【表紙】 人物【赤字 手書き】 【題簽】 《題:《割書:増補|頭書》訓蒙図彙大成 三》 【右丁】 【表紙見返し】 拾冊之内【手書き】 【左丁】 《題:頭書増訓蒙補図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻(くはん)之四》 人物(じんぶつ)《割書:此部(このぶ)には士農工商(しのうこうしやう)そのほか異朝(ゐてう)の国(こく)|俗(ぞく)すべて一さいの人類(じんるい)をあつむるなり》 【右丁上段】 ○公(こう)は三公(さんこう)なり 太政大臣(だいじやうだいじん)左大臣(さだいじん) 右大臣(うだいじん)を三公(さんこう)といふ 内大臣(ないだいじん)ともに公(こう)なり 唐名(からな)は大師(だいし)大傅(だいふ)大(たい) 保(ほ)といふ補【▢囲み】図(づ)する処(ところ)は 束帯(そくたい)の図(づ)なり束(そく) 帯(たい)には帯剣(たいけん)なり是(これ) 公卿(くぎやう)ともに式礼(しきれい)の 服(ふく)なりくつも靴(くわのくつ)を めさるゝなり 【左丁下段 挿絵】 公(こう)《割書:きみ》 【右丁上段】 ○卿(けい)は公卿(くぎやう)なり 大納言(だいなごん)中納言(ちうなごん)三(さん) 位(み)以上(いじやう)を公卿(くきやう)と云 又 月卿(げつけい)ともいふ 天子(てんし)に付(つき)そひ給ふ 故(ゆへ)の名也補【囗囲み】三位 以(い) 下(げ)を殿上人(てんしやうびと)といふ 図(つ)する処(ところ)は衣冠(いくわん) のていなり是(これ)常(つね) の服(ふく)にて裾(きよ)なく 下はさし貫(ぬき)なり 束帯(そくたい)はさしこなり 装束(しやうぞく)の色(いろ)は四 位(ゐ)以 上は黒(くろ)五 位(ゐ)は赤(あか)六 位は青色(あをいろ)なり 【左丁上段】 ○士(し)は (補)さふらひ也 学文(がくもん)して 位(くらゐ)にあるを 学士(がくし)といふ (補)又 文官(ぶんぐはん)とも いふなり剣(けん)を 帯(たい)し甲冑(かつちう)を 着(ちやく)するを 武士(ぶし)といひ (補)これ を武官(ぶくはん)と称(しやう)ず 四民(しみん)といふは 士(さふらひ)農人(のうにん)工(しよくにん)【「人」脱ヵ】 商人(あきひと)なり すべては万民(ばんみん)とは いふなり 【右丁下段挿絵】 卿(けい) 《割書:きみ》 【左丁下段挿絵】 士(し) 《割書:さふ| らい》 【右丁上段】 ○女(をんな)はいまだ 嫁(よめいり)せさるを 女(ぢよ)といひ すでに嫁(よめいり) したるを婦(ふ) といふ嫁(よめいり)しても 父母(ふぼ)よんで 女(むすめ)といふ ○婆(ば)は嫗(をう)媼(おう) ならひに同じ とりあけうばは 穏婆(をんば) とも 早婆(さうは)とも いふなり 【左丁上段】 ○嬰(ゑい)は人(ひと)始(はじめ)てむまる るを嬰児(ゑいじ)といふ胸(むね)の 前(まへ)を嬰といふこれを 嬰前(ゑいぜん)にかゝへて乳養(にうよう) す故(ゆへ)に嬰といふ又女を 嬰(ゑい)と云 男(おとこ)を兒(じ)と云 ○童(どう)は男(おとこ)十五 以下(いか)を 童子(どうじ)といふ童(とう)は独(どく) なり言(いふこゝろ)はいまだ室家(しつか) あらざるなり鬣子(うないこ) 総角(あげまき)みな童子(どうじ)の 事なり ○翁(おう)は長老(ちやうらう)の称(しやう)也 又人の父(ちゝ)を称(しやう)じて 翁(おう)といふ叟(そう)【「おきな」左ルビ】同 【右丁下段挿絵】 婆(ば) 《割書:うば》 女(ぢよ)《割書:をんな|むすめ》 【左丁下段挿絵】 童(どう)《割書:わら| はべ》 嬰(ゑい)《割書:みどり| こ》 翁(おう)《割書: |おきな》 【右丁上段】 ○兵(へい)は武具(ぶぐ)の 惣名(さうみやう)なり 今(いま)甲冑(かつちう)を 帯(たい)する武士(ぶし) を兵(へい)といひ ならはせり 戎(つはもの)同し (補)頭(かしら)たる者(もの)を 将(しやう)といひ従者(じうしや) を士卒(しそつ)と いふ又 軍士(ぐんし) 軍兵(ぐんべう)など いふなり 軍勢(ぐんぜい)は士卒(しそつ)の 惣名(さうみやう)なり 【左丁上段】 ○農(のう)は厲山氏(れいさんし)子(こ) あり農(のう)と 名(な)づく 百穀(ひやくこく)をうゆる 事(こと)を能(よく)す よつて物(もの)を 作るものを農人(のうにん) といふ又 神農(しんのう) 五穀(ごこく)を植(うゆ) る事をおしへ たまふよつて 農(のう)と名(な) づくるとも いふなり 【右丁下段挿絵】 兵(へい) 《割書:つはも| の》 【左丁下段挿絵】 農(のう) 《割書:もの| つくり》 【右丁上段】 ○工(こう)は百工(ひやくこう)とて もろ〳〵の 細工人(さいくにん) の惣名(さうみやう)なり 工匠(こうしやう)ともいふ 木工(もくこう)は大工(だいく)なり 漆工(しつこう)は 塗師(ぬし)也 (補)其外(そのほか)指物(さしもの) 桧物(ひもの)ざいく 絹布(けんふ)織物(をりもの)るい 金物(かなもの)ざいく すべて工(こう)といふ 是(これ)を職人(しよくにん)と もいふ也 【左丁上段】 ○商(しやう)はひさき人(びと) 又あきびと也 居(ゐ)ながら売(うる)を 賈(こ)といひもち ゆきて うるを商(しやう)といふ 商(しやう)と書(かく)べし 啇(しやう)とかくは あやまりなり 商(しやう)賈(こ)通用(つうよう)す / (補)ともにあき 人の事なり 販(ひさく)といふは 売(うる)事 なり 【右丁下段挿絵】 工(こう)《割書:たくみ| だいく》 【左丁下段挿絵】 現銀かけねなし 賈(こ) 《割書:あき| びと》 商(しやう) 《割書:あき| びと》 呉服物太物類 【右丁上段】 ○医(い)【醫】は病(やまひ)を治(ぢ) するには酒(さけ)を もつて薬(くすり)を製(せい) すよつて酉(ゆふ)の字(じ) に書(かく)と有 和朝(わてう) いにしへは和気(わけ) 丹気(たんけ)といふ医家(いけ) あり俗人(ぞくじん)なり ○卜(ぼく)は卜筮(ほくせい)なり 卜(ぼく)は赴(ふ)なり来(らい) 者(しや)の心(こゝろ)を赴(むかふる)なり 亀(かめ)を灼(やい)てうら なふを卜灼(ぼくしやく)といふ 又 蓍(めど)をとりて うらなふ 【左丁上段】 ○膳夫(ぜんぶ)は腹部(かしはて) ともいふなり 今いふ 料理人(れうりにん)なり 庖丁(はうてう)といふ人 能(よく)牛(うし)を 解(とく)事(こと)を得(え)たり 今その名(な)を かつて 刃物(はもの)の名(な)とす 又 膳夫(ぜんぶ)の名(な) として 庖丁人(はうてうにん)とは いふ なり 【右丁下段挿絵】 医(い) 《割書:くすし》 卜(ぼく) 《割書:うら| なひ》 【左丁下段挿絵】 膳夫(せんふ)《割書:かしはで|》 【右丁上段】 ○画工(ぐわこう)は絵師(ゑし) なり (補)唐(もろこし)には名(めい) 画(ぐわ)あまたありて かぞふるにいとま あらず日本(ひのもと)にて は巨勢(こせ)の金岡(かなおか) 古法眼元信(こほうけんもとのぶ)又 雪舟(せつしう)などむかし の名画(めいぐわ)なり中(ちう) 古(こ)は永徳(えいとく)探幽(たんゆう) 等(とう)その外(ほか)あまた あれどもこれを 略(りやく)す土佐家(とさけ)は 禁裏(きんり)の御 絵所(ゑどころ) なり 【左丁上段】 ○祝(しく)は祭(まつる)に賛(さん) 詞(し)をつかさどる 者(もの)なりとあり 神前(しんぜん)にてのつ とをあぐる神主(かんぬし) なり (補)又 神職(しんしよく) ともいふあるひは 祢宜(ねぎ)ともいふ ○巫(ふ)は女(をんな)の神(かみ)に つかゆるもの也 巫(ふ)は神(かん)をよろこば しむるものなり ともあり (補)按(あん)する に神楽(かぐら)みこ なるへ し 【右丁下段挿絵】 画(ぐわ) 工(こう) 《割書:ゑし》 【左丁下段挿絵】 《割書:かんぬ| し》 祝(しく) 《割書:はふ| り》 巫(ふ)《割書:かん| なぎ》 《割書:み| こ》 【右丁上段】 ○僧(そう)は浮図(ふと)の 教(をしへ)にしたがふ者(もの) なり沙弥(しやみ)沙(しや) 門(もん)桑門(さうもん)比丘(びく)苾(ひつ) 芻(すう)ともいふなり 又 僧正(そうじやう)僧都(そうづ)上(しやう) 人(にん)和尚(おしやう)長老(ちやうらう)など (補)は僧官(そうぐわん)【注】なり国師(こくし) 大師号(だいしがう)あり ○尼(じ)は女僧(ぢよそう)なり 比丘尼(びくに)なり仏(ほとけ)の 四 部(ぶ)の弟子(でし)なり 尼姑(じこ)ともいふ (補) 尤(もつとも)宗門(しうもん)によりて 僧官(そうぐわん)異(こと)なり 【左丁上段】 ○鍛(たん)は磨(ま)なり 推錬(すいれん)なり 金(かね)を治(ぢ)する にて鉄(てつ)を 鍛ものなり 鍛冶(たんや)といふいうべし 鍜治(かぢ)と字(じ) 似(に)たるかゆへ にむかしより あやまり きたりて 鍜治(かぢ)とはとな ふるなり といへり 【注 「官」の振り仮名の二番目「わ」の変体仮名「𛄊」と判断:https://cid.ninjal.ac.jp/kana/list/kana/308f/】 【右丁下段挿絵】 尼(に)《割書:あま|》 僧(そう)《割書:よすて| ひと》 【左丁下段挿絵】 鍛(たん) 《割書:かぢ| や》 【右丁上段】 ○陶家(たうか)は土(つち)にて 茶碗(ちやわん)鉢(はち)皿(さら)などを つくるものをいふ陶(たう) 冶(や)ともいふ (補)瓦工(ぐはこう)は瓦(かわら) さいくしなり舜(しゆん) 河浜(かひん)にすへものつ くりすといへりしか れば此さいくは舜(しゆん)を はじめとするか ○冶(や)は鋳匠(たうしやう)とも 炉匠(ろしやう)ともいふ (補)鍋釜(なべかま) 火鉢(ひばち)其外(そのほか)金(かな)どう 具(く)をゐるものなり 唐(もろこし)の蚩尤(しゆう)といひし ものつくりはしめし とかや 【左丁上段】 ○鬼(き)は人(ひと)死(し)して 肉骨(にくこつ)は土(つち)に皈(き)し 血(ち)は水(みづ)に皈(き)し魂(こん) 気(き)は天(てん)に皈(き)すそ の陰気(いんき)せまり 存(そん)して依(よる)ところ なしかるがゆへに 鬼(き)となる ○仙(せん)は遷(せん)なり飛(ひ) 行(ぎやう)してこの山(やま)より かしこの山へうつ るゆへに仙人(せんにん)と名(な) づく (補)唐(もろこし)にはあまた 有 和朝(わてう)にも久米(くめ) の仙人(せんにん)とて有 【右丁下段挿絵】 陶家(たうか) 《割書:すへもの| つくり》 冶(や)《割書:ゐもの| し》 【左丁下段挿絵】 鬼(き)《割書:おに|》 仙(せん)《割書:やま| びと》 【右丁上段】 ○仏(ぶつ) (補)は西方(さいはう)の 聖人(せいじん)なり 如来(によらい)ともいふ 仏(ほとけ)【佛】は人に弗(あらず) とよむ凡人(ほんにん)に あらざれば なり ○薩(さつ)は菩薩(ぼさつ) なり菩(ぼ)はあま ねく薩(さつ)はすくふ とよむあまね く衆生(しゆじやう)を すくふといふ こゝろなり 【左丁上段】 ○楽(がく)は八 音(をん)を ならして 奏(そう)するなり (補)楽人(がくにん)といふ 黄帝(くはうてい)のとき 伶倫(れいりん)といふ者(もの) 楽(がく)をよくす よつて楽人(がくにん) を伶人(れいじん)といふ (補)楽(がく)を管絃(くはんげん) ともいふ日本(ひのもと)の 楽(がく)を神楽(かぐら) といふかぐら男(お) などいふもの あり 【右丁下段挿絵】 薩(さつ)《割書:ぼさつ|》 仏(ぶつ)《割書:ほとけ|》 【左丁下段挿絵】 楽官(がくくはん) 《割書:がく| にん》 伶(れい) 人(じん) 《割書:まひ| びと》 【右丁上段】 俳優(はいゆう)《割書:わさ| をき》 ○俳優(はいゆう)は雑戯(ざうけ) なりとあり しかれば今(いま)いふ 狂言師(きやうげんし)の たぐひ なるべし 猿楽(さるがく)の類(るい) とはすこし 違(ちが)ひある べし 素盞烏(そさのを)の みことより はしまると いへり 【左丁上段】 ○染匠(せんしやう)はべにや 紺屋(こんや)茶染屋(ちやそめや)な どのるいなり ○蚕婦(さんふ)は蚕(かいこ)をか ひてわたを とる女(をんな)なりむかし 親(おや)に孝行(かう〳〵)なる 女(をんな)死(し)して 蚕(かいこ)といふ むしとなり 庭(には)の桑(くわ)の木(き)に きたり綿(わた)を はきて親(おや)を やしなひけるより はじまれり 【右丁下段挿絵】 俳優(はいゆう)《割書:わざおき|》 【左丁下段挿絵】 染匠(せんしやう) 《割書:そめどの》 蚕婦(さんふ)《割書:こがひ|》 【右丁上段】 機女(きぢよ)《割書:はた| をり》 ○機女(きぢよ)はもろこし より呉服(くれは) 綾織(あやは)と いへる二人の 女きたりて をりはじめ (補)これよりくは しくなり しとかや上機(かみはた)は 万(よろづ)の織物(をりもの)を をる下機(しもはた)は 布(ぬの)木綿(もめん) などをる なり 【左丁上段】 ○矢人(しじん)は矢作(やはぎ)なり 矢(や)は唐(もろこし)にては牟夷(ばうゐ)と いふ人 作(つく)り始(はじ)む又 浮(ふ) 游(ゆう)と云人 始(はじむ)ともいへり 和朝(わてう)は神代(かみよ)に始(はじま)る ○弓人(きうじん)は弓削師(ゆげし)也 弓(ゆみ)は庖犠氏(はうぎし)より始(はじまる) 又 黄帝(くはうてい)堯(げう)舜(しゆん)より 始(はじまる)とも又 黄帝(くはうてい)の臣(しん) 揮(き)と云人 始(はじむ)ともいふ 日本にては神代(かみよ)に始(はじまる) ○函人(かんじん)は鎧(よろひ)ざいく也 鎧(よろひ)は蚩尤(しゆう)始(はじめ)て作(つく)る 又 黄帝(くはうてい)の時 玄女(げんじよ) 始(はしめ)て作(つく)るともいふ 日本は神代(かみよ)に始(はしま)る 【右丁下段挿絵】 機女(きぢよ)《割書:はたをり|》 【左丁下段挿絵】 矢人(しじん)《割書:やはぎ|》 弓人(きうじん)《割書:ゆげし|》 函人(かんじん)《割書:よろひ| ざいく》 【右丁上段】 ○硯(すゞり)は黄帝(くはうてい)玉(たま)を 以(もつ)て始(はじめ)て造(つくり)給ふ と有 硯(すゞり)を墨池(ぼくち)と云 ○銀匠(ぎんしやう)は白(しろ)かねざいく をいふ刀(かたな)のかざり目(め) 貫(ぬき)又 鍼(はり)等(とう)のさいく 人なり ○玉人(きうじん)は玉(たま)を琢磨(たくま) するものなり山よ り出(いづ)るたまを玉(ぎよく)と云 海(うみ)より出(いづ)るを珠(じゆ)と云 ○櫛(くし)は伊弉諾尊(いざなぎのみこと) の御ときつくりは じめたり是(これ)を楊(ゆ)【湯の誤ヵ】 津(づ)の爪櫛(つまぐし)と いへり 【左丁上段】 ○烏帽子折(ゑぼうしをり)は京(きやう) 都(と)室町(むろまち)三 条(でう)に あり烏帽子(ゑぼうし)は立(たて) 烏帽子(ゑほうし)是は高位(かうゐ) の着(ちやく)し給ふ物なり 風折(かざをり)梨打(なしうち)左折(ひたりをり) 右折(みきをり)小結(こゆひ)荒目(あらめ) 等(とう)なり ○褙匠(はいしやう)は今いふ 表具師(へうくし)の 事なり 表補(へうほ)とも表褙(へうはい) ともいふ表(へう) 紙(し)も同 じ 【右丁下段挿絵】 櫛引(くしひき) 硯工(けんこう) 《割書:すゞり| きり》 玉(きう) 人(じん) 《割書:たま| ざい| く》 銀匠(ぎんしやう) 《割書:しろかね| さいく》 【左丁下段挿絵】 烏帽子折(ゑぼうしをり) 褙匠(はいしやう) 《割書:ひやうぐ| し》 【右丁上段】 ○傘工(さんこう)は雨傘(あまがさ)日(ひ) 傘(がさ)桃灯(ちやうちん)をはる さいく人(にん)なり ○皮匠(ひしやう)は今いふ足(た) 袋屋(びや)などなり 又 切付(きつつけ)屋とて 皮(かは)ざいくする人 をもいふ ○針磨(はりすり)は京(きやう)姉(あねが) 小路(こうじ)の名物(めいぶつ)なり 今は三 条寺(でうてら)町の 辺(へん)に多(おほ)く有見 すやといふ者(もの)長崎(ながさき) より針(はり)を取よせ 売弘(うりひろ)めたるより名(な) 付(づく) 【左丁上段】 ○牙婆(かば)は今いふ □【す】あひなり衣(い) 類(るい)をきもいりて うりかいするもの なり ○筆工(ひつこう)は筆結(ふでゆひ)也 筆(ふで)はもろこしに て蒙怗(もうてん)といふ人 つくりはじめ給ふ ○薦僧(こもぞう)は梵論(ぼろ)と もいふ梵論字(ほんろんじ)漢(かん) 字(し)ともいふ又 暮(ぼ) 露(ろ)とも書(かく)なり尺(しやく) 八(はち)をふき諸国(しよこく)を修(しゆ) 行するなり 【右丁下段挿絵】 皮匠(ひしやう) 《割書:かはざいく》 傘(さん) 工(こう) 《割書:かさ| ばり》 針磨(はりす[り]) 【左丁下段挿絵】 牙婆(かは) 《割書:す| あひ》 薦僧(こもぞう) 白雲軒【看板内】 筆(ひつ) 工(こう) 《割書:ふで| ゆひ》 【右丁上段】 ○石工(せきこう)は石(いし)を切(きり)て 石 垣(かき)石 灯籠(とうろう)いし 橋(ばし)石塔(せきたう)などする ものなり石にて 器(うつはもの)をつくるさいく 人をもいふ石を芋(いも) 茎(じ)をもつて煮(に)れ はやわらかになるとぞ ○圬者(うしや)は今いふ 左官(さくはん)なり圬人(うじん) とも泥工(でいこう)とも泥(でい) 匠(しやう)ともいふなり 圬(う)は杇(う)につくるべし 竃(へつい)その外(ほか)土(つち)ざいく するものも同じ 【左丁上段】 相撲使(ことりづかひ) ○相撲は乃見(のみの) 宿祢(すくね)と 橛速(くゑはや)と いふもの二人 取(とり)はじめ たり 角抵(かくてい)と云 膂力(りよりよく)を 争ふ わざ なり 【右丁下段挿絵】 石工(せきこう) 《割書:いし| きり》 圬者(うしや) 《割書:かべぬり》 【左丁下段挿絵】 相撲使(ことりづかひ) 《割書:すもふ| とり》 【右丁上段】 ○扇(あふぎ)はもろこし にては舜(しゆん)と いふみかどつくり はじめ給ふ 日本(につほん)にては 神功皇后(しんごうくはうかう)の とき蝙蝠(かふもり)の羽(はね) を見てつくり はじめしとなり 京(きやう)にてはみゑい 堂(どう)を賞(しやう)ず ○漆匠(しつしやう)はうるし ざいくするもの をいふ今は 塗師(ぬし)といふ 【左丁上段】 ○侏儒(しゆじゆ)はかたち短(もじか) き人をいふ今いふ 一寸(いつすん)ぼうしなり短(たん) 人(しん)ともいふ ○駝背(たはい)はせむし也 医書(いしよ)にては亀背(きはい) といふ背(せ)の高(たか)き馬(むま) を槖駝(たくた)といふ駝馬(だば) に似(に)たるゆへせむしの 人を駝背(たはい)といふ也 ○兎唇(としん)は缺唇(けつしん)とも 兎缺(とけつ)ともいふ兎缺(いぐち) は赤子(あかご)のとき上手(じやうず) の外科(げくわ)に切てぬ はすれば成人(せいじん)して みへぬものなり 【右丁下段挿絵】 扇工(せんこう) 《割書:あふ| ぎ| や》 漆(しつ) 匠(しやう) 《割書:ぬ| し》 【左丁下段挿絵】 駝背(だはい) 《割書:せむし》 侏儒(しゆじゆ) 《割書:一寸| ぼうし》 兎唇(としん) 《割書:いくち》 【右丁上段】 ○蜑人(あま)は海中(かいちう) に入て蚫貝(あはびかい) 昆 布(ぶ)あらめの たぐひを とる ものなり 海人(あま)とも書(かく) 女(をんな)の業(わざ)なり 又 塩(しほ)くむ女 もあまと いふいづれ海(かい) 辺(へん)のわざ なればともに 同じ類(たぐひ) なるべき か 【左丁上段】 ○釣叟(てうさう)はつり するおきな をいふ太公望(たいこうばう) 厳子陵(けんしれう)が たぐひなり (補)日本(ひのもと)にも神代(かみよ) よりありし よしなり ○樵夫(せうふ)は薪(たきゞ)を とるものなり 又は山賤(やまがつ)とも いふ (補)木(き)つくり 杣人(そまひと)なども 此たぐひのもの なるべし 【右丁下段挿絵】 蜑(ゑん) 人(しん) 《割書:あま》 【左丁下段挿絵】 釣叟(てうさう) 樵夫(せうふ) 《割書:きこり》 【右丁上段】 ○猟師(れうし)は弓(ゆみ) 鉄炮(てつはう)を以(もつ)て 鳥(とり)獣(けたもの)をとる ものなり 虙羲氏(ふつきし)の世(よ)に 天下(てんか)に獣(けたもの)多(おほ)く 田畠(でんはた)をそこ なふ故(ゆへ)に人に 猟(かり)をおしへ給ふ より始(はじま)りし とそ (補)冬(ふゆ)の猟(かり)に利(り) ありとす又 海河(うみかは)にて魚(うを)を とるを魚猟(きよれう)と云 【左丁上段】 ○瞽者(こしや)は目(め)なき ものなり盲(もう) 目(もく)盲人(もうじん)とも いふ論語(ろんご)に冕(へん) 者(しや)と瞽者(こしや)とを 見(み)てはと有 (補)又 琵琶法師(びわほうし)とも いひてむかしは びわを弾(たん)じ平家(へいけ) をかたりし今は琴(こと) 三絃(さんけん)をわさとす 座頭(ざとう)ともいふ尤(もつとも) 撿挍(けんげう)勾当(こうとう)四分(しぶん) などゝて位階(ゐかい) あり 【右丁下段挿絵】 猟師(れうし) 《割書:かり| うど》 【左丁下段挿絵】 瞽者(こしや) 《割書:もう | もく》 【右丁上段】 ○販婦(はんふ)はあき なひをする 女(をんな)をいふ買婆(ばいば) ともいふなり (補)都(みやこ)にはすくなし 鄙(いなか)におほく あるもの也 ○乞児(きつじ)は乞丐人(こつがいにん) なり又 乞(こつ) 食(じき)とも いふ ものもらひ なり又 非人(ひにん) ともいふ 人 非(ひ)人 外(ぐわい)の義 なり 【左丁上段】 ○漁父(ぎよほ)はすな どりするもの なり燧人氏(すいじんし)の 世(よ)に天下(てんか)に水(みづ) おほし故(ゆへ)に人(ひと) におしゆるに 漁(すなどり)をもつてす (補)今 猟師(れうし)と いふなり ○舟子(しうし)は今いふ 船頭(せんどう)なり海(うみ) を渡(わた)す舟(ふね)に有 又 篙工(かうこう)とも棹(とう) 子(し)ともいふ但(たゝ)し 川舟(かはふね)にも船頭(せんどう)と 云 【右丁下段挿絵】 乞児(きつじ) 《割書:ものもらひ》 販婦(はんふ) 《割書:ひさき| め》 【左丁下段挿絵】 漁父(きよほ) 《割書:すなどり》 舟(しう) 子(し) 《割書:ふなこ》 【右丁上段】 ○牧童(ぼくどう)は広野(くはうや) にて牛馬(きうは) に牧(まき)する 童(はらわ)【注】なり牧童(ほくとり) 遥(はるかに)指(さす)杏花(きやうくはの) 村(そん)と詩(し)に も作(つく)れり牛飼(うしかひ) はらわ【注】なり必(かならず) 笛(ふへ)を吹(ふく) よつて牧笛(ぼくてき)と いふ詩(し)に牧童(ぼくどう)寒(かん) 笛(てき)倚(よつて)牛(うしに)吹(ふく)と いへるも太平(たいへい) の姿(すかた) なり 【左丁上段】 ○鏡造(かゞみつくり)鏡(かゞみ)と いふは神代(かみよ)に 天(あま)の糠戸(ぬかど)といふ 神(かみ)天照太神(てんしやうだいしん) の御影(みかげ)を うつして始(はしめ)て つくり給ふと也 (補)鏡(かゞみ)は姿(すかたの)善悪(よしあし) を見(み)るも心(こゝろ)の 曲直(きよくちよく)を 正(たゞ)し改(あらた)めんが為(ため) なりとかや 神前(しんぜん)に鏡(かゞみ)を 掛(かく)るもこの いわれなるべし 【右丁下段挿絵】 牧童(ぼくどう) 《割書:うし| かいはら| わ》【注】 【左丁下段挿絵】 鏡造(かゞみつくり) 【注「童」は「わらは」であるはずだが「はらわ」となっている。「は」は者と八より。「わ」は王より】 【右丁上段】 ○娼婦(しやうふ)は倡優(しやうゆう)と て女の楽(かく)を奏(そう)する ものなり娼(しやう)は誤(あやま)り なり倡(しやう)と書(かく)べし 又 倡妓(しやうき)ともいふと有 (補)是むかしの事にて 今は絶(たへ)てなき也 敢(あへ) て聞及(きゝおよ)ばす中比白(なかごろじら) 拍子(びやうし)といふものあり 今いふ遊女(ゆふぢよ)舞子(まいこ) などの類(たぐひ)ならんか 傾城(けいせい)又 傾国(けいこく)など いふものは別(べつ)なるもの ならんむかしより ありしやうに聞(きゝ) 及しなり 【左丁上段】 又 髹工(きうこう)ともいふ 蒔絵師(まきゑし)と いふも此類(このるい)の ものなり ○渉人(せうじん)は渡(わたし) 守(もり)なり 大河(おほかは)小川(こがは)を 舟(ふね)にてむか ふのきしへわた すものなり 大河(おほかは)には 所々(しよ〳〵)に舟(ふね) わたしありて 往来(わうらい)の人の たすけと なるなり 【右丁下段挿絵】 娼婦(しやうふ) 《割書:うかれめ》 遊女(ゆうぢよ)《割書:う| かれめ》 【左丁下段挿絵】 渉(せう) 人(じん) 《割書:わた| し| もり》 【右丁上段】 ○駕輿丁(かよてう)は 駕輿(かご)かきの 事なり 酒(さけ)を漉酌(こしかい) 藤二を漉酌(ろくしやく) といふすぐれ て大なる男(おとこ)とも なり駕(かご)かく男(おとこ) も漉酌(ろくしやく)といふ ○浪人(らうにん)とは所領(しよれう)に はなれて流(る) 浪(らう)する 人をいふ牢人(らうにん)と 書(かく)はあやまり なり 【左丁上段】 ○傀儡師(くわいらいし)は 人形(にんぎやう)まはし の事なり でくゞつと いふ淡路島(あはぢしま) といふ所より 毎年(まいねん)正月に きたりしよし 近年(きんねん)絶(たへ)てこの ものなし又 田楽法師(でんがくほうし)と いふものありし よし今(いま)はその 名(な)ばかり残(のこ) れり 【右丁下段挿絵】 駕輿(かよ) 丁(てう) 《割書:かごかき| ろく| しやく》 浪人(らうにん) 【左丁下段挿絵】 傀儡師(くわいらいし)《割書:てくゞつ》 【右丁上段】 ○車借(くるまかし)は車(くるま)つかひ の事なり鳥羽(とば)白(しら) 川(かは)にあるよし庭訓(ていきん) にみへたり今はさが 其外(そのほか)所々(しよ〳〵)にある也 天子(てんし)の車(くるま)つかひを 御者(ぎよしや)とも徒御(くるまぞへ)と も舎人(とねり)ともいふ ○問丸(とひまる)は今(いま)いふ問(とひ) 屋の事なり売買(ばい〳〵) の相場(さうば)を毎日(まいにち)問(とひ) あはする宿(やど)なり よつて問(とひ)屋と云 又 道中(どうちう)にて問(とひ)屋 といふは馬(むま)駕輿(かご)を 出す所(ところ)なり 【左丁上段】 ○馬借(ばしやく)は《振り仮名:馬奴|ま□》【まどヵ】 又は馬口労(ばくらう)とも いふ大津(おほつ)坂本(さかもと)の 馬借(ばしやく)と庭訓(ていきん)に あり今(いま)は馬(むま)さし を馬借(はしやく)といふ又 馬口労(ばくらう)といふもの 別(べつ)にありて牛馬(きうば) の売買(うりかい)のせわを する者(もの)なり ○伯楽(はくらく)は馬(むま)の病(やまひ) をりやうぢする人 を伯楽(はくらく)といふむか しは京(きやう)室町(むろまち)にゐ けるにや室町の 伯楽(はくらく)と庭訓(ていきん)に有 【右丁下段挿絵】 車(くるま) 借(かし) 《割書:くるま| つかひ》 問(とひ) 丸(まる) 《割書:とひや》 【左丁下段挿絵】 馬借(ばしやく) 《割書:むまさし》 《割書:むま| くすし》 伯楽(はくらく) 【右丁上段】 ○土器(かはらけ)は京(きやう) 西山(にしやま)嵯峨(さが) 又 北山(きたやま)畑枝(はたゑだ) 下(しも)は深草(ふかくさ)辺(へん) よりつくり出(いだ) せり庭訓(ていきん) にも嵯峨(さが) がはらけとあり ○大原(おはら)の黒木女(くろぎめ)は 京 北山(きたやま)大原(おはら) の女(をんな)黒木(くろぎ)をいたゞ きて京(きやう)に出(いで)て あきなふ事は むかし平(たいら)の惟盛(これもり) の妻(つま)阿波(あわ)の内侍(ないし) 平家(へいけ)亡(ほろ)びて後(のち) 【左丁上段】 おはらに住(すみ) て世(よ)わたり のため売(うり)給ひし より始(はじま)れり そのほか八瀬(やせ) 又は雲(くも)が畑(はた)高(たか) 雄(を)の梅(むめ)が畑(はた)など 同く女(をんな)木柴(きしば) をあきなふなり ○屠者(としや)は牛(うし)馬(むま)の 肉(にく)を屠割(ほふりさく)もの なり今いふ 穢多(ゑた)なり 又 屠児(とじ)とも いふなり 【右丁下段挿絵】 土器(かはらけ) 師(し) 大原(おはらの) 黒木女(くろぎめ) 【左丁下段挿絵】 《割書:ゑた》 屠(と) 者(しや) 【右丁上段】 ○中国(ちうごく)は中華(ちうくは)とも漢(かん) とも唐(とう)どもいふ近(ちか)き比(ころ) まで明(みん)といひしが韃(たつ) 靼(たん)にしたがひ今(いま)は大(たい) 清(しん)といふみやこなり ○朝鮮国(てうせんごく)はむかしは三(さん) 韓(かん)とて三 国(ごく)なり新羅(しんら) 百済(はくさい)高麗(かうらい)といひしが 今(いま)は一 国(こく)となる日本(につほん)に したがふなり ○琉球国(りうきうごく)は中山国(ちうざんごく)と名(な) つく日本(につほん)にしたがへり男(おとこ) は羽毛(うもう)をもつて冠(かんふり)とし 珠玉(しゆぎよく)をかざる女(をんな)は白羅(うすもの) をもつて帽(はう)として雑(ざつ) 毛(もう)を衣(ころも)とす 【左丁上段】 ○天 竺(ぢく)は仏(ほとけ)出(いで)し所(ところ)也 また大国(たいこく)の大熱国(だいねつこく) なり国内(こくない)に聖水(せいすい)あ りてよく風濤(ふうたう)をや む商人(あきひと)瑠璃(るり)の壺(つぼ)を もつて水(みづ)をもりたくはふ ○蒙古(もうこ)は韃靼(たつたん)の一種(いつしゆ) なりむかし日本(につほん)へ攻来(せめきた)り 神風(じんふう)に吹破(ふきやぶ)られしと なり是(これ)を蒙古国(むくりこく) 裏(り)といふなり【注】 ○粛慎(しくしん)は女直(ぢよちよく)とも女(ぢよ) 真(しん)ともいふ国人(くにひと)足(あし)かる くして道(みち)をゆく事 鳥(とり)のとぶかごとしよつ てあしはせと名(な)づく 【右丁下段挿絵】 中国(ちうごく) 琉球(りうきう) 朝鮮(てうせん) 【左丁下段挿絵】 天竺(てんぢく) 蒙古(もうこ) 粛慎(しくしん) 【注:蒙古国裏(むくりこくり)は蒙古高句麗からという説あり】 【右丁上部】 ○占城(せんせい)はちやんはん といふ安南(あんなん)に近(ちか) き国(くに)なり大象(だいざう) 多(おほ)し国に鰐(わに)有 公事詔訴(くじそせう)【注】の者(もの) ありて (補)理非分明(りひふんみやう) なれば鰐(わに)にあたふ 科(とが)あるものは鰐(わに)こ れを食(くらふ)といへり ○安南国(あんなんこく)は交趾(かうち) とも東京(とんきん)とも云 男子(をとこ)は盗(ぬすみ)をこのみ 女(をんな)は淫(いん)をこのむ女(をんな) をめとるに媒(なかだち)なし みつからあひ合(あふ)国(くに) に肉桂(につけい)おほし (補)他国(たこく) 【左丁上部】 にいだす此 国(くに)の肉(につ) 桂(けい)を上品(じやうひん)とす ○暹羅(せんら)は国(くに)に海(かい) 濱(ひん)おほし男子(なんし)はい とけなきより陽(やう)を さく甘波邪(かぼちや)とも いふ此国(このくに)の染色(そめいろ)を にせて日本(につほん)にしや むろといふなり ○東番(とうばん)はたかさご (補)とも又たいわん国 ともいふ安南(あんなん)にちか きゑひす国(くに)なり (補)むかし国性耶(こくせいや)この 国(くに)をきりとり住(じう)せ しなり今(いま)唐(とう)に従(したが)ふ 【注 「詔訴」は「訴詔」の誤】 【右丁下段挿絵】 占城(せんせい) 《割書:ちやん| はん》 【左丁下段挿絵】 安南(あんなん)《割書:かうち》 暹羅(せんら) 《割書:しやむろ》 東番(とうばん) 《割書:たかさご》 【右丁上段】 ○南蛮(なんばん)は阿媽港(あまかう) 人(じん)なり阿蘭陀(おらんだ)も 此 類(るい)なり (補)すへて 南(みなみ)の嶋国(しまぐに)をなん ばんといふ其(その)品類(ひんるい) 多(おほ)くありて人物(じんぶつ) 種々(しゆ〴〵)にわかれり 西(にし)のゑびすを西(せい) 戎(じう)といふ是(これ)もその 数(かす)多(おほ)くあり ○東夷(とうゐ)は蝦夷人(ゑぞびと) なり人物(じんぶつ)勇猛(ゆうまう)に して常(つね)に山野(さんや)に 出(いで)て獣(けだもの)を射(ゐ)とり (補)又は海中(かいちう)の魚類(きよるい) をとりて食(しよく)とす 【左丁上段】 惣(さう)じて中国(ちうこく)より 東(ひがし)にある島国(しまぐに)を 東夷(とうゐ)といひ西(にし)に有 嶋国(しまぐに)を西戎(せいしう)といひ 南(みなみ)にあるを南蛮(なんばん) といひ北(きた)にあるを 北狄(ほくてき)といふ ○呂宋(りよそう)はるすんと て中国(ちうごく)にちかき 国(くに)なりよく器(うつはもの)を 製(せい)し絹(きぬ)をおり いだす ○長脚(ちやうきやく)は足(あし)ながき 国(くに)なりよくはし る事 獣(けだもの)のごとし 【右丁下段挿絵】 南蛮(なんばん)《割書:みなみの| ゑびす》 東夷(とうい)《割書:ひがしの| ゑびす》 《割書:ゑぞ》 呂宋(りよそう)《割書: |るすん》 【左丁下段挿絵】 長脚(ちやうきやく) 《割書:あし| なが》 【右丁上段】 長臂国(ちやうひごく)は 東海(とうかい)の しまぐになり 国人(くにびと)手(て)ながく して地(ぢ)にたる 布衣(ふい)をきる 長(たけ)一 丈(じやう)三尺八寸 又 臂(ひぢ)なき くにもあり 無臂国(むひごく)といふ 又 臂(ひぢ)ひとつ ある国(くに)も あり一臂国(いちひこく) といふ なり 【左丁上段】 ○崑崙(こんろん)は西南(せいなん) の海中(かいちう)の嶋国(しまくに)也 その人物(しんぶつ)色(いろ)くろ きこと黒漆(こくしつ)のご とし海底(かいてい)に入(いり)て 自由(じゆう)をなすまた よく高(たか)きにのぼる ことを得(え)たりと よつて異国(ゐこく)の渡(と) 海(かい)の舩(ふね)にはかならず 此(この)崑崙(くろんぼう)をした がへりといふ世(よ)に色(いろ) 黒(くろ)きものを崑崙(くろん) 坊(ぼう)といふなり 【右丁下段挿絵】 長(ちやう) 臂(ひ) 国(ごく) 《割書:てなが| じま》 【左丁下段挿絵】 崑(こん) 崙(ろん) 《割書:くろ| ぼ| う》 【右丁上段】 ○小人国(しやうじんごく)此国(このくに)東(とう) 方(ばう)にあり身(み)の長(たけ) 九 寸(すん)又は一 尺(しやく)五 寸(すん)と もいふ此国(このくに)に鶴(つる)に 似(に)たる鳥(とり)ありて小(しやう) 人(じん)をとりくらふこれを おそれてひとり行(ゆく) ことなしあまたつれ たちゆくといへり ○長人国(ちやうしんごく)はむかし明(みん) 州(じう)の人(ひと)難風(なんふう)に舩(ふね)を 吹(ふき)ながされてある 島(しま)にいたる人(ひと)の長(たけ) 一 丈(じやう)余(よ)なりよく水(みづ) をおよぐとなり 【右丁下段挿絵】 長人(ちやうじん) 国(ごく) 《割書:せたかじまと| いふ》 小人国(しやうじんごく) 《割書:こびとじまと| いふ》 【見返し】 拾冊之内【手書き】 【裏表紙】