【表紙】 児訓影絵喩 完 【空白】 【左丁】 善悪邪正(ぜんあくじやしやう)はかたちとかげ絵(え)のごとし 人面(にんめん)のかげゑに獣身(じうしん)なるものあり 菩薩(ぼさつ)のかけゑに夜叉(やしや)なるものあり人に してそのかげゑ犬(いぬ)あり蛇(じや)ありせきぞろ のかげゑたちまち万歳(まんさい)とへんずるを もつてくはうゐんのはやくすくるを さとるべしくづのはのかげゑすみ やかにきつねと化(け)するをもつて 美女(びじよ)の人をまどはす をおもふべし 天道(てんとう)の あきらかなるともしびをもつて てらしうつすときんば人げんばんじの 異形(いぎやう)をあらはすべし豈(あに)おそれ つゝしまざらんや  寛政十戊午年春日    京伝子戯述 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 のみくいにむた ぜにをつかふ人の かげゑ おほみそか のくるしみ めのまへ にうつる 【影絵の解説】 一ねんのはかりことは元日にありとは むべなるかな 乁あすありとおもふこゝろの あださくらよるはあらしのふかぬものかは といふうたのごとくばんじあすありと おもふてその日〳〵のかきやうにおこ たりぜにかねをむへきのことにつかふ ときはおふみそかのくるしみもくぜん にきたりみをせむるなりされば ぐはんじつよりわがこゝろのかけゑに おほみそかのくるしみをうつして かぎやうにおこたりあてなきしやつ きんをおはぬやうにこゝろがくべし そのばにいたりてくゆるともゑき なし 【中段】 たつのとし二六 にうめんが さめる はやく やらつ せへ 乁さんや とうらい 【下段】 たからぶね うりがいふ 乁さけを すごしたら だいふんなが きよのとを のねむりが きざしてきた 乁いつそけふは あきないを やすんで こつちで はつゆめを 見て くりやう 【左丁】 【上段】 乁いつそ けふは やすんで 梅見にでも でかけよふ かづのこに たゝき ごほう では のめぬ 〳〵 【中段】 さるがいふ 乁こちちは かちぐりと でよふ 【下段】 乁ごうさい いつかう 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 りんき ふかき 女の かげゑ わかむねの火 わかみを こがす 【影絵の解説】 【上段】 おんなのだいいちに つゝしむべきはりんき しつとのこゝろなり ゆへに古人(こしん)もりん きふかき女はさる べしといましめ たもふしかれとも 女のりんきふかきは おほくはおつとの みもちあしきが ゆへなりまづ おつとのみもちをたい いちにつゝしむべし おつとのみもちあ しく女りんきふか きときはふうふの 【左丁に続く】 なかをわじゆ くせずついには いへをやふるこれ みなわがこゝろの かけえに むねの ひもへわかみを こかすどおりを わきまへさる ゆへなり よく〳〵こゝろの かげゑを見て つゝしみ たまへ おとこいふ 乁それをみられては いちごんもなしの わんぎりしや 【右丁の中段】 おまへのはな がみふくろから でたこのふみは どこから きたのだへ 【右丁の下段】 いけあつ かましい だんなさま おんもとへ とかい てある ぞへ 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 こひのやみにまよふ 人のかけゑぼんのふ のいぬわがみを ほゆる 【影絵の解説】 【上段】 人たるものおそれつゝしむべきは 色欲(しきよく)なりいにしへよりちある 人も此みちにふみまよひてくにを かたむけいへをほろぼしたるひとあけ てかぞへがたしおろかなる人はこと さらいふべからず此みちのやみ にまよふ人のかけゑはぼん のふのいぬわがみをほへ こでふちんのともし火 もこゝろのやみを てらすことなし わかきなんによ のつゝしむ べきだい いち なり 【下段】 乁うつくしい おわかしゆさん じやどふも むねがどき 〳〵して とまらぬ 女いふ 乁お七さんも あのめづかい 【左丁へ】 ではもふ ゆたんが ならぬ 乁はてさて うつくしの ものじや やうきひに小まち そとおりひめを へに【紅】とおしろいで ぬたにしたような むすめじや 上もの〳〵 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 よめをにくむしう とめのかげゑ こゝろのおにわがみを せむる 【影絵の解説】 まいにちたんき【談義?】せつほうをてう もんしつねにねんぶつおこたら ずおもてむきはよきごしやうねかひ【後生願い?】 と見ゆれともこゝろのうちは かう〳〵なよめをいびりよくかせぐ むこをにくむおばゝせけんにいくらもあり たんきをきゝねんぶつをとなへるは 悪(あく)をしりぞけ善(ぜん)にすゝまんか ためなり心にあくをなして まうすねんふつははな うたをうたふもどう ぜんなりいかんぞ ほとけのこゝろに かなわんやみせかけ 【左丁へ】 ばかりのごしやう ねがひこゝろのかげゑ をうつして見ればみぎの ごとしよめをいびりむこ にくむべからすぢごくにおつる をこはくおもはばわがいけんに つきたまへ 乁いつれもようさんけいをさ しやつたこんにちのだんぎは ゆいしんのみだごしんの しやうど【浄土?】ゝもふす せつほうて ござる ごくらくも ぢごくも みなおの〳〵がたの むねのうちに ござるぞ 【右丁中段】 なむあみだ 〳〵〳〵 乁いつれもかはらの せしゆに おつき なされ 乁おばゝたちはだんきは きゝへかしてよめむこの さんそう【讒奏?】する 【左丁中段】 わしらかよめしよは あさね【朝寝?】ばかりしてなん のやくにたゝぬおひき づりてこまり ます わしらむこはよめと なかゞよくてとしより きらいでごさる アヽなんまみだ 【右丁囲みの中の影絵】 美人(びしん)のかげゑ たちまち がいこつに うつる 【影絵の解説】 男女(なんによ)のいんらくはくさきかばねをいだくとは 東坡(とうば)せんせいのいましめなりやうきひ 小まちもひとかはむけはしたははな くさきかばねぞかしうつくしき女の ためにまよはされてふかうふちう をなしいへをやふりみをほろぼす なとみなひとかはうへのまよいにて それもはんぶんはべにおしろひに まよはさるゝなりいかほどうつくしき 女もむしやう【無常?】のかぜにさそはれて たちまちかげゑのへんするを 見れはみなあさましき はつこつ【白骨?】なり 【中段】 このたのしみはみにもいへにも かへられぬあすはのとなれ山 ざくらてんつく〳〵〳〵 乁はなとびてふおどろ けとも人しらず われもまよふや さま〴〵に 【左丁】 【右上囲み内の影絵】 よるのつるのかけゑ こむ そうの すがたに うつる 【影絵の解説】 おやの子を思ふほどはなはたしき はなし子をもつておやのおんをしると いふはよきたとへなりされば人の子と しておやのをんをしらされば鳥にも おとるへしやけのゝきゞす よるのつるの子をおもふ こと人にまされり よるのつるの子をおもふ かげゑは九たんめの こむそうのすかた にうつる人として 子にじひなきも また鳥におとる べし 【中段】 乁とつさん つるのこもちをかつてくんな 乁われももふあにじやから ちとおとなしくせい 【下段】 かゝのとりが ところへ いつて ちゝを もらおふ 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 おんしる人 かけこん ではてを あはせ おがんで いる所 うつる 【影絵の解説】 むかしもろこしにかめを たすけておんをかへされ すゝめをやしなふて おんをむくわれたる 人あり人のをんを うけてそのおん をわするゝは 鳥けだもの にもおとる べしいぬも やしなわるゝ 人をみては おをふりねこも そのぬしのあと をしたふてにやふ〳〵と 【左丁へ】 なくおんをわすれ ぬ人のかげへはてを あはせておかむべし しけの井では ないか 乁よさくさんかあい たかつたわいナア 乁左門とのゝおんを かならす わするゝな 乁こゝろへ ました うれ しう こざんす 乁サア こひ チン チン〳〵〳〵〳〵 【右丁下段】 乁あんやにまよふ ねぐらのすゞめ もちざをに かゝらぬうち はやくこのばを とんで おゆきやれ 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 みだりに 人をほむる人 かけゑは かならず したをいだして わらふ 【影絵の解説】 ほめられてよるこぶ人は 人のじやうといゝながらめの まへてほめる人かならずかげ ではわらふものなりほめらるゝ ともかならずをこる【驕る?】べからず わかげいにほこる人はめいじん になりかたし此かげゑを 見て人のはくじやうを しるべし 【中段】 乁てんかのさい ぶつと申は わかたんな の事で こさる 【下段】 わかだんなのおきよう【お器用?】にはおそれいり ましたゑ【絵】は一てう【英一蝶ヵ】もふでをなげて にげ しよ【書】はかうたく【細井広沢ヵ】もすみを ちらしてしりぞきます いやはやみやう〳〵 【左丁】 【上段】 乁これさふたりの のしうかこ代【二人の衆、駕籠代ヵ】 は一両づゝじや あすもきて ほめて くりやれ 【下段】 しかし一てふや かうたくと どうじつに ろんぜられては ちとあやまる 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 見へぼうな 人のかげゑ むけん【無間】のかねを つく所 うつる 【影絵の解説】 乁おまへのすそへ とろ【泥?】がかゝつた そへ 乁わたしが すそへかへ 【左丁】 【上段】 たいじ【大事?】ない〳〵正月 ものは うへしたふつかさ ねて おれがこしらへて やるぞ ちつとそんな むだな事でもせねば くらのなかで かねが うなつて やかましくて ならない 【下段】 おもてをかざりみやう もん【名聞?】をこのむ人ないしやう【内証?】には はなはだくるしき事おふく その人のかげえはかならず むけんのかねをつくべし これ みなわがふんげんをしらず ひとにほこらんとおもふかゆへなり かやふなこと 道をまなぶ 人にはなき事なり みなしやう人(じん)【小人】 のおろかなる心よりうまるゝ しはさ【仕業?】ぞかし 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 かねもちの かげゑ がきの すがた うつる 【影絵の解説】 【上段】 金をたくさんもちたる人の しはざをみるに じひぜん ごんの心なく ふぎ ふじんをなして利(り)を のみむさぼり きんぎんの ために一しやう をつかわれ 死してののちは そのかねをもち ゆく事あたはず 金をもつてかへつて 心のくるしき事 がき だう【餓鬼道?】のくるしみのことし これをうざいのがきと なつく 【中段】 乁あなたの御しんだい で五文や八もん ふう ぜんのちりがみ でごさります わたくしらが やうなまつ しきも のをおた すけ△ 【下段】 △なさるが まことの しひ【慈悲】て こざる 【中段左】 もふ八文かはつしやい そふ なけれは うられぬ ころん てもたゞおきてはましやく【間尺?】に あはぬ 【左丁】 【右上囲み内の影絵】 せいひんを まもる人の かげゑには 大こくが うつる 【影絵の解説】 ふうきはてんめいに して いかんともしがたき ものなり たとへそのみ まづ しくとも そのたる事を しつてむさほることなく まがれることなく心をきよくもてば ひん ほうな人のかげゑも かならずふくじん うつるべし 乁ふぎにしてとめるは うかべるくもにのりたるが ごとくあやういかな〳〵 【下段】 くはずひんらくとは われらがこと これほど たのしひ事は ないぞ 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 人についしやうを いふ人かげゑは かならず そしる所 うつる 【影絵の解説】 巧言令色(かうげんれいしよく)は古人の いましむるところ 人の まへで ついしようけい はくのおほき人 かなら ずかけでは そしるもの なり ついしようおほき 人にかならず ゆだん すべからず 事を やふる事おほし 乁すみだ川をひと たる かもをいちは もらつておきました ひとつあがれ 【中段】 かやうもふせば とふやら【どうやら】ついしやうのよふて ござれど あなたのやうなおむねの ひろい ばんじにゆきわたつた おかたは おふくないもの でござる モシおさか づきは ごむように なされませ 【左丁】 【右上囲み内の影絵】 定九郎の かげゑ なつのむしの ひにいるとこ ろ うつる 【影絵の解説】 ぬすみを なしひとの きんせんを うばふは ひつ きやう そのみ かきやう【家業?】をつと めすして ふう きなる人と おなじやう に くはんらく【歓楽?】 をなさ んとおもふ ゆへなり しかれども 天そのあく をにくんで たち まちその人を がゐしたまふこと さだまりあること也 みを うしなふては くはんらくも なにの ゑき【益】かあらん さればあくをなす△ 【中段】 △人のかけゑは なつのむしとんでひにいり われとわが みをこがすところうつる おろかなるしわざならずや 【下段】 かねがかたきの よの中じや かね がなければ ころしや せぬ 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 大功(たいこう)を たつる 人の かげゑ かんにん ふくろ うつる 【影絵の解説】 人たるものは 一 生(しやう)を無事(ぶじ)に くらすは かんにんが せんいちなり かんにん 五両まけて三両と ことわざにはもふせ とも かんにんは千 金(きん)にも かへかたき たから なり はらのたつをこら ゆるばかりを かんにんとは もふさず ばんじの事 たへしのび こらゆる は みなかんにん なり 大 星(ほし)ゆらの 介が しゆじんのたい やに たこざかなを くらひ そがのすけなりが かちはらがために あざけらるゝ 【左丁へ】 をこらゆるも みな忠孝(ちうこう)の ためのかんにんなり すこし のことをはらたちいかる人は なみ〳〵の人にて 千(せん)にんにひいて 人にうやまはるゝ人にはなりがたし されはもろこしの韓信(かんしん)がごとき 大 功(こう)をたつる人のかげゑは かならず まつ かんにんふくろの かたちうつるなり きをひが曰 乁よはひやつだ さあ おれがまたの御門を くゞりをれ 乁さて〳〵かん にんづよい 人じや 【右丁下段】 きのつをい やつだ 【左丁下段】 くゞる人曰 乁かやうの小人(せうじん)にむかつ て はらたつは むやうの こと まづ かんにん をして またを くゞり ましやう 御門 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 家業(かぎやう)を せいいだす 人の かげゑ こま【独楽】いと【糸】を わたるところ うつる 【影絵の解説】 金のたくさんある人も その身 くわぎやう【家業】におこたる ときは とをからずして しん だいをつぶすなり びんほう なる人もかぎやうにおこたら されば ついにはふうきのみとなる こときはまりたるだうりなり さるほとに かぎやうに甘い いだす人のかげゑは はか たごまの いとをわたる ところうつる いとの やふなるほそき もとでのあやうき うへをわたるとも こまといふ こゝろの しんほうまがらず 手のさだまりさへ よければあやまち 【左丁へ】 おつるといふことなし よく〳〵このこま のりかたを かんがうべし 【右丁】 【中段】 乁なか〳〵ゆだんして は くらされぬ にんじんや こほう【牛蒡?】や だいこ〳〵〳〵 乁いつもよく せいたす 人しや われらも ちと きをつけて あき ないをせいいたし ませう 【下段】 乁此人あさはなつとう つけなをうり ひるは せんさいもの【前栽物?】 または おめさまし【目覚まし草=煙草=ヵ】 おちや【お茶?】くは し【菓子?】をうり ゆふかたは あふらをうり よるは あんばいよし お てんをうる 乁かやうにかせぐ ときんば おいつく ひんほうかみ【貧乏神?】 あること なし 【左丁】 乁さつさと こざれや せきそろ そいふん【?】 せい たして あるき ませう 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 危(あやうき)を おもはさる 人の かげゑ つるき【剱】の うへをわたる所 うつる 【影絵の解説】 【上段】 たかきにのぼらず ふかきにのぞまずとは 古人(こじん)のいましめなり わかみは わかものにあら ず おや〳〵よりたまわりたる たいせつの みなれば あやうきにのぞみ みを うしなふは おほひなる ふかうなり なぐさみなりとて おきづりに いでゝ風波(ふうは)のあやうきをおも わず毒魚(とくきよ)としつてふぐじるを このみくらふ人などはそのかけゑ つるきのうへをわたるところうつるべし それのみにあらず 利欲(りよく)色欲(しきよく)の ためにつるきのうへのあやうきをわた る人おほし つゝしむべし〳〵 【中段】 乁もふひるても あろふがたいふん はらがきた山 のむしやところ【「腹が少し北山の武者所だ」@賢愚湊銭湯新話】 じやむくはんの たゆふあつもりか ぶつかけてもして やりたい 乁ちとかせが でたはへ つよくなら ねば よいか 【左丁】 【右上囲み内の影絵】 ものをかりる 人のかげ ゑ ぢぞう うつり 反【かへ】す人の かけゑ ゑんま うつる 【影絵の解説】 かりるときのちぞう かほ反すときの ゑんまかほとは よく にんしやう【人情?】をいひかなへ たることはざなり かりる ときの反すあてをおもはす 反すときのくるしみをおもはざる ゆへちぞうかほなり 反すとき かりたときの をんをわするゝ ゆへにゑんまかほなり ひつきやう は 人にものをかりぬやうに こゝろがくへし 人にものをかりる やうになりては そのみの はめつなり 乁まちがひましては すみませぬぞ 【中段】 これは〳〵 かたしけのふ ござり ます 【下段】 乁しやうもんの とをりの年月 そふいなく へんさい いたし ませう 【右丁】 【右上囲み内の影絵】 心ざし よき 女の かげゑ おのゝ 小まち うつる 【影絵の解説】 女はみめかたちのよきをもつて人 これがためにまどへとも かたちうつくしく とも 心さしみにくければ まことの女 といふへからず かたちはむまれつき なれは なをしがたし こゝろはあ しきより よきにもなをせば なを さるゝものなり 人は見めよりたゞ こゝろといふたとへを わするへからす 心さしよき女は たとへおたふくなり とも かけゑには やうきひ小まち のごときひじん【美人?】のすがた うつるへし 乁そなたのかう〳〵 わかみにこた て うれしう こざる 【下段】 これは〳〵よめが しうとめにこう 〳〵いたしま するは人の みちとうけ たまわり ますれど なか〳〵その まねかたも できませぬ に さように おほしめして くたさります と もつたいのふ【勿体のう】 ぞんします 【左丁】 【右上囲み内の影絵】 かうまんなる ひとのかけゑ てんぐの すがた うつる 【影絵の解説】 文学(ふんがく)に通達(つうたつ)し ちゑさいかく 人にすぐれとも みづ から ほこるべからず わが 人にほこるは 小人(しやうじん)のしはさなり いつくいかなる ところにわれにまさる人あらんも はかり がたし ひつきやうは せけんのひろきをしらざる 井のうちのかはつなり されは かうまんなる 人のかげゑはかなら ず てんぐのすがた うつるべし 【下段】  乁かんのちやうりやう【張良】 しよくのかうめい【孔明】が はかりことも わが めからみれば しやうに【小児】のたは むれのやうじや いまにかれら をたつとむか 世にちゑある 人がないと みつる 【上段】 荘子(そうじ)斉物論(せいふつろん)に罔両(もうりやう)と景(かげ)との問答(もんどう)を載(のせ)たり罔両(もうりやう)は 景(かげ)のうちにまたかげのごとくうすきものあるをいふ今(いま)予(よ)が あらはす影絵(かげゑ)の喩(たとへ)へも是(これ)に相(あい)似(に)たり世(よ)の人 善悪(ぜんあく)表裏(ひやうり)のかげひなたあることをしめす而已(のみ) 口演 京伝店御はなかみ袋の 類(るい)くわいちうもの一 式(しき)御たばこ いれるい御きせるるい当年はかくべつ めつらしきしんものたくさん仕入候間 ゑん国御ひいきの御かたさま御ひきやくにて 御用被 仰付可被下候以上 ◯附て申上候京伝と申大道にてあきなひ候一まいずりのるい いつれも私自作にこれなく偽名(ぎめい)にてこざ候此義かねて御せうち くださるべく候已上 【下段】 京伝子戯編 清長画 【裏表紙】