親父布子鳶握 【検索用:市場通笑/いちばつうしょう/おやじのぬのこをとんびがさらった】 【刷りの違う本:https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100053335/viewer/1】 親父布子鳶握(おやぢぬのこをとんびがさらつた)上中下《割書:奥|村》 こゝに松屋喜兵へとて ざいもくしやうばいにて せがれ壱人もちけるが いたつてしつてい【実体=実直】にて しやうばいにせいいだし すこしのものもそろばん はなさずはたらく故 手代のこらずせい いだしなにくらからぬ しん だい なり 【この先は刷りの違う資料で確認】 おやしきの たてまい すみましたか 〽喜三郎さんあし たのしことに たのみ やす むすこのかたき【気質】にひき かえておやぢの喜兵へ あそびずきにてよる ひるとなくたのしみ おやぢの事なれは いけんのいゝてもなく うまいものゝおやだま にてしやうぎもすき なればごもすき にてつりにもでれは しはいへゆき【芝居へ行き】 すこしのまても ゆだんなく あそぶ事にて いちねん ちういそ がしく くらしける けふはふきや丁へ【葺屋町へ/丁の文字は横棒が消えている】 ゆきますしはいへ 【左ページへ続く】 ゆくにへんとうがいるものか あれはなにのためのちややたと おもふ 【葺屋町には中村座などの芝居小屋と芝居茶屋があった】 よめの おむ め も しごく よき物 にてへん とうを 【左ページへ続く】 あけま せう と いふ 喜三郎は ばんにねんぶつ こうに【念仏講に?】 【このあと七行ほど大きな破れあり、別本で補う】 御【?】出なされて くだされと いへばきが     ない といわれて てまいはか     きやう【手前は家業】 いそがしく みやうだい をやる 喜兵へはしばいより うちへかへるはつふへ【費え:無駄】 とすぐにのみなを しにゆき内からは 小袖をもたせて むかいをたせども さきからさきへ ののくりあるき ふところには なんりやう いつへんもなく かんじやうは いくらでも 見せへとりにやれと おいりやうしだいの 大さわぎ 【台詞】 ちよ一か【千代一が?】【ちよいちり(千代一里)?】 ちよつと【「ちょいちょっと」「ちょうちょっと」のような囃子詞か?】 これ を こふもつて かすみにつきは どでごん す おもんや もつと だれぞ よひ に やり なへ くめさん あんまり あたら しい【あだらしい=色っぽい?】 くつて むしか ゑヱの【機嫌がいい?】 ついぞ ねヱ【いまだかつてない】 ゑ 【あたらしい=あだらしい、ならば色っぽいこと。濁点がないため新しいかもしれない。】 【虫がいい:明和之始めごろから深川の岡場所で「利己的」の意味にも使われ一般に定着したが、もともとは機嫌が良い(ムシの居所が良い)の意味だったという】 喜兵へやふ〳〵とうちへかへり たま〳〵うちにいるおもへはこゝろ やすきものをおふぜいあつめ むぎめしなどをたいてふる まいさかなやへ 人ばしをかけ こゝろまかせにた のしめともうちに いればよめもむすこも よろこひすきしだい【好き次第】 にしてほふそう【疱瘡=伝染病】 とふぜん【同然】にとり あつかいける 【疱瘡の病人をあつかうように遠くから見ているということ。家にいてほしいのであえて意見しないということ。】 おさむ【破れを別本で補う】 かろふ【破れを別本で補う】 おは【破れを別本で補う】 をりを【お羽織を】 めし ませ【挿し絵で羽織を着せかけている】 なんといつれもさいぜんから きがつきました山へても【気がつきました。山へでも】 太郎へでもまいろふでは 御座らぬか 【山はもくろみや計画のこと。囲碁をしているシーンなので、あなたのもくろみはお見通しだが乗ってあげますよと言っている。また山は富岡八幡宮の境内にある二軒茶屋のことでもあるので、「山へでも太郎へでも行こうじゃないですか」と洒落ている。太郎は葛西太郎の略で、向島にあった川魚料理店のこと。】 おがさわりう【小笠原流】 めはちふんにて【目八分にて】 さかづきをもち いづる 【台詞】 しやうはく【しやうはく老(人の名前)?】 らうもし こんど【もし今度】 ごとこ ろで【碁所で】 のごが【の碁が】 いち ばんに【一番に(ひと勝負に)】 三日かゝると【このあたりからかすれている。別本で補う。】 申がそれから 見れはこの ほうとも【この方ども(この人たち)】 はめい じん【は名人】 一日 には 三十ばん□ うちます しよく人 にでも なつたら よいてまを【良い手間を=良い報酬を】 とりませふ けふ【別本で確認】ばかりおふきに やすきあそひにて きんじよのものふたり つれにてつりにゆくを 見て喜兵へもつれたち ゆき三百の舟ちん ひとりまへか百つゝ しな川のおきへ ゆきついに はなしにも きかぬ事 喜兵へおふ きな事 ぶりをつり あげみな〳〵 きもをつぶし けり百のわり合 にてぶり一本 つりあけしより 百ぶりとて 此所へおび たゝしく つりにゆき はやりけり又 おきづりの きらいのものは その百ぶりと いふなにておか つりかでき【百鰤を釣ってくると言って女漁り(陸釣り)ができるので。品川には遊廓がある。】 殊之外 はやり けり きばの おやぢで あア つかも ない 【この本では完全に破れているが、別本には右ページの舟の下に船頭の台詞がある。】 うつ ちやつ て おき な さい た網【たも=手網】  を やり  ま せう【そのままでいてください、手網であげましょう】 ふり一本つりし いわいがなしみの うちをそう じまい【総仕舞い】くじら 一本かいし ほとかねがかゝり ちや屋ふな宿は いふにおよばず ま事になゝ さとのうる をいなり【「鯨一頭七里の潤い」という言葉がある】 かごのしゆ しつかにやつて 下されせけんの 女郎かいのやうに いそぎはせぬ さかてはのぞみ しだいじや 一日かゝつても だいしない 松屋のうちの十四日 晦日あそひさきの はらひいくらあつても かきつけにてわたし はぎん壱文でも のこらすはらひ とりに来たものには 壱分つゝのはなをやり うけとるものもあき れはていかさまざいもく やの事なれはかねの なる木があるかも しれぬとのうわさ也 新八 とん ます や から ちよ きて【猪牙で=猪牙船で】 いかふ のふ やふ〳〵せつくを だんなのつもりに あつちをへんがへ【変替え=解約すること、変更すること。約束を破ること。】 いたしました 喜兵へひゞ〳〵に あそひにてうし 金のやまでもすこしひくゝなるくらひの 事喜三郎はおやの事ゆへたとへしんだいを いれあけてもかまわすいつけちう【一家中】 より合たとへおやの事でも事による ごせんぞへいゝわけたゝぬ喜兵衛とのゝ しだしたしんだひといふではなし なか〳〵今いけんいふてもきく まひこゝがそふだんざいしよの あねごのところへやりいけんせは なんぼてもいはい【違背?】はなるまひ その つもり と そう たん きは まる せけん の とし より の ため じや まづこら しめの ためにうま くないもの も よふござ ろふ いなかへ おいで なされたら ごふじやうで【ふじょう=不自由の訛り】 なるまひ それがもふ しんきだ【心気だ=しんぱいだ】 しんるいの うちのちゑ じや【知恵者】いなかへと いゝだしても ひとゝをりでは いくまひと おもひさいしよの【在所の】 あねごのたいひやう【姉御の大病】 とにせじやうをこし【と偽状をこしらへ】 らへ 見せければ これはゆか ずはなる まひ あしたの やくそくが あるかよくいつて やつてくれと そう〳〵たびの したくして たちけり ずいぶん ごきけん よふ 五なしの【?】 たびても どふか よくない ものじや あしたはそふ〳〵 むかいをたして くれせつくの しまいがある からせひかへら ねねばならぬ【別本で確認】 〽おむめ【お梅、息子の嫁】は下女の いもをかふをきゝ おやは いや おやは いやと ゆふゆへ わが 身のうへ に ひきくらべ どふも せけんへ きの どく と おもふ いもやとの おやは いやよ 【芋屋が売っているのは里芋。里芋は種類にもよるが主に子芋を食べ、親芋はあまり好まれない。入っていると損をした気分になるので「親はいれないで」と言っている。それを聞いたお梅が「みんな親にはくろうするのね」と気の毒がっている。】 喜兵へはあねのひやうきときゝさいしよへ ゆきしに あんにそふいして【案に相違して】 八十にちかよれども ずいぶんじやうぶてびん〴〵と する事あたかも 十四五のむすめ のしりを つめりしごとくにてきもを つふす【別本で補う】さて〳〵こなたは どふしたものじや くわしくふみて きいたがどふいふ てんまの見いれ【天魔の見入れ/魅入れ=魔物にとりつかれたようだということ】 じやあまり きのどくゆへ むすめ も むこも ほかへやつて いけん する まあ 江戸へは かへさぬから そふこゝ ろへて いやれ と 大の かふり なり 喜兵へは あねの いけんに ほつきして おもやのわきへ すこしのいへを つくり 江戸へかへる きをやめて しばんまで【じばん(襦袢)まで】 もめんと なり きくを【危惧を?】 するに およばす おいのしん だいゆへきくなど【老いの身代ゆへ菊など】 つくりたのしみ あたゝかゆへぬのこを ぬいでおきしを なにとおもひてか とんびさらひ ゆく 子共大ぜい 見ていたり しが おや じ ぬの こを とんびがさら つたとはやし それ より 今に いたる まで おやぢなにと やらをとんびが さらつたとおかしき 事をいふはまち がいなりとふもさら われるはずは なし おもやのわかいものどもぬのこを とんびがさらいしときゝ おつかけおいまわしやふ 〳〵とうらのゑの木に いる所をたゝきおとし より合てけをむしり けり大ぜひにて たゝきしゆへむらさきいろの あざかできむらさきににたいろを とびいろといふはこの いんゑんなり 〽いのちをとるな ぬのこがかへれば よいなんぞくめんの わるい事があるも しれぬ けを 大ぜひ にて むし りし ゆへ けん けを むし る と いふ なり とんびははねをぬかれしゆへ とぶ事かなわずこまり はてはごろものうたひを おもひいだしはねがなくては ひぎやう【飛行】の道もたへ てんじやうにかへらん 事もかなふ まじちに またすめは げかいなり とやあらん かくやあらんとかなしめば きのどくにおもひ はねのはへるうち おれがところに いそふろうになり給へ 【能楽の『羽衣』の謡い。「悲しやな羽衣なくては飛行(ひぎょう)の道も絶え。天上に帰らん事も叶ふまじ」「地に又住めば下界なり」のパロディになっている。】 あぶらげをふる まふからずいぶん はたらき給へ とんび ともたちの事を おもひだし ありがたやまの かんがらす と よろ こぶ 喜兵へは まへにはひきかへて いなかずまいに身を こなしとんびをも へやこにおきりやうり はさかい丁【堺町】かよいの あしたましそふへ【?】 ゆくのといゝしものが 米のめしもやめて むぎめしとなり すましじるにてして やれともとんびはすましが きらいゆへとろゝしるにてくわせる ゆへとんびとろゝといふ事は此時よりはしまりける【とろろ=鳶の鳴き声】 こなたのいるで ねづみがなくて よい いなかすまいとは いへどもまちばにてむかふの うちがとうふやにて むすこのとんひかへらぬ ゆへおゝくのとんひ 来りかなしむやけのゝ きゞすよるのつる【焼け野の雉子、夜の鶴】こをおも わぬはなしこのとうふやを たつねるにはやねにとんびの いるうちといへはちかいはなし とんびははねが なきゆへかへる事は ならずいつしん ふらりはたらきしが 喜兵へもしごく おもしろくなり 人を大ぜひかゝへて さく【作(農作)】をはじめとんびを はんとう【番頭】にして さくの せわを させはた けのま わりを くる〳〵と まわる けふも とんびとのかまわる からひよりがよいと いゝならわせけり 喜兵へはたん〳〵と もとでなしに しんだいをしあげ 大ぜいのくらしに成 しゆへにふしん【普請】を ひろくたてなをし むねあげにておびたゝしくさけさかなを ふるまいとんひは下戸ゆへ もちをくいへいぜいは とろゝがすきとん びとろゝむねあけの もちが二十四五たりぬ と今にお子さまがた のくちづさみ とは なり けり かふけづ つては さげなわ がゆくまい 【削る:大工の隠語で飲酒のこと】 【下げ縄:大工の隠語で蕎麦のこと】 【「こう深酒をしてはシメに蕎麦を食えないな」くらいの意味か。】 とりけだ ものとは いへとも うしは ねかい【願い】 から はなを とをす とびは はねが ほしい 〳〵 と ねかいしゆへ はねかでき喜兵へは かねがほしい〳〵と ねかいしより金が てきおもふ事も ねかはぬはそんなり とんびきん〳〵にもと のふるすへかへらんと おもひさきへたよりを したくとんひたこと いふものをはしめて こしらへじやう【状=手紙】を つけてあげ けんとんひ たこのはじ まり なり 喜兵へも くふうして ひきやくを たすも まちとふ【待ち遠】 なればやつこ たこといふ ものをこしらへ 是にしやうをつけて やりやつこをつかいに やるはよきしかふなり おやりごめんはすこし ぶゑん りよ なり 【御槍御免:長い槍は凧揚げの邪魔になるから御免だという意味。子供が凧揚げの際に言う決まり文句。たこたこあがれのようなもの。それが無遠慮だとする理由は不明】 たまを やりま せう 【だまをやる=凧が急にあがった時に糸をのばすことを言う。】 喜兵へはいなかにてなれぬ事 てもいつしんふらんとかせぎだ し大かねをこしらへ江戸の たな喜三郎にて見せを ださせたかせ壱そう【高瀬(舟)一艘】こし らへこくもの【穀物】しやうゆ【醤油】をおくり ざんじのまに大しんだい 本店のざいもくのほうは やまをじしんにはてきらせ【?】 いろ〳〵ひやうばんもざん じのあいだにとりかへし さいくはりう〳〵しあげを ころふじろ くらへ やり ますかへ おちや まいれ もちが 五百 しやう づ【小豆】が 七百 かの 松屋の家とみさかへまつはときはの【松は常盤の】 いろまして【色まして】むすこの喜三郎にきやう くんしておれが今までにみもちはその ほうがためなりわかきうちは りやうけんなしにしんだいも しまふずいぶんとおとなし けれどもそこかおやの よくもしやとおもひ てとふらくのせんを こし金はつかゑと 人をたをさず こゝろでしまりを してたのしみわかき ときはかけひきなし たのしみは六十から人のそし りもなにもかもみなふうふの ためまことにかんるいきもに めいじむすこのかふ〳〵【孝行】よめ のしんせつとゞき〳〵て三福神 目出度はるの永〳〵しき 物かたりなり 千秋 はんぜい めて たふ ぞん じ ま す 通笑作 清長画