世(よ)直(なお)し鯰(なまづ)の情(なさけ) 十月二日大地しんの時 いせの御神馬(ごじんめ)が駈(かけ)て きて諸人(しよにん)を赦(たすけ)た 其せうこにはその 時きていた着物(きもの)の たもとを見ると白い毛が 二三本づつはいつてあるなんと 有がたひ事ではないかと咄(はなし)をして いる所へ一つの鯰(なまづ)がでて来(き)ていはく なまづ〽︎今の話(はなし)の神馬(じんめ)が赦(たすけ)たのではない ありやおいらの仲間が赦(たすけ)たのだ △〽︎なあに ばかあいはつせへなまづは人をくるしめるか おどかすことよりしねへものがどふしてどふして〳〵 赦(たすけ)るなぞと情(ぜう)が有 ものか今じや親(おや)の敵(かたき)だと いつて打殺(ぶちころ)されるは足元(あしもと)の明(あか)るひうちにげて 行つせへ〳〵  な〽︎さあそれだから大 笑(わらひ)だたとひ鯰(なまづ)に しても千百万 寄(よつ)ても此 大地(だいち)が一分でもうごくものか 地しん陰陽(いんやう)の気(き)だそれに鯰(なまづ)をわるくにくむからその わるくいわねえ人ばかりを赦(たすけ)てやりやした △〽︎ははあそれじやなまづ にも少(ちつと)は情(なさけ)があるのか  な〽︎そりやおめへ魚(うを)心あれば水心ありだ