《題:化物世帯気質《割書:晋米齋玉粒》》 【図書ラベル】 207 1437 ばけもの 世帯気質(せたいかたぎ) 晋米作 美丸画 全二冊 【蔵書印】大惣かし本【注①】 【付箋、整理番号ヵ】り四百弐拾番 文政庚辰春 【注① 貸本屋「大野屋惣八」の蔵書印で、「大惣貸本」の意味】 【「大野屋惣八」は全国一の蔵書を誇った名古屋の貸本屋】 【国立国会図書館サイトの「蔵書印の世界」に詳細情報あり】  【https://www.ndl.go.jp/zoshoin/collection/05.html】 鶏口 牛後 晋米齋 玉粒作 歌川 美丸画 戊辰春新䥴 化物(ばけもの) 世帯(せたい) 気質(かたぎ) 化物(ばけもの)の冊子(さうし)を編(つゞら)んとて。硯(すゞり)の海坊主(うみばうず)に河童(かつぱ)の皿(さら)の水(みづ)を 滴(たら)し。烏羽玉(うばたま)の墨(すみ)を點(てん)じ。舌出(しただ)し禿(かぶろ)の筆(ふで)採(とり)て。工夫(くふう)も 更(ふく)る丑満過(うしみつすぎ)。物凄(ものすさま)じき秋(あき)の夜(よ)の。生臭(なまぐさ)き風(かぜ)北窓(まど)におと づれ。狐火(きつねび)ほそく遠寺(えんじ)の鐘(かね)。コウ〳〵たる鼾(いびき)に人音(ひとおと)絶(たえ)て。 気(き)の利(きゝ)たる化(ばけ)ものは。足(あし)を洗(あら)ふて居(ゐ)る時刻(じぶん)。幻(まぼろし)のごとく 物蔭(ものかげ)にさゝやく咄(はなし)の聞(きこ)ゆるに。首筋(くびすぢ)もとからぞゝぞつと。 怖(こわ)いもの見たしと耳(みゝ)聳(そはだつ)れば。化物(ばけもの)の首長(かしらぶん)未然(みぜん)を見 越(こ)す大入道(おほにふだう)。女房(にようばう)の雪女(ゆきをんな)に向(むか)ひ。《割書:アノ》かゝァどの《割書:コレ》お雪(ゆき)や。此(この) 頃(ごろ)きけば今(いま)金時(きんとき)といふつよいやつが出(で)て。又(また)此節(このせつ)の新(しん) 化(ばけ)を退治(たいぢ)するとの噂(うはさ)。《割書:イヤモウ》前(まへ)の金時先生(きんときせんせい)におさ〳〵 劣(おと)らぬ兵(つはもの)のよし。ひどき目(め)にあふて消(きえ)てなくなるも 【右ページ】 あまり智恵(ちゑ)がないから。こつちから一《割書:チ》ばん降参(かうさん)するが上(じやう) 分別(ふんべつ)じやァあるまい歟(か)。《割書:アイサ》わたしも此間(このあひた)うぶめさんの はなしで聞(きゝ)ました。さうなさるがよからうと。相談(さうだん)きはまり 入道(にふだう)は。支度(したく)とゝのへ今(いま)金時方(きんときかた)へと尋(たづ)ね行(ゆく)を。夢現(ゆめうつゝ) とも辨(わきま)へず。狐(きつね)にばかされた心地(こゝち)にて。跡(あと)を慕(した)ひつき 歩行(あるき)しが此(この)一編(いつぺん)の首尾(しまつ)。利考(りかう)か馬鹿(ばか)か作者(さくしや)の胸中(けうちう)。 看官(ごけんぶつ)夫(それ)これを鍳察(さつし)たまへ。云尒【云爾(しかいう)、尒は爾の異体字】。  《割書:文政二季己卯秋稿成|同 三季戊辰春発兌》晋米齋玉粒戯述【印】米齋 【文政三年戊辰は庚辰の誤り】 【左ページ】  平灰【仄の意図的誤字】混乱  不均【均の扁を意図的に手偏に書く】韻字 小説(せうせつ)恰(あたかも)如_二河童(かつぱのへの) 屁(ごとく)_一。圗(づ)画(ぐわ)偏(ひとへに)似_二珍(ちんぶつ) 物店(みせににたり)_一。編成(へんなりて)綴(とづるに) 用_二 三眼錐(みつめきりをもちひ)_一。雨夜(あめふり) 寂見(ものさびし)_二片目兒(ひとつめこそうをみる)_一。 怪談(くわいだん)数回(すくわいの)狐表紙(きつねべうし)。謡曲(ようきよく) 一流(いちりう)狸腹鼓(たぬきのはらつゞみ)。古寺譚議(ふるてらのだんぎ) 敷_二金玉(きんたまをしき)_一。茶釜生(ちやかまげを)_レ毛稱(しやうじて)_二文福(ぶんぷくとよぶ)_一。 帰(みづに)_レ水(きす)海霊及雪女(うみぼうずとゆきをんな)。百鬼(ひやくき)消滅(せうめつは)公時功(きんときがかう)。  題_二化物稗史_一   藍亭玉粒賦 さるほとに見こし入道雪女は今金時を たづねて立出けるがみちすがらふぜいか ないとてしばゐでする類ひ【道行ヵ】の おもいれにて■■■【道具立ヵ】の柳ばし ものすごき なりもの いりて 此二■■め のまく  あく 〽ばけ ものゝ ため にや 今の 金時を たづ ぬる むねの こは ければ 世を しのふ 身の あとや さき人目を つゝむなり【注①】 【注① 「人目を包む」とは人目をはばかって隠れること】 【左ページへ】 かぶりかくせど 白きゆき女なれぬ あゆみを入道が いたはる身さへ雪 ゆゑにあたゝめたらば きえようとこゝろつかひに あし引の山の手さしてゆく そらの月もくもりてよひ やみにいまみのし■【よヵ】さで ゆくむかふへちからかみ【注②】 りゝしく六尺はかりの ぼうをかたげしぶ うちは【団扇】にごふん【胡粉】 をもつて金の 字(じ)を白〳〵とかき たるをもち ごんぜんかご【御膳籠、方形の竹かご】にも おなじく金の字 をしるしたるは ばけものゝくびを入るゝ よういにやといかめしく 大きやうなるこゑにて きんとき〳〵とよび きたれば入道ふうふ きもをつぶしくさ むらにわけいりていき をころしてゐたりしはをかしかりける次第なり 【左ページ下 箱】 金時 さとう いり 【左ページ下 足元】 きんときや〳〵 【注② 力紙、歌舞伎用語で、これを付けていると力持ちを示す】 さても入道ふうふはかのきんときをとほしすごし 心をしづめてよくみればさとういりのきんとき なればはじめてあんどのおもひをなし道を いそぎて今金時の門口にいたりおづ〳〵 あんないしわれ〳〵は見こし入道雪女 にて候が何とぞおむづかしながら 金時せんせいさまにおめにかかり御ねがひ 申したきしさいありと申入れば何ごとにや これへとほせとひとまへいれば金時 ゆうぜんとざしてひげぬきながら めづらしや入道たづねきたりし しさいいかにいへきかんといぎ げんせんたるいちごんに入道は ハットひれふし御けんご【堅固、達者なこと】のてい まづ〳〵きやうえつ【恐悦】さておねがひ のぎべつぎにあらずいつも〳〵 てしたのばけものどもとかく そこつなることをいたし人げん さまをなやまし奉るだんさぞはや 御りつぷく【立腹】のほどおそれ入り奉り ますしかるにばんたんしはい【支配】仕り まするわたくし此うへはとりしまり 仕りふつゞかなるぎいたさせませぬ ほどに何とぞ御たいぢの御さた 御とゞまり下さりませうなら▼▲ 【左ページ下へ】 ▼▲ふんこつ いたして せいとう いたし ませうと ことばをつくし たのみける 金時きゝて なるほど もつともなる ねがひ此せい ひつのみよの ありがたきを おもひむかしは はこねから こつちと きめたが あちら とても かならず 次へ【⬜囲み】 【左ページ上 台詞】 〽入道はちと すぎもの テモうつくしい これがほんの 白ものじや なア 諸野原書状をこし つゞき【⬜囲み】 けうけてん のくわいゐ【怪異】なき やうはげみて せわいたすこと ならずいぶん きゝとゞけ つかはさん さりながら とかくのら ぎつねたぬき などやゝとも すればばん もつの▼▲ 【左ページ 中段】 ▼▲れいたる 所の人を ばかし 小判の かはりに このはを つかませむさ くろしき きんたまを さしき【座敷、注①】にして 馬のくそを 食事に たぶらかし などするはぶれい とやいはんひ■【ろヵ】う【尾籠ヵ】 とやいはん ふとゝきしこく いつたいまつ 人げんにても はけものかい にてもとせい といふものが なければ とかく〿 【右ページ 中段】 〿ふらち ものが おほい そのはう ばけものゝ をさをも する身なれば それ〳〵にかげふ【家業】 を見たてゝ かせがせるやうに すればおのづと あくじもせぬ やうになること なれば此むね きつとこゝろえて おこたることなかれ ときびしく 【左ページへ】 きたへられ 入道ていとう【低頭】 へいしん【平身】なし さつそくごとく しん 何がさて 此■■【うつけヵ】ばけの けのじも ないやうに いたし ますと ▲ 【右ページ 下段】 ▲ 三つ のめ から なみ だを ながし ゆき 女は きえ 〴〵 となり ひや あせを ながして よろこび いさんで かへりける ○みこし 入道は 金時の じんしんを よろこび ばけ ものを よび あつめて きん時の 【左ページへ】 しひを いひ きかせ みな それ きくお■ のげう を見立 ていひ つけ さし づめ きん時は なかまの ふ■ かしら ■【をヵ】なし はう〴〵 ふれある ■■【かせヵ】 ■■【なまヵ】ける ものゝ ■ある しと なし 次へ【⬜囲み】 【注① 「金玉を座敷にして」は狸が八畳敷きの陰嚢を座敷にして人を化かすことを指します】 つゞき【□囲み】舟ゆうれいのそこのなきひしやくを とりあけてそこのあるのをわたしたぬきの 木のはをとりかへて小ばんをわたし それ〳〵のもとてをあたへて かせき【稼ぎ】にとりつかせけるは きとくなる  ことどもなり ○舟ゆうれいは ひしやくより おもひつきて りうくうじやう 名物本ほりぬき ひやつこい水うりと 心【出ヵ】かけまことのどんぞこの まみづを くみて さとうも 出じまの ほんものを つかひ 一《割書:ツ|》はい 二もんと うりかけ おかはりは 一もんつゝおなじとしてやすうり せしかはうれるほどに〳〵 ▼▲ 【右ページ 下】 ▼▲ 大入大はん じやうして ぜにまうけ なしける しかし  これは なつの内 ばかりゆゑ 雪【冬ヵ】に なると 水くみを するつもり のよし 入道に ないばなし ありし よし なり 【右ページ 右下】 〽さとうを たんと いれて くんな 【左ページへ】 こゝにばんしうに としひさしき おきくがゆうれい 古井戸より出て まいばんさらを かぞへわうらいの 人をおびやかせ しが入道か りかいによりて ひとつのせう ばいをおもひ つきやきつき といふ事を はじめ 九まいの さらも 十まいに とゝのひ やう〳〵 じやう ふつ【成仏】とく どう【得道】し さらに えんある かつぱと ふうふ になり 次へ【□囲み】 【左ページ 下】 〽わしが かゝとの あかゞり【あかぎれのこと】も やき つぎに なり ま せうか