【表紙】 【見返し 資料整理ラベル】 JAPONAIS  305 【見返し】 【白紙】 【白紙】 【白紙 頭部手書きメモ】 3288 大ガッコ R.R. 1843 【1047 の上に線を引き見せ消ち】 305 【白紙】 【白紙の頁に手書きメモが貼付】 23【丸で囲む】 山海名産図会 San Kai mei san Jsu je   5 03 . 【以下省略】 山海名産図会序 中古人士之於物産也【右に小さな〇を傍記】率本 於本草【同前注】而山産海錯【同前注】認而無 遺漏者【同前注】自向観水稲若水松 怡顔島彭水之徒【同前注】才輩実不 匱焉【同前注】余夙預其流【同前注】于今既費 数十年之苦心【同前注】見人之所未 日本山海名産図会(につほんさんかいめいさんづえ)巻之壱    ○ 目 録   摂州(せつしう)伊丹(いたみ)酒造(さけ[つく]り)              藍江【落款】 酒(さか) 楽(ほかひの) 歌(うた) 此御酒(このみき)を醸(かみ)けん人は。其鼓(そのつゞみ) 臼(うす)に立(たて)て。うたひつゝ醸(かみ)けれ かも。舞(まひ)つゝ醸(かみ)けれかも。 この御酒(みき)のみきの。あやに 転楽(うたたの)〳〵サヽ 是(これ)は応神天皇(わうしんてんわう)角鹿(つのか)より 還幸(くわんかう)の時(とき)神功皇后(しんくうくわうこう)酒(さけ) を醸(かも)し侍(はへり)ていはひ奉(たてまつ) り歌(うた)うたはせ給(たま)ふに 武内宿祢(たけうちすくね)天皇に代(かはり)奉り 答(こた)へ申 歌(うた)なり是(これ)を酒楽(さかほかひ) の歌(うた)といひて後世(こうせい)大嘗(たいしやう) 会の米舂(こめつ)くにもうたふと也    右古事記    ○ 造醸(さけつくり) 酒(さけ)は是必(これかならす)聖作(せいさく)なるべし、其(その)濫觴(はじまり)は宋竇革(そうのとくかく)が酒譜(しゆ□)に論(ろん)してさだか ならず、日本(にほん)にては酒(さけ)の古訓(こくん)をキといふ是則(これすなはち)食饌(け)と云儀(いふぎ)なり、ケは 気(き)なり、《割書:字音(じおん)をもつて和訓(わくん)とすること|例(れい)あり器(き)をケといふがごとし》神(かみ)に供(くう)し、君(きみ)に献(たて)まつるをば尊(たつと)みて 御酒(みき)といふ、又(また)黒酒(くろき)白酒(しろき)といふは清酒(せいしゆ)濁酒(だくしゆ)の事(こと)といへり○サケといふ 訓儀(くんぎ)は、マサケの略(りやく)にて、サは助字(じよじ)ケは則(すなはち)キの通音(つうおん)なり、又 一名(いちめう)ミワ とも云、是(これ)は酒(さけ)を造(つく)るを醸(かみ)すといへば、カを略(りやく)して味(み)の字(じ)に冠(かんむ)らせ、 古歌(こか)に、味酒(うまさけ)の三輪(みわ)、又(また)三室(みむろ)といふ枕言(まくらことば)なりと冠辞考(くわんじかう)にはいへり、され ども、味酒(うまさけ)の三輪(みわ)、味酒(うまさけ)の三室(みむろ)、味酒(うまさけ)の神南(かみなみ)備 山(やま)、とのみよみて外(ほか)に 用(もち)ひてよみたる例(れい)なし、神南備(かみなみ)、三室(みむろ)とも是(これ)三輪山(みわやま)の別名(べつめう)にて他(た) にはあらず、是(これ)によりておもふに、万葉(まんよう)の味酒(うまさけ)神南備(かみなみ)とよみしを 本歌(ほんか)として、三輪(みわ)三室(みむろ)ともに、神(かみ)の在山(いますやま)なれば、神(かみ)といふこゝろ 【ページ 一ノ二】 を通(つう)じて詠(よみ)たるなるべし、《割書:ちはやふる神(かみ)と云(いう)をちはやふる加茂(かも)|ちはやふる人(うち)とよみたる例(れい)の如(ごと)し》これによ りて三輪の神(かみ)松(まつ)の尾(を)の神(かみ)をもつて酒(さけ)の始祖神(しそしん)とするもその 故(ゆへ)なきにしもあらず、又(また)日本記(にほんき)崇神天皇(すしんてんわう)八年、高橋邑人(たかはしさとひと)、活日(いくひ)を もつて大神(おほかみ)の掌酒(さかひと)とし、同十二月 天王(てんわう)、大田田根子(おほたたねこ)をもつて、倭大(やまとおほ) 国魂(くにたま)の神(かみ)を祭(まつ)らしむ、云く大国魂(おほくにたま)は大物主(おほものぬし)と謂(いひ)て、三輪(みわ)の神(かみ)なり、 されば爰(こゝ)に掌酒(さかひと)をさだめて神(かみ)を祭(まつ)りはじめ給(たま)ひしと見(みへ)えたり、 《割書:今(いま)酒造家(▢ゆそうか)に帘(さかはた)にかえて杉(すき)をは|招牌(かんばん)とするはかた〴〵其縁(そのえん)なるへし》又此後(またこののち)大鷦鷯(おほさゝき)の御代(みよ)に、韓国(からくに)より参来(まうき)し、 兄曽保利(えそほり)、弟曽保利(おとそほり)は酒(さけ)を造(つくる)の才(さへ)ありとて、麻呂(まろ)を賜(たま)ひて酒看(さかみい) 良子(いらつこ)と号(かう)し、山鹿(やまか)ひめを給(たま)ひて酒看郎女(さかみいらつめ)とす、酒看酒部(さかみさかべ)の姓(せい)是(これ)より 始(はじま)る是より造酒(さうしゆ)の法(はう)精細(せいさい)と成(なり)て今 天下日本(てんかにほん)の酒(さけ)に及(およ)ぶ物(もの)なし、是(これ)穀(こく) 気(き)最上(さいしやう)の御国(みくに)なればなり、それが中(なか)に、摂州伊丹(せつしういたみ)に醸(かも)するもの尤(もつとも)醇(じゆん) 雄(ゆう)なりとて、普(あまね)く舟車(しうしや)に載(のせ)て台命(たいめい)にも応(おう)ぜり、依(よつ)て御免(こめん)の焼印(やきいん) を許(ゆる)さる、今も遠国(ゑんこく)にては諸白(もろはく)をさして伊丹(いたみ)とのみ称(せう)し呼(よべ)へり、 【挿絵】 【右丁】 伊(い) 丹(たみ) 酒(しゆ) 造(さう) 米(こめ)あらひ   の図(づ) 【左丁 文字無し】 されば伊丹(いたみ)は日本上酒(にほんじやうしゆ)の始(はじめ)とも云(いう)べし、是(これ)又 古来久(こまいひさ)しきことにあらず、 元(もと)は文禄(ぶんろく)、慶長(けいちやう)の頃(ころ)より起(おこつ)て、江府(かうふ)に売始(うりはじめ)しは伊丹隣郷(いたみりんごう)鴻池村(かうのいけむら)山(やま) 中氏(なかうち)の人(ひと)なり、其起(そのおこ)る時(とき)は纔(わづか)五斗一石を醸(かも)して担(にな)ひ売(うり)とし、或は二拾 石三十石にも及(およ)びし時(とき)は、近国(きんこく)にだに売(うり)あまりけるによりて、馬(むま)に負(おほ)ふ せてはる〴〵江府(かうふ)に鬻(ひさ)き、不図(はからず)も多(おゝ)くの利(り)を得(ゑ)て、其(その)価(あたひ)を又馬に 乗(の)せて帰(かへ)りしに、江府(こうふ)ます〳〵繁盛(はんじやう)に隨(したが)ひ、石高(こくたか)も限(かき)りなくなり、 富巨萬(とみきよはん)をなせり継(▢▢で)起(おこ)る者(もの)猪名寺(いなてら)屋 升(ます)屋と云て是(これ)は伊丹(いたみ)に居住(きよじう)す、船(ふな) 積(つみ)運送(うんそう)のことは池田(いけた)満願寺屋(まんぐわんじや)を始(はじ)めとす、うち継(つい)で醸家(さかや)多(お )くなりて、 今(いま)は伊丹(いたみ)、池田(いけだ)其外同国(そのほかとうこく)、西宮(にしのみや)、兵庫(ひやうこ)、灘(なだ)、今津(いまず)などに造(つく)り出(いだ)せる物(もの)また 佳品(かひん)なり、其余(そのよ)他国(たこく)に於(おひ)て所々(ところ〳〵)其名(そのな)を獲(え)たることの多(おゝ)しといへとも、 各(おの〳〵)水土(すいと)の一癖(いつへき)、家法(かはう)の手練(しゆれん)にて、百味人面(ひやくみにんめん)のごとく、又 殫(つく)し述(のふ)べからず、又 酒(さけ)を絞(しぼ)りて清酒(せいしゆ)とせしは、纔(わづか)百三十年 以来(このかた)にて、其前(そのまへ)は唯(たゞ)飯籮(いかき)を以 漉(こし)たるのみなり、抑(そも〳〵)当世(とうせい)醸(かも)する酒(さけ)は、新酒(しんしゆ)、《割書:秋彼岸(あきひがん)ころより|つくり初(そめ)る》間酒(あいしゆ)、《割書:新|酒》 【ページ 一ノ四】  《割書:寒前酒の|間に作る》寒前酒(かんまへさけ)、○寒酒(かんしゆ)、《割書:すへて日数も後程多く|あたひも次第に高し》等(とう)なり、就中(なかんつく)新酒(しんしゆ)は  別(べつ)して伊丹(いたみ)を名物(めいぶつ)として、其香芬(そのかうふん)弥妙(いよ〳〵めう)なり、是(これ)は秋八月 彼岸(ひがん)の頃(ころ)、  吉日を撰(ゑら)み定(さだ)めて其四日前に麹米(かうしこめ)を洗初(あらひそめ)る、《割書:但し近年は九月節寒露|前後よりはしむ》 酒母(さけかうじ)【二行割書】むかしは麦(むき)にて造(つく)りたる物(もの)ゆへ文字(もんし)麹につくる中華(ちうくわ)の          製(せい)は甚(はなは)たむつかしけれども日本の法(はう)は便(べん)なり   彼岸頃(ひかんころ)、□(もと)【酉に胎】入定日(いれじやうじつ)四日 前(まへ)の朝(あさ)に米(こめ)を洗(あら)ひて水(みづ)に漬(ひた)すこと一日、翌日蒸(よくじつむ)して   飯(めし)となして筵(むしろ)にあげ、抦械(えかひ)にて拌匀(かきませなら)し、人肌(ひとはだ)となるを候(うかゞ)ひて不残(のこらす)槽(とこ)【資料では手偏にもみえるが】  に移(うつ)し《割書:とことは飯(めし)いれ|の箱(はこ)なり》筵(むしろ)をもって覆土室(おゝひむろ)のうちにおくこと凡(およそ)半日、午  の刻(こく)ばかりに塊(かたまり)を摧(くだき)其時(そのとき)糵(もやし)を加(くわ)ふ事(こと)凡(およそ)一石に二合ばかりなり、其夜(そのよ)   八ツ時分に槽(とこ)より取出(とりいだ)し、麹盆(かうじふた)の真中(まんなか)へつんぼりと盛(もり)て、拾枚宛(じうまいづゝ)かさね   置(おき)、明(あく)る日のうちに一度(いちど)翻(かへ)して、晩景(はんかた)を待(まつ)て盆(ふた)一はいに拌均(かきなら)し、又 盆(ふた)を   角(すみ)とりにかさねおけば其夜(そのよ)七ツ時には黄色(わうしよく)白色(はくしよく)の麹(かうじ)と成(な)る 麹糵(もやし)  かならず古米(こまひ)を用(もち)ゆ、蒸(む)して飯(めし)とし、一升に欅灰(けやきはい)二合許を合せ、 【右丁 挿絵のみ】 【ページ 一ノ五】 【左丁 挿絵の説明】 其 二 麹(かうじ)   醸(つくり)   筵(むしろ)幾重(いくへ)にも包(つゝみ)て、室(むろ)の棚(たな)へあげをく事十日 許(はかり)にして、毛醭(け)を生(せう)   ずるをみて、是(これ)を麹盆(かうじぶた)の真中(まんなか)へつんほりと盛(も)りて後(のち)盆(ふた)一はいに   搔(かき)ならすこと二 度許(どはかり)にして成(な)るなり 醸酒(さけの)□(もと) 《割書:米五斗を一□といふ一つ仕廻(しまい)といふは一日一元づゝ片付(かたづけ)|行(ゆく)をいふなり其 余(よ)倍々(はい〳〵)は酒造家(さかや)の分限(ぶんげん)に応(わう)ず》   定(しやう)日三日前に米(こめ)を出(いだ)し、翌朝(よくてう)洗(あ)らひて漬(ひた)し置(お)き、翌朝(よくてう)飯(めし)に蒸(むし)  て筵(むしろ)へあげてよく冷(ひや)し、半切(はんきり)八 枚(まひ)に配(わか)ち入(い)るゝ《割書:寒酒(かんしゆ)なれは|六枚なり》米(こめ)五斗に麹(かうじ)  壱斗七升水四斗八升を加(くは)ふ《割書:増減家々(ざうげんいへ〳〵)|の法(はう)なり》半日ばかりに水の引(ひく)を期(こ)として、  手をもつてかきまはす、是(これ)を手元(てもと)と云(いふ)、夜(よ)に入(いり)て械(かひ)にて摧(くだ)く、是(これ)をやま  おろしといふ、それより昼夜(ちうや)一時に一度 宛(づゝ)拌(かき)まはす《割書:是(これ)を仕|ごとゝいふ》三日を経(へ)て  二石入の桶(おけ)へ不残集(のこらずあつ)め収(おさ)め、三日を経(ふ)れば泡(あわ)を盛上(もりあぐ)る、是(これ)をあがりとも   吹切(ふききり)とも云なり《割書:此機(このき)を候(うかゞ)ふこと丹錬(たんれん)の妙(めう)|ありてこゝを大事とす》これを復(また)、□(もと)をろしの半切二  枚にわけて、二石入の桶(おけ)ともに三ツとなし、二時ありて筵(むしろ)につゝみ、凡(およそ)六時  許には其内(そのうち)自然(しぜん)の温気(うんき)を生(せう)ずる《割書:寒酒(かんしゆ)はあたゝめ桶(おけ)に湯(ゆ)を入ても|ろみの中(なか)へきし入るゝ》を候(うかゞ)ひて 【このページの□は酉に胎の字。 酒母の酛のことか。】 【ページ 一ノ六】   械(かい)をもつて拌冷(かきさます)こと二三日の間(あいた)、是(これ)又一時 拌(かき)なり是までを□(もと)と云(いふ) 酘(そへ)《割書:右 □(もと)の上へ米麹(こめこうじ)水をそへかけるを|いふなり、是をかけ米又 味(あぢ)ともいふ》  右の□(もと)を不残(のこらず)三尺 桶(おけ)へ集収(あつめおさ)め、其上(そのうへ)へ白米八斗六升五合の蒸飯(むしはん)、白米二  斗六升五合の麹(かうじ)に、水七斗二升を加(くわ)ふ、是(これ)を一(ひと)□(もと)といふなり、同(おなし)く昼夜(ちうや)一時   拌(かき)にして三日目を中(なか)といふ、此時是(このときこれ)を三尺 桶(おけ)二本にわけて其上(そのう)へ  白米一石七斗二升五合の蒸飯(むしはん)、白米五斗ニ升五合の麹(かうじ)に水一石二斗  八升を加(くわ)へて一時 拌(かき)にして、翌日(よくじつ)此半(このなかば)をわけて桶(おけ)二本とす、是(これ)を大頒(おほわけ)と云(いう)  なり、同く一時拌にして、翌日又白米三石四斗四升の蒸飯(むしはん)、白米一石六斗  の麹(かうじ)に水一石九斗二升を加ふ《割書:八升入ぼんぶりといふ|桶にて二十五 杯(はい)なり》是(これ)を仕廻(しまい)といふ、都合(つがう)   米麹(こめかうじ)とも八石五斗水四石四斗となる、是より二三日四日を経て、氳気(うんき)を   生(せう)ずるを待(まつ)て、又 拌(かき)そむる程(ほど)を候伺(うかがふ)に、其機発(そのきはつ)の時(とき)あるを  以て大事(たいし)とす、又一時拌として次第に冷(さま)し、冷(さ)め終(おは)るに至(いたつ)て は一日二度拌ともなる時を酒の成熟(せいじゆく)とはするなり、是(これ)を三尺 桶(おけ) 【このページの□は酉に胎の字。 酒母の酛のことか。】 【挿絵】 其三  □(もと)【酉に胎】  お  ろ  し 【ページ 一ノ七】  四本となして、凡八九日 経(へ)てあげ桶にてあげて、袋(ふくろ)へ入れ醡(ふね)に満(みた)し  むる事、三百余より五百 迄(まで)を度(と)とし、男柱(おとこはしら)に数々(かず〳〵)の石をかけて  次第に絞(しぼ)り、出(いづ)る所(ところ)清酒(せいしゆ)なり、是を七寸といふ澄(すま)しの大桶(おほおけ)に入て、四五  日を経(へ)て、其名をあらおり、又あらばしりと云、是を四斗 樽(たる)につめて   出(いだ)すに、七斗五升を一駄(いちだ)として樽(たる)二つなり、凡十一二 駄(だ)となれり○  右の法(はう)は伊丹 郷中(がうちう)一 家(か)の法(はう)をあらはす而巳(のみ)なり、此余(このよ)は家々(いへ〳〵)の秘(ひ)   事(じ)ありて石数(こくすう)分量(ふんりやう)等(とう)各(おの〳〵)大同少異(たいとうしやうい)あり、尤(もつとも)百年 以前(いせん)は八石 位(くらい)より八  石四五斗の仕込(しこみ)にて、四五十年 前(まへ)は精米八石八斗を極上とす、今極上と  云ふは、九石余十石にも及へり、古今 変遷(へんせん)是又 云(いゝ)つくしがたし○すまし   灰(はい)を加(くわ)ふることは、下米酒(けまひしゆ)、薄酒(はくしゆ)或(あるひ)は醟酒(そんじさけ)の時(とき)にて上酒に用(もち)ゆることは  なし○間酒(あいしゆ)は米の増方(ましかた)、むかしは新酒同前(しんしゆとうせん)に三斗増なれども、いつの   頃(ころ)よりか一 □(もと)【酉+胎】の酘(そへ)、五升 増(まし)、中の味(み)一斗増、仕廻(しまい)の増一斗五升増とするを   佳方(かはう)とす、寒前、寒酒、共に是に准(じゆん)ずべし、間酒(あいしゆ)はもと入 ̄レ より四十余日、寒 【ページ 一ノ八】  前は七十余日、寒酒(かんしゆ)八九十日にして酒をあくるなり、尤(もつとも)年の寒暖(かんだん)に  よりて、増減駆引(そうけんかけひき)日 数(かず)の考(かんがへ)あること専用(せんよう)なりとぞ○但(たゞ)し昔(むかし)は新(しん)  酒の前にボタイといふ製(せい)ありてこれを新酒とも云(いひ)けり、今に山家(やまか)  は此製 而巳(のみ)なり、大坂などとてもむかしは上酒は賤民(せんみん)の飲物(のみもの)にあら  ず、たま〳〵嗜(たし)むものは、其家にかのボタイ酒(しゆ)を醸(かも)せしことにあり  しを、今治世二百年に及(およ)んて纔(わづか)其 日限(ひかきり)りに暮(くら)す者(もの)とても、飽(あく)まで   飲楽(いんらく)して陋巷(ろうこう)に手(て)を撃(う)ち萬歳(まんせい)を唱(とのふ)、今其時にあひぬる有難(ありがた)  さを、おもはずんばあるべからす 米(こめ)  □【注】米(もとまい)は地廻(ちまは)りの古米(こまい)、加賀(かが)、姫路(ひめぢ)、淡路(あわぢ)、等(とう)を用(もち)ゆ、酘米(そへまい)は北国(ほつこく)古米、第  一にて、秋田(あきた)、加賀(かが)、等(とう)をよしとす、寒前(かんまへ)よりの元(もと)は、高槻(たかつき)、納米(なやまい)、淀(よと)、山方(やまかた)の   新穀(しんこく)を用(もち)ゆ 【注 酉+胎】 【挿絵】 其四 酘(そへ) 中(なか) 大頒(おほわけ) 【ページ 一ノ九】 舂杵(うすつき)   ■【注】米(もとまい)は一人一日に四臼(ようす)《割書:一臼(ひとうす)一斗三|升五合位》酘米(そへまい)は一日五 臼(うす)、上酒(じやうしゆ)は四 臼(うす)、極(きはめ)て精細(せいさい)  ならしむ、尤(もつとも)古杵(ふるきね)を忌(い)みて是(これ)を継(つ)くに尾張(おはり)の五葉(ごよう)の木を用ゆ、   木口(こくち)窪(くぼ)くなれば米(こめ)大(おほ)きに損(そん)ず故(ゆへ)に、臼廻(うすまは)りの者(もの)時々(とき〳〵)に是を候伺(うかかふ)也、   尾張(おはり)の木質(きしつ)和(やは)らかなるをよしとす 洗浄米(こめあらい)   初(はじ)めに井(ゐ)の経水(ねみづ)を汲涸(くみから)し新水(しんすい)となし、一毫(いちがう)の滓穢(をり)も去(さ)りて極々(ごく〳〵)   潔(いさき)よくす、半切(はんぎり)一ツに三人がゝりにて水(みつ)を更(かゆ)ること四十 遍(へん)、寒酒は五十遍に及(およ)ふ、 家言(かけん)  ○杜氏(とうじ) ○酒工(しゆこう)の長(てう)なり、又おやちとも云、周(しう)の時(とき)に杜氏(とうぢ)の人(ひと)ありて其(その)後葉杜康(こうようとかう)といふ       者(もの)、よく酒(さけ)を醸(かも)するをもつて名(な)を得(え)たり、故(ゆへ)に擬(なぞら)えて号(なづ)く  ○衣紋(ゑもん) ○麹工(かうじく)の長(てう)なり、花(はな)を作(つく)るの意(こゝろ)をとるといへり、一説(いつせつ)には中華(ちうくわ)に麹(かうじ)をつくるは       架下(たるのした)に起臥(きくわ)して暫(しばら)くも安眠(あんみん)なさゞること七日 室口(むろのくち)に衛(まも)るの意(こゝろ)にて衛門(えもん)と云(いう)か 醸具(さかだうぐ) 【注 酉+胎】 【ページ 一ノ十】   半切(はんきり)二百 枚余(まいよ)《割書:各(おの〳〵)一ツ仕廻(しまい)|に充(あて)る》○□(もと)おろし桶(おけ)二十本余○三尺桶三本余○から   臼(うす)十七八 棹(さほ)○麹盆(かうしふた)四百枚余○甑(こしき)はかならず薩摩杉(さつますき)のまさ目(め)を用(もちゆ)    木理(きめ)より息(いき)の洩(も)るゝをよしとす、其余(そのよ)の桶(おけ)は板目(いため)を用(もち)ゆ○袋(ふくろ)は十二石の   醡(ふね)に三百八十 位(くらい)○薪入用(たきゞいりよう)は一□ (ひともと)にて百三十貫目余なり 製灰(はいのせひ)   豊後灰(ぶんごはい)一斗に本石灰四升五合入れ、よくもみぬき、壷(つぼ)へ入れ、さて、はじめ  ふるひたる灰粕(はいかす)にて、たれ水(みづ)をこしらへ、すまし灰(はい)のしめりにもちゆ   尤口伝(もつともくてん)あり なをし灰(はい)  本石灰一斗に豊後灰(ふんごはい)四升、鍋(なべ)にていりてしめりを加(くわ)へ用(もち)ゆ   ○囲酒(かこひさけ)に火をいるゝは入梅(つゆ)の前(まへ)をよしとす 味醂酎(みりんちう) 【このページの□は酉に胎の字。 酒母の酛のことか。】 【挿絵】 其五 もろ みを   拌(かく) 袋(ふくろ)に  いれて   醡(ふね)に    積(つむ) 酒(さけ)  あげ す ま し  の    図(づ) 【ページ 一ノ十一】  焼酎(しやうちう)十石に糯白米(もちこめ)九石弐斗、米麹(こめかうし)弐石八斗を桶(おけ)壱本に醸(かも)す、  翌(よく)日 械(かい)を加(くわ)え、四日目五日目と七度 斗(ばかり)拌(か)きて、春(はる)なれば廿五日  程(ほと)を期(ご)とすなり、昔(むかし)は七日目に拌(かき)たるなり○本直(ほんなを)しは焼酎(しやうちう)十石に  糯白(もちこめ)米弐斗八升、米麹(こめかうじ)壱石弐斗にて醸法(つくりかた)味醂(みりん)のごとし  醸酢(すつくり)  黒米(くろこめ)弐斗、一夜水に漬(ひた)して、蒸飯(むしはん)を和熱(くわねつ)の儘(まゝ)甑(こしき)より造(つく)り桶(おけ)へ移(うつ)し、  麹(かうし)六斗水壱石を投(とう)じ、蓋(ふた)して息(いき)の洩(も)れざるやうに筵菰(むしろこも)にて桶(おけ)を  つゝみ纒(まとひ)、七日を経(へ)て蓋(ふた)をひらき拌(か)きて、又元(またもと)のごとく蓋(ふた)して、七日目こと  に七八度 宛(づゝ)拌(かき)て、六七十日の成熟(せいしゆく)を候(うかゞ)ひて後酒(のちさけ)を絞(しぼ)るに同し《割書:酢(す)は|食用(しよくよう)》  《割書:の費用(ひしよう)はすくなし、紅粉(へに)、昆布(こんぶ)、染色(そめいろ)|などに用(もち)ゆること至(いたつ)て夥(おびたゝ)し》是又 水土(すいと)、家法(かはう)の品多(しなおゝ)し、中(なか)にも和州(わしう)小  川 紀(き)の国(くに)の粉川(こかわ)、兵庫北風(ひやうごきたかぜ)、豊後(ぶんご) 船井(ふなゐ)、相州(さうしう)駿州(すんしう)の物(もの)など名産(めいさん)す  くなからず 袋洗(ふくろあらひ)○新酒成就(しんしゆじやうしゆ)の後(のち)、猪名川(いなかわ)の流(なかれ)に袋(ふくろ)を濯(あら)ふ其頃(そのころ)を待(まち)て、  近郷(きんごう)の賤民(せんみん)此(この)洗瀝(しる)を乞(こ)えり、其味(そのあぢ)うすき醴(あまさけ)のごとし、是又  佗(た)に異(こと)なり、俳人鬼貫(はいじんおにつら)     賤の女や袋あらひの水の汁 愛宕祭(あたこまつり)○七月二十四日 愛宕火(あたこひ)とて伊丹本町 通(とを)りに  燈(ひ)を照(て)らし、好事(こうす)の作(つく)り物(もの)など営(いとな)みて天満天神(てんまてんしん)の川祓(かわはらへ)に  もをさ〳〵おとることなし、此日(このひ)酒家(さかや)の蔵立等(くらたてとう)の大(おほひ)なるを見(み)ん  とて四方(しはう)より群集(くんじゆ)す、是(これ)を題(たい)して宗因(そうゐん)     天も燈に酔りいたみの大燈篭  酒家(さかや)の雇人(ようしん)、此日(このひ)より百日の期(こ)を定(さた)めて抱(かゝ)へさだむるの日に  して、丹波(たんば)、丹後(たんご)の困人(きうしん)多(おゝ)く輻奏(ふくそう)すなり 伊丹(いたみ)筵(むしろ) 包(つゝみ)の印(しるし) 【印の図】       余略 池田(いけだ)薦(こも) 包(つゝみ)の印(しるし) 【印の図】    余略 【ページ 一ノ十三】 日本山海名産図会(につほんさんかいめいさんづゑ)巻之二    ○目録 ○豊島石(てしまいし)     ○御影石(みかけいし) ○竜山石(たつやまいし)     ○砥礪(といし) ○芝(さいはいたけ)      ○日向香蕈(ひむかしいたけ) ○熊野石耳(くまのいはたけ) ○同 蜂蜜(はちみつ) 蜜蝋(みつらう) 会津蝋(あいづらう) ○山椒魚(さんせううを)     ○吉野葛(よしのくず) ○山蛤(あかかへる)      ○鷹峯(たかがみね)蘡薁虫(ゑびづるのむし) ○鷹羅(たかあみ)      ○鳧羅(かもあみ) ○予州(よしう)峯越鳧(をこしのかも) 摂州(せつしう)霞羅(かすみあみ) 無双返(むさうかへし) ○捕熊(くまをとる) 《割書:堕弩(おし)|取肝(きもをとる)》 《割書:洞中熊(ほらのくま)|試真偽(しんきをこゝろむ)》 《割書:以斧撃(おのをもつてうつ)|製偽肝(にせをせいす)》 【注 「𬯄」はUnicodeの漢字検索に記載あれど『大漢和辞典』、その他の辞典に見当たらず。】 石品(いしのしな)  石(いし)は山骨(やまのほね)なり物理論(ふつりろんに)云(いふ)土精(どせい)石(いし)となる石(いし)は気(き)の核(たね)なり気(き)の石(いし)を  生(せう)ずるは人(ひと)の筋絡(きんらく)爪牙(さうげ)のごとし云々されども其(その)石質(せきしつ)におゐては万国(ばんこく)万山(ばんさん)  の物(もの)悉(こと〴〵)く等(ひとし)からず是(これ)風土(ふうと)の変更(へんかう)なれば即(すなはち)気(き)ををつて生(せう)ずることし  かり又 草木(そうもく)魚介(ぎよかい)皆(みな)よく化(くわ)して石(いし)となれり本草(ほんざう)に松化石雙宋書(せうくわせきさうしよ)に拍(はく)  化石稗史(くわせきひし)に竹化石(ちくくわせき)あり代醉編(たいすいへん)に陽泉夫余山(やうせんふよさん)の北(きた)にある清流(せいりう)数十歩(すじつぶ)  草木(さうもく)を涵(しつめ)て皆(みな)化(くわ)して石となる又イタリヤの内(うち)の一国(いつこく)に一異泉(いちいせん)あり何(いつれ)  の物(もの)といふことなく其中(そのうち)に墜(おつ)れば半月(はんげつ)にして便(すなは)ち石皮(せきひ)を生(せう)じ其物(そのもの)を裹(つゝむ)  又(また)欧邏巴(わうらつば)の西国(にしくに)に一湖(いつこ)有(あ)り木(き)を内(うち)に插(さしは)さんで土(つち)に入(い)る一段(いちたん)化(くわ)して鉄(てつ)と  なる水中(すいちう)は一段(いつたん)化(くわ)して石(いし)となるといへり本朝(ほんてう)又(また)かゝる所(ところ)多(おゝ)く凡(およそ)寒国(かんこく)の  海浜(かいひん)湖涯(こがい)いづれもしかりすべて器物(きぶつ)等(とう)の化石(くわせき)も其所(そのところ)になると知る べし又(また)石(いし)に鞭(むち)うちて雨(あめ)を降(ふら)し雨(あめ)をやむる陰陽石(いんやうせき)ありて日本(につほん)にても宝(ほう) 亀(き)七年 仁和(にんな)元年 及(およひ)東鑑(あつまかゞみ)等(とう)にも其(その)例(れい)見(み)えたり江州(かうしう)石山(いしやま)は本草(ほんざう)に いへる陽起石(やうきせき)にて天下(てんか)の奇巌(きかん)たり又 日本紀(にほんき)【記は誤】雄略(ゆうりやく)の皇女(こうによ)伊勢斎宮(いせさいぐう) にたゝせ給(たま)ひしに邪陰(しやいん)の御(おん)うたがひによりて皇女(くわうによ)の腹中(ふくちう)を開(ひら)かせ給(たま)ひしに 物(もの)ありて水(みづ)のごとし水中(すいちう)に石(いし)ありといふことみゆ是(これ)医書(いしよ)に云(いう)石瘕(せつか)なるべし然(しかれ)ば 物(もの)の凝(こり)なること理(り)においては一なり品類(ひんるい)におゐては鍾乳石(しやうにうせき) 慈石(じしやく) 礜石(よせき) 滑石(くわつせき) 礬石(はんせき) 消石(せうせき) 方解石(はうかいせき) 寒水石(かんすいせき) 浮石(かるいし) 其余(そのよ)の奇石(きせき)怪石(くわいせき)動物(どうぶつ)などは曩(さき)に 近江(あふみ)の人(ひと)の輯作(しうさく)せる雲根志(うんこんし)に尽(つき)ぬれば悉(こと〴〵)く弁(べん)するに及(およ)ばす ○イシといふ和訓(わくん)はシといふが本語(ほんご)にてシマリ シツ(沈)ム俗(ぞく)にシツカリなどのごとく物(もの)の凝(こ)り 定(さたま)りたるの意(い)なり○イハとは石歯(いは)なり盤(いは)の字(じ)を書(かき)ならへりかならず大石(たいせき)にて 歯(は)牙(きば)のごとく徤利(するとき)【注】の意(い)なり○イハホとは巌(かん)の字(じ)に充(あ)てゝ詩経(しきやう)維石巌々(これいしがん〴〵)と いひておなじく尖利(するとく)立(たち)たる意(い)なり万葉(まんよう)には石穂(いはほ)とかきて秀出(ほいづ)るの儀(ぎ) なり又いはほろともいへりかた〴〵転(てん)して総(すべ)【惣】てをいしともいはともいはほとも通(つう) じていへり○日本(にほん)にして器用(きよう)に造(つく)る物(もの)すくなからず就中(なかんづく)五畿内(こきない)西国(さいこく)に産(さんす)るが 【注 徤は辞書に見当たらず。】 【右丁】 うちに御影石(みかけいし) 立山石(たつやまいし) 豊島石(てしまいし)等(とう)は材用(さいよう)に施(ほどこ)し人用(にんよう)に益(ゑき)して翫(くわん) 物(ぶつ)にあらず故(ゆへ)に其(その)三四箇条(さんしかてう)を下(しも)に挙(あげ)て其余(そのよ)を略(りやく)す○和泉石(いつみいし)は色(いろ)必(かならす) 青(あを)く石理(いしめ)精(こまか)にして牌文(ひもん)【ママ】等(とう)を刻(こく)す又(また)阿州(あしう)より近年(きんねん)出(いだ)すもの是(これ)に類(るい) す其石(そのいし)ねぶ川(かわ)に似(に)て色(いろ)緑(みどり)に石形(いしのかたち)片(へぎ)するがごとし石質(せきしつ)は硬(かた)からず又(また)城州(しやうしう) にては鞍馬石(くらまいし) 加茂川石(かもがはいし) 清閑寺石(せいがんじいし)等(とう)是(これ)を庭中(ていちう)の飛石(とひいし)捨石(すていし)に置(おき)て 水(みつ)を保(たも)たせ濡色(ぬれいろ)を賞(せう)し凡(すべ)て貴人(きにん)茶客(さかく)の翫物(くわんもつ)に備(そな)ふ   ○豊島石(てしまいし) 大坂(おほさか)より五十里 讃州(さんしう)小豆島(せうどしま)の辺(へん)にて廻環(めぐり)三里の島山(しまやま)なり家(いへ)の浦(うら)かろう と村(むら)こう村の三村(さんそん)あり家(いへ)の浦(うら)は家数(いへかず)三百 軒(けん)計(ばかり)かろうと村(むら)こう村は各(おの〳〵)百七八 十 軒(けん)ばかり中(なか)にもかろうとより出(いづ)る物(もの)は少(すこし)硬(かた)くして鳥井(とりゐ)土居(どゐ)の類(るい)是(これ)を 以(もつ)て造製(さうせい)すさて此山(このやま)は他山(たのやま)にことかはりて山(やま)の表(おもて)より打切(うちきり)堀取(ほりとる)にはあらず 唯(たゝ)山(やま)に穴(あな)して金山(かなやま)の坑場(しきくち)に似(に)たり洞口(とうこう)を開(ひら)きて奥(おく)深(ふか)く堀入(ほりい)り敷口(しきくち)を縦横(しうわう)に 【右丁 挿絵の説明】 讃州(さんしう)豊(て) 島石(しまいし) 【左丁 挿絵のみ】 【右丁 挿絵のみ】 【左丁 挿絵の説明】 同豊(て) 島(しま) 細工(さいく) 所(しよ) 切抜(きりぬ)き十町廿町の道(みち)をなす。採工(げざい)松明(たいまつ)を照(てら)しぬれば穴中(けつちう)真黒(まつくろ)にして石共 土(つち)とも分(わか)ちがたく採工(げざい)も常(つね)の人色(にんしよく)とは異(こと)なり。かく堀入(ほりいる)ことを如何(いかん)となれば。 元(もと)此石(このいし)には皮(かわ)ありて至(いたつ)て硬(かた)し。是(これ)今(いま)ねぶ川(かは)と号(なづけ)て出(いだ)す物(もの)にて《割書:本ねぶ川|は伊予(いよ)也》矢(や)を 入(い)れ破取(わりとる)にまかせず。たゞ幾重(いくへ)にも片(へ)ぎわるのみなり。流布(るふ)の豊島石(てしまいし)は其 石の実(み)なり。故(かるがゆへ)に皮(かわ)を除(よけ)て堀入る事しかり。中(なか)にも家(いへ)の浦(うら)には敷穴(しきあな)七ツ有(あり)。 されども一山(いつさん)を越(こ)えて帰(かへ)る所(ところ)なれば器物(きぶつ)の大抵(たいてい)を山中(さんちう)に製(せい)して担(になひ)出(いだ)せり 水筒(ゐつゝ)。水走(みつはしり)。火炉(くはろ)。一ツ竈(へつい)などの類(るい)にて。格別(かくべつ)大(おほい)なる物はなし。かう村は漁村(ぎよそん)なれ ども石もかろうとの南(みなみ)より堀出(ほりいだ)す。石工(せきこう)は山下に群居(くんきよ)す。但(たゞ)し讃州(さんしう)の山(やま)は悉(こと〴〵)く 此石のみにて。弥谷(いやたに)善通寺大師(ぜんつうじだいし)の岩窟(いわや)も此石にて造(つく)れり ○石理(いしめ)は 磊落(いしくず)のあつまり凝(こり)たるがことし。浮石(かるいし)に似(に)て石理(いしめ)麤(あらき)なり。故(ゆへに)水盥(みづたらい) などに製(せい)しては。水漏(みつも)りて保(たもつ)ことなし。されども火に触(ふれ)ては損壊(そんくわい)せず。下野(しもつけ)宇(う) 都宮(つのみや)に出(いた)せるもの此石(このいし)に似て。少(すこ)しは美(び)なり。浮石(かるいし)は海中(かいちう)の沫(あは)の化(け)したる 物(もの)にて伊予(いよ)。薩摩(さつま)。紀州(きしう)。相模(さがみ)に産(さん)すされば此山も海中(かいちう)の島山(しまやま)なれば開(かい) 闢(ひやく)以後(いご)汐(しほ)の凝(こり)たる物(もの)ともうたがはれ侍(はへ)る塩飽(しあく)の名(な)も若(もし)は塩泡(しほあわ)の転(てん)じ たるにか○塩飽石(しあくいし)は御留山(おとめやま)となりて今(いま)夫(それ)と号(なづ)くる物(もの)は多(おゝ)く貝付(かいつき)を賞(せう)す 是(これ)其辺(そのへん)の礒石(いそいし)にて石理(いしめ)粋米(こゞめ)のごとくにて質(しやう)は硬(かた)し飛石(とひいし)水鉢(みづはち)捨石(すていし)等(とう)に 用(もちひ)て早(はや)く苔(こけ)の生(お)ふるを詮(せん)とす礒石(いそいし)は波(なみ)に穿(うが)たれて礧(ゆがみ)砢(くほみ)異形(いぎやう)を珍重(ちんてう)【珎は俗字】す   御影石(みかげいし) 摂州(せつしう)武庫(むこ)。菟原(むはら)の二郡(にくん)の山谷(さんこく)より出(いだ)せり。山下(ふもと)の海浜(かいひん)御影村(みかけむら)に石工(いしや)ありて。 是(これ)を器物(きふつ)にも製(せい)して積出(つみいだ)す故(ゆへ)に御影石(みかげいし)とはいへり。御影山の名(な)は城州(じやうしう)加茂(かも) あふひを採(と)る山(やま)にして此国(このくに)に山名(さんめい)あるにあらず。たゞ村中(そんちう)に御影(みかけ)の松(まつ)有(あり)て。 続古今集(しよくこきんしう)【読は誤】に基俊卿(もととしきやう)の古詠(こゑい)あり。元(もと)此山(このやま)は海浜(かいひん)にて往昔(むかし)は牛車(うしくるま)などに負ふ することはなかりしに。今は海渚(かいしよ)次第(しだい)に侵埋(うもれ)て山(やま)に遠(とを)ざかり。石(いし)も山口(やまくち)の物(もの)は 取尽(とりつき)ぬれば。今は奥深(おくふか)く採(と)りて廿丁も上(かみ)の住(すみ)よし村より牛車(うしくるま)を以(もつ)て継(つい)て 御影村(みかけむら)へ出(いだ)せり。有馬街道(ありまかいどう)生瀬(なませ)川原(かわら)などの石(いし)も此(この)奥山(おくやま)とはなれり。此上 品(ひん)の 【右丁 挿絵の説明】 摂州(せつしう) 御影石(みかげいし) 【左丁 挿絵のみ】 橋台(はしたい) 石橋(いしばし) 庭砌(ていれき)【注】 土居(とゐ)など其用(そのよう)多(おゝし)又(また)石橋(いしばし)に架(かく)る物(もの)別(べつ)に河州(かしう)より出(いたす) 石(いし)も有(ある)なり○切取(きりとる)には矢穴(やあな)を堀(ほり)て矢(や)を入(い)れなげ石(いし)をもつてひゞきの入(いり)たるを 手鉾(てこ)を以(もつ)て離取(はなしとる)を打付割(うちつけわり)といふ又(また)横(よこ)一文字(いちもんじ)に割(わる)をすくい割(わり)とはいふなり 【注 「砌」の音は「セイ」】   ○竜山石(たつやまいし) 播州(ばんしう)に産(さん)して一山(いつさん)一塊(いつくわい)の石(いし)なる故(かゆへ)に樹木(じゆもく)すくなし。往々(ところ〳〵)此石山 多(おゝ)けれども運(うん) 送(さう)の便(たより)よき所(ところ)を切出(きりいだ)して。今は堀採(ほりとる)やうになれども。運送(うんさう)不便(ふべん)の山(やま)はいたづら に存(そん)して切入(きりい)る事(こと)なし。石(いし)の宝殿(ほうでん)は即(すなはち)。立山石(たつやまいし)にして其辺(そのへん)を便所(へんしよ)として専(もつはら) 切出(きりいだ)し採法(さいはう)すべてかはることなし。故(ゆへ)に図(づ)も略(りやく)せり。色(いろ)は五綵(ごさい)を混(こん)ず。切(きり)て形(かたち)を 成(な)す事。皆(みな)方条(ながて)にのみあり。溝渠(みそ)。河水(かは)の涯岸(きし)。或(あるひは)界壁(さいめ)の敷石(しきいし)。敷居(しきい)の土居(とゐ) 庭砌(ていれき)等(とう)の用(よう)に抵(あ)てゝ他(た)の器物(きぶつ)に製(せい)することなし。大(おほき)さは三四尺より七八尺にも。 及(およ)び方(はう)五寸に六寸の物(もの)を。五六といひ。五寸に七寸を。五七といひて。尚(なを)大(おほい)なる品(ひん) 数(すう)あり《割書:麓(ふもと)の塩市村(しほいちむら)に石工(せつく)あり南(みなみ)の尾崎(おさき)に竜(たつ)が端(はな)といひて|竜頭(たつかしら)に似(に)たる石(いし)あり故(ゆへ)に竜山(たつやま)といふ》 石といふは至(いたつ)て色(いろ)白(しろ)く黒文(くろふ)なし。是は昔(むかし)に出(いで)て今は鮮(すく)なし。されども其(その)費(ひ) 用(よう)をだに厭(いと)はずして。高嶽(かうかく)深谷(しんこく)に入(いつ)ては。得(え)ざるへきにあらずといへども。運送(うんそう)車力(しやりき)の便(たより)なき所(ところ)のみ多(おゝ)し ○石質(いしのしやう) 文理(いしめ)は京(きやう)白川(しらかは)石に似(に)て至(いたつ)て硬(かた)し故(かるがゆへ)に器物(きぶつ)に制(せい)するに微細(ひさい)の稜(か) 尖(と)も手練(しゆれん)に応(おう)ず。白川は酒落(ほろ〳〵)して工(たくみ)に任(まか)せず。石工大なる物(もつ)に至(いたつ)ては難波(なには) 天王寺の鳥井(とりゐ)などをはしめ城廓(しやうくはく)。石槨(せきくはく)。仏像(ふつぞう)。墓牌(ぼひ)【碑の誤】。築垣(ついかき)に造(つく)り琢磨(たくま)【啄は誤】し ては皮膚(ひふ)のごとし。是(これ)万代(ばんたい)不易(ふへき)の器材(きさい)。天下の至宝(しほう)なり ○品数(ひんすう)      直塊(のつら)は。大鉢(おほはち)。中鉢(ちうはち)。小鉢(こはち)。《割書:鉢(はち)とは手水鉢(てうずはち)に用(もちおゆ)るにより本語(ほんご)とはす|れども柱礎(はしらいし)溝石(みぞいし)なとをはしめその用多し》 頭(ず)無(なし)は大(おほき)さ大抵(たいてい)一尺五六寸にして。其上(そのうへ)の物(もの)を一ツ石と号(なづ)く。又六人といふは 一 荷(か)に六(むつ)宛(づゝ)担(になふ)の名(な)なり。栗石(くりいし)は小石にして大雨(たいう)の時(とき)には山谷(さんこく)に転(ころ)び落(おつ)る 物(もの)ゆへ石に稜(かど)なし是は鉢前(はちまへ)蒔石(まきいし)等(とう)に用(もち)ゆ《割書:石(いし)をくりといふこと応神記の哥(うた)に見へたり。また|万葉集(まんようしう)に奥津(おきつ)はくりともよみて山陰道(さんいんどう)の俗(そく)》 《割書:言(ご)なりともいへり。大小|にかゝはらずいふとぞ》 割石(わりいし)は大割(おほわり) 中割(ちうわり) 小割(こわり) 延条(のべ)《割書:長(なか)く切(きり)たる|石なり》蓋石(ふたいし)《割書:大抵(たいてい)長二尺計 幅(はゞ)|一尺一二寸 厚(あつさ)三四寸》いづれも築垣(ついがき)   〇蜂蜜 一名百花精 百芲蕊 〇凡蜂蜜醸する諸國皆有中にも旧紀刕熊野を第一とす藝州 是に亞ぐ