飲中八人前 飲中八人前 通笑作 清長画 もちの よき ものなり その かけんに し まし た おかげ さま て じゃき は さり ました 【以下かすれて読めず】 通玄女ぼうはしんだいにふそくは なけれども一子なきことをつね〳〵 おもいいんぐわぢぞうさまへ 七日まいりをしてまんするよに 大き なる おとこ 五升だるを かつき たるを ゆめ に みる ぜんさい〳〵 われはこれ なんぢがせんぞ かまくらにかくれなき 五藤兵衛【?】なり なんぢらこのなき ことをかなしむ ぢぞうそんの おふせによつて ふたゝび なんちがはらにやどると ゆめみてくわいにんするぞ ふしぎなり 【女中の台詞】 ごしんぞうさまはきつい げしなりやうだ【御寝なりやうだ】 七介どんしまいなすつ たら 下むらへ いつてくんなよ ほどなに一子をもうけなを宗之(そうし)と なつけうまれつき きれいにて いとけなきときより 通玄とはちがい さけをすき おやぢのまへては ゑんりよゆへ だいところで めしのたひに してやりけり はゝいろ〳〵 とめれども なか〳〵 き【こ?】りず まことに これが しやうちう こぞう なり 【子供の台詞】 これは あま くちだ から よいはな そのかわりに がくもんはみるも きらいなり 【左ページ】 そうしかはゝ大しゆをあんじ あさくさのぢそう寺へ ぐわんをかけとうそ酒の やみ ます ように なされて 下さりませあのやうに すきますはいんくわて ござり ます 【参拝者の台詞】 おろさんぢそう【?】 さんはきついおまいりでござります なむあみたふつ〳〵 そうし みめ くりの【三囲の】 へんへ あんじつを【庵室を】 こしらへ つねに みろく ぶつの ゑを とこへ かけ此ほと けもさけ すきで あつたけなと【あったげなと?】それ ゆへおれはこのほとけを さかなにしてのむといふはまだしもやすき おもひつきなり こゝろやすきそう四五人あつまり酒もんとう はしめる 「聖(せい)とはすみ酒の事なり 「賢(けん)とはにごりさけの事なり 「氵(さんづいに)酉(ひよみのとり)天(てんニ)口(くち)一人(いちニン) 一口(ひとくち)とはいかに 酒呑一合(さけいちかうをのむ)とうんぬん 【返り点を打つとルビをふれなくなるみたいなので省略しました。】 【挿し絵中の「醉中往々愛逃禅(酔中往々愛逃)」は杜甫の『飮中八仙歌』の一節。「飲中八人前」というタイトルの元ネタでもある。】 そうし けん ざけ にて しゆつけは のみたをれ けれども てまへはだい じやうぶにて せいろうへ【青楼へ】 のり かけ ゆく 【橋上の通行人の台詞】 だん なの にほひ で さか ては いらぬ 【船頭の台詞】 大川ばしへ きやした とりかぢよ 【宗之の台詞】 すらァ はやい の 【遊女の台詞】 わつちも のりんしやう 【本文】 それよりせいろう【青楼】にて にわへいけをほりいくたる ともなくさけをいれ 大さかつきをうかめ 女郎かぶろしんぞう げいしや八人のつて 大さわぎまことに これが さけびたし なり 【左頁下】 たち なんすな あぶなふ ありんす つうげんはせがれの 大しゆにてみ もちふらちの ことを あけくれ いけんすれどもきゝ入ぬゆへ かんどうせんとおもふおり ふしさはに【藤沢に?】万右衛門といふ ずんとやぼでないらうにん ありしがつうげんとはこゝろやすく このことをきゝきの どくにおもい 御くろうには【ここから浪人の台詞】 ご ざ らうが 金子 五十両 おだし なされ 【浪人・万右衛門の台詞】 さつはり さけの やみます やうに いたして しんぜ ませうと うけやう 【通玄の台詞】 なをりさへ いたせば あれも しやわせで ござり ます 万右衛門は大しごとをうけやいおびたゝしくりやうりを いひつけそうしをよんでふるまいが しゆかうなりいりさけ【煎り酒】のにほひは 二□町【二丁町?】のしんみちの かほみせの ごとくに やりか ける 【台詞】 ときにこ【?】 なんでか あつた よしの山 〳〵 いつはいのんで いきな はまやきは ちいさくはぼざり ますまい 【左ページ】 そうしは万右衛門かたより ごしゆ一つしん上にゑてに ほうあげてこくげんより はやくきたる 【宗之の台詞】 さくじつからのたのしみ せんばんありがたふぞんじ ます 【万右衛門の台詞】 これはおかたい さあ〳〵あれへ〳〵 宗之ははじめのうちははなはだ いんぎんにてだん〳〵と大さかづきにて ひつかけよにいるとにはへおり きよくば【曲馬】のまねをしてさわぎ あげくのはてはいけへのめりこみ たわいなしになりしを 万右衛門ははかりことの とをり □【に?】 なり ゑ たり と おもひ いけより ひき あげ あたまを くり〳〵 ぼうずに して しろき ほぐそめの【反故染めの】 ひとへ もの をきせ かごにのせ りやうごくの ひろかうじへ すてる 【台詞】 ついぞ ねへ どう しやうの 【宗之、馬に見立てた箒にまたがり、台詞】 はい〳〵〳〵〳〵 そうしは りやう ごくに すて られし ことは しらず よ ふ けに なれば さむく なり よいは さめ めを ひらき みれば びやう〳〵 たるはら ほしの【?】 かげに すこし てみれ ばしろき ひとへもの あたまを なでゝ きもをつ ぶしさては 万右衛門がふる まいにいけへ おちたがその ときしんだと みへたさて〳〵 わかしにして かなしや〳〵と あたりを みれば くるま あり これが おとに きく ひの くるま なるへ し ぢごくもひのやうじんがきびしいか【?】 してひのかいなしいかゞはせんとうろ たへあるくとしのころ四十ばかりの 女まつしろにおしろい付もうし〳〵と いへばさんづがはのばゞのむすめと おもひ此ひとへものをはがれては ならぬとにげまわりむかふのほう よりすみごろものそうこれこそ 六どうのぢぞうぼさつとおもひ わたくしは おやにふかうをいたし ました ものなにとぞおたすけ なされてくださりませ わしのぶつしやう にでる ものだと ころもを ふりきり いそぎ ゆく 宗之 はあた りを うろ 〳〵 ま な こ 七つ ごろ より はや おきの かぢや とは つねしらずふいごのおとをきゝつけ とのすきまよりのぞきみれば あかをにあをおに ともみへずひのそばにたち はだかりとらのかわのふんどしも かんりやくかして はないろのもめんふんどし きもたましいもうばわれ けるおりふし万右衛門は ゑたりとおもひめばり づきんをひげとなし はをりきう すへる□□【すへるやう?】にきて □□しやのせつかいを もちつくりごへ にてぜんざい〳〵 われはこれゑんま 大わうなりなんじ しやばにて 大しゆをこのみ ふたおやにくろうをかけしゆへ 大ねつかんちごくへおとすなり 楞厳経曰(りやうごんきやうにいわく)人にさけを のますものは七百しやうが【飲ます者は七百生が】 あいだてのなきものに【あいだ手のなき者に】 うまるいわんやのむ【生まる、いわんや飲む】 ものにおいておや【者においておや】 なんにうまれ□□ しれずなんじしやばへ【知れず、汝娑婆へ】 かへりたくおもはゞ ぎやうこう【僥倖】 さけをおもひ きるべし いかに〳〵 【宗之の台詞】 なにがさて 〳〵 かしらを ちにつけ ならづけでも たべますまい なむあだ ぶつ〳〵 そうしはめをてぬぐいにて つゝみおにのとりあつかふ ようにめくぎ【?】にして たかいところより おとしたるこゝもちに おもはせつうげんが うちのひやうぶの うちでてぬぐいを とればよみかへりし こゝちにて大きに よろこびかないも 大きにおどろきたる ていさて〳〵万右衛門 どのゝふるまいに いけへおちたことまでは おぼへていた それからちごくへ おちておそろしい めにあふたこぢきの ゑんまがいふとをり ぢごくもい□う こんきうとみへた こんどしんでも いく とこじやない さけはふつつり やめて おとなしく なります 【台詞】 さて 〳〵 おそろ しい ことの ぢごく とやらには かとふ【?】があると 申が そうか 万右衛門 しゆびまいつて よろこふ おや〳〵〳〵〳〵 これは はらのかはだ 〳〵 それより宗之は 酒をふつつりおもひきり がくもんをせい いだしおやにも まさるほど のがく ゐ【学医】となり くすりのきく ことしんのごとし ふろうふか【?】といふぐわん やくをこしらへしよにんにあたへ ければそのゝちびやう人といふは 一人もなしてまへのくばりし とそざけも一くちものまず 四日ばかりかゝる れいをさけが やんだゆへ二日に まわりはるの日の ねむけ ざましに 御らん くだされ かし 申 入 ます 通笑作 清長画