DENKICAN NEWS  No. 109. (二) 週刊 デンキカン.ニユース 第百九号 【上段】 ピツクフオード嬢出演……………          …………………………「一門の誇」 【中段】     映画順序        大正十年一月二十八日より二月三日迄 1世界的大野球戦(実写)  二巻                ――ミユーチアル映画 2一門の誇(人情劇)  七巻 【原題 "The Pride of the Clan"】              ―――アートクラフト映画  ―――出演俳優及製作役割――― マーゲツト、マクタヴイツシユ…………………………… ……………………………………メリー、ピツクフオード ジミー、カムプベル………………………マツト、マーア △脚色者…………………… ……エレーン、スターン              チエーズ、ホイテーカー▽ △監督者……………………………モーリス、ターナー▽ △撮影者………………… …………ヂヨン、ブローク             ルシアン、アンドリオツト▽ △背景監督…………………………………ベン、カール▽ (梗概)…英国スコツトランドに在るキリアン島の島長マ クタヴイツシユの娘マーゲツトは父親の死と共に繊弱い 乙女の身を以て父親の遺業を継ぎ島の頭と成つて月日を 送つて居た。此のキリアン島にヂミーと呼ぶ青年が居て マーゲツトと互に甘い恋を語る仲と成つたが或日ヂミー は由緒ある英国の貴族の子と判明し二人は厭きも厭かれ もしない仲をヂミーの物堅い義理の父親の為めに割かれ マーゲツトは悲歎の余り亡父の日常用ひた船に打乗つて 行先定めない旅路に上らうとしたが激浪の為め危くも難 破しやうとした。之を見たヂミーは勇敢にも短艇を駆つ て凡に危急に頻【瀕】したマーゲツトを救つた。ヂミーの義父 も始めて若き二人の愛の深いのを知り非を謝した。  青春は短い。而も恋を楽しむ二人の若人の前に幸多き 前途、光明ある人生の扉か開かれた。静かに暮れるキリ アン島のたそれが【たそがれ】は平和であつた。二人の前途も。       説明者…細山夢眼 徳永天露 石野馬城 【下段】 開演時間 第一回  十時より  一時まで 第二回  一時より  四時まで 第三回  四時より  七時まで 第四回  七時より  十時まで (三) 週刊 デンキカン.ニユース 第百九号 【上段】 ローリンソン氏出演………………          ………………………「路傍の人々」 【中段】 3序曲 ブラツク ダイアモンド                  管絃楽部演奏 4路傍の人々(人情劇)  六巻 【原題 "Passers-By"】                  ―――パテー映画  ―――出演俳優及製作役割――― ナイテイ………………………………………トム、ルイズ サミユエル、バーンス……………………デイツク、リン マーガレツト、サンマーズ……リーラ、ヴアレンタイン ハーレー夫人…………………………ポーリン、コフイン ピーター、ウエーバートン…ハーバート、ローリンソン ベアトリス、デーントーン…………エレン、キヤシテイ パイン………………ダブリユー、ジエー、フアーグソン 小ピーター…チヤールス、スチユアート、ブラツクトン △原作者………………シー、ハツドン、チエンバース▽ △脚色者…………………スタンレー、オルムステツド▽ △総監督…………ゼー、スチユアート、ブラツクトン▽ △美術監督……………アルモン、シー、ワイテイング▽ △技術監督……………………ウイリアム、アル、ダン▽ △撮影者…………………ウイリアム、エス、アダムス▽ (梗概)…夜になれば立ちこむる霧の中より……しつとり 濡れた明方より、日影も知らぬ暁より、恰も疲れた蛾か 光を求むる如く・…路傍の人々はあてもなくさまよふ。 ピーター、ウエーバートンと云ふ青年は異母姉妹ハーレ ー夫人の家に雇はれた家庭教師マーガレツト、サマーズ と云ふ女と相愛し二人の間には鎹とも云ふべきピーター なる一子迄儲けたがハーレー夫人は自己の愛するベアト リスと云ふ少女をピーターに娶はせんとし無情にもマー ガレツトを追出しピーター宛の手紙を奪つて二人の仲を 裂いた。倫敦の街と云ふ街を、人間の力で出来る限りの 捜索をし而も吉報を得なかつたピーターは懊悩の極気ま ぐれに通行人を呼入れ歓待したが其の中に思ひ掛けない マーガレツトを発見し二人は楽しい家庭を作るに至りベ アトリスは結婚の指環を返して去つた。       説明者…浅野柳翠 鶴野一声 高岡黒眼 【下段】     寄稿歓迎 映画に関する論文や感想や批評や希望などの御寄稿を望みます   紙上に掲載の分には当館の入場券を贈呈します       〆切 毎月曜日正午 (四) 週刊 デンキカン.ニユース 第百九号 【上段】 「メリー、ピツクフオード嬢」 「ハーバート、ローリンソン氏」 【下段】     PROGRAMME ―One Week Only ... Commencing Friday Jan. 28th―   AN ARTCRAFT PICTURE     MARY PICKFORD in   "THE PRIDE OF THE CLAN"       The Cast Marget MacTavish ... Mary Pickford  Jimie Campbell ............ Matt Moore   Scenario by C. F. Whitaker   Directed by Maurice Tourneur   Photographed by John Broek   Scenic effects by Ben Carre     A PATIE PICTURE   HERBERT RAWLINSON in     "PASSERS BY"       The Cast Peter Waverton ... Herbert Rawilnson  Margaret Summers ... Leila Valentine Nighty ....................Tom Lewis  Beatrice ................. Ellen Cassity Lady Hurley .......... Paulin Coffyn  Pine .................... W. J. Ferguson Burns ..................... Dick Lee  Little Peter ... Charles Stuart Blackton   Story by Charles Haddon Chambers   Scenario by Stanley Olmoted【Olmstead】   Directed by J. Stuart Blackton 【右頁欄外】 (五) 週刊 デンキカン.ニユース 第百九号 【右頁上段】  内外               S坊   米国スター便り ○バール、ホワイト嬢は引続きフオツクス 社に在りてチヤールス、ギブリン氏監督の 下に第五回作品製作中なりと。 ○「七羽の白鳥「今昔物語」「青い鳥」出演の マーグエリツト、クラーク嬢は第一国際映 画として発売さるゝ「取合つた妻」に出演。 ○「連理の枝」「沖天の意気」出演のワンダ、 ハウレー嬢はリアラート映画「彼女の最初 の駈落」に主役を演ず。 ○クララ、キンボール、ヤング嬢はエクイ テイ特作映画「静かに」に出演、原作は「何故 妻を変へる?」の作者サダ、コーウアン氏に 係りハーリー、ガースン氏の提供に依る。 ○フランシス、ブツシユマン氏夫妻は相携 へ劇界に入り今後劇場に出演すと。 ○早川雪洲氏の監督なりしウイリアム、ウ オーシントン氏は最近迄ジエツス、デー、 ハンプトンの監督なりしロバート、ソーン ビー氏と共にユニバーサル社に復帰せり。 ○パ社のエルジー、フアーグスン嬢は嘗て 彼女が劇壇にて成功を収めし「神聖にして 神聖ならぬ恋」を冬期中ホーリーウツドに 於て完成すべしと。 ○ロバートソン、コール社の仏国喜劇俳優 マツクス、ランダー氏はユニバーサル市【社?】に て第二回映画「コラリーと友人」を製作中。 ○ルイズ、フアゼンダ嬢はマツク、センネ ツト氏と契約成り特作映画に出演すと。 ○ブラントンのジヤツク、カンニンガム氏 は早川雪洲氏の為に原作を執筆すと。 【右頁中段】    パテー社新連続映画  「大旋風」でお馴染深いチヤールス、ハツ チソン氏のパテー新連続映画「二重冒険」が 本年一月廿三日に発売された。監督者は「剛 勇ジヤツク」のダブリユー、エス、ヴアン ダイク氏、ロバート、ブラントン氏総監督 の下に製作されて居る。有名なジヤツク、 カンニンガム氏の脚色で飛行機、自働車、 自働自転車等が盛に使用され「剛勇ジヤツ ク」以上の大冒険が到る所に起り絶好の連 続映画ださうである。出演俳優としては、 「剛勇ジヤツク」と同じくジヨシー、セヂウ イツク嬢、ルース、ラングストン嬢、カー ル、ストツクデール氏等である。   ロイド君に面会して (一)          内田徳司  自分は春の暖い心持よい日、南カリフオ ルニアのロス、アンゼルスの最高の丘に立 てられた古い美しい屋敷を訪問した。  其処は有名なローリンのパテー、コメダ ーの撮影場で麗らかな太陽は此のキネマの 製作地にも緑の音律の中から輝いて居た。 軈て誰も知つて居る楽器が鳴り響き微妙な リズムが意識されて来た。自分は自分が何 の目的を以て此処に来たかを忘れる様な… それ程に自己忘我を感じながら扉を開いた 自分が扉を開くと等しく此の美しい音楽が 止んで晴々とした態度で幸福なるコメデイ アン、ハロルド、ロイド君は愉快気に迎へ て呉れた。自分は早速此の場合一曲をと申 込んだが彼は其の話をキネマの方にと持つ て行つた。 【右頁下段】 『私は私の喜劇其のものが人々の期待や要 求を裏切ると云ふ理由に就いて説明を致し ませう』と彼は大広間に案内しながら自分 を美しい椅子に導いて四方八方の話の末に 据へた。  彼は厳正なる意味での吾人の真の生命は (コメデイアンとして)人を感動せしむるに ある。誇張した動作、しかも不自然なる只 々俗悪に人をして哄笑せしむるに止まる喜 劇俳優に至つては全然無価値なものである まいか?と大笑しながら語つた。 ロイド君は声は低く朗かでさうして而も其 の言々句々は皆温和と落着いた人格の所有 になるものである。(未 )       大剣小拳    こんな考へ           寺島春宵  眼が廻る――。ロイドは矢張りうまい! いつもかう叫び度くなる。軽い〳〵ユーモ ア中に上品な皮肉と諷刺を有する彼の映画 は確かに現今喜劇界に於て抜んでゝゐる。 心の奥底から自然に「笑」を起させる事実 はドーグラスに比して優るとも決して劣つ ては居らぬ。「眼が廻る」の彼‼あくまでも 自由な芸風に依つて観者をして一層の興味 と親しみとを起さしめる。撮影上に於て、 タイトルに於て彼等は非常に美事な手腕を 示して居る。相手役ミルドレツド、デヴイ スの動作がもう少し軽かつたらと………… いつも乍ら感ずる。 【中央】 《割書:旬刊|雑誌》キネマ旬報《割書:高尚|優美》定価金廿銭  本郷丸山新町四番地 黒甕社発行 《割書:月刊|雑誌》活動倶楽部《割書:活動倶楽部社発行|電話下谷一二五一》  (定価七十銭・振替東京四四一八一) 大正十年一月二十八日発行定価一部三銭郵税二銭         発行編輯兼印刷人  森田勝祐       浅草公園六区三号八番  デンキカン社               電話下谷三六二二・五七七七 【左頁上段】     映画雑評記            カト錦 △贅沢▽ 矢張り「ユーコン河の侠妓」はダ ルトンの傑作であると思はしむる程左様に 此映画は平々凡作品であつた。女の虚栄心 を戒むる一種の興味ある教育活動写真に過 ぎない。ダルトンにはダルトン特有の芸術 が存在して居る筈である。それを欠いては 決して嬢の芸風――而も感銘する事が出来 る芸風を味ふ事は不可能である。苟しくも トーマス、エツチ、インス、プロダクシヨ ンとマーク附けられる以上総監督などと云 ふ地位に何時迄も収まつて居て貰ひ度くな い。そして元気ある監督たらん事を欲して 罷ま無い。唯此映画の収穫なりしは相手役 チヤールス、クラリーを得た事である。氏 の力強い芸風に感心せざる者は無かつたで あらう。妻の不実を知つて多勢の面前に於 て夫が呪ふ当り慥かにその力強さを知らざ るを得ない。その時の字幕に「諸君よ!此 の女は……」と此の女と、妻と云はず概感 的に述べた語が如何にも氏の其場合の表情 や動作にしつくり適当されて居るのは一寸 注目に価ひする。     自然は美である            森広松水  自己の身をある異国人より虐げられて居 た場合に起る争闘は……実に恐ろしい罪悪 が纏つて居るものである。而して其の為し た自己の動作は……自己で判断を下して正 当であると解するのが……そうした心理の 所有者の通有性である。  静寂を語つて居る……広々とした河上の 【左頁中段】 暁とか夕暮は極めて美しい自然が流れ漂つ て居る。フエリペ、ロペツは米国を非常に 憎んで居るメキシコ人であつた、其のロペ ツの心的経過は永久に通ぜるものでは無い  時代は展開されて行く。人種は平等であ ると叫ばれて来る………ロペツの恨みは益 々深くなつて行つた。其の結果が自己の破 滅の道を辿つて仕舞つた。彼ロペツの寂し い道程に引換へ……マリア、イネツの前途 は晴々とした……秋の空に似てそれは平和 な路を――ステツプ、バイ、ステツプ―― して足どりも軽かつた。  監督者のエドウイン、カリユーと云ふ人 は初めてのやうに記憶して居る。然し可成 に立派にやつてのける人であると思つた。 ローズメリー、ゼビーとは珍らしいアクト レツスで……僕は懐しみを感じた。果して 彼女のテクニツクは映画上に自然美を叫ん だ。人性の幸福は自然である。合理的であ るものに―最後の勝利―解特させられるの である。そうした家庭は実に確固とした根 底があるものである。極めて幽婉な…美し い…熱血の大河よ。     漫評            古川緑波  技巧的脚本……と仮にまあそう名づけて 置く。僕の言ふ技巧的脚本とは、一個の映 画劇中に劇中の人物の夢、又は空想其他仮 定の事実等を織り込んで、其の夢なり空想 なりが何処から始まつたのか気づかせぬ様 に即ち観客 【「を」脱字か】して夢なり空想なりを意識せ しめずに劇を進め、夢破れて初めてナアン ダと言はせるやうな劇筋の脚本、それを斯 く名づけるのである。 【左頁下段】  そう云う種類の映画には随分沢山接して 来た。新らしいものでは「苦節の娘」「恐怖 の夜」等がある。今度の「贅沢」も其の成功 せるものゝ一つとして数へ度い。  ヘレンが虚栄の為め夫と争つて室に帰つ て椅子につくところから始まる恐ろしい夢 を少しの破綻もなく観客に夢と気づかれる 事無しに終つた。之れは勿論脚本や俳優の 成功にも依るがヴイクトル、シエルツイン ゲルの監督が大なる努力の結果としての成 功であると思ふ。場面転換の一つ〳〵に充 分な苦心の跡が見えて居る。彼の監督は此 の点に成功せるのみならず、細かい点にも 大分苦心して居る。例へばヘレンとその夫 との口論の場合、可成長いそれをダレさせ ぬ為め撮影機の位置方向の転換を極端にま でやつてゐるところ等で洗練されたもので は無かつたが好かつた。然し劇の後半、即 ち夢の終つた後は劇としても非常に不要な 処で冗長なところだつたが事件は大分ゴタ ついて居る。然し妙にダレを感じた。又彼 の監督の後半は恐ろしく粗雑で破綻が発見 される。ヴイクトル、シエルツインゲルは 前途ある監督だ、此映画は劇としても成功 して居る。中々鋭い所がある。ダルトンも コツをよくのみ込んで居る。クラリーも実 にいゝ。端役としてフイロ、マツカロウが 出て居る。舞台装置も気分の上に大変に成 功して居た。    編輯室から ○御寄稿に関して…冗漫に亘つた長文より も寧ろ要点を掴んだ短文を歓迎します。 ○秋洋ひろし氏…の玉稿は紙面の都合上次 号に廻す事に致しました。 【左頁欄外】 週刊 デンキカン.ニユース 第百九号 (六)