化物敵討 巻 東     文化元【1804年2月より】 享和四子年【1804年】 化物敵討 十返舎一九    画作 合二冊 ○村【屋号紋】御店さま           写書入  十返舎   口章 御注文に任せ化物の敵討漸 書なくり申候誠に化の皮より作者の 頬の皮あつかましき趣向はみな 古本の焼直し一ばん子供衆を 化す積に候間宜御頼申入候以上   子 正月 又ばけものかひさしい もんだとおつしやるは しやうちのすけ はんもとのちう もんしかたなしに やりくりした せんだくもの しかしちくとあたらし いところは今 りうこうの かたき打と こじつけた ごほうだい【?】 御ぞんじの きんひらと いふひげ おとこ女郎かい にいつてはいつ とうもてぬしろ ものなれどもば けものをばころ すことがめい人 【左ページへ】 にていつも しよぼ〳〵あめの ふるときかおぼろ 月夜のう そさみしき ばんにはうろ〳〵 と出あるきばけものゝ 出そうふな所をひやかしてある きけるあんのごとくばけ ものどもうそ 〳〵と あそびあるく に出合きんひら やにわにいけどらん ととびかゝるばけもの共 そりや人がでたとにげ ゆくにみこし入道の 女ぼううぶめはさすあ ばけものでも女だけ 大またにもにげられ ずまごつく所をきん ひらひつつかみふみのめせばぎやつと いつてそのまゝいきたへはてたり 【右ページ下】 〽アレサ きん さん かみが ぬける およし    よ はしか をして 【左ページ下へ】 ぬけた うへに 〽こいつは おだんこ へつたりだ にげろ   〳〵 〽おかみさんが ころされたら みこしどのは ごけに なられる だろふ きのどくな おみおし入道の 女ぼううぶ女きんひら にふみころされ ければ入道大 きにいかり何 とぞきんひらを 打とり女ぼうの かたきをとらん とおもへ共 あいてはなんし あふきんひら也 こいつあぶない しごとゝ入道かほ ににやわぬおくびやう ものせがれひとつめ こぞうをよんで申 けるはそちがはゝ うぶ女きんひらに ころされたれば なんぢそのかたき を打てはゝにたむ けよわがためには 【左ページへ】 女ぼうのかたき われきんひらをうち とるはおちやのこ なれ共どふか 女ぼうのかたき うちといはれ れは女にのろ【のろき=のろけ?】 きよふにせ けんのおもはく もいかゞ也なんぢ がためにはおやの かたきこれかうしん のだい一なり はや〳〵 きんひらを つけねらひ きやつがさかやきに くびひつさげて きたるべしと さうさもなく いゝつける 【左ページ下、ひとつ目小僧の台詞】 〽アノ わたくしに きんひら をうてとは そりやきこへ ませぬおやぢ さんだ 【小鬼の台詞】 〽かたき うちの おともはわたくしと いゝてへがちをみると てんかん がおこる から まいら れませ   ぬ おやのかたきと ひとつめこぞうきん ひらをつけねろふよし きんひらのみゝへはいりこいつ はおもしろいどふぞその ひとつめにめぐりあい たいものだとしよ〳〵を さがしあるくひとつめ こぞうこのことをきゝて かたきにめぐりあつて たまるものかといろ〳〵 にげつかくれつしてふと おもひつきばけものでいては 見つけられんとおもひさい わいむさくろしきなりにて こもをかぶり人げんのひにんと 見せかけかほをかくしてしの びあるきけるきんひらは とかくひとつめにめぐり あはぬことをざんねんにお もいつく〴〵しあんし すべてかたきをねろふもの 【左ページへ】 よくひにんなどに 身をやつしゐるもの なりとこゝろづき あるときみち にてあやしき ひにんを見 つけよく〳〵 見ればひとつ めなりさては おのれかたき うちだなと とがめられてかの ひとつめだん なとんだことを おつしやるわたくしは かたき打では ござりませぬ ごろうじませ このたけのつ ゑもやつぱりたけのつへ あをいしもさ うでは なし〳〵と くもをかすみと にげてゆく 【右ページ下】 〽あなたを かたきと はもつたい ないだれ がそんなことを 申まし    た 【その左上へ】 ようゐの きんすは このとふり かたき打 【左ページ下へ】 でない しやうこで こざります 〽おのれそう いつても がつてんが ゆかぬかたき うちとなのれ      〳〵 今かたきうちの本が はやるからわれも おれをうつて 一九にでも かいてもらへ      さ   ひとつめこそうはとかく かたきにめぐりあつて ならぬゆへいろ〳〵とし あんしちゝみこしに 申けるはさてかたき きんひらをつけ ねらへども今もつて めぐりあはずこのごろ きけばきんぴら はこねのさきへひつこし たるよしわたくしもこれ よりしゆつたつし はこねのさきへたち 申たしとうそをつく ばけもの でも子には めのなきものにて入だう ひとつめがことばをまことゝ いもひきんひらじつには こねのさきへゆきたりとおも ひければいそぎしゆつ 【左ページへ】 たつすべしといふものゝ ろぎんのさいかくにこまり ひとつめが女ぼう ろくろ くびをみせものし に うりわたしそれを ろぎんにつかはすべし とてきつねをたのみ けるきつねのみこみさつ そくにんげんにばけて みせものしにかけやい そうだん できければ ろくろ くびを かごに のせて みうりを させける 【右ページ下】 ずい ぶん たつしや    で つとめ なさい あすの ばんの うし みつ ごろ には 見ま いに行ませう 【左ページ下】 〽ふきやてうで あめをのばすが はやるからこのあね さんのくびをのば すもはやり やしやう 〽みせものに でるときは そのくびす じ へも おしろいを ぬらふやァ ならねへ コレべにおおし ろいも やなぎ やがいゝ によ【ふよ?】 さてもろくろくびをうり そのみこしろをひとつめに わたしけるひとつめしゆつ たつのときおやこ なごりをおしみ なみだをこぼしける この入道これほどに むすこがかはゆくばかたき うちにはやらぬがよいとけん ぶつのめにはみゆれどもわが 女ぼううぶめがくさばの かげでさぞくちおsからふ とそのうつふんをはら させたきかはいゝむす こをきんひらうちにやる 入道のこゝろ女ぼうには よつぽどのびていたりしと 見へたりばけものほどおんなに のろいものはなしこのほんの さくしやとは大ちがひなり 【左ページ】 ひとつめのいもふと【前コマでは女房とある】 ろくろくびはきつねの はからひにてにん げんの手へ うりわた されける まことに それ〳〵の道にて じよさいのなきよの中 こんどふきやてうの かしにてあめをふき のばしたすきにしたり おびにしたりいろ〳〵の じゆうなることをなし あめをむしやうにながく ふきのばすことはやりにければ ろくろくびのみせもの くびをのばしてじゆう じざいになしければ これはめづらしいみせものだとあめのきよく ぶき【曲吹き】だとおなじやうに大はやりのひやうばんなり 【ろくろ首のまわり、見せ物の口上】 〽とうざい〳〵 このくびを だん〴〵と のばしま すると う なぎ の木の ぼり どつと ほめ たり 〳〵 【左下隅】 〽ハリ とう〳〵 さかたのきんときはわれと【コマ7まで金平だった】 かたきとつけねらはず かへつてにげまはる ひとつめのゆくゑ いろ〳〵さがせ どもしれず こゝにろくろ くびのみせもの 出たりときゝ ていそぎこの ところへ来り なにかなしに ぶたいへとびあ がりたゆふろく ろくびをとら へてひとつめ こぞうのゆくゑしりつらん まつすぐに申べしと せめられてろくろくびせんかた なくひとつめはなにとぞかたきに めぐりあはぬよふにとこのほど 【左ページへ】 はこねのさきへひつこしたとの はなしきんとききゝてまづ かたきをうたるゝ手がゝりが できたと大きによろこび またろくろくびのためにも はゝおやのかたきこのきん ときとしやうぶするか さあこいとのばした くびをひつしごきて ひねくりまはされ ろくろくび はもり【ち】 ろんこの一ざの てやいかんじんの かねばこたゆふどのゝ くびがちぎれては なんにもならぬと 大ぜいきんときに わびをする 【右ページ下、台詞】 〽おやのかたきサア じんじやうに にげたい〳〵 〽もふ〳〵 ゆるして 下さんせ あそこに からた がいるから おがませ ませう かんにん して 下さり ませ 〽おもれら      も すけだち して このきん ときめを うたぬか ヱヽちから になつて うたそふと 【左ページ下へ】 つらが ひとつ も ない 【本文下へ】 〽アヽ たすけ ぶね ヤレくびころ      し      〳〵 【左へ】 〽ながいもの にはまかれるといふ がこいつはあつちらこつちら              だ 【下へ】 〽なるほど しんま くにおへ ねへ くび だ ろくろ くびかたの よふすを きゝひとつ まなこ大 きにおそれ このうへきん ときはこね のさきへ たづねき たらんも はかられ ずとし きりにこゝ ろほそく也 どふぞはやく こきやうへ かへりたく又 こきやうでは 手下のばけ ものも大せい 【左ページへ】 あれば心だよりと なることもありたこゝ にいてはしらぬばけもの ばかりにて ちからには ならずなに とぞこきやうへ かへりたくきつねの おもひつきにてきんときの あたまをはりぬきにて こしらへきつねこれを かぶりてきんときの かたちになりひとつ めとかたき うちをなし ひとつまなこかたきうち たりとてそれをこうに こきやうへかへるが よかろふとの そうだんなり 【右ページ下、きつねの台詞】 〽きんと きのつらも おさまらぬへ つらだぜこれでは どこへいつても みられることは うけ合だ ひとつめまなこいくら こきやうへかへりたくても かんじんのかたきもうたず してかへりてはぐわいぶんも わるしと きつねの さいかくに てきんときの 大あたまをこし らへきつね人に ばけてきんとき の大じまを ちやくしかのあたまを かぶりひとつまなこ とかたきうちの しやうふするこのこと はこねのさきにかくれ なくけんぶつのばけ ものどもおし合へし合 おとにきこへしきん ときとのたち合は 【左ページへ】 さすがばけものなかまの おかしらみこし入道の せがれひとつまなこ どふぞかた してやり たいゆみも ひきかた みな〳〵 かたづをのみ けんぶつするに やがてたち合 たゝかひしがひと つまなこつけ入てきん ときのくびをうちおとす かねてのきやうけんなれば きつねちやつと大あたまを うちおとされるとおのれが くびはえりもとをくつろげ きものをかぶりて たをれければしたりやしかと けんぶつのほむるこへはやまざり 【右ページ下、台詞】 〽らいくわうのみうちにては天王の すい一【随一】とよはれたるさかたのきん ときにむかつてかたき よばはりすいさんな かへりうちにして くれん 〽うそかこの かたき打は はりやいの ない ものだ 〽はゝじヤ人【ははじや人=母じゃ人】の かたきさかたの きんとき かくごを   しろ カタ〳〵  カタリ〳〵 【左ページ下、台詞】 〽ひとつ めどの せく まい〳〵 きんときは せけ  〳〵 ひとつめはおやのかたき きんときをうちその くびをぢさんして こきやうへかへり ければみこし 入道大きに よろ こび きんときを うちとりしは はゝおやの ためばかりで なしおほくの ばけものこのゝち 外にこわいものなく おもふまゝに人を おどしてよをわたらんこと ひとつまなこのはたらきゆへ なりとばけものゝいつとうに よろこびそれよりまいよ うそ〳〵【こそこそ?】出かけておうらいを 【左ページへ】 おどしけるゆへきんとき ばけものがりに出かけけるを ばけもの共きんときとはおもひも よらずもゝんぐわァといつてその 人のかほをのぞき見ればまことの きんときこれはどふだはゝァ きこへたきんときのゆうれい か何にもせよにげろ〳〵と にげゆくを きんとき いち〳〵に ひつとらへ このうへ けつして 人をおどす まじとの 一札をとり みな〳〵いのちはたすけ そのかはりのこらず はこねのあきへとおい はらひける 【右ページ下、台詞】 〽うぬら このゝちなま ゑひをおどし たり子ども しゆへゆびでも さすと ゆるさぬぞ 〽いのちは おた すけ 〳〵 〽こうした ところは どうじやう     じの【道成寺の】 こま【駒】といふ ものだ 〽こんなに まごつた所は きんぴら さまへ はいつた ろぼうの よふだ 売ものに  かされる【飾れる】   花の  枝ふりも   つくり    下手     なる   毒の赤本 十返舎 〽はやくこの ほんをかき あげて しんゑび   やへ はつがひと 出かけ ましやう めで  たい  〳〵 【枠内】一九作 【以下、本の広告】 《割書:敵|討》妙見御利生記(めうけんごりしやうき)全五冊《割書:十返舎一九著|来世春出版》 怪談於玉杓子(くわいだんおたまじやくし)全三冊《割書:同作近刻|栄邑堂版》 【右ページに落書きあり】 なとや【?】 〳〵