【表紙】 【題箋】 《割書:民家|日用》広益秘事大全五.巻下 【右丁 見返し 文字無し】 【左丁 題箋】 《割書:民家|日用》広益秘事大全 五 【右丁・見返】 【左丁頭書】 【赤角印 帝国図書館藏】 雑菜(ざふざい)料理(れうり)の仕(し)やう【四角囲み】 飲食(いんしよく)は性命(せいめい)を養(やしな)ふの原(もと)なれば その料理(れうり)の仕(し)やうをも必(かならず)くはしく するにはしかず中(なか)にも老人(らうじん)病者(びやうしや) などは殊(こと)に心を用(もち)ひて調(とゝの)へす すむべき事さしあたる孝行(かうこう)の一 端(たん)ともなるべきなれば人の嫁婦(よめ) などになる人は心得(こゝろえ)おくべき事也 さればとて又/無用(むよう)の事をすご して飲食(いんしよく)の事のみを論(ろん)ずるは 甚(はなはだ)いやしき驕奢(おごり)にて心(こゝろ)ある人の にくむ所なればふかくこれを戒(いまし)む べしこゝに挙るものは山民(さんみん)の日(にち) 用(よう)の一助(いちじよ)にもとて唯(たゞ)何国(いづく)にも多(おほ) くありふれたる魚菜(ぎよさい)日用(にちよう)の物(もの) をのみあげて都会(とくわい)珍奇(ちんき)の味(あぢ)を 【左丁本文】 【赤角印 白井光】 【赤丸印 帝国・昭和十五・一一・二八・購入】 《題:《割書:民家(みんか)|日用(にちよう)》広益秘事大全(くわうえきひじだいぜん)巻下(まきのげ)》  草木種植類第四 【四角囲み】  ○種(たね)をまく法 凡(あよそ)種子(たね)を蒔(ま)くには白日(はくじつ)晴天(せいてん)を用ゆべし土(つち)の肥(こやし) 強過(つよすぎ)たるは却(かへつ)てよからずよく肥(こえ)たる地(ぢ)を度々(たび〳〵) 耕(たがへ)し和(やは)らかに細(こまか)くしてまくべし又/細(こまか)なる種(たね)は 細(こまか)き土とませてまき或(あるひ)は物(もの)によりては上より 灰(はひ)をかくるもよし風雨(あめかぜ)に動(うご)かぬ為なりまたいか にも軽(かろ)き種(たね)は生出(はえいづ)るまで藁(わら)にて雨(あめ)おほひを したるもよし種(たね)を下して直(ぢき)に水(みづ)をうつは 【枠外丁数】百十一 【右丁頭書】 【挿絵】 【左丁頭書】 【挿絵】 【右丁本文】 よろしからず水草(みづくさ)の類(るい)杜若(かきつばた)などは初(はじめ)より水(みづ)には まかず先(まづ)陸(くが)にまきて後(のち)に水へ移(うつ)すべし蓮(はちす)慈姑(くわゐ) などは始(はじめ)より水中にまく也/木実(きのみ)は上皮(うはかは)をさり 中の核(さね)ばかりをまくかた早(はや)く生(はえ)て宜(よろ)しまた 至(いたつ)て生(はえ)がたき物は蒔置(まきおき)て冬は霜(しも)おほひなどして よく護(まも)る時は春(はる)になりて生出(はえいづ)る事あり但(たゞ)し実(み)の おのづから落(おつ)る比(ころ)に取(とり)て直(ぢき)に地(ち)にまくべしまた とり蒔(まき)にするあり大根(だいこん)芥子(からし)などの如く春(はる)生(はえ)て 秋/実(みの)る類(たぐひ)は実(み)をとり置て春(はる)まく也/種子(たね)を 能々(よく〳〵)収(をさ)めおかざれば生(はえ)のわろきもの也/心(こゝろ)をつく べし此外/種々(しゆ〴〵)の心得(こゝろえ)あれど委(くはし)くは通(つう)じて しるべきなり  ○こやしの事 【左丁本文】 肥土(こえつち)をこしらゆるには畑(はた)の土(つち)へ人糞(にんふん)をかけ寒(かん)に ゐてさせて乾(かわか)し又 糞(ふん)をそゞきて乾し三四度して 一処(いつしよ)によせ雨(あめ)にあてぬやうに屋根(やね)をして貯(たくは)へおき 春(はる)に至(いた)りて日にさらしよく砕(くだ)き虫(むし)の類(るい)木根(きのね)の 類をさりて物(もの)をまき植(うゝ)る時ませ合(あは)せて用ゆべし 又/畑土(はたつち)三斗/赤土(あかつち)《割書:赤色の|ねば土也》一斗/真土(まつち)一斗《割書:砂(すな)のまじ|らぬ土也》よく まぜ合せ人糞(にんふん)一斗ねり合せ五六十日ねさせて おき用る時わら灰(ばひ)糠(ぬか)など切まぜたるよし湿気(しつけ) つよき土地(とち)に多(おほ)くいれてよし人糞(にんふん)をたゞに用 るは糞(ふん)一桶(ひとをけ)に水二桶ほど入五十日ほどおきて色(いろ)の 青(あを)みたる時用ひてよしかけごえは雨(あめ)の前(まへ)に用 るがよきなり小便(せうべん)もよくねさせたるがよし物に よりては水をまぜて用ゆべし蚯蚓(みゝず)をさるには小(せう) 【枠外丁数】百十二 【右丁頭書】 省(はぶ)けるは質朴(しつぼく)の風(ふう)を変(へん)せずして 倹素(けんそ)長久(ちやうきう)ならしめんとてなり 然(しか)れども又/便利(べんり)につきては当世(たうせい) にしては止(やむ)べからざる物をも出して 市(いち)に買(か)ひ遠(とほ)きに求(もと)むる費(つひえ)を略(はぶ) かんとす  ◦野菜(やさい)の類 ○若菜(わかな) からしを吸口(すひくち)にして 汁(しる)にし或(あるひ)は塩鯨(しほくじら)油(あぶら)あげなどに合せ て平(ひら)にして用ゆ雑煮(ざふに)の上(あは)おきに 殊(こと)によろしゆでゝからしあへにし 又はごまをふりてひたし物にもよし ○水菜(みづな) 汁にしてからし柚(ゆ)など 吸口(すひくち)に入てよしかつをゝかけ身鯨(みぐじら) を入て平(ひら)に用ゆ油(あぶら)あけもよし ひたし物にはごまからしなどかけてよし 又/浅漬(あさづけ)にしてはぎれよく上品(じやうひん)なり 【左丁頭書】 ○嫁菜( よめな) ひたし物にしてよし 汁(しる)は芽(め)うどの吸口(すひくち)なとにてよろし 上品なる味(あぢは)ひあり ○蒲公英(たんほゝ) ゆでゝあくを出し ひたし物にしてよし干大根(ほしだいこん)の薄(うす)く へぎたるを入て酢醬油(すしやうゆ)をかけて 用ゆ土筆(つく〴〵し)を入たるもよし ○とう菜(な) 花(はな)の咲(さき)かけたる 菜(な)の事なり当分漬(たうぶんづけ)にしてよし からしあへにしてもよろし但(たゞ)し積気(しやくき) ある人/多(おほ)くくらへば殊外にあたる なり用捨(ようしや)すべし ○ちさ 此(この)菜(さい)殊(こと)に長(なが)くありて 大に重宝(ちやうほう)なる物なりからし唐(たう)がら しなど吸口(すひくち)にして汁(しる)にするよし又 ゆでゝひたし物にし或は魚肉(ぎににく)【注】にまぜ てなますにも用ゆ煮(に)て平(ひら)にし 【注 振り仮名は「ぎよにく」の誤ヵ】 【右丁本文】 便(べん)よろし干鰯(ほしか)は砕(くだ)き粉(こ)にして水にいれくさ らして用るよしいたむ草木(さうもく)に用て大によろし 魚(うを)の料理(れうり)のあらひ汁(しる)を五六日ため置てかくる もよし乾(かわ)きたる地には米泔水(しろみづ)あらひ汁/水肥(みづごえ)な ど殊(こと)によろし干鰯(ほしか)油糟(あふらかす)等のつよき肥(こやし)は石砂(いしすな) 多(おほ)く乾(かわ)きたるには悪(わろ)し植物(うゑもの)もえて枯(かる)る事 ありすべて肥(こえ)たる地(ち)には多く肥(こやし)を入ては却(かへつ)て わろし能々(よく〳〵)心得(こゝろえ)おくべし灰(はひ)は人糞(にんふん)にあはせ ねさせ置て瓜(うり)茄子(なすび)麦(むぎ)粟(あは)黍(きび)稗(ひえ)等(とう)のこやしに 用ゆ酒糟(さけのかす)は籾糠(もみぬか)に切(きり)まぜ丸(まる)めて貯(たくは)へ置水にとき て人糞(にんふん)にあはせ水田(みづた)に入てよし蔓草(つるくさ)などに用ひ てよく繁茂(はんも)す油糟(あぶらかす)は草木の葉(は)の光沢(つや)を出し てよろし秋冬(あきふゆ)用ゆべし馬糞(ばふん)は寒(かん)にいたむ物に 【左丁本文】 よろし暑気(しよき)を厭(いと)ふ物にも根廻(ねまは)りに入べし馬(むまの) 尿(せうべん)は少(すこ)しづ ゝ諸草(しよさう)に用ゆよくきく物なり獣(けものゝ) 肉(にく)の類は菓物(なるもの)の根廻(ねまは)りに用ひてよし此外/鳥(とりの) 類の糞(ふん)諸穀(しよこく)の粃糠(ぬか)などいづれも少しづゝ差別(しやべつ) あり心して用ふべし  ○接木(つぎき)の事 接砧(つぎだい)の木は三四/歳(さい)より六七/歳(さい)までの木よろし 勢(いきほ)ひよくこせぬ木を撰(えら)びて接(つぐ)べし大木へつぐ 時は枝(えだ)の勢(いきほ)ひよき所を残(のこ)し外の枝(えだ)は皆(みな)截(きり)すて その残したる枝へつぐ也又/砧樹(たいき)を抜(ぬき)てつぐときは 長(なが)き根(ね)を切( きる)がよし接梢(つぎほ)は去年(きよねん)のびたるを今年(ことし) つぐ也勢ひよくのびたるを切べしよわき木は 接梢(つぎほ)の枯(かれ)ぬやうに藁(わら)にてかこひ風(かぜ)のあたらぬ様(やう)に 【枠外丁数】百十三 【右丁頭書】 たるは白色(しろいろ)なる魚肉(うをのみ)と取合よし いづれもゆでゝあくを出し用ゆ ○蕗(ふき) 汁はからしなど入てよし もろこ【みヵ】の汁に殊によろし又/煮〆(にしめ) て焼豆腐(やきとうふ)竹子(たけのこ)などゝ同しく用ゆ ひたしものあへものにもよし葉(は)を すらぬ焼(やき)みそにてあへるをほろあへ といひて面白(おもしろ)きもの也 ○わけ葱(ぎ) ゆでゝ酢(す)みそあへに にし貝(かひ)のむき身(み)飯(いひ)だこ鯨(くじら)のせんじ がらなど用ゆる常(つね)のことなり 精進(しやうじん)は油(あぶら)あげを入てよし ○蕨(わらび) 汁からし吸口(すひくち)油あげと 煮(に)てよろし又あぶらづよき魚(うを) と同しく煮(に)たるもよしひたしもの にしても用ゆべし ○若牛蒡(わかごばう) にしめて用ゆ或(あるひ)は 【左丁頭書】 ゆでゝ酢(す)しやうゆをかけ用ゆ 又/葉(は)のぢくをにしめてもよし ○葉(は)にんじん ひたし物/胡麻(ごま)けし などかけてよし上品(じやうひん)なり ○かいわり菜(な) 大根(だいこん)のかいわり 殊(こと)によろし汁にして唐(たう)からしの 吸口(すひくち)よしあさき魚(うを)ととり合せて 大によし油上(あぶらあげ)かつをなどにて平(ひら)に 用るも上品なりひたし物にも 少々は用ゆまびき菜(な)も同じ但(たゞし) のび過(すぎ)るほど下品となる也 ○平豆(ひらまめ) 胡麻(ごま)あへ白(しら)あへ共(とも)に よろしにしめにもすべし平(ひら)の取 あはせにも上品なり実(み)の入/過(すぎ)た るはうまけれども品(しな)おとれり ○さや豆 そら豆(まめ)をさやなりに 煮(に)て用ゆあへものにしめなどによし 【右丁本文】 すべし又つぎたる砧(だい)の切口(きりくち)に蠟(らう)をぬりておくべし 水をはぢきて朽(くち)ぬため也/墨(すみ)をぬるもよし扨 接(つぎ)やうは梢(ほ)は大根(だいこん)の切口(きりくち)にさし《割書:此法/遠(とほ)き所へほを|持ちかへるに甚よし》或は 水にいけ置/砧樹(だいき)を切その切口の鋸目(のこぎりめ)を小刀(こがたな)にて よくけづり暫(しばら)くしてつぐべし《割書:これは木口(こぐち)の水気(みづけ)を|さりてつぐ也木によるべし》さて 砧(たい)の木口(こぐち)を心(しん)と皮(かは)との間を小刀(こがたな)にて竪(たて)に一寸ほど けづる様にへぐ也/加減(かげん)尤(もつとも)大事也/心(しん)へふかく削(けづ)りこめば つかぬもの也其時は又/他(た)の所(ところ)を削(けづ)り直(なほ)すべし さて梢(ほ)さきを二寸余に切/片々(かた〳〵)の皮(かは)を心(しん)にかゝらぬ やうに竪(たて)にけづり其まゝ口に含(ふく)む也/砧(だい)のけづりめ と同し寸にけづる也/外(そと)の方をはすに切すてゝけづりめ の方を砧(だい)の心(しん)にあてゝ挿(さしはさ)みその上を打わらか麻(を) にてほの動(うご)かぬやうにまくべし柿(かき)梅(むめ)などかたき木は 【左丁本文】 【挿絵】 【枠外丁数】百十四 【右丁頭書】 上方(かみがた)にてははしりを賞(しやう)して價(あたひ) 甚(はなはだ )貴(たつと)しその比(ころ)はものゝあしらひ に少しづ ゝ用る事也また皮(かは)をむ きたるを上方の詞(ことば)にはぢき豆(まめ)と いふ品(しな)少しおとれり蕗(ふき)焼(やき)どうふ などゝ同じくにしめ又汁にもすべし 実(み)の入/過(すぎ)たるは下品とす ○えんどう 白(しろ)き花(はな)のさくものは さやにすぢなし味(あぢ)甘(あま)くして上品 なり竹子(たけのこ)ふきなど取合(とりあは)せてにしめ にすべし実(み)のいらぬほどは酒(さけ)の肴(さかな) にも用ゆあへものにしてもよし ○竹子(たけのこ) 孟宗竹(まうそうちく)の子(こ)を近(ちか)き ころ殊(こと)に賞(しやう)くわんせり油にて いためにしめにし又ゆで ゝからし あへにし或(あるひ)は葛(くず)をつりて平(ひら)にも用 ゆ汁にして木のめはさんしやうなど 【左丁頭書】 吸口(すひくち)にすべし此外さま〴〵用(もち)ひ様(やう) ありこんぶと煮(に)しめたるは品おとれり ○菠䔖草(はうれんさう)【注】 和(やは)らかにして甘(あま)く 上品なる菜(さい)なり汁にして柚(ゆ)木芽(きのめ) などあしらひたるよししたしものに 用る事/通例(つうれい)なりけしをかけて見 るなり煮(に)ものゝあしらひに遣(つか)ふも 上品なり 【挿絵】 【注 「菠薐草」の誤ヵ】 【右丁本文】 かたく巻(ま)くべし和(やは)らかなるは余(あま)りにしめぬがよし多く まかぬかた肉(にく)のあがりよろしき物也さて砧(だい)の木口(こぐち)より つぎめの処を打わらにて包(つゝ)み其上を竹皮(たけのかは)にて ほにさはらぬやうに雨覆(あまおほ)ひをすべしさてほは 砧(だい)太(ふと)ければ二三/本(ほん)もつぐべしもし枯(かる)ることのある 時の用心(ようじん)なり残(のこ)らずつきたる時は勢(いきほ)ひのよきを 一本(いつほん)残してあとをば切棄(きりすつ)るなり又/砧(だい)より芽(め)を 生(しやう)ずれば皆(みな)かぎ取べし芽(め)多(おほ)く出(いづ)れば砧(だい)の 勢ひわろくなる也一二丈も上の枝へつぐを高接(たかつぎ) といふ接様(つぎやう)かはる事なし但(たゞ)し竹(たけ)の皮(かは)の内(うち)接(つぎ)た る砧(だい)の処を土(つち)を入て草(くさ)を植(うゑ)おくべしほの少し 出るほどに入る也/日(ひ)をよけうるほひを持(もた)する為(ため)也 又/呼接(よびつぎ)とて枝(えだ)をよびてほを切はなさずして 【左丁本文】 つぐ事ありこの法にてはいかなる木もつくる【事ヵ】也 これは先(まづ)接(つぐ)べき親(おや)木を横(よこ)にふせて植(うゑ)枝(えだ)の地に 近(ちか)き所に砧樹(だいき)をうゑそへ砧樹(だいき)の皮(かは)をけづり捨(すて) ほの皮(かは)を其寸ほどにうすく削(けづ)りて合(あは)せつぐ也 又/水接(みづつぎ)といふは生花(いけばな)のごとくほの元(もと)を水にいけて よび接(つぎ)にする也水は度々(たび〳〵)かへてよし又さし接(つぎ) といふは地にさしてよび接(つぎ)のごとくする也また 身(はら)接といふは砧(だい)の切口より一二寸も接口(つぎくち)を下(さげ) てつぐ也/是(これ)は夏(なつ)の比など木の勢(せい)かれくだる ゆゑに如是(かくのごとく)するなり其外よせ接(つぎ)といふ有 これば【濁点衍ヵ】おやの木を其まゝおきて砧(だい)を鉢(はち)にうゑ 或は根(ね)を土(つち)ながら藁(わら)づとのごとくして接(つぐ)べき 枝(えだ)を引たわめ木をうちてしかとゆひつけて接(つぎ) 【枠外丁数】百十五 【右丁頭書】 ○春菊(しゆんきく) 香気(かうき)ありて上品也 汁は吸口(すひくち)なくてもよしひたしもの ごま醬油(しやうゆ)通例(つうれい)なり冬(ふゆ)のころ鳥(てう) 獣(じう)の肉(にく)にあしらひて悪臭(あしきか)をけし はなはだ雅味(がみ)あり平(ひら)にしてもよし ○夏葱(なつねぶか) 冬(ふゆ)の葱(ねぶか)と同しけれども 夏はいさゝか風味(ふうみ)劣(おと)りて下品也 汁に入てよし酢(す)みそにて酒の肴(さかな) にするもよし ○茄子(なすび) あつく切て赤(あか)えひに あはせ赤(あか)みその汁にするよし或は鴫(しぎ) やきとて油(あぶら)を引て砂糖(さたう)みそのでん がくにするも通例(つうれい)なり汁にしては からし唐(たう)がらしごまなどの吸口(すひくち)よし 風呂(ふろ)ふきあんかけもよし油煮(あぶらに)は 大根(だいこん)おろしをかけてくふなり又 ゆでゝ白(しら)あへごまあへにしても酢(す)みそ 【左丁頭書】 あへにしたるもよし又きざみて ざつとゆでひたし物にするもよし 灰(はひ)にほり埋(うづ)みて焼(やき)たるは此物(このもの)第一 の味(あぢ)なれども客前(きやくまへ)へは出しがたき か此外/色々(いろ〳〵)つかひ方/多(おほ)く殊(こと)に 香物(かうもの)にして風韻(ふうゐん)あるもの也 ○胡瓜(きうり) はもの皮(かは)鱠(なます)にして 大によし紫蘇漬(しそづけ)もみうり などもよし油(あぶら)にて揚(あげ)たるも随(ずゐ) 分(ぶん)珍(めづら)ら【「ら」ふりがなと重複】しはしりの内は殊(こと)に 賞翫(しやうくわん)してものゝあしらひにつかふ也 ○越瓜(しろうり) なます胡瓜(きうり)に同じ 煮(に)て平(ひら)にすれども冬瓜(かもうり)には劣(おと)れり 奈良漬(ならづけ)の香物(かうもの)を第一とすべし ○冬瓜(かもうり) うすく細(ほそ)く切(きり)て汁(しる)とし すりごまからしなどの吸口(すひくち)よし平(ひら)には 風呂(ふろ)ふきうす葛(くず)いりのつぺいよし 【右丁本文】 または砧木(だいき)を上へつりて動(うご)かぬやうに結付(ゆひつけ)置 てもつぐ也/包(つゝ)みたる根(ね)には毎日(まいにち)水(みづ)をそゝぎて 枯(かれ)ぬやうにすべし右いづれも梢(ほ)を切(きり)はなすは 親木(おやき)の枝(えだ)へ砧(だい)より勢気(せいき)かよひてよく生(おひ)つき たるをうかゞひて先(まづ)ほの元(もと)を半分(はんぶん)ほど切又/数日(すじつ) たちて後/残(のこ)る半分(はんぶん)を切はなすべしされども 物(もの)によりてよく付たるは一度に切はなしても よしまた松(まつ)桃(もゝ)の類(るい)和(やは)らかにて脂(やに)ある木をば 劈接(わりつぎ)にすべしこれは梢(ほ)も砧(だい)と同じほどの太(ふと)さ にてもよし砧(だい)の切口の正中(まんなか)を少し割(わり)て両方 をけづり【図 上部がM形の切口】かくのごとくにしてほの方をば 【図 下部がV形の切口】かくのごとく両方(りやうはう)をそぎ砧(だい)へはさみて 巻付(まきつく)るなり牡丹(ぼたん)などはそぎ接(つぎ)とて砧(だい)もほも 【左丁本文】 同(おな)じくはすにそぎ合せてまき其上へ割竹(わりたけ)を 竪(たて)にそへ其をを又うごかぬやうに巻(まき)接(つぎ)めまで 土をかけて植(うゝ)るなり又/根(ね)を砧(だい)としてつぐ法あ りこれは植木屋(うゑきや)などに鉢植(はちうゑ)をこしらゆる術(じゆつ)也 砧(だい)にする木根(きのね)を掘(ほり)其根(そのね)の勢(いきほ)ひよく皮(かは)のきれい なる所より切取(きりとり)てこれを砧(だい)のごとくにして 土中(とちう)の水気(すゐき)を暫(しばら)く乾(かわか)してつぐべし大木(たいぼく)一株(ひとかぶ) をほれば砧(だい)数(す)十本を得る故に此法(このほう)尤(もつとも)多(おほ)く 接出(つぎいだ)すによろし  ○剌木(さしき)の仕やう 扦挿(さしき)は木によりて二三月さすものあり九十月 さすものあり其中(そのうち)梅雨(つゆ)のうちにさす物おほし 雨の中にはよく生(はえ)つく物なれば也それも朝(あさ)の内に 【「剌木」は「刺木」の誤ヵ】 【枠外丁数】百十六丁 【右丁頭書】 暑中(しよちう)のふろふきは冷(ひや)して味噌(みそ) をかくべし煮(に)てくふは常(つね)の事也 ○南瓜(なんきん)【左ルビ ぼうふら】 汁とうがらしの吸口(すひくち) にてよし煮(に)しめには実(み)をよく〳〵 とりて入べし下品(げひん)なる物なり あんかけふろふきにもするなり ○青大角豆(あをさゝげ) ゆでゝ山椒醬油(さんしやう〳〵ゆ) のひたし物にする通例(つうれい)也みそあへ にし又/煮(に)てもよし ○隠元豆(いんげんまめ) 江戸に藤豆(ふじまめ)といひ 西国に垣豆(かきまめ)といふ白(しら)あへごまあへ 共に上品なり煮(に)しめに入て尤(もつとも) よし実(み)の入過たるは品(しな)くだれり ○さつま芋(いも) 煮(に)たるは下/品(ひん)なり すりてうす葛(くず)のかはりに物をい りたるよしさいの目(め)に切て煮込(にごみ) へいれたるはよし油(あぶら)あげにし又 【左丁頭書】 風呂(ふろ)ふき茶(ちや)わんむしにもす べしあへものにしても用ゆ女中(ぢよちう) むきの物にて人により用捨(ようしや)ある べし ○さと芋(いも) 大坂(おほさか)には芋蛸汁(いもたこじる) とて蛸(たこ)にいれて汁にする事有 煮(に)て牛蒡(ごばう)ねぶかなどゝ同じく 平にもつかふにしめのつべいなど いろ〳〵あり ○唐(たう)の芋(いも) 茎(くき)の赤(あか)き芋なり 茎(くき)をほしてずいきとす生(なま)にて 酢醬油(すしやうゆ)のひたし物にしごまをか けてよし芋(いも)は里(さと)いもの如(ごと)くに してゑぐからず子すくなし用 ひかたはさといもに同じ又ずいき を汁にして柚(ゆ)からしなど吸口(すひくち)にして よし油(あぶら)あけと一所に煮(に)るもよし 【右丁本文】 【挿絵】 さすがよし今年(ことし)の新枝(わかえ)をさすには葉(は)のくきか たまりてさすべし長(なが)さは二三寸/位(ぐらゐ)にきり葉(は)をば 二三/枚(まい)残(のこ)して跡(あと)ははさみ捨(すて)もとの方に赤土(あかつち)のね ばきを団子(だんご)の如(ごと)くしてさして植(うゝ)る也/是(これ)通例(つうれい)也 堅(かた)き木はもとを割(わり)て中に小石(こいし)をはさみてさす また山椒(さんしやう)の実(み)をはさむもよし切口(きりくち)の四五/歩(ぶ)も 【左丁本文】 ある枝は一枝(ひとえだ)おきて跡(あと)は残(のこ)らず切すてゝさす也 切口は小刀(こがたな)にてよく削(けづ)りてよしさす地は赤土(あかつち)の しめりたる日陰(ひかげ)の所よし鉢(はち)へさすにも赤土(あかつち)を入て さす何(いづ)れも度々(たび〳〵)水(みづ)をそゝぐべしよく生付(はえつき)て 後に植(うゑ)かへてよろし又とり木とて枝(えだ)を引たわ めて其枝(そのえだ)に疵(きず)をつけ糞(こやし)《割書:牛馬鳥の|糞よし》に土をまぜて 土をほり其枝に右の土ごえをつけて埋(うづ)めおき土(つち)乾(かわ) けば水或はうすごえをそゝぎて乾(かわ)かぬやうにし よくつきて後(のち)に枝(えだ)をきる也/高(たか)き枝をは疵(きず)をつ けて竹(たけ)を一節(ひとふし)筒(つゝ)にきりて二ッにわり疵(きず)の処へ 土をつけて竹(たけ)にてあはせ其上を縄(なは)にてまき土の かわかぬやうに苔(こけ)をつけて度々水をそゝぐべし 根(ね)の生(しやう)じたる比(ころ)を考(かんが)へて半分(はんぶん)づゝ切(きり)て二度に切(きり) 【枠外丁数】百十七丁 【右丁頭書】 【挿絵】 芋魁(いもがしら)はふろ吹(ふき)あんかけのつぺいな どにして上品なり ○松茸(まつたけ) 醬油(しやうゆ)汁にして吸口(すひくち)は 柚豆腐(ゆとうふ)と取合すなど通例(つうれい)なり 葛(くず)つりあんかけもよし紙(かみ)につゝみ うづみ焼(やき)にして柚醬油(ゆしやうゆ)をかくるは 風味(ふうみ)至てよしせんにさきて吸(すひ) 物にもすべしこれは珍(めづ)らしき間の 【左丁頭書】 事なり梅(むめ)あへ茶わんむしいつれ もよし土瓶(どひん)やきとてどひんにて むし焼(やき)にする事あり味ひよし ○大根(だいこん) つかひ方/誰(たれ)も知るが如し 煮るには真土地(まつちぢ)の物/味(あぢは)ひよし漬(つげ)物 には砂地(すなぢ)のものもつくしてよし此物 用(よう)多(おほ)くして実(まこと)に日用(にちよう)重宝(てうほう)の 第一たる物なり葉(は)をも煮て つかふべし但(たゞ)し大坂辺の物は茎(くき)かた  くしてわろし ○蕪菁(かぶら) 汁にして柚(ゆ)のすひ口上 品なりつみ入えびなとの汁によろし 油(あぶら)あげしきがつをにて平にもすべし あんかけふろ吹いつれもよし風呂(ふろ) ふきのみそは蒜(にゝく)みそしやうがみそ など取合よろし葉(は)も和(やは)らかにて 汁にすべし油(あぶら)と取合せ煮(に)るもよし 【右丁本文】 はなすべし其後(そのゝち)に相応(さうおう)の地へうつすべし又土を つけたる上を藁(わら)にて包(つゝ)むもよしされど早(はや)く乾(かわ)く故 に度々(たび〳〵)水をかけざればつかぬなり  ○草木(さうもく)の虫(むし)を除(のぞ)くべき事 凡(およそ)草木(さうもく)其地(そのち)を得(え)て培養(はいやう)の法を尽(つく)すといへども これを喰損(くひそこな)ふ虫(むし)を除(のぞか)ざれば労(らう)して功(こう)なき事 となるべければ常々(つね〴〵)心(こゝろ)にかけて其防(そのふせぎ)をなすべき也 蚯蚓(みゝず)をさくるには衣服(いふく)の洗濯(せんたく)の汁(しる)をそゝぐべし また小便(せうべん)もよしむくろうじの皮(かは)の洗汁(せんじしる)尤(もつとも)よし 土龍(うごろもち)を除(のぞ)くには海参(なまこ)を切(きり)てかよひ路(みち)にうづみ置 ば遠(とほ)く逃去(にげさる)もの也/干海鼠(ほしこ)にてもよしまた桶(をけ)のふ ちを朸(あふこ)にてすればキイ〳〵といふ音(おと)高(たか)くする物也 これ土龍(うころもち)を除(のぞ)く壓術(まじなひ)なり蛇(へび)の類(るい)を除(のぞ)くには 【左丁本文】 ハブ草(さう)を多く植(うゝ)べし《割書:此草の漢名(カラナ)蛇滅門草(ジヤメツモンサウ)|又/望江南(バウカウナン)ともいふ》蛇(じや)の類 遠(とほ)く逃去(にげさる)也此草を陰干(かげほし)にして蛇毒(じやどく)の薬(くすり)とする に大に功あり又/蒜(にゝく)の玉(たま)をその辺に埋(うづ)めおけば諸虫(しよちう)を 防(ふせ)ぐ烟草(たばこ)の茎粉(くきこ)などもよく虫(むし)を除(のぞ)く也/切虫(きりうじ)《割書:所|に》 《割書:よりて根(ネ)きり虫/芽(メ)きり虫とも|いふ後に蝉(せみ)になるむしなり》は石灰(いしばひ)の灰汁(あく)を澆(そゝ)ぐべし 皆(みな)死(し)するなり柑子類(かうじるい)の葉のうらに砂(すな)のごとく 小(ちひさ)き虫のつく事あり早(はや)く水を以て洗(あら)ひさるべし 捨(すて)おけば害(がい)をなす也又ひらめなる虫を生(しやう)ずる事有 蒜(にゝく)の汁/魚(うを)の洗(あらひ)汁/硫黄(いわう)石灰(いしはひ)の類/皆(みな)よく除(のぞ)くべし 菘大根(なだいこん)の虫は毎朝(まいてう)取尽(とりつく)してよし甚(はなはだ)しき時は硫黄(いわう) を少し葉(は)にふりかけて除(のぞ)くべし木蝨(あぶらむし)の集(あつま)り毛虫(けむし) のつきたるは大に害(がい)をなすもの也/卵(たまご)のうちに冬(ふゆ)の頃 取棄(とりすつ)べし又除く時は鉄炮(てつはう)の薬(くすり)を集(あつま)りたる所に 【枠外丁数】百十八丁 【右丁頭書】 但し品おとれりごま醬油のひ たし物みそあへなどにもするなり ちひさき時からし漬にして風味よし 大なるをへぎて三ばい酢につけた るもよしへぎて少しほしひたし物に するも風味あり唐がらしを入べし ○胡蘿蔔(にんじん) かす汁に入てよし にしめて用るは通例(つうれい)也せんに切て 水菜(みづな)と煮たるもよしふと煮(に)とて 酒(さか)しほにてゆる〳〵と煮たるは客(きやく) 用(よう)にもすべし白あへふろ吹にもす べし上方(かみがた)にてはいやしき物のやうに すれども尤(もつとも)上品(じやうひん)なるもの也せんに 切て鳥獣(とりけもの)の肉(み)にあしらへば悪臭(あしきか)を さけて甚よしざつとゆでゝひたし 物にしたるもよし ○牛蒡(ごばう) けづりて川魚(かはいを)の汁に入て 【左丁頭書】 あしき臭(か)をさるせんにて油(あぶら)にいため からりと煮ていりけしをふりかけ たるもよしふとなりに切て酒(さけ)にて 煮つめたるは上品なり胡麻煮(ごまに)にも すべし山椒(さんしやう)に出合よろしき物也 ○くわゐ たゝきぐわゐとてひし きひらめて用ゆおもしろき物なり 雷(かみなり)どうふの具(ぐ)或(あるひ)は茶(ちや)わんむしなど に入てよし煮ごみへも入べし少 し味(あぢ)をつけて糸切(いときり)にしたるはもり 合せにつかふべし風味(ふうみ)あるものにて いやしからす ○葱(ねぶか) ばん菜(さい)には第一の物なり 川魚(かはいを)の汁/鳥獣(とりけもの)の肉(み)などになくて かなはぬ物なりつみ切て吸口(すひくち)にし うどんそばの具(ぐ)に用ひなど重宝(ちやうほう)な るもの也なんば煮/酢(す)あへなどにも 【右丁本文】 おきて火(ひ)を指(さす)べし火気(くわき)と共(とも)にちりうせて再(ふたゝ)び集(あつま) らず又うなぎを焼(やき)てその煙(けふり)をあつれば皆(みな)死(し)する也 煙草(たばこ)の茎(くき)をせんじて澆(そゝ)ぐもよし蠐螬(いもむし)は蝶(てふ)来り てうみ付る卵(たまご)より生ず早(はや)く取(とり)すてゝよしすべて 毛虫(けむし)の類(るい)の卵(たまご)をとるには油(あぶら)をひたしたる紙(かみ)にて 【挿絵】 【左丁本文】 ぬぐひ去(さる)べし毛虫(けむし)には種々(しゆ〴〵)あるものなるが皆(みな) 大に害(がい)をなす物なればよく〳〵心をつけて早(はや)く 取(とり)すつべし木の根(ね)もと板屏(いたべい)壁(かべ)垣(かき)の竹(たけ)などに 長(なが)く綿(わた)のごとくなる物あるも毛虫(けむし)の卵(たまご)なり早く とり棄(すつ)べし菊虎(きくすひ)といふものありて螢(ほたる)に似(に)たり 菊蓬(きくよもぎ)の類(るい)を吸(すひ)からす虫也吸たる跡(あと)に卵あり早 く捨(すて)ざれば秋(あき)のころ生出(おひいで)て枯(か)らす事あり此外 蛞蝓(なめくじり)蝸牛(でゝむし)みな草木(くさき)を喰(くら)ふ也/取(とり)すてゝよろし すべて蝶(てふ)の類は皆毛虫の類より化(なり)たる物なるが又 飛(とび)来りて卵(たまご)をうみ付るものなれば用心(ようじん)すべし  ○穀類(こくるい)《割書:稲麦(イネムギ)の類さま〴〵の種子(タネ)ありて異同(イドウ)おほく|且/水(スイ)利によりても異(コト)なる事あれば詳にせんには》   《割書:甚長くなるべきうへにいづれの国にも其地のさまにしたがひて|力を尽(ツク)すことなればこゝにはたゞ其百分が一の事を記》   《割書:す猶後篇に委(クハ)しき事をば論ずべき也|凡(スベ)て二十種をこゝに挙(ア)ぐ》 【枠外丁数】百十九丁 【右丁頭書】 用ゆべしかまぼこと煮合(にあは)せて平に したるもよし ○芹(せり) 芹やきとて醬油(しやうゆ)汁に ていりたるよろし豆腐(とうふ)汁に刻(きざ)み て入たるもよし煮かげんの大事 なる物なり香(か)をうしなはぬほどに すべき也/鳥獣(とりけもの)の肉(み)に入てあしき 香をさる塩くじらと煮あはせ たるはばん菜によろし生魚(なまうを)にいれ たるは下品なり根芹とて横(よこ)に はひたる小(ちひさ)きが味(あぢ)よしひたし物も 上品なるもの也  ◦生魚(なまうを)の類    海川の魚種類甚多けれど    こゝに挙るものは唯その價賎    くして日用に得易き物ばかり    を出す故に鯛鰆魲の類を    ばはぶく又国々にて魚の類も    大にかはりあるものなれば一概    にはいひがたし 【左丁頭書】 ○鮪(しび) 東国にて真黒といひ 西国にて大魚といひ上方にては はつの身といふ下品なり作り身に してはおろし大根の醬油にさし 又塩やきにしておろし醬油をかく るもよし塩をしたるは糟いりにして よし江戸にては葱に合せ煮て ねぎまぐといふ下等也作り身を 酢にひたし引上てきらずのいり たるにまぶすも江戸風也いさゝか よし此魚尤下等なる物なれども 味ひよき故はん菜には妙なり ○赤えひ 上方にはえとのみいふ 下品の魚也汁はねぶか茄子など入 てよし吸口柚山椒など香気つよき ものよしいり付は山しやう醤油に かぎりたり生身はからし酢みそ也 【右丁本文】 一/稲(いね) 稲は百穀(ひやくこく)の長(ちやう)として人命(にんめい)の繋(かゝ)る処此上  の宝(たから)なき事皆人のよく知(し)る所なれば今更(いまさら)にいふべき  にもあらず古(いにしへ)は神明(しんめい)【左ルビ:カミ】を祭(まつ)りて忌慎(いみつゝし)みて種子(たね)を  下(くだ)し苅(かり)たる初穂(はつほ)をも先(まづ)神明に奉りて其/恩恵(めぐみ)を  歓(よろこ)びたるさま古書(こしよ)に詳(つまびらか)なり近世(ちかきよ)此事/漸(やう〳〵)粗(そ)なるは  歎(なげか)しき事なり作(つく)りやうの事はこゝに略(りやく)す 一/畠稲(はたけいね) 又/旱稲(ひてりいね)ともいふ湿地(しつち)の畠にうゑてよく  熟(じゆく)す粳米(うるしね)糯米(もちこめ)ともにあり土地(とち)によりて植(うゑ)て  甚/利潤(りじゆん)あるべき物也作りやうは大かた麦(むぎ)の如く  すべし冬(ふゆ)より地をよく和(やは)らげおきて二月半よ  り後に籾(もみ)を水に浸(ひた)して三日の後(のち)取あげ日にあて  少し口(くち)のひらく比に灰(はひ)ごえを用ひ横筋(よこすぢ)を深(ふか)く  きりて麦のごとくまく也地かわきたらは薄(うす)き水 【左丁本文】 【挿絵】  こえをそゝぎて土(つち)をおほふべし苗(なへ)七八寸なる時  こまかに耕(たがへ)したる地(ち)にがんぎをふかくきり灰ごえ  にて三四本づゝ植(うゆ)べし強(しひ)てつよき肥(こやし)などはよ  ろしからず却(かへつ)て虫気(むしけ)つくもの也 一/麦(むぎ) 米につぎて人命(にんめい)を司(つかさど)るものなれば尤(もつとも )尊(たつと)  むべし作(つく)りやうはこゝに略(りやく)す 【枠外丁数】百二十丁 【右丁頭書】 油(あぶら)にていため葱(ねぎ)など多(おほ)く具(ぐ)を 入て醬油汁(しやうゆしる)にしすり生姜(しやうが)の吸(すひ) 口(くち)にするをすつぽんもどきといふ 近来(きんらい)流行(りうかう)する故に客(きやく)にも出す べし但(たゞ)し酒(さか)しほを多くいれてよ く煮(に)あとよりしやうゆをさす也 ○堅魚(かつを) 生(なま)がつを江戸(えど)にて 甚(はなはだ )賞翫(しやうくわん)する物なれど上方より中(ちう) 国辺(ごくへん)には甚/少(すくな)し作(つく)り身(み)は山葵(わさび)の 醬油よろしからし酢(す)みそもよし 生(なま)ぶしとてむしたるまゝの物上方に おほしこれは其まゝ切(きり)ておろし じやうゆにて用ゆ又とうふ竹子(たけのこ) など具(ぐ)を取合せ平(ひら)にもすべし いりつけたるは甚/下品(げひん)也おろし 大根(だいこ)のなますにするもよし ○鰤(ぶり) いりつけて大根おろしを 【左丁頭書】 【挿絵】 取合せむかふ付(つけ)にすべし作り身は わさび大根の醬油(しやうゆ)よし塩(しほ)ぶりは かへつて上品なり正月の頃/雑煮(ざふに)に いれまたかす汁にもし或は焼(やき)て おろし醬油をかくるなど色々也 塩(しほ)のから過たるは用(よう)少(すくな)し ○烏賊(いか) うすくあぢをつけて あへものにし竹子(たけのこ)とゝもにからしあへ 【右丁本文】 一/小麦(こむぎ) 小麦は尤(もつとも)種子(たね)をえらぶべし種子あし  ければ生(おひ)かぬるもの也/肥(こやし)は灰(はひ)ごえよろし少し  湿気(しつけ)のある地よろし其外は大麦のごとし 一/蕎麦(そば) 立秋(りつしう)の前後(ぜんご)に種を下し厚(あつ)くまくべし  大かたはちらしまきよし灰ごえ又/牛馬(ぎうば)の糞(ふん)よし  塩竈(しほがま)のこげ灰など大によろし地は大にかわきたる  がよし山畠(やまばた)焼野(やけの)などにも蒔(まく)べし 一/粟(あは) 種子に類おほし撰(えら)びて蒔(まく)べし地は肥(こえ)た  る地よろし肥は灰ごえよろし夏(なつ)粟は三月より  五月まで秋(あき)粟は六月/下旬(げじゆん)までにまくべし少し  しめりけのある時まくべし 一/黍(きび) 黄白(わうはく)の二種(にしゆ)あり粘(ねば)るをもちとし黄(き)にして  粘らざるをうるとす四月中にまくべし灰ごえ人(にん) 【左丁本文】  糞(ふん)を肌(はだ)ごえにして薄(うす)くまく也 一/蜀黍(たうきび) 瘠(やせ)たる地には宜(よろ)しからず二月/種子(たね)を  うすくまき七八寸の時/移(うつ)し植(うゝ)べし少し湿(しめり)ある地  を好(この)むもの也/一種(いつしゆ)たけひきく穂(ほ)の下より茎(くき)の  かゞむあり実(み)多(おほ)く早(はや)く熟(じゆく)す上品也 一/稗(ひえ) ひゑに水陸(すゐりく)の二/種(しゆ)あり尤(もつとも)穀(こく)の中(なか)にて卑(いや)  しきものなれどもいかなる地にも生(おひ)たつものなれば  山谷(さんこく)のさかしき所/新開(しんがい)の潮(しほ)けある田また焼畑(やきはた)洪(こう)  水(すい)の跡(あと)の田(た)などに蒔(まき)て益(えき)ある事多し 一/大豆(まめ) 黒(くろ)白(しろ)緑(みどり)黄(き)の四種あり三月上/旬(じゆん)より四月  上旬までを蒔時(まきどき)とす肥地(こえぢ)は却(かへつ)てよからず田(た)の畦(あぜ)  などに泥(どろ)をおきて深(ふか)くさし蒔(まく)べし灰(はひ)もよろし  一尺ばかりの時/梢(さき)をつみてのびぬやうにすべし 【枠外丁数】百廿一 【右丁頭書】 にするもよし作りて二はい酢(す)を かけみつ葉(ば)ちさなどあしらひ或は ちさをもみて鱠(なます)にするもよしまた 大根/茄子(なすび)など取合せ煮付(につく)るも よろし但(たゞ)ししやうゆのしまぬ物な れば烏賊(いか)は別(べつ)にさきへいるべし ○蛸(たこ) 夏(なつ)の頃(ころ)大なるを塩(しほ)ゆでに して生姜酢(しやうがず)にて作り身にするよし さくら煮(に)は醬油にて煮(に)てしやうが おろしを入る也/酒(さか)しほにていりつけ たるもよし大坂のいもたこ汁といふ 物下品なりされど味(あぢ)はよし焼(やき)どうふ などいれて柚(ゆ)の吸口(すひくち)なり又ほそく 切て瓜(うり)なますにしたるもよし ○生海鼠(なまこ) つくりて二はい酢(す)へひたし おろし生姜(しやうが)大根など入るは通例(つうれい)也 ふくら煮とてすまし汁にもする也 【左丁頭書】 藁(わら)を少し入れば和(やは)らかになる也 にえ湯(ゆ)をかけて和らかになりたる を二はい酢へいれおけばいつまでも 味かはらず歯(は)のわろき人もくふべし きくらげしやうがうどなどの類とり 合せて具(ぐ)とすべし ○太刀魚(たちうを) 煮付(につけ)たるは下品なり 近来(ちかごろ)みそづけにして焼(やき)てしきりに 用ゆる也少し上品なりほね切をして 塩やきにもする也此物/至(いたつ)て下品(げひん) なれどはやるにつけて客(きやく)にも出すべし ○のうそうふか これも近来(ちかごろ)より はやる物也/大和国(やまとのくに)にて尤(もつとも )賞翫(しやうくわん)す つくりてあつき湯(ゆ)をとほしからし 酢みそにてくふ也かまぼこにも入る なり煮(に)焼(やき)などしては臭気(しうき)ありて 大にわろし 【右丁本文】 一/赤小豆(あづき) 赤(あか)白(しろ)緑(みどり)の三色(さんしよく)あり麦の跡(あと)に植(うゑ)てよし  夏(なつ)赤小豆(あづき)は少しはやく蒔なり焼地(やけぢ)には灰糞(はひごえ)少し  入るべし薄(うす)くまきて葉(は)のつき合ぬやうにすべし 一/菉豆(ぶんどう) 民家(みんか)多く粥(かゆ)に入て食(しよく)とするものなり  肥過(こえすぎ)たる地はよからず糞(こえ)をも用ゆべからず四月に  まきて六月に収(をさ)め又蒔て八月に収(をさ)む故(よゑ)に二  なり豆(まめ)とも早(さ)なり豆ともいふ味(あぢ)尤よろし 一/蚕豆(そらまめ) 肥(こや)しなくしてよく実(みの)るもの也/湿気(しつけ)ある  こえ地よろし潮気(しほけ)ある新開地(しんがいち)などもよし  但(たゞ)しいや地(ち)をきらふ也/早(はや)く梢(さき)をきりて低(ひき)く  すべし花(はな)多(おほ)くして実(み)よく熟(じゆく)す 一/豌豆(えんどう) 二三月/植(うゑ)てもよろしけれど八月に蒔(まき)  て春(はる)になり早く賞翫(しわうくわん)するかたよしこの苗(なへ)は 【左丁本文】  苗代(なはしろ)のこやしに無類(むるい)の物なりこれに白赤(しろあか)の花(はな)  の差別(しやべつ)あり白(しろ)きはさやながら煮(に)て菜(さい)とすべし  赤きかたは実(み)おほけれどさやは食(しよく)しがたし 一/豇豆(さゝげ) これに色々の種類(しゆるい)あれど赤(あか)き物を貯(たくは)  へて飯(めし)にまぜ用ゆ其外は煮(に)て菜(さい)に用ゆる也 【挿絵】 【枠外丁数】百廿二 【右丁頭書】 ○蜆(しゞみ) みそ汁によしきのめの 吸口よしからし青山枡(あをさんしやう)もよしぬ き身にはかつをゝ入て煮(に)るなり 酒しほをさすべし ○蜊(あさり) これも汁にしてよし蛤(はまぐり) よりは下品なれども風味(ふうみ)あり ○蛤(はまぐり) すましの汁/吸口(すひくち)こしやう 木のめよしみそ汁はきのめふきも よしぬき身にしてみりん醬油(しやうゆ)に 煮しめたるよし桑名(くはな)の名物(めいぶつ)なり ○田螺(たにし) 上方にはやるもの也 味(あぢは)ひなく下品也木のめあへにして よし ○鮒(ふな) 汁にしてよし大なるは 作りてからし酢(す)みそによし近江(あふみ)の 源(げん)五郎/鮒(ふな)は名産(めいさん)にて他(た)に類(るい)なし 常(つね)の川なるも大川はよし小川の物は 【左丁頭書】 臭気(しうき)ありてわろし焼て煮付(につけ) にし又こぶ巻にもする也/山査子(さんさし)の 粉(こ)を入て煮れば骨(ほね)和(やは)らかに してなきがごとくなる也 ○鮠(はえ) 上品なり汁にしてよし 吸口は山(さん)しやうねぶかなどよし焼て 煮付或はてんがくにしてたうからし の粉(こ)をつけたるよし汁には大根(だいこん) ねぶか牛旁(ごばう)などあしらふべし ○もろこ これも大てい右の同じ 上方すぢの名物(めいふつ)なり焼て大こん なすびやき豆(とう)ふなどゝにひたしに するもよしねぶかを入るもよし ○鯰(なまづ) 塩(しほ)にてねばりをとり をはきて汁にするよし茄子(なすび)ねふか などあしらふべしひらき焼(やき)にして せうが山しやうの醬油をつけやき 【右丁本文】  三月の初(はじめ)灰(はひ)ごえを少し用ひてうゝべし六月/実(みの)る  を収(をさ)めおくべし 一/扁豆(あぢまめ) たう豆/隠元(いんげん)さゝげ垣豆(かきまめ)などいふ皆(みな)この  類なり白(しろ)きは白扁豆(はくへんづ)とて薬(くすり)に用ゆ秋の末冬  の初までもなりて莢(さや)ながら煮(に)て菜(さい)とすべし  根(ね)を肥地(こえぢ)にうゑてよく蔓(はびこ)ればつるは屋(や)のうへ  又/蘺(かき)などにまとはせ置て風(かぜ)のあたるをよしとす  三月の節(せつ)/種(たね)を下し少し土(つち)をかけ灰(はひ)にておほふ  べし三四寸の時(とき)わけてもよし 一/刀豆(なたまめ) 三月初うゑ灰(はひ)にて覆(おほ)ひ古(ふる)き菰(こも)の類(るい)を  おほひ置べし肥地(こえぢ)にこやしを用ひてよし 一/胡麻(ごま) 白(しろ)黒(くろ)赤(あか)の三色あり黒(くろ)きを薬(くすり)とす三  四月/雨後(うご)にまく砂地(すなぢ)の肥(こえ)たるによしまき糞(ごえ) 【左丁本文】  を多く入るべし 一/薏苡(よくい)【左ルビ ツシダマ】 二種あり粒(つぶ)の細長(ほそなが)きをよしとす地は  湿気(しめり)ある処よし尤/肥(こや)しを多く好(この)むもの也五六  寸に一本(いつほん)づゝうゑ厚(あつ)く土をかくべし四月にまく  べし川のはたなどによく実(みの)るなり皮(かは)を去(さり)  て喰(くら)ふに麦(むぎ)のごとし四国麦(しこくむぎ)ともいふ 一/罌子粟(けし) 八月/種(たね)を下し灰(はひ)人糞(にんふん)を薄(うす)くして  度々そゝぐへし灰(はひ)ごえもよろし  ○菜類(さいるい) 一/大根(だいこん) 四季(しき)共(とも)にあれども七八月/蒔(まき)て冬(ふゆ)用るを  第一の美味(びみ)とす其/種(たね)も国(くに)によりてさま〳〵異(こと)也  諸国(しよこく)に名産(めいさん)多し其(その)種(たね)を移(うつ)し植(うゆ)れば一二年は  そのさまに生(おひ)たつもの也/大方(おほかた)砂地(すなぢ)の物もろくして 【枠外丁数】百廿三 【右丁頭書】 【挿絵】 にしてよし ○鰯(いわし) 塩やき酢(す)いりなど常(つね)の ことなり酢にひたしてきらす にたゝむもよし山椒(さんしやう)生姜(しやうが)など 香気(かうき)あるものをいれてあしき臭(にほひ) をさるべし此外めづらしき事も あるべけれどいづれ下品(げひん)なり。 はかりいわしとて小(ちいさ)き内にはぬた又 【左丁頭書】 酢(す)いりなどにしてよしあぶりて から汁にいれたるもよし ○つなし 早(はや)ずしにわりて漬(つけ)る を第一の味(あぢ)とす生姜(しやうが)木(き)くらげ 炒(いり)をの実(み)などいれてよしやきて醬(しやう) 油(ゆ)をかけ或はねぎとなんば煮(に)に するなどは下品なり骨(ほね)ともに さく〳〵と細(ほそ)くつくりからし酢(す)の ぬたにしたるもよし田楽(でんがく)もよし ○このしろ つなしの大なるなり つかひかた大かた同じ ○ざこの類 雑喉(ざこ)は大かたいり つけてむかふ付にする也/油(あぶら)つよき 魚(うを)は酢いりよしえびざこなどは 中に上品なり又/菜(な)のるいと煮合(にあは)せ 或(あるひ)は汁にもする也かますごといふ 物はいかなごともいふ生(なま)なるはあぶら 【右丁本文】  太(ふと)くなり香物(かうもの)にして味(あぢ)よし煮(に)てくふには赤土(あかつち)  の和(やわ)らかなる処(ところ)のもの味甘くして和(やわ)らか也いかほど  も深(ふか)くうち返し濃(こき)糞(こえ)を多くうちほしつけ置  て蒔(まく)べし六月にまけば早(はや)く太(ふと)くなれど虫(むし)生(しやう)じ  安(やす)し所によりて差別(しやべつ)あるべし油糟(あぶらかす)干鰯(ほしか)人糞(にんふん)  いづれも多(おほ)く用ゆるほどよし夏大根(なつだいこん)は別(べつ)に一種(いつしゆ)  なり春(はる)の彼岸(ひがん)過にまく也此外/種類(しゆるい)おほし 一/蕪菁(かぶらな) 大根(だいこん)より廿日(はつか)もおそくまく也/赤(あか)かぶ  らといふ一種(いつしゆ)ありふるき家跡(いへあと)などによく蔓(はびこ)る也  灰糞(はひごえ)にてまくべし蒔(まき)たる上を少(すこ)しふみたるが  よし雨後(うご)は其まゝにてもよし中うちはせぬ  方よし上(うへ)に根(ね)をあらはしたるがよし民家(みんか)の  食物(しよくもつ)に無類(むるい)の物なり 【左丁本文】 一/菘(な) 菘(すう)の類に種々(しゆ〴〵)あれと水菜(みづな)これにあた  れり作(つく)りやうは蕪菁(かぶら)のごとし上品なり 一/油菜(あぶらな) 八月にまき冬中(ふゆぢう)の菜(さい)とし香物(かうのもの)にす  味(あぢ)尤(もつとも)よし十月/或(あるひ)は正月の比/移(うつ)し植(うゑ)て三月  の比/花(はな)さき実(みの)るを収(をさ)めて油(あぶら)にしぼる大に利益(りえき)  あり麦作(ばくさく)に換(かふ)る所もあり 一/芥(からし) 八月/苗地(なへぢ)を打かへし能(よく)こやしうすく蒔(まき)  苗(なへ)四五寸の時/肥地(こえち)を畦(うね)つくりし一尺はかりに一本  づゝうゑ濃(こき)糞(ふん)灰(はひ)ごえ水ごえとも多(おほ)くそゝぐべし  冬(ふゆ)春(はる)葉(は)をかぎ洗(あら)ひて水気を乾(かわか)し少々色づき  たる時/塩漬(しほづけ)にして食(くら)ふべし実(み)を搗(つき)て料理(れうり)に  つかふ事人の知るがごとし 一/胡蘿蔔(にんじん) うゑやう大根(だいこん)にかはる事なし 【枠外丁数】百廿四 【右丁頭書】 つよきに過て臭気(しうき)あり塩(しほ)いりに して売るもの味(あちは)ひよろしく上品 なり二はい酢(す)又/酢(す)みそなどにて 向へ付るちさの葉(は)三葉(みつば)などあし らひてよしみそ汁に入てもよし 西国(さいこく)にてはいかなご醬油(しやうゆ)とて塩(しほ)を あはせて貯(たくは)へ置其汁をものゝ煮出 にすることありめづらしきもの也 ○さいら 江戸(えど)にてさんまといふ いりつけて向(むかふ)へつける也/酢(す)いりのかた よろしこれも下品なり  ◦塩魚(しほうを)の類 ○塩鯛(しほだひ) 昆布(こんぶ)を入てすまし 汁にしこせうの吸口(すひくち)よし大根(だいこん)と せんば煮(に)にしてもよし其外/菜(な)の 類と煮合(にあは)せてもよし ○塩ぶり 酒煮(さかに)にして味ひよし 【左丁頭書】 なますにしたるもよし其外は 上にもいへり ○鯨(くじら) 塩くじらは牛蒡(ごばう)のさ さがき大こんなど取みそ汁にし たるもよしすましにて柚(ゆ)山(さん)しやう の粉など吸(すひくち)にするもよし水菜(みづな)に 取合せて平(ひら)にも付るなり若菜(わかな) ねぶかにんじんなとも入べし 皮(かは)くじらは夏までも用る物なり 牛蒡(ごばう)なすびなどいれて汁にもし 大根(だいこん)ねぎなどをも取合(とりあは)すべし 吸口/唐(たう)がらし干さんしやうよろし 煮付(につけ)ても用ゆ茄子(なすび)かもうりなど 取合(とりあは)せてこしやうをかけ平(ひら)にすべし 又/細(ほそ)くつくりからし酢(す)みそにてあへ 又ねぶかなと取合せてさし身にも する也さし身は湯(ゆ)をかけてよし 【右丁本文】 【挿絵】 一/茄子(なすび) 種子(たね)は二番(にばん)なりのうるはしきがよく熟(じゆく)し  たる時わりて子(み)をあらひてよく乾(かわか)し収(をさ)めおくべし  苗地(なへち)はよく糞(こえ)をしおきて細(こま)かにうち二月の中(ちう)  過(すぎ)て蒔(まく)べし二三寸の時うつし植(うゑ)て水ごえなど  よろし肥(こやし)多ければよく栄(さか)えて実(み)おほくとれる也  地(ぢ)に焼(やき)ごえしたるもよろし 【左丁本文】 一/菠䔖(ほうれんさう)【䔖は薐】 秋のひがんに実(み)を蒔(ま)き人糞(にんふん)小便(せうべん)など  そゝぐべし畑(はた)にうゑ付(つけ)にしたるがよし 一/萵苣(ちさ) ちさに色々ありきぬぢさといふ一種  和(やわ)らかにして長(なが)く葉(は)の盛(さかん)なるあり植(うゑ)て益(えき)有(あり)  八月早くまき肥地(こえぢ)にうね作してうつし植(うゝ)べし  春(はる)になりて植(うゑ)かへたるは早く用にたちがたし  泔水(しろみづ)に小便を合せてそゝぐべし 一/莙薘(たうぢさ) 二月/蒔(まき)て四月にうゑかふべし秋まきたる  もよし灰(はひ)に小便をそゝぎてよし 一/茼蒿(しゆんきく) 秋のひがんに種(たね)をまき肥(こやし)は灰(はひ)小便(せうべん)など  そゝぎてよし香気(かうき)ありて風味(ふうみ)よし 一/百合(ゆり) 根(ね)を食(くら)ふべし根をとる時少し取残(とりのこ)しおき  てそれを植(うゝ)れば子(み)まきよりよく栄(さかゆ)る也/灰(はひ)ごえよし 【枠外丁数】百廿五 【右丁頭書】 ○塩いわし 生(なま)よりは上品なり やきて茶漬(ちやづけ)の菜(さい)にする妙なり 麦飯(むぎめし)に菜汁(なじる)などの向(むかふ)へつくべし ○さば 塩の甘(あま)きはつくりても よろし早(はや)ずしにつけたるもよし よく〳〵塩出(しほだ)しをすべし水だきに してこしやうの吸口あるひはやきて たで酢(す)をかくるもよし但(たゞし)からきはわろし 【挿絵】 【左丁頭書】 又/焼(やき)て若狭辺(わかさへん)より出すあり 京大坂にて殊(こと)にはやるものなり 風味(ふうみ)大によろし煮(に)びたしなどに してよし又さしさばとて盆(ぼん)の頃 諸国(しよこく)へ出すものあり塩(しほ)からくして 下品(げひん)なり塩(しほ)を出したで酢(ず)に花(はな) がつをなどあしらひて用ゆ ○塩鰆(しほさはら) 水だきにしてよし 塩のすくなきはあんかけにしてもよし いよ〳〵あまきは作(つく)りても用ゆまた 干(ひ)ざはらありむしり身(み)にして酒(さけ)を かけて用ゆべし ○しいら さはらに大かた同じ 少(すこ)し品(しな)おとれり ○小鮎(こあゆ)ざこ 所によりていりぼし といふもの也これにいわしごかます ごまゝかりごなどの差別(しやべつ)あり小鮎(こあゆ)と 【右丁本文】 一/葱(ねぎ)【左ルビ ひともじ】 十月種をまき灰(はひ)ごえを根廻(ねまは)りへ入根もとへ  わらごみをおくべし湿気(しつけ)ある細沙地(こすなぢ)によし春(はる)夏(なつ)  うゑて菜(さい)とする物/同種(どうしゆ)なれど味(あぢ)異(こと)なり苅葱(かりぎ)と  いふありうゑ付(つけ)にして年中(ねんぢう)かりて用ゆべしすべて  葱(き)の類は次第(しだい)に根(ね)に培(つちか)ひて白根(しろね)の長(なが)きを賞(しやう)  すべしわけ葱(ぎ)といふ又/一種(いつしゆ)なり春(はる)になりて分(わけ)て  うゝる故の名(な)なれど秋うゑて春(はる)早(はや)く食(くら)ふを賞(しやう)  翫(くわん)する事也/小葱(あさつき)は葱(ねぎ)の小(ちひさ)きもの也八月に  種(たね)を下し三月/初(はじめ)にかりて食す 一/韮(にら) 九十月種をまき二月分うゑて魚洗汁(うをのあらひしる)  人糞(にんふん)少し用ゆ但しこれも根(ね)を分(わか)ち秋うゑ置て  春早く賞(しやう)する方よろし 一/蒜(にゝく)【左ルビ ひる】 よくこえて軟(やわら)かなる地に浅(あさ)く植(うゝ)べし 【左丁本文】  湿気(しめりけ)ある処はわろし種(たね)は大なる方よろし大に臭(くさ)  きものなれども色々(いろ〳〵)薬(くすり)となりて益(えき)あるものなり  暑中(しよちう)これを食(くら)へば霍乱(くわくらん)を病(やむ)ことなしこやしは牛(ぎう)  馬(ば)の糞(ふん)芥(あくた)などいれ水ごえをそゝぐべし六月よ  り八月までに蒔(まく)べし小蒜(のびる)は臭気(しうき)甚(はなはだ )少(すくな)し早く  うゑてよし 一/薤(らつきやう) 白砂(しらすな)の和(やわ)らかなる肥地(こえち)によし二三月/分(わけ)て  四五本づゝ植べし湿気(しつけ)をにくむ物也/根(ね)を三盃(さんはい)  酢(ず)に漬(つけ)て食(くら)ふ味(あぢはひ)よろし 一/薑(しやうが)【左ルビ はじかみ】 少(すこ)し木陰(こかげ)ある地よろし細沙(こまずな)の肥(こえ)たる所に  うゝべし馬糞(ばふん)芥(あくた)を根廻(ねまは)りへ入れ水ごえをそゝぐ  又/人糞(にんふん)油糟(あぶらかす)を入るもよし日でりにいたみ湿気(しつけ)  にもいたむものなればよく地を撰(えら)ぶべし 【枠外丁数】百廿六 【右丁頭書】 といふは中に白(しろ)き一種(いつしゆ)にて大坂の 川口(かはぐち)へんにてとる物也/氷魚(ひを)の類(るい)也 ちひさきはちりめんざこといふ此等(これら) の物/日用(にちよう)に益(えき)あり煮出(にだ)しにいれ 汁にいれ或(あるひ)はそのまゝにて酢醬油(すしやうゆ) をかけおろし大根(だいこん)たでなど入るなり なますにしてもよし ○ごまめ たつくりといふ物なり 引さきてなますとするは古風(こふう)なり いりつけにして唐(たう)がらしをかけ向付(むかふづけ) にするもよし但しほうろくにて炒(いり)て 後(のち)醬油にて煮(に)ればもろくなる也 ○ぼう鱈(だら) 松前(まつまへ)より出るもの京 大坂に多(おほ)し水にかしおきて大根(だいこん)白(しろ) まめこんぶなとに取合せて煮(に)る也 大根とみそ汁【かけヵ】にするもよしよく 〳〵酒(さけ)にて煮(に)れば和(やは)らかになりて 【左丁頭書】 味(あぢは)ひよしかしたる内/度々(たび〳〵)水をか へてよし川にかすは大によし ○いりがら かはべくじらとも云 わけぎに取合せ酢(す)みそあへに してよし汁に入てねぶかとた き合せたるもよし菜(な)と煮(に)たるは 大に下品なり ○鯡(にしん) 昆布(こぶ)まきにしまた平 こんぶと煮(に)てむかふへ付るいかにも 下品なる物なり白水(しろみづ)にひたし置 砂糖(さたう)あめなど入て煮(に)ればし ぶみぬけて味ひよし ○するめ かつをぶしのかはりに 煮出(にだ)しに遣(つか)ふ引さきてなますに しまたつけ焼にして酒(さけ)の肴(さかな)にす る事あり又でんぶとてけづり たるありいつれも上品なり 【右丁本文】 一/款冬(ふき) 木陰(こかげ)にうゑて肥(こやし)を用(もち)ひず細(こまか)き塵(ちり)を  根(ね)もとへ入おけばよくはびこる也 一/独活(うど) 山地(やまぢ)などの荒(あれ)たる地を二三尺もほり中を  平(ひら)にして低(ひく)き所へうゑつけ細(こまか)き塵(ちり)芥(あくた)を段々(だん〳〵)に  厚(あつ)く覆(おほ)ひ芽(め)の出る時/芥(あくた)を取(とり)のけ芽(め)を切べし  跡(あと)をもとのごとくすれば又/芽(め)を生(しやう)ずる也 【挿絵】 【左丁本文】 一/紫蘇(しそ) 正月/熟地(じゆくち)に苗床(なへどこ)を作りて灰砂(はひすな)に  合(あは)せうすく蒔(まき)て土(つち)をおほひおくべし三月うね  つくりし間を遠(とほ)くうゝべし大方(おほかた)は肥地(こえぢ)の畑(はた)の  端(はし)々に少しづゝまきおけばおのづから栄(さか)えて一(いつ)  家(か)の用にはたつものなり 一/芋(いも) 芋に種々(しゆ〴〵)あれど青芋(ゑぐいも)殊(こと)に根(ね)の多く出  来るもの也/紫芋(たうのいも)又/味(あぢは)ひよし池(いけ)川(かは)の辺(ほとり)など  水気(すゐき)ありて湿気(しつけ)のもれやすき所の軟(やはら)かなる所  よし深(ふか)さ二三寸にうゑて牛馬糞(ぎうばふん)のあくた枯(かれ)  草(くさ)の類を根廻(ねまは)りに入れ追々(おひ〳〵)に土(つち)をかくれば  子(こ)おほく出来るもの也十月に掘出(ほりいた)し日あたり  よき地(ち)を深(ふか)くほりて埋(うづ)めおけば冬春までも  よくもつなり茄蓮(はすいも)は茎(くき)葉(は)を生(なま)にて食(くら)ふべし 【枠外丁数】百廿七 【右丁頭書】 右にあぐるものは誰(たれ)も知たる事 にて珍(めづ)らしからぬ事なれども 片山里(かたやまざと)などにては時として日々(にち〳〵) のばん菜(ざい)にも思ひ付のなきこと あるものなればとてあら〳〵 その仕方(しかた)を挙(あげ)たる也されど又 臨時(りんじ)の客(きやく)などあらんをりの心 得にもとて一汁(いちじう)一菜(いつさい)の料理(れうり) 年中(ねんぢう)の事どもを左(さ)に出すさ れど是またあながちに拘(かゝは)り なづむべからず是を見て思(おも) ひ付(つき)有合(ありあは)せたる物にて手がろく 気転(きてん)よくして早(はや)く間(ま)にあふ を専(もは)らとすべしすべて素人(しろうと)の 料理(れうり)献立(こんだて)は念(ねん)の入/過(すぎ)て手 もとのおそきはわろきもの也/早(はや)く 間(ま)にあひてきれいなるをよしとすべし 【左丁頭書】 【項目枠】 正月       同        同 煮物(にもの)       なます皿(さら)    汁(しる) 【一列目枠】 白うを      鯛うす      小かぶら  うど       づくり      つみ入   たんざく   きくらげ 玉子とぢ       せん   にして    大こん      赤がひも 浅草のり      くり       よし            せうが 【二列目枠】 鴨(かも)        なまこ      ねいも  ねぎ       おろし      うど みさん椒(せう)        大根 或は       茗荷(みやうが)       又 千/牛蒡(ごばう)        たけ      かまぼこ  もよし      生姜(しやうが) 【三列目枠】 まてがひ     きすご      白うを   くわゐ     赤がひ      わかな  つく〴〵し   めうど      又あゆご 或は        ばうふう     ほうれん  あはび     せうが          草   わかな  こしやう 【四列目枠】 はんぺい     いかせん     やきどうふ  みつば      大根たん     さいのめ に椎たけ         ざく  おとし玉子   木くらげ     はらゝご 木のめ        うど      或は 又        せうが        ほしこ  かまほこにても   しそ 【右丁本文】  仏掌藷(つぐいも)は四月比切て灰をつけ山地(やまぢ)の畑(はた)を四五  寸(すん)ほり土をよくこなし竹(たけ)の葉(は)を多くまぜてうゑ  おき蔓(つる)出て後/人糞(にんふん)を入べし 一/甘藷(さつまいも) 砂地(すなぢ)にて作るもの味(あぢ)よし多くは海島(かいたう)よ  り出すなり暖地(だんち)ならざれば生(はえ)がたし四月うゑて  後/蔓(つる)一二尺になればまげて地(ち)へふせ土をかくれば  節(ふし)より根(ね)を生ずる也かくのごとく度々してよし  此物/肥(こやし)を用ひずして尤/得益(とくえき)あるもの也 一/瓜(うり) 白瓜(しろうり)胡瓜(きうり)甘瓜(あまうり)【左ルビ まくは】醬瓜(まるづけ)など種々(しゆ〳〵)あり大抵(たいてい)  三四月/種(たね)をまき一寸ほどの時/畑(はた)へうゑ垣(かき)を結(ゆひ)て  はひかゝらする也/甘瓜(あまうり)などは麦(むき)わらを敷(しき)てははせ  おくよしどふの泥(とろ)に人糞(にんふん)をまぜそゝぐべし一尺  ほどになり蔓(つる)出ればしんのさきをとめてよし 【左丁本文】  又/干鰮(ほしか)を粉(こ)にして砂(すな)にまぜ根廻(ねまは)りに入るもよし  種(たね)をたくはへおくには冬より熱(あつ)き牛糞(うしのふん)にまぜ  置き凍(こほ)らせて後少しめりある日陰(ひかげ)におけば蒔  て後(のち)大に栄(さか)ゆるものなり 一/冬瓜(とうくわ)【左ルビ かもうり】 灰(はい)に小便(せうべん)をうちて泥(どろ)にかきまぜ地に厚(あつ)く 【挿絵】 【枠外丁数】百廿八 【右丁頭書】 【一列目枠】 岩(いは)たけ     塩さけ      わかめ  くるみ      おごのり ごはう      つく〴〵し   山せう       くり    たんざく 又わかめ       わさび     うど   などよし   わかめもよし 【項目枠】 二月       同        同 煮物       鱠皿       汁 【二列目枠】 白むめ      いせ海老     鯛さいのめ  ぼし       くらげ     みつば きざみ      めうど  あらめ      たで      又 大黒         せうが     きのめ   まめ                 にても 【三列目枠】 白魚       さより      はまぐり  赤がひ       ほそ作り    ほしな みつば      うど  玉子       つく〴〵し   ゆば   とぢ     しそ        つく〴〵し           せうが 【四列目枠】 山のいも     大こん      おこぜ  かんひやう    にんじん     かはをむき  しいたけ    わりご         うど   花がつを     まめ      たんざく           せうが 【左丁頭書】 【挿絵】 【五列目枠】 生        ふな       ちさ  わらび      大こん       のは やき       木くらげ  どうふ      うど      つみ            九ねんぼ    いれ             せうが 【六列目枠】 焼ふな      赤がひ      しゞみ  わらび      さゞい      木のめ 塩        大こん      又  まつたけ      せん      まてがひ          たうがらし            たで 【右丁本文】  しき三四尺も間(あひだ)をおきて一粒(いちりう)づゝ種(たね)をまくべし  根(ね)つきて後/人糞(にんふん)をわら塵(ごみ)に合せ根廻(ねまは)りに置  魚洗汁(うをあらひしる)水ごえなどそゝぎてよし  番南瓜(ぼうぶら)【左ルビ なんきん】 作る法大かた瓜類(うりるい)に同じ 一/壷盧(ゆふがほ) 四月初/種(たね)をまき灰(はひ)ごえを入てまくべし  海辺(かいへん)南向(みなみむき)の砂地(すなぢ)によろし鳥糞(てうふん)など入てよし 一/糸瓜(へちま) 四月初まき竹(たけ)にまとはし人糞/魚洗汁(うをあらひしる)  などかけてよし小きうちに味噌(みそ)をつけ焼(やき)てくらふ  又つけ物にもよし蔓(つる)を裁(たち)て切口(きりくち)を陶(とくり)などにさし  おけば水多く出るこれ痰(たん)の妙薬(めうやく)なり婦人(ふじん)の化粧(けしやう)  水に用ること近来(きんらい)流行(りうかう)せり 一/西瓜(すいくわ) うゑやう瓜のごとし海藻(うみのも)を多く入たるよし  地は砂地(すなぢ)にて暖(あたゝか)なる所よし瓜(うり)よりはこやしを多く入べし 【左丁本文】  さきをとめずして無用(むよう)の蔓(つる)を切すつべし 一/瓢(ひさご)【左ルビ ふくべ】 此類(このるい)多くあり甘(あま)きは胡盧(ゆふがほ)とて干瓢(かんひよう)にする也  上に出す苦(にが)きは酒器(しゆき)にし酌(しやく)に作(つく)る大なるあり小き有  長(なか)きあり円(まろ)きあり各々(おの〳〵)好(この)むところの種(たね)をえらひて  植(うゝ)べし肥地(こえぢ)をふかく耕(たがへ)し底(そこ)の土をつきかためて  其中に肥土(こえつち)をいれ鳥(とり)の糞(ふん)などを多くいれおし  つけ水にてこね種(たね)を四/粒(りう)づゝ入/灰(はひ)ごえをおほひお  くべし生出(おひいで)て後/糞水(ふんすゐ)を度々そゝぎ花(はな)を見て  さきをとむべし 一/筍(たけのこ) 五月十三日を竹酔日(ちくすゐじつ)といひて此日/竹(たけ)を植(うゝ)  れば必(かならず)よく生(おひ)つくといへり冬(ふゆ)根(ね)もとへ籾糠(もみぬか)をいれ  馬糞(ばふん)を多くいるれば竹子(たけのこ)ふとくして数本出る也 一/薯蕷(やまのいも) 山芋(わまのいも)を作(つく)る法/細砂(こずな)の地いかにも軟(やはら)かなる 【枠外丁数】百廿九 【右丁頭書】 【項目枠】 三月       同        同 煮物       なます      しる 【一列目枠】 水ぶき      さき鮎(あゆ)     小しひ  干いか      くり       たけ  きのめ      しそ           たで      つみいれ            せうが     豆腐(とうふ) 【二列目枠】 あげ       たひ       ふき  どうふ      さいのめ     こぐち  但本ごま    せんうど       きり ほし大根      きくらげ  せうが       せうが    やき                    どうふ 【三列目枠】 小がも      大根       大 つみ        たんざく     はまぐり  こんにやく   はまぐり       むきみ 新          むきみ    わらび  ごぼう     たうがらし      のほ             みそ    又あさりも 【四列目枠】 するめせん    さはら      塩かも ごまめ       ゆの皮 小えび        うど     いてう  に早こんぶ    はせうが     大こん  はり        からしず    こせう   ごぼう 【左丁頭書】 【五列目枠】 焼(やき)もろこ    鳥貝(とりがひ)       ほし  ねぶか     うど        大こん 粉山椒(こさんしやう)       しらが     うす切          たうからし    もみのり           みそあへ    或は                    わかめ 【項目枠】 四月       同        同 煮もの      なます      汁 【六列目枠】 やき鮎(あゆ)     あぢ       えび  竹の子      白うり     いんげん          めうが        まめ          とうがらし 【七列目枠】 茄子(なすび)       松魚       なすび  あぶらに     きうり      小口切  又さかに    三ばいず     赤えひ からし       せうが      さいのめ  又はせうが 【八列目枠】 ほしこ      かれひ      新  山の芋      夏大根      そら豆 あんかけ      葉せうが    かま          二はいず       ぼこ 【右丁本文】  地(ち)を深(ふか)くすきて畠(はたけ)に長(なが)く溝(みぞ)をほり深さも  広(ひろ)さも二尺ばかりにして牛馬糞(ぎうばふん)と土とあはせ  半分(はんぶん)ほど入(いれ)芋(いも)の長きを撰(えら)び三四寸に折(をり)五六寸  をおきて横(よこ)にねさせ其上より又/糞土(ふんど)を三四寸の  ほどおほひ置/乾(かわ)けば水をそゝぐべし多(おほ)く水の過るは  よからず油糟(あぶらかす)干鰯(ほしか)の類は遠(とほ)く掘(ほり)て入るべしこやし  多ければよく出来る也/霜(しも)ふりて掘(ほり)出すべし蔓(つる)  は竹をたてゝはひまとはすべし 一/甘蔗(さとう) 海辺(かいへん)の砂(すな)真土地(まつちぢ)に植(うゝ)べし去年(きよねん)かこひ置  たる茎(くき)を二節(ふたふし)こめて切/芽(め)の所を横(よこ)にして一足(ひとあし)  ほどの間に一本(いつほん)うゑはえて後/魚(うを)の洗汁(あらひしる)をそゝぎ  傍(かたはら)に生(しやう)ずるひこばえを切取べし秋(あき)にいたりて茎(くき)に  汁(しる)の満(みち)たる時切とりてしめ木にかけて汁(しる)を取(とり) 【左丁本文】 【挿絵】  煎(せん)じ蛤粉(がふふん)を入さましおけば黒砂糖(くろさたう)となる是を  また素焼(すやき)の瓶(かめ)に入二たびせんじて下に溜(たま)るもの  白砂糖(しろさたう)なりさて秋(あき)切とる時あまり太(ふと)からずして  実(みの)りたる茎(くき)を撰(えら)み来年(らいねん)の種(たね)にたくはふべし  其(その)茎(くき)を砂(すな)に入日あたりよき高(たか)き地(ち)をほりてうめ 【枠外丁数】百三十 【右丁頭書】 【一列目枠】 やきどうふ    鮭(さけ)        小あゆ  わらびほ    たで  つまみ麩(ふ)     葉せうが    ほう   こせう    花ゆ        れん草 【二列目枠】 鯛切身      さはら      新ごぼう  はつなすひ    初うり      葉とも   さや豆    又/冬瓜(かもうり)      ざく〳〵 はせうが     むして      青           葛あん      さんせう 【項目枠】 五月       同        同 煮物       なます皿     しる 【三列目枠】 鳩(はと)ほねとも    小だひ      青  たゝき      ほそ       さぎ ねぜり        さゝげ    ごばう  きはつ      くり        せん   たけ       はせうが 【四列目枠】 いんげん豆    さより      竹の子  なすび      糸づくり     のさき なまぶし     白うり      すり身           みやうが     つみて             しそ 【左丁頭書】 【五列目枠】 こゞり      なまぶし     ほねぬき  こんにやく    むしりて     どじやう みりん仕立    きうり      ふき こせう       しそ       すり山椒    かけて     たで     あかみそ 【六列目枠】 雲雀(ひばり)       まゝ       かつを  たゝきて     かり けづり      やきて      長刀なす  ごばう     おろし       こせう さんせう       大こん           せうゆ 【七列目枠】  あらひ      えび       ひふぐ   鱸(すゞき)       塩ゆで     そら ぼう         さきて      まめ   ふう     大こんせん     ふき わさび        せうが   醬油     二はいず 【項目枠】 六月       同        同 煮物       鱠皿       汁 【八列目枠】 はも       えび       かは  ほねきり     くらげ      くじら すり       たで         ふき   せうが      しそ     さんしやう  あんかけ       ゆ          だい〴〵ず 【右丁本文】  おき春(はる)になりて掘(ほり)いだし植(うゝ)べし    右に挙(あぐ)る所の諸菜類(しよさいるい)は人民(じんみん)日用(にちよう)の物に    して何方(いづかた)にも作(つく)りおぼえたる事なれば今更(いまさら)    にこと〴〵しく出すべきにはあらざれども聊(いさゝか)    心を用れば大に益(えき)あるべき事なれば大概(おほかた)    を示(しめ)したる也/此余(このよ)にも猶多く且(かつ)薬種(やくしゆ)の    作(つく)りやう製(せい)しやうなどの事も大に益(えき)あ    る物なれどそは又/後篇(こうへん)に委(くはし)くすべし    次(つぎ)の菓木(くわほく)の条(でう)もこれに同じ   ○果木類(くわぼくるい) 一/梅(むめ) 冬(ふゆ)の内/根廻(ねまは)りを掘(ほり)人糞(にんふん)を入れば来年(らいねん)  実(み)多(おほ)し二月初/桃砧(もゝだい)へ接(つげ)ば早くなる也/梅砧(むめだい)は  却(かへつ)てわろしさて根(ね)へ土を高(たか)くかけておけば 【左丁本文】  自然(しぜん)に梅(むめ)より根(ね)を生(しやう)じ桃砧(もゝだい)は朽(くつ)るものなり  梅の類/種々(しゆ〴〵)あれど実(み)をとるは花(はな)の遅(おそ)き実(み)の  大なるがよし 一/桃(もゝ) 桃(もゝ)も種類(しゆるい)多(おほ)し若木(わかき)の内/実(み)うるはしくて  やに少し十年の後(のち)は老(おい)て実(み)すくなく脂(やに)多  し故(ゆゑ)に実(み)蒔(まき)にすべし秋(あき)まけば春(はる)生(しやう)ず真土(まつち)に  植(うゑ)たるは早く栄(さか)ゆる也/赤土(あかつち)は虫(むし)生(しやう)ず湿地(しつち)又わろ  し脂(やに)多(おほ)くなる也日あたりのよき乾(かわ)き地(ち)に植(うゝ)べし  二月/初(はじめ)桃砧(もゝだい)へ接(つぎ)たるがよし若(もし)実(み)にやに多くば  幹(みき)を疵(きず)つけ削(けづ)りなどして脂(やに)を多く出すべし  さすれば実(み)にやに出ず冬/糞(こえ)を入てよし 一/杏(あんず) 杏砧(あんずたい)桃砧(もゝだい)に接(つぎ)てよし植(うゑ)やう梅に同じ 一/李(すもゝ) これも梅(むめ)桃(もゝ)に同じ実(み)は秋(あき)まきてよし冬(ふゆ) 【枠外丁数】百卅一 【右丁頭書】 【一列目枠】 豆腐(とうふ)やつこ    あぢ       小あぢ  しそたで     やきて      なすび 青たうがらし   たでず      たで   やきて    しそせうが 【二列目枠】 茄子(なすび)       すぐき      ひばり  松もどき     竹の子      たゝき あふらあげ    はせうが     はり   ほそ切      たで酢      ごぼう          はなゆ        山せう 【挿絵】 【左丁頭書】 【三列目枠】 なんきん     石がれひ     干だら  なすび      赤がひ      やきどうふ うまに        きうり     水ぶき            せうが 【四列目枠】 たまご      いわし      つみ  そうめん     さきて      いれ しひたけ     たうがらし   せん       みそ  せうが     大こん      めうが           たんざく      たけ 【項目枠】 七月       同        同 煮物       なます      しる 【五列目枠】 かしら芋      せいご      いもまき           うす作り     いんげん あぶら      大根せん       さゝげ  あげ       きくらげ    青のり            せうが 【六列目枠】 新はす根     いな       えび  牛ばう      はすいも     うどんご いもずいき     たう        つみいれ  はぢき       がらし    なすび   えだ豆    めうが           たで            しそ 【右丁本文】  人糞(にんふん)獣肉(じうにく)などいれてよし 一/梨(なし) 砂(すな)まじりの真土(まつち)によろし根(ね)の土はしまり  たる方よし寒中(かんちう)人糞(にんふん)酒糟(さけのかす)油糟(あぶらかす)獣肉(じうにく)など  根廻(ねまは)りをほりて入れば実(み)多(おほ)し高(たか)さ五六尺に  棚(たな)をゆひかき付てよし花(はな)の咲(さき)たる時/一房(ひとふさ)の内  大なるを一ッ二ッ残してあとを摘(つみ)すてゝよし又  実(み)になりたる時あたり合(あは)ぬ様(やう)に間引(まびき)てよし  これも種類(しゆるい)多(おほ)し水気(すゐき)おほく味(あぢ)よきを撰(えら)びて  植(うゝ)べし接(つぎ)たるは早く実(みの)る也春までも貯(たくは)へおくに  は木梨(きなし)とてかたきがよし 一/柿(かき) 種類(しゆるい)甚(はなは)だ多し種(たね)を植(うゑ)たるは多くは  渋柿(しぶかき)となる物なれば接木(つぎき)にすべし彼岸(ひがん)より  廿日ばかりして渋柿(しぶかき)へ接(つぎ)てよしみづきたる苧(を) 【左丁本文】  にてかたく巻(まく)べし冬中(ふゆぢう)に糞肉(ふんにく)を入る事  諸木(しよぼく)と同じ六月/土用中(どようちう)に一度/肥(こやし)を用れば  秋に至(いた)りて実(み)落(おつ)ることなし柿(かき)を植(うゝ)るは  九十月の比(ころ)よろし渋柿(しぶかき)は土用/前(まへ)にとりたるが  つよくてよし 一/蜜柑(みかん) 紀伊国(きのくに)より出るを名産(めいさん)とす暖国(だんこく)の赤(あか)  土(つち)によろし柚(ゆ)又/枸棘(からたち)へ接(つぎ)てよし冬/人糞(にんふん)獣肉(じうにく)  など根廻(ねまは)りへ入てよししろ水をそゝげは実(み)落(おち)  ずといへり七月には肥(こやし)を忌(いむ)べし 一/香橙(くねんぽ) これも暖地(だんち)によろし冬/人糞(にんふん)に灰(はひ)を  まぜて多く入べし夏(なつ)の比(ころ)心をつけて虫(むし)を去(さる)  べし二月/比(ごろ)枸棘砧(からたちだい)によび接(つぎ)切接(きりつぎ)にするなり 一/金柑(きんかん) 山の赤土(あかつち)野土(のつち)によし其外は蜜柑(みかん)に同じ 【枠外丁数】百卅二 【右丁頭書】 【一列目枠】 焼はぜ      醋蛸(すだこ)        ぼら  ぜんまい              とうふ 山のいも      すり      わかさんしよ            せうが          う 【二列目枠】 あげふ      こちつゝ切    やきはせ  かんひやう   さといも しひ茸       いりつけ     なすび  くわゐ     千せうが 【三列目枠】 あはび      はも       しめぢ  ふくらに     ほね切       たけ   わた共 やき豆腐     みそせうゆ    さき  新ごばう              えび 【項目枠】 八月       同        同 煮物       鱠さら      汁 【四列目枠】 から       ずいき      厂【雁】  はまぐり           青えだ             まめ 塩からむし      はぢき    さき               て     松たけ からし      《割書:めうが|せうが》あま酢 【左丁頭書】 【五列目枠】 ちぬ鯛      きすご      はらゝご  やきびたし    大こん      むかご  もみ大根      おろし  すひしたぢ   くり       きらず            せうが      じる 【六列目枠】 こち       なまこ      はつたけ  たら       赤がひ      とうふ   もどき    おろし 青こぶ       大こん     柚のかは  こせう     せうが           はらゝご 【七列目枠】 はらゝご     ふか       小いも  むかご芋      ゆでゝ     ちくわ 赤がひ       めうが             のこ          たうがらし    ゆ            すみそ 【八列目枠】 うなぎ      たいらぎ     おとし  つぶ〳〵切    さき        玉子 牛ばう        松たけ  小口切     たでほ      めうが いりつけ      せうが       たけ           ゆ 【項目枠】 九月       同        同 にもの      なます皿      汁 【右丁本文】 【挿絵】 一/柚(ゆ) 赤土(あかつち)野土(のつち)等(とう)によし砧(だい)は枸棘(からたち)へ接(つぐ)べし肥(こやし)  の入やうなど蜜柑(みかん)に同じ 一/石榴(ざくろ) 花(はな)に数種(すしゆ)あり実(み)は酸(す)きと甘(あま)きと有  さし木にしてよく活(つく)もの也又/春(はる)の彼岸(ひがん)によび  接(つぎ)にしてよし冬(ふゆ)根廻(ねまは)りに人糞(にんふん)を入べし 【左丁本文】 一/葡萄(ふどう) 紫(むらさき)なるあり青緑(あを)きあり三月のころ  枝(えだ)を切(きり)て挿(させ)ばよくつくなり又/鉢(はち)の穴(あな)より蔓(つる)  を引とほし鉢(はち)へ土をいれおき秋に至りて鉢(はち)の  下(した)の処より切とれば実(み)を結(むす)びたるまゝにて  鉢植(はちうゑ)となる常(つね)に棚(たな)をこしらへて蔓(つる)をのす  べし人糞(にんふん)に酒粕(さけかす)などまぜ冬の内/根廻(ねまは)りへ入  べし水辺(すゐへん)を好(この)むもの也 一/林檎(りんご) 根廻(ねまは)りを少(すこ)し高(たか)く植(うゑ)て湿気(しつけ)を漏(もら)  すべし山(やま)の赤土(あかつち)野土(のつち)皆わろし春(はる)のひがんに  海紅(かいこう)の砧(だい)へ接(つぐ)べし切つぎよび接(つぎ)よし又/海棠(かいたう)  の根(ね)へつぐもよし九十月に植(うゑ)替(かふ)べし十一月頃  より根廻(ねまは)りを掘(ほり)根(ね)さきの細(ほそ)き所は切(きり)てよし  冬/腐(くさり)たる人糞(にんふん)をそゝぐべし三四月の比/多(おほ)く 【枠外丁数】百卅三 【右丁頭書】 【挿絵】 【一列目枠】 やき栗(くり)       くらげ      かも  青枝豆(あをえだまめ)      大根千      しめぢ 氷こんにやく   わさび         たけ  いりつけ       酢     いてう                     大こん 【二列目枠】 つるしがき    蓮根(はすね)      一口茄子(ひとくちなす) にんじん      せんに  ごまみそ    みはま    あへ      ぐり      やき           せうが       はえ             みそ 【左丁頭書】 【三列目枠】 松たけ      さより      あんかう  とうふ      大こん   玉子       せん      昆布    ゆ     くらげ        たんざく            たで      小いも             しそ 【四列目枠】 たひらぎ     いか       いもがら           はす芋  平茸                あぶら上           たで酢       こまかに   ゆ皮        しそ        して 【五列目枠】 小茄子      いせえび     干葉(ひば)  やきぐり      むして   赤がひ     せうが      はも           柚         の皮 【項目枠】 十月       同        同 煮もの      鱠皿        汁 【六列目枠】 鴨(かも)たゝき       あま鯛      たひ切身  ねぶか      つけ松茸     とうふ   ゆ        さきて           くり         ゆ            わさび 【右丁本文】  虫(むし)を生(しやう)ず早く取捨(とりすつ)べし 一/栗(くり) 荒地(あれち)或は道(みち)の傍(かたへ)などに植(うゝ)べし栗(くり)の下(した)  には諸(もろ〳〵)の作物(さくもの)生(おひ)たらぬもの也十年/余(あまり)になれば  木(き)老(おひ)て実(み)小(ちさ)くしいな多し伐(きり)て砧(だい)とし接(つぎ)て  よし又/実(み)を蒔(まく)もよし早く生長(せいちやう)する物也 一/楊梅(やまもゝ) 山の暖地(だんち)にうゑてよく生長す冬中(ふゆぢう)  根廻(ねまは)りへ灰(はひ)人糞(にんふん)をそゝぐべし 一/無花果(いちじく) 度々(たび〳〵)古枝(ふるえ)を伐(きり)すかし寒中(かんちう)人糞を  そゝぐべし三月比/枝(えだ)を切(きり)地(ち)にさし水を度々  灌(そゝ)ぎ後(のち)人糞(にんふん)をそゝげば其年/実(み)を結(むす)ぶ也 一/蜀椒(さんしやう) 朝倉(あさくら)山桝(さんしやう)といふ山土(やまつち)によろし冬(ふゆ)実(み)を  まきて春(はる)生(しやう)ず干鰯(ほしか)どぶの泥(どろ)など入てよし  人糞(にんふん)は忌(いむ)べし又/刺(とげ)のなき山椒(さんしやう)あり又/実(み)を 【左丁本文】  結(むす)ばぬありこれは春(はる)木(き)の半分(はんぶん)皮(かは)を竪(たて)に剥(はぎ)て  半分(はんぶん)は残(のこ)しおくべしこれを辛皮(からかは)と云 一/枇杷(びは) 砂地(すなぢ)に宜(よろ)しからず甘(あま)きと酸(す)きとあり  甘(あま)きを植べし老樹(おいき)は水すくなし糞(ふん)を遠(とほ)く  入れば実(み)多し 一/桜桃(ゆすら) 生垣(いけがき)にして弁利(べんり)なり木(き)小(ちひさ)く実(み)珍(めづ)らし  く殊(こと)に早く熟(じゆく)して奇麗(きれい)なり紅紫(こうし)の二ッあり  蜜(みつ)にせんじて収(をさ)め置(おけ)ば久しく用ゆべし   ○日用草木類 一/茶(ちや) 山城(やましろ)の宇治(うぢ)名産(めいさん)なり野土(のつち)赤土(あかつち)に砂(すな)のまじ  りたる所よし湿地(しつち)はわろし油糟(あぶらかす)人糞(にんふん)酒(さけ)の粕(かす)を  をり〳〵根廻りへおくべし肥(こやし)過(すぎ)たるは却(かへつ)てわろし  宇治(うぢ)にては葭簾(よしず)或は麻布(あさぬの)などにて囲(かこ)ふといふ是は 【枠外丁数】百卅四 【右丁頭書】 【一列目枠】 あんかう     すり芋      やききす   ふくろ    なまのり ひらたけ     せうが      くしがた  ぎんなん      せん       大こん 【二列目枠】 にんじん     赤にし      厂【雁】もどき  たんざく     よめ いり豆ふ        菜  きくらげ    せうが      なま  をのみ        ゆ      しひ茸 【三列目枠】 さゞゐ      小えび      雁  むきみ      ねぎ白ね     かぶら 牛ばう      おろし 唐がらし       大根     柚皮 【四列目枠】 かまぼこ     川はぜ      塩だひ  とう菜       やきて   柚かは     大こん            うま      ねぶか              に      しろね 【項目枠】 十一月      同        同 煮もの      なます      しる 【左丁頭書】 【五列目枠】 ひじき      やき鮒(ふな)       やきとうふ  あさり      大こん      さいのめ   むき     くり       たゝきな    身      せう        からし             が 【六列目枠】 するめ      生海鼠(なまこ)      かき  きざみ      鯛うす身      くづし 牛蒡(ごばう)        せうが       玉子  せん       せり         つり           きくらげ 【七列目枠】 湯豆腐(ゆどうふ)      ぶり       あはび  はながつを    ほそ作り     ふきの   のり       ねぎ        とう おろし       たう       きらず  ぜうゆ      がらし       にて 【八列目枠】 かぶら      おろし      なつ豆(とう)  ふろふき     大こん       たゝき ごまみそ     赤がひ       やきどうふ  唐がらし     せうが       さいのめ                    たゝき菜                      からし 【九列目枠】 きんこ      真黒       からひの【?】  たんざく     みそづけ     なんきん 【右丁本文】  上品(じやうひん)の茶(ちや)なり摘(つみ)やう製(せい)しやうさま〴〵あり  後篇(こうへん)に載(のす)べし 一/楮(かうぞ) 楮(かうぞ)に種々(しゆ〴〵)あり今/専(もつは)ら植(うゝ)るは葉(は)に切(きれ)め有て  皮(かは)のはだ厚(あつ)く和(やは)らかなるを植る也/暖地(だんち)のこえたる  赤土地(あかつちぢ)よろし黒土(くろつち)にてもねばりけあるはよし  所(ところ)によりてさし木にしても活(つく)もの也又/根(ね)を切(きり)て 【挿絵】 【左丁本文】  分ちうゑて上をふみつけ糞(こえ)をかけ日おほひ  のために芥(あくた)をかけおけば芽(め)出(いづ)る也二三月ごろに  うゑてよし紙(かみ)をすく法も後篇(こうへん)に記(しる)すべし  又/皮(かは)を剥(はぎ)て綱(つな)とし船(ふね)の具(ぐ)に用ゆ其外/用(よう)多(おほ)き  木なりよく生(おひ)たてば甚(はなはだ)益(えき)ある物也 一/漆(うるし) 秋/実(み)をとり置て俵(たはら)にいれ水気(すゐき)ある  所におきて泔水(しろみづ)をかけむしろをおほひおけば  春(はる)になりて芽立(めだち)みゆる也其時冬よりこ  なし置たる地(ぢ)に糞(こえ)を多くうちさらし菜園(さいえん)の  ごとくうね作りしてむらなく種(たね)をまき肥土(こえつち)  を三四/歩(ぶ)ほどおほひ水をそゝぎ草(くさ)ごめにその  まゝおき一年(いちねん)過て土ながら堀(ほり)とりうつし植(うゝ)る  なり漆(うるし)のかきやう後篇(こうへん)に記すべし 【枠外丁数】百卅五 【右丁頭書】 【前丁九列目枠の続】 氷こんにやく    やきて       にしひ茸    すりせうが     いも   せうが 【項目枠】 十二月      同        同 煮物       鱠皿        汁 【一列目枠】 がん       鳥かひ      いも  つみ       大こん      こんにやく   こんにやく  わさび酢       あづき さゝがし      なまのり       を入  大こん 【挿絵】 【左丁頭書】 【二列目枠】 ゆで       のし       くづし   あらめ      こんぶ     どうふ  たいらぎ    ほだはら      小はま           せうが       ぐり   青まめ        す 【三列目枠】 菜(な)        大根(だいこん)      かぶら  水なにても    にんじん     はつき あふらあげ       せん    つみ  いりな      わかごまめ     いれ            くしがき 【四列目枠】 にんじん     鮒(ふな)        いてう  ごばう      ほそ作り      大根   ふとに     にゝく       ぶり あんかけ     せうが       さいのめ  すり        わさび   せうが 【五列目枠】 干蛸(ひだこ)       こひ       つみいれ  大こん      大作り      にしひ茸   わぎり    大こん こさん        せん        しやう     せうが     とうふ           わさび          みそ  右はあながちに其月とかぎりたる  にはあらず時によりて遅速ある  べき事なれば見はからひにすべし 【右丁本文】 一/桑(くは) 蚕養(こがひ)するに第一の物なればかならず  多く植(うゑ)て得(とく)多し木綿(もめん)の生(おひ)たちがたき所にても  桑(くは)は生(おひ)たつ物なればさやうの所には植置(うゑおき)て産業(さんげう)  とすべし椹(くはのみ)の黒(くろ)き時取てもみ潰(つぶ)し水にてゆり  乾(かわか)しおき苗地(なへぢ)を細(こま)かにこなし糞(こえ)をうちさらし  置て種(たね)に蚕(かひこ)の糞(ふん)灰(はひ)など合せてむらなく  まき少し踏(ふみ)つけておくべし乾(かわ)けば泔水(しろみづ)を澆(そゝ)ぎ  手入して正二月の頃/移(うつ)し植べし畑(はた)或は田(た)の畦(くろ)  川べりなと無用(むよう)の処に多く植べき也又/地桑(ぢくは)と  て土際(つちぎは)より切て枝(えだ)を多く出さする事あり是は  摘取(つみとる)に便利(べんり)よし所にしたがひて用ゆべし 一/木綿(きわた) 肥(こえ)たる地にうゑて甚(はなはだ)利(り)あり此物(このもの)古(いにしへ)は  なかりしを近(ちか)き比/異国(いこく)より渡(わた)り来て下民(かみん)の 【左丁本文】  服(きもの)となり老人(らうしん)の寒気(かんき)をふせぐ最上(さいじやう)の物とな  れり種(たね)に色々あり撰(えら)みてうゝべし時は八十八  夜(や)過(すぎ)をころとす地(ぢ)は肥(こえ)たる処にて栄(さか)え過れば  もゝ付ぬもの也少し砂(すな)の雑(まじ)りて湿気(しつけ)なき所(ところ)よし  これは近年(きんねん)は何方(いづかた)にも多(おほ)く作(つく)ることなれば強(しひ)て  詳(つまびらか)にせず 一/麻(あさ) 良田(よきた)を深(ふか)く耕(たがへ)しよく〳〵こなし一段(いつたん)に  七八升ほどまくべし厚過(あつすぎ)たるは宜(よろ)しからず種(たね)は  雨水(あまみづ)に漬(つけ)引上てむしろに置/上(うへ)に又むしろを覆(おほ)  へば一夜(いちや)の間(ま)に芽(め)出(いづ)る也二月下/旬(じゆん)より三月上旬  雨(あめ)を見かけてまくべし 一/藍(あゐ) 蕪大根(かぶらだいこん)のあと稲田(いなだ)にもよし節分(せつふん)より  五十日/前(まへ)に種(たね)を下し其上に濃(こ)き糞(こえ)をうち 【枠外丁数】百卅六 【右丁頭書】  ◦料理珍味集といふもの  ありあらゆる珍味(ちんみ)を挙たる  書(しよ)なり其中よりたやすく  出来べき事をぬき出して  いさゝかこゝに書つく ○桔梗(きゝやう)玉子 玉子を煮(に)ぬき 皮をさつて又/湯煮(ゆに)をしきゝやう にして又/湯煮(ゆに)をすれば内の黄身(きみ) ともに花(はな)のかたちになるなり ○白田楽(しろでんがく) 豆腐(とうふ)を常(つね)のごとく 田楽(でんがく)にして味噌(みそ)をごまあぶら にてときやかぬとうふにぬりて 焼(やく)なりみそこげずして内(うち)へ火 よくとほるなり ○とろゝ汁 つぐね芋(いも)をすり 生栗(なまぐり)を一ッすり入れ和(やは)らかに仕(し) たて鍋(なべ)へうつし煖(あたゝ)むるに切(きる)る事 【左丁頭書】 なしつよくたけばねばりつよし そろ〳〵たくべし又/伊万里焼(いまりやき)の茶(ちや) わんを入てあたゝむるもよし ○みかん鱠(なます) みかんの袋(ふくろ)をう らがへして十五六ばかり皿(さら)にもり 砂糖(さたう)をかける也 ○兵庫煮(ひやうごに) 小きはもの腸(わた)を さりこぐちより骨(ほね)ともに薄(うす)く 切うす醬油(しやうゆ)にて煮(に)る也 ○芹(せり)づけ 根(ね)ぜりを菜(な)のごと く塩づけにして酢(す)しやうゆをかくる ○苺子汁(いちごじる) 車海老(くるまえび)の皮(かは)を去(さり) 身(み)ばかりたゝきすりて丸(まろ)く小く して汁へ入れば色(いろ)赤(あか)くなる也 ○雲掛豆腐(くもかけとうふ) とうふをよき ほどに切/米(こめ)の粉(こ)にまぶしてむし わさび味/噌(そ)をかくる 【右丁本文】  灰(はひ)を以て覆(おほ)ふべし六十日ばかりして畦作(うねつく)り  し一株(ひとかぶ)に二三本づゝ植(うゝ)べし植(うゑ)て十五日ほどして  水と人糞(にんふん)と合せてそゝぐべし其後(そのゝち)はこき糞(こえ)  よし干鰯(ほしか)なともよしさて虫(むし)をはらふ事第  一/念(ねん)を入べし虫(むし)つけば栄(さかえ)ぬものなり 一/紅花(こうくわ) 植(うゝ)る地こえたれば花(はな)の色も甚(はなはだ)よし赤(あか)  黒土(くろつち)の肥(こえ)たるに作るべし霜月(しもつき)/初申(はつさる)の日/種(たね)をまく  べしといへり種(たね)は酒(さけ)に一夜(いちや)浸(ひた)し灰(はひ)ごえに合せて  うすく蒔(まく)べし苗(なへ)二三寸の時/葉(は)にかゝらぬやうに  水糞(みづごえ)を入べし後(のち)にはかゝりても厭(いと)はずさて四五月  ごろ花(はな)のわきに垂(たる)るを見てつむべし 一/煙草(たばこ) 地を冬(ふゆ)より二三度も耕(たがへ)し糞(こえ)を打  さらしおきて正月に焼草(やきくさ)を多(おほ)く入てこえをかけ 【左丁本文】 【挿絵】  正月/末(すゑ)うね作りしうすくちらし蒔(まき)にすべし  雨のふる日少しづゝ水糞(みづごえ)をそゝき茎(くき)のよわきを  抜(ぬき)すつべし赤土(あかつち)に小石(こいし)小砂(こすな)まじりたる如き地(ち)  尤(もつとも)よし山里(やまざと)の霧(きり)深(ふか)き所はあく少くして  名葉(めいは)を出すなり 【枠外丁数】百卅七 【右丁頭書】 ○春駒(はるこま)どうふ 豆腐(とうふ)一丁/布(ぬの) 目(め)をさり四ッにきり生醬油(きしやうゆ)にて にしめさまして油にあげいり酒(ざけ) わざひにてくふべし ○串貝(くしがひ)早煮(はやに) かひをぬかずに 竹を引きり煮て一ふきして そのまゝ湯(ゆ)をすてず鍋(なべ)にさまし おく也/宵(よひ)にこしらへて翌朝(よくてう)和(やは)らぎ 【挿絵】 【左丁頭書】 用(もち)ひらく也水は沢山(たくさん)にすべし 貝(かひ)水(みづ)のうへに出たるはかたし ○牡蛎飯(かきめし) かきを鰹(かつを)の出し うす醬油にて煮/茶(ちや)わんへ入 汁をしたみ飯(めし)を釜(かま)より直(すぐ)に もりふたをして出すべし ○小倉田楽(をぐらでんがく) 油あげ一方(いつはう)を切 うらがへし煮たる粒小豆(つぶあづき)を詰(つめ) 串(くし)にさし醬油をつけあぶる也 ○茄子(なすび)おろし汁 なすびの皮(かは) をさり二ッに割(わり)水につけあくを 出しおろしてしぼりみそ汁に 入からしを加へ用ゆ茄子(なすび)沢山(たくさん)なる がよし ○早烏賊(はやいか) 玉子をにぬきにして 白身(しろみ)ばかりをよきほどにきりて 青(あを)あへにする也 【右丁本文】   畜蔵菜果類第五【四角で囲み】  ○青梅(あをむめ)を収(をさ)めおく法 一いまだ熟(じゆく)せざる梅(むめ)をえらびとり青竹(あをたけ)を 二ッにわりその中へ梅(むめ)をいれわり口をよく 合せて藁(わら)にてくゝり山土(やまつち)にてよくぬりこめ 土中(どちう)に埋(うづ)み置(おく)べし入用の時/取出(とりいだ)し用るに 少しも損(そん)ぜずよきほど出して跡(あと)はもとの如く 封(ふう)じて埋(うつ)めおくべし  ○瓜茄子(うりなすび)を貯(たくは)ふる方 一/寒中(かんちう)の潮(うしほ)を壺(つぼ)にいれてたくはへ置/瓜茄(うりなす) 子(び)を漬(ひた)しおけば久しく色(いろ)かはらず又方 【左丁本文】 豆腐滓(きらず)五升/塩(しほ)二升右/二色(ふたいろ)もみ合せ瓜(うり) 茄(なすび)さゝげの類(るい)を漬(つけ)おくべし青(あを)くしていつ までも生(しやう)のごとし風のいらぬやうにすべし  ○山椒(さんしやう)を漬(つく)る法 一/半熟(なかばじゆく)したる山枡(さんしやう)一升に塩(しほ)三合水二升入 て壺(つぼ)につけ壺(つぼ)の中へ入るほどのおし蓋(ふた)をして 小石(こいし)をおもしにおくべしいつまでも色かはらず但(たゞし) 手をいれて取出(とりいだ)すべからず又/米泔汁(しろみづ)に塩(しほ)を 合(あは)せてつけおくもよろし  ○蜜柑(みかん)を夏(なつ)まで貯(たくはふ)る法 一/杉箱(すぎはこ)の中に竹(たけ)をわたし蜜柑(みかん)を糸(いと)にて つり蓋(ふた)【葢は蓋の本字】をよくして穴蔵(あなぐら)など下屋(したや)に入おけ ば損(そん)ぜずしてよくもつなり又/金柑(きんかん)は菉豆(ぶんとう)の 【枠外丁数】百卅八 【右丁頭書】 ○干大根(ほしだいこん)和物(あへもの) ほし大根を薄(うす) くきざみ湯(ゆ)につけてすこし もみかたく絞(しぼ)りからし胡麻(ごま)あへ ○若狭(わかさ)鯡鮓(にしんずし) にしん五六日も 水に漬(つけ)皮(かは)骨(ほね)をよくあらひさり にしん五十本に糀(かうじ)三合入/押(おし)を かけおく也水上るをすてゝ糀(かうじ) ともに切用ゆ大根せり三葉(みつば)の 類(るい)をつけ込てよし ○隠(かく)れ里(ざと)吸物(すひもの) 葛(くず)を湯(ゆ)にて かたくこねまんぢうの形(なり)にして 餡(あん)に赤みそをすりて包(つゝ)み湯(ゆ)に して後ずいふんあつき湯(ゆ)にいれ 吸物(すひもの)にすまんぢうの形(なり)をくづ せばみそ汁になるなり ○松茸(まつたけ)早鮓(はやすし) 醬油よき加減(かげん) にしてにえ立(たち)たる所へ松(まつ)たけを 【左丁頭書】 切て入れさつと煮上(にあげ)かやくを いれ飯(めし)にて早ずしに漬(つけ)るその 煮汁(にしる)にて塩(しほ)をもたす ○温飩鮑(うどんあはび) あはびの耳(みゝ)を去 うどんのごとく随分(ずいぶん)ほそく切 すいのうに入てにえ湯(ゆ)へいれて 直(すぐ)に引あげうどんの汁にて用 ゆ少しも煮(に)るはわろし ○焼鮑(やきあはび) あはびの貝(かひ)を放(はな)さず 洗ひて肌(はだ)へ赤(あか)みそをぬりまた 貝(かひ)を合(あは)せて針(はり)がねにてくゝり 藻(も)のほし乾(かわか)したるをあつめ中 へいれてやく也/針(はり)がねをとり 貝(かひ)をはなして小口切(こぐちきり)にする ○大原苞(おはらづと) ねぶか一寸/余(よ)に きりくづし魚身(うをのみ)など入つゝみて 白昆布(しろこんぶ)にてくゝりみそ汁にする 【右丁本文】 中にいれおけばいつまでもかはらず  ○梨子(なし)を貯る方 一/間々(あひ〳〵)へ大根(だいこん)をへだてにいれてはだのあたり 合ぬやうにすれば年(とし)を越(こし)てかはらず又/麦門冬(じやうがひげ) の根(ね)もとをわけて深(ふか)くをさめ上より/麦門冬(しやうがひげ)の 葉(は)を引よせてくゝりおけばよくもつ物なり 又方/厚紙(あつがみ)につゝみはりて上を藁(わら)づとにし 湿気(しつけ)なき家(いへ)の内(うち)の地(ぢ)をほりて砂(すな)をいれ其 中に埋(うつ)めおくべし久しくして味(あち)かはらず  ○柿子(かき)をたくはふる法 一/新(あたら)しき柿(かき)をえらみ鑵子(くわんす)の中へいれすれ合 ぬやうにして蓋(ふた)をなし箱(はこ)の中へ鑵子(くわんす)をいれ 箱(はこ)のふたをして紙(かみ)にてよく張(はり)ておけば久しく 【左丁本文】 【挿絵】 損(そん)ずることなしまた蔕(へた)のまはりを漆(うるし)にて ぬり或(あるひ)は紙(かみ)にてきびしくはりおけば久しく もつ也/但(たゞ)し気(き)のもれぬ壺(つぼ)に入ておくべし  ○松茸(まつたけ)のたくはへやう 【枠外丁数】百卅九 【右丁頭書】 ○豆(まめ)の葉 そら豆(まめ)の葉(は)を洗(あら)ひ て渋紙(しぶかみ)の上にほし乾(かわか)しよくもみ すいのうにてふるひておき入用の 節(せつ)すいのうへ入れにえ湯(ゆ)へつけ 蓋(ふた)をせずしてゆで飯(めし)和物(あへもの)などに入 ○蒜汁(にゝくしる) にゝくに生姜(しやうが)をいれ ゆでゝさましおきて汁にもちゆ 臭気(しうき)なし ○えびあへ いせ海老(えび)をゆでゝ 身ばかりをさきえびの子にて あへものにする也 ○煎松茸(いりまつたけ) 松たけ笠(かさ)ぢく よきほどにうすく切から鍋(なべ)に 入れいるあくけ出るをすてゝ しやうゆをさしいりて柚酢(ゆず)をか けるなり ○塩釜(しほがま)やき 大鍋(おほなべ)に塩(しほ)を入 【左丁頭書】 生鯛(なまだひ)のうろこをふきわたをつ ぼぬきにして右の塩(しほ)にまぶして 蒸(むし)いりにしてしやうゆをかける也  本法は浜(はま)にて塩(しほ)をやく時右  のごとくしてわらづとにし塩釜(しほかま)  にて煮(に)る塩かげんよくして  少しも辛き事なし案(あんずる)に  鯛(たひ)の料理(れうり)は此上に出るものなし  但し鱗(うろこ)をふかずそのまゝに苞(つと)  にする也/色(いろ)赤(あか)き事/紅(べに)のごとし  生姜(しやうが)じやうゆにて用ゆ鍋(なべ)に  てにる時は水(みづ)をはなしてむして  よし塩(しほ)のいる事少くして  身(み)に水(みづ)けなく妙なり ○酒飯(さかめし) 酒(さけ)茶(ちや)わんに七分目 しやうゆ同しほど米(こめ)壱升の飯(めし) にいれ常(つね)のごとくたくなり 【右丁本文】 一/寒中(かんちう)雪(ゆき)の降(ふり)たる時/雪(ゆき)一升に塩(しほ)三合あはせ せんじて壺(つぼ)にたくはへ置/松茸(まつたけ)を漬(つく)べしいつまで も味(あぢ)かはらず《割書:此法瓜茄子竹子|青梅何れにもよし》又方/松茸(まつたけ)をざつと湯(ゆ) にたきて水にひたし取あげ水気(みづけ)なきやうに して桶(をけ)に塩(しほ)をいれ松茸(まつたけ)をならべすしの如く 漬(つけ)ておもしをおくべし又方水一斗に塩一斗二升 いれせんじてよく冷(ひや)し置/桶(をけ)の底(そこ)へ青松葉(あをまつば)を 敷(しき)其上に茸(たけ)をならべ段々(だん〳〵)にかくのごとくして 塩水(しほみづ)を入/蓋(ふた)をしておもしをかくべし  ○青柚(あをゆ)のたくはへやう 一/柚(ゆ)の小(ちひさ)きを枝葉(えだは)ごめに取/器(うつは)にいれ塩(しほ)にて 埋(うづ)め銅(あかがね)のきれ又はやすり粉(こ)にても少し入て風(かぜ) のいらぬやうに蓋(ふた)をしておけばいつまでも青(あを)し 【左丁本文】 また綿実(わたざね)の中にすれざるやうに入おくもよし 又方/青柚(あをゆ)十きざみて水一升/塩(しほ)六合と共(とも)に能(よく) せんじ其汁をさまし置て新(あたら)しき青/柚(ゆ)を漬(つけ) 壺(つぼ)に入て口(くち)をかたく封(ふう)ずべし  ○塩辛(しほから)の味(あぢ)かはらざる法 一/塩辛(しほから)少しになりても砂糖(さたう)をすこしいれ おけば味(あぢ)はひいつまで置てもかはらぬもの なり  ○筍(たけのこ)を貯(たくは)ふる法 一/竹子(たけのこ)を桶(をけ)にいれ蓋(ふた)をして河(かは)の瀬(せ)の早き 所にうづめおくべし但(たゞ)し上に石(いし)をおくべし また塩湯(しほゆ)にて少し湯(ゆ)びきよく〳〵干(ほ)して 壺(つぼ)に入おくべし八九月の頃(ころ)取出し又ほすべし 【枠外丁数】百四十 【右丁頭書】 ○富士(ふじ)あへ ねふか白根(しろね)ばかり さつとゆでゝ胡麻(ごま)みそを入/豆(とう)ふ の白あへにすもやし芋(いも)もよし ○蛸(たこ)なます たこのあしを薄(うす) くきりにえ湯(ゆ)に入てすぐに あげ大根(だいこん)をきざみ塩(しほ)にてもみ しぼりごま酢(す)にてあへものにす ごま多きがよし 【挿絵】 【左丁頭書】 ○なのりそ ほんだはらの塩気(しほけ) を出し湯煮(ゆに)をして唐(たう)がらし みそにあへるほんだはらは青(あを)きが よし黒(くろ)きはこはし ○たつくりあへ こまめを焼(やき) 直(すぐ)にあつき湯に漬(つけ)おき暫(しばら)く して三枚にへぎ骨(ほね)と頭(かしら)を去(さり) ごばうを煮(に)てたゝきこまか にさき山椒(さんしやう)しやうゆにて二色(ふたいろ) ともにあへる一日ほど置て用ゆ べし醬油(しやうゆ)よくしむ也 ○交趾(かうち)みそ 赤(あか)みそ五十匁 肉桂(にくけい)丁子(てうじ)の細末(さいまつ)半両(はんりやう)づゝまぜ茄(なす) 子(び)生姜(しやうが)の類を漬(つけ)る也/漬(つけ)るとき 白(しろ)ざたう五六匁入る七日めに用ゆ ○芋豆腐(いもどうふ) 湯(ゆ)どうふにして ゆをしたみとろゝをかけるなり 【右丁本文】 また皮(かは)ごめに蒸(むし)て切(きり)いり塩(しほ)に漬(つけ)るもよし又 竹子(たけのこ)を根(ね)もとより切/箆(の)をぬき米糠(こめぬか)のよくふる ひたるを内へつめ口を紙(かみ)にてはり三/本(ぼん)づゝ菰(こも)にま き常(つね)に煙(けふり)のかゝる竈(かまど)のうへに釣(つり)おくべし色(いろ)かはら ずして新(あらた)なるが如し  ○鳥肉(とりのみ)を久しく貯る法 一/鳥肉(とりのみ)をおろしきらず一升に塩三合まぜて 鮓桶(すしをけ)にすしをつけるやうにしてきらずと 鳥肉(とりのみ)と段々(だん〳〵)につめ竹皮(たけのかは)をおほひ蓋(ぶた)にして おとしぶたをしおしをかくべし久しくしても 味(あぢ)生肉(せいにく)にかはることなし  ○林檎(りんご)をたくはふる方 一りんご百/顆(くわ)の内十/顆(くわ)をとりたゝき砕(くた)【「だ」濁点かすれにも見える】きて 【左丁本文】 水(みづ)を入れつぼの内に浸(ひた)し満(みつ)るをうかゞひよく 口を封(ふう)じおくべし  ○冬瓜(かもうり)をたくはふる方 一/冬瓜(かもうり)は棚(たな)の上/或(あるひ)は煤(すゝ)のゆく処に収(をさむ)れば翌夏(よくなつ) まで損(そん)ぜず但(たゞ)し疵(きず)なきをえらぶべし  ○牛旁(ごばう)山葵(わさび)土筆(つく〴〵し)など貯る法 一/河原(かはら)のじやり小石(こいし)なきやうに能(よく)をふるひて 水道(すいだう)の溝砂(みぞすな)を日(ひ)に乾(ほ)しもみくだきわら灰(ばひ) 等分(とうぶん)にまじへ地(ち)に穴(あな)を掘(ほり)右の砂(すな)をいれ牛旁(ごばう) わさび土筆(つく〳〵し)蕗(ふき)のとういも栗(くり)生姜(しやうが)の類(るい)を いけおけばしをれずして久しくもつものなり 但(たゞ)し蕗(ふき)のとうは一二日/陰干(かげぼし)にしていけるなり 土筆(つく〴〵し)は根付(ねつき)を五ッほどづゝ根(ね)をまきてまひ込(こみ)の 【枠外丁数】百四十一 【右丁頭書】 とろゝは上しやうゆに鰹(かつを)の出(だ)しを 用ひ甘(あま)くからく仕かけ上おきは こせう青(あを)のりの類(るい)よし ○いせどうふ 鯛(たひ)にてもはも にても身ばかりよくこなし取かつ をの出しにてのべとろりと和らか にして鉢(はち)にいれむしすくひて 葛(くず)あんかけからしあしらふ ○えび敲(たゝき) いせえびゆでゝ身 ばかりこまかにたゝき醬油(しやうゆ)ひ たひたに入れ酒(さけ)少(すこ)しくはへにる也 ○奈良菜飯(ならなめし) 菜(な)をすりて 其汁にて飯(めし)をたきやき栗(ぐり)を割(わり) ていれ塩と【をヵ】も入/常(つね)のごとくたく也 ○すゝり団子(だんご) 小豆(あづき)白砂糖(しろさたう)にて あんをこしらへ松露をいれ後(ご) 段(だん)なとによろし 【左丁頭書】 ○芋蒲鉾(いもかまぼこ) 山のいも皮(かは)を去(さり) しやうゆにてにしめ臼(うす)にてつき うどんのこ少し入れ杉板(すぎいた)にて かたちをこしらへ唐(たう)がらしみそを うすくしてぬり少し焼(やき)てきる也 ○赤貝(あかゞひ)にんじん 赤貝(あかがひ)のわたを きりざつとゆでゝにんじんの如く 切にんじん葉(は)をゆでゝあへもの にすひたし物にもすべし ○酢大根(すだいこん) 三月/大根(だいこん)を短冊(たんざく) にきざみざつとゆでこまみそに あへるなり ○溝(みぞ)しりむし 生(なま)いはしを三/枚(まい) におろしてむし葛(くず)かけすり生(しやう) 姜(が)あしらふ ○焼出(やきだ)し とうふ田楽(でんがく)の形(なり) にきりて横(よこ)に三ッに切/串(くし)に三さし 【右丁本文】 砂(すな)にいけおくべし  ○蓴菜(じゆんさい)海松(みる)などたくはへやう 一ざつと湯(ゆ)をとほし寒水(かんのみづ)一升に塩(しほ)一合あはせ 漬(つけ)おくべし色(いろ)かはらずしてよくたもつ也  ○葡萄(ぶどう)のたくはへやう 一/新(あらた)に熟(じゅく)したるをとりて湿気(しつけ)をぬぐひ桶(をけ)の 蓋(ふた)の内になる方(かた)につなぎて下へたるゝやうにし 桶(をけ)のうちへ静(しづか)にいれすれ合(あは)ぬやうに蓋(ふた)をよく して風湿(ふうしつ)の入ざるやうにし縄(なは)にてくゝり高(たか) き処(ところ)へかけおくべし  ○甜瓜(まくはうり)を貯ふる法 一/土用(どよう)の中/甜瓜(まくは)をとり打綿(うちわた)を箱(はこ)に入その 綿(わた)の中へ瓜(うり)をつゝみ蓋をよく〳〵して貯(たくはふ)れば 【左丁本文】 百日ばかりはたもつべし  ○蕨(わらび)をたくはふる法 一いかにもよき蕨(わらび)を麦飯(むぎめし)にて鮓(すし)のごとく漬(つけ) おき入用の時取出し銅鍋(あかゞねなべ)にて煮(に)てつかふべし 色(いろ)かはらず風味(ふうみ)生(なま)のごとし 【挿絵】 【枠外丁数】百四十二 【右丁頭書】 でんがくにして狐色(きつねいろ)になるほど にやき直(すぐ)に皿(さら)へ入れ酢(す)みそ懸(かく)る ○黒豆汁(くろまめしる) 黒豆(くろまめ)を水につけて まけば早く生(はえ)る也/芽(め)をとりて 汁に用ゆ ○白和(しらあへ) 魚類(うをるい)を大さいに切 塩(しほ)ゆでにして水気(みづけ)をさりみ そとうふを入/白(しら)あへごまを入る ○油(あぶら)ぬき とうふを油にて あげ鍋(なべ)よりすぐに水へいれ 油(あぶら)けをさり又/水煮(みづに)してみそ をかけるなり ○縮蚫(ちゞみあはび) あはびの耳(みゝ)をさり うすくへぎてにえ湯(ゆ)をかくる也 ○花茗荷(はなみやうが) めうがのこの花(はな) ばかりをゆびきて葛(くず)を引あを のりをかくる 【左丁頭書】 ○ちゞみ芋(いも) 長いも一寸に三分 ばかりたんざくにうすく切へぎ 網(あみ)に竹(たけ)ぐしをならべ其上へ并(なら)へ 遠火(とほび)にかけやき塩(しほ)をふりこげ ざるやうにやき水気(みづけ)をさりほいろ にかくるなり ○おろし鮑(あはび) あはびをおろし にて摺(すり)おろし味噌汁(みそしる)にいれ 鱒(ます)など切入てよし玉みせなど もよし ○鳴門煮(なるとに) 鍋(なべ)に塩(しほ)をふり 鯛(たひ)を三まいにおろし切て入れ 古酒(こしゆ)に白水(しろみづ)を加(くは)へ魚(うを)ひた〳〵に なるやうにして酒気(しゆき)なきまで 煮(に)て■(めし)【飯ヵ】の上かゆをさし木(き)の こねぎなどいれてよし ○春(はる)の雪(ゆき) きらずに油(あぶら)少し 【右丁本文】  ○瓜(うり)のたくはへやう 一/青瓜(あをうり)越瓜(あさうり)の類四ッに割(わり)塩(しほ)をぬり一日/干(ほし)て 後/新酒(しんしゆ)の樽(たる)につめはりておけば年中(ねんぢう)かは らず生(なま)のごとく也またきらずと塩とあはせ つけおくもよし  ○梅(むめ)柚(ゆ)柿(かき)梨(なし)のたくはへ様一方 一/青(あを)梅は枝葉(えだは)ともに藁(わら)にてくる〳〵とまき寒(かん) の水一升に梅酢(むめず)七合あはせ其まゝつけおくべし さて入用の時水にひたして遣ふ也/柚(ゆ)は別(べつ)に青柚(あをゆ) をすりつぶし梅酢(むめず)にてとろ〳〵となるやうに とき青柚(あをゆ)にまぶし大竹筒(おほたけのつゝ)の中へつけおく べし風味(ふうみ)少しもかはらず柿(かき)梨(なし)林檎(りんご)の類 諸(もろ〳〵)の果(くだもの)は生渋(きしぶ)にて漬(つけ)おくがよし渋(しぶ)少しも果(くだもの) 【左丁本文】 の中へしむ事なく味ひよろし  ○青小角豆(あをさゝげ)漬(つけ)やう 一/青小角豆(あをさゝげ)少し湯(ゆ)をとほし水気(みづけ)を乾(かわ)かし 粳米(うるごめ)の粃(ぬか)一升に塩三合あはせ桶(をけ)にぬか一遍(いつへん)お き小角豆(さゝげ)をならべ又/粃(ぬか)をおき段々につけ 竹皮(たけのかは)を蓋(ふた)にして其上に板(いた)のおとしふたをし 強(つよ)からぬ重石(おもし)をおく也入用の時ゆでゝ遣ふべし  ○金柑(きんかん)たくはふる法 一/麁粃(あらぬか)にまぜて壺(つぼ)にいれ口をはりおく也 入用の節(せつ)取出し跡(あと)をもとの如くすべし  ○茄子(なすび)梨(なし)を貯(たくはふ)る一方 一/秋茄子(あきなすび)を枝(えだ)少(すこ)しつけて切/其枝(そのえだ)に糸(いと)を付 内庭(うちには)の雨(あめ)のかゝらぬ所をふかく堀(ほり)て竹(たけ)をわ 【枠外丁数】百四十三 【右丁頭書】 入れ醬油(しやうゆ)常(つね)のごとくにして 煮(に)から壱升にかつをぶしの粉(こ)一升 山しやうの粉(こ)少し入/椎茸(しひたけ)銀杏(ぎんなん) 麩(ふ)栗(くり)の類/別(べつ)に味(あぢ)をつけて入 形(かた)にておしいだす ○白蓮根(しろれんこん) れんこんを一番(いちばん)の 白水(しろみづ)にてゆでる時/上(うへ)へ木(き)を張(はり)て 蓮(はす)のうかぬやうにすべしもし 水より上へ出れば出たる処/黒(くろ)く なるなり塩(しほ)を入べからず ○玉子餅(たまごもち) 玉子の煮(に)ぬき 丸ながら餅(もち)につゝみ雑煮(ざふに)にす 取合は時節(じせつ)に応(おう)ずべし ○茄子団子(なすびだんご) 一口(ひとくち)なすびの 揃(そろ)ひたるをへたを去て五ッ くしにさし油(あぶら)を引やきみそを つけて又やくなり 【左丁頭書】 【挿絵】 ○浪よせ たゞ芋(いも)のずいき 細(ほそ)く白(しろ)きを皮(かは)をとりて一寸 五分ほどに切/明日(あす)用るをけふ より水煮(みづに)する也にえたちて も鍋(なべ)のふたをとらず翌日(よくじつ)し ぼるに手を入る事なかれ杓子(しやくし) にてしぼるべしごまみそにやき 豆腐(とうふ)を摺(すり)こみてあへる也 【右丁本文】 たし右の茄子(なすび)をすれ合ぬやうにつるし 上におほひをかけ気(き)のすかぬやうにぬり置 べし翌年(よくねん)までもたもつ也又/青梨(あをなし)を霜(しも)の かゝらぬ前(まへ)にとり赤土(あかつち)にて厚(あつ)くぬり日に干(ほし) て雨(あめ)のかゝらざる様に庭(には)の内(うち)の砂(すな)に埋(うづ)みおく べしこれも翌年(よくねん)までたもつ也  ○干瓜(ほしうり)の仕やう 一/青(あを)き瓜(うり)を細(こま)かにきざみよき天気(てんき)にほし その後/酒(さけ)をもみつけ壺(つぼ)にいれ風(かぜ)のあたら ざるやうに口をはりおくべし春(はる)になりても 取出し水(みづ)にひたし置(おき)て用るに青(あを)くして 生瓜(なまうり)のごとし  ○青柚(あをゆ)のたくはへ様一方 【左丁本文】 一/青柚(あをゆ)の葉(は)つきを生(はえ)たる竹(たけ)をそぎ切(ぎり)にして 其中へ入れそぎたる竹の末(すゑ)をもとのごとく つぎ合せ竹(たけ)の皮(かは)にてよく巻(まき)ておけば一年を 経(へ)ても取たての如し但(たゞ)し竹は切はなさぬ様 にすればます〳〵よし  ○鰹節(かつをぶし)のたくはへやう 一/酒(さけ)をぬりておけば夏(なつ)も虫(むし)の入ることなし  ○暑中(しよちう)魚肉(うをのみ)をたくはふる法 一/蜜柑(みかん)の花(はな)をとり陰干(かげぼし)にして粉(こ)にした るを夏の比/魚肉(うをのみ)を煮(に)る時/一匕(ひとさじ)ほど入るれば 半月(はんつき)おきても損(そん)ずる事なし又/白礬(めうばん)の やきかへしを少(すこ)しばかり入て煮(に)るもよし  ○桃(もゝ)をたくはふる法 【枠外丁数】百四十四 【右丁頭書】 ○焼蛸(やきだこ) たこの足(あし)つぶ切にし てしやうゆをつけ焼(やき)にす ○ふくさ芋(いも) 小(ちひさ)きつぶ芋(いも)を ざつとゆにをし湯(ゆ)をすて酒(さけ)醬(しやう) 油(ゆ)等分(とうぶん)にして一にえ【ゑヵ】して火 を引/炭火(すみび)を入おき半時(はんとき)ばかり して出す時/葛(くず)をひきわさび ○琉球(りうきう)みかん りうきう芋(いも) ゆでゝ皮(かは)をさりすりつぶし みかんの形(なり)につぐね青(あを)のりの 粉(こ)にまぶす軸(ぢく)はみかんの葉を つくるなり ○浜(はま)みやげ 小き鱧(はも)のひれ をとり尾(を)のかたばかり随分(ずいふん)薄(うす) くこぐち切にしてざつと湯(ゆ)を とほし味噌酢(みそず)にすればほね やはらぐ也/向付(むかふづけ)によろし 【左丁頭書】 ○甘(あま)まひ 冬大根(ふゆだいこん)のふときを 二寸ばかりに切/炭火(すみび)にて酒煮(さかに) にし出す時/味(あぢ)をつけみそかけ ○ふくさあへ 牛房(ごばう)をあらひ よきほどに切よくゆでゝ鍋(なべ)に そのまゝゆで湯(ゆ)につけおき半(はん) 日ばかりもして湯(ゆ)をすてごま みそにてあへる也 ○きせ綿(わた) 生鮑(なまあはび)のわた大 なるをしほ少し入ゆでゝさまし 糟(かす)に塩(しほ)をしてつけおく也 ○精進鮑(しやうじんあはび) 松(まつ)たけのぢく太(ふと) きをあはびのかたちにきり 生(き)しやうゆにて煮(に)たてに薄(うす)く 切しやうが酢(す)にて用ゆ ○早青豆(はやあをまめ) そら豆の実(み)のいらざる を弾(はぢ)き■【て】ゆ■■■【にさし】のつべいに用ゆ 【判読不能分の補足は早稲田大学図書館公開本による】 【右丁本文】 一/麦麩(しやうふ)を粥(かゆ)のごとく煮(に)て塩少し入/冷(ひや)し おき新(あたら)しき瓶(かめ)に入/桃(もゝ)のかたく新(あたら)しきをとり 右の中へいれ口をよく〳〵封(ふう)じおくべし冬 の比(ころ)取出すに新(あたら)しき桃(もゝ)のごとし  ○大根(だいこん)を貯(たくはふ)る方 一/大根(だいこん)のふときを洗(あら)はずして青頭(あをがしら)を切すて 鉄火箸(かなひばし)を赤(あか)く焼(やき)てその切口(きりくち)をすりてやき 【挿絵】 【左丁本文】 壺(つぼ)の内へいれ別(べつ)に茶碗(ちやわん)に水を盛(もり)て壺(つぼ)の 口におき蓋(ふた)にして若(もし)水(みづ)もれ減(へ)る事あらば 心を用ひて入たすべしいつ迄もたもつ也  ○栗(くり)を貯(たくはふ)る法 一/栗(くり)はいかやうにたくはへても芽(め)の出るもの也 然(しか)れども一方(いつはう)あり能(よき)栗(くり)を大なる壺(つぼ)の口 細(ほそ)きに一ッづゝ入て口にかたく切(きり)わらをこみ 此(この)壺(つぼ)をさかしまに砂地(すなぢ)におくべし何時(いつ)まで も損(そん)ぜず用ゆる時取出し跡(あと)をもとのごとく にして風(かぜ)のすかぬやうにすべし  ○餅(もち)を久しく貯ふる法 一/寒水(かんのみづ)一斗に塩(しほ)八合入れ釜(かま)にてせんじ さまして餅(もち)の乾(かわ)きたるを上に付(つき)たる粉(こ)を 【枠外丁数】百四十五 【右丁頭書】  菓子(くわし)の製(こしら)へやう【枠囲】   飲食(いんしよく)の事のついでに菓子(くわし)   の製法(せいほう)をいさゝかこゝに抄出(せうしゆつ)   すこれ亦(また)近来(きんらい)はさま〳〵の新(しん)   製(せい)いできて価(あたひ)貴(たつと)き物もあ   れど畢竟(ひつきよう)は奢侈(おごり)のたねと   なるべき事なれば強(しひ)ても出   さず唯(たゞ)昔(むかし)より有来(ありきた)りたる   やうの物ばかりを挙(あぐ)るなり ○かすていら 玉子(たまご)丸(まる)にて百目 皮をさり麦(むぎ)の粉(こ)百目入すり鉢(ばち) にてよくすり白砂糖(しろさたう)を竹(たけ)の とほしにてふるひて百十五匁入れ よくすりて火鉢(ひばち)に火をして 四隅(よすみ)に火をいけさて焼(やき)なべに よきほどの板篗(いたわく)をつくりて其(その) 【左丁頭書】 内へ厚紙(あつがみ)を箱(はこ)にして敷(しき)右の 玉子をながし右の火にかけ上に 渋紙(しぶかみ)のふたをしてしばらく置 ばなべの内へあたゝまり入る其時 火蓋(ひぶた)にかろき火をして真中(まんなか)を すかしぐるりに火を置(おき)火ぶた をしてやく右の火気(くわき)まはれば 段々かすていら浮上(うきあが)り色(いろ)づく 時竹をほそくわり所々(ところ〴〵)へさし こみかげんを見やけとほりたる時 は右の竹にあぶらけなくなる其時(そのとき) 鍋ともにさまし勝手(かつて)に切る也 火かげん上下共に和(やは)らかなるよし ○みそ松風(まつかぜ) うる米(ごめ)の粉(こ)一升 餅米(もちごめ)の粉(こ)四合/白砂糖(しろさたう)三百目 ふるひ入れ山椒(さんしやう)の粉(こ)二拾匁/味噌(みそ) のたまり百目いれ団子(だんご)のかたさ 【右丁本文】 水にてあらひ落(おと)しよく乾(かわか)して後右の寒水(かんのみづ) につけおくべし但(たゞし)壺(つぼ)に入てよし如此(かくのごとく)すれば 水を替(かふ)る事なくして久しく味(あぢ)損(そん)ぜず  ○霜柿(つるしがき)を貯ふる法 一/美濃(みの)つるしを久しく貯ふるには葉茶壺(はちやつぼ) の底(そこ)に柿(かき)を並(なら)べ其上に葉茶(はぢや)をいれ置べし 其(その)茶(ちや)も又久しく味(あぢ)かはらぬ也  ○万年浅漬(まんねんあさづけ)の方 一/大根(だいこん)《割書:百本|》塩(しほ)《割書:三升|》麹(かうじ)《割書:二升|》砂(すな)《割書:一升|》砂(すな)は川 砂の清(きよ)き米粒(こめつぶ)ほどなるがよし常(つね)のごとくに 漬(つけ)ておもしを置べし四月より夏(なつ)の中(うち)用 ひて味(あぢ)かはらず  ○栗子(くりのみ)のたくはへ様一方 【左丁本文】 一/寒水(かんのみづ)にひたし置いつまでも水をかへず 漬(つけ)おき入用次第つかふべし芽(め)を出さずまた 腐(くさ)ることなし又方/赤銅(あかゞね)の薬鑵(やくわん)にいれ蓋(ふた) をよく〳〵してつりおくべし  ○蕃椒(たうがらし)のたくはへやう 一たうがらしを塩漬(しほづけ)にしてたくはへおけば いつまでも生(しやう)にてたもち生(なま)のごとく風味(ふうみ)も かはらず但(たゞし)青(あを)きうちに漬(つく)べし  ○紅生姜(べにはじかみ)のつけやう 一はじかみをあらひて水気(みづけ)をさりて後 梅酢(むめず)に漬(つく)る也其時/芥子(からし)を少し絹(きぬ)につゝみ て底(そこ)に入おくべし年(とし)を越(こえ)てもかびずして 色(いろ)よし又方/米醋(こめす)一合/黒豆(くろまめ)半合をせんじ 【枠外丁数】百四十六 【右丁頭書】 ほどにこね合せ布を水に浸(ひた)し 大がいにしぼり上下にしき麺棒(めんぼう) にてよろしき厚さにのばし焼(やき) 鍋(なべ)にうつし火ぶたのぐるりに火 をならべてやく尤( もつとも)上(うへ)の火ばかり なりよきほどに色(いろ)つかばかへして 又やく也やきはてゝ蓋(ふた)のある器(うつは) 物に入おけばむされてかげんよし ○葛饅頭(くずまんぢう) 葛(くず)の粉(こ)一升/餅(もち) の粉(こ)五合右にえ湯(ゆ)にて和(やは)らかに こねあんをつゝみむしやはらかに蒸(むさ) れたる時/胡麻(ごま)をいり薬研(やげん)にて おろしすいのうにてふるひ白砂(しろさ) 糖(たう)等分(とうぶん)に合せてかけ出す ○水蟾(すゐせん)まんぢう 葛粉(くずのこ)おろし 一升/砂糖蜜(さたうみつ)一升五合水一升二合 いれ右のうち三分一/残(のこ)しのこる 【左丁頭書】 二分を鍋(なべ)にいれゆるき火にかけ ねりかたまりたる時なべを挙(あげ)て 残(のこ)りの一分をいれ火にかけずし てねりかたまる時/箆(へら)にて取(とり)わけ 手を水にてぬらし餡(あん)をつゝみ蒸(せい) 篭(ろう)にならべむしつや出る時あげて 水に冷(ひや)し用ゆ ○同/葛切(くずきり) 葛粉(くずのこ)一升水二升 五合水せんなべゆるりとつかるほ どの大鍋(おほなべ)に湯(ゆ)をたゝし水せんなべ をかけ葛(くず)をのばしまんべんにして 上少し乾(かわ)きたる時/湯(ゆ)の中へつ けしばしの内に色(いろ)かはりたる時水 につけ右の水せんをおこし温飩(うどん) ほどに切さたう蜜(みつ)にて用ゆ又 精進( しやうじん)のさしみにもつかふなり ○薯蕷饅頭(じよよまんぢう) 上々の山(やま)の芋(いも) 【右丁本文】 汁を醋(す)にさし塩(しほ)一つまみ入はじかみを漬(つく)べ し梅(むめ)醋より風味(ふうみ)よく色(いろ)もよし  ○柑子(かうじ)をたくはふる法 一/桶(をけ)に乾(かわ)きたる潮砂(うしほすな)をいれおほひ置べし  ○初茸(はつたけ)の漬(つけ)やう 一/水(みづ)一升に塩(しほ)四合いれてせんじざわ〴〵と 【挿絵】 【左丁本文】 にえたゝして初茸(はつたけ)を入れ其まゝ桶(をけ)にいれ 蓋(ふた)をして置べし料理(れうり)につかふ時/一夜(いちや)塩(しほ) を出して用ゆべし漬加減(つけかげん)はひた〳〵にすべし  ○塩(しほ)ぬきの方 一/魚(うを)鳥(とり)の塩(しほ)をぬくには土中(どちう)に一夜/埋(うづ)み置 べし奇妙(きめう)に塩ぬける也又/出(だ)し置たる水に 椿(つばき)の葉(は)を入るもよし又方ひたしたる水の 中へ土器(かはらけ)をやきて二三/度(ど)入べし塩残らず 出るなり又/菜果類(さいくわるい)の塩をぬくには出し水 に柿渋(かきしぶ)を少し入るべし忽( たちまち)塩ぬける也もし 渋(しぶ)なき時は柿葉(かきのは)を入べし  ○梅干(むめぼし)の法 一/梅(むめ)一升に塩(しほ)三合のつもりにして漬(つけ)るなり 【枠外丁数】百四十七 【右丁頭書】 【挿絵】 皮(かは)をさりて百目/粳米(うるごめ)の粉(こ)二合 白砂糖(しろさたう)百目いれ雷盆(すりばち)にてよく すり手を水にひたしあんを包(つゝ)み 布(ぬの)を水にひたし敷/蒸籠(せいろう)に並(なら) べむしてふうわりと浮(うき)ねばりさる 時あげる也 ○匕羊羹(すくひようかん) 小豆(あづき)のこし粉(こ)水 気(け)をよくしぼりて百目/葛粉(くすのこ) 【左丁頭書】 二十匁うどん粉(ご)二十匁白ざたう 二百目/塩(しほ)見合(みあはせ)水五合いれせんじ 塵(ちり)と砂(すな)をこし引ばちにてもみ 合せ右のせんじ少しづゝ入れもみ 合せて外(ほか)に水二合いれ右の水合 せて七合をよくかきまぜこしきの 内に四角(しかく)なる箱(はこ)の底(そこ)なきわくを おき木綿(もめん)の敷布(しきぬの)水にひたし わくの内へしきむし釜(かま)のうへに かけやうかんを流(なが)し入れかたまる までつよく火をたきてむす也 ふき上る時しばらくさまし金杓(かなしやく) 子(し)を水(みづ)にぬらしよそひて出す也 ○羊羹(ようかん) 上のごとくにこしらへ 葛(くず)三匁引うどん粉(こ)五匁引水八 合にしてつめたくなるまでさま してよし 【右丁本文】 梅(むめ)はよくあらひて水気(みづけ)をかわかし塩を合せ て廿一日/漬(つけ)おき三日/天日(てんひ)にほし一夜(いちや)露(つゆ)にあ てゝ又一日/干(ほ)し貯(たくは)へおくべし長(なが)くほせばいよ〳〵 久しくもつ物なれど肉(にく)減(げん)じてわろしまた紫(し) 蘓漬(そづけ)【蘇】にするは紫蘓葉(しそのは)をもみて水気(みづけ)を去(さり) 梅を漬(つけ)たる醋(す)に右の梅と同じく入ておくべし さて後/酒(さけ)を入れば味(あぢ)甘(あま)くなるなり又/紫蘓(しそ) 葉にてたゝむ時/酒斗(さけばかり)にて漬れば大に甘(あま)し されどもねばりてわろし  ○梅(むめ)びしほの方 一/梅干(むめぼし)をあらひ塩をさり核(たね)をよくすり つぶし白砂糖(しろざたう)を入れ酒(さけ)を加(くは)へてねるなり  ○煎梅(にむめ)の方 【左丁本文】 大なる梅(むめ)の熟(じゆく)せざるを塩につけよく熟(じゆく)し たる時/潰(つぶ)れざるを取(とり)のけつぶれかゝりたるを 摺(すり)つぶし梅醋(むめず)をたぎるほどに沸(わか)してさまし 右の潰(つぶ)したるをどろ〳〵にあはせ取(とり)のけたる よき梅(むめ)をその汁にまぶし壺(つぼ)へ漬(つけ)こみておく べしよくなるれば次第(しだい)に梅(むめ)の香(か)よく味(あぢは)ひも よくしてかびることなし  ○あちやら漬(づけ)の方《割書:已下/畜蔵(たくはへ)にあらさる類も|漬(つけ)ものゝ因にこゝに載(の)す》 一/醬油(しやうゆ)《割書:一合|》酒(さけ)《割書:一合|》醋(す)《割書:一合|》  右せんじてさまし干大根(ほしだいこん)梅干(むめぼし)昆布(こんぶ)の類何  にても漬(つけ)おきて其まゝに食(しよく)すべし《割書:砂糖を入る|もよし》  ○南蛮(なんばん)漬の方 一/醬油(しやうゆ)《割書:一升|》醋(す)《割書:三升|》酒(さけ)《割書:五升|》塩(しほ)《割書:一升|》 【枠外丁数】百四十八 【右丁頭書】 ○求肥飴(ぎうひあめ) 葛(くず)の粉(こ)百目/蕨(わらび) の粉五十匁/餅米(もちこめ)の粉(こ)五合/白(しろ) 砂糖(さたう)七百目/煎(せん)じ水壱升入れ内 五合はさたうのせんじ水/残(のこり)五合は 葛(くず)わらびをときいづれも水嚢(すゐのう) にてこし炭火(すみび)よきかげんにし てねり中ほどにてしる飴(あめ)四百五 拾目入れ初よりねり上るまで手 をひかずねる也火のかげん第一 なりよきほどにつまりたる時 箱(はこ)にうどん粉(こ)を敷(しき)ながして 二日ばかりさまして切る也 ○南京飴(なんきんあめ) 右ぎうひをぬれ ぶきんにて粉をふき青豆(あをまめ)の粉(こ) を付るなり胡麻(ごま)を付るもよし ○小倉野(をぐらの) 餅(もち)の粉(こ)壱升 白砂糖(しろざたう)六百目水壱升/入(い)れ垢(あか)を 【左丁頭書】 とり蜜(みつ)にてせんじ地黄煎(ぢわうせん)五百 目入れ求肥(ぎうひ)のごとく少しかたく ねりつめて箱(はこ)にうどんのこしき ながし置二日ばかりもおきて切り あんをつゝみ上へさたう煮(に)のつぶ 小豆(あづき)をつける此あづきこしらへ様 は上/小豆(あづき)をたきよく煮(に)てつぶれ たるを択去(えりすて)て砂糖蜜(さたうみつ)にて又 煮(に)塩(しほ)見合せに入る右さたう に煮(に)てとほしにあげ滴(しづく)を たらしさめてかわく時上のきぬに つくるなり ○養命餹(やうめいたう) 寒(かん)ざらしの餅(もち) の粉五合/葛(くず)の粉五十匁/白砂(じろさ) 糖(たう)五百匁/先(まづ)さたうに水三百匁 いれせんじて垢(あか)を去(さり)粉(こ)に水百目 入れよくときて右の砂糖(さたう)を入れ 【右丁本文】 【挿絵】  右せんじてさまし魚肉(ぎよにく)を漬(つけ)置べし  ○金山寺味噌(きんざんじみそ)の法 一/大麦(おほむぎ)《割書:黒くならぬほどに|いりて一斗》大豆(まめ)《割書:黒くならぬほどに|いりて一斗》  右一所にまぜせいろうにて蒸(む)し糀(かうじ)にねさ せ花(はな)つく時分(じぶん)塩二升あはせ茄子(なすび)五十いれすし のごとくしておもしをかけ七日めづゝに上下(うへした)へま 【左丁本文】 ぜかへし四十日めに山桝(さんしやう)【山椒】の辛皮(からかは)を入れ又 七日ほど過(すぐ)れば上へ水あがるもの也/和(やは)らかな らば水を外(ほか)へとりておくべし乾(かわ)く時は右の水を 入てかきまはすなり或(あるひ)は瓜(うり)の水気(みづけ)をさりて も入べし多(おほ)く入ればしるくなる也  ○柚(ゆ)びしほの方 一/柚(ゆ)《割書:実(み)をさり皮(かは)ばかり|にして六ッ》葛粉(くずのこ)《割書:一合|》砂糖(さたう)《割書:四十匁|》  たまり《割書:少|》胡桃(くるみ)《割書:十五|》 右/砂糖(さたう)たまり柚(ゆ)一所に煮(に)る也さて最後(さいご)に くるみ葛粉(くずのこ)を入べし  ○ひしほの方 一/小麦(こむぎ)《割書:壱斗水につけよくむし手にて握(にぎ)りて|かたまる時分豆の粉と合すべし》大豆(まめ)  《割書:五升わりて皮をさり|引わりて用ゆべし》塩《割書:二升五合|》水《割書:八升五合|》 【枠外丁数】百四十九 【右丁頭書】 炭火(すみび)にてねりつめ中ほどにて しる飴(あめ)三百八拾匁入れてねり つまりて上る時/芡実(けんじつ)十五匁/蓮肉(れんにく) 十五匁/薏苡仁(よくいにん)二十匁/山薬(さんやく)二十五匁 四/味(み)粉(こ)にして入れ又ねりあはせ 求肥(きうひ)のごとく箱(はこ)へうつしてさまし 五六日も過て右の粉(こ)をふきん にてふき取て湿(しめり)のある所へ砂糖(さたう) をつけてよきほどに切て風(かぜ)を ひかぬやうに箱(はこ)へいれおけばいつ までももつ也 ○餡(あん)の製法(せいほう) 極上(ごくじやう)の小豆(あづき)を 煮(に)て雷盆(すりばち)にてすりこまかなる 篩(ふるひ)にて漉(こ)し少しゐさせおき木綿(もめん) の布(ぬの)へ少しづゝいれかたくしぼり 餡(あん)のしぼり粉(こ)百目に白砂糖(しろさたう)百匁 水五十匁何ほどにても右の割(わり)にて 【左丁頭書】 せんず砂糖(さたう)のあかのさりやうは よき山(やま)の芋(いも)の皮(かは)をさりて少し ばかり砂糖(さたう)へおろし入れよく掻(かき) 合せ水をいれせんじにえ立て しばしおけば砂糖(さたう)のあか残(のこ)らず かたまりて上にうく其時あみ 杓子(しやくし)にてすくひさればきれいに とれるなりそれを布(ぬの)にてこし せんじつめ塩(しほ)を合せこし粉(こ)を 入れよきほどの堅(かた)さに煉(ねり)つめ てたくはへ置也これ極製(ごくせい)なり ○砂糖蜜(さたうみつ)の製法(せいほう) 大白(たいはく)のさたう壱貫目山の芋(いも) 皮(かは)をさりて二百目おろし砂糖(さたう)に よくまぜ合(あは)せ水四百五拾匁を 少しづゝ入れ砂糖(さたう)をときせんじ にえ立て火(ひ)を引(ひき)しばしおけば 【右丁本文】 右塩と水とを合(あは)せ煎(せん)じさまし置さて 小麦(こむぎ)と大豆(まめ)とをあはせ日影(ひかげ)におき毎日(まいにち)〳〵 かきまはすべし  ○柚(ゆ)べしの方 一/柚(ゆ)《割書:皮をさり実|ばかり十》胡麻(ごま)《割書:二合|》味噌(みそ)《割書:五合|》餅米(もちごめ) の粉《割書:二合但し乾飯(ほしいひ)なれば|  いよ〳〵よし》番椒(たうがらし)《割書:少|》 右一所にすり合せ柚(ゆ)の皮(かは)へつめてよくむし 其後(そのゝち)その中に胡桃(くるみ)かやの類をも入るべし 但し柚(ゆ)の裏(うち)の皮(かは)をさるべし  ○越瓜(しろうり)を青(あを)きながら貯ふる法 一/赤土(あかつち)一斗に塩(しほ)六升五合あはせ越瓜(しろうり)を二ッ にわりて中をよくさらへ右の土(つち)にてつけ おくべし翌年(よくねん)まで色(いろ)かはる事なし 【左丁本文】  ○奈良漬(ならづけ)の方 一/白瓜(しろうり)を二ッにわりて実(み)をさり能(よく)ふきて 瓜(うり)の中へ塩(しほ)半分(はんぶん)もりその上に粕(かす)をぬり つけ桶(をけ)へ入れおく也/但(たゞし)あたり合ぬくらゐに すべし  ○丸山(まるやま)ひしほの方 一/小麦(こむぎ)《割書:四合|》黒大豆(くろまめ)《割書:六合|》いづれも炒(いり)て引わり むして糀(かうじ)むろへ入れ花(はな)をつけ三合/塩(しほ)に あはせ常(つね)のかうじを水にて洗(あら)ひそのあらひ汁 にてかたくこねてねさすべし急(きふ)に味(あぢ)を付る にはしこみたる桶(をけ)に蒲団(ふとん)をかけ昼(ひる)は日あたり へ出ししば〳〵かきまぜれは五六日の中に能(よき) 味(あぢは)ひとなる也又/大豆(まめ)の粉(こ)を右の大豆(まめ)にふり 【枠外丁数】百五十終 【右丁頭書】 垢(あか)の分(ぶん)かたまりて上に浮(うく)なり 其時/金(かね)の網(あみ)じやくしにてすくひ 取又一たきすれば残(のこ)らず垢(あか)上へ うく所を取つくし布漉(ぬのごし)にして 壺(つぼ)にたくはへ置つかふ氷砂糖(こほりさたう)も 同様にてよろし ○寒晒(かんざらし)の粉(こ)製法(せいほう) 米(こめ)を炊(かし)て 二日に一度づゝ水をかへ七日/漬置(つけおき) 石臼(いしうす)にて挽(ひ)き糟(かす)をこしさり又/桶(をけ)へ 入れ二日ばかり淪(ゐ)させ水を去(さ)り 麹(かうじ)ぶたに紙(かみ)を敷(しき)上(あげ)て干(ほし)かため おくなり幾年(いくとし)おきても虫(むし)つく 事なし餅米(もちごめ)粳米(うるごめ)同事なり 頭書終 【右丁本文】 かけ室(むろ)へ入れば花(はな)よくつきて味(あぢは)ひ一しほよし  ○白柿(つるしがき)の貯(たくは)へやう《割書:并(ならびに)|》あはせ柿(がき)の法 一/常(つね)のごとく皮(かは)を剥(むき)て干(ほし)たる後/蕎麦稭(そばがら)にて つゝみおけば霜(しも)ふきて白(しろ)くなる也又あはせ柿(がき)は 柿(かき)の黄(き)にならんとする時(とき)とりて石灰(いしばひ)あるひは 蕎麦稭(そはから)の灰汁(あく)にひたし二三日して取出(とりいだ)し 乾(かわか)すれば青色(あをいろ)変(へん)じて黄赤(きあか)くなり渋味(しぶみ)転(てん)じ て甘(あま)みとなる也 広益秘事大全終 【左丁】 嘉永六年丑五月新刊         河内屋喜兵衛  京摂     河内屋茂兵衛      浪華 河内屋新次郎  書肆     藤 屋善 七         藤 屋禹三郎      皇都 越後屋治兵衛 【右丁 内裏表紙】 【左丁 見返し】 【裏表紙】