【表紙】 【白四角内】 狂歌四季人物   《割書:一立斎廣重画|    壱 【左下隅に1】 【右丁】 HIROSHIGE (1855) KYOKA SHIKI JIMBUTSU 7 volumes bound in one preface ANSEI 2 (1855) (R. Keyts?)【文字不鮮明】 【左丁】 人物の文字を外題に呼ふは絵師の著述を紛らはし けれと画を以て無聲の詩とし詩をもつて有聲の 画とする唐人之戯れはしらされとも画家のためには ひとつの幸福なり爰を狂類四気人物集と号るは当時 外に類ひも中はしの先生宮齊ぬしの画言に尋ね ても亦となき黄金のわらしはくや町なる天明調 の棟梁 盡語楼大人のすみかねにてなれるものなりそもこの集は 家作りの夏をむねとする教はいふへくもあらす月雪花を 【右丁】 兼題の人物に配当なさは図とりの面しろき事必せり さなから見るに目新しく画組のよきは集冊の幸ひ 此上なしとやいはむおのれ春の人物にて気の長かるをいか に冬の人物とたかへてや老人の気短かく急るゝまゝに只 ひと言をしるして其ことわりを述るになん                六朶園    安政ふたとせ        卯の春 【左丁】 狂歌四季人物諸初篇    天明老人尽語楼撰  兼 汲若水 年礼 万歳 吉書始 宝舟売 白酒売  題 鳥追 太神楽 手鞠娘 凧上ル 鮓売 払扇箱買   当座 《割書:語安臺有恒主人|馬遊亭喜楽主人》 判      《割書:信濃者別  絵馬商人》   《割書:画|工》 立斎廣重先生 【右丁】 汲若水【朱囲み】【以下右側から上下に分かれている歌は上段下段と明示】 【上段】 鶯のはつ音きゝつゝ  あらたなる月日   くみこむけさの  六朶園       若水 わかさりの  ふりわけ髪や  銭の屋   うつるらん    をさなき     春に汲る若水 【右歌下段】 浦嶋の太郎月とて  腰みのをしたる   手桶に汲る若水        瀧のや清麻呂 【上段】 去年の秋朝かほゆゑに  手もかけぬつるへに   蝶那言   汲や千代の若水     澄兼 井にうつる星の影くむ若水は  さの  清きを祝ふきり火なるらん   子日庵                   松彦 【下段】 門松の下くゝりつゝ  くるま井の海老錠  在明亭   あけてくめる若水    月守 【左丁】 【上段】 一日てかたをつけんと  袴まてはしよつて  勇々館   まはる春の門礼    道竹 【右下段】 とし玉の扇をくはる門礼に    きる裃も末広の形          いせ松坂            菊の舎露満 【上段に戻る】 目出たいといへは   スンフ  礼者もめてたいと   望月楼   出喰つみの山の       こたまか 松とれて碁はん 割地に年礼のためをも    さしてありく春の日         鶴告亭夜宴 掛与の鬼の宅へも  年礼に供をつれ行     桃太郎月        俵舎 【右下段】 御慶そとあふむ   かへしの訪ひこたへ    黒鴨供につれし         年礼           鶴のや             松雉 年礼【朱囲み】 【右丁】 万歳【朱囲み】                スンフ 万才の素袍の紋もたきめうか【注】 東遊亭   馬鹿けた顔を見する才蔵     芝人 【注 抱き茗荷=紋所の名】 万歳のひらく扇に  撫子の笑ひの種も   けさや蒔くらん        六朶園 万才の柱算ふる   つらかまち皺の   緑樹園    杢目もみえてをかしき 【以下上段中段下段の順】 雲の上にめされて  千代をほきぬらん   羽袖ひるかへし舞ふ           鶴太夫          無窓園敏住 万歳のかそふる春の   柱立胴突聲も    出す才蔵      草のや        富芳 三河から八ツ橋   こえて国〳〵へ    蜘手にわかれ     出し万才      都柳園守安 【左丁】 【右上段】 元日も済んで二日の  かきそめに箒の   勇々館   筆も遣ふ大文字   道草 【右下段】 長屋流習ふ子ともは上杉の   馬遊亭    内職筆をつかふ書そめ    喜楽 豊うけの神代の春はいねあけて   今日書そめに遣ふわら筆  梼の門 都路の筆のあゆみに   たるき子へ師は     あへ川【安倍川餅】を出す書初        鶴告亭夜宴 する墨の硯のうみに   ひそみけん龍といふ字の       子等か書そめ         文栄子雪麻呂 筆のさやぬく手もみせす高麗劔  仁宿迺    今日書そめにつゝる唐やう   阿都麿 書初【朱囲み】 【右丁 宝舟売【朱囲み】 初夢の種  もちあるき    勇々館   喰ひぬらん     道草    宝船うる     はみ〳〵        親父 一枚は中より  見出すえひす紙   にこ〳〵歩行【あるく】 楽々亭       宝船売       琴樽 宵のうち何万艘も宝ふね  うれる江戸こそ大湊なれ           スンフ松経舎 【右歌下段】 大としの灘を      芝口や  首尾よくのりこして   声もゆたかな宝舟売 【上段に戻る】 板行になしたるやうな  商ひのなみのりを    みるたから船売       松月亭繁成 【右歌下段】 宝船売し財布も滿汐と   見るはかりなる銭のうら浪            菊の門久盛 【左丁】 柄杓より長くたらしてはかり売  声まて細く呼る白酒          和風亭            国吉 【右歌下段】 商人かへつらふ口も        松梅亭   うすつへら【うすっぺら】硝子徳利 槙住        はかる白酒 【上段に戻る】 するか町人穴しのふぬけ裏の   前にひさける不二の白酒           雖園美鳥 白酒をこめてひさける  硝子の元も薄手な      春の商人        花輪堂         糸路 おまへのはよい  白酒と陶をも   たらしてそ買ふ    うら店の者   文語楼              梅実 山川をたこ【たご】に荷ひて  ひさき来る聲もたかねの       不二のしろ酒  綾の門               ■【竹に冠】丸 【右歌下段】 芝居の白酒売【以上囲み】を写候は 画組をよくせんため也 兼題にふれ狂哥に     立斎 付さる所はゆるし給へ 白酒売【薄黄色囲み】 柄杓 【右丁】 鳥追【薄黄色囲み】 高輪に海上  はるかと鳥追の   唄うたふ声のそく       武者工窓         伶月舎 【右下説明】 先会倭人物に女太夫 門付女有て姿似より たれは此鳥追は古代の さまを模写するなり         立斎 【上段】 鶯も雀も  来なく軒へ来て   百さへつりに    ましる鳥追       板ハナ六源園            寿々雄【この字コマ4の62行目にも出ていますが「雉」にも「雄」にも見えます】 飛〳〵に潜る  場末の松かさり   風柳庵   鳴子の方は行かぬ   舛丸         鳥追 【下段】 餌さし町鷹匠町も   おそれすにこゑ    万時庵     かしましく唄ふ   拍木           鳥追 【上段】 かゝる世にあふむかへしの目出たさを   いふ門礼のあとに鳥追  いせ松坂               芦花楼汝友 【左丁】 太神楽おはくろ獅々を舞ふそはに    口あいて見る人もありけり  語同堂                   春道 【下段】 太神楽よひ込  門の削りかけ乱す   うつもや風の獅々舞          秋のや改            花屋 【上段より少し下がる】 太神楽うはき女房を留守におき  輪湊楼    ひたひに梭の角はやす曲   停舫 つむし毛とみる  削りかけ釣る軒に  伶月舎   舞ふて落せる     太神楽獅子 七やしき行も  まはりて太神楽   初おはくろの    獅子舞ひそする         松の門鶴子 太神楽玉まろはすは   鶯の産れし竹の  都月庵       籠まりの曲 太神楽【薄黄色囲み】 【右丁】 手鞠娘【薄黄色囲み】 竹の秋少女かつける手鞠にも    鈴むしいれてかゝる桔梗            槙のや つきくらにうき身   やつしてをとめ子の   花垣     鞠にしんくのかゝり  真咲           糸みゆ 少女子か   しら魚ほとな    ゆひをもて網に     かゝれる鞠や       つくらん  語同堂              春道 とりやりは暮に  すましてまり唄の   かしかりをする春の少女子              東風のや かしかりをとりかへはやの   手まり唄男髷なす      おみなましりて         文語楼梅実 【右歌下段】 手まり唄うたふ娘もひいふうみ    よめも出てつく春の長閑さ           番多楼姫利 【左丁凧紐の下】 ひゝきぬるうなりにきもを  けし坊主小人嶋めく   花垣      鶴の大凧     真咲 【右歌下段】 たにさくをつけて?【梏カ】やる     鶴の凧鎌倉かし【河岸】に 和朝亭        あくるうなゐ等    国盛 大空の霞のきぬをつらぬくは  勇々館   晋の豫譲をしのふ釼凧    道草 【凧紐の上】 門前の   童も   経はよます       して    坊主いと目の     凧あくるらん       水々亭楳星 糸きれてうな  なからにとひて行  いせ松坂   凧の其絵も      神風や     猪の熊【注】の首  青則 【右歌左下】 春風に鶴の絵凧の糸きれて   歌道廼   小人嶋ほとさわくうなゐ等  晴記 【注 「猪熊入道」の略=江戸時代の小説、演劇、音曲などに登場する豪勇な人物】     【右丁】 鮨売【朱囲み】 とり交て  蓼食ふ虫も   梅屋   すき〳〵に    かせてひさく     門の鮨売 はけ兼る  日はすもとりも    《割書:鎌倉| 雪の下》   すし売はなんと    《割書:皆元迺| 寄友》    せうかのからき世渡り なつかしき声も  萼の一夜つけ   薄むらさきの   雲井園    海苔すしそ売る あつ巻の玉子の鮨の  月の輪に熊笹そへて    売歩行なり  尚丸 【右二歌下段】 千金と愛ぬる  春の時の間に   四箱五箱はや    売れし鮓      望止庵       貞丸 【最下段】 押売は  せぬと手際の   握りすし    つまみ喰する     人を待らん       雪の下        千羽楼         鶴成 【左丁】 紫の帯しめ払ひ扇箱  二度の嫁いりさする商人  槙の屋 【右歌下段】 扇箱買はん〳〵と歩行けり  其台町や二本抜を        水々亭楳星 【上段二番目】 御新堂仕入扇のはらひ箱  いせ松坂               神風や  阿弥陀割なる町〳〵に買ふ  青則 追羽根の中を潜れは少女子の  語安台   腮をも払ひ扇箱買ひ      有恒 【右二歌下段】 酔しれの  礼者のおきし   年玉を背負ふて     もとる扇箱買ひ        森風亭         波都賀 【上段最後】 神風のいせやの  見世の桐の箱   振つて見て    買ふおはらひ扇               平山庵         貞丸 払扇箱買【薄黄色囲み】 【右丁】    汲若水 十二 今朝春の天の戸ひらや開くらんくむ若水にきし る車井      宝市亭 ふる年を丸う納めて方円にしたかふ水をくむ筒 井筒       勇々館道草 此年もみな安政にくらさんと卯の一天にくめる 若水       馬遊亭喜楽 先汲は井のすめる物のほりけり神代のまゝの春 の若水  松代  藤少々波樹 明て今朝きも若〳〵と若水は汲始めなり人の心も        番太楼姫則 はつ雀なく声きいて若水をくむはかゝへの鳶の 者なり  仝   風月軒五柳 若水を汲井も今朝は化粧かは初日の紅粉や霜の おしろい     銭の屋 釣瓶から音もさらりとけさの春あけてそ清くす める若水 仝   良材庵清樹 花鳥の春若〳〵と汲あける鶯ふくむ玉川の水     イセ松坂 鼻辺赤人 梅かえの露ふへる井より一釣瓶あけ方のほし うつる若水    甘信亭古麿 【左丁】 当座絵馬商人    馬遊亭喜楽主人判 直の出来て商人のうつ     天衆   柏手のみつのひかりや    道人         初午の絵馬 初午に二見か浦の絵馬売の   日の出にひさく伊勢町のかし          草のや富芳 鳴くきしの鳥居の   もとに声立て絵馬を   在明亭      商ふ妻乞稲荷    月守 【右歌下段】 月日星みつの  燈火うくひすの   玉の絵馬をも     ひさく初午        紀関守 【上段に戻る】   おなし心を 稲荷ふ神へ納る絵馬売て    豊な年と祝ふ初午  馬遊亭               喜楽 【右丁】 当座信濃者別    語安台有恒主人判 【上段】 えどすれて  丸くなりてそ   帰りける  木賊かりする   園原の者      勇々館道草 あかきれのわれも〳〵と  しなのもの江戸の   わかれをいたく  於三村       をしまん   菱持 姥捨の山の端さして   しなの者帰る背中に      月のこく餅         鶴告亭夜宴 【下段】 おはちまてけさは掃除を   しなの者あしを喰はるゝ       冷飯草履          弥生麿    おなし心を 奉公もわつかしなのへ   もとり道まめて帰れる       鳩かやの宿         語安台有恒 【左丁】 狂歌四季人物二篇   天明老人内匠撰 兼 初午詣 初灸 彼岸詣 野遊 雛店見物 汐干 題 曲水宴 奉公人出代 紅毛人登城 苗売 桜草売 花見 《割書:当 俵舎大人|坐 勇々館主人》 判    女蕨売 藪入 《割書:画|工》立斎広重先生 【右丁】 初午詣【朱囲み】 あやまつた  稲荷さまなり    スンフ   九郎助を末に    松経舎    なりてもとる初午 太鼓うつ翁稲荷も  土巳坊も四つかつちりに    ひけるはつ午        勇々館道草 初午に入かはりはる  午社札かうやくと見る      瘡守稲荷   在明亭              月守 【下段】 初午の稲荷詣の  奉納に壱歩の額は     ちとすきの森       蝶那言          澄兼 【上段左端】 鳴きしの  妻恋稲荷初午の   納る額にありか      しれけり          和風亭 【下段】 初午にさわく小供の   鼻からもてうちんさかる         藤棚の下  俵舎 【左丁】 草いろの手拭      勇々館   口にくはへつゝ神農艾  道草        すうるはつ灸 【右歌下段】 線香の無言にまさるうき事と    おもふ筆子のけふの初灸  槙のや 【上段に戻る】 きさらきの初雷に初やひと  歌種廼   おさへてすうる臍の両わき  風彦 初灸をすうるはあつい親の恩  風柳庵   薬にもなり仕置にもなり   舛丸 神農の艾とり出す初灸に   薬となめる草のもえ売  梼の門 団十郎艾をすゑのおとゝ子【弟御=弟の敬称】の  万町庵   しはらくむしもおこらさりけり           柏木 初灸【朱囲】 【右丁】 彼岸詣【朱囲み】 六阿弥陀ひかん詣に珠数は耳  望上庵   達者は鼻にかくる老人    貞丸 六あみた行来も  遠き老の耳   鎌倉雪の下   珠数かけ鳩も  千羽楼    きく彼岸かな   鶴成 六文で廻る  あみたの彼岸会に    楽々亭   真田の紐てくゝる巾着  琴樽 念仏の声を枝折にひかんには  松の門   参るあみたのます西か原   鶴子 【以下上中下段の順】 投出す彼岸詣の  手のうちを見事   扇て受ける浪人        俳松法師 極楽をしのふか  岡や蓮葉に   乗るを願ひの    六あみた  松梅亭       道   槙住 亭主をは  彼岸詣に   団子ほと    丸めて内を  松代     妻は出けり  風月軒             五柳 【左丁】 枯草の山を作りて  いつよりも日のいり  六朶園   はやく思ふむさしの 【右歌下段】 鍋よりも夫の  散やかふるらん   すみれに一夜    空満や    あかすつくま野 【上段に戻る】               イセ松坂 角力草さかる野中にまとゐして  神風や   友とくみあふ吸筒のさけ酒   青則 ふら〳〵と瓢さけさす  下女か帯胴中くゝり  松月亭    野遊のとも     繁成 爪さきのつんむく方へ   雪の下  野遊ひの酒にはたれも   皆元廼   へろ〳〵の神       寄友 早わらひのにきりこふしに   あらそふて中よき友の  語同堂        むるゝ野遊    春道 野遊【薄黄色囲み】 【右丁】 雛見世【薄黄色囲み】 花のころ見る人むれてやまとなる  草のや   吉野内裏とならふ雛店       冨芳 綿かふる箱入雛をほしさうな  鶴告亭   嫁かこゝろの内みせの前   夜宴 倭歌とはうらうへに古今雛  清之舎   鼻うたましりそゝる見物  千代住 両天の傘もて雛の前店を     馬遊亭   ひやかしてみる照りふる人形  喜楽 軒下をいく度廻りて御車を   ひかしてそ買ふ雛の見物   俵舎 あしもとをみて   桜園  売る雛を口先て   勝波   ふみ倒しにも    いける内見世 つかまへてはなさす   勇々館  客へ目隠しをしたる   道草   ひひなに手を打て売る 【左丁】 海のなき国かとそ思ふ   汐干かたみのあるかひに  語真衆        しなのありける  喜樽 【右歌下段】 落穂をも拾ふ姿の汐干かた    語安台      雀の化したはまくりやとる  有恒 【上段に戻る】 帆のはらむ  南ふく日の汐干狩    槙のや   女嶋うと思ふひとむれ 汐のさす蜂の  すさきをあさりつゝ   子安貝とる妹か        こしほそ  陽月舎 汐干する沖にて得たる  石かれひ人にしらさて   森風亭       家つとにせり   波都賀 ほうろくももてる汐干の舟の内    かはらけ色の妹かこしまき  五葉園                    松蔭 汐干【朱囲み】 【右丁】 【曲水宴】 曲水にうく盃も水や空  花垣  雲の上なるいやよひの宴  真咲 高きよりひくきへ流す盃に   五位も六位もましる曲水           勇々館道草 橘も藤原もまたありはらや   みなもと清き曲水の宴  筑波嶺                 村咲 浮みたる歌かく     文栄子  筆か下戸ひとりなめては  雪麻呂      流す桃の盃 【以下上中下段の順】 うへ〳〵のお慰みとて   盃は川下〳〵へ  文語楼     廻るお流れ    梅実 酒肴哥もよみつゝ   曲水に一日流す     桃のさかつき       睦月軒浦船 方円に随う  みずの長〳〵と   長歌もよむ    桃の盃    朝鶴舎      真抱 【左丁】 【上段四首】 雛しまふをりに  わかれのなき顔を  陽月舎   紙に包みて下る水仕女 東井の清く出代る  一つるへさかれはあかる サノ        水仕奉公   子日庵                 松彦 富士額作る目見への  山出しも出代る下女の  和朝亭     あとのぬけ穴    国盛 出代りに紙一ひらの  證文もすみつきの   よくきまるはした女          宝市亭 【下段二首】 出代りは木綿布子に絹小袖   伶月舎  てさはりちかふはしたお仲井 化粧をもするおしろいの別れ霜  けふ出代りの水仕女の顔            鶴告亭              夜宴 出代り【朱囲み】 【右丁】 紅毛人登城【朱囲み】 縄はりに鶴の  舞ひにし大城へ   毛衣を着て登る         蘭人      勇々館道草 登城する紅毛人は  献上もはえた侭なる  銭のや        人参の髭 登城する紅毛人の下馬先は  和松亭  わたりの徒も多くみえけり  羽衣 【右歌下段】 直な御代紅毛人の登城にも  ゆるさぬ文字の横つけの駕籠            水々亭楳星 【以下上中下段の順】 やとはれて出る  蘭人の供まても   銭と木札の    かふえきはしつ       語同堂         春道 海原を渡り来つれて  登城すに渡り者をは       つれぬ蘭人        文栄子         雪麿 あつまてる神を  仰きてひの色の   紅毛羅紗もさこく        たから田        無窓園敏住 【左丁】 朝かほのめ出し荷ひて二葉町 蝶那言    日陰町へと曲る苗うり  澄兼 【右歌下段】 瓜茄子の苗はうりても  八百やとは少し畑の        ちかふ商人         水々亭楳星 【上段に戻る】 まけて売るへちまの     雪の下  苗は目の先へふらさかる銭  皆元廼       早とらんとて    寄友 汝か宿を鴈に出て月に迄   上サ大堀  ひさく朝かほ夕かほの苗   花月楼 売歩行苗の根にみる  土団子宿は谷中の   かさもり門前     花輪堂糸路 朝の間にきれいに   いせ松坂  はけて塵ひとつ     野良   残さす帰る箒苗     庫人         うり 苗売【朱囲み】 【右丁】 桜草売【朱囲み】 よそほひし蝶々髷の少女等に  伶月舎    跡したはるゝさくら草売 あらき風へたつる戸田の   さくら草むしろを花に  雲井園       かこひてそうる さくら草売るも  あすかへ残さしと    望上庵   元直になけるかはらけの  貞丸             鉢 【右歌下段】 桜草戸田の  渡りゆ請売に   鶴のや   江戸をうねりて   松雄【雉カ】        流れ商ひ 【上段左端】 直をつけし  風替るなと   其人をこちへと  スンフ    招く桜草売    望月楼 【右歌下段】 雨風もしらぬ嵐と    おもふらんいやねきらるゝ            桜草うり              常村田                 緑洞園 【左丁】 【上段】 桜さく上野は江戸の  大錦三枚橋を人の  六朶園       つゝき絵 隅田の花なかめたらいて  夜桜に下ふしするもよき          枕はし           伶月舎 夜嵐のさそはぬ  うちに行んとや誘ひ   だされし花見連中       瀧のや清麿 雨風に   よわき  桜を    はしらとも   力ともする花の       かけ茶や           板ハナ            六源園寿々雄 【下段】 樽の酒かろくなるまて花を見て    しりはいよ〳〵おもくなりけり            板ハナ              末広庵老泉 味酒の三輪の山路の  桜より上戸そひとり  都柳園      杉をたつぬる   守安 花見【朱囲み】 【右丁】    初午 十二 初午の馬に狐をのせしこと其いひわけも九郎助 稲荷    板ハナ   梢栗園保彦 稲荷山賑はふ今日の初午に淋しくなりし杉のも とつ葉         更科庵月芳 初午は植馬いなりの内陣へ高上りして拝むもろ 人           和風亭 油あけをあくる白狐のほこらにて鈴の尾をふる 初午祭り        松月亭繁成 たおやめかはれ着も目たつ稲荷山絵馬に対する 額裏の老        六朶園 初午に参る王子の穴稲荷のそかせたまへ悪事災 難     上サ大堀  花月楼 午祭り瘡守稲荷夜宮から仕こむ像もきうの出来 物           語安台有恒 初午に王子もとりもよし原とふちも瀬となる飛 鳥山こし        清之舎千代住 午の日の王子もとりは天窓にも狐をのせて帰る 家七座         瀧のや清麿 詣来る人もとゝまるうま参りとう〳〵〳〵と ひゝく太鼓に      槙の屋 【左丁】 当座女蕨売  俵舎大人判 おもき籠抱へて売れる  賤の女の手もむらさきに  宝餘亭      なりし早わらひ   魚海 折て売る元手  いらすの早わらひは   杉の門   握りこふしの女商人   笹好 根枝ひもせさる蕨のはかり売 和朝亭  髪もむすはて売ありく妹       玉盛 縁遠き四十女か世わたりに  勇々館  ひさく蕨もたうに立けり   道草 すきはひ【すぎわい=生業」】に親をたすけて片腕の  在明亭    わらひを里にひさく賤の女             月守 【下段】      おなし心を 筑波嶺のふもとの   わらひ折取て    夫婦かせきの        女商人           俵舎 【右丁】 当座 藪入 勇々館道草主人判 藪入にあかつき告るには鳥の  声かなしさに夜具の羽たゝき  銭のや 御主人へ長く勤るやうにとて  鶴告亭  蕎麦を喰はせて帰す宿下り  夜宴 藪入か財布にあまる  小つかいも残りをしけに  楽々亭         帰る夕くれ   琴樽 藪入にもらふ二百のつるへ銭   弥生庵   水をもくめる凧を買ひけり やふ入は近処へ一寸顔出させ   窓の月をは手土産にしつ            夜宴 【下段】   おなし心を 我家へと主人の虎の   威をかりて千里一飛ひ        いそく藪入        勇々館           道草 【左丁】 狂歌四季人物三篇   天明老人尽語楼撰 兼 鰹売 蚊屋売 願人釈迦 団扇売 田植   蛍狩 題 心太売 納太刀売 水游 水馬 金魚売   花火見 《割書:当 出久廼坊画安主人|坐 楽々亭琴樽主人》  判   鬼灯売 女枝豆売 《割書:画|工》立齊廣重先生 【右丁】 鰹売【朱囲み】 初鰹銀皮作り商人も  宝市亭  これて一分と見する額皿 鎌倉の海にてつるの  そのあしもこかねの札の      つく初かつを         板ハナ 六源園 腹にあはぬ直を  つけられて青筋を   額に見する鰹商人       スンフ 松経舎 一位まさるやはつの  えほし魚めせとすゝむる     直はたかつかさ       上サ大ホリ 花月楼 鉢巻をしてそ商ふかつを売   和朝亭  おろすかたみを見するはた脱  国盛 【下段】 鰹うりおのれか  したる鉢巻を買人に  都柳園     させぬ請合の魚   守安 【左丁】 ひとり寝の蚊やも商ふ加賀やしき 和風亭  千代の松葉のいろを見せつゝ 【下段】 本所は蚊の名物と蚊や売も   蚊のなくやうに声を立つ          スンフ 望月楼 【上段に戻る】 四つ手網はるか如くや  海士か家にひろけて  語安台   みつの浜かやそ買ふ   有恒 近江蚊や売り行    梼の門  声も長橋やよひとめられて      中はきれけり 蚊の影て身をも  たつらん近江かや   かつきて売るや    棒ふり商人     いせ松坂       桑の舎露満 鶴の脛長浜出来と  売る蚊やにうなしの   いろを見する紅へり       水々亭 楳星 蚊屋売【朱囲み】 【右丁】 願人釈迦【朱囲み】 【上段右から】 天と地へゆひさす   勇々館  仏持歩行和尚も     道草   衣あけさけそする 願人はあらめのやうな衣きて  持しお釈迦も鉋物細工         花垣真咲 はたか身へ  破れ衣をかけ       歩行   橋本町を      出山の釈迦        雪の下千羽楼鶴成 誕生の釈迦もて  ありく願人の   財布も銭に  文栄子    さくる横腹  雪麿 【下段右から】 天窓から甘茶に釈迦の誕生言  おのれは酒をあふる願人           伶月舎 天地にもたつた  ひとつのけさ衣  前路楼   かけてまはれる  麹住       願人の釈迦 天と地へゆひさす  釈迦は願人の   家根と畳と  無窓園    くふてん建立    敏住 【左丁】 【上段右から】 深草もならもやほそと  出る風も秋に似顔の   語真衆      絵うちわやうる  喜樽 秋風のたゝぬうちにと  直を少しおとしてひさく  梼の門      桐の柄うちわ 商人もおとろく秋の  くるま町風におとせる 松月亭      桐の柄団扇   繁成 かたけ来て  深草団扇     ひさくなり  うつら衣を    着たる商人      毛衣人髭面 【下段右から】 直段にも上り下りのあるならん  緑樹園   都の町をせる団扇売 二本棟にさして商ふ   天明老人   団扇売これもやしきの         内職細工 団扇売【朱囲み】 【右丁】 田植【朱囲み】 御田植る乳守のあそひ   文尚堂  着た笠のうらにもふたつ  尚丸        枕ありけり 鴨川の水  せきいるゝ小田にみな  板ハナ   はきは短かくみゆる   末広庵           早乙女  老家 住よしの小田に    鶴告亭  乳守は泥水の      夜宴   にこりへ落す松葉かんさし うつふきに稲も伏せよと  みをいれて賤やとゝみて  板ハナ        小田植るなり  六源園 豊作を願ふ田植に揃ひたる  百万石の加賀の菅笠        清々舎千代住 下戸上戸ならんて植る若苗も   馬遊亭   餅と酒とに末はなるらん  喜楽 【下段】 水車かけし  山田にゆたんなく   すれとうゝるに    あとしさり        しつ       鶴のや         松雄 【左丁】 【上段】 袖につゝみ光る蛍の玉つしま  姫のむかしをしのふ少女子              槙のや 蛍持ころひし身には  けかなくて破りし籠に      はれる膏薬         語同堂春道 団扇もて追へは  蛍も宇治川の   鶴告亭   扇の芝に金砂子まく  夜宴 卯の花の雪見る宇治の  川の辺にひをとらんとて  蝶な言        出る蛍かり   澄兼 文をよむ心の  そこも深草の   くされ儒者まて       蛍狩せり        遊蝶定歌雅 【下段】 素裸にて蛍とらへし  童のその嬉しさは     手の内にあり         スンフ          東遊亭            芝人 蛍狩【薄黄色囲み】 【右丁】 心太売【朱囲み】 【上段】 腹わたをたつつめたさは  勇々館  かんはんに水ひく猿を   道草      出すところてん 日光のはしもて   筑波嶺  うける曲つきを   村咲   うら見か瀧と見る       ところてん 売歩行ところてんかの  雪の下  御膝もとすね一本に   千羽楼      二本とる銭    鶴成 心太うる人よせの  水仕かけその世わたりも   からくりにして     花輪堂糸路 【下段】 あら磯の草もて作るところてん  上サ前クホ    売れて涼しくよするなみせん 鏡月亭                   池水 拍子木に似しところてんたえかたき    あつき時をそたかえすに来る              スンフ望月楼 【左丁】 【上段】 直うれて元の鞘へは  中々に納まらぬとて 望上庵     売る納太刀   貞丸 前不動納める太刀も  昼中のひを背おふてそ       売れる商人        五葉園           松陰 いかはかり  おもくや   あらん片      なかし   人のねかひを    納め太刀       うり     語空窓       喜樽 【下段】 天か下みな泰平ときりつけて  達磨卿   しのきをけつりうる納太刀  芦丸 石尊の山へさゝくる相州の  雲波楼   いと正宗の納太刀うり   船住 いさみ船にて直をつける納太刀  鴇鶴亭   なまくらなけていかぬ商人   美鳥 納太刀【朱囲み】 【右丁】 水遊【朱囲み】 しかつても尻から  ぬけて水およき   へとも思はぬ  勇々館    河童神官     道草        そ 水中に岡を  つき地のびぜん橋   すり体およき   宝市亭      なせる子供等 河童天窓の子は  よその子を引こんて   桜園   度〳〵しりをくふ水およき 綾波 親の異見きかておよきに  はひる子は渡す水馬の   暁月新       耳に風かも    浦舟 水およきしたる  子供のしりか出て   河童か岡へあかりたる哉         和松亭羽衣 【右歌下段】 宇治川のほとりの  子等は茶柱の立つ    やうに立およき          せり       鶴告亭         夜宴 【左丁】 夕月の浮ふ川瀬を乗る馬は  いセ花息  みなもと清き弓流しけり    浅景 夕立のきのふにかへてまし水の  杉の門  瀬をわけて乗る馬のけいこは   笹好 夏のよに残るかひるの水稽古  鶴のや  月毛の駒のはしる波の上    松雄 【以下上段下段の順】 竹沢の小屋の  前なる水の上を   こまも自由に    乗り廻しけり      宝満亭実生 水馬から  ふみはつしては   己のみあわを    吹てそ乗る     とち栗毛       楽々亭         琴樽 川水にうつれる  雲にいるとみん   乗りこむ駒は    雲雀毛にして      水々亭楳星 逆波をたつる  水馬に口とりの   くりから龍もきほふ          瀬もの        文栄子雪麻呂 水馬【朱囲み】 神官 【右丁】 金魚売【薄黄色囲み】           板ハナ 金魚持魚商人は分銅の  ■湊楼  なりなす桶をになふ天秤  停舫 琉球の種の金魚や黒尾をは  花輪堂  腹のふくれし人の買ふらん  糸路 鏡なす水にはなちて山鳥の  尾なか金魚をひさく商人          在明亭月守 昼も蚊のさすか場末の金魚やは  孑孑とりしむくいなるかも 雪の下                千羽楼鶴成 【以下上段中段下段の順】 江戸の水度〳〵  かへて本町の   鰤立の金魚をそ        うる         和風亭 硝子に金魚を  いれてをさな子を   たましすかして見する           商人       板ハナ         末広庵老泉 琉金も和金も  うれる金魚やの  語同堂   縁日にいつる   春道    さつま蝋そく 【左丁】 【上段五首】 磨かねと花火の    雪の下  玉のかゝやきて石瓦まて 皆元廼       光る川きし   寄友 ■【「故」ヵ】をひく仕かけ花火の  道火縄あくるも茶やの      からくりにして            杉の門             笹好 川ひらきやみは  てらせと星下り    教和楼   石につまつきまろふ         花火見 入相をさかりに  出て花火見の   松代   寝にかへるのは  ■かし     暁のかね    波樹 花火見の客のさし図に  イセ松坂  ほとのよい玉を仕こみて  神風や         出す舟宿   青則 【下段二首】 鶯の古巣の竹の筒花火   都柳庵   とひつゝ玉の声はありけり 守安 両国のけしきは夏のよと川や  傘仕かけの花火をそみる          三輪園            甘喜 花火見【水色囲み】      初鰹 十二 鎌倉の海の初荷のえほし魚買ふは得意の大天衆 なり        常村の 緑 洞 園 土佐さつまふしともなれる魚ゆゑに五分もひか さる直の鰹売        恵能喜園秀世 鎌くらのむかしをしのふ初かつを其直をとへは 天衆かちなり        天霞道人 初かつを売人はうしろふりむかす買人はいつれ もむかふみすなり  雪の下 皆元廼寄友 三枚におろしてひさくはつ鰹かこをとはせてい そく商人      さの  子日庵松彦 かり衣ときゝおちしてや逃にけん元ほし魚うる けちな商人         毛唐人髭面 はつ鰹呼声もよく通り町日本橋より買出した声               遊月舎岩住 そへてうるおろし大根の雪の下鎌倉よりそ来た るかつをに         望山庵貞丸 勇ましく己かして来た鉢巻を買人にさせぬ初か つを売           桜園綾波 当座女枝豆売    楽々亭琴樽主人撰 【上段】 小夜ふくるまでやちまたを  枝豆にみを入てうる女たくまし           望止庵貞丸 商ひの道にあかるく枝豆を  やみに女の呼ひあるくなり          勇々館道草 売り歩行女たてらの  ゆて豆はさやはちけなる       夜半の呼こゑ            宝市亭 鶴ならぬ枝豆売は  背負ふたる子ゆゑの  蝶那言      やみに夜るの商ひ 澄兼 【下段】 枝豆の籠を小わきにかいこんて  語古窓     うれる女も長刀さうり【注】 喜樽  【注 なぎなた草履=履き古して、長刀形にゆがんだ草履】   同し心を 売る妹か顔むき出して   いひ直よりことはにさやは 楽々亭          あらぬ枝豆  琴樽 【左丁】 狂歌四季人物四篇   天明老人尽語楼撰 兼 天王祭 冷水売 富士詣 西瓜売 土用配   琵琶葉湯 題 涼舟 うろ〳〵舟 雨乞 大山参 麦湯見   世 御祓  《割書:当 森風亭波都賀主人|坐 鶴の屋松雄主人》  判   土用鱣客  《割書:女の湯あみ|する処》  《割書:画|工》  立斎広重先生 【右丁】 天王祭【囲み】 【右下】 天王に雇はれて出る白丁は    人をみこしに拾ふ          鳥の目          語智窓           酒盛 【上段】 天王の御輿もて来る人の浪   宝帰亭  よせてはかへす手わたしの場処  実生 笹につけ持行道に人むれて  神風や  こねかへされぬ団子天王   青則 【以下上段中段下段の順】 小船町鰹ふし店は  祇園会の祭りを   たしに呑喰ひそする       筑波嶺村咲 角樽の酒にみこしを  すえてけりうしの   頭の天王祭り     在明亭      月守 廻り場所  多き御こしの   小船町明に    仮屋へこきつけに           けり       風柳庵         舛丸 【左丁】 【上段】 かつく荷の前へ井桁をくみ立て 神風や  つるへ銭とる冷水商人     青則 いきるそと客にいはせて呑す水に 板ハナ    うかふはそれか咽払なり   六源園 ひやつこい売る世わたりの汝か身は 《割書:いせ松坂| 一満堂》   水をのませてあたゝまるらん   《割書:巴来|》 風の来る場所  見すまして家台をは   くみたてゝてうる      冷水商人       暁月軒         浦船 【下段】 暑き日にうすき   元手の水売は  春風亭    腹の中迄つめた 波都賀        さうなり 両国の橋をわたれは    三輪園  かつしかのこほり〳〵と  甘喜        よへる水売 冷水売【囲み】 【右丁】 富士詣【囲み】 【上段】 つむ雪は麹の花のさくや姫   陽月舎   ひと夜は宝に寝かす同行 下り来ていきた  こゝちもするかなる   不二にあるてふ    しなぬ薬に      勇々館         道草 珠数は首へかけ念仏の  不二もとりむかひもこしに      ふらしつきし鈴       語同堂春道 よし原へ泊るもあれはす通りも  東海堂   するかの不二と浅草の不二   歌重 【下段】 不二詣で戻る日まては女房の   むねにも雲のはるゝ一日そ         いせ花岡          東洲芦朝景 土産に買ふ   麦わらの蛇も    老の身も嶺こし兼る  玉川亭        駒込のふし   正好 【左丁】 西瓜売【囲み】 【上段】 夏の日もはやたけ町に三日月の  語同堂   たちうり西瓜うれる京橋    春道 偽りはないと西瓜をうちわりて 杉の門   赤きこゝろを見する商人   笹好 両国の手品の  席の楽屋口  松梅亭   たねをちらかす 槙住    西瓜商人 真心の赤う  こさると引さけは   しら〳〵しさの西瓜商人         鎌くら雪の下           皆元廼寄友 【下段】 いろ赤き月の輪きりにたち売の   西瓜も中に水はもしけり         文栄子雪麿 丸売の西瓜は  ねをもきいて買ふ   和朝亭   やすくつけたる客の赤■  国盛 【右丁】 土用配【囲み】 【上段】 土用配り団扇の月を遠くまて  松月亭   手のとゝきたるさる若の茶や  繁成 たえ兼る暑さ見舞に  こちらから衣を   ぬかせてくはる        新芋         教和楼 青籠にいれし  鳴子の瓜持て     東明亭   土用見舞にいつるわら沓 月守 ぬかつきて土用配りのあいさつや 望止庵   頭に土のつきし新いも     貞丸 みつ口のさる若町や跡先へ  東風のや   くはる土用の雁皮紙団扇 【下段】 背をあふるほとにそ  あつき丑の日に土用くはりの鱣   和風亭            もて来つ 【左丁】 【上段】 うりつける琵琶葉湯の一ふくも 雪の下   合点のゆかぬ今のふるまひ  千羽楼                  鶴成 宮人の名を  うり衣の烏丸   琵琶葉湯をひさく       京はし      勇々館        道草 烏丸殿て  ひろむる琵琶葉湯   はゝかり多き    薬なりけり     板ハナ      轉湊楼        停舫 【中段】 一はいの琵琶葉湯て一つゝみ   大ふくのます商人の方         無窓園敏住 【下段】 軒下や庇をかりて本家そと  望止庵   琵琶葉湯をうるもをかしや  貞丸 商人も鵜のまねをする   からす丸水を煮出して     のます琵琶のは          都月庵 時鳥はくや  血しほの    からす丸   熊野炭焚く    琵琶葉湯売      和松亭        羽衣 【右丁】 涼舟【囲み】 掛直る両国橋の下すゝみ    勇々館   きにくされなき声のうたひ女  道草 昼中の汗の玉子のかへもてや 語安台   鳥肌となる夕すゝみ船   有恒 蔭芝居まくのきれ間に売に来る   うろ〳〵舟のおこし松かせ            宝市亭 すゝみ舟命のはして唄ひ女の   ころし文句をきくもをかしや           桃樹園仙齢 陸とちかひ舟は一しほ涼しきを   たとはゝ雪とすみた川の風             遊蝶窓 石濱て口をそゝきて夏の夜は  流れに枕するすゝみふね 鶏告亭                夜宴 【左丁】 間にあはせつなくきれ目もうろ〳〵を 梅屋   舟から呼てかふ三のいと 川中をうろ〳〵舟の瓢たんや  花輪堂   夜る昼水に浮た商人     糸路 つくりたる一重衣きて横たてに  伶月舎   浪を縫ひ行うろ〳〵の舟 両国のうろ〳〵舟は不二筑波   このもかのもにこき廻るらん            花垣真咲 命をも洗たくに出し   人々へのり売あるく     うろ〳〵の舟         一矢斎喜楽 【下段】 行燈にかきし  扇のかはほりも   橋間うろ〳〵    ふねの行かふ     えのや       元枝 うろ〳〵舟【囲み】 【右丁】 雨乞【囲み】          勇々館 こえたこの底まて   道草  たゝき祈るなり田畑を   こやす雨のふれやと 田はおろか口も  かわ来て呑水も   なきの涙に    雨乞ひをする       遊蝶衆         歌種 いにしへの小町か哥の徳利にも 草のや   榛名の水をねかふ雨乞    富芳 【以下上段中段下段の順】 雨乞の雨にうるほふ  日の本を水穂の国と 鶏告亭     いふそ尊き   夜宴 麦はらのおろち  つくりて稲長か山田   うるほす雨やよふらん        都柳園          守安        森風亭 鋤鍬もとらて  波都賀  日てりに雨よふる   たかやす国の印      あれかし 【左丁】 【上段】 大山の無言の場所はさい銭の 銭のや  財布の口もむすふ同行 あとになる人をもまてる地蔵堂 遊月舎   こやすみをしてのほる大山  岩住 良弁の瀧にかゝりつ手ぬくひを 水々亭  わしつかみにてのほる大山   岩住 大山へ太刀を納めて  杉の門  かへさには梅酢の鑓を 笹好    かたけてそ来る 【下段】 手のうちのちりも  積りて山参り願人連の       もつ納太刀         海のや広志 人の口いましめたまふ  大山にしはし無言て        通る笹はら          朝鶏舎            真抱 大山参【囲み】 【右丁】 麦湯見世【囲み】 【上段】 青さしの麦湯の  見世も日本橋   ほうひ札ある     高札場前  伶月舎 やしなひし娘を出す  麦湯見世勇湯とくにも    まゝこにそなる  遊蝶舎               歌椎 いりかけんよくてこみあふ麦湯見せ 松の門    こはほうろくの火宅なるらん   鶴子 ふとしまてはつす麦湯の腰掛に    すゝむ人さへ裸なりけり  雲井園 夕立のはれて麦湯を出す妹に   松代    あまたれりくる客もありけり 良材庵                   清樹 【下段】 来る客をうまくをみなの  はたか麦すてに元湯を      のませんとする        清流舎          谷住 町中を己か畑に   麦湯うり夜なか比まて        ひさく定見せ           歌道や            晴記 【左丁】 月と見るちの輪くゝれる夏はらひ スンフ   隣の秋へいるこゝちせり    望月楼 罪料をはらふ御祓にひとゝせの  文栄子  中という字をみするいぐしか   雪麿 雛形に厄を負はせて御祓には  證真衆  みなつき流す川の中従    喜樽 飛鳥川あすをも  またて御祓する夏も   ふち瀬とかはる秋風        蝶神之          澄兼 住よしの社すゝしく   夏秋の行合のまに  和風亭     御祓するらし 御祓【囲み】 【右丁】        天王祭 十三 稲田姫祭る祇園の大しめは出来よき作の米俵な り         宝市亭 十二 しりにのみ目のつく五色ふとしにてかつはと海 へ這入る天王    松月亭繁成 御祭りのかつは天王たしにして親父にしりもふ かす居つゝけ    綾の門【竹+冠】丸 豊なる五日十日の中橋に雨風もなくわたる天王           和風亭 祭礼も処かはれはしなか川のみなみに海へ出る 祇園会       花垣真咲 わや〳〵とさゝの上なるこたつきを丸めて祭る 団子天王      雪の下 千羽楼鶴成 氏子等のあしき病ひはさるた彦先払はせてわた る天王       森風亭波都賀 夜宮から友を引こむ呑喰ひのしりもあるらんか つは天王      笹の門然那子 草なきの釼蔓備ふ御酒所前樽天王も通祇園会            松梅亭槙住 天王の祭りにはれなゆかた着てかうらまてぬら す品川       三輪園甘喜 【左丁】 【上段】 当座土用鱣客      森風亭波都賀主人撰 【上段】 二人連狐鱣の穴這入り   遊蝶衆   宿ては角のはえる丑の日 歌椎 腹見せて奢る  土用の鱣より   きもの大きな    江戸前の客     在明亭月守 丑うなき薬喰ひ  する客よりも遣う   団扇にみゆる       夏やせ        幸亭 【下段】 蝉をとる子等に  土用のみやけとて   鱣も袋きする  魚海      椎の木 薬喰ひ土用鱣と  うしの日にとらの   鶏告亭   子もみなはたく巾着  夜宴    おなし心を うとき月に見るも薬か客のすく   土用鱣の■の肝たま  森風亭               波都賀 【右丁】 当坐 盥のもとに女の湯あみする所      鶴のや松雄主人撰 糠袋遣ふて色もしらけ米  望止庵  俵乳まて洗ふたをやめ   貞丸 湯あみする盥にうつる不二額  蝶那言  糠の雫も時しらぬ雪      澄兼 小たらひに洗たく婆々あ浴みして 桃樹園  縮緬皺もよくのはしけり     千齢 孟宗の竹のたかなる  たらひにて母の背洗ふ       孝行のよめ        学のや           富芳 【下段】 おなし心を  ゆあみする盥の月に   はした女の水うめる  鶴のや    手をのはす猿棒    松雄 【左丁貼紙手書】 廿イヨノ十八 四冊カロヨ【?】 【裏表紙】