化物大閉口 全 【刷りの違うもの→https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_01961_0092/index.html】 【ばけものだいのへいかう(ばけものだいのへいこう)】 寛政九巳【1797年】 化物大閉口 楚満人作 豊国画 二冊 きんねんはくさぞうしに 金平がうでづくをやめし よりばけものともは だん〳〵すいび してにち 〳〵ごとう ちのはん じやうに したがひいで べきあきやしき【空き屋敷】 もなくはしから はしすみからすみまで にきやかによるはやたひみせや 二八【そば屋】のあんどんちやづけやのかん ばんにはくちうよふなれば【白昼ようなれば】 いつかうつらだしも【一向面出しも】ならず此まゝ ならばばけ物いつとうとりつゞき できがたくいがゝせんとより あひさうだんするにみこ し入道がいふはこれはくさ ぞうしのさくしやにたの みおそろしくこはひ 所をしんばんにだ してもらはゞまた〳〵 よにいづる事もあら んといへはみな〳〵しかる べしとさうだんきはまる 【雪女】 どうも つまら ねへ 【三】 此ぐろはふきや【富貴家≒金持ちの家】さへおいらを つかひおらぬ もゝん ぢいといつ てもこ どもが ねつから こはがら ねへ 【六(ろくろくび)】 此やふに しろむくが よこれ て も はりかへし さへできや せん ときにさくしやはたれが よからう京ばしはおら が事はかくめへしかわらけ まちはこじんなるしすこし こふうだか芝の楚満人は とうだらうといへばみな よから うと大 ぜいうち つれたち たづねきた りしんはんに【新板に】 いだしくれよと たのみければ なんせん【南杣=楚満人】おゝ きに ふき 出し いま じふん てめへたちの 事をくさ ざうしにだ してみたが いゝてへ〳〵人がわるくいふこつちやァ なへまづてめへたちがすがたを人がこは がると 【左ページへ】 思ふが大きなふかくたそれより 此うきよにてへ〳〵おつかなひ ものがあるこつちやねへそふ いつてもほんにしめへから しんせんざのせんせいにかりて きたおらんだ めがねを みせて なつとくさせよふ よの中の ばけものよりこはひのを みやれとぐつとちやな あいさつばけものは 大きにおもいれを くじかれさふかならば どふぞおめがねを はいけんいたし たいとみな〳〵 のぞむ 【右ページ見越しの首の下】 ちと物たのみ もふします おいらはちつと ちかつきた 【見越しの足下】 うちかしらぬ マアすこし のぞき ましやう 【ろくろ首の足下】 アイ おゝぜい では ござりや せん 【左ページ縁側】 た【誰】 そ や此 や ちうに さし たる かどを たゝくは くいなか たごし【たゞし?】 そば や か 【右ページ上、遠眼鏡を覗く妖怪たち】 サア〳〵 はやく かわり な まだ おれは ろくに みねへ なんと どうた もふ 〳〵 てめへたちは らちは あかねへ そ マア〳〵 もふ ちつと みせ な イヤ もふ 〳〵 おそろ 〳〵 【下段の顔の大きな侍たちは遠眼鏡で見られている】 アタんはへが【あた(ま)ん蝿が?】 又おらが たんなを むしる くめん だな けふは ゑび金で おひと おとを【?】 あいてに のみの しやくと しやれさ モシ それより ゆばふくわんのん まへでほしをにさせは どうでごぜへす 【左ページ、妖怪たちの台詞など】 そのときしんせんさで かりてきたおらんだの トンカラスといふ めがねをうや〳〵 しくとりいだし ばけものともに みせる もしへあのかほの おゝきなかみしも をきたのはわた しらがなかまの ものではないか あれはなんだねへ ムヽあれかあいつはいくらもある やつさそふたいかねさへできると あのよふにつらが大きくなるもんだ 又そのそはにいるそうがみがこわいやつだ あのおゝつらのおひげのちりをゑじきにして いるハテねこちらのわかしゆこ【と?】はとんだ いどふといる【?】あれもいわくかこさりやすか あれはふとざほにのせたがるからたが あれもいつまでもわかしゆでもいられねへ からやがて女になるせへんしやうなんし【変成男子】とおしやかゞ【お釈迦が】 とかれたへんしやうによし【変成女子】とは仏もきがつかなんだらう むかふからくるゐしやは【医者は】ふん〳〵いゝにほひがするけれど田丁の はんごんたん【反魂丹】いけのはたの【池ノ端の】きんたんゑん【金丹円?】でまつかうくさいのを しのぐのだがあいつもおっつけ【≒そのうち】どうぎやうでございとなるたらふ 【下段は遠眼鏡で見られている人たち】 かのてきめが【かの敵?めが】 ぬしは とんだ おゝかめ もんた【狼者だ】 と いゝ おつた それはあまり ほうへんを【方便を=ウソを】 といたによつて【説いたによって】 そふいつたろふ むかしゆかしや おれもかれらに まけは せぬ ヲーサ〳〵いゝよおれかのみこんしやあ おゝふねたとおもつていろ ぬしのはなんのよふだ けんくはでいり【喧嘩出入り】 よしわらが あづかり やしやふ あつちがは く■かや      の みせ だしか よし 〳〵 ときにもし あのむねの おふきな人 をおにのよふ なしゆが こはかるよふすだ         が ねから【根っから】おいらには わからねへがどう したこつたねへ てめへたちにはげせ まいがあれはむかしは おとこだてといゝかみ かたてはたてし今では きおひともいさみともいふがきついものよ 【左ページへ】 おやぶんたのむときくかさへことねへな こつてもかけこんでかたをつけてやる事 なんのざうさもなく【造作もなく】やれ女をつれて にけたけんくはであたまをたゝき こはしたのやれおもてをかいてうが とをるのあすこでみせびらきか あるのおみき のかう中か たのみあき たのとの一ねん ぢうあつ ちこつち からいろ 〳〵のしり をくつて いるが【尻を食う=後始末を押し付けられる】 なんと わかつ たもん しやあ ねへかこう いふ人が町中に あるととんだいゝものよ そしていやみなしの しらきてうめんだから【白几帳面だから】 それで人かおそれるが もつともさ 【右ページ下】 おやぶん おらあ あのやろう      に アヽやすく されては たゝねへか【面目が立たないの意ヵ】 とうそして くんなん し 【左ページ下】 マアわしがのをきいて くんなんしアノあま を かへ し ちや あ たゝ ね へ わ な たかしらふさ ゆふへはかこちて【託ちて?】 とつちりのみやした のんたこへて【飲んだくれて】こんや うちへはねられねへ【家へは寝られねえ】 からとけへそいかねへ【何処ぇぞ行かねぇ】 かといつたらあいつか どうめへたかうめへつた            と【どう参った、こう参ったと】 ぬかしてらちかあか ねへからわつちも いめへましくなつて【忌ま忌ましくなって】 たゝきのめし やした こんやのきやくはためになるやつだらふ それにしてももふはや きそふなもんだが わるひばんに きたなとゝ どんたこふうな ぐちこゝとをいふ おや〳〵ついぞねへおとこのろくろくびがありやすね ムヽまだ〳〵もつとながくのばすのがあるものよ めづらしからぬこつたおゐらもわかひおりには でへふのばしたもんだそれよりこつちらの ざしきのびやうぶのうちのおいらんかての いかひ【厳い】事あることをみやれせんじゆくはんのん【千手観音】 さまからあげせんをとりそふだ 【左ページへ】 あのよふなゑさにかゝるがさへご【最後】とんた めにあはせられるおそろしいてつへんだ【天辺だ】 又きやくじんのはなのたかひ事あたごやまのごとくたらう ぼう【太郎坊=愛宕山の天狗の名前】から五わりましこうまんが【高慢が】ぶらついていけねへくせに わるあなをいゝたがりぐつといろおとこのきになつであのまあ てのたくさんなおいらんにあしをつけるきになつてゐるむしの いゝまだ〳〵こゝにはみせたへ【見せてぇ】ものがいくらもあるけれども どうかおれがわるあながいゝたいよふだからよしにしやう つきあへだ 〳〵と ぬしは いゝ なんす けれ と うらに【うしろ?】 いきなん したと 宇八が もふしんす おきや〳〵 そのてゞは いかねえ そ 【右ページ下妖怪たち】 なんと みやれ 此せかひは また なを すご か ら う これは〳〵おそれ いり山がた に ぽ つ ぢ【濁点が半濁点になっている】 り ほど あつて とん だ もん だ 【雲のような枠の中、楚満人と妖怪】 サア〳〵 こゝかまた とんたむつ かしいところだ はてねへ あのこもちの かゝアはなんだねへ なんとてめへたちには げせめへがこゝは いつてきかせるまでも ねへ此つぎを みさつし なるほと わつ ちら には いつかう わかりやせん 【下段、遠眼鏡で見られている人間たち】 それでもねつ から此こが ねゐり つか ねへ おしつけ りう きやう さんから むかひが こよふはやく みごしらへを しまへばいゝ 【妖怪たち、雲のような囲みの中】 大の へこみ【?】 〳〵 アヽ いくじ ちや   あ ねへ いやもふ これをみては わたくしともは いつかう〳〵 モウ〳〵 あやま〳〵 てめへたちはあゝは ばけられます      まい 【枠の下、おそらく楚満人のせりふ】 あのふり そでのうつ くしいやつか さいぜんの三人の こもちかゝあ【前巻最後に出てきた】 たかどうた おそれるか 〳〵 【人間の台詞、和歌になっているかも】 いざさらはつきみに ころぶところまてと しばせんかうが【芝全交が】       めいく【名句】          た 【松尾芭蕉の「 いざさらば雪見にころぶ所まで」を月見に変えたもの。芝全交は楚満人と同時代の戯作者の名前】 【雲のような囲みの中】 ときにこゝはまた むつかしいあのおや ちはてめへたちめには みへめへがてあしの つめにひをとぼし わらぢをぬがすに 三十ねんほくとの ほしをおがんであの よふにはらっふく ふくれとなつて 金のうなりごへ ばかりきいてゐる それでもひよつと うちのものにての なかい【手癖が悪い】ものがあら うかとみせうら【店裏】 かつてもと【勝手元】どぞう【土蔵】 ものをき【物置き】のこると ころなく【残る所なく=くまなく】めをくば る事いくつとらふ かづがきりなくよる ひるきら〳〵ひから かしてゐるがなんと 三つ目ぐらゐはおよ びもなへこんた  ハテねへムヽウ 【左ページへ】 又こちらのはばん しうだがこいつ わるくすると よな〳〵 大川のなみの うへをわたり たがるやつた あちらのは うちのむすこ こいつゆふべ とつかいきおつて【どっか行きおって】 けさかへりて おふくろを あやなしいゝ かけんに あはせてゐる けれど おやの かほか八めん 大わうのよふた しかしまだ〳〵 おやちのかほの こはいうちは たのもしい ずいふんこのおやぢもわかひとらじまちのきはあさつはらの しやうじきそは【正直蕎麦】かしまち【河岸町?鍛冶町?】のきらずじる【切らず=おから汁】もくつた やつたかなせかむしやうにむすこにはやかましい 【正直蕎麦は浅草寺境内で営業していた十割蕎麦屋。そこで朝っぱらから食べているのは吉原からの朝帰りだという意味。】 【切らずはおからの事。豆腐と違って切らない事から。おからの汁は二日酔いに効くと言われている。】 【人間たち台詞、右ページ】 くらやしきへ にかつき ましたと しらせて まいり ました あらためて まいりま しやう 【左ページ】 ゆふべはうたひの くわいにまいつたと 申ます そふて あらう ばんには なんと いつて うちを てよふ しらん 【擦れている部分は別本にて補いました。別本はコマ1参照】 それからみさつしあのかみ様の さいごのみをもらへおちや つけにはたいのみそつけが おいしいばんのおよなが【お夜長=夜食】 にはおかづかねへならつけや【奈良漬けや】 七いろまめばかりじやァ たべられねへからいつそ かはやきかおいしからふ 此ころのうちまきは しんばかりでもたれ くるしいさつき とめがとこから【とめ(人名?)が所から?】 あとかでるとかて【あとが出るとかで?】 ばんづけをよこしたから【番付をよこしたから】 いきたへもんだねへしかし しばやもどまじやあ【芝屋(芝居小屋)も土間じゃあ】 ではへいらに【出入りに?】みかんの かはをなげるから さしき【桟敷】でなくつ ちやわるひがそれも あんまりすへ じやあばん どうか【坂東が】こう せきが【功績が】わか らねへから みはばんが【?】 いゝの 【左ページへ】 あすは三口 もらへ大し さまへゆくに【ゆかふ?】 せんどきたこそ では又きてはいか れねへかどうした もんだらうそして 此くしはもふあきたから もちつとやまのたかひ奴のいきな のがほしい此かんざしもあんまりめが たんとつきすぎておもたへのあぶらは どうして大三ろあん【太こうあん?】がいゝおしろいは 下むらのこつたけふはしやくけだから【今日は癪気だから】 あんまをよんできやばんがた にはやくしさまへゆくから てうず【手水】のゆをわかしておきやと いふをていしゆと【を?】くさ〳〵と いふやつさ 【右ページ下へ、人間の台詞】 あしためくろへ【目黒へ?】 いくまにあはせて もらへ かへちようはいろが【いうが】 きらい■■ねへか【?】 こんとの かんさしは またかへ られつ たへ 八丈のまがひ      が はやる   から いやに なつて きた ついでに したてゝ よこしな とんと もふそれか うへ なしで こ さり ます 【雲のような囲みの中、妖怪たち】 いかさま にんちうの【人中の=鼻の下の】 ながい むまれだ【生まれだ】 さぞ じゆめうも【寿命も】 ながゝ らふ うらやま しい みのうへた しのぎはまだで ござりやすが めへかんざしか できやした ばけもの どもめかね にてみれば みるほどきもを つぶしあきれはて たる折ふしいれめ いれはないればの かんばんならびに くろあぶらしらが そめぐすりかみはへ ぐすりのかんばんに いよいよおどろき 大よわりによわり なるほどおいらを 人かおそれぬはつと あやまりいつてぞ      みへにけり なんと此かんばんをみてはもふ いちごんもあるめへふつつりと【ふっつりと】 おもひきつてばけものをば やめるがいゝぜ 【看板】 かみはへくすり しらか染くすり 【看板】 入目 入鼻 入歯 【看板】 伽羅之油 【妖怪の台詞】 おれは めを一つ ぬひて もらひ たひ いくらもふ〳〵 これではなる〳〵【なか〳〵?】 わたくしともは はじまりや せん おれもめをもふ一ついれて しらうとにならふわへ しらうと ほうが をゝ こはや 〳〵 おいらが いけねへ はつ た 【楚満人の台詞】 此あとやまとやがかみがたへ ゆくかほみせの金太郎に みせたへちやうど六つか なゝつくらいにみへた せんたへてめへたちはぶふうがな なりだちつとたうせいに【当世に】 なるがいゝせ むづかしい 事かでへふいつて きかせたへかひつ かうのかきどこが ねへからこんどの 【左ページへ】 事しやう 【坊主頭の妖怪の台詞】 たゞいままで こうとはぞんし ませんでいかい たわけなき はづ かしい 【見越しの台詞】 なるほど 〳〵 人のめつたに かゝらぬうち つれだつて たちのき ましやう 【左ページ上】 かくて ばけ ものども だん〳〵 おそろしき ありさまを 見きはめて ぶる〳〵もの にて申けるは けうこう【向後=これからは】 ごとう ちにて【ご当地にて】 われ〳〵いか やうにばけ たりともなか〳〵 おちのくる事ある べからずしよせん こどもしゆまでかこはからねば さつはりとおもひきり此のちは つらだしをいたすまじとあや まりいつてぞみへにけるさくしやも すこしきのどくにてしかしそふ ばかりいつたものでもないまだ〳〵ひろい事 なればとこぞの山おくにやあすみそふな所がある めへもんじやあねへからみをやつしていつその事 ちくらがをきとやらへでもいかつしやひとやぶれ かさ五六かいとりいだしはなむけにつかわしける かくてばけ ものともは よるはなか〳〵 ひとめはづかしく まつひるまに はなのお江戸を ふりすてゝ なごりおしけに 立いづる いづくを あてとは しらねども 東海道に さしかゝり はこねの山は こへけれども それからさきは だれもしらず おゑどには ばけものゝ ねだやしにて もふ〳〵くわひものは さつはりおりま せぬから おこ様がた さやうにおぼしめせ 戯作 南杣笑 楚満人 豊国 画 ばけものをいとまこひ アヽひしやくでも         ほしい おいらが ひるなかに あるくよふな せかひになつた サア〳〵 いそがつしやれ よるはこはいそ