作意妖怨懼感心 完 天明三卯 作意妖怨懼感心 北尾政美画作 三冊   口上 先(まつ)もつて各(おの)〳〵様(さま)御子(おこ)様 方(かた) 御機嫌(ごきげん)よくおいたづらを被遊(あそばされ) 御目出度(おんめでたく)奉存(そんじたてまつり)候 扨(さて)何(なに)がな 珍(めづ)らしき趣向(しゆかう)仕(つかまつ)らんと存候 處(ところ)に御子様よりとかく 化物(ばけもの)の本(ほん)を御 望(のぞみ)なされ候 扨ばけものも毎年(まいねん)いろ〳〵 出(いで)候 故(ゆへ)此上(このうへ)の思(おも)ひつきも 御座(ござ)なく依是(これによつて)めづらしく     化物を御覧(らん)に入申候 にばなの出来(でき)候 迄(まで)は余(よ)ほど間(あいだ)御座候 得(ゑ)ばゆる〳〵と 御一 ̄チ覧(らん)のほど奉希(こいねかいたてまつり)候 其(その)ため口上(こうしやう)さよふにカチ〳〵 こゝにばけものゝ おやたまみこし 入道はきんねん ふあたりにて もはや まいねん くさぞう しにて やすく され て 入道も しれが きて 山おくへ ひき こみけれは 手したの ばけもの どもうち よつて 【左ページへ】 おやだまが そふこし がぬけては おいらがのどが ひるこれでは ならずの かばやきと 古寺のゑん のしたへより あいをつけ みな心いつち にして 入道へむほんを すゝめる 扨も入道は なかまのもの にすゝめられ やむ事をゑず 又々一くふうし て手下の内 青さぎを吉 原へつかはし ける先古ふう なれどもらう かに立て白しやう ぞくみだれがみ といふ所をこじ つけるに女郎とも 一こうこはがらず 【左ページへ】 これはならぬと いふ所にかねて手 だてやしりたりけん【?】 女郎ども一度に大ぜい おりかさなりついにはか なくいけどられきり 取にされ色客のきた ときのたのしみとなりけり 【右ページ、縄を持っている女郎の台詞】 はなし なんす    な 【左ページ、青鷺をおさえる女郎の台詞】 しばつて つかはしんせう 【左上、女郎の台詞】 めづら しい  ばけ やうで おざん    す あきれも しなへ こゝにあるやまし 江戸にては近年 何もあたりをとら ずせんかたなく いなかをかせがん と江戸を夜 にげにして とある山道に かゝりしに日は くれる心ぼそく ものさびしき 折からかねて入道は 此所にまちぶせし て旅人を なやま さんとかの なまぐさ き風を ふかせけれ□【ば】         はや くも見 つけ なんと せん せい【先生】見せ ものに出る気 はないかといわれ さすがの入道もあきれ うか〳〵して 【左ページへ】 だきこまれては たまらずとそう〳〵 にげかへりける 【右ページ下、旅人の台詞】 おやかた とんだもうかるぞへ 出て見さつせへな 【左ページ】 古ふうたが もゝんぐはァ 【「ももんがぁ」「ももんじぃ」は化物が人をおどかす時の掛け声】 やしきがた【屋敷方?】 よりまきものをたの まれなにがなめづら しき図をとあんじて 居る折からばけ物 の方でも此ごろは何を しても人がこわがらぬ ゆへあたらしい所を見せ つけんとひどひくめん で出た所がゑしは是 さいわひ とぢきに 生うつし にいたし    ける 【左ページ】 ちつとそうも ■ざるまへ 入道は一通りやつて みた所がすきと 人がこはがらずてら されてばかり 居るゆへむかし とはきついちがい なれば先世の 中のありさま を見んと  日よりの よひ日に  くもの上 から世の  中を一 見する こちらの  げいしやも よいとし  じやがまだ まゆげを  ひいて居る ばけものゝ  世の中    じや 【左ページ】 先一ばん□ はり物や にてはもん をぬき 古物を あたら しくし とうざん【唐桟留=縞模様の一種】 とめはす わう【蘇芳】で色 をまし 地のわるひは たゝいてな をししみ のあるそら いろが ふり そでの おもてと ばける 花の お江戸 のはん じやう ははつ かつほ が四貫 しても 五貫し てもか まはず かつて くふま ことに たこくの人 のしわい目【吝い目、しみったれた人の目】 から見ては せにの さしみ をくふ やうに見 ゆるなり しかし此れ たかひので なければ初 かつほでは ござらぬ 【左ページ上】 川柳沙【抄ヵ】 の評に その 直(ね)では 袷(あわせ)を 着(き)る   と おやち   いひ 入道も此 やうすを みてさても つよきは 其なりと【?】 あきれる 【右ページ台詞】 さてもあたら しいは 【左ページ台詞】 サア やりなへ かつを〜へ【長音記号を波状に書く表現?】     〳〵 【かつをゝゝゝゝへ…と母音を繰り返して長音を表現したものか】 四月は あわせと いへとも たくわへ なき人は こそでの わたをぬく とたちまち あわせとば ける人が見 とがめてにた【(昨日の綿入れと)似た】 小もんだと【小紋だと】 いへはぬから【言へば、抜から】 ぬかほでアイ【ぬ顔で、アイ】 一ぴきかつ てあわせと 小そでと にしやした と人を   ばかす 【男の台詞】 すこし たけが つまつた     の 【その妻らしき女の台詞】 うる  さひぞ    〳〵 【左ページ】 今まで けんぼう【憲法小紋】 小もんと 見へしは こびちや がへし 花色か 黒【?】に なるみな それ〳〵 にばけて 又一度〳〵 せけんをはる もみ な人 のく ふう なりこの ごとくいるい もば ける やぼな客が くるとかわ いゝの女房 にならう のとくう ゆへこれ も又人 をくう なるべし かねも よこさず に長ひ ふみだヨヲヽ 【左ページ、遊女の台詞】 明日はおなかしの【?】 おいらんをおつれ なさつてむかふ嶋【向島】は とふでこさります 【キセルの男の台詞】 いゝ  所だ 【お膳の下、台詞】 だんなへ けんじ ます 【本文】 又ちつと きいたふう の客はたま 壱分も はなを やるともう □【大ヵ】じんの気 になつてむ しやうに大きな 事ばかりいつて きせるを上だんに かまへてけむりをふくと とんだ大きなつらになるも おそろしき事也 入道はくもの上から つく〳〵 さとり うか〳〵して居 ならはけつく【結句、結局】 此方かはかさ【此方(こちら)が化かさ】 れんしれす さらば一しあんと 夫よりすり物 をこし らへ一世 一代の会    興行する 【台詞】 いつれも 御たいき でこさり    ます 【左ページ】 すてに その日に なれ茶やの 表に一世一代 せきばけ仕候 とはり札を出 しけれは何が おしみの入道か 事なれはきつね れん中はまくその せいろう【蒸篭】馬の小へん【小便】 のこもかふりおひ たゞしくつみける にぞばけなかま われも〳〵と 気をはつて 下札の せきの ないほと くんじゆし     けり 【左下、台詞】 サァ お通り なさり ませ 一世一代の 会しゆび よく相つと めけるにお びたゝしく 金子あつ まりければ 是にてばけ ものやしき 四五ヶ所も かひて今は 入道も心 おちつきて まことの 楽いんきよ にてくらし ければ わけて ことしは めてたき はると いく久しく ことふき    ける 北尾政美画