【図書館ラベル】 208 特別 517 亀山人家の妖 完 【読みは、「きさんじんいえのばけもの」】 【刷りの違う本がこちらにあります→https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_02946_0204/index.html】 【図書館ラベル】 208 特別 517 天明七未年 亀山人家の化物 家の化物 自序(じじよ) 咄(はなし)を画(ゑ)にかくといふことはあれど序文(じよぶん)を画(ゑ)に書た ためしは こゝにゑざうしといや つたや重三郎 ゑざうしの作者 喜三二かもとへ 年礼に来り ひつじの春 の新はん 青本を たのむ 来年のをもう たのむのかづいぶん はるの内書やせう 書うとおもへば ぢきにできる などゝ大うぬ【うぬ:うぬぼれ】 をならべる とうはるの大福帳は とんだ評判 がようござり ましてありが たうござり ますなどゝ ちよ〳〵 ら【ちょちょら:いいかげんな調子の良いこと】をいふ 【右側の男は版元の蔦谷重三郎(つたやじゅうざぶろう)】 【左側の男は作者の朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)】 【蔵書印として、福田文庫】 耕書堂の主人三月 までまちけれとも さたなければ 四月五月の ころだん〳〵 さいそくすれ とも六月 になりて も七月に なりても まだあん じが ないと ずるけ けるゆへ 八月の頃 は大かんしやく【癇癪】 になりて 来年   新板【注①】 【左ページへ】 のげだい【外題、作品タイトルのこと】ひ ろうのじ せつになれば せめてげ だいにて     も きはむ【極む、ここでは決定すること】 べしと せめる わたくしは ちよつと おてつだい に出ました ばかり さうしの しゆこうの 外で こざり ます 【大きな紙に書かれた文字】           上中下        喜三二作 《割書:面向(めんこう)|不背(ふはい)》お年玉(おとしだま)  上中下        萬象亭作 芝全交智恵之程(しばぜんこうがちゑのほど)上下       芝全交作 日本一痴鑑(につほんいちあほうのかゝみ) 上下       好町作 《割書:自笑請合(じせううけあい)|本八文字(ほんはちもんじ)》正札附息質(しやうふだつきむすこかたき) 上中下         三和作 三筋緯客気植田(みすじだちきやくのきうへだ) 上中下        京傳作 【紙の下】 げたいを かく所を あけて おき ました 外の写本はさらに そろひ板も出来 上りましたこれ迄 はけ物の御さくはご ざりませぬなんぞ ばけものによいのはご ざりますまいか此 みそか迄にぜひ おたのみ申上ます ばけ で一つ あんじて みましやう まづけたひ はかうても 出して 置ふ これは ほんの 見す てん【注②】た 【筆を持った喜三二が持っている長い紙】 亀山人家妖(きさんじんいへのはけもの) 【注① 草双紙などは毎年正月に新作を売り出す商慣習でした。】 【注② 見ずてん、良く確かめないで実行すること、花札用語から】 喜三二はばけものゝしゆこうに さま〳〵くふうをこらし心で 心とさうだんしながら とろ〳〵ねいる 喜三二が心の友に 亀山人をはじめ狂歌れんのてがらの おかもちさいけんのじよをかくほう 【左ページへ】 せい堂なとよりあい【注①】 ばけものゝさうだんする はやりのくわいらんしよく【案②】 などであんし【案じ】はある まいか しよせんほんの ばけ物を かいては あやまる おかもちが朋誠堂か 喜三二が亀山人かと きくもきまぐれ そこが何か ありそうな ものさ 【左ページ下】 くわいさい こうといふ あんじも 口もとの 所だ 【注① 「亀山人」は喜三二の別号】 【「てがらのおかもち」は「手柄岡持」で、喜三二の狂歌号】 【「さいけんのじよをかくほうせい堂」は朋誠堂喜三二が当時、吉原細見の序文を書いたことによる】 【案② 執筆年の天明6年正月元旦に江戸で皆既日食があり、それを指すらしい】 【△印は化物の説明や台詞】 △一本 あし 一つまな    この ばけ もの △七十のおきなの化物 【右ページ下】 さくしや とうたはれ      て あんまり ちへがねへ いかさまそん な手てはゆく 【左ページ下へ】 まい車がゝりで なくてはあるべ かゝりだ【可有掛かり=お定まり、ワンパターン】 【左ページ上】 喜三二 おもひ つきたる ばけ物 三人あら はれ出 たる所ねつ からおもしろ くもなん    とも     なし △口はみゝのねまで さけたばけもの わたくしは此ごろ迄 くるはかゝりており やした【郭掛かり 22行目あたりの話題を受けている】 【左端、喜三二の台詞】 こいつも いかぬはやく きへろ〳〵 喜三二ばけ物のくふうにこまりいる折ふし 蔦十【蔦重】よりは日々のさいそくにて九月廿五日 くれ六つの かねをあいづに しや本を わたすべしと てづめになり こまりける時 いづくともなく 一人の入道来りて曰 〽わたくしはソン【その】おめへの号に【お前のペンネームに】 付てござる かめ山の化物さ はこねからこつ ちといふはむかしのことで 今は日本中にやぼと ばけ物はねへからわたくしも 化ものをくつとやめのしろう とゝなりサやくしやを化物と 見るやうなやぼなこつ ちやァとんとうけとら ねへからおめへに大事の こつたけれ共申やす 【右ページ下、喜三二の台詞】 なりほど【なるほど】こいつは おもしろいそ もうこんど は大てこ ずり だ 【隣りの化物の台詞】 わたしがばけ 物でゐた時 もついにば けたことは ねへけれ ど ソレ むかふ からば かされ て来□ こゝを よく くふう して みなさ いと云【別本にて確認】 【左ページへ】 喜三二はさうをうにあい さつはしけれ共ばけ物 ときゝておそろしく なりける心のままひ【まよひ?】 にやそこらあたりまつ くらになりてかめやまの ばけものはゆきがた しらずなつたかなら ぬかまつくらにて みへわからず 尤【もっとも】喜三二が すがたも 見へぬ つもり なり 【左ページ下】 此紙 半まいは 何もかくこと なきゆへ じつはまつ くらになり たるなり きつい 喜三二 でん【伝、秘伝】 の こぢつけ なり 喜三二は目をひらきて みればたちまちはれ〴〵 とあかるくなりけり今 まではめをふさぎてゐ たるゆへまつくらになり たるとおぼへしなり さればばかすもばかさ れるもみな人の心にあり ばかにするもばかにされるも おなし道理なりと さとりてそれより化物 ざうしをつゞりてはつ春 のわらひにそなふ 【右ページ下、喜三二の台詞】 まづ 上の まきは まぎら かして しまつた うれしや 〳〵 【右ページ枠の中】 といふことを演(のべ)てこれより化物ざうしの初り さやうにとしかいふ  時に丙午の年九月尽 喜三二 【左ページ、ここから二巻目】 こゝに手柄 の岡もちと いふものあり おなし狂歌 のれん中に しぶぞめの びくあみ【渋染のびくあみ】と まくりのさほ ふと【まくりの竿太】とろ 川のつれんど【泥川のつれんど】 なとあつまり 人のゆかぬ 所に手から はあること なればおい てけぼり つりに行て 見んと云    ける 【右端の小さな文字】 おいてけほりをこはがるはきついたわけ【馬鹿な】なことさ 【左端の人物の頭の上】 ばけが出たら いけとる なとも よか ろう 【左端】 ハテ もし おいてけと いふならおいてくる ふんのことだ たかの つんだものだ【「高の知れたものだ」の意】 【右ページ上部】 四人のもの共おいてけ堀 にてしんニなつて【真剣になって】つるほどに おびたゝしくかたを上ケ よろこぶ時むかふのやふかげ【薮蔭】 よりおいてけ〳〵 そのてがらのおか持 をおいてけといふニ みな〳〵をそれ【恐れ】 をなす 岡もちハ入ものゝ おかもちのことなり とて手がらのふな【鮒】 をそのまゝをきて にげんとするを つれの三人口〳〵ニ 手がらの 岡もち を おいてけ といふ    からハ  きさまの ことなりとて あたりの大木へ おかもちを帯にて 【左ぺーじ上部】 ゆひつけ つりと魚 をばてん でにもち て三人 とも にげて かへる おれが ことでは あるまい おれも一しよに にげたいワるい 名を付て 大きま ぐれだ きさま たちは あんまり むしがいゝ これさ  うしろへ手が    とゞかねへ 【右ページ中央】 【渋(渋染のびくあみ)の発話】 アイ おいて まいり ます 【右ページ下部】 【竿(まくりの竿太)の発話】 つれんど  はやく    来給へ うつちやつて     置て にげた〳〵 【泥(泥川のつれんど)の発話】 おれは  さきへにげる       ぞ かくてむかふの やぶ【薮】ざは〳〵と して出きたる はばけ ものか いけの ぬしかと 見れば ますば や【吉原の娼家「松葉屋」をもじっている】の とめ山 しまうら もろ共 たち出てわらふ 【左ページ上部】 ぬしはあんまり まじめで釣て おいでなんすから をどかしたのでおすよ ぬしはあんまり ばからしいね しまうらさん はやくといて おあけなんし わかいもの   まさ介【若い者まさ介の発話】 これは すきなり    さま とうで ごさり  ます 【右ページ右下】 【しまうらの発話】 おやとんだ帯が しまつていゝす     よ 【岡持の発話】 あんまり   ぬし〳〵と いふまいいけの ぬしが出ては    あやまる 【右ページ左下】 やりておまつ【遣り手お松の発話】けふ【今日】は きやく人【客人】のりやう【寮】へ おいらんをおとも してかへりで  ございます それより おかもちは とめやまと つれだち ますば やへ来り むせう ̄ニ    しやれる 友だちの うんつくめらが おれをおひて きぼりにし おつたがおれ がしあさせ【幸せ】に 【左ページ上】 なつた とめやまは おいてけぼり にておかもちに 大ニきもをつふ させちときの どくなり ければこれ をうめる 心にてむ せうに ちよ〳〵ら をいつて かけ のめし  ける ますんど【他の遊女の名前、松葉屋の遊女「松人」をもじっているらしい】  おいてけぼりの ことを  きゝて おかしがり はなしを きゝに来る 【左ページ右下】 ます花 すきなり   さん どう  なん  し   た 岡もちとめ山が ちょ〳〵らにうつゝ をぬかし心あれば がん中【顔中】せいし【西施、中国古代の美女】を いだすと いふ古語【注】 のごとく とめやまか すがたよし はら【吉原】のうちは おろかむかし より今 ̄ニ いたるまで から【唐】にも やまと【大和】にも かゝる女は あらし と思ふ 心より 外の女郎 はけしからぬ てい ̄ニ 見へる 【右ページ下部】 しまうら  口大きく   見ゆる はまぎし 目はな口 かほから あまり  て 見 ゆる せざは【消えているが別本で「さ」に濁点あり】【せぎ=瀬木?】 ちいさく  みゆる 【左ページ上部】 ますがへ あご なく 見 ゆる ますんど  大きく   見ゆる とめ川 あごながく  見ゆる 【左ページ右下】 ま つ 花 かほ まん まる ̄ニ 見ゆる 【注 「心あれば顔中西施を出す」は】 【中国の諺「情人眼里出西施」「恋人の眼には西施が見える」のこと】 【右ページ上部】 岡持 いよ〳〵 心まよ ひおのれ がおとこ ぶりのよ きゆへとめ 山にほれられたる なるべしとおもひ かゞみ【鏡】にむかひて 見れば 大つうの 美男と 見ゆる ゆへ いよ〳〵 うぬ【うぬぼれ】 となる 【右ページ下側】 かゞみを見 たてとめ やまが きやう げん【狂言】で ない所が よめた扨 〳〵おれ が内の かゞみは とんた わるく  みへる いけない かゞみだ ます風かほふくれ    めほそくみゆる 【左ページ上部】 ますんども すこぶる手 者【てしゃ、女郎として手練れの意】なれば 岡持が うぬに なりたる をみて■【能ヵ】 なぐさみ なりとて おもひ入れ出て 見せければ 又これも少 心うごき たん〴〵から だがちいさく なるやうに 見へのちには ちいさ過る やう ̄ニ  なる 【左ページ下部】 【岡持の発話】 おれも いろおとこ     の うちへいれ     て くれる  きか 【ますんどの発話】 すけなり さん アイサ ほんでおつすよ 【注 湖月抄は延宝元年(1673年)に成立した北村季吟が著した「源氏物語」の注釈書、源氏物語」の本文を全文掲載してそれへ注釈・解説されていて、江戸時代に良く読まれていた「源氏物語」の注釈書、全60巻あり、本コマでは床の間の箱に収納されている】 岡もち大 うぬ ̄ニなり たるをせざは をはじめみな 〳〵おかしがり て言あはせ みな〳〵ほれ たるていに きやうげん【狂言】を ふつかけれ ばいよ〳〵う ぬになりて とんだかう まん【高慢】をいふ 【右ページ右下】 すけ なり さん 【右ページ右中央】 こちらへ おむき なんし なぜおめへがたは そのよう ̄ニ   かたせる ちよつとみゝを お出しなんし すけさん ちよつと ̄マア御見なんし かたきしわたしら 【左ページ】 にや ̄ア物も おいゝなん     せん 【右ページ左下】 はつんど とめ山せうじ【障子】 の外よりすき 見を 【左ページ右下】 して おかしがる 【左ページ上、はつんどの発話】 おめへがたは 何かおもしろ さうだね いつて ぢれつ てい  ね 【左ページ左下、とめ山の発話】 しんのいろ おとこの きどり だかいゝね 【右ページ左下】 おかもち    あまた の女郎にかけら れたれば   はじめあやし きかたちに   見へし 【右ページ右下】 女郎たちまち  やふす【様子】     かはる 【右ページ右上より】 はま ぎし目 はな ちいさく なる しま う ら 口 ち い さく なる ま す がへ あご 長く な る 【左ぺージ右上より】 ますはな かほながくなる とめ川あご みぢかく なる ます  かぜ かほ  ほそく 目ぱり〳〵 と なる せざは  せいたかく    なる 【左ページ下中央】 ますんど せいひき    く    なる 【右ページ】 岡 持 大 いろ 男の きど  り にて とん だ ねつ を はく ねへ みな 〳〵 【左ページ】 大 ̄ニ にく がる 【右ページ、按摩の発話】 もはや とう ̄ニ御ねいり なされました やうきく【按摩の名前、陽菊ヵ】さんねいりあ がつたらうつちやつて おいて来てさけでも のまなんし ぬしもきて 【左ページ】 ちつとわるく いゝなん  し 【とめ山の発話】 たしかほれられた きでおつすよ 【ます風の発話】 みんな ̄ニ ほれられたきどりは あんまりむしがいゝで おつすじや ̄ア   おつ   せんか 【しま浦の発話】 〽あんな おやちに ほん ̄ニほれる 人もありん せうかね 【ますんどの発話】 あれでも ほんに いろ男  だと おもつて いゝすか 【左ページ左下】 あいさ よもやさうは おもひいすめへ 【左ページ左上、ここは不鮮明なので別本も参照】 ね入たら   おもいれ わるくいつて つかはそう 【左ページ下側中央】 もつと だれぞ き  て わる く いへばよう  す  に 【右ページ上】 岡持 はね入 たる ふりで びやう ぶの外 にて さん〴〵 にそし られ しを きゝ す ま し 我 な がら わが 身に あい そう つ き 今迄 いろ男 とおもひ しもいち   どに   としの 【左ページ上】   より   たる こゝち もとは釣 からおこつ たことなれ ばうらしま【浦島】 が子の えんも あり亀にも えんある 亀山人 三人よれば もん所も ハテかはつ たことに なれば なるもの じや ̄ナア 【右ページ下】 としてはけいせい【傾城】の かほがさしづめ鬼 のかほ ̄ニみへる所 なれども なんにわる くいは れて  も まだひいきな心 からやつはりよい 女と見へるも てまへ がつ  て【手前勝手】  なるべし 【左ページ左中央】 今まで   わるく いゝししんたち【新たち、新造たちのこと】 大へこみに    なる 【左ページ左下】 いまのを みんなきか しつたそうだよ  どうせう      ね せうことが【しょうことが】  おつせん 【しょうことがない=しょうがない】 此処にて家のばけ物を 御目にかけますとたましい【魂】 をふき出しやにさがり【注】に 持て曰【いわく】則【すなわち】ばけ物と申も みな心よりおこる事にて こころ正しきときはばけ ものにもあはず みな此こゝろの まよひで ござる さらばとばぬ     うち のみこんで  しまい    ましやう 【右下】 喜三二戯作 【注 「やにさがり」とは煙管の先端を上部に持ち上げる気取った持ち方】 めりやす  長三■ 状の口 【白紙】