《題:鼻下長生薬》 寛政十年 鼻下長生薬  《割書:馬琴作|重政画》 三冊 鼻下長生薬(はなのしたながいきのくすり) 《割書: 江戸通油町|本家 蔦屋重三郎》   《割書:こごにいはくおいしやさんでもかみさんでもほれたやまひはなをりやせぬむべなるかなこのことはやけだしおもんみれは》 古語云。医薬神力不_レ容_二男女之間_一。宣哉此言也。益惟 《割書:にんけんまんびやうごよくよりいづ  ゐのいたるゆゑん  またまたかたからずや そも〳〵この》 人間万病出_二於五欲_一。所_二-以医之為_一レ意又弗_レ難耶。抑此 《割書:ちやうせいのくすりはふしのせんほうふらうのしんやくなりむかししんくわうしんやくをほう》 長生薬。不死仙方不老神薬也。昔者秦皇帝需_二神薬於 《割書:らいにもとめかんていせんたんをわうぼにとふしこうしてついになしうること いまさいわいにありこのほう》 蓬莱_一。漢帝問_二仙丹於王母_一。而終莫_レ得焉。今幸有_二此方。 《割書:せけんどうなんどうによついてこれをもちいはころくひやうねんのしゆめううたかふへからず》 世問童男童女就用_レ之。則五六百年寿命不_レ可_レ疑矣 一㐧一とし玉によし一なく子に用てよし 一ねむけざましによし一はらのたつ時によし 其外何でもよしかき入れたし合きんもつなし 一ざい十五丁御こゝろみ三冊ゟ上中下 曲亭主人製 【馬琴】 【上欄外】 午新版 【右丁上】 ▲酒色(しゆしよく)命(いのち)を削(けづる) 人のやまひのこんほんは なんだろうとよく〳〵 かんかへてみたところが 人のやまひはよくから せうするなり人げんに 五よくといふやまひが あつていろとさけ とが此五よくのおかし らなり人さけを のめばこゝろがあじ になつてかきねの そとのりやう けんがおこる かきねのほ かのりやう けんはいろ也 このいろと さけとは 人のけづる のみとかん ななり 今も大工 の方言(ほうけん)に さけをの む事を 【左丁上へ】 【右丁左中】 〽さけもいゝ  かげんに  しなへし  みのどくで     をす 【左丁上】 けづるといふまた めりやすのけん 〳〵にこひはおなご のしやくのたねな どゝもいへりこの 五よくのやまひを なをすくすりは 仁義礼智信 の五道なりまた しゆにまじはれば あかくなるといふが ごとくわるひともだ ちとましはればわる ひ心かたちまちう つる事のつひぜん よりすみやかなり 子どものうちてな らひがくもんのよふ ぜうをよくせねば かつてうつりたがるも のなりりやうやく 口ににがくかんげんみゝ にさかふといふごとく いづれくすりとな のつくものにうまひ ものはなし 【左丁右下】 〽源八もうひるだ   ろうけづゝて    しまやな 【左丁中央】    〽とどのつまり    大みそかには   むねでせんぼん  づき【注】の しごと    か  あるぜ  【注 千本搗き=土を棒でついて固める作業】 【左丁左中】 〽ひの木山のひは  ひの木からでゝ  ひの木をやく人  の五よくはわが  身からでゝわが  みをほろぼす  さればうたにも   われとわが身をやくからに   むねのひもこいの山より出るなる  べしがてんか〳〵 【右丁上】 ▲愚蠢(ばか)につける薬(くすり) たとへのふしにばかに つけるくすりがないと いへどばかにつけるくす りもあるなりばかに つけるくすりはぜに かねなりどんなあわゝ の三太郎も金さへあ ればりこうらしく みへるまたくろあば たでおたふくでびっこ でかんこちでそのうへ 百の口が三拾二かへも 五十もぬけている あねへでもぢさん きんといふくすりを つけれはせけんの きのきいたき りやうのよい よめよりもうつ くしくみへて しうとめのほう からきげんを とるこうのう ありもちひて しるべし 【右丁右下】 〽こなたに のませうと おもつてに はな【煮花】をした ちやくわし【茶菓子】は 何をとりに   やろふ 【左丁右上】 〽コレ〳〵よめしよ そのよふにし事 ばかりしたら きがつきませう ドリヤかたをもんで しんぜうか 【左丁左上】 〽アレ〳〵いつそ ありがはう【蟻が這う】 ようだ ついぞ よめのかたを もんだ事が ないそうだ そんな事 じやぁもん でもろふ にはおとり やす ▲薬毒(やくとく) くすりにやくどく とてあまりくすりを もちいすごすとそ のくすりかへつてどく となることありこの やくとく【薬毒】はばかにつ けるくすりなどに よくあるやつなり これはひとまはりで なをすの二たまはり でねをきる【(病の)根を切る】のといふ はやなをし【早治し】のりやう じちかひ【療治違い】からおこる このばかにつけるくすり をもちゆるせう【証】はなが しもと【流し元】のみづがへつて こめびつがはらをくだ しかまのしたの火が たかぶりしんせう【身上】の ぐわいがちがつた ひんのやまい【貧の病】にくる しみはやなほし【早治し】 のぢさんきん【持参金】をも ちゆればいつたんは こうのふ【功能】がみへる よふなれど 【左丁右上】 そのやくとくが のこつてじさん金 をはなにつけて ていしゆをしり にしきいでおさ だまりのとをり すりこ木すり はちのたてと なるこれやく どくのなす わざなり 【右丁中段】 〽コレあんまりてへへゑをいわつ しやるなきよねんまでは ひものゝあたまをこ なにくだいてしるの みのだしにいれた しんせう【身上】がおれさ まのおかけでたい のみそづけもまい にちもとたれる【?】も すさまじい くや しかァ出して みたが いゝや ろうの むけん のかね【注壱】で つかざアさりぜう【去り状。三行半】 はよこされめい とほうもねへ 三太郎【注弐】じやあ     ねへか  【注壱 無間の鐘。この鐘をつくと現世で金持ちになるが、来世で無間地獄に落ちるという。 注弐 江戸時代、丁稚・小僧の通称から転じて、愚鈍な者をいう擬人名】 【左丁右下】 〽マア〳〵しづ かになさい   ませ 【左丁左上】 〽うぬ口に たなちんが でぬといつて とんだ事を ぬかしやあがる そのしたを ひつこぬいて むやづけの かんばん【?】に   するぞよ 【左丁左下】 〽これはどふした ものしづかにいつても わかることじゃ ぐわ いぶん【外聞】といふことを しらしやらぬか 【左丁上】 ▲万病(まんひよう)は欲心(よくしん) よの中にあるもの ひとつとしてやまひ のなひものはなし 月にむらくもの やまひあり天 はらをくだして 大あめ大がみ なりとなり 地づつうたち ぐらみして しんだうぢ しんとなる とふぞくは くにのやまひ ねづみはいへの やまひ木のや まひは木から わくがごとく 人けん五よくの やまひは心から せうずるもの なり子ども のくいたひこもりの あそひたいむすこ むすめのあいたい みたいきたひくいたい 【左丁上へ】 【右丁右下】 〽此ところそう〴〵しくうかれて おとる【浮かれて踊る】ゆへべつにかき入【収入】なし この   やうす   ではしじう              ね               だ               も              ふみ               ぬ               き              かね              めへ 【左丁上】 ぢいさんばあさんかねが ほしいぼんさんのほんどう がこんりうしたいおいしや さんのよいひやうかゞたんと ほしいあきんどのたんと もふけたいこれみな 心から出るやまい にてこれから いろ〳〵の せうに へんずる しやつ きんこく にせがまれ てはづゝう 八百と也 うちの おしゆび があし ければ きづもつ あしと なる御用 心〳〵 【左丁右下】 〽うたにも心こそ心ま よはす心なれといふ ごとくみなおのれ〳〵 がこゝろのまよひから 心のわなにかゝりきつ ねのねづみのあふらげ をみてくいたいと思ふや まひのおこるも人の ほしい〳〵と思ふや まひもおなじ事にて いづれよくがてつだつ てついにはみをほろぼ すことうたがひなし 【左丁左中】 〽てん〳〵つる〳〵 てんつるつん〳〵〳〵 ナント欲(よく)ひくだろふ よくにひかれるといふも此事也 【左丁左下】 〽此ひぼを心といふ字に むすんだはなんといゝさいくか 【右丁上】 ▲癪(しやく)は気(き)の凝(こり) たて今のあいたいみたい ほしいくいたいがこり かたまつてしやくと なる人げんとうまれて よくのないものゝせう こにはしやくのないもの もなし百人に百人ぜに かねがほしい〳〵のよく しんがかたまつてしやく となるゆへ金をかりる ことをしやくきんといふ またあいたいみたいとお もふ女男のしやくは石 のごとくこりかたまる 久米の平門まつらさ よひめなどみなしや くのこりかたまつた てあいにて石といふじ をしやくとよむもこの いはれなり 【右丁右中】 〽こふしたところは たくわんづけのおもしに ほかならぬしろ ものた 【左丁中央】 〽ふたりのくびへしめをはると べちやァねへふたみがたのぶん だいときている 此思ひつきははい かいしにきか せることだ 【左丁左中】 〽ここはとり合せもないゆへ かきいれの思ひつきもなく さくしやだいのてこずりなり しかし此半丁はさそゑしがよろこぶだろう 【左丁白紙】 【白紙】 【白紙】 【右丁白紙】 【左丁上】 ▲心病(こゝろこゝろ)_レ心(をやむ) こゝに長命や寿兵へと いふものゝひとりむすめ お梅はことし二八のそば からみてもとをめでも どことつていゝふんのない きりやう 寿兵へは おむめがきりやうを うりつけてまへの しんだいより百そう ばいましたと ころでなければ かたつけぬとこいつも よくのやまいからとしたけた【年闌けた】 むすめをべん〳〵とかゝへて かくうちお梅はいつしかとなり のむすこ久米■■【之介ヵ】を みそめ心ばかりに こいしたいさすか おぼこむすめの ことなればうちつけに いゝよることもならず たゝく  よ〳〵と 思て いるそ のあいだみ たいがつもり〳〵 てしやくとなる こしやくむすめ  といふも此ときよりぞまた久しいもんだ 【左丁右下】 〽お梅くめ  のすけが  事を思ひ つめうたゝ  ねのゆめ   にみる   これ   ゆめは   小性の   わづら   い【注】と    いふ  【注 「夢は五臓の患い」の洒落】 【左丁中央】 〽わたしやおまへ  にあいとうて〳〵  つかへのおこらぬ日 とてもこのむなさき のしやくを みてうた がいはら   して くだ  さんせ 【右丁上】 ▲恋々情无薬(れん〳〵のせうくすりなし) 却説(かくて)寿兵へかむすめお梅ぶら〳〵と とわづらいければ寿兵へふう婦は ひとりむすめの事なればはり【針】 ほどのこともほう【棒】ほどに 大そうにしてかぜにあたつて はわるひととぼぐちへも■【出ヵ】さず お梅はけつく【結句=結局】久米のすけが かほをみる事もなら ねばいよ〳〵もだへて しやくはだん〳〵ぞう てう【増長】する これはきの おとろへだから本町の 八味ぢわう【八味地黄丸】がよかろふ といふものもあれば いや〳〵このこの むなさきへつかゆるは しやくのせいだから 田町のはんごんたん【反魂丹】 をおもちいなさ れといふものも あり寿兵へは 人のよいと いふものは なんでも のませて はやくよく 【左丁上右へ】 【左丁上右】 してやりたいが せいいつぱいな ればどちらも のがさぬつもり にぢわうと はんごんたんを かつてかへに【交互に】 のませる これこいの わづらいおゝ こちやしら ぬといふうた のこゝろいき ににたり 【左丁上左】 〽ひるめしは  なにがよか    ろふの 【右丁右中】 〽ちときをはつきりと  もつたがよいわいのはるきやうげんが  はじまつたら二けんながらみせるぞや 【右丁左中】 〽なにもたべとふ  ごさんせぬ 【左丁左下】 田町の おつかいが  かへり    まし     た 【右丁上】 ▲腹(はら)は海道(かいどう)の如(ごとし) 不題(これはたてむき)はらの中と いふものはかいどうすぢの ごとくのんだりくつたり するものがあさからばん までとゞこをることなく わうらいする もしひい ぶくろ【脾胃(袋)】の川どめにあへば しよくたい【食滞】となるさて 二度〳〵のめしとしるは 上下ひきやくのごとく はらのうちのようす もよくのみこみだう ちうなれているゆへ ひいふくろといふぢやう やど【定宿】へつく こののんだり くつたりしたものは ぜんにならべてある うちはしるはみぎ めしはひだりと ぎやうぎよく ならんでいれど 此ひいふくろへおち つくと大そらの さこね【青天井の雑魚寝=野宿?】のことく すまのはつがつほ も三文のしいのみも ひとつにところへはいつて 【左丁上右へ】 【左丁上右】 ねるゆへたがいに あじなきになつて それわち【?】にこし らへて水ももら さぬこひ【肥ヵ】となり あくるひはせつ ちんへくだる也 【左丁上中】 〽さてまたげん 気といふものは 道中めつけの ごとくしよく もつのすこし もとゞこをらぬ やふにあとから おつたてゝゆく もししよくもつが なまけてやすみ たがれば口きたなく しかりつけてさん〴〵に こなすなりげんきの しよくをこなすと いふはこのことなり 【右丁右中】 〽ひいふくろのやど引はめいどで   いのちなりいのちのあるうちは   くはねはいられずゆへに         めいは         しよく         を引と          いふ 【右丁右下】 〽サア〳〵おなじみのうちて ござりますこれからは わづか百ひろのみちじや こあんないいたし        ませふ 【右丁下中】 〽ゆのときくつた  こうのものもモウ  きそうなものだ 【右丁左中】 〽きんねんはけんやく  をしますから   つぼひらやき    ものなどゝいふ     みちつれは      なしさ 【左丁右下】 〽げんき口き(た ヌケ)なくしよくを  こなす みづおちからひざ  がしらまでたつた三里ほか  ねへくたびれたもすき     ま也 【右丁上】 ▲丸丹(くわんたん)/効(こう)を争(あらそふ) かくてお梅がはらの うちはぢわう【八味地黄丸】とはん ごんたん【反魂丹】のくすりずく めになりけるがこと はざにいふごとく 両ゆうならび たゝずと ぢわうは はんごんたん をおいしり ぞけおのれ ひとりがてがらに せんとはかりまた はんごんたんはちわう をしりぞけおのれが こうのうをあらわ さんとたがいにこれ より中あしく なる 【右丁右下】 〽ぢわうのかほもさんど  やら もふりやうけんがならねへわへ 【右丁中央下】 〽なんぼじた  ばたしたと  てもみつざい  なあま口で  しやくやつかへか  てにのるもの  かおよばぬ事  だかなはぬこ  とだはなどゝ  はんごんたん  まつかにな  つてりきむ【注】    やつさ 【注 カスレ部分は磐田市立中央図書館所蔵本を参照 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100185289/viewer/11】 【左丁右上】 ▲返魂丹(はんこんたん)/積(しやく)を砕(くだく) ぢわうはいつたい うちのよはりをおぎ のふくすりなれば お梅がしやくは中〳〵 ぢわうの手にのら ず はんこんたんは しやくをくだくのう【効能】 あればそここゝと たづねあるきある とき水おち【みぞおち】 の橋づめにて しやくにでつ くわせさん〴〵 にちやう ちやくする 【左丁左上】 〽こうつかめへたが  さいごおてらさま  がしやしけ【?】のころもを  かりて命こひをしても  ゆるしゃアしなへかくごゥ  しやあがれ 【左丁右下】 しやくはたゝ グウ〳〵と のたをうつ  てくる 【左丁左下】 〽おのれよくむなさき  つゝばたかつてしよく  もつのおうらいをとめ  たなはんごんたんのて  なみをみろふた〴〵しい 【右丁上】 ▲さつま芋(いも)の敵薬(かたきやく) はんごんたんお梅が しやくをはんしはん せうにちやうちやく せしかばしやくは たちまちいき ほいをうしない ふかくかくれゐて ふたゝびてある かねばお梅 この四五日はすこ しむなさき もすいてこゝ ろよくおぼへ ければこれは まつたくはん ごんたんのこう なれば今より ぢやく【持薬】にはぢわう をやめてはんごん たんばかりを もちひんといふ ことをぢわう ひそかにきゝい だしわれはげん きをましきけつ をめぐらすこう のうあるをきゝ 【左丁上へ】 【左丁上】 ひといろのしやく をしりぞけたり とてはんごんたんに とかへられたる【と替えられたる、または取替えられたる】こそ やすからね なにと ぞはんごんたんをう つて此むねんをはら さんと思ふおりふし おむめやほらしく ひるめしにさつま いもしるをくい ければぢわう これさいわいと さつまいもをひ そかにたのみ はんごんたん をうつてくれ よとたのむ 【右丁右下】 〽はかりことは蜜(みつ 原文ママ)なるを  よしとす ずいぶん心  をねりやくにしめされ        がてんか〳〵 【右丁左下】 〽此二三丁ゑくみ【絵組=構図】にたね【材料】か  なくあいきやう【愛嬌 注壱】かない  からどういふわけかおへそ  がちやをわかしてもつて 【右の行、のど部分に当たり読み取り不能のため左記参照】 【参照 磐田市立中央図書館所蔵本 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100185289/viewer/12】 【左丁右下】   でるそしておへそといふ         から女に          したもいゝ           じやあ            ねへ             か  【注壱 前頁まで男ばかり出てきて殺風景だから、おへそという名の女中に茶を出させて画面に花を添える趣向】 【左丁中右】 〽八味(はちみ)■う【しう=衆ヵ】の   れんはんでう【連判状】    しつかりと     うけとり      ました 【右丁上】 ▲薬(くすり)の禁物(さしもの) さつまいもはぢわう にたのまれはんごん たんをやみうちに してたちのく これさつまいもは はんごんたんのて きやくといふ事 もこのときより ぞヲツトあとは【注】 せうち〳〵 【注 カスレ部分は磐田市立中央図書館所蔵本を参照 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100185289/viewer/13】 【右丁右中】 〽ぐわんじる【願じる】よりうつが  やすい【注】とあんぼんたん  めがよいざま〳〵 【注 案ずるより産むが易しの洒落】 【右丁上左】 〽さつまいも  だけこういふば  てはふけるがはやい  人のこぬうちに  げるこつた 【右丁左下】 〽むねん   〳〵〳〵 【左丁白紙】 【白紙】 【右丁白紙】 【左丁上】 ▲蘿蔔(たいこん)の玅(めう)【注】 ちわうにうたれ たるはんごんたんの 女ぼうむすめは かたきぢわうを うたんとつけね らふよくきこへ けれはぢおうは かたきのめ【敵の目】をしの ばんとおりふし むぎめしのからみ 大こんむなさきを とをりかゝるぢわう これさいわいと大 こんをとつておさへ そのしぼりしるを おのれがからだへぬり つけければふしぎや 今まてまつくろ なるぢわうたち まちはくはつ となりそう でうあふ きにかはる 【注 カスレ部分は磐田市立中央図書館所蔵本を参照 https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100185289/viewer/13】 【左丁右下】 〽今がたいこだ  くわんねんしろ 【左丁左下】 これ ふくな にかへは いつ■ であへ  〳〵 【右丁上】 ▲ひにん丸(くわん)の功(こう) かくてはんこん たんの女ぼう むすめはかたき ぢわうをつけ ねらいはらの 中山のふもと なる土手っはら といふ土手のし たにこやがけして ひにんぐわんに 身をやつし うきとし つきをおくり けるにをり ふしかたき ぢわう土 手っばらを とをりかゝり けれども大 こんのき どくにて ぢわうの かみのけ のこらず しろくなり 【左丁上右へ】 【右丁右中】 〽コウ   こもをかゝつて   りきんだところ   はしつかいよたかの   しんぢうと   きてゐる 【左丁上右】 そうこう おふきにかわり ければそれとも しらずやみ〳〵と わかるゝ 【左丁上中】 〽あふひ下坂 ようくきれ ますひとた ちぬいておめに かけんはみかき はんごんたん此 あいだにおもと めなさいなか〳〵   さよでござい 【右丁上右】 ▲胸倉(むなぐら)のせき おむめがはらの しやくは今はたれ はばかるものな ければはらの むしはおれひとり とむなさきへつゝ はだかり水 おちにたんせき といふせきを すへしよくもつ をおひかへし ければおむめ もつてのほか にあげつもど しつなんぎする 【右丁右下】 〽きいてもへんぢやく  でもとんちやくは  ねへとふすことは  ならぬ〳〵 【右丁左下】 〽しよくもつ  おいもどさるゝ  おしひとおぼし  めしとしる   おとふしなされ  てアヽこういふ  うちもひだるく  つていきが  きれる 【左丁上】 ここにまた 寿兵へがまた となりに長井 寿庵といふ《割書:デモ》 いしやありにわか の事なればまづ 寿あんでもたの むがよいと家内 ちやにしなから まんざらしろふ とよりはまし たろふとよびに やつてようす をみせればじゆ あんさつそくかけ つけおむめがやう すをみてこゝろ やすくうけ合 すゞりすみ一てう なまねぎ一本を せんじてのませる これさつまいもと ぢわうをたいぢ するくふうと みへたり 【左丁中央】 〽なにもあんじます  事はござります  まいか 【左丁左下】 〽ぢきになをして  しんぜませう 【右丁上】 ▲媒人医生(なかうどいしや) さてじゆあんはまづ むなさきへはりを たてゝしやくをおさへ すゞりずみとなま ねぎにてぢわうさつ まいものどくをげし このうへしやくのねを きる事は中〳〵はり くらいではゆかず これをなほすくすり あり此出つけのしな〴〵を となりの久米之介の両しん よりもらひてもちひなはゞ さつそくしやくの ねをきるべしと 何かほうしやう【奉書(紙)】へ かいたるやくほう【薬方】 を寿兵へにわた して立ちかへり ける寿兵へふう婦 がてんゆかずと そのかきつけを ひらいてみれば ゆいのうのもく ろくにてやなぎ だる一荷するめ一だい 【左丁上右へ】 【右丁右中】 〽けふはとんだいそ  がしい日だまだ  おまんまも  たべねへわな 【右丁左下】 〽てうづの  ゆをあげ  たらおくわ    をだす    のだよ 【左丁上右】 おびだい千びきと おさだまりのしう の品々これはふしぎ とおむめをとひつめて みればとなりのむすこ 久米之介とだん〴〵やう すをきいて両しんはじ めてさとりすぐに寿庵を 仲人にたのみゑんだんをいゝ こめばむかうもさつそく せうち【承知】にてゆいのうの もくろくもさつそく やくにたちおむめが やまひぬぐつてとつた ごとくくわゐき【快気】する せけんなかうどいしや のめうもく【名目】これより はじまる 【左丁上左】 〽これはつよひ  おしやくだ  ちとひゞき     ませう 【右丁上】 ▲野夫(やぶ)にも功者(こうのもの)あり 寿あんがやくほうのかの すゞりずみはおむめが のどをとほるやいな やさつまいもをとつておさへ たかてこてにいましめ うらもんさしてくだり けるぢわうはたのみきつ たるさつまいものおひ くださるゝをみていかゞは せんとうろつくところ をはんごんたんの 女ぼう むすめ ぢわうが しらがと なりてよを しのぶ事をきゝ いだしそここゝと たづねあるきしが 此ところにてでつくわ せ火花をちらして たゝかいけるがぢわうは ぶしにつけい【附子・肉桂】のやくりき【薬力】 つよくはんごんたんの女ぼう むすめすでにあやうくみへ たるところとかのなまねぎ いつさんにかけつけ両人に 【左丁上へ】 【右丁下中】 〽かへり  うちだ  かくご   しろ 【左丁上】 ちからをあはせければぢわうは なまねぎをみてたちまち やくりきをうしない ついに両人にうたるゝ今も ぢわうをのんで大こんを くへばしらかとなりなま ねぎをくへばこうのうを けすといひつたへたり さてまたおむめがしやくは 寿あんがはりにつゝ ぬかれてあしを もがきくるくるしみ しが久米之介がゆひ のうきはまりお梅 が心ヤレうれ しやと思ふと ひとしくぼん のうの五よくたち まちにしりぞき かぜのくもをちら すがことくおむめ がしやくいづくとも なくきへうせける このときおむめがはらの うちぐわんらくわら〳〵 と大さわぎてくすり めんけんせざればそのやまい いへずとなか〳〵医者(いしや)らしい事を              いふやつさ 【右丁左下】 〽おやのかたき   おぼへたか 【左丁中央】 〽いやいもくな  なんとあたら      しかろふ 【左丁右下】 〽さあ〳〵しまひ      ■【さヵ】けた 【左丁左下】 〽一ぼん三文のちへも   なくつてふさ〴〵しい        やろうだ 【右丁上】 かくておむめがしやくたち なほり久米之介とふうふに なり今は世の中にねがいの ぞみもなければよくのやま いのねをきりまことに むびやうそく才にて 五六百ねんさかへけり されば寿兵へがよく しんのやまひより としたけた むすめをべん〳〵と かゝへておきしゆへ ついにおむめがしやくの たねとなるこれをおもへば 人けんのやまひは五よくゟ 出るにちがいなし一升はいる ふくべは壱升とあきらめ身に おうぜぬねがいをせず人のよいも うらやまずわかみのあしきもくゆる 事なくてん  とふさまのおさづけ しだいに今日 をまつすぐにまづ いものを   くつてまめにはた らかば      五六百年の寿命は           うけあいなりかならず           うたがいたもうべからす 【右丁右中】 〽めでたし〳〵 【右丁左中】 〽ちと中だけ  ふうをかへて  おめでたうござんす〳〵 【左丁】 寛政十年 午五月吉日     ■■■■ 【白紙】 【裏表紙】