《題:五事略 上》 新井白石著 竹中邦香校 《題:五事略》 《割書:明治十六年|癸未五月》 白石社刊行 【朱印「白石社■」】 校訂緒言 【印「宝玲文庫」】 五事略は白石先生著書の中において伝写の世に行わる□もの最多 しとす而して善本甚少し今数本をあつめて校讐すといへとも彼此 互ひに異同得失ありて一定しかたきもの多し抑先生著述の中に事 略と号せるもの数種あり皆当時大政に関して或は御下問に応して 撰述し或は建議する事のあるにあたりて進呈せしものなり中に就 きて殊号事略の如きは正徳元年朝鮮来聘の時先生特命を奉して其 事を主議し旧儀を改正せられし数条の中再重大の件にして殊に力 を尽されたるものなるへし外国通信事略と本朝宝貨通用事略とは 長崎互市の旧弊を矯正せられんか為に已往を鑑み将来を□り薬物 の□無用の□物の為に金銀銅の多く外国に流出するを憂へし深謀 速慮に出てたるものにして当時にありては尤経世必用の書といは さるへからす琉球事略はおもふに一時御下問等の事あるによりて 草卒に筆記□□進呈せられたるが其国王歴数等遺漏もありけれは 後さらに改め正して南東志をは撰はれしものならん歟高野山事略 はかの一山学侶行人等やゝもすれは訴論を起し上裁を仰ふく事絶 えさりけれは是等の事によりて豊公以来近世に至るまて略(ホヾ)その来 歴を摘要して奉れるものなるへし然して此五種を以て一部として 五事略と題号せることは先生在世の時よりしてしかりや又は後人 の伝写輯集せるものたま〳〵此五種をとり束(ツカ)ねて私にしか名つけ たるものなりやをしらす今数本を合せ校して其善きものを択ひて これにしたかふといへとも全璧と見ゆる善本あらされは猶或は脱 誤或は攙入等の謬なからんこともまた必保ち難し視る者請ふこれ を諒せよ 一殊号事略の末に附せる朝鮮聘使後議は彼国と修信交際の事につき て別に意見を述へられしものにて元来此事略に属せるものにはあ らされとも其事の相関係せるもの多きを以てこれを殊号事略後編 として附載せる本往々これあり因て今又これを附す 一外国通信事略の跡に記載せる処の古来長崎互市の為に舶載する外 国物産は諸本これを載せさるもの多し恐らくは後人の増補せるも のならんか《割書:三才図会等に載する処|大同にして小異あり》しかれとも数本の内これを載せたるも 又少からされはもし誤ちて粗に失せんよりは寧 ̄ロ精に失せんとて今 これを記載す 一原書本文の下に分注せるもの今其活字殊に細小にして極めて読者 の眼を労せんことを恐るゝか故に本行にならひて一字を抵書す但 其短かきものは尚旧に依て分注とす 一蝦夷事略《割書:別に蝦夷志あり北島志とも号す猶琉|球事略の南島志における類なるへし》九州事略火器事略金幣事略鎌倉 事略等の如きその書名著述目録に載すといへとも世に現存するも のありやいなやをしらす社中いまたこれを得さるを以て憾とすも し収蔵【原文「𢪛(⿰扌攵)藏」】せらるゝ者あらは幸ひに借覧を許されん事を請ふといふ 明治十五年八月 校者 竹中邦香識 五事略目録 殊号事略上 日本天皇の御事 日本国王の御事 本朝異朝の天子往来書式の事 異朝の天子外国の王日本国王と往来書式の事 殊号事略下 今代外国来聘の事 外国往来書式の事 大君の御号をとゝめられし事 御号の御事 御宝の事 附 朝鮮聘使後議 外国通信事略 安南 東埔寨 呂宋 暹邏 亜馬港 臥亜 太泥 占城 阿蘭陀 新伊西把你亜 漢乂剌亜 塔伽沙古 伊西把你 亜 田弾 附 中華《割書:幷|》外国土宜《割書:於長崎交易|之品物也》 琉球国事略 異朝の書に見えし琉球国の事 琉球の国人所申其国の事 琉球冊封使《割書:幷|》朝貢使の事 琉球国職名の事 本朝宝貨通用事略 金銀銅出し事 金銀の制の事 本朝金銀銅外国に入りし惣数の事 高野山事略 学侶行人聖等由来の事 木食上人高野山を再興せし事 学侶行人両派わかれたる事《割書:附|》文珠院の事 文珠院を江戸に移す事 東照宮高野山に御鎮座の事