひゐ【脾胃】をとゝのへ食事(しよくじ) をすゝめやせたる人はしゝつき こへたる人はひふをかたくなす 此外 異症怪病(いせうけひやう)のたくひも よく其宿(そのやど)にたづねて入湯(いる)すべし 一 生瘡(なまがさ) 一 癩病(らいびやう) 一 癲癇(てんかん) 此三病は相応(さうおう)せずかへつて あしく必是(かならすこれ)をつゝしむべし 委(くわしく)は縁起(ゑんぎ)并 湯文(ゆぶん)にあり 〇温泉湯治養生(おんせんたうぢやうしやう)之事 一 凡(およそ)湯に入(い)る次第(しだい)は先(まづ)まくら 湯(ゆ)にてうがひをし心経(しんきやう)一くわん 薬師(やくし)の名号(めうこう)くわんおんの ほうかうをとなへ其後(そのゝち)湯(ゆ) に入るべしいそぎたらば 【下段】  和泉式部(いづみしきぶ) あら  ざらむ この世(よ)の  ほかの おもひ出(で)に  今(いま)ひとたびの   あふことも        がな 【上段】 薬師(やくし)の名号(めうこう)ばかりなりとも となふべし 一 幾湯諸国(いくゆしよこく)に有といへども 或(あるひ)は水 湯(ゆ)又は色々(いろ〳〵)味(あちは)ひのゆ なり然(しか)るに此ありまはしほ湯(ゆ) にて力(ちから)はけしみゆへすくなく よくすれはかんをあたゝめしつ をさり風をしりぞけけつ気(き)い をたゞし気(き)りよくをますはれ いたみの所を治(ぢ)する事此ゆ のとくにこへたるはなししかし ながら薬(くすり)なればとてつよく すればあせしきりにいでゝ けつ気いちがひむねふさがり たちまちにあやまちありたとへ 【下段】 紫式部(むらさきしきぶ) めぐり   あひて みしや  それとも わかぬ   まに 雲(くも)がくれ    にし 夜半(よは)の月(つき)かな 【上段】 ば酒(さけ)はもろ〳〵のくすりなれども 過(すぐ)るによりて毒(とく)となる塩(しほ)はあぢわひ のぬしなれどもすぐれはあぢを うしのふが如(ごと)し 一大かたやうじやうに入る人は一日に 二度ばかりくるしからず但(たゞ)し老(おい) たるや気(き)りよくのつよきとよは きとは大きにかわるべし 生(うま)れ付てかいなき人つよき人 のまねをすべからす 一湯ふねに久しくゐる事あと ゆはぬるきをほんとすあつけれは ねつをうけ身(み)ねつすれはかぜを ひくかへつてかんのもとひなり 一食後(しよくご)に其(その)まゝ入るべからず 【下段】  大弐三位(たいにのさんみ) 有馬山(ありまやま)  いなの   さゝ原 風(かぜ)ふけは いでそよ人を  わすれやは      する 【上段】 あ り ま  冨士(ふじ) 【下段】  赤染衛門(あかぞめのゑもん) やすら  はで ねな  まし   物を さよふけて  かたふくまでの   月をみしかな 【上段】 ことさら髪(かみ)などあらふ事その ときにしんしやくあるべし 一たう治(ぢ)の間 酒(さけ)をてうじ【調じ=ととのえる】あるべし もしふくせばずいぶんあたゝめて すこしはくるしからすゆに入(い)る まへとあがりて其(その)まゝはわるし 一やまひにつかれ気力(きりよく)おとろへ たるは老にやくによらず一日に 二度ぬるくしてかゝるべしゆぶね に入る事ゆめ〳〵いたすへからず かくのごとく日 数(かず)をへてやうじやう あるべしこれにてせんやくあとしゆ やうする事しそふせひのもの しかるべしかさけ【風邪気味】の人は薏苡桑 又中風の人はきくをせんしてふく 【注 薏苡(よくい)=はとむぎ。薏苡の実を米中に混じて粥飯とし、又粉にして麺とする。薬用となる。】 【下段】 はしだて  あまの ふみもみず  まだ ければ    とを みちの   いくのゝ 大江山(おほえやま) 小式部内侍(こしきぶのないし) 【上段】 すべしゆすくれば▢▢【「りけ」ヵ】つする也 是によつてしや薬(やく)【瀉薬=下剤】用いてよし 一こゝにてのかうせきはやどにての ごとくなるべしふやうじやうならん 人の気にはあらずよの常(つね)のごとし 一 湯治(たうぢ)の間ひるねすべからず ことさらゆあがりにねれは別(へつ)し てあしく秋冬(あきふゆ)の湯(ゆ)に汗(あせ)のた る事あしき也 一こゝにていんじをもらすは第一 の毒(どく)なり湯(ゆ)上りより二七日 三七日もよく【避く】べし 一ぬれたるかたびらきる事 なかれ入 湯(たう)の間 灸治(きうぢ)すへからす 一こゝにてにくをしよくせずと 【下段】  伊勢大輔(いせのおほすけ) いにしへの   ならの みやこの 八重桜(やえさくら)  けふ   九重(こゝのへ)に 匂(にほ)ひ  ぬるかな 【上段】 いへども養生(やうしやう)の人はくるしからず 一やまひにつかれしんじくた びれたる人は手(て)あしなどかな はぬ事有ともゆふねにつか りてあびすごさずつのを ごさすつのをなをして牛(うし)を 殺(ころ)すことしよく〳〵つゝしむべし 一食事(しよくじ)にても薬にてもねつ しやうの物はあしく殊 ̄ニ かんれいの物 も用(もちゆ)べからずこはくかたき物わろし 一湯上りの日雨風(あめかぜ)のはげし きときはしかるべからずい かにもてんきよき日に出(いづ)へき也 養生記終(やうじやうきおはり) 【下段】 清少納言(せいせうなごん) 夜(よ)を  こめて 鳥(とり)の そら音(ね)は  はかる    とも よにあふ     さかの 関(せき)はゆるさじ 左京大夫道雅(さきようのたいふみちまさ) 今(いま)はたゞ  思ひ  たえ なん   と はかりを 人づてならで いふよしもかな 【上段】 〇七夕の由来(ゆらい) 牽牛織女(けんきうしよくしよ)の二つの星天(ほしあま) の河(がは)をへだてゝ住(すま)せ給へども 七月七日わたり逢(あい)玉ふ夜(よ)な れは星合(ほしあひ)といふ庭(には)にとこを かざり瓜茄子(うりなすび)五 色(しき)の糸(いと)を 備(そな)へ梶(かぢ)の葉(は)又は色紙短冊(しきしたんじやく) に詩哥(しいか)を書(かき)香(かう)をたき琴(こと)な どたんじまつるとしに一 夜(や)の 御ちぎりなれとも神代(しんたい)より 今にかわる事なき久しき御 契(ちきり) 京(きやう)も田舎(いなか)もまつる事おなじ町(まち) 々(〳〵)の寺子(てらこ)やにはおとりを催(もよを)し幼稚(ようち) の男子女子(なんしによし)ともに興(きやう)を催(もよを)しける 是(これ)七月おどりのはじまる最初(さいしよ)也 【下段】 権中納言定頼(こんぢうなごんさだより) 朝(あさ)ぼらけ   うぢの 川(かは)  霧(ぎり) たえ〴〵   に あらはれわたる  瀬々(せゞ)の網代木(あじろぎ) 【上段】  七夕詩哥つくし 竹の葉(は)にあさ引 糸(いと)や七夕の  ひと夜のぬしのみたれ成るらん 手向(たむけ)にもけふ星(ほし)あひの爪琴(つまこと)や  初(はつ)秋風のしらべ成るらん 七夕のちきりたかわずめくり逢(あふ)  今夜(こよい)ひ【ママ】の月を幾夜(いくよ)みつらん 天の河あふせはしばしよとむとも  なかれはふかきちきり成けり 七夕の苔の衣をいとはずは  ひとなみ〳〵にかしもしてまし 七夕のとわたる船(ふね)の梶(かぢ)の葉(は)に  いく秋かきつ露(つゆ)の玉づさ 七夕のあまの羽衣(はころも)かさねても  あかぬちきりや猶結むらん 【下段】  相模(さがみ) 恨(うら)みわび  ほさぬ 袖(そで)だ   に ある物(もの)を 恋(こひ)に   くち    なん 名(な)こそ  おしけれ   【上段】 天(あま)の河(かわ)一 夜(よ)ばかりのあふせこそ  つらき神代(かみよ)の恨(うらみ)なるらむ 草(くさ)のはにけふとる露(つゆ)や七夕の  あきの手向にむすひ初けん 浅(あさ)からぬ契(ちき)りとぞおもふ七夕の  あふせは年(とし)に一夜(ひとよ)成れども 懐得(おもひゑたり)少年(しやうねん)長乞巧(ながくきつかう) 竹竿(ちくかん)頭上(とうしやう)願糸多(くわんしおゝし) 風(かぜ)従_二昨夜(さくやより)_一【注①】声弥怨(こゑいよ〳〵うらむ) 露(つゆ)及_二明朝(めうてうにおよんで)_一【注②】涙(なんだ)不_レ禁(きんぜす)【注③】 【注① 「従昨夜」の三字の振り仮名として「さくやより」と記載】 【注② 「及明朝」の三字の振り仮名として「めうてうにおよんで」と記載】 【注③ 「不禁」の二字の振り仮名として「きんぜす」と記載】 【下段】  前大僧正行尊(さきのたいそうしやうきやうそん) もろともに  あはれ    と お  もへ 山ざくら 花(はな)より     ほかに  しる   人もなし 【上段】  〇女中 名(な)の字(じ)相性 〇木性の人は麻房邦滿(あさふさくにみつ) 百梅武包(ひやくむめたけふさ)芳米伴品(よしよねともしな) 茂万沢林(しげまんさわりん)良 蘭貞(らんさだ) 栗留道頼(くりとめみちより)蓮類勘(れんるいかん) 〇火性の人は花吉菊久(はなよしきくひさ) 庫 岩虎(いわとら)薫 国曲(くにくま)幾 為(ため)艶 塩吟越(しほぎんゑつ)猶益園(なをますその) 亀梶玉(かめかぢたま)高源(たかけん)極今 〇土性の人は重中竹島(しげなかたけしま) 蝶當等伝(てうまさしなでん)長徳六(ちやうとくろく) 藤瀧楠陸楽(ふぢたきくすりくらく) 〇金性の人は由幸恒(よしかうつね)好 【下段】  周防内侍(すはうのないし) 春(はる)の夜(よ)の  夢(ゆめ)ばかり なる 手枕(たまくら)に かひ  なく  たゝん 名こそ  おしけれ 【上段】 熊安(くまやす) 虎(とら)市(いち)峯縫(みねぬい) 豊民坂冨(とよたみさかとめ)茅 門糸(もんいと) 末浜(すへはま)愛閑里(あいかんさと) 〇水性の人は琴(こと)崎晴秋(さきはるあき) 種霜松千(たねしもまつせん)常石岩(つねいしいわ) 政光市善(まさてるいちよし)七三哥(しちさんうた) 勝次(かちつぎ) 右あらまし相性(あいしやう)によりて 此名の内をめい〳〵の好(この)み にて付くへしとかく人 の名(な)は年ありてめでたき 人に付てもらふてよし 我 名(な)を自身(じしん)にはあしき也 【下段】  三條院(さんでうのいん) こゝろ    にも あらで うき  世(よ)に   なからへは こひしかるへき 夜半(よは)の    月かな  能因法師(のういんほつし) あらしふく  三室(みむろ)の  山   の もみぢ葉(ば)は たつたの川(かは)の にしき    なりけり 【上段】  〇暦(こよみ)の中段(ちうだん)を知(し)る事 建(たつ) 《割書:とはざうさくわたまし宮寺(みやてら)|こんりう諸事をこしらへ》   《割書:始る心にて用ひてよし》 除(のぞく) 《割書:万事をよくる心にて用 捨(すて)す|百日にて物事ひかへてよし》 滿(みつ) 《割書:物のしうまんする日也 諸事(しよじ)きわ|め定おける也 満足(まんそく)の心也諸》    《割書:ぐわんほどき談合(だんかう)によし》 平(たいら) 《割書:善悪(せんあく)ともにたいらかにしづか|なる日也此心を用ひてつ》    《割書:よからずよわからず中分 ̄ニ用》 定(さだむ) 《割書:物をさためる事此日よし|けつじやうする日也師弟のけ》    《割書:いやくふさいのいひ合よし》 取(とる) 《割書:人の方よりうけ取る ̄ニ よし|ほどこす事には何にても》   《割書:むようの日なり》 【下段】  良暹法師(りやうせんほつし) さびしさに 宿(やど)をたち 出(いで)て 眺(なかむ)れは いづこ   も    おなじ 秋(あき)の   ゆふぐれ 【上段】 破(やぶる) 《割書:諸事(しよし)の用なとにつくこと ̄ニ あし|き日也 下地(したぢ)とも ̄ニ打やぶる》    《割書:心也しよたい持にもあしく》 危(あやふ) 《割書:万端(ばんたん)用心して物をとりおこのふ|なりかやうにしてはいかゞあら》    《割書:んとねんを入るべし》 成(なる) 《割書:此日 何事(なにこと)もじやうじゆする|日なり右 ̄ニある みつといふ》    《割書:日と同しこゝろなり》 納(おさむ) 《割書:あき五こくをおさむる日也 蔵(くら) ̄ヲ|立 宝(たから)を入はじむ又は宮寺へ》    《割書:何にてもきしんする心にて用べし》 開(ひらく) 《割書:くらびらきやどがへ国(くに)がへすべて|物をはしめて行ふこゝろなど》    《割書:ひらく大 ̄ニ よし》 閉(とづ) 《割書:とるといふ日に同し心也たとへは|家を立て後かべなど拵(こしらへ)る日也》    《割書:こたつなど此日しまひてよし》 右此こゝろをもちて万事につ かふ事也男はのそくの日あしく 女はやぶるの日ゑんりよして吉 【下段】  大納言経信(だいなごんつねのふ) ゆふされは  門田(かとた)    の いなば  をと   づれて あしのまろや      に 秋(あき)かぜぞふく 【上段】  〇暦の下段の事 〇 天赦(てんしや)日 さいしやうの吉日也 何事に用ひても万吉日なり 年中に六七日めぐるなり 〇 大明(たいみやう)日 万 ̄ニ用ひてよし 大吉日殊 ̄ニ祝言わたまし【転居】 物たち【裁断】よし 〇天一天上 此日天一神八方を 四十四日めぐりおはり天へ上り給ふ 是を天一天上といふ也此日より 十六日の間は八方行に天一 神のさわりなし 〇 天恩(てんおん)日 近年より暦に いづる吉日也諸事めでたき ̄ニ 用ひてよし 【下段】  こそすれ ぬれも   袖(そで)の  じや かけ あだなみは はまの   たかしの 音(おと)にきく  祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんわうけきい)  前中納言匡房(さきのちうなこんまさふさ) 髙砂(たかさこ)の  おのへの さくら 咲(さき)に   けり とやまの    かすみ たゝずも    あらなん 【上段】 〇 母倉(ぼそう) 同しく吉日也 〇 月徳(げつとく) 同し事也 〇御くし とあるはふるき 御はらひごわうなどやしろへ おさめてよき日なり 〇はかため と有はくひそめを       する日なり 〇きそはじめ きる物きそめる        日也 〇 大禍狼藉滅門(たいくわらうせきめつもん) 是三ヶの 大悪日にて一切の仏事(ふつし)くやう 諸事ふかくいむの日なり 〇 滅(めつ)日没日 是も二ヶの大 悪日也但しめつ日とは月の めぐみふそくなる日なり 【下段】  源俊頼朝臣(みなもとのとしよりのあそん) うかりける  人(ひと)を はつせ  の 山(やま)  おろし はげしかれとは  いのらぬ物(もの)を 【上段】 〇 復(ふく)日重日 たねまき祝言 くすりをのみはじめきう針 にいむ但しものたち【裁断】又はあたら しきいしやうをきそむるに よし 〇 五墓(ごむ)日 此日万 ̄ニ わろし あく日也但 ̄シ家つくりにはよし 〇 赤(しやく)日 赤口神(しやくこうしん)とて一さい べんせつをもつてつとむる事に さゝわり【障り】ある日なり 〇 往亡(をうもう)日 かどいで出船など にいむ此外諸事 ̄ニ わろし 〇くゑ日 大悪日何事にても すへとげずことに死人をとむら はず凶会日とす也悪日也 【下段】  藤原基俊(ふぢはらのもととし) 契(ちぎり)おきし させ もが 露(つゆ)を  命(いのち)にて あはれことしの  秋(あき)もいぬめり 【上段】 〇きこ日 出行わたまし けんぶく【元服】祝言入部(しうけんにうぶ)【注】其外よろ ず大吉日なり 〇けこ日 きうはりにいむ日也 惣じて物の血をいたすもの ころす事なかれ 〇かん日 きうはりにいむ也 身のあかをおとす事あしく いしやうのたぐひもあらわぬ也 〇十し 大あく日万 ̄ニ わろし 〇 冬至(とうじ)とは湯気地の下にはじめて きたる日也此日迄にて日りん 南へ行あたり給ひ北へ行■ 事によりていむなり 〇 天火(てんくは)日 【注 入部=国司や領主などがはじめて任国や領地にはいること】 【下段】 法性寺入道前関白大政大臣(ほうしやうじにうだうさきのくはんばくだいじやうだいじん) わだのはら こき出(いで)て みれば 久(ひさ)  かた    の くもゐに    まがふ おきつ しら浪(なみ) 【上段】 ◦ 地火(ちくは)日 大悪日也やねふき む■【ねヵ】あげかうさく家づくり どうみややしろこんりうなど いむ日也 〇人の魂(たましい)のかずをしる哥 ◦木九からに火三ッの    山に土一ツ 七つ金とぞ   五水りやう      あ       れ 【下段】  崇徳院(しゆとくゐん) 瀬(せ)をはやみ   岩(いは)に  せかるゝ 瀧(たき)  川(かは)の われても    すえに あはむ  とぞおもふ 【上段】  ○ 不成就日(ふじやうしうにち)の事 正七月  《割書:三日  十九日|十日  廿七日》 二八月  《割書:二日  十八日|十日  廿六日》 三九月  《割書:朔日  十七日|九日  廿五日》 四十月  《割書:四日  廿日|十二日 廿八日》 五十一月 《割書:五日  廿一日|十三日 廿九日》 六十二月 《割書:六日  廿二日|十四日 三十日》 右の日物をしそむるにも 人に物をいゝかけても成 じゆせず何事にも 此日つかふべからす 【下段】  源兼昌(みなもとのかねまさ) 淡路嶋(あはぢしま)  かよふ ち どり  の なく聲(こゑ)に いく夜(よ)ねざめぬ  すまの関守(せきもり)  左京大夫顕輔(さきやうのたいふあきすけ) 秋風(あきかせ)に  たなびく 雲(くも)の たえ  まより もれ出(いつ)る月の 影(かげ)のさやけさ 【上段】  ○同悪日を知る事 毎月 四日  十八日    十一日 廿五日  此日くれ六ツより夜の  九ツまで 毎月 八日  廿一日    十五日 廿九日  此日朝六ツより昼の九ツ迄 右ふじやう日也物しそむる 事人に物いゝかける事何事 もとゝなわぬとしるべし 〇門出によむ哥の事 きしひこそまつかみきはに        ことのねの  とこにはきみが      つまぞ恋(こひ)しき 【下段】  おもへ 物(もの)をこそ  けさは   て みだれ くろかみの 心(こころ)も    しらず ながゝらむ 待賢門院堀川(たいけんもんゐんほりかは) 【注 「たいけん」の「ん」の字が薄くなっている】 【上段】  〇たい内の子男女を   しる事 一母長の年はらみて次の  とし五月節句前 ̄ニ生るゝ  子は男也五日節句より  後 ̄ニ生るゝ子は女なり 一母はんの年はらみて  次の年五月節句まへに  生(むま)るゝ子は女なり節句より  後に生るゝは男なり 〇女不 浄除(じやうよ) ̄クの事    【篆書のような或は甲骨文字のような一字あり】 此 印(いん)を書てくわい中【懐中】す べしふじやうかまわず 【下段】  後徳大寺左大臣(ことくたいしさたいしん) ほとゝきす  なきつる かたを なが  むれは たゞ有明(ありあけ)の  月ぞ    のこれる 【上段】  〇諸病(しよびやう)/薬方(やくほう)の事 〇 打疵(うちきす)のくすり夏枯葉を口 にてか□【「み」ヵ】たゝらし付れはいたみ □□□なをるなり 〇 切(きり)きずは五ばいし【五倍子 注】をなまにて くだきかはかし粉(こ)にしてひ ねりかくれば血(ち)をとめいたみ なくしてゐゆる也 【注 ヌルデの葉茎にできる虫こぶ。ヌルデミミフシが寄生して生じるもので、殻にタンニンを多量に含み薬用として用いられるほか、染織やインク製造に用いられる】 〇血とめ薬一にうかう【乳香】一ぼれい【牡蠣】 一したん一 鶏(にはとり)の玉子(たまこ)を打わり 白みをさらに入日にほして こそげこにし各々等分 ̄ニ あわせ付くべし 〇頭に瘡(くさ)てきうみ血 流(なが)れ いたむに山帰来(さんきらい)をせんじ一 どりのむべし 【下段】  道因法師(たうゐんほつし) おもひわび   さても 命(いのち)は  ある  ものを うきに    たへぬは なみだ   なりけり  皇太后宮大夫俊成(くはうだいこうくうのたいふしゆんせい) 世(よ)の中(なか)よ  みちこそ な けれ おもひいる 山(やま)のおくにも 鹿(しか)ぞなくなる 【上段】 〇はす根の妙薬わうばくを 粉にしさといもにすりまぜ じやかうすこし入はこへの汁 をしほり入かみのあふらにて よくねりませ其大きさほど にかみをむしりあつくのば し付くべしうみはのこら ずすいゝたしなをる也 〇しらくぼ【白禿瘡】は梅ほしのさねを さり松やにのこもち米のこ 三色とうぶんにあはせよくすり 酢(す)にてとき付くべし 〇 高(たか)き所よりおち手あしを をりたるには其まゝ銅の 粉を酒にて呑(のむ)む【ママ】べし 〇 釘(くき)はりなと身におれこみ 【下段】  藤原清輔朝臣(ふぢはらのきよすけのあそん) ながらへは   また 此ころや 忍(しの)  ばれむ うしとみし世(よ)そ  今(いま)はこひしき 【上段】 たるには ざうげの粉(こ)を水 にてとき付くれは其まゝ ぬくるなり 一のどにほね立たるには 鯉(こい)のうろこをよくあぶり 粉(こ)にして水にて呑はたち まちぬくる也 〇又ゑの実(み)粉にしてのみ てもよし 〇みかんのたねを黒やきにし 水にてのみてよし 〇白げいとうかやのみせん してのみてよし 一やけとの薬くちなし のねをかみのあふらにて とき付てよし又しやう ゆうをぬりてもよし 【下段】  俊恵法師(しゆんゑほうし) 夜(よ)もすがら  物(もの)思ふ ころ   は 明(あけ)やら   て 閨(ねや)のひまさへ つれなかりけり 【上段】 〇 鶏(にはとり)の玉子(たまこ)をつぶし朱(しゆ) 少し入付くればあとなく なをるなり 又湯(ゆ)やけ火やけどもに 淡竹(はちく)の皮(かわ)を黒(くろ)やきにし里(さと) いもをやきおしまぜごまの油 にてねり付くれはよし 一 耳(みゝ)の中へむし入たるにはせりを はたき汁(しる)を取り酢(す)にまぜて みゝの中へ入へし則(すなはち)出る也 一 耳(みゝ)の内に物てきいたむには 茄子(なすひ)のかうの物の久しきを 引(ひき)さき其汁をしほりみゝの 内へ入べし是きめうなる くすり也 一耳たれの薬 紅(べに)をこくとき みゝの中へ入てよし 【下段】  西行法師(さいきやうほつし) なげゝ   とて  月やは もの   を おもはする かこち    がほなる  わがなみだかな  寂蓮法師(しやくれんほつし) むらさめの  露(つゆ)も まだ  ひぬ 槙(まき)の葉(は)    に  霧(きり)たちのぼる   秋(あき)の夕(ゆふ)ぐれ 【上段】 又 沈(じん)のは■をかみの油にて入 てもよし 一にわかつんぼの薬 いわう【硫黄】 おわう【雄黄】二味 粉(こ)にして等分(とうぶん)に 合せわたにつゝみみゝを ふさぎおけは日かすをへて きこゆる也惣じてみゝの くすりはかみの油よき也 一かしらにふけできたる時 このて柏(かしは)の葉(は)を生にて一 にぎり長 ̄サ三寸 ̄ニ切水一はい 入七八ふんにせんじ少しさま しあらへはよし 一むし喰(くい)歯(は)の薬 さんせう 二分はづ【巴豆 注】半両あぶらをぬ きて此二味粉にたてゝい にて丸し穴(あな)の中へ入てよし 【注 巴豆油の原料にされ、又下剤に用いられるが、猛毒がある】 【下段】  わたるべき 恋(こひ) してや  つく 身を  ゆへ 一夜(ひとよ)  かりねの    あしの 難波江(なにはえ)の 皇嘉門院別当(くはうかもんゐんのべつたう) 【上段】 又にうのはをもみて塩 すこし入むしくふはを くわへてよし 一聲(こゑ)のかれていでざるには さいかし【皂莢】皮実(ひみ)をきりて生 大こんを壱寸ほとをうすく へぎ【「べき」とあるが濁点の打ち間違い】水一はい入半ぶんにせん じのみてよし 一 舌(した)に物のできたるには せいたい【青苔】わうばく【黄蘗】二味を 粉(こ)にしていたむ所 ̄ニ ひた もの【ひたすら】付てよし 一口中たゞれ破(やぶ)れたるには 細辛黄蓮(さいしんわうれん)を粉(こ)にし 付てよし 一したのやぶれ物のしむ にも此薬よし 【下段】  る す  ぞ も  よはり 忍(しの)ぶることの         は  たえねながらへ 玉(たま)の緒(を)よたえなば  式子内親王(しよくしないしんわう) 【上段】 一 銭(せに)のどにつまり或はのみこみ たるにはすみ火をつきくだき こにして目壹匁さけにて のむべし常(つね)のすみはあし 火におこし粉(こ)にすべし 一 子供(ことも)の身(み)のかゆがるには しやうがをくだきぬの切に つゝみなづれはやむ事妙也 一同くさにはごふんをつば きにてとき付てよし 一たむしの薬 めなもみ【豨薟】 を酒にてむしよくほし粉に し塩を少しくわへ日に弐 三度づゝぬりてよしなまづ【癜=皮膚病の一種】 にもよし 一漆まけには つましろがにと 餅米をすりて付くべし 【下段】  かはらず 色(いろ)は ねれし    ぞ ぬれに     も 袖(そて)だに     あまの  をじまの みせばやな 殷富門院大輔(いん▢もんゐんのたゆふ) 【上段】 鼈甲(べつこう)くしの図       古きを       あらふ        法(ほう) 曇(くも)り たれば あく にて あらひ 又つねの 水(みづ)にて あらひ 角粉(つのこ)を つけてみがくべし 【下段】 後京極摂政前太政大臣(ごきやうごくせつしやうさきのたいじやうだいしん) きり〴〵す   なくや 霜夜(しもよ)  の さむしろに 衣(ころも)かたしき  ひとりかもねん 【上段】 蒔絵(まきえ) 櫛(くし)の  図  松 ふん【文=模様】 おき あげ【置き上げ=彫り物や蒔絵などで、模様を地より高く盛り上げる手法、またそのもの。】 【上段左下】 さ し たる 跡油 けの なき やうに 紙にて ふきおくべし 【上段左上】 地 くろ 竹ふん【文】 【下段】  二條院讃岐(にでうのゐんさぬき) 我袖(わがそで)は  しほひ    に みへぬ 沖(おき)  の石(いし)の 人こそ  しらね かはくまも  なし 【上段】 竹屋まち切のまき絵 竹むね ぐし 【下段】  鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん) 世中(よのなか)は  つねにも がもな 渚(なぎさ)  こぐ あまの    をぶねの つなで   かなしも 【上段】 紋盡 端手(はて)【派手の意】 はすは    好(このみ) 忍ぶ の  手 海松(みる)  貝(がい) 【下段】  参議雅経(さんぎまさつね) みよしのゝ  山の秋(あき) 風(かぜ) さよ   更(ふけ)て ふるさと     さむく 衣(ころも)うつなり 【上段】 鎌倉形(かまくらがた) 浪(なみ)に 千どり そへぐし  定紋付 【下段】  前大僧正慈円(さきのだいそうじやうじゑん) おほけなく うき世の 民(たみ)に おほふ   かな 我(わが)たつ杣(そま)に すみぞめの袖(そで) 【上段】 三つ櫛(くし) 油につけ置(おき) つかふべ   し やはらかに あたりて   よろし 【下段】  入道前大政大臣(にうだうさきのだいじやうだいしん) 花(はな)さそふ  あらしの 庭(には)  の  雪(ゆき)ならて ふりゆくものは  わがみ    なりけり 【上段】 水引  両ざし 薄(すゝき)かん   さし 【下段】  権中納言定家(ごんちうなごんさだいゑ) こぬ人を まつほの うら  の 夕(ゆふ)なきに やくや   もしほの  身(み)も    こがれつゝ 【上段】 か  う がい ばち  がた かい がた 筋(すじ) たて 鶴(つる)の はし 【下段】  正三位家隆(じやうざんみかりう) 風(かぜ)そよぐ  ならの 小(を)  川(がは)   の ゆふぐれは みそぎそ夏(なつ)の  しるしなりける 【上段】 かんざし   の紋 落(らく)  梅花(ばいくは) 亀(かめ)の  甲(かう) かい 折 がた かに菊(きく) 五七  桐(きり) 【下段】 後鳥羽院(ごとばのゐん) 人(ひと)もおし  ひとも うら  めし あぢ  きなく 世(よ)をおもふ        ゆへに 物(もの)思ふ身(み)は 【上段】 花 かご 片(かた) ざし 両 ざし 山桜 ひ あふ  ぎ 【下段】  順徳院(じゆんとくゐん) 百敷(もゝしき)や ふるき 軒端(のきば)   の しのぶにも  なをあまりある むかしなりける 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【見返し 文字無し】 【見返し 文字無し】 【裏表紙】 【背表紙】 KEO SEN SAI WO KURA 【背表紙下部のラベル】 JAPONAIS  328 【冊子の天或は地の写真】 【冊子の小口の写真】 【冊子の天或は地の写真】