変化物春遊 寛政五丑年 三十六 木むら■ 変化物春遊 慈悲成作 豊国画 二冊 まいよあをきひのみへる やなきのたいぼくあり よにいりてその もとへゆくものなし たゝばけやなぎ〳〵と そいゝけるところの ものあをき火のもゆる ともこよひはしのつく ごとくのあめゆへ そのひもなからん とたゞひとりその火 のもとへゆきみれはいつ よりそのひあをみ てものすごしみる うちにやなぎ のたいぼく いつはい にあを〳〵 ひかり ければかの おとこそのまゝ たをれるか これあを さぎのなす わざなり やまとのくにゝてまいとしの【之】やうにひとかづみ【人掠み】と いふことありところにふんぢびやうへといへるもの ありてもとぶしのわさなんしたるものなれば そのこときゝてふしぎなることかな たゞして見たきことゝふだんこゝろに かんねんしていたりそのとしのあきの ころふんぢびやうへかせがれ ゆふぐれふきやつといふ こへのしたるがそのまゝ いづくへかさらいゆき けんみへす ぶんぢひやうへ 大きに ぎやうてん して しよ〳〵へ ひとはしらせ見せけれども さらにみへざればげにへんげの なすわさなりこのたびこそたゞし みんとまいよじやうかをよに いりてつけみるにあるよじやうない 【左ページ】 よりむらさきのひかりもの いでけるそのひかりもの おちたるかたへつけゆき ければじやうかのある やまがのふるいどへい いにける ぶんぢびやうへばけものゝすみかをみさだめ ければそふ〳〵かへりむらのなぬしへ いゝつれおゝくの人をひきつれかの ふるいのもとにいたりまづぶんぢびやうへ たいまつともしてうかごふにほ■の ごとくにしてみつ【水】もなくたゞあたか なるかぜふきけりふんぢびやうへ そのあなへそだをつみてひをかけて いぶしけれはいのうちにてさもくるし げにうなるこへまことにやんまも くつるゝばかりなりしだいに こへもほそくなりてやみけり ゆへさらばとていどをほり かへさせけるにそのそこも みへずだん〳〵ほりてみれば おびたゞしくちながれて ありこれはけものゝしゝ たるしやうことなをそのち のすじをほりさがせはとしふるひき かへる大ぼくのねをたをしたるやう にまつくろになりてたをれいたり なにやと かいゝける くつわやに【轡屋=遊女屋】 ばけものゝ ありとひやう はんつよく われもみたり かれも そのよし きゝたりと いへどもいかやう なるすかたのもの やらんたれ しりたるもの もなくたゞ ばけもの やたい〳〵と ひやうばん するにこれは 毛女郎といふて くつわやには あることゝなん ふるきひとの はなしにさらに めもはなも なくそふしん みなかみのごとく してよくくらき ろうかなぞに いることあり いたつてそのふう そくよしといふ ともだちよりあいて ばけものはなしして いたりよあめも しよぼ〳〵ふり けるによも ふけていと さみしき こふじを とおりて かへるおとこ ありかのおとこ いたつてをく びやうもの なればみち すがらいろ〳〵 はなしのこと ともおもひ いだしてすこく【凄く=気味が悪い/すご〳〵=元気なく】 ひとりあゆみ ゆくむこふより かさの大きなるをきて りやうてになにかもちて ちよこ〳〵あゆみくる かのおとここれなん さいせんはなしの あめふりこぞふ ならんあとへ にけもどらんと あしばやにもと きたるみちへかけ いだしければはや いつのまにかまいへ まわりてよく おれがうわさ したなと おそろしき かほして    申ける やちうにたいせんに あやしのものありと きくにけつして おけかせ〳〵とぞ いへるとなんこゝろへ ておけのそこを ぬきてかしけると いふふねゆふ れいとおふもの なり ひとつめといふものはうまれ のまゝひとつめにもあらず いたつてよきおとこなりけるが そのこにやまわらは【山わらわ】といふもの ありてはけものになりたき よしをひたすらおやに ねがいけるゆへその ことをきゝとどけばけ ものになれといふ こはかわゆいものかな われがふたつのめを ひとつくりてこのやま わらはにぞやりける とふやらふるやうなこと さる大あきんどのいへに かまくらのざいより おきしうばありけるが つきごとに四五たびつゝかま くらのおつとのかたより たよりしけるがいかゞし けるかいつかふたよりも なくたれにきかふ ひともあらざれば かのうばはあんじ なにとしてたよりか なきやとおもひつ あまりわづらい となりいたる おりからかま くらより ねんごろのひと ゑどへきたりとて うはがところへたづね より けるがうばさつそくに おつと のみのうへをきゝける かのおとこわらいな がらそのやうなこ とあんじ づとこなたもゑど ておとこを もちたまへそさま のていしゆも よい女ぼうをもた れたといへば うばはかほかわり てそのまゝ いかいへあがり けるおとこも きやう さめてかへりしが うち のめしたき うば どのばどふか したか やゆつけでもくわ せんと にかいへあがり みれば うばはくちみゝ まで さけてくちの あたり ちにそみてつの はへけるそのありさまを見てめを まわしけるうばはそのまゝたま しいかまくらへゆきておつとをくひ ころしにとめの【二度目の】つまをもくひころし おもひをはらせしとかや わしづか八べい次と いへるろうにんありし がそのこまいよおび ゆること三四たび にしてよるねづ 八へい次あまり にじればけものに やるなんとゝおどし いかにもくらきよ おもてのとをあけ しやうべんやりて いたりけるにその ことしさまおまへ のざとふこ□□【座頭殺し】 たまいしよは こよいのやうに くらかりし といへばはつ へいじきもを つふしそのこと なにとてしり たるやときけば くらやみに さもやせ たるめくら たちてわが おしへしと なん申ける 【鷲塚八平次は『恋女房染分手綱』という芝居の登場人物で座頭を殺すシーンがあるらしい】 大さかしんまちに にしきといふ 女郎いたつてきりやう うるはしくありける がとし〳〵きやう をふさかへ【京大阪へ】こどふぐ【小道具】 かいだしにゆき けるとふぐやの 代五郎といふもの 大さかへゆくたびに このにしきをよび あそびけるある ときかのにしき よひ【呼び】くれよといへば ちや屋のあるじ にしきはこのほど びやうきなり いかないてまじと【いかな出でまじと】 ぞ申けるだい五郎 なんぶんよびてくれ よとひたすらてい しゆにいゝけるゆへ そのことにしきへ申 つかわしいればびやう ちうなれどもなしみ ゆへにしきはきたりだん〳〵 ねんころにはなしなぞし びやうちうなればにしきも とこをわけてふしけるが うしみつのころかの女郎 きたいのこへしてたすけて たべといゝけるだい五郎 さつそくにしきをおこし しさいをきくにこのにしき そふ【僧】をだましけるこの そふ女郎ゆへにてらを ひらきいたしかたも なくみをなげて しゝけるそのむくい まいよにしき をくるしめける となん えちこのくにの大にうとふおとぎはなしのはけものぼんにはいちばんさきへ てるはづをなぜさくしやがかきださぬかがてんがゆかぬともし こともしゆがおれをはこわがらぬかどふいうもんだ こふとくじ【広徳寺】のもゝんぢい【注】とかほをだすとこども がいまゝでのこわいはなしのあきたところ なしみのもゝんじいめかくしでもしやうと いふてもこどもしゆの ぎよいにいりはみそ じやァねいがこのお□もう だとこをとろことろの かきだいしやうばけもの ぼんのたんじうろう はこれじや〳〵と にうどふはなたか じるしわしもおまへ たちがこわがら ぬとばけものを やめてやくしや にでもならにやァ ならぬにうどふ ひさしくあそんで いきなよおいらァ ひさしくあそばねいと いやおまへばけものでは いちばんなかてとれが ひいきたおいらはこの ぼうさんかおらも〳〵〳〵〳〵 【どういうものだと聞いたら、こういうもんだと答えるところを「広徳寺の門だ」と答えてはぐらかす言葉遊びがあり、それをさらにもじって広徳寺のももんじいだと続けている。】 おなしみの  おこさまがたは   わしがなで  だゝもをさまる   御代ぞ     めでたき もゝんじい   いつしゆやりましやう 歌川  豊国画 【囲み内】桜川慈悲成戯作