《題:増補救荒事宜 完》 自序 おの連古記婦みを見る尓。近具盤三十年。と越具盤五十年の うちと尓。加奈ら須いひうゑ能事ありき。古能としご路。 たなつものゝみ乃里。何とな具をとりゆく越見るまゝ尓。天明 よ里このかた能歳月をかぞふ連ば。はやよそじ能う扁耳 なんなりけり。さ連ばいひうゑ能め具里来んこともありなん か登覚束なし。い尓し扁能かしこき人乃言尓。事あらか しめ須連ばつまづか須との給へ盤。い亭その心がま扁せん もの越と思ひたち亭。うゑを春くふ扁きわざを。何らへ連 と奈く。と里つど扁かいつ希れば。ひ登まき能婦み登盤 なりぬ。も登より民乃司尓あらぬ身能。楚の事尓さへら登 介連ば。えうな記事こそ多かんめ連。さ連どその時尓?ん亭。 民を思ふせちなる君尓見せ参らせば。ひとつ能たより 登もなりなんかし。 天保二年といふとし葉月          ?藤正謙識 救荒事冝目録 〇基金乃/萌(きざし)越早具知る事 〇凶災能署初/毛(け)替(かへ)春扁き事 〇/蝗(いなむし)越遂ふ事 〇飢饉能/兆(きざし)ある時村民へ申/諭(さと)春べき事 〇飢饉越救ふ事盤速尓春べき事 〇米刻穀越/融通(ゆづう)亭救ひの手当とする事 〇富人共尓施行米越勧る事 〇御救ひ普請の事 〇家々能貧富を調べ亭救ひを行ふ事 〇流民を指差置幷に疫邪を拂ふ事 〇行倒連もの越片付病人越介抱する事 〇粥施行の事 〇草木越と亭食登須る事 補 常平義倉社倉貯穀の事    以上 救荒事冝    〇飢饉乃きざしを早く知る事 /凡(およそ)飢饉の出たること盤。/俄(にわか)尓其年能内尓始まる尓あら須。二三年若 し具盤四五年も前かたよ里。米穀何となくとりおと里。その 上水早稲虫など能/災(わざわひ)国々よ里聞へありて。終尓盤大きゝん登 なることな連は。/牧民(ぼくみん)の官たるものはいふ尓及須。その外と亭もその 心かま扁春へきことなり。/禮紀(らいき)乃/王制篇(おうせいへん)尓と三十年能通といふ ことありて。其内尓九年の貯をな須こと越いへば。近具盤三十年の 内外。遠具盤四五十年能内尓盤飛とたびうゆることあるものな連ば。 王制尓い扁る如く。三年能たくは扁なくて盤。国楚能く尓ゝあら須 といふべきなり。故尓国天下能阿るじたらん人盤。常尓その用意 あり度ことなり。〇/黒羽(くろは)能鈴木武介といふ人。物せし/農喩(のうゆ) 尓曰。大平以来。寛永十九年壬午きゝん。さて三十三年を/経(ゑ)て。 延寶三年乙夘きゝん。古連よ里五十七年を過ぎ。享保十七 年壬子きゝん。このゝち五十一年ありて。天明三年癸夘きゝん。 是にあひし人盤今尓多し。此凶年能難度々ありし事 かくのごとし。扨その年数を計しに。近希連ば三四十年の間 あり。遠具とも五六十年能内尓は来る事と心得。今尓も 来まじき事にあら須と思ひ。強く恐連。此事をつねに わ春連須。農業を一途尓はけみ勉て。穀物を余し/貯(たくわへ)る ゆう尓心掛。少しも怠るべから須。このきゝんは人間世界の大変 なり。此時尓当り亭人能死須ると活る登盤。唯手あ亭の なきとあるとによるのみ。手当能貯なきとき盤。じつ尓あや うき事也。〇農喩尓。延寶三年より五十七年を扁て。享保 十七年能きゝんと阿連ど。元禄十四年より享保六年迄 能間。/米価(べいか)能高かりしこと。/太宰(だざい)純(じゅん)が/経済録(けいざいろく)尓と見へ。享保 より天明ま亭能間尓も。寶歴五年乙亥東国北国大飢 饉尓亭。餓死能ものも多かりしこと。/建部(たてべ)清菴が民間 備荒録尓見へたり。かくのごと具まる亭四五十年豊作つゞき 亭。きゝんのことなしといふ事はなしと思ふべし。さ連ば 上たる人盤。平日尓その御心得ありて。事尓/臨(のぞ)ん亭早くその /備(そな)へありたきこと也。〇貝原氏の農業全書尓いはく。凡飢饉 年の/兆(きざし)をば。智ある人盤夏の中尓もはや見及ふべし。尤 七月末八月初尓盤/慥(たしか)尓見ゆる物なり。さ連ども民盤/愚(おろか)なる もの尓て。其年なみ五穀の色を見て飢饉を/悟(さと)り。早く身 持越引可へて勤る事を志ら須。先秋の/実(み)のり出来ぬ連ば 悦びいさみて。春のきゝん餓死すべき事をも/弁(わきま)へ須。心尓 まかせ飲み食ひ。萬能物を用尓志たがひ求る故。春乃/畜(たくは)へ たら須して。年明連は/頓(やが)て飢る者おほし。志かれば秋尓至り 凶年の/兆(きざし)見へば。農能惣/司(つかさ)たる人。心越用ひて詳尓/察(さつ)し 民をよく〳〵さとし/導(みちび)きて。春能/餓死(がし)を救ふ心遣/肝(かん)要 なり」。又ある所尓。/領主(りょうしゅ)より飢人一日一人尓付て。米一合或盤 一合余も救米を與へら連しが。夫尓て餓死のものなし。 是を以て思へば。飢饉の兆見へたらば。民の惣司たらん人。其 下能役人尓/懇(ねんごろ)尓いひ含め。春乃きゝん餓死尓及はん事越。小児尓 物をしゆるごとく。細か尓民尓云きかすへし。扨秋一日能食物を。 きゝん難義の時盤。五六日尓も食ふへし。小民徒く〳〵登先乃 きゝん年の難義越思ひあはせたらば秋の食物一日の分を三日 尓用るとも。少も苦労阿るまじ。されば秋一日尓食ふ食越。春の なんき越/遁(のが)るゝた免尓。二日半程尓食ひ合須べし。是は菜大根 萬の/摘(つみ)菜を加へて此のごとくすべし。遠国盤所尓より。農人 一日の/粮(かて)尓白米一升余も食ふ所あ連と。七合宛の徒も里尓 す連ば二ケ月尓盤はや弐斗余の/粮米(らうまい)のみれり。十一月までも かくのごとくせば三斗余の米越得べし。古連越右尓いふ。一日尓 一合余の/飢米(うへまい)尓春連ば。二百日/秤(ばかリ)の飯米いてくるものなり。若又 初秋の徒のりちがひ。さまてのきゝんならすは。此分が倹約となり。 家内五人も七人もある家尓て/畜(たくは)へたらは。大分能穀物を 得る事なる扁し。凡きゝん能覚悟盤農尓近き役人よく /納得(なつとく)し。貧しき民を祢んごろ尓さとさしめ。農人をの〳〵 得心し。はや早田の時よりかたく慎み。食物尓菜や/芹(せり)なづな ごとき物越加へて。春の飢を恐るゝ事深くは。いか程凶年なり とも。夏のまへ尓餓死するものあるべから須。只是末の役人此事を よく/会得(えとく)し。/偏(ひとへ)尓妻子をさと春ことく。真実尓心越用て。いひ 聞する尓あるのみ。 補  按天明三年癸夘よ里五十四年尓して。去る天保七年 丙申大飢饉なり。   〇/凶災(きやうさい)能初/毛替(けがへ)須べき事 凶災丹て田畑とも植付おくるゝ時盤。はやく地利を考へて。 毛替須べし。水尓て作物をそこなはゞ。はやく水尓加満はぬ 《割書:増補 天明三天保|七の後も。とかく》   《割書:より飢饉に及|しものあり。我》 《割書:豊年はまれ尓て。|去る万円庚申》   《割書:藩城下は。三ケ所|/粥廠(かゆこや)を/造(つく)り。極》 《割書:の歳も/頗(すこぶ)る/凶(きゃう)|歎尓して。国尓》   《割書:/貧民(ひんみん)尓施行|ありき》 もの越/植(う)へ/旱(ひでり)尓て作物越そこなはば。はやく旱尓かまはぬも の越植へば。彼を失ふとも此を得て。半作尓盤なるへし。是は いか尓も時尓先だちてはやくな須をよしと須〇/宋(そう)の/真宋(しんそう) の時。/江淮(こうわい)/両浙(りやうせつ)の地ひてり徒ゞきた連ば。/詔(みことのり)して/福建(ふくけん)能/占(ちやん) /城稲(ばんいね)を取て植させ希連ば。/飢饉(ききん)を/免(まぬ)かれし登なり〇宋 の江/翺(かう)といふ人。/汝州魯(じよ志うろ)山の/令(だいくわん)堂里し尓。年々旱しけ連ば。 建安より/旱稲(ひでりいね)の/種(たね)を取て植させける。此稲は旱尓かまはず して実のり多く。久しく/蓄(たくは)ふべきものなりけ連ば。/高原(たかば)尓 植て年々食尓乏から須といへり〇宋の陳/珦(きやう)といふ人。/徐(じよ)州 /沛(はい)/懸(けん)尓/知(ぶぎゃう)たりし時。久しく雨ふりて。平原まで水清きて/穀(こく) /登(みの)ら須。/晩稲(おくて)までも取得須。民ども/卒歳(そのとし)の/具(そなへ)なかりける。/珦(きやう) おも扁らく。水/退(しりぞい)て後/耕(たがへ)し/種(たね)ま可ば時尓おく連たり。そこで きつ登/思案(しあん)し。富人のたくはへたる/豆(まめ)数千石越徒のり得て。 民ともに貸しわたし。水中尓布しむ。色いまだ/事(こと)〳〵/涸(か連) ざる内尓。豆の/甲(めばへ)はや/露(あらわ連)出て。是年食/艱(とぼ)しから須となん 〇/明季(みんのすゑ)/河南(かなん)大尓旱しける尓。/知登封(ちとうふう)の/令(だいくわん)/梅傳(ばいでん)。/麦(むぎ)のな /枯(か)るゝを見て。/蕎麦(そば)植べしとて。民とも尓すゝめて種越用意 せし免。神の告尓よつて。又多く/菜子(なたね)をとりて。蕎麦耳 取まぜてうへしむる尓。/潦雨(ながあめ)ふり出て止ざりけ連ば。蕎は一つも 生せ須。されど菜盤/勃然(ぼつぜん)として/透発(はへあがり)。常の年より数倍 とりけ連ば。民ども/頼(さいわい)尓死な須とぞ〇/陸曽禹(りくそうう)曰。蝗の食はぬもの は。/豌豆(ゑんどう)/芠豆(ぶんどう)/豇豆(さゝげ)/大麻(おうあさ)蕑麻/芝麻(ごま)薯芋桑と水中乃 /菱蕡(ひしおにばす)は蝗食は須。/王禎(わうてい)が/農書呉遵路(のうしょごじゅんろ)が諸事考えへ見る べし〇貝原氏の農業全書尓いはく。/畠稲(はたけいね)又/旱稲(ひでりいね)とも 云。又ゐなか尓て盤野稲とも云。/粳(うる)あり。/糯(もち)なり。其中尓/占城(ちやんはん) 稲と云盤/糯(もち)なり。何連の村里尓も。田尓は水乏しく。畠耳 して盤/湿気(しつけ)ありて。思ふゆう尓耕作のなりがたき所尓作り 試べき事也。思ひの外相應して。水稲の利分尓おとらざる 事もあるなり。惣じて其所尓前々より作り来る物ばかりと 思ひ入。ふるきならはしにまかせ。更尓廣き才覚工夫をば用ひ 春して。/偏(ひとへ)耳/管(くだ)の穴より天をうかがひたるふぜい。又盤/怠(をこた)り /無精(ぶせい)尓して。他の作り物盤此地尓盤阿はぬとはかりおもふ盤。 /無鍛錬(むたんれん)の至り口おしき事なり」又曰。/稗(ひへ)尓水陸の二種あり。 年なみ阿しく。稲の苗をさして後。相/續(つゞ)きて旱し。苗悉く 枯たる時か。又五月洪水にて苗流連。或盤/水底(みずそこ)尓なりて /腐(くさ)里たる時も。稗盤出くるものなれは。かねてたねを/蓄(たくは)へ をき。又は苗越もうへ置。うへつぎて難をのがるべし」。又曰。飢饉 能兆盤。初秋尓は必志るゝ物なり。農能惣司より。其下なる 役人尓/委(くは)しく云志めし。農民の食物を倹約せしむべし。 扨/蕪菁(かぶな)を多く種さすべし。畠の地古しらへ段々念を入連。 少延引すとも。/糞(こゑ)も加連地もされたるよし。凶年尓は虫多 き事あり。其ゆへ殊尓地古しらへよくすべし。若/圃(はたけ)のなき所 ならば。早田中田能跡を委しく古しらへ用ゆべし。必力越 徒くし。人々相應尓多く/蒔(まく)へし。《割書:こゑを農人志ふん尓もとめかぬる事|あらは。役人より借銀才覚して遣すべし。》 尤後能手入連古やしに心越用ゆべし。次尓大根をも多く 蒔べし。地古しらへ右尓いふごとし。/蕪(かぶ)と大古ん盤小きより。まび きて汁尓もし。長する尓志たがひ食物尓加へて穀物の助と すべし。よく農人をさとし。秋初より覚悟し。蕪大こんを 多くうへなば。たとひ領主能めぐみ薄しといふとも。貧民まで も餓死のう連へなりかるべし」又凶年尓盤そら豆をも多く種 べし。麦より少はゆくいできぬ連ば。麦尓取徒く時の助と成べし」 農人つ年〴〵蕪大根のた年を余分尓畜置べし。なみ能年尓 ても必お保く作り立。農人これを用ひて冬春麦尓取徒々く まて能穀食の助とす扁し〇津の国の老農。中村篤好が 農業夜話尓。物の水尓入たる越救ふ事を云へり。大水の時の 心得尓も成るべきかと思ひて。こゝ尓附録春。曰享和二年戌七月 朔日。関東筋も大風雨尓亭出水ありしか。摂河の所々洪水 四方尓溢連。米穀器財等尓至るまて。水亡せる事夥し。 其頃水尓入連る米穀を救はむ術を考へて。人々尓語りける 尓。信用春る考も有さ連ば。押亭云むもいかゞしく。殊尓余は 山里尓住る身な連ば。水邊へ遠く。かれこれ/徒(むなし)く打過ぬ。/翌(よく)年 夏能頃。此理越試み見む登。態と俵尓米麦小豆の三品を 入亭。池の濁たる水中尓。七日/漬(ひた)し置て試みたる尓。思ひの 如く違はざ連ば。此尓其術を記春。洪水いまだ落ざるうち。 夜中或は暁方尓。水深き池の渕へ況免置き。晴天越待て。 朝五ツ頃尓取上け。急き干須べし。夏盤盛陽な連ば。乾くこと /速(はや)し。夕方或盤曇りたる日尓。水よ里出須べから須。/焮(ほめ)きて /爛(くさ)るもの也。晴日尓/干(ほ)したるを/蓄(たくは)へ置て。挽米となし食ふべし。 少し盤/臭(にほ)ふ物也。/苗代籾(なわしろもみ)の/焼米(やきごめ)能/臭(か)尓ひとし。味さして /変(かわ)らざる也。 補 常陸の地盤。稗尓よろしけ連ば。水戸殿よりの御規定ありて。 例救荒の手当尓。年々米尓取まぜ上納せし免らる。誠尓御尤の 事なり。其ゆへは米尓てたくわへば。直段よきまゝに。諸役人とも 一時の便利を見て。う里拂ふこともあるべし。稗盤元より直 ゆ春きものな連ばうるまじ。よつて終尓手当と成べし。    〇/蝗(いなむし)を逐ふ事 蝗能害盤水旱より甚し。志かるに蝗を逐ふ尓盤。大勢/松(たい) /明(まつ)をもやし。/鐘大皷(かねたいこ)を鳴して逐ふのみ也。羽ある虫盤火越 近て去るべけ連ど。その余の虫盤志るしなし。近来油越もて 《割書:増補 去る天保|丙申のとし盤》 《割書:三度/蕎麦(そば)/弘(こう)|/法芋(ぼういも)を。多く植》 《割書:ゑて/凌(しの)ぎし所|もあり》 去ること阿り。西国尓ては大尓功ありしといへり。火越以て去る とても。表向の/形斗(かたばかり)尓て。祭礼などのごとく。さわぎちらして。 道の真中を通るばか里尓て盤。志るし少き/筈(はづ)なり。是も細か尓 心越用ひて取行せは。全く志るしなしともいふべから須 〇祷の小/雅(が)/大田(だいてん)の/篇(へん)尓。/去(さり)_二其/螟螣(めいとく)及其/蟊賊(ぼうぞく)を_一無_レ/害(そこなふ)_二我/田穉(てんちを)_一。 田/祖(そ)有_レ/神(しん)/秉(とつて)/畀(あたふ)_二/炎火(えんくわに)_一とあり。火越もて虫越焼殺春こと盤。 ふるくよりすること也。唐宋以後盤。銭穀を民尓あたへて。蝗を/捕(とら) へしむることあり。朱子も民を募て。蝗の大なる越得るもの尓は。 一斗尓て銭百文を取らせ。蝗の小なるものを得連ば。一升尓て 銭五百文を取ら須といへり。/陸曽禹(りくそうう)曰。/稗草灰(わらばい)と石灰と越。等 分尓細末丹尓して。稲の上へ/灑(そゝ)きかけ又盤/篩(ふる)ひかけば。蝗食ま 須といへり。是盤虫を去る一方なり。試むへし。石灰盤もとより 虫越除くものな連ば。さもあるべし。さて徒いで尓いはん。近来田 の/肥(こゑ)尓多く石灰越用ふ。古よりなきことな連は。田地を 又盤その米越食へば/毒(どく)也などいふものあるゆへ。役人もあや婦みて 禁するものあ連とも。い川たい盤/干鰯(ほしか)よ里下直尓て。稲も よくみのるゆへ。民ともひそか尓用ひ。今盤大分廣まりて。近も ゆるみ堂り。余西土の書を見る尓。彼土尓盤此邦よりは。久しく 用ひ来連り。/廣東新(くわんとうしん)語越見る尓。/嶺南(連いなん)尓て盤石/糞(ふん)と名つ けて専ら用ること也。田尓石多き地ゆへ。すく尓その石越焼亭はむし) 螟螣…はむし  蟊賊…ねむし  田穉…おえ /肥(こゑ)とする尓。火の気あるものゆへ。田地陽気を得て。苗長し/易(や春) く。穀多く出来て。/䵷蛤(かいる)の類を/醃死(ころす)といへ里。」かく石灰盤 利あるもの尓て。此方尓ても。田の/瘠(や)せ人尓毒なることは。いまだ たしか尓見当らさ連ば。用ひて気遣ひあるましきなり。石灰の /肥(こゑ)尓て蝗を/除(のぞ)く事はならね共。/蛭蛙(ひるかいる)の類は死するといへり。畑尓て盤。 /土龍(をごろもち)も去るといふ。〇或人の/抄書(せうしよ)を見し尓。稲尓虫付たる時。 田一段尓/燈油(とぼしあぶら)三升ばかりを流し。よく〳〵/竹箒(たけはうき)抔尓てかきまぜ。 一面尓行わたる様尓す連ば。虫さるもの也。/榎(ゑ)の油は尚さら よし。すぐ丹尓/糞(こゑ)尓なる也。こ連は河内邊尓て/験(志るし)有しこと也とぞ」 《割書:美濃邊尓て。もみ/種(た年)を寒中の水尓/貯(たくは)へ置てまくゆへ。蝗付須といへり。こ連は前以|いた須べきこと尓て。さしあたり為須べき仕方尓盤あらざる故。古々耳附録須》古連は久 しく言ひ傳へたること也。九州尓て盤専ら/鯨(くしら)乃油越用ひて。その 功大なりといへり。近頃大蔵氏の/除蝗録(ぢょくわうろく)を見し尓。文政乙酉の年 は。畿内より関東の間蝗多生し。東海道筋盤猶多か里し。 時尓予遠州尓阿りて。此田災を見るといへども。いか尓せん。鯨油の 正真なきこと越嘆息し亭ありしか。先/菜子(なた年)油尓て蝗を去 べき仕方を人尓かた里て用ひさせけ連ども。その功鯨油より /劣(をと)里ぬ連ば。速尓はさりかたかりき。茲尓大井川の辺なる。上新田村 三右衛門なるもの。その苗の衰たる越見て。早くも蝗生したる をさとり。その苗を三ツ尓わけ。その内蝗の多き田盤菜種油 多く五度尓い入。蝗のう須き田へは。油半越三度尓入。蝗の少き 田盤。少しもい連須して試ける尓。蝗多く亭油多くい連たる 田は。七八分の作となり。蝗のうすく油半入る田盤。四分の作となり。 蝗すくなくて油い連さる田盤。稲悉く/枯穂(か連ほ)となりける。此時尓 あたへて。鯨油の備あらば。いかでかかゝる蝗のう連ひ有べきぞと。嘆息 春連ども。甲斐なし。わ連きく。先年豊後尾形氏なる農夫。肥 後国尓至り。鯨油越もて。蝗を去ること越傳へしより。その術 肥後一国尓ひろごり。地頭より/備(そなへ)油と/號(がう)し。年々四斗入乃 樽尓て。五島平戸より。正真の鯨油貳千挺ツゝ買入となり。村々 田高尓應して割渡し。蝗生須と見る時盤。直尓その油越そゝ起。 蝗のひろがらざるうち尓用ふる故。油少し尓て蝗去り為せは。そ乃 患なしとなり。もつとも九州の御諸家かた盤。大躰その 備へありき。東北のうち尓ても。羽州秋田ばかりは。此備ありと 承りぬ。実尓ありがた起事也といへり。その書。気候の論。油 の善悪。油の用ひゆう。委しく載せた連と。既尓上木して。 世尓行る連ば。古々尓盤出さ須。志ある人盤本書を求めて 見るべし 補 再按。其後石灰尓て作連る米越食春る尓。味う春く。 秤耳かくる尓目方も軽る希連ば。米の性盤悪し具成 と見えたり但し人尓毒なる古登盤なき也。また石灰の 肥盤。山方草作りの田尓利多くして。平地の田耳盤 《割書:増補 大倉徳兵衛|が。豊稼録耳。》 《割書:/鯨(くじら)油の利越|/委(くわ)しくいへり。僉》 《割書:先年秋後尓|むしのつきたる尓。》 《割書:田へ流し古むべ|き時尓あらねば。》 利なく。或盤害もあると也。そのゆゑ盤/草作(くさづく)りの田盤。/石(いし) /灰(はい)越入る連ば。草はやく/腐(くさ)りて地味よくなり。草地の田盤 はじめは。十/芭(びやう)越入連てよ希連登。来年盤十一芭。その次は十二 芭登。年々増さゞ連はきかず。そのうへ。地志まりて。甚/害(がい)登 なるよし老農いへり    〇飢饉のきざし有る時。村民共へ申諭春べき事 大水大旱。また盤虫付て。田畑不作。米穀高直尓て。 飢饉のきざし見ゆる時盤。人気あらくさわがしく。 種々流害な登お古り。あしくせば/変(へん)越ノ生ノ須 扁し。奉行代官など。はや具その/機(き)をさとり。/布(ふ) /令(連)越出して。/申諭(もうしさと)して百姓とも心落付て。一/揆(き)などおこさぬ 様尓すべし〇宋の哲家能元/祐(いう)年中尓。/耀(よう)州大旱尓て。野尓 /青苗(あおなへ)なか里しかば。/畢仲游(ひつちういう)いへらく。/向来郡懸(いまゝでくに〴〵)の/賑済(春くひ)。いつも 手後連尓なる故。労しても民たすからずとて。その民/餓(うへ)尓 及ばぬ内。郡より賑ひ。且/若干(おほく)能米を/平糶(ならしうる)べしと。/搒(ふだ)示越/掲(かけ) ていひけ連ば。民ともみな/歓(よろこ)び/安堵(あんど)して。/境(さかい)を出るものなりき。    〇飢饉を救ふこと盤急尓すべき事 飢饉を救ふ尓盤むかしの/諺(ことわざ)尓も。/焚(やかるゝ)を救ふがごとく。/溺(をぼるゝ)を救ふ がごとくせよといふて。一/刻(こく)も棄置べから須。食物盤一日も/欠(かゝ)連取 《割書:さゝ葉尓??|ふりかけさせた》    《割書:増補 小民をすく|はんとする尓/府司(御ふにん)》 《割書:る尓。速尓死し|たり。凡?位の》    《割書:共盤とかく。抱泥|する故。殊遅な》 《割書:村も・油半樽盤|よりきくいへり。》    《割書:りきる古と。番の|?るなり。夫は夫尓》 《割書:さ連ば徳兵衛の?|長く。備油たく》    《割書:してをき。とも|かくも。救ひ遣す》 《割書:わへときこと也》    《割書:べき由を。早く地|下へ達しあるべし》 者なれば。救ふとても間尓合ざ連ば。詮なかるべし。且又早く 救へば。費すくなうして功多く。おそけ連ば。費多くして功少き よし。荒政要覧など尓も論し置け里。其仕方は種々り。 下の條々尓て考ふべし〇/漢(かん)能/武帝(ぶてい)の時。/河内(かだい)の地尓。大耳 失火阿りければ。汲黯(きうあん)といふ人をやりて。/視(み)せし望る尓。/黯(あん)かへり ていへる盤。火災はさのみ/憂(きづかひ)とするに足ら須。/臣(わたくし)盤河南能地を/過(よぎり) し尓。貧人とも水旱尓そこなは連たる者。萬餘家尓及ひ。食物 なくして。父子相食ふ尓至連るを見及け連ば。/仰(おふせ)なりと申て。 河南の御倉の/粟(もみ)を出さしめ。貧民ともを/賑(春く)へり。志かしながら。 行といつはりたる罪尓行は連候様尓といひければ。武帝感し 亭ゆるしける〇/後漢(ごかん)の/韓韶嬴(かんしやうゑい)の長たりし時。飢饉尓て 他領の流民。萬餘家徒どひ来りければ。/韶(しやう)倉を開て/賑(すく)ひ ける尓。倉役人是は御上の物なりといひける尓。たとひ罪せら るゝ共。/笑(ゑみ)を含んて死すべしといひて承引せざりき。大守も 平生韶の名徳を知りし故。とがめもなかりける。〇宋の/環(くわん) /慶路(けいろ)大尓餓し時。/范純仁(はんじゅんじん)その/帥(そうつかさ)となりて来里ける尓。/餓(ゆき) /殍(だをれ)路尓みちけ里。外尓米なかりけ連ば。/常平倉(志ようへいさう)をひらいて。すく はん登いひし尓。/州懸官(ところのやくにん)ひしひまゝ尓倉越開かば大罪阿るべしと いひし尓。純仁いへらく。環慶一路の/生霊(たみくさ)を。某尓御任せあるからは。 ゐながら其死をみて。すくはざる扁けんやといひてきか須。みな〳〵 左様ならば。/奏(うかゞい)のうへ仰を待扁しといへど。人盤七日食は年は死春 べし。いづ連もはかゝ里あひゐふな。某ひとり罪越受くべしといひて。 粟を出して賑ひけ連ば。一路能飢民。悉く/全活(たすかる)こと越得たり。此/類(るい) /歴代(連きだい)尓多し。/悉(こと〴〵)くは/載(の)せ須。みな仁者その身罪を得る事越いと は須。多くの人の餓死を助けんとて。上の命を待須して行ひし こと尓て。誠尓やむこと越得ぬこと也。是は上より格別の思召をもて。 かねてかゝる時盤。救ひの儀。心尓まかすべき旨。御ゆるし阿りたき もの也。〇/唐(とう)の/玄(げん)宗/開元(かいげん)二十九年の/制尓(みことのり)。/承前(まへ〳〵より)饑饉尓は。み那 /奏報(うかゞひおさしづ)を扁て。倉を/開(ひら)きしことなれど。道路/悠遠(はるか)尓て。救ひの儀 /懸経(かけへだゝり)たることな連ば。今より盤/州懸官(ところのやくにん)。及び/採鈁使(志ゆんけんやく)尓/委(まか)すべき 間。米を/給(わた)して後。/奏聞(そうもん)せよと阿り。玄宗盤格別明君ともいひ がた希連ど。此事は千古尓すぐ連しこと也。〇備前の芳烈公。寛永の 餓饉尓逢ひ至ひ。救ひの儀を老臣と相続致され候處。評議 まち〳〵尓て一決せ須。熊沢/蕃山(はんさん)先生。《割書:助右|衛門》末座よ里進み出て。 かやう能せつ/長僉議(ながせんぎ)盤無用尓御座候。早く御救ひを下ざるべき 旨申希連盤。芳烈公/実(げ)尓もと思召。早速評議一決して。多く能 銀子越出して。窮民九萬人江厚く下され。尚もれたるものも あらんか登思召。御自身又盤家老分のもの尓ても。くよ〳〵ま多 御/巡見(志ゆんけん)あるべき。仰なれども。夫も差支あらんとて。やは里蕃山 先生尓仰せ付ら連。国中をあぐり行き。御救ひ尓も連たるものあらば 直く尓賜はるべきよし尓て。銀子十〆目渡さ連。尚又郡奉行 抔へ。御自筆尓て御救ひ之儀仰渡さ連。銀子入用あらば。何不ど 尓ても出し遣須べ具。たとへ御手道具尓亭。御う里拂被成候ても。 御調達可被成間。百姓壱人尓ても餓死致させ候はゝ。其方共/越度(をちど) たるべき旨被仰渡候事。君則烈公違事などにくはし具見へ たり。人君能仁政。か具阿りた紀ものな里。    〇米穀を/融通(ゆづう)して救ひの手当とする事 大飢饉のせつ。上へ申立/積(つ)み米を出し。又盤銀銭を借り受て。 米を買入て。支配所能民を救ふ盤。/勿論(もちろん)のことなり。又折節その 地より差出すべき年/貢米(ぐまい)か。又盤他所より来合せたる米穀な ど阿らば。志ばらく留め置て救ひ米として。あと尓て言上尓及び 折越以て/償(つぐな)ひ/収(をさ)むべし。上尓在て数月の間。/収納遅(しゆなふをそな)はるといふ まで尓て。百姓の上尓ては数萬人の/露命(ろめい)を徒なぐことな連ば。/縦(たと) ひ御/咎(とがめ)を/蒙(こうむ)るとも。/牧民(ほくみん)の官たるものゝ本意なるべし。〇宋 の/乾(けん)道七年。/饒(志やう)/州(しう)旱尓て/傷(そこ)ねけ連ば。/賑濟(すくひ)を/?(とり)/書(はかり)希る尓。 /知州(ぐんだい)王/秬(きよ)申立て。/會子(ぎんさつ)五萬/貫(ぐわん)を借りて。米麦の数を/販(かひ) /糴(い連)て。民尓安く売りあたへ。その/價(あたひ)尓て又買入て。江州乃 旱傷尓依りて。ま須〳〵本州の/義倉米(ぎそうまい)四萬四千餘石越 /指置(さりゆく)し。また/上供米(ごねんぐまい)六千五百餘石越/截留(きりとめ)おきて。/本手(もとで) 《割書:増補  去る丙申|のとし。三州の一》  《割書:銭をたまはりし|古とあり。阿り》 《割書:小廣。/自(みづか)ら村野|を/巡(めぐ)り行き。飢》  《割書:がたき用心と|いふべし》 《割書:民を見かく連ば。|その場尓て米》 として/賑(すく)ひ米を/糴(かひい連)希る〇明の/顔茂猷(かんもいう)いへらく。/州懸(志ついしよ)尓/上?(ごねん) /糧米(ぐのこめ)あらば。事尓先ち/奏聞(そうもん)して。/裁留(きりとめ)おくことを/請(ねか)ひ。う里 /與(あた)へし/料(連う)越もて。/朝廷(こうぎ)へかへし奉らば。/米價(べいか)盤/自落(おのづからさが)り。/国(ご) /賦(ねんぐ)も/虧(か)希ざらん。    〇富人ども尓/施行(せぎやう)米を勧(すゝむ)る事 救ひ筋を勧る尓盤。役人信実をもて。富民尓申/諭(さと)し。或盤 米價をさげて売り出さし免。又盤價を取らず。施行をな きしむべし。是盤/上司(うはづかさ)より。第一番尓義を/唱(とな)へて/済(春くひ)を行 はゞ。布令なくとも申付をきく扁し。扨冨民ども。多分米穀 を出したるもの尓盤。上へ申立て重く/褒美(ほうび)を取行ふべし。 〇漢能/趙?(てうき)。/平原(へいげん)の/守(ぐんだい)たりし時。/青(せい)州尓大尓/蝗(いなむし)ありて。平 原尓も及て甚しく/荒(きゝん)なりけ連ば。自分の/俸(ふち)を出して。冨民 尓勧めて。穀を出して銭を/済(春く)はしむる尓。萬人以上を/活(いか)せり。 其功耳よりて。/大傅(たいふ)の官となり。/侯(こう)尓/封(ほう)ぜら連。代々/繁昌(はんじゆう)せり。 〇/後魏(こうぎ)の/樊子鵠(はんしこく)。/殷州(いんしう)の/ ?史(ぶぎゆう)たりし時。旱尓亭不作なりし かば。民の/流込(るらう)せんこと越/恐(おそ)連て。粟もてる者尓勧めて。貧者尓 /貸(かさ)しめ。人や牛まで借し遣して。/二麦(尓ばく)を植させけ連ば。/州内(くにうち) 安かりしと也。〇宋の/向経(しゆうけい)。/河陽(かいゆう)尓/知(ぐんだい)たりし尓。大尓早し/蝗(むし) つきて。民ども食尓乏しく。/官?(かくら)尓も米なかりしかば。己が 《割書:贈補 本文いふ|と古ろ。有司拘》 《割書:泥の/見(けん)尓て盤?|?か須。/命(いのち)をさし》 《割書:出して。なすべき|古となり》 /主田(もちだ)《割書:主田盤先祖の廊所|付置たる田なり》の/祖(ねんぐ)をもて賑ひける。冨人どもこ連を見/倣(なら)ふ て。/争(あらそふ)て粟越出しけ連ば。/全活(たすかる)るとの/衆(おほ)しと也。〇宋の仁家 の時。/扈称梓(こしよう志)州の/轉運使(そうぶぎやう)たり。歳大尓飢て。道尓/殍(うへ志ぬる)もの多 かりけ連ば。先その/禄米(ちぎやう)越出して。民を賑ひける尓。/冨家(か年もち)/大族(ぶがん) ども。みな米越差上んこと越願ひ出て。/全活(たすかる)もの数萬人なり しかば。仁家/勅(ちよく)を/降(くだ)して/奬諭(ほうび)ありき。〇又富人の力をかる尓。 一ツの仕方あり。宋の/杜絋(とくわう)。永平の令たりし尓。民とも他へうつり 行んとせしかば。/父老(としより)どもを/召(め)して。/諭(さと)していへらく。この方/汝(なんぢ) /等(ら)が在所を立さらぬ様尓致春手立盤なかれど。もし/留(とゞま)り 居ば汝等を/餓(うや)しはせじと申け連ば。みな命尓従ひぬ。そこ尓 て多く/券(志やうもん)をかき。/印(いんぎやう)をす扁く。めい〳〵尓/繕(わた)し。所の/豪家(ごうか)尓て /称貸(かりとゝのへ)志む。/豊熟(できよく)は/督償(とりたてつくなは)ん登/約(やく)しけ連は。豪家とも/畏(かしこま)り ける。民みな食越得て/徙(うつる)るものなし。明年/稔(てきよか)りしかば。間違 なく/償(つくな)はせける。民ども甚だ徳とせし也。    〇御春くひ/普請(ふしん)の事 大饑の節。窮民ども渡世のわざをすること阿多は須。此時こそ やむを得ぬ普請を取り行ふべし。さす連は/窮民(きうみん)どもは。/力作(ひよう) をもて渡世し。上尓も利を/興(おこ)須事な連ば。/一挙両得(いっきょりやうとく)といふ 扁し。但城郭屋敷などの/修復(しやふく)盤。材木な登多く入のみ尓て。 《割書:贈補 丙申のとし|尓盤府下の冨民》   《割書:夫々すくひあり|け連ば。/一揆囂(いつきがう)》 《割書:ども。天明尓古り|し尓や。おびたゞ》   《割書:/訴(そ)盤か川てなか|里き》 《割書:しく。救をいだし。|国々尓も見習ひ。》 人夫/遣(つか)ひ少け連ば。川さゝへ路作り。堤普請等の。多く人夫を遣ふ 尓は志かざるべき也。さ連ど品尓より。一/概(がい)尓いふべから須。豪家/抔(など) をもすゝめて。普請をさすべし。豪家を思ひ徒かする尓。三ツの 利を以てすべし。一尓盤めい〳〵注文の年を心や春く成就する といふことなり。一尓盤此をもて貧民を救はゞ。/大陰徳(だいいんとく)となりて。 /果報(くわほう)よろしといふこと也。一尓盤貧民渡世のわざを得ば。富 人をうらみ。一揆/徒党(とたう)して家屋敷を打こは須ことな登 なかるべしといふこと也。此三ツをもて勧むべし。〇/斉(せい)の/累公(るいこう) の時。/餓(うへ)しかば。/妟子(あんし)/粟(もみ)を/發(いだ)して。民をすくはんと/請(ねが)へども。 公/許(ゆる)さ須。折節/路寝(おもてごてん)の/臺(うてな)を作ることありしかば。/晏子(あんし)/吏(やく尓ん)尓 命じて。やとひ/賃(ちん)を/重(おほ)くして。/日限(尓ちげん)を/徐(ゆるやか)尓せし尓。三年たちて /臺(うてな)成就し。民も食尓不足なし〇宋の/趙抃(てうへん)。/越州(ゑつ志う)尓/知(ぐんだひ)たりし 時。歳大尓餓しかば。いろ〳〵/賑(春く)へる上尓。小民ども四千百人を /傭(やと)ふて。城越修復し。三萬八千工の料を厚くして給へしかば。 民ともたすかりしと也。〇宋の/皇祐(くわういう)二年。/呉中(ごちう)大餓なりし 時尓。/范文正公仲淹(はんぶんせいこうちうゑん)。/浙西(せつせい)越/領(連う)せら連たりける。粟を/發(いた)しなど して。賑ひ筋甚/備(そな)はりたる上。/呉人恐競渡(ごひとかいtかいと)をこのみ。又仏事越 このみしかば。民ども尓競渡をゆるし。/太守(ぶぎやう)尓も。自身出て 湖上尓宴游な登し。/居民(ところのたみ)春より夏まて。/巷(ちまた)を/空(から)尓して出て 遊びき。太守また/諸(もろ〳〵)の仏寺をよび出して。かゝる/歳柄(としがら)尓盤。/工(やとひ) /價(ちん)至て/䬻(やす)け連盤。大尓/土木(ふしん)を興(おこ)須べしとさとしけ連ば。諸寺皆々 /工作(ふしん)を始しむ。又/新(あらた)尓/倉厫吏舎(どざうやくにんべや)を作りて。日々/千夫(せんぶ)を/役(つか)ひ け連ば。/監司(おめつけ)その/荒政(きゝんのまつりごと)尓/恤(かまは)ざること越/劾奏(さつと)しける尓。公古連盤 有餘能財を/發(いだ)して。民を/恵(めぐ)む/所以(ゆゑん)尓て。/傭力(ひよう)のものとも食 尓阿りつきて。/溝壑轉従(みぞかいまろしたみ)て死春る尓いたるを/免(まぬ)かるべしと/奏(そう)し ける。是の歳/杭(かう)州ばかりは。餓た連ども/害(がい)尓盤ならざりき。〇宋 能/歐陽修(おういようしう)。/潁(えい)州尓/知(ぶぎやう)たりし時。歳大尓餓し尓。/幾黄河(くわうが)の/夫役(ぶやく) を/免(ゆる)して。萬餘家も/全(た須)かりき。その上民尓/工食(ちんせん)を/給(あたへ)て。/諸(もろ〳〵)乃 /陂(つゝみ)を修復し亭。民の田地尓/漑(そゝ)ぎしかば。悉くその利を/頼(かふむ)れり 〇宋の/汪綱(わうかう)。/蘭谿(らんけい)尓/知(ぶぎやう)たり。歳旱しけ連ば。冨民尓すゝ免て。 /塘堰(つゝみせき)を/漉治(ふしん)し亭。大尓水利を興せしかば。飢たるもの其力尓 食んて。民ささいわひ尓/蘇(よみがへ)連り〇宋の邵霊甫(せう連いほ)といふ人。/宜興(ぎこう)登 いへる所の豪家尓て。穀数千石越/儲(たくはへ)たり。歳大尓餓し時。ある ひと時尓乗して/糴(たる)へしと/請(すゝ)むる尓。利をもとむる也とてきか須。 また/値(あたは)を/損(さけ)てら連と/請(春ゝ)む連ど。名越も登むる也とてきか須。 さらば家内尓つみおくやといへば。/成画(か年てのつもり)阿りとて。悉くたくは扁 たる穀を/發(いだ)して。/傭(ひよう)を/雇(やと)ひ。その/懸(こほり)より/湖鎮(こちん)尓いたるまで。 四十里。の間の道を徒くり。/蟸湖損塘(連いこくわうたう)などの水道を/浚(さら)へたること 八十餘里/罨画渓(あふくわけい)の水を通して。/震澤(しんたく)尓入連しかば。/邑人争(ところのものあらそふ)て 役を受て。皆/全活(たすかる)う扁尓。/水陸(すゐりく)もまた/利(かつて)よくなりき。この陰徳 尓て子孫/及第(志ゆつせ)して/繁昌(はんせう)せり。人みな/積善(せきぜん)の/報(むくい)といへり。〇宋の/莆(ほ) /陽(いやう)の寺尓て。/大塔(たいたう)を/建立(こんりう)せんと須。ある人奉行/陳正仲(ちんせいちう)尓。加々る /荒歳(きゝんどし)尓あるまじきこと也。と免よ加しも行へば。正仲笑ふては道 らく寺僧どもよも自身尓塔を作る尓盤あらじ。此国の人越 傭ふへき也。さ連ば冨家より歛(とり)たてゝ/窶輩(びんぼうにん)尓/散(まきちら)須なり。是盤 小民とも食にあり徒きたるうへ尓。一塔を/嬴?(と?ぶん)尓するな連ば。かゝる /荒歳(きゝんどし)尓盤。僧の塔を作らぬこと越恐るゝのみとて止めざりき。〇/明(みん) の/英宗(えいそう)の/正統(しやうたう)五年。/畿内(きない)尓/災(わざわい)ありて。/民食贍(たみのしよくたら)ざりけ連は。/右僉(いうせん) /都(と)御史(ぎょし)張純(てうじゆん)と。/大理(だいり)少卿(せうけい)李畛(りしん)と。勅をうけて。/京城(みやこ)の飢民尓。 三月のあひだ/飯(めし)を/給(あた)へ。そのうへ/奉天華蓋謹身(ほうてんくわかいきんしん)の三/殿(でん)と。/乾(けん) /清坤寧(せいこんねい)の二宮を/造(つく)り。/畿内(きない)能民二年の間/歩役(ぶやく)をゆるし。父母 あるもの尓盤。人ごと尓米二石つゝ越賜へり。〇明の孝宗の/弘治(こうぢ)元 年尓。/張敷華(ちやうふくわ)。/湖(こ)廣(くわう)の/布(ぶ)政(ぎやう)使とな連里。歳餓しかは。/粟(もみ)を/給(あた)へ /粥(かゆ)を/散(くば)りたるなどせしかへ。官銭を出して。/学宮(かくかう)を修復し。 /傭(ひよう)の/値(ちん)をやりて。/餓(うえ)たる者を/業(たは)くるとなん。〇明の/萬歴(ばん連き)の/頃(ころ)。 御史/鐘化(志ようくわ)。民荒を救ひし尓。/各府州懸(くに〳〵)尓。学校城郭を 修復し。河を/濬(さら)へ。/堤(つゝみ)を/築(きづ)かしめ。/工役(にんぶ)を/募(つの)り。人ごと尓日尓米三升 を/給(あた)へけ連ば。/公私(かみしも)とも利となりき〇/落穂集(をちほしう)尓。天正年中 尓。五畿内大尓不作米穀の直段高直尓成候故。軽き者盤 飢尓及ひ。新/乞食(こじき)抔も餘多出来候得共。米拂底の時節 故。人の救ひ施しも無之尓付。道路尓例連相果る者無限義 を。豊臣秀吉公聞及び。殊之外苦労尓被成。/俄(尓はか)尓加茂川 /桂(かつら)川等の/提(つゝみ)普請を被申付。/土砂(つちすな)を持運候程の輩尓盤。鳥 目越あたへ被申候越も川て。飢饉の難越/遁(のが)連候登なり」和漢 古今仁人智者の/所為(志わざ)。/符(わりふ)を合せたるごとし登いふべし〇飢饉 の時盤。第一尓一揆の起る憂あり。夫尓盤普請作事を/興(おこ)せ ば。民とも食尓あり徒くのみなら須。仕事尓氣越取ら連て。他 事思ひ付ざる故。奸民ども/誘(さそ)ふとも。/徒党(とたう)はすまじき也。すべて 天下尓/変(へん)ありて。民心/穏(をだやか)ならざる時盤。加々ること越取行ふべき也。 /天草陣(あまくさぢん)能とき。/討手(うつて)の/大将(たいしやう)板倉内膳正殿。軍中尓て討死あり 希連ば。江戸も騒動して。民心さはがしく。種々流言おこり。変をも 生須べき勢なりける尓。加賀の/利常(としつ年)郷尓かありけん。公儀へ願ひて。 屋敷地越申受。大普請を始しめ。町中のものを雇ふて。多 く賃銭を取らせ。材木引地徒き尓盤。/音頭(をんどう)を取りきやりなど うたひ。美くしく出立せけ連ば。平生日雇尓出るものは勿論。身 上相應のものも。きそふてやとは連行き。見物人盤ちまた尓 満ち。江戸中加賀/邸(やしき)普請の話のみ尓て。天草の沙汰盤/薄(うす) らぎゆ紀。その内/静謐(せいひつ)尓な連りとかや。との事何連の書尓てか 見当りしが。久しくなりてわす連ぬ。 補  古の事後尓志ら扁し尓。加賀利常郷夜話登いふ書尓 《割書:増補 凶歳尓盤|とかく。いづかたも》    《割書:貧民ま春〳〵|たづきなし。范》 《割書:/倹約(けんやく)の/觸(ふ連)いづ連|ど。/無益(むえき)の古と也。》    《割書:文正の事を思ひ|て。/変通(へんつう)の考|道べし。》 《割書:貧民共盤倹|約盤いふまでも》 《割書:なく。冨民かく|べつ取締りなば。》 見へたり    〇家々能貧富を志らべて救筋を行ふ事 救米を遣須尓。下役又盤村長共。/依恰(えこ)贔屓(ひいき)ありて。さまで困 窮尓及はぬ者など。多く米越得て。今日を送り兼る貧民 ども。却てきつと米越得ぬこともあるなり。さ連ば貧民の内 尓ても。三四段尓分て。次第を立て。依恰なき様尓救ふべし。 且施行場へ徒どひ来て/混雑(こんざつ)尓及はゝ。怪我人もある扁く。 老弱婦女の類盤。存分尓救ひ尓あづからぬこともあるべけ連ば。 是も次第を立て渡すべし。〇宋の/蘇次参(そしさん)。/澧(連い)州の餓を /賑(すく)ひし尓。/抄剳(かきいだし)かた/公(おほや希)ならざること越う連ひ。紙/半幅(はんまい)つゝ越わたし。 民ども銘々の口数/若干(いく尓ん)。大人/若干(いく尓ん)小児/若干(いく尓ん)。米/若干(いくら)。入用登 /書(かく)しめ。/印形(いんぎやう)をすへて。おの〳〵の/門首(かどぐち)の/壁(かべ)尓/貼(はら)しむ。もし/虚偽(いつはり) あらば人尓/告首(そ尓ん)さしめ。曲事尓申付く。また米受る時。/冗雑(こんさつ)せん こと越おもんぱかり。/一隊(ひとくみ)幾人登/定(さだ)めて。/旗(のぼり)をわたし。夘の一刻 耳盤/第一隊(いちばんぐみ)尓渡し。二刻尓盤/第二隊(尓ばんぐみ)尓渡し。だん段々次第 をもて。/辰巳(たつみ)の時尓至りしかば。自ら/冗雑(こんさつ)なくして。老幼婦女 悉く免ぐみ尓進連ざりしと也〇また/澧陽(連いいやう)の/司戸(やく尓ん)たりし と紀。かり尓/安郷懸(あんきやうけん)を阿づかりける尓。/大滂(おほみづ)尓あひしかば。/典押(てだい)尓 いひつ希て。/懸(こほり)の/図(ゑづ)越取出して。/郷(ぐう)ごと尓/損耗(そんもう)の多少を分ち。 /色墨(いろすみ)尓て/抹出(そめいだ)し。/全潰(まるつぶ連)のところ盤/緑(こんじやう)を用ひ。/半潰(はんつぶ連)の處盤 /青(あい)を用ひ。一向水の出ぬ/郷(ごう)盤黄を用ひ。その/図(ゑづ)を/隠(かく)し置 きて。/郷司(しやうや)尓命して。右の/振合(ふりあひ)尓/郷(ごう)ごと尓図を作り。古連も 青緑黄の三色尓て/抹出(そめいだし)てもち来らしめ。此方の図と/参(あはせ) /給(こゝろみ)け連ば。/潰(みづ)を/検(じゆんけん)せ須して。/分数(ふりわけ)を知りて。/償科(ねんぐ)を申付。/賑(すく) /濟(い)を取斗ひけること。甚/簡要(かんやう)也とぞ〇宋能李/理(かく)。/毘陵(びりよう)尓/守(ぶぎやう) たる時。民飢け連ば。/災傷(そんもう)を仁義禮智の/四等(よだん)尓分て/抄剳(かきいだし) し。仁の字盤/産税物業(かぶかとく)ある家也。義の字盤/中下戸(ちういかのたみ)尓て。/産税(かとく) あ連ど/災傷(そんもう)尓て/収(とりみ)なき家なり。禮の字盤/等(ごだんめ)の/下戸(こびやくせう)と。 人の田を/佃(あてづくり)して。/薄(すこ)しく/藝業(なりわい)ありて。/餓荒(きゝん)尓あふて/求趂(もとめあるき) がたきものなり。智の字盤。/孤寡貧弱疾廃乞焉(みなしごやもめひんぼう尓んやまひものものもらひ)なり。仁の字は /賑救(春くひ)なく。義の字盤。米をや春く/糶(うり)あたへて/賑(すく)ひ。禮の字盤。 半分済ひ遣し。半分盤/糶(うり)あたへ。智の字盤/全(まる)で/濟(すく)ひ。何連 も/票(きつて)を/給(わた)し。/口数(くちかず)越/計(かぞふ)ること常法のごとし。但濟ひ米盤/願榜(まへもつてふだ) を/掛(かけ)て。十日尓/一次(いちど)つゝ/官(やくにん)尓/委(まかせ)て/散給(くばりわたし)ける。民どもその法を後 の世まで/称(ほめ)しとかや〇丁夘のとし。/鄱陽(はんいやう)/旱暵(ひでり)なりし尓。 又/義倉米(ぎさうまい)をもて。毎日城中尓て多く場所を/置(もふ)け。/價(ねだん)越 /減(げん)じて出し/糶(う)り。まづ城の内外の民を救ひ。そこでその銭を 米の/價(ねだん)尓/准(じゆん)し。口越/計(かそへ)て/逐月(まいげつ)/一頓(いちど)/支給(わりわた)して。/村落(ざいご)の民越 濟ひしかば。/深山究谷(しんざんきうこく)の民まで実の/恵(めぐみ)尓/沾(うるほ)ひ。/偸竊(ぬすまれ)/拌扣(すたり)の 弊もなく。一物を両用して其利おほひなりしとぞ〇宋の/余童(よどう)。 /蘄(き)州の/賑濟(春くひ)尓。/悉(こと〴〵)く/戸口(ここう)の/数(かず)を/括(志ら)べ/第(志だい)して/三等(さんだん)と須。/孤(すてご) /獨(ひとりもの)の自分/存(すだ須)ことならぬもの盤/専(まる)で/賑濟(すくひ)。/下戸(こびやくせう)食尓/乏(とぼ)しきもの 盤/賑糶(やすくうり)あたへ。/田地(でんぢ)盤有ながら/耕(たがへ)す/力(ちから)なきものは/賑貸(かしわた)し。 /郷村(がうそん)の遠近尓/随(したが)ひ。/粟(もみ)を/均(なら)して/場(ばしよ)越/置(もふ)希。場ごと尓/総首(かしら)阿 つて。/出納(だしい連)を/主(つかさど)り。十場尓/一官吏(ひとりのやく尓ん)あつて。専ら/伺察(ぎんみ)須。〇宋の /袁爕(ゑんせう)/江陰(えいん)の/尉(ぶきやう)たり。/浙西(せつさい)大尓餓しかば。/常平(じやうへい)/使者(ししや)/羅(ら)/點(てん)。 /賑恤(すくひ)の/任(尓ん)越うく。/爕(しやう)命して。/保(ひとくみ)こと尓/図(ゑづ)一枚を/畫(か)き。/田畴(たくろ)山水 道路/悉(ことごと)く載せ。/居民(ひやくせうのいへ)をその間尓/分布(まくばり)。/名数(あざなかず)/治業(かとく)までのこら須 書付。この通徒みあげて。ひと/懸(とほり)としけ連ば。/征發追胥(とりたてよびだし)のたび ごと尓。/図(ゑづ)を/披(ひら)希ば立どこ路尓/決(わかり)け里。此をもつて/荒政(きゝんのまつりこと)の/首(いちばん)となり けり。此外/歴代(れきだい)/賑施(春くひ)の法/数多(あまた)あ連ど。悉く盤志るさ須〇以上 みな/有司(やく尓ん)能上尓て/欺(あざむ)か連ざる様尓取斗ふ法なり。人 君の思召盤。たゞ民の/難渋(なんじう)を/憫(あは)連むをもて第一として。民の /欺(あざむき)を受さる用意盤次とすべし。宋の時呉中大尓餓しかば。/賑恤(春くひ) の/評議(へうぎ)あり。民どもとかく/欺泄(いつはる)をもて/本部(そのゆくすじ)尓/勅(ちよく)して。/家(か)/別(べつ)尓 /料(ぎん)/撿(み)せしむ。/左(さ)/諫(かん)/議(ぎ)/大夫(たいふ)/鄭雍(ていいよう)い扁しく。この/令(おほせ)ひとたび/布(ふれながさ)ば /吏(やくにん)専ら民を/料(ぎんみ)して。/災(なんじう)をば救はじ。さらば民ども/餓死(うゑじ尓)いた須べし。 /冨(と)之/四海(しかい)をたもてる御/身上(しんしやう)尓て。/重撮(すこし)の/温(ついへ)尓氣を徒希て。/比屋(いえ〳〵) の死尓いたる事を。かまひゐはぬやと/奏(そう)しけ連ば。天子尤也登て 右の/勅(ちよく)を止めら連ける。人君の救ひを行ふこと盤。/実(じつ)尓/鄭雍(ていいよう)の言 のごとく阿りたきもの也。〇さ連ど又/真(まこと)の餓たる者はかりを見 分て救ふ/一方(ひとつの志かた)あり。宋の/鄭剛中(ていかうちゆう)。/温(をん)州の/判(ぐんだい)たり。歳餓て/流(りう) /民(みん)ども道尓みちけ連ば。/太守(ぶぎやう)尓勧て/倉(くら)を/發(ひらひ)て賑はしむ。/太守(ぶぎやう) 恐らく盤/実(じつ)の/恵(むぐみ)餓たるもの尓及ばしといひしかば。/答(こたへ)ていは具。 /指置(しかた)あるとて。萬銭を取里出して。一文ごと尓一字を/押(か)き。夜 持出て/坊巷(まち〳〵)を阿るきて。餓て/臥(ふ)せるものを見連ば。一銭つゝ/給(あた)へ。 /押字(かけるじ)を/拭(ぬぐ)ひ去ることなか連といひ付て帰り。明朝右の銭越 持来るもの越/憑(しようと)尓して。米越給へけ連ば。銭たるものもるゝ ことなし。/太守(ぶぎやう)も殊の外/歎服(たんぷく)しけるとなん。 補 審戸といふこと。救荒の書尓見えて。家々の貧冨を志らべ。次 第越つく扁し。此盤村役人の骨折次第尓て。大尓為尓なる扁き なり。    〇/流民(たしよもの)を差置幷尓/疫邪(ゑきじや)を拂ふ事 大飢饉の時盤。他領よりも流民食尓就て多く立入ることあり。 凶年といひ人阿し多く立入ば。疫邪流行することあり。/街道(かいだう) 筋の/塵芥(ぢんがい)積りて穢らわしけ連ば。別して/瘟(うん)氣を招くゆへ。先 掃除を申付。くま〳〵迄清潔尓して。その/萌(きざし)を/防(ふせ)く扁し。又盤 寺社などの廣所を見立て。小屋掛して差置き。いか尓も込み 《割書:増補 従前の救|ひ方は。村高耳》     《割書:もるゝなり。右審|戸の法をも?》 《割書:/應(おう)じて救米を|/与(あた)ふる古とあり。》    《割書:抜救尓春連ば|貧民/恵(めぐみ)を?》 《割書:夫尓ては。高持の|勝手よき物。救》    《割書:/露命(ろめい)を。つなく|べき也》 《割書:をうけ。佃戸など|の難渋者。救ひ?》 合はぬ様尓すべし。又/頭分(かしらぶん)を立て。法をもて正須扁し。/臥(ふ)し /所(どころ)幷尓出入の時を定め。毎日食物を受取時も。/右王往左往(うおうざわう)乱妨せ ざる様尓申付。若命尓/違(たが)ふものあらば。志ばらく食物を渡さ須。再 ひ違ふことあらば。即時尓境外へ遂出須扁し。流民の/健(すこやか)なるものは。 夫々の仕事を試さしめ。又盤民間の日雇尓も出させ。/座食(ゐぐひ)す ること越評須べから須〇宋の/韓魏(かんぎ)/公琦(こうき)。/益州(ゑきしう)尓/知(ぶぎやう)たりし時。 歳餓て流民道尓満ちしかば。/琦(き)人尓すゝめて/粟(こめ)を入連しめて。 /粥(かゆ)を設て/濟(すく)ひ。明年/糧(かて)を/給(あたへ)亭帰し遣春。又/壮者(わかもの)を/招(ま年)き/募(つの) 里て。/等第(志だい)を付て/禁軍(きんりづきあがる)とし。一人/軍(くみ)尓/完(い)連ば。その扶持尓て 数口能家/全活(た須かり)ける。凡流亡の民。一百九十萬を/活(いか)しけるとなん。 その後/陝西(せんせい)餓し時も往て/賑(すく)ひ。流民一百五十人/活(いか)し ける。その/陰徳(いんとく)尓や。その身/宰相(さいしやう)となりて。/魏郡王(ぎぐんわう)尓/封(ほう)ぜら連。 五人の子皆/貴(たつと)く。/家督(かとく)の/忠彦(ちうげん)盤父尓/継(つい)て宰相となりしと也 〇宋の/富鄭考公弼(ふていこうひつ)。/青州(せいしう)尓/知(ぶぎやう)たり。をりふし/河(か)/朔(さく)大水尓て。その 民ども青洲へ徒どひ入りしかば。公/部内(志はいぐ尓のうち)尓て/豊稔(できよかりし)五州を見 立て。その民尓/勧(すゝめ)亭/粟(こめ)十五萬石を出し。/官庫(おくら)の米越加へて 在々へ/貯(たく)はへ置。/公私(かみしも)の/盧舎(ながや)。十餘萬間越見立て。流民を/散(くばり) /處(おき)。官吏の/闕(おき)を待て。役付んとする者尓禄越/給(あた)へて。その役掛り とし。民の/聚(あつま)る所へゆきて。老弱/病瘦(やみやせ)たるもの尓食を與へ しむ。官吏尓骨折次第尓て。申立て責越行ふべしと約し。五日 目尓盤人越やりて。酒肉をもて/労(ねぎら)ひけ連ば。人々力越/尽(つく)してつと めける。流民の死するものは。/叢塚(おほはか)へ/葬(はふむ)り徒かはしける。明年麥 大尓熟しけ連ば。流民どもへ/糧(かて)をあたへて帰しける。す扁て 五十餘萬人を/活(いか)し。/募(つのり)て兵とせしもの萬餘人也登楚。 まへ〳〵より流民を救ふ尓。城郭の内へ/聚(あつ)めて。/粥(かゆ)を/煮(尓)亭 /食(くらい)しめけ連ば。疾疫なども起里。またおし合ひ/踏籍(ふみあふ)て死 するものあり。また次第を待て粥をもらふ尓。数日の間食せ須。 尓はか耳粥を得て。皆/僵仆(たおれ志ぬ)尓至る。名盤救ふといへども実は殺須 こと也。志かる尓公。法を立てること/簡便(かんべん)尓/周至(ゆきわた)りた連ば。天下傳 へて/式(しき)とせりといへり〇宋の/滕達道(とうたつだう)。/鄆州(うんしう)尓/知(ぶぎやう)たり。歳餓耳 のぞみけ連ば。/淮南(わいなん)の米二十萬石越/乞(こ)ひ/備(そなへ)としける。後淮南東 京皆大尓餓し尓。達道ばかりは。乞ひし米阿りけ連は。城中の冨 民どもを召して。いひ聞せける盤。流民ども追付来るべし。その まゝ差置ば疾疫起りて。汝等迄難義すべし。この城外耳 /廃営田(あ連たるでんぢ)ある尓よつて。/席屋(むしろごや)を作りて待受扁しといひける耳。 民ども/諾(うけたま)はり/屋(こや)二千五百間越作る尓。一夕尓成就したり。/鍋炊(なべかま) /器用(しよだうぐ)みな/具(そなは)る。流民ども追々参りける尓。次第尓小屋を渡し。 /兵法(へいはう)尓て/部勤(とりしめ)。婦女盤/炊(うか)しめ。少者盤/汲(みつくま)しめ。壮者盤/樵(たきゞ)とら しめ。民ども家尓居るがごとし。天子より使者を下して見せし むる尓。/盧舎(ながや)/道路縄(みちすぢなわ)を引渡し。/碁(ご)を/布(志ひ)たるがごとく。/粛然(しつとり)として樵 /営陳(ぢんや)のやうなりしかば。使者大尓驚き。その通絵図尓して上覧 尓入連し尓。天子/詔(みことのり)を下して褒美せら連ける。此たひ/活(いかせ)しもの 数萬人也とぞ〇流民尓仕事をさせしは。唐の/王方翼(わうはうよく)。/粛(志ゆく) 州の/刺史(ぶぎやう)たる時。蝗多きとしなれと。その境尓盤なかりけ連ば。 鄱郡の民ともみな入込ける。/方翼(はうよく)/私銭(じぶんぜに)を出して。/水磑(みづうす)を作 らしめ。その/直(あたひ)をもて銭を/濟(すく)ひ。数十百/楹(けん)の/舎(こや)越作りてさし 居き。/全活(たすかる)ものおびたゞしと也〇宋の/董?(とうい)いへらく。流民来 らば法をたてゝさし置く扁し。/富(ふ)/弼撨採打魚(ひつたきゞとりかはがり)をせしむる などの類也。さ連登/修堤濬河(つゝみぶしんかはさらへ)などの公私両便なる尓盤志か須。 さもなくば官司より銭越出して。民のもてる/芦場(よしあしおゝくあるところ)。又/柴(たきゞ)/篠(志のだけ) ある山をかりて。流民耳/樵採(きこり)せしめ。官より銭を遣して。その取り 来りし物を/買(かひ)上げは。流民どもその力尓て食するうへ。雪ふりて 寒記時尓いたりて。/價(ねだん)を/平(なら)して売り出さば。また小民ども 乃勝手尓なるべし。    〇/餓茡(ゆきだを連)ものを取片付病人を/介抱(かいはう)する事 凶年尓盤/疫癘(ゑき連い)流行する者也。/餓茡(ゆきだをれ)もの路頭尓みつ連ば。 癘氣越生する故。その時々取片付さ須べし。是生者の為 のみならす。仁者能死者/憫(あはれ)むことかくあるべきことなり。また 病みて死尓至らぬもの盤。醫業越與へて救ひを遣る須盤。申迄も 《割書:贈補 /鳥(とり)も/獣(けもの)|も。/終日(しうじつ)。あさり》      《割書:/業(わざ)をして食尓|ありつくべきはづ》 《割書:あるかねば。食を|うる古とあたはず。》      《割書:なり。夫尓心得|違ひの者あらば。》 《割書:流民も足手|あ連ば。/相應(さうおう)の》       《割書:きびしく/取締(とりしむ)|るべし》 なく。病人小屋を立て。専らその/介抱(かいほう)を申付たきもの也〇死 者越葬ること盤。後巻の/周暢(志うちやう)河南の/尹(ぶぎやう)たる時。大旱尓て久し く/祷(いの)連登雨無か里し尓。/暢雒城(ちやうらくじやう)の/傍(かたはら)尓。/客死骸(たしよものしがい)萬餘越 葬り遣しけ連ば。即時尓雨ふり。その歳は/稔(ほうさく)なりとぞ〇後 周の/賀蘭祥(がらんしやう)。/荊州(けいしう)の/刺史(ぶきやう)たる時。/盛夏(しよちう)/亢陽(ひでり)せしかば。自身 境内を/巡見(じゆんけん)して。政の/得失(よしあし)を/観(み)し處。/古冢(ふるつか)を/發掘(ほりおこ)して。 /骸骨(がいこつ)を/暴(さら)し/露(いだ)してあ里しかば。その所の/守令(だいくわん)尓い屋らく。 仁者の政はかく阿るまじといふて。/収葬(とりはふむら)しめけ連ば。/即日(そのひ)雨ふり て。その年盤/大有(ほうさく)なりとぞ。是みな/災(わざわい)をやむるのみなら須。/感(かん) /應(おう)も/速(すみやか)なること也〇病人を/憫(めぐ)むこと盤。漢の/鍾離意(志ようりい)。/會稽(くわいけい)の /?郵(したやへ)たりし時。疫大尓行連。死するもの萬越もて/数(かぞ)へけ連ば。 意/獨身(ひとりみ)みつから/隠親(いんしん)《割書:隠親は謂_三親|自隠_二恤するを之を_一》し。醫業乃こと越/経給(せわ)せしかば。/所部(志はいしよ) のもの多く/全濟(た春かり)しとぞ〇/随(ずい)能/辛公義(しんこうぎ)。/岷州(みん志う)の刺史たり。所之乃 風俗尓て。一人疫を病めば。/闔戸(かるいのもの)すておきて/避(さ)け出け連ば。病者いつ もた春から須。/公義(こうぎ)その/習(なら)はしを改たく思ひ。病人をば/輿(かご)尓入て。 自分の/?中(しよゐん)尓持参らしめ。/親身(じしん)尓/拊摩(ゐでさ須)り。病者/愈(いゆ)連ばその 家内共越召して引渡しけ連ば。その子孫ども。/感泣(かんきう)して徒連 帰り。/敞風(へいふう)遂尓/革(あらた)まり。/合境(志はいしよのもの)公義を親しみ/戴(いたゞい)て/慈母(じほ)といひ ける〇宋の/趙抃(てうへん)。/越(ゑつ)州尓知たり。/呉越(ごえつ)大尓餓しかば。/多方(いろ〳〵)救ひ。 春耳なりて。疫を病むもの多かりけ連ば。/坊(こや)越作りてこ連を/處(を)き。 /誠実(じつてい)なる/僧人(ばうず)を/募(つのり)て。/看病人(かんひやう尓ん)とし。/各坊(こや〳〵)へ/分数(くばりおき)て。/早晩(あさゆふ)病人の 醫薬飲食を世話し。/麁(そ)/略(りやく)なき様尓せしめけ連は。人みな/活(たすか)ること を得たりとなん〇人君尓て病人越/憫(あは)連みしは。/歴代(連きだい)尓多き うち尓。宋の仁宗のこと盤格別なりける。/至和(しくわ)元年正月。京師疫 行連け連ば。/内(きんちう)より/犀角(さいかく)二ツ越出しゐひ。/太醫(おゐしや)尓遣し。/薬(くすり)耳 /和(ま)ぜて民の疾を療治せしめよと仰ける。その一ツ盤/通天犀(つうてんさい)と いふて。得難きものなりしかは。左右のものども留置て。/服御(おめし)尓 いたさんといへと。帝の仰尓。各あ尓/異物(いぶつ)を/貴(たつと)んで。百姓越/賤(いやしん)せん やとて。御前尓て/打碎(うちくだか)しめたりとぞ〇武将感状記尓。/北條(ほうぜう) /氏綱(うぢつな)伊豆へ攻入時。或る里の家ごと尓。二人三人病臥しける。その 故を問せらるゝに。/壮(としわか)なる者盤。皆/乱(らん)を/避(さけ)て山林尓/逃竄(尓けかく)連候。我らは /疫痢(ゑきり)を病候尓よつて。起ることも叶は須して。敵の手尓死ぬる をもかへり見須候と云。氏綱/憫(あは連)みて。その里を/侵(をか)さ須。一物をも/掠(かすめ) とら須。薬を/給(あた)へ食越/與(あた)へら連ぬ。民大尓悦ぶ。是より衆人聞傳 へて志越/帰(き)須。氏綱伊豆を得るの/基(もとい)とな連り。《割書:謙按尓。北條氏伊豆|を取りたるは長氏なり。》 《割書:こゝ尓氏綱といふ誤なり。長氏盤伊勢新九郎と號し。後尓姓越|北條と改め。年寄りて早雲といふ人なり。氏綱盤早雲の子なり》 補 都盤いふまでもなく。国々の城下尓ても。医生は多くあるもの也。 さ連登醫書生尓盤豚をとらさす。郷中の醫師少き所尓盤。若 輩醫尓ても應届春連は。手分して遣すへし。右尓て村民どもゝ たすかり。醫生も一生懸命尓心を悉して。修業かた〴〵治療をす 《割書:増補 丙申の翌|年はたして。/疫(えき)》     《割書:出し。医者/乏(とぼ)|しき。村里へ。》 《割書:/癘(れい)大尓。行は連|け連ば。大府より》     《割書:ふれなふ古と|ありき》 《割書:医師尓命ぜら|連。薬法を抄》 連ば。双方の救合となるべし。此事盤余も誠みて益となりし事 ありき。    〇/粥(かゆ)/施(せ)/行(ぎやう)之事 大飢饉尓及び。飢民尓粥小屋を立て養尓盤。心得ある扁き こと也。久し具うゑたるもの尓。あつき粥を食はしむ連ば。忽死 することゆへ。/粥厰(かゆごや)能/傍(かたはら)尓死人多きよし。/藁菴間話(かうあんかんわ)などいふ 書尓いへり。また施行の時こみあへば。婦人小児な登/怪我(けが)有 べし。元来うゑたる上な連ば。少し能怪我尓亭も。死尓至るべし。 /荒政要覧(くわうせいえうらん)尓。宋能江東の/運判(ぶきやう)。/愈享宗(ゆかうそう)といふ者。/賑濟(すくひ)の時。婦人 一百六十二人を/踏(ふみ)殺したること越/挙(あげ)て戒とせり。夫尓盤/場所(ばしよ)を幾 つ尓も分希。/隊(くみ)を幾つ尓も分ち。/旗(のぼり)を立て進退須べし。大抵 百人以上尓な連ば。こみあひ怪我あるもの也。此等能々役人尓申付。 下役まても。/精細(せいさい)なる人越/擇(ゑ)らひ用ゆべし。〇/南楚新聞(なんそしんぶん)と いふ書尓。宋能時/孫儒(そんじゆ)といふもの/乱(らん)を作せし時。米一斗四十千 尓う里しかば。金玉などのたからをもて。はづか尓一/撮(さい)一合をかひ 得て。/通腸(つうちやう)米と名希て食ひしよし。飢人他物を食ふて盤 冝しからざるゆへ。右少し能米尓て。/米飲(こめしる)越/煎(せん)じとり。/腸(ちやう)/胃(ゐ)越 /通(やわら)希亭助かりしと也。/橘(たちばな)南濱が東遊記尓。天明きゝんの時。/津(つ) /輕(がる)尓て人越食ひし尓。あるもの其甥尓いへる尓。人を食ふこと盤 よからざることな連ば。決して春まじき也といひて。日々米壱合づゝ 與扁希連ば。甥なるもの草木の葉尓まぜ。かゆ尓して食ひし尓。 家内五六人のもの命つきしといへり。貝原氏か農業全書尓。いつの きゝんの時尓や。ある所能/領(連う)主より。飢人一日一人尓付て。米壱合 づゝ救ひあた扁ら連しかば。夫尓て餓死能ものなかりしよしいへり。 此等尓よつて考る尓。久しくかゑたる人を救ふ尓盤。米壱合又盤 五六勺尓ても露命盤つなぐ事也。壱合と/積(つも)り。一萬人百日の食 /僅(わづか)尓現米十石也。十萬人百日能食萬石也。多くとも百五六十日 養ひ遣せば。冬よ里は春作尓取つき。夏よ里盤秋のみの里尓とりつく べし。大国の上尓ては。/貯(たくは)へさえあらば/容易(やうい)なること尓て。多くの人 命を救ひ。大なる仁政尓なり。はて盤其国も/戸口(ここう)婦扁て。とみさ うゆべき也。国家の阿るじたらん御方盤。常尓こゝ尓心を用ひ玉ひ。 節倹越専とし亭。米穀越多く貯へ置度もの也。論語の千 乗能国を治る尓。節メ_レ用ヲ而愛ス_レ 人ヲと盤。是等の處第一/簡要(かんえう)の 事なり。    〇草木をもて食とする事 大饑饉久しく打/續(つゞ)き。/粥(かゆ)さへも/施(ほどこ)すべき手立尽るとき 盤。草木の根葉食ふへき者越おしへて。食/料(連う)登すべし。是 まこと尓せんかた徒きて。やむこと越得ぬ/術(しゆつ)なり。〇荒政要覧尓曰。 《割書:増補 粥施行|を受る位の者は。》     《割書:の事尓て。/汝等(なんじら)|平日督課/撫(ぶ)》 《割書:多くは/惰民(だみん)尓て。|古々尓いたれば。格》     《割書:/育(いく)たら須して|今日尓いたり。/見(み)》 《割書:萬世話春る尓及ば|さるよし。さる里正》    《割書:/殺(ごろし)尓春るかと|いひしかば。一言》 《割書:いひしかば。余いへ|らく。夫は平日》    《割書:なくしてやまぬ| 》 /生松柏葉(なまゝつひのきのは)を食する尓は。/茯苓冑砕補杏仁甘草(ふく連うこうさいほきやう尓んかんさう)を用ひ。/搗(つ)き /羅(ふる)ふて/米(こ)とし。右の/生葉(なまば)を水尓/蘸(ひた)し。薬の米尓/交(まじ)へてほふず 連ば。/香(かふば)しく/美(うま)しとぞ。」/建部清菴(たてべせいあん)の/民間備荒録(みんかんびくわうろく)尓。古連越 /挙(あげ)ていへらく。今年西国尓て/松皮(まつかは)を食せし事越聞傳へ。飢民 とも/製(せい)して食しける尓。/制法(せいはう)よからざるか。又松の木西国とち がひたるか。/吐瀉腹痛(としやふくつう)して。死するもの多きよし。この生松葉越 食する法。我いまだ/試(こゝろみ)さ連は。もしその/毒(どく)尓阿たりて。死するもの あらんこと越恐る能試て後用ゆべし〇松皮を食して/毒(どく)耳 中りしこと越。備荒録尓いへと。天明の/凶年(きやうねん)の事を知りし人尓 尋る尓。上方筋尓て盤毒に尓中りしこと盤かつて聞須といへり。奥羽 辺尓て盤。その製法越得ざりし尓や。或人の/鈔録(せうろく)を見し尓。松越 食ふ法と。/藁(わら)を食ふ法と越載せたり。松を食ふ法。松盤何尓よら 須といへども。/雄松老木(をまつおひき)の皮を/最上(さいじやう)と須。/甘(あま)はたは/苦(尓が)み阿り。 そ連ゆへ上/壱皮(ひとかは)を扁ぎとり。/碓(からう須)尓て/𣇃(つき)て。/磨(ひきうす)尓てひき。/糊(のり)とし す以のう尓て/篩(ふる)ひ。/細末(さいまつ)尓する不どよし。是を/蓋(ふた)のよく合ふ 釜か鍋尓。水多く入連たる尓かきまぜて。/煮(尓)へ立て/蓋(ふた)を取ら須。 明る朝迄そ連なり尓おけば。/若木(わかき)尓ても/渋苦(しぶ尓が)み盤/固(もと)より。/匂(にほ)ひも なくなる也。あく気越流す時。/粉(こ)のこぼ連ぬ様尓し。/味噌(みそ)/漉(こし)乃 内へ/敷布(志きぬの)をひろげ。その上へ打ちあくべし。砂あらばゆりて其/布(ぬの) 尓て/直(すぐ)尓志ぼり。/餅団子(もちだんご)尓入るならば。/干(ほ須)尓及須。/餅(もち)盤常の通 米越こしき尓入連。其上へ松の/粉(こ)をひろけおき。米の/蒸(む)せる越 期とし。/臼(うす)尓入て徒く也。尤/手水(てみづ)をひかゆべし。/香煎(かうせん)尓する尓盤。 あくを/抜(ぬき)たる粉を日尓/乾(かわか)して/炒(いる)也。/老木(おひき)盤/灰汁(あく)ぬきせずして /可(か)也。《割書:以上盤享保十八丑年五月。大坂井上某こ連越貧家尓つぐ。|寛保三年亥二月江戸本舩町大倉氏。この事越貧家尓つぐ。」》/藁(わら)を食ふ法盤。 /藁(わら)の/根元(ねもと)四五寸。/末(春ゑ)五六寸を切すて。二三分つゝ尓/刻(きざ)み。二三日水耳 /浸(ひた)し。よく/干(かわか)し/炮烙(はうろく)尓ていり/臼(う須)尓てひき。/粉(こ)尓して/糊(のり)こし尓て。 よくふるひ。何尓ても二三分まぜ尓して。/蒸篭(せいろう)の類尓てむし。 /臼(うす)尓て徒きてもすり/鉢(ばち)尓て摺りてもよし。/餅団子(もちたんご)尓/製(せい)し 食する也。《割書:大坂舩場の人|何某の法》〇/農政全書(のうせいせんしよ)。/救荒本草(きうくわうほんざう)など尓。草木乃 食ふべきものを/悉(こと〴〵)く/挙(あげ)たり。多きことなれば古々尓盤/載(の)せ須。本 書を見るべし。およそ/田畝(たはた)尓生へたるもの盤。もとより人の食ふ べきはづな連ば毒少なけ連と。/人気(ひとげ)遠き山野尓ひと里生へ たるもの盤。毒なるもの多し。食ふべきものとても。/田畝(たはた)尓/生(は)へたる ものゝ類尓あらざ連ば。その心して食ひべき也。〇荒政要覧耳 いはく。/嘗(かつ)て/苦行(くぎやう)の/僧人(ぼうず)。山尓入りて/耽静(ざせん)する越見し尓。必塩を /炒(い)りて。/竹筒(たけづゝ)尓入連。/携(たづさ)へ/往(ゆ)希り。/草葉(くさのは)の毒阿るものを食へは。/唯(たゞ) /塩(しほ)尓て/解(げ)須べしといへり。〇民間備荒録尓曰。/荒歳(きゝんとし)第一乃 /解毒(げどく)盤塩尓志く盤なし。飢民の死する盤。塩の/貯(たく)はへ/尽(つき)て のち。/毒草(どくさう)越食する故死するよし。今こゝろむる尓皆志かり。塩尓て /解(げ)せざる盤。/救荒解毒丹(きうくわうげどくたん)を用ふべし。もし毒つよくして。/解(げ)せずんば /辟穢(ひえ)/廣濟(くわうせい)/丹(たん)をか年用ふ扁し。此業盤四五十ケ村へ/施薬(せやく)志たる なり。もしつよく毒尓あたりたるもの盤求め用ふべし。」又惣身 /浮腫水種(うきは連春ゐしゆ)のごとくなるのみ尓て。/餘症(よせう)なきもの盤。/五加木(うこぎ)の根を /煎(せん)し飲(のめ)ば。/種(は連)ひくものなり」惣して草根木実のる以。小 毒あるものといへども。/灰湯(あく)尓て/煮(に)。二三宿水越/換浸(かへひたし)。さわして のち食す連ば/害(がい)なし。/灰湯(あく)尓盤雑木の/堅木(かたぎ)越/焼(やき)たる/灰(はい)よし。 /松杉(まつ春ぎ)を/薬焼(やき)たる灰盤/功(しるし)なしといへり」宝暦六年の春。飢民 /藤葉(ふぢのは)/車前草(おほばこ)を久しく食たるもの。惣身青色尓なり。水/種(しゆ) のことくはれたるもの尓。救荒解毒丹を四五/貼(ふく)/白湯(さゆ)尓て飲 しめけ連ば。/腫消(はれひき)全快したり。〇備荒録。草木能葉を食ふ 法越挙て。大抵本草など尓いへるもの也。但/季(くわ)しく/能毒制法(のうどくせいはう)を いひ。又盤彼能方尓なきものをば左尓/抄出(かきいだ)須。」/蕨粉(わらひのこ)は。米の粉か 麦の粉。又/米粃(ぬか)を/雑(ましへ)食す連ば害なし。雑へ食ふ物宜しから ざる盤甚/害(がい)あり。又蕨粉ばかり久しく食へは。目/暗(く)らみ髪 /落(を)つ。小児多く食す連ば。/脚弱(あしよはく)して/行(ある)くことあたは須。もし 毒尓あたらば。白米を/挽(ひき)わり。/粥(かゆ)尓/煮(に)て/湯(ゆ)のごとくし。塩か/焼(やき) 味噌をまじへ度々/吮(春は)須べし。」/止知乃箕美(とちのみ)。/香月牛山(かづきぎうざん)いはく。 倭俗/橡実(志やうじつ)をもてとちと須る盤/非(ひ)なり。山野の民。この/実(み)を米 粉に/和(まぜ)て。/糕(もち)として。食ふ。蛔蟲(くわいちう)を殺し。小児食ふ尓よろしと いへり。/性大寒(せいだいかん)也。水越/換(かへ)て/煮(尓る)こと。/十五次(しうごたび)して。毒越/淘(さはし)去り。 /蒸(む)し/熟(じゆく)して食ふ。流水尓徒希て/一宿(ひとよ)おけは。一度/煮(に)てもよし といへり。/能煮(よくに)て流水尓徒希ば猶以よかるべし」/夏枯草(うこさう)。民 間尓うばのちといふ。/灰湯(あく)尓て能く煮。/二宿(ふたよ)不ど水尓/漬(つけ)置て 後食ふべし。秋になり/枯葉(か連は)尓なりたるも。/粮(かて)とし食する耳 よし登いへり。/山居貧(さんきよひん)民の傳なり。/試(こゝろみ)用ふべし」/萑麦(ちやむぎ)。/向井(むかい) /元升(がんせう)いはく。二月頃初生の青葉を採り。/汁(しる)を/搗(つ)きて。/米粉(こめのこ) 尓/和(ま)ぜて。/餅(もち)尓/蒸(む)し食春連ば。香味甚よし」/山蒜(のびる)。上州七日 市の人語りける盤。上州の/方言(く尓ことば)尓うしひるといふ。/凶年飢(きゝんどしうへ)を 救ふ尓甚宜しきもの也。我国尓て/邑長(むらやくにん)。年ごとに豊凶越 考へ。凶年に盤各我/支配(しはい)へ/絇(婦)れて。農夫貧冨とも尓。山野尓 出うしひるを堀。煮て食はしむ。もし冨民うしひるを食せ須。 堀尓出さる者あ連ば。/邑長(むらやくにん)その者をさとしおしへ。今汝幸に食餘り 阿連と。/頻年(とし〴〵)飢饉ならば。汝とても餓死越のがるべから須。今より 食物越倹約し。麦熟するまて盤。山野尓出うしひるを堀り 食せよとて。惣村一同尓出てうしひるを堀り。釜尓入連煮る な里。冨民盤一人つゝの手前尓て煮。貧民盤薪の/貯(たくは)へ少き 故。二人三人或盤五六人寄合て大釜尓て/煮(尓る)なり。此物久しく 煮さ連ば。/麻渋咽(ゑごくしてのど)を/戟(さ)須。六時不ど煮連ば食しや春し登 いへり〇薩藩の成形図説尓曰。長路軍行等尓。食せ須して 飢ざる法。串柿を糊のごとくして。蕎麦粉を等分尓雑合て。  右ページ二行目左ルビー 「夏枯草 うつぼぐさ」 大さ/白梅(うめぼし)乃大なる程尓丸し。朝出る時二三丸を飲とき盤。其竟日 は飢る古登なし。蕎麦なけ連ば糯米を用う扁し。又三種取合 調てもよし〇救荒本艸な登を見るに。山野食ふべき草木甚 多して。/数挙(かそへあぐ)べから須。是をもて見連ば。/荒年(きゝんどし)食の乏しき時盤。 大抵の草木盤みな食ふ扁し。さ連登もとより毒ありといへる もの盤。知り/辨(わきま)へて用心須へし。この頃尾張の人。清原重巨の /有毒草木図説(いうどくさうもくづせつ)を見たり。志ばらくその名越左尓あ希て。荒歳の 心得と須。」/烏頭(うづ)《割書:大毒あり。二種あり。山中/自生(じねんばえ)のものを/草烏頭(やまどりかぶと)といふ。|毒甚深し。人家裁るものは。/川烏頭(かぶとさう)と云。毒/稍(ちと)浅し》/天南星(やまごん尓やく)《割書:大|毒》 《割書:あ|り》むさしあふみ《割書:天南星の一種。|大毒あり。》ゆきもちさう《割書:天南星の一種。|大毒あり。》/虎掌(うらしゆさう)《割書:大毒|あり》/斑杖(まむしさう) 《割書:大毒|あり》/曼陀羅花(てうせんあさがほ)《割書:毒あり》/蔓生鉤吻(つたうるし)《割書:大毒|あり》/草本黄精葉(さはな春び)鉤吻《割書:大毒|あり》/芹(おほ)葉 /鉤(せり)吻《割書:大毒|あり》/大戟(たかとうだい)《割書:大毒|あり》/甘遂(なつとうだい)《割書:毒あ|り》/續随子(ふるとさう)《割書:毒あ|り》/蘭茄(やまあざみ)《割書:小毒|あり》/草蘭茄(さわうるし) 《割書:毒あ|り》/澤漆(とうだいぐさ)《割書:小毒|あり》/半夏(から須びしやく)《割書:毒あり。又/斎州半夏(だいはんげ)たり|はんげあり。その一種なり》/商陸(やまごぼう)《割書:毒あり。水芹と同食すべ|から須。又紫花を開く者越。》 《割書:赤昌といふ。毒甚深し。|かなら須食須べから須》/大蓼(せん尓んさう)《割書:毒あ|り》/鳳仙(つたくれなゐ)《割書:小毒あり。?と同しく|食す連ば。甚だ毒あり。》/射干(ひあふぎ)《割書:毒あ|り》/女青(やひとばな) 《割書:小毒あり。草生|蔓生の二種あり。》/石蒜(てんかいばな)《割書:小毒あり。こ連を食春連ば。言語拙し。故尓志たまがりの|名あり。/鐵色箭(きつねの??り)。宮人艸(なつ春ゐせん)盤その一種なり。》大黄《割書:毒あ|り》/槖(つわ) /吾(ぶき)《割書:毒あり。砂糖と同じく|食べから須。大尓毒あり》/及巳(ふたり志つか)《割書:毒あ|り》/紫蔵(のうせんかつら)《割書:毒あ|り》/毛莨(きんはうけ)《割書:毒あ|り》/水胡(かはみ川ば)《割書:毒あ|り》 /石龍芮(たづらし)《割書:毒あ|り》/蕺菜(どくだみ)《割書:小毒|あり》/野芋(いしいも)《割書:大毒あり。どくいも。|くは須いもともいふ》/山慈姑(むさくわゐ)《割書:小毒|あり》/大麻(あさ) 《割書:大麻は総名也。/牡麻苴麻(をあさめあさ)の別あり。葉耳毒あり。/麻仁(あさのみ)は|食用尓須。毒あり。其土中尓入るもの大毒人越殺須。》/蓖麻(たうごま)《割書:小毒|あり》/蕁麻(いらくさ)《割書:大毒|あり》/牽牛(あさがほの) /子(み)《割書:毒あ|り》きぬがささう《割書:毒あ|り》/博落廻(たけ尓ぐさ)《割書:大毒|あり》/狼牙(らうげ)《割書:毒あ|り》/藁耳(をなみみ)《割書:小毒あり。/米沮(しろみつ)|と同食へは。大》 《割書:毒あ|り》/豨薟(めなもみ)《割書:小毒|あり》/三白草(はんげしやう)《割書:小毒|あり》やへくわんざう《割書:毒あ|里》/萌藋(尓はだつ)《割書:毒あ|り》/貫衆(ふそばきじのを) 《割書:毒あり。くさそてつといふ|ものは。その一種なり。》/赤車使者(くちなは志やうこ)《割書:毒あ|り》/鳶尾(いちはつ)《割書:毒あ|り》/牛扁(連いじんさう)《割書:毒あ|り》/仙茅(きんばいだし)《割書:毒あ|り》 /白屈菜(くさのわう)《割書:毒あ|り》/馬蓼(いぬたで)《割書:毒あ|り》/防葵(ぼたんばうふう)《割書:毒あ|り》/紫菫(むらさきけまん)《割書:微毒|あり》きけまん《割書:毒あ|り》/虎(いた) /杖(どり)《割書:毒あ|り》一瓣蓮(みつはせう)《割書:毒あ|里》/地湧金蓮(ざぜんさう)《割書:毒あ|里》/馬兜鈴(つんぼぐさ)《割書:毒あ|り》/玉簪(たうぎぼふし)《割書:毒あり。/紫(き)|/蕚(ばうし)。/小紫(さしぎばうし)。と》 《割書:くだま。壱満のかん|さし等は。その一種也》/莨宕(おめきくさ)《割書:大毒あり。誤て古連を食へは。狂気|して奔走須。故尓はし里ところの名あり》/苦瓠(尓がひさご)《割書:毒あ|り》/藜蘆(里ろ)《割書:大毒|あり。》 《割書:二種あり。一種盤荵菅藜芦(しゆろさう)|なり。一種盤/蒜藜芦(ばいれいさう)なり。》水仙《割書:毒あ|り》/狗舌草(さはをくるま)《割書:小毒|あり》/紫藤(ふち)《割書:小毒|あり》/雲実(さるとりいばら)《割書:毒あ|里》 /芝花(志げんじ)《割書:大毒|あり》/莞花(きとがんひ)《割書:毒あ|り》/醉魚草(ふじうつぎ)《割書:小毒|あり》/木本黄精葉(どくのき)鈎吻《割書:大毒|あり》古せうのき 《割書:毒あ|り》/常山(古くさぎ)《割書:毒あり》/茵芋(みやましき)《割書:毒あ|り》/石南(志やくなんげ)《割書:毒あ|り》/夾竹桃(けふちくたう)《割書:毒あ|り》/木藜蘆(はなひりのき)《割書:毒あ|り》 /莽草(志きみのき)《割書:毒あ|り》/羊躑躅(てうせんつゝじ)《割書:大毒|あり》/頳桐(たうぎり)《割書:毒あ|り》/衛矛(尓しきゞ)《割書:小毒あり。この実毒深し。|小児おそるべし》/金剛纂(やつで) 《割書:毒あ|り》/摠木(たらのき)《割書:小毒あり。めだらと|いふあり。一種なり。》/楊櫨(た尓ゝつき)《割書:毒あ|り》/蝋梅(なんきんうめ)《割書:毒あ|り》/椶櫚(しゆろ)《割書:毒あ|り》婦な能き 《割書:毒あ|り》/?木(あせびのき)《割書:毒あ|り》/無患子(むくろじ)《割書:小毒|あり》/漆(うるし)《割書:毒あ|里》らふのき《割書:毒あ|り》/棟(せんだん)《割書:小毒|あり》/烏臼木(なんきんはぜ) 《割書:毒あ|り》/罌子桐(あぶらぎり)《割書:大毒|あり》」右かき出せる内。救荒本艸尓出たるものもあり。 凶歳尓食乏しく。/諸(もろ〳〵)の草木を/食尽(くひつく)せる時盤。やむことを得須。こ連 等越食とすることありとも。大抵盤よかるべし。さ連と大毒のものは 慎んで食ふべから須。〇水府の佐藤平三郎ちといふ人。物産耳 精しき名あり。先達而/出會(てあひ)し時。救荒の事を證ぜし尓。佐藤 いへらく。草根なと掘り食ふても。人の腹尓たまるもの盤少し。 天明の凶年。余/會津(あひづ)尓て民とも尓於しへて。山林尓ゆきて。あら ゆる木葉越/鎌(かま)尓て/芟(か)り来り。/湯引(ゆびい)て食料とせしむ。そ連のみ 尓て盤やはり腹のもちあしき故。/猪鹿(ゐしか)の類を打取り。その/肉(尓く)を/鰹(かつほ) /節(ふし)のごとく切りて/乾(かはか)し置き。右の木葉の内尓けづり込て食は しめて。飢を救ひしとまかしき。いかゝあらん試むべし〇豊後 能大蔵徳兵衛といへる。各高き老圃あり。豊稼録再種方な登 いへる農書を多く作り。世尓問ひし者なり。先達而余江戸尓て 出合し事あ里し時。救荒の事尋ねし尓。凶年の食物盤。葛尓 志くものなしと亭。その著述の製葛録といふ書を出して見 せり。その書葛の採り様より。制法尓至るまで。精しく挙たり。 尤葛布を造ること越第一登いへど。食物尓することもあり。既尓刊 行の書な連はこゝ尓盤挙須。〇/橘南谿(きつなんけい)が西遊記續篇尓曰。近年 打徒々き五穀凶作なりし上。天明二年寅の秋盤。四国九州の島 境。飢饉して。人民の難渋いふはかりなし。余などか旅行も。道路 盗賊の恐連ありて。冬深き頃なと盤。所々逗留して用心せり。さて 春尓なりても。諸国とも米穀ま須〳〵高直尓なり。余なと途中白 米一升を大かた百四十文ばかりを出して求たり。国々城下までも。 多くは麦飯粟飯琉球芋大根飯の類を食し取つゞき重り。村々 在々盤かず年といひて。葛の根を山尓入りて堀食ひしか。是も暫くの 間尓皆不りつくし。金槌といふものを不りて食せり。是も春くな く成りぬ連ば。すみらといふもの越不りて。其根越食せり。葛の根 金槌の類盤。其根をつきくだき。水尓さらし。夫越だんご尓作り て。塩煮尓して食せり。春のころ尓いたりて盤。塩もけしから須 高直尓成しかは。これをも求めら年て。海辺尓出て潮を汲来り て、其潮尓て右の金槌団子を煮て食須。すみらといふもの盤。 水仙尓似たる草なり。其根越多くとりあつめ。鍋尓入。三日三夜不ど 水越替煮て食須。久しく煮されば。ゑくみありて食しがたく。 三日ほど煮連ば至極柔らか尓成。少し甘味も有様なれど。其 中尓ゑくみ残連り。余も食しみる尓。初め一ツ盤よく。二ツめ尓は口 中一は以尓なりて。咽尓下りがたく。はや三ツとは食しがたきもの也。 さ連登食尽ぬ連盤。皆々やう〳〵尓是を食して命をつなぐ。 哀連成事筆尓書尽須べき尓非須。余一日行労連て。中尓も 大尓寄廉なる百姓の家尓入て。志ばらく休息せし尓。年老 たる婆と一人なり。いかゞして人のすくれきやと尋ぬ連は。父子 嫁娘皆今朝七ツ時より。春くら堀り尓まゐ連りといふ。夫盤 はやき行やう也登いへば。此所より八里山奥尓入らさ連ば春みら なし。浅き山盤既尓皆不り津くして。食すべき草盤一本も さむらは須。八里余も極難所の山越分入り。すみら越不りて。此所へ 帰連ば。都合十六里の山道なり。帰りも夜農四ツならで盤得帰り 着須。朝七ツも猶遅し。其上近き頃盤。皆々空腹かちな連ば。 力もなくて道もあゆみ得須といふ。其すみら盤いか不ど取来る といへば。家内二日の食尓足ら須といふさても朝の夜るより暮の世 夜まで。十六里の難所越通ひ。三日三夜煮て漸く尓咽尓下り かぬるもの越不り来りて。露の命越つなく事。哀れといふも更也。 中尓も大なる家た尓斯のごとし。ましていはんや。貧民の志可も 老人小児。又盤後家やもめなどは。いかゞして食越徒なく事やらんと 思ひや連ば。む年ふさがる。又或時一人の六十六部尓行つ連し尓。此六部 残越流して余尓語連る尓は。此間山中尓行暮て。とある民家尓 入て宿り越求めし尓。老人娘登二人居たりしが。宿をゆるさ須。 強て乞しかば。食物なしといふ。米盤こなた尓貯へたりといふて。 續て内尓入たる尓。二人とも尓いとちから那く久敷病るやうな連ば。 いかゞし給ふやととふ尓。二人とも涙を流し。近きなど盤一かう尓 食せ須。女房盤十日ばかり以前既尓餓死せり。忰も四五日前にうへ尓 つか連死せり。親なりといふ我等盤少しつゝ食越あたへく連しゆへ 今まて盤生のひぬといふ尓。興さめて驚き。さても哀連なる事 を承はるか那。嘸かし苦しく候はん。先此焼たる食越志よくし給へと 出せる尓。老人と娘互尓譲り合ふて食せ須。いか那る故尓此場尓いた りてゆつり合給ふや。こ連尓てたら須は。猶此袋尓一升はかり盤貯へも 候へば。二人とも尓心置須食し給へと強たりし尓。老人のいふやう盤。 御志盤忘連かたく忝く候へとも。今宵此飯をたべ候ひても。明日より の食物なし。さす連ばなましい尓食して。苦しみを永くする道理 なり。たゞ一日もはやく死行ん事こそ今日の望なり。娘盤また年 若き身な連ば。明日尓もせよ。万々一殿様より御恵の年尓ても あらば。命たすかる事もや有べき。少し尓ても食し。一日尓ても活の びよかし。老人ははや思ひ残須事もなし。女房忰のはや死行 し事こそ羨ましう候へとて。更尓両人とも尓食する気色も見へ 須。見る尓聞尓哀連まさり。飯くふべくもおぼへ須。強ていひなくさ め。むすめ尓飯少し喰せ。猶袋尓残り有し用意の米越與へて 立出たり。多年廻国修行いたし候へど。つい尓斯まで哀連なる事 尓盤ゆき逢ひ申さゝ里しと語連り。誠尓甚敷事どもなり。こ連 らのこと越於もへば。常尓白米越飽まで尓食して。猶汁菜の事 尓奢りを極むる盤。冥加越も志らさるものといふべし。夘の年斯 のことく。猶京への不りて後。辰の年春夏殊更きゝん甚敷。東国 なと別して哀連なる事多しといへり。余盤西国尓て目の阿 たり見及ひし事な連は。一入尓歎かしく思やひ連り。夫尓付て も一国乃君。少し慈悲乃心おわしまさば。其恩沢忽ち下す うる不ひて。哀連なる/際(きは)尓盤及ばざるべきや。」又鈴木氏農喩尓。 て明能災越載ていわく。凡民盤貧しく貯なきが多き者なれば。 蕨能根葛の根又盤/野老(ところ)の類を堀とりつゝ/扶食(ふじき)とせり。其求 る有様盤。山江登り谷尓下り。其辛労限なし其上製しこな 春年もたや春から須。一日のかせぎ尓て。一日能食尓当り加年けり。 又栗柿志だみ樫のくぬぎ能実越拾。其外木の葉草の葉越 つみなとして。凡人能口へ入るといふものとだ尓きけば。何尓よら須食ひ つゝ。只命越つなぐ事のみ也。かく千辛万苦して。心越労し力を尽し け連ども。尚其飢を凌くに足ら須とありし。こ連を見連ば。荒歳 民の食尓/艱(なや)めるを知りて/憫(あは連)むへし。東游記尓盤。津軽辺尓て盤 人を食ひ。はて盤我か子越も食ひしものありしことなと載たれど。 事長希連はこゝ尓盤もらしつ。 補 去る天保丙申の歳は。まだ天明より甚しき飢饉尓て《割書:天明尓盤江戸の|小賣百文尓三合》 《割書:五勺天保尓は|二合に及べり》諸国流民多く。/餓莩(いきだをれ)道尓横たわれるを。余海道の往来。また 江府の市町尓ても。多く見及べり。そのありさま。誠尓目もあてら連ぬ次第 なり。奥羽はわけて《割書:奥羽尓ては。平生の米價五升饒全年寄?なる所。|天保の度は。全三両尓およぶ。江戸より?なし。》甚しくあり ける由也出羽地方尓て盤山尓て白亞を堀り来り食とせしといへり 捕   〇常平義倉社倉貯穀之事 常平倉は。/魏(き)の/李悝(りかい)尓始り。/漢(かん)の/耿壽昌(かうじゆしやう)尓な連り。穀/賤(やす)き時尓。買ひ 古みて。相場を下落せしめず。/貴(たか)き時尓う里出して/騰貴(たうき)せしめ須。 士農の為尓も。工商の為尓もよろしき法也。義倉盤。六朝尓始り。冨人 倉といひけるを。随の世尓至りて。義倉と改む。冨人とも尓義をすゝめ。 穀を積しめおき。凶年尓。貧民を救ふ法なり。社倉は。/宋(そう)の/朱文公(しゆぶんかう) 尓定る。百姓とし。/社(なゐま)をたてゝ。年貢の外尓。分米少々づゝ出さしめ役人 預りをき。凶年尓至りて出し救ふ法なり《割書:按する尓後世/租税(そせい)重くして。|当納米の外尓。少し尓ても。》 《割書:出さ春る古とはむつかしき古と也。夫も種々仕法ありて。小民尓ても出来る法あるべし。既尓。|朱子の社倉も。/糴本(てき不ん)は上供米を拝借し。そ連を民へ借し渡し。少々の利米を出させ。》 《割書:後尓盤糴本を上納し。下の積米年々ふへて。|多分尓な連る古と本書尓/詳(つまぶらか)なり》右いづ連も良法なり。仕方は所尓より。 時尓より。種々あるべし。余もひそか尓。考へし古とあり。義倉社倉を。 ひとつ尓して。冨人尓糴本を出さ春古となれど。いまだつくさゞる 處あ連ば。古々尓はもらしぬ。さて右三法とも。かゝる凶年いひ出し ても。/俄(尓はか)尓間尓合ふ事ならざれば。/聞(きく)人/江河(かうが)の道を引て。/急火(きうくわ)を 救ふ様尓いひなし。/迁遠(うゑん)也と思ふも。あるべけれど。左尓あらず。 かゝる手柄のせ川盤。人々平生のたくわへ。なかりしを/悔(くや)み。是後 はと思ふ者もあれば。/却(かへつ)て/行(おこなは)るべき也。既尓文化文政の頃。米至て 賤しき時。此/策(さく)を行ふはづな連ど。その時盤い川も。かゝるもの登 心得。こま〳〵いひ出るものありとも。とりあふ人なくてつ以尓その /機會(きくわい)を失へり。今尓もせよ米價常尓もと連ば。此頃の事は忘連 はて。是等の事は。/急務(きうむ)尓あらずとおもふべし。さりながら。三四十年 のうち尓は。い川も定まりて。ひとたび来る飢饉なれば。今よりその 心置きなくば。いはゆる遠き/慮(おもんばかり)なくて。近き/憂(うれひ)尓あふ事あるべし。 町人百姓は。古今を志らずともよかるべ希連ど。士たるもの古今の /治乱興廃(ちらんかうはい)尓/暗(くら)くては。士と春る尓たらず。わづか尓三四十年尓来る。 飢饉の事さへわきまへず其手当を/忽(おろそか)尓する位尓ては。百年も 二百年も。遠ざか連る。/兵革(へいかく)尓出合なば。如何/處置(しよち)するやらん/覚束(おぼつか) なし。さて此積米は。数万人/性命(せいめい)の。かゝると古ろなれば。たとひ/勝手(かつて) ふ如意の諸侯尓ても。思ひ立せられざれば。人の君といひ。民の父母 と。いふべから須。いかほど不如意といへど。大凶年尓逢ひ。其領下の もの。餓死するを見ては。春て置君なく。その時は重代の/宝器(ほうき)を。 賣拂ひてなりとも。救ふ氣尓なりゐふ事尓て。近頃もそのためし 多くあり。もし豊年尓其心尓なりて。後々の事を考へ。やむ古と越 得春してな春事を。やむことを得る内尓。/決断(けつだん)して行なへば。/利沢(りたく)多して 後のう連ひなかるべし〇三倉とも尓。穀尓て貯ふべし。金尓て盤。 まさかの時の。間尓合春。常平のみなら須。其餘も皆/倉(そう)といへり。倉とは /米蔵(古めぐら)の事なり。金銭を入る處尓あら須。金銭山のごとしといへりとも。 飢を救ふ事を得春。且又/籾(もみ)尓ていつまでもたくわへをくを/国史(古くし)尓 不動穀といへり。是/皇国(くわうこく)の古法也。志可し籾尓てたくわへば。年久し きうち尓。減少して。つい尓は餘程の損耗となるゆゑ。金尓てたくわへ 置。入用の時米を買ふ尓志か須といふ説あ連ど。まさかの時米を買んと 春連ど。何国も/拂底(ふつてい)の節ゆゑ。買得る古と出来ても。たつとくして /容易(いようい)なら春。其上たつとき盤。いとは春とも。国々/津留(つどめ)尓な連ば。多分の 金をいだ須とも。とんと。手尓入らぬ古ともあるべけ連ば。穀尓てたくはへ ざ連ば。安心盤なるべから須。さてまた。籾の減るといふ事もあ連ど。浅草 大倉尓。/承応(しやうおう)年中の籾ある古とをきけり。凡籾米をか古へは。初は少々 減るとも。後尓は其侭なるよし。尤米の性尓もよる古とな連ば。 減らぬ性の米をゑらみ。五六年目尓婦るひたてゝ。俵尓つめかふ連ば。 其後は減せ須といへり《割書:再按籾をば倉の内へちらし置。俵尓つめざるを古法と須。|減らぬ為尓盤よけ連ど。俵数をもて算用春る為尓盤。本文の》 《割書:通りなるが/便(べん)|/利(り)なるべし》五六年の間尓。壱割不ど減るよしな連ど。古米は飯尓/焚(たき)て。 ふへ連ば。さし引て。かくべつの損耗とはなるべから須。たとひ。損耗ありとも。 籾をたくはへざ連ば。衆人を救ふ事を得春。いわんや。格別損耗なきをや。 とかく国をたも川ものは。人命を貴び。人心を得るを先と須。民ありて 国あり。民の為尓は損なる事をしても。/終(つい)尓は/得(とく)となるべし〇社倉 義倉尓貯へ置べきもの。米尓かきら春。麦尓てもよし。麦は米より /價(あたひ)賤しきのみなら春。壱俵の食不とんど。弐俵の用をもゐ春べけ連ば。 利沢多かるべし。其他/粟黍稗秈菰(あわきびひへとぼしまこも)米など。土地尓宜しき物を 作りて。貯とせば。ま春〳〵價少くして。利沢多かるべし。いか尓といへば。米 麦とちがひ。食ふて味あしく/鬻(ひさ)ぎて價よからざるゆゑ奸吏も盜 事なく。国用不足の時尓至りて。利をいふ役人も。倉を開て拂ふ古と □つるべし。されど稗の類は。味なくして。直も賤しきものゆゑ。 百姓も作る事を好ま須。ひと通りのいひ付尓ては。作らざるべし/水府 (春いふ) 尓ては。御年貢の内尓。米の代り尓少々づゝ。稗を納しめゐふゆゑ。百姓もやむ事を 得春多くつくるときけり。善法といふべし。民は遠き/慮(おもんばかり)なきものゆゑ。救荒 の為などいふては。心付ましけ連ば。かゝる法を用ひゐひしなるべし。定て/黄門(くわうもん) 義公などの御考なるべし〇穀尓ついて。救荒の備と須べきもの。海草尓志く はなし。其類多しといへど。價至て賤しく志て。数十年置て。/朽腐(くちくさ)連須。食 して毒なく。飯尓/?(まぜ)て大尓助となるもの。荒和布尓。志く盤なし。我藩尓も 百餘万把も。畜へゐひしかば。此度大尓救荒の助とな連り。/大抵(たいてい)弐十万把尓て。 米壱万俵の用をなせば。海国第一の物たるべし。其土尓生ぜ須。外より買入ても 平生ならば。至て賤價なるべし。其外/昆布(こんぶ)以下土地尓多き物を。貯ふ へし〇/薩摩芋(さつまいも)多く出来る所尓ては。干して/粉(古)尓しおけは。何年尓ても 貯ふへし。西諸侯の内尓右の芋倉二三ケ所も持てるありときけり。古の 芋は水旱尓も。志ひてかまは須。土地の/肥瘠(ひせき)をも論せ春して出来るゆゑ。大尓 救荒の助となるべし。西国尓ては。平常とても。百姓の/扶食(ぶじき)と須るゆゑ。 薩藩の/成形図説(せいけいづせつ)尓は。穀の部に/収(おさ)め置り〇豊年尓は。/粒米狼戻(りうべいらうれい)して。 穀類尓ても/麁末(そまつ)尓/扱(あつ)かへば。まして海藻野菜の類は。棄たり費ゆること 多き也。志ある人かゝる時後手の事を慮んはかり。/久(ひさしき)尓たゆるものを ゑらみて。たくわへば。費少くして。/恵(めぐ)み廣かるべし。豊年の時尓は大根 など作るものも。持あるく尓荷重くして。/直(あたひ)少きゆゑ出来あしき ものを。/抜弃(ぬきすつ)る尓いたる。二十年以前の事なりし尓《割書:今の文久より五十|餘年前の古となり》大根 いたつて能出来て。價賤し。余。王子邊尓行し尓。彼邊尓ては。大根/夥敷(おひたゞしく) ぬき春て。山の如く路傍尓つみし處所々尓ありき。加様の時尓少し尓ても 銭をとらせて買ひとらば。誰も春つまじ。干して畜へおき。貴く成て春くひ /与(あた)へ。又はう里与へても。大なるめぐみとなるべし。芋大根も。穀尓ついて。人を 養ふ大なるもの尓て。その/干葉(不しば)も。穀を助べけ連ど。芋大根さへも。右之通 /麁末(そまつ)尓すれば。まして其葉などは。猶更の古と也。民は事繁くして。遠き 慮りなきゆゑ。穀物さへよく出来ば。他事尓及ぶいとまなく。手のまはらぬ まゝ尓。春つるな連ば。後をおもんはかる。役人庄屋など盤春たらぬ様尓いひ 付べし。志かしいひ付るまて尓ては。やはり春つるゆゑ。少々づゝ銭をやりて 買ひとり。村々の郷倉の内尓積置べし。穀物も豊穣の時は。麁末尓 思へど。いたづら尓は。春つるものなかるへし。畢竟酒など多く作るといふまで なり。芋葉大根葉などは。実尓春たりついゆるな連ば。別して/惜(おし)むべし。 余此十年以前《割書:文政の末|のあと也》飢饉のめぐり来ん古とを思ひ。芋葉は救荒の。 助となるゆゑ。春てましきよしを。知連る百姓尓いへど。あへて用ひざる ゆゑ。誠尓/後園(かうえん)一二畝の間尓作る。芋葉をとらせ。きざみて。/蔭干(かげぼ)し尓 致春様尓命春れど。/婢僕(ひぼく)など。面倒がるゆゑ。年々尓其内三分一種 づゝ。自らきざみ貯へ見し尓。去る巳年尓いたつて。米價頗る貴とく。 小民やゝ難渋尓及びしかば。出入の難渋ものへ。米数升つゝ尓。右の葉を 古と〴〵〳〵付てやりしかば。/糅(まじ)へ食ひて数日の食とせり。かく食の助と なり。多分出来るものな連ば。在々の心ある/有徳(うとく)のものは。右尓いふごとく。 春たる時尓。少しづゝ。銭をいだしてかい入れば。百姓共も銭尓さへなれば。めん どうなりとも取収めて春つまじ。但大根葉は干葉尓しても三四年 たてば。朽ちるといへば。三年目尓は困窮者へ与へて入替ふべし《割書:大根葉は作物の|肥尓なるべし》 《割書:蓮根尓盤|尤よろし》芋葉は数十年たちても。少しもかわらぬものなれば。大凶年の 備とな春べし。但いそかしくて。/細(古まか)尓切る古とあたわずば。其/侭縄(まゝなわ)尓/貫(つらぬ) きて。乾し置/揉(も)んで粉尓し。貯へばよし。是は/民間(みんかん)尓て能知る古登 な連ば。委しくはいふ尓及ばず。志かし。此凶年の当座尓は皆々用心し。 此等の干葉尓て。一旦命をつぎしものもあ連ば。たや春くすてまじ。 是も十年前後/豊熟(不うじゆく)の節尓至り。米両尓一石以上尓もならば。春つる 様尓なるべけ連ば前方より其心組して。時尓当りて。はづさぬ様尓/處(志よ) /置(ち)あるべき古と尓こそ〇全国は貴しといへども。荒年の備と春べ からず。兎角穀類ならざ連ば。まさかの時人の命をつなぐべからず。されど /計吏(けいり)抔は穀尓て積み置を。むだ事の様尓思ひ。金尓していつ尓ても/利(り) 倍春るを。良計とす連は。俄尓荒年尓出/遇(あ)ひて。人民を救ふ古とを得ず。 其上積金尓てあ連ば。いつしか。国用不足の時。遣ひ古みて。つ以尓むなしく なる也。されば義倉社倉などある国もあ連ど。有名無実となりてせん なき事とな連り。又せんなきのみならず。無き尓おとる古ともあり。いかんと なれば。社倉義倉盤。いつ連。下の財を積むものなる尓。上の用尓遣へば 今迄取立て積しは。全く運上の外の運上となり。年貢の外の年貢と なり。名は民の飢餓を救ふといひて。実盤民の膏血を/脧(志ぼ)りとる也。凡国用は 入を/量(はかつ)て出るをな春べき尓。加様の外物尓て国用を足せば。はては外物 なくては事弁せぬ様尓なり。つい尓は出るを量て入るを制する様尓なり。 種々工夫して。民よりとりて間尓合さんと春べし。且其国用といふものも。 実の国用尓あらず。/鹵簿(ぎやう連つ)の/儀物(だろぐ)を/美(うつくし)くして。/市童(しどう)の/誉(不ま連)を求るか。 /閨門(けいもん)の/奢侈(しやし)を増して。婦女の目を悦ば春か。皆/人欲(じんよく)の私を/盛(さかん)尓して。 入らさる事尓費春古と也。国の本たる民を/削(けづ)りて。枝葉尓もならぬ。/歓重(かとう) /舞妓(ぶき)。/珍禽(ちんきん)。/奇獣(きじう)抔の物を/肥(古や)春尓至る。是根本の病なり。痛く古らし 正春べし。此本を正さずして。末を論じ。専ら国用を足春といふ。計 吏は。いわゆる仕送り方の心得尓て。後日人民の飢餓尓及ぶ事をも思はず して。備荒の物も引出し間尓合せんとすべし。さ春連ば義倉社倉は。民を救ふ 良法なれど。かゝる計吏出て。是を用ひば。民を/傷(そ古な)ふ/大害(たいがい)となるべし。是ぞ /荀郷(じゆんけい)がいへる。有_二治人_一而無_二治法_一といふ古と尓て。其人なくばその法行は連ず。 さ連ば第一尓人をゑらみ。其職尓任春べし。志かし害のあらん事を恐連て 為さゝれば。いつの時尓か民を救ふ仁政を行ふべき。最初尓法を立るもの 阿らかじめ後日の弊を見抜き。既尓糴本出来る上盤。歳尓て貯へ。一切 金尓て取扱ず。尚米尓ても危しと思はゞ。彼稗秈海草野菜などをも 過半まじへなば。上尓/媚(こび)て下を/憫(あわ)連まぬ役人出来るとも。拂ひても。せん なき古とゆゑ手をつくまじき也。たとひ海草野菜尓ても。まさかの 急を救ふ事は。/巨万(きよまん)の金玉尓まさる古と。いわても志るべし。其上よく〳〵 /掟(おきて)を立て置なば。倉を空しく春る古とはあらじ。くれ〴〵も社倉義倉は 下の為尓春るもの尓て。上の為尓春るもの尓あらず。志かしながら下の為尓 利益なる古と盤。終尓は上の為尓利益となるべし。/有子(いうし)の百姓足らば 若たれと/与(とも)尓か足らさらんといひしは/萬世不易(ばんせふゑき)の道理ぞかし  天保丁酉夘月          津藩齋藤正謙又識 余古の後五年を扁て辛丑の歳。郡宰となりけるに。その頃盤穀物は 相応尓出来。民食尓乏しからねと。先手凶荒の時より。末迄借金 /嵩(かさ)み。下の困窮更尓甚し。其故は。凶年尓は賑救もあり。用捨筋も ありて。なにかなしにたちゆ希と。却て豊年尓なり。借財の古りて 困窮せる也。かゝる時よくせずは。唐山尓いへる/豊逃(不うとう)といへる事となり。 離散逃亡多かるへき尓。幸尓上よ里民境を察しゐひ。有司の □の如く。数万の積欠を消除しゐひしかば。民とも業を安し。 不どなく𦾔尓復せり。ありかたき事也き。  文久辛酉の秋          正謙又識 跋 昔者禹招洪水而民安其居后稷教之 稼穡る樹藝培養之道皆行其宜 故官失其政?庶民被害書云歳月日 時易百穀用不成君人者可不鋈干 此哉去歳五月我濃洪水高灾下民昏 墊 公憫然傷之大行賑恤急修堤防民乃定 公猶有患之也遂梓行此書而領諸有司 其用意右深?夫濃之為洲卑湿之地也 毎夏月僚潦水至轍齧崖呑堤防禦之 術雖無不盡其理而往、不免決潰之患也 是以一逢暴風遥雨堤防ふ足堤防 既不足恃易救荒之術可不預溝哉是 公之所以有此拳也而此書自有司救荒 之術以至庶民播種之法無不具載ニ而 有司者能知此旨以莫怠其職則 公家之昌庶民之安?無求之而?徴 之来自有ふ山者無然則此出謂之 公家一洪範誰田不然也 文久に年酉三月  目野邦 ?謹識  大垣書肆   平流軒利兵衛 裏表紙