【表題】救荒鄙諭 【表紙】救荒鄙諭 【右丁】 蕪菁並乾菜の代りに用る類 粉末に拵る類 大麦挽割の足しに用る類 解毒の方 毒草の類 合食禁あらまし 養生の事 【左丁】    蕪(な)菁並 乾菜(ひば)の代(かはり)に用る類   草の葉木の芽或は爛(うで)【注1】出 淘浄(さわ)し種々(いろ〳〵)の   製法(こしらへかた)あり苦汁(あく)の取様あしけれは直に毒に   あたるも有又後日(のち)浮腫(はれやまい)を生(せう)し悪瘡(できもの)を発   する事あり食物は命を保つ大切のもの   なり手間をおしまず製方(こしらへ)念を入べし 〇萱草(くわんさう) 嫩葉(わかば)を採り爛(うて)熟し水にひたし   苦汁を取り能絞り細(こまか)に刻み塩を少し 【注1】煠ヵ 爓‐訓読 ゆでるの誤字ヵ     ここではくずし辞典より爛熟の爛を採用す 【右丁】   加へ飯のにえあかり水のいまた乾かさる処へ   入べし 〇蘩縷(はこべ)  製方(こしらへ)同断(おなし) 〇藜(あかざ)   同断 藜藿(あかあかざ)灰條(あをあかざ)ともに用ゆ 〇薺(なづな)   同断 〇鴨跖草(つゆくさ)同断 〇皂莢樹(さいかちの)嫩葉 爛熟し水を換ニ三日浸し   置塩を加へ菜乾葉(なひば)の代りに用ゆ 【左丁】 〇五加葉(うこぎのは) さいかちの通りに製(こしらへ)苦味を能さりてよう用ゆ 〇忍冬葉(にんどうのは)製方(こしらへかた)前に同じ又 灰湯(あく)にて煮て   さわし用るもよし塩は必用ゆべし 〇紫藤(ふじの)嫩葉 灰湯にて煮水を換三日程浸し   淘浄し用ゆ血を破るものゆへ孕婦(はらみをんな)には忌(いい)   灰汁はかた木の灰を用ゆべし松杉の灰は   きかず 〇茗苡(おほばこ)《割書:おんばこ|かいるば》嫩葉を採り爛熟し流水(なかれかは)に 【右丁】   一夜ひたし滑汁(ぬめり)を淘洗い用ゆ蕨の粉と   一所に用ゆべからず 〇旋花(ひるがほ)葉《割書:あめふり花|》爛熟し水にひたし悪汁(あく)を   取て用ゆ長(なか)く食すれは頭暈(めまい)し又腹に   あたる事もあり続て食すべからず 〇問荊(すぎな) 爛熟しさわし用ゆ花を筆頭菜(つくづくし)   といふ食すべし瘡病(ふきでもの)ある人は忌 〇虎杖(いたどり)製方同断 妊婦(はらみをんな)には忌 【左丁】 〇蕨 平年飯の葱味(さい)【注1】に用るには灰湯(あく)にてうで   水にて淘浄し用れ共 饉(かて)のたしにするには   灰湯にて煮 流河(なかれかは)にひたす事一二日その後能   しぼり細に刻(きざミ)塩を入 飯の上にのせたくべし 〇紫茸(ゼんまい) 嫩芽を採り爛熟し淘浄し用ゆ 〇水芹(セり) 同断 〇稀薟(めなもみ)【注2】葉 爛熟し流水に一夜ひたし置   苦味をさりて用ゆ 【注1】菜の誤字ヵ 【注2】豨薟 キク科 【右丁】 〇佝杞葉(くこのは) 爛熟し淘浄し用ゆ 〇蒲公英(たんほゝ) 爛熟し水にひたし苦味をとりて用ゆ 〇商陸葉(とうごほう)《割書:やまごほう|》灰湯にて煮よ能淘浄し用ゆ 〇大薊(おゝあさみ)《割書:山あざみ|》小薊 何れも灰湯にて煮水に    二三日ひたし置湯用ゆ 〇地膚(ははきぐ) 爛熟し淘浄し用ゆ 〇葛の嫩葉      同断 〇蜀葵(あをひ)   同断 【左丁】 〇桑の葉       同断 〇槐樹芽(ゑんじゆめ)同断 〇榎の葉 灰湯にて煮流水に一二日ひたし置   毒気をさり用ゆ 〇だつま 爛熟し水を換ひたす事四五日   ばかりにて絞り用ゆ又爛熟し流水に一二夜   浸し苦味を取るもよし   惣而草の葉等を用る事は是非塩を加へ 【右丁】   用ゆべし 塩は毒気をとるものなり  右の外飢を助くる品多しといへとも  このほとりにて得やすく目なれたるのみ  を記し 海沼なきによりて海草(うみくさ)水  くさはしるさず 【左丁】   粉に製(こしらへ)用る類 〇葛の根 土の中に入事五六寸はかりの処を   葛脰(かつとう)と名(なつ)け 毒あり右五六寸斗を切   捨 夫より下を用ゆべし 乾(ほし)たくはへ置   たるは上皮(うはかは)をこそぎ去 臼にいれ杵にて   搗(つき)砕(くだき)水を入れ手にてもみ その水を桶に   いれ澄し置て上澄を捨 沈みたる粉へ   又水を入 かきまぜ又澄し 上澄を傾希(かたむけ) 【右丁】  捨かくのことく水飛(すいひ)する事十遍はかり  その後右の粉を日にて乾(ほ)し用ゆ臼の中の  査(かす)は粉のとれる程水を入 粉をとるへし  山より掘出したるはすぐに搗てよし  右の粉を捏(こね)だんご餅等に拵へ蒸し食す  うでゝもよし又麺類にも拵る蕨の粉と  一所にまぜ食すべからず 【左丁】 〇蕨の根 紫色の上皮をこそげ去 臼  にて搗爛(つきくず)す事 水飛する事葛の粉を  取と同様(おなしこと)なり その根の筋は蕨縄になる  なり 米の粉麦の粉を雑(まぜ)餅だんご麺類に  拵る米の粉麦粉に交(まじ)ゆべし外の粉には  交ゆべからす 〇紫茸(ぜんまいの)根 粉を取事 同断 【右丁】 〇■■(からすう里の)【注1】根 皮を削り白き所を細に刻み   水をかへ浸(ひたす)事 五日程取出し搗煠(つきくず)し   水を入 かきまぜ布の袋にてこし葛の   粉のことく水飛すること十べんはかり   日にて乾し用ゆ焼餅 団子 麺類に   拵る事前に同じ 〇檞(くぬぎ)の実 楢の実 何れもどんぐりといふ 【左丁】   皮をむきさり湯にて煮こぼす事三度   その後水にひたし置事 三日程取あげ日   にて能ほし碾(うす)にてひき細に篩(ふるひ)又水に   ひたし水飛する事 四五度日にて乾し   用ゆ米の粉等にまぜ餅だんご焼餅等に   拵る 〇とちの実 檞(くぬき)の実と製方同断 【注1】かつろう ウリ科 草冠に括と娄 【右丁】 〇萆蒻(ところの)根 髭麁(ひげあら)皮をこそげ去横に剉(きさ巳)   よく煮て 流水に浸置事 二三夜苦   味を去 日にて乾(ほ)し 磨(うす)にて挽篩(ひきふるひ)   その粉を三四扁ん水飛し 餅 だんご   焼餅等に拵る 〇鼓子花(ひるかほの)根 皮を去剉み爛熟し淘浄し   日にて乾し粉に拵る 【左丁】   又煮熟しさわし すぐに味噌 醤油   にて煮食するもよし 〇萱草根 爛熟し淘浄し 日に乾し   粉に拵る   又爛熟しさわしすぐに煮食するも   よし  【右丁】 〇米糀(こぬか) 篩(ふるひ)にてふるひ荒 粉を去り米の   粉に小麦の粉 蕎麦の黒粉抔を等分に   雑(ませ)餅だんご 焼餅等に拵る    餓たる人の養ひ様 〇人 数日(すちつ)食せず餓困(  くるし)んて死(しな)んとするは  先(まつ)飯を與喫(くは)すべからず 若 喫すれは立処に  死す 且 妄(みたり)に服薬(くすり)を用(もちゆ)べからす 【左丁】 〇手拭(てのこひ)様の物を熱き湯に浸し臍腹(ほその)あたりを  熨(の)せは自然と囘生(よをかへ)るべし その時白湯の中へ  味噌汁又は米飲(おもゆ)少しを冲(さし)て撹(かき)まぜ嚥(のま)しめ  腸(はら)を滋潤(うるほ)し その後能 熟(に)たる稀粥(うすかゆ)を喫  せて両三日の間に段々その粥を濃して  食せ数日の後に軟(やはらか)なる飯を與喫せてよし  凡 飢(うえし)人 白菓(ぎんなん)を食しむれは死す 慎む  べし  【右丁】    大麦挽割(ひきわり)の足しに用る類 〇栗 皮を剥(むき)水に浸し縄にて揉洗ひ   萩(しぶ)皮を去り日にてほし あらく擣(つき)   砕(くだき)麦割(わり)のごとく米に交たくべし 〇檞 楢の実 皮を去り沸湯((にえゆ)にて能(よく)煮   黒く渋き汁をとりさり流水に一二   夜浸し置日にて乾(ほし)臼にて擣あらく 【左丁】   ふるい割麦(わり)のごとく拵 猶又 流河に一二   夜浸(ひたし)苦渋(にがしぶ)の味を能とり割麦のたし   に用ゆ 〇とちの実 製方 同断 〇萆蒻根  細にきざみ能煮て流水に   一二夜ひたし 猶又 灰汁にて煮熟し 【右丁】   水を換ニ三日程ひたし苦味をとり   乾し用ゆ 〇菖蒲根 細にきざみ灰湯(あく)にてよく   煮熟し流水に一二夜ひたし悪味(わくあぢ)を   去り用ゆ 〇白朮(ひやくじゆつ)《割書:おけら|》製方 同断 【左丁】    解毒の仕方 〇諸(もろ〳〵)の草の毒にあたりたるは   粥清(おもゆ)に焼塩を少し加へ三四杯啜(すゝ)るべし 〇又方   生姜の絞汁を飲むべし 〇又方   鶏子黄(たまこのきみ)を多く飲むべし 〇又方 【右丁】   葛の生根(なまね)を絞り汁を取用ゆ乾たるは   煎し用ゆ 〇又方   黒豆《割書:二匁|》甘草《割書:一匁|》煎じ用ゆ 〇又方   藍葉汁(あいのしぼりしる)を数椀飲むべし 生藍葉(なまあいのは)なき   ときは染(こん)屋の藍汁 又 画家(ゑかき)の用る青黛(あいろう)を   とき用ゆべし 【左丁】 〇大麦麦飯 大麦麺に中(あた)り腹張煩(はらはりなやむ)には   煖(あたゝめ)酒に生姜汁を和(くは)へニ三杯飲むべし 〇小麦の毒にあたりたるは   菜菔(だいこん)の絞汁多く飲むべし 〇又方   山椒を煎じ飲むべし 〇又方   杏仁(からもゝのみ)を搗くだき湯にて飲べし  (     あんずのみ) 【右丁】 〇蕎麦の毒に中りたるは   大根の絞汁を飲べし 〇又方   杏仁 前々通に用ゆ 〇又方   九年母(くねんぼ)の絞汁を飲べし 乾たるは煎し用ゆ 〇又方   海帯(あらめ)をせんじ用ゆ 【左丁】 〇木の実瓜の類に中りたるは   唐肉桂(とうにくけい) 濃くせんじ用ゆ 〇菌蕈(きのこ)の毒にあたりたるは   香油(ごまのあふら)を多く飲べし 〇又方   生荷葉(なまはすのは)を搗煠(つきくず)し水にて飲へし乾し   たるは煎し用ゆ 〇松蕈(まつだけ)に酔たるは 【右丁】   豆腐を食すべし 〇竹筍の毒に中りたるは   蕎麦殻の煎じ汁を飲べし 〇又方   生姜の絞汁を飲べし 〇又方   生胡麻をかむべし 〇苦匏( にがふくべ)の毒に中里吐瀉(    はきくだし)止さるには 【左丁】   黍■焼灰(きびのからをやきはい)となし水にひたし上澄を   取て多く飲べし 〇野葛(  の くず)の毒にあたりあたりたるは  (  つたうるし)   鶏子(たまご)三ッ程能かきたて飲べし 〇又方   葱涕(ねきのしる)を飲べし 〇又方   甘草を煎じ用ゆ 【右丁】 〇青物を多く食し面色(かほのいろ)青白色になり  うそばれたるには   五加(うこぎ)の根を煎じ用ゆべし 〇面(かほ)部手足むくみ出たるには   商陸根(とうごぼうのね)をせんじ用ゆべし 〇惣(すべ)て毒にあたり胸甚(むねはなはた)くるしく嘔気(はきけ)ある  には吐薬(はくくすり)を用ゆ   塩湯(しほゆ)茶碗に一二杯のみ鶏(とり)の羽を口中(くちのうち)へ 【左丁】   いれ咽をさぐるべし 必(かならす)吐なり 〇腹甚疼痛(はらはなはたいたみ)下(くだ)りたき様子ならば   野薔薇実五六十粒煎じ用ゆべし   腹下るなり      毒草 〇草鳥頭《割書:かぶとばな|》  天南星《割書:てんなんしやう|やまこんにやく》  半夏《割書:はんげ|からすびしやく》 蛇苺《割書:へびいちご|》 【右丁】  射干 ひあふぎ  鳶尾 いちはつ  玉簪 きぼうし  鳳仙 ほうせんくわ  鈎吻 おにぜり  蓖麻 とうご満  野葛《割書:のくず|つたうるし》   鈴ふ里花   合食禁(くひあはせ)あらまし 〇田螺に蕎麦 荏(ゑごま)  緑豆(やへなり)に榧子(かやのみ)  萆蘚(ところ)に泥鰌    柿に蟹 【左丁】  青梅(あをむめ)に胡椒   粟(あは)に李(すもゝ) 雀  昆布(こんぶ)に萆蘚   金柑に甘藷(さつまいも)  款冬花(ふきのとう)に皂莢(さいかち) 文蛤(はまぐり)に菌(きのこ)類  葱(ねぎ)に蜂蜜    蒜(にんにく)に生魚(なまうを)  艾子(からし)に兎   木耳 山胡桃(くるみ) 豆■(なつとう)【注1】  香蕈(志ゐたけ)に海鰮(いわし) 雉子(こじ) 山鶏(やまとり)  生姜(志やうか)に焼酒(しやうちう) 大蒜(にら) 兎  紫蘇(しそ)に鯉魚(こい) 【注1】 黄大豆の黄ヵ 【右丁】      養生の事 〇歉歳(けうねん)には素食(そじき)を食するゆへ腹の空(すく)ことも  早し 二月彼岸より耕作も漸ゝ(だん〳〵)世話敷(せはしく)  なるゆへ■腹(すきはら)にて強く働くと記は脾胃(ひゐ)を  傷(いたむ)る事あるべし 蠶豆(そらまめ)粥 踠豆粥(ゑんどどうかゆ)等を拵  置三度の食餌(しよくじ)の外(ほか)朝四ッ時頃 親椀(おやわん)一杯宛  啜るべし 又八ッ半時より夕七ッ時前後の内  右の粥を又親椀一杯づゝ啜るべし 右のごとく 【左丁】  すれは脾胃をいたむる事有まじ  蠶豆粥は蚕豆を二三日水に浸し置和(やはら)かにし  鍋に入 水を能程入塩をも入能々(よく〳〵)煮るべし  踠豆も右同様に拵る奈里右粥の内へ■豆(やへなり)【注1】  赤小豆(あつき)白豆(しろあつき)黄大豆(志ろまめ)大角豆(さゝげ)裙常豆(十六さげ)稗  粟等は好(このみ)に満かせ雑(まじ)ゆべし 割(わり)麦を交れは  程よし どんく里 とこ路 飛るがほの根 菜(な)  大根の類 雑(まじへ)用るは心に任(まか)すべし 【注1】八重生 緑豆(リョクトウ) 【右丁】 米麦等なく 麁食(そしき)のみにて凌き堂る者 米に有徒き多る時一度に米の飯沢山食須(めしたくさんしよくす) べからず脾 胃をいたむるなり先(まつ)粥を拵へ 二三日粥を食し 其後飯にたき食春べし 大麦干葉(ひば)等を必少宛交(かなら須春こしつゝまじ)ゆべし 薯蕷(やまのいも)の本したると黒胡麻を等分にし 磨(うす)にて飛き粉に拵置腹の空(春き)たる時白湯に かき堂て一杯徒ゝ飲べし 飢を志のき且 【左丁】 補薬(おきなひくすり)にな流な季 【本文なし】 【裏表紙】