飛間違矢口噂 完 【検索用:飛た間違矢口噂】 安永九年 飛間違矢口噂《割書:可笑作|清長画》 二冊 京の いなかのかたほとり にはあらす江 戸のいなかのかた ほとりやぐち といふところ にいみやう【異名】を ゆりわかの六 といふとをりものあり 大しゆのみてひよつ とねるとおきる ことをしらす 又女ほう おみね も大ねぼう にて一日ひるなかにて もいねむりふねを こぎゐるゆへよの人 きんざいまてもおみねと いわずおふね〳〵と  いみやうせしなり かゝあやこれではまた たりぬもう一升かつて こいまたいねむるか おりしもなつの事なりしが六蔵 ふうふのものれいのとをりしきり にねむけきたりことに夕立ふり すこしすゞしきこゝろもちこらへかね ふうふともにこゝろよくねいりける あつ さは あつし ふう  ふの ものは それより せんごしらず ひるまへより あたりかま わずとり ちらしたるまゝ うちふしけるに ふしぎやよく ね入たるむな もとかくちかは しらず 二つのたましい とおしき ものいつく   ともなく     とびさりゆく わたりに ふねと 六蔵は アヽフ【?】 ねせつけ られて すそに あわせ ふわと かけて ねる きんねんに なくゑゝ あめだ   はへ 何もかも うつちやつ ておいて ねらく【寝楽?】   〳〵 【右丁中】 しかるに へいぜいは おみねはな はだかみなり きらひなりしがさほどにも おどろかずいたりしにかへつて 六蔵はふるひわなゝき耳 をふさぎまつさほになつて うちふしける アヽおそろしや〳〵 【右丁右下】 なつのくせとてにはかに まつくろになりとう さいもわからぬほと の大雨にかみなり きひしく なりいだし おそろし かりける なかにも ひかり は 【右丁中ほど下】 はなはだ つよく 目のまへ にもおち たるかと おもふほど のはたゝ  がみ【霹靂神(雷神)】 六蔵 ふうふ かみゝに いり りやう 人いつ しよに めを 【左丁右下】 さま しき もを つぶす 【左丁中ほど下】 おみ ねは六蔵 がうへより よぎ うち きせおしすくめ そらをながめかい ほうしける 【右丁上】 ふしぎなるかなそのゝち六蔵はこのみけるさけいつこうに のまずまして人にたて られし通りもののわる ものなればすべて あらくましきおとこ なりしがうちに ばかりゐて とかくおとこを みがきあさも ゆをくみて あらひこに ててふずを つかひそれ よりかほ にはうす げしやう をして今まで ついにつけた こともなき 百介がくこ あぶら松本が ぎんだしを ぬりまわし 水がみに ゆひたて 女のびんを 【左丁上】 出すやうに まげほらにて 中ぞりのうち をすかしあらゆる たわけをつくしける 女ぼうおみねは又 おつとがばかをつくす をいけんしても きゝ入 ぬゆへごうをわかし あしなきになりて かみかたちにもかまはず あさからばんまてさけ びたしになり大はたぬき てれいのてまくらにて おゝかみの ごとくの いひきを かきねいり     ける 【右丁左下】 よくねる め【女?】だぞ 【右丁上】 さてもおみねは おつとがちかき ころは一かうにそ         と へも出すすこしの かせぎもなき ゆへにあさかい【朝買い?】の小つかい せにもなくこれにて もすますとおもひすこし づゝのめくりにかゝりいまはさいふを かたにかけ あそここゝの とばとやらへ あるきてそふ おふにかせぎて 六蔵をはごくみ けるかかみ【めて(右手)?】はいつ がよにも女らし くいゝし事も こゝをはれと いふ所がいろ ほんだ【色?本多】とやら いふひつつめ【ひっつめ(髪)】なん だかかつそうた【喝僧=総髪】【鰹太鰹(ソウダガツオのこと?ソウダ節の原料)】 やら山ぶしだ やらしれぬあた まとうのいも成【頭、唐の芋なり?】 【左丁上】 くきをさした やうな まげつき 女らしいところ【こころ(心)?】 は少しもなし かみさん まあいつ     はい   のみなさへ せうぶなむさん   しまつた こりやきたな〳〵 どうだ    あにさんたち      ゑゝのが       てきるかの 【右丁上】 おみねはしやうばいにかゝりなか〳〵いまははりしことも ならずちうやひまなきゆへとうでうちにゐて【遠出、(六蔵は)うちに居て】 つくりみかきのかたてまに六蔵はしごとをおぼへ 一日したてものにかゝりゐけり かゝあが うちに ゐては くふことが ならず 又たん〳〵さむ そらにむかふ      から ちと   わた入 ものゝ   したく      を せねはならぬ てんきが   よくは  あしたは   かみでも    あらおふす 【左丁上、ここから別の場面】 そのゝち六蔵はきん所より しばゐけんふつに【芝居見物】さそわれゆき しがいぜんとはかはりてかみかたち をつくりみがき いるいはくろき にそでにもみ うらのそて口 からみへるへに 入のかゞもん ちつとばかり すそつぎ をして一寸 五分ほと引 つるやうにしたて おびはふうつうの はゞひろそでづ きんにてかほを かくしさもいやうしく【異様しく? いやらしく?】いで たちける ゑゝいやうしい【異様しい? いやらしい?】ゑゝかとおもつ てなんのまねだばか〳〵 しいるすにはさけの 四五升もあれはなんにも いりませぬ      そんならよく      るすをたのむよ         いつてきませう 又るすにきん所のかみさまたちや  むすめこどもをよひ入まいよ   どふでしまいにはろくな事もてきぬ                 ものだ ころしもおみねはとりのまちへいてかけしがそのかは とをみちなれは【川遠道なれば川東道なれば】はつちしりはしよりにくろ つむきのはをりにて さいふをかたに かけふすへかはの たび【燻革の足袋】大さかせつた【雪駄】 さげ たは こ 入を こしにさけたてから みてもよこからみても さらに 女とはみへすちかいころは此るいの女おりふしみかけるものおゝし おみねみち〳〵のせうふ【勝負】の あげく大けんくわを はしめる なんだ うぬらあ まの ふりを して おれをたれ だとおもふ ゑゝやぐち のおふねといつ【「おふね」はおみねの徒名】 ちやあなちつと 人のしつた けむてへおやま だぞ よ 【左ページ上】 こいつ もとい つもいふ 所ていつ てみ せう まつくら な所に すまは せてしら みにくは せるそ あてこと もなへ【当て事もなへ】 【通行人の台詞】 けんくわ かある むすめ こつちへ よつて とを りや けし からぬ 女も あれば あるものた 【左ページ下、その娘の台詞】 かゝさん あいつは おそろしい 人たね 【右ページ下、仲裁に入った 通行人の台詞】 はてかみさん まあしつかに 物をいゝねへ みんなおまへが もつともだかよ おれが のみ 【左ページへ】 こんだ とうても や【す】るわな はやとしもおしつめけるに おみねはとりのまち いらい所々にて しゆひ【首尾】あしく此ごろはもとでもてきかね そのうへかいがゝり【買掛り】の町人廿五六日ごろ よりつめかけさいそくしける 此人たちやあ【このひとたちゃぁ】みゝはなへか【耳はねえか】さつき【さっき】 からいふ事がきこへぬかやるまいとは【やらないとは】 いわぬはな【言わぬわな】【花札】あるときならぜにの 二くわんやさんぐわんたふでも【どうでも】やる けれどなへ【ない?】からまてといふ のだはなきゝ入すは【聞き入ずば】や口【矢口】 のおふね【おみねの徒名】だアおれを はだかにしてもつてい きやれもふふんどしませ【まで】 ひつはずして はら わね はかつてん【合点】せぬ いや〳〵はらはねば ならぬもつて いきやれこともしの【子供衆(こどもし)の】 やうな 申かみさんそういふ ことではないよう【ことではない。よう】 ござります はるまでも なつまで もまち ますどうぞ かんにんして はらわずに おいて くだ さりませ そこがおなじみ おでいりだけ ひとへにおたのみ 申ます はて どうぞ 御りやう けん なされ ませ 六蔵 は そち のすみ にかた いてめたか【目高(見物人)?】 となりの おもわし女ほう【恋女房?】 がたかごへ【高声】を きのとくにおもひ はら〳〵する もうゑゝわな しつか【静か】にいやれさ あのやうにいわしやる ものを さてもやぐちきんじよ むら〳〵にても六蔵が みもちおみねがてい たらくはつと ひやうばんあり ふたりともに きがちがひしか 又はきつねた ぬきのみいれか なんでもひと とをりのこと ならずと なぬしを はじめより あいそうだん をする さしあたつて むらの なのでる ことまづ ふびん なこと でもあり どうぞ しかたが ありそうな ものだ 【右ページ台詞等】 名ぬしさまのおつしやるとをり どうでもきつねが ついているもしれ ませぬ なんと 万八どの 六蔵 ふうふが みもちどう もがてんが まいらぬ さやふにいたしても まいらねば いたしかたは【致し方は】 まだある〳〵 とぞ 申ける 【右ページ屋根の下】 しかるに人□かしら とん兵へといふもの こくびをかたむけ いふやうわたくし 【左ページへ】 ぞんぜしいなかのべつ とうにどうねんと申 きとふじや【祈祷者】きちがい きつねつきなどき めうにきとふをいたし まするとはなし それよりどうねん をよひなつ ちうゟ【より】六蔵 ふうふ かていを くわしく はなしけるに どうねんいふよふ それはまづ二人ともにさけを すゝめよくねいらせておき いたしかたありとうけあふ かくてとん兵へ万八は六蔵かたへきたり ふうふにさけをすゝめゑいにさせ それよりどうねんをよびきたり きとうをたのみけるにどうねん こゝろへふたりがよくねいりたる ところをまづ六蔵をけわしく おこしければのきくちより 一つのしんくわきたり 六蔵がくちへ入らんと する所をもちつたへたる きつねのめんをくわい ちうよりいだし 六蔵がかほへ かふせければ しんくわはあちこちう ろたへはいるべき口を めんにてふさがれ おみねがねいりたる くちよりはいりける 【右ページ、おみねの下】 ほどなく 又一つのしん くわ そと より きたり おみねが口へ はいらんとせし ところを又き つねのめんをかけ ければこれもまた うろ〳〵して六蔵が くちへ はいりける 【右ページおみねの頭の左】 それより りやう人を ゆりおこ せしに ぼうぜん としていたりしがおみねは 【左ページへ】 しとやかに みな〳〵へあい さつしていさいを きゝふうふかぎりなく よろこびまづあたりを そうじなぞしてかけうわ ごさを【掃除なんぞしてかけ、上ござを?】【掃除なんぞして、掛川ござを?】 さらりとしき とうねんを しやうじて いろ〳〵もてなし 一礼のべて かへしける それよりみな〳〵いとまこひしてかへりしあとにて にかき【苦き】【ふうふ?】かほとかほを みあわせ あきれて しばらくものもいわず おみねはすこし はつかしくゆめ みしこゝちにて かみなりこの かたのはなしあい おもへば おかしく たかいにわらひ をもよほしける □【そ?】まづ大じのとしのよだおとうめうを あげやれこのいごともになんほねむ かろうともふたりいつしよにはねぬ ようにしませうとんだ ものがまちがつて大き に人のせわになつた とちの人どうねん さまのおかけてまことの ふうふらしくはつ はるをむかへめてたふ ござんす このよふなめてたい ことはない 清長画 可笑作 【墨で逆さまに】りゑ【里ゑ】