唐物語 上 【ラベル内】Jap 3 【ラベル】JAP 3 1 1517 F 1 春もやう〳〵くれゆき五月雨の比になり ぬ雨中つれ〳〵なるに友とする人きたり 世中のよしなき事共うらなくかたるこそ おかしけれおなじ人間に貴賤賢愚有 又すかた言葉のちかひしことはもろこし成 へしと云何の国には人のかたちかく有なと かたりけるにかたはらいたくおもしろしいかて かの井うちのかはつなるへし 【右丁】 三才図絵にくわしくありと云これを 見るに初心の人めやすからすみるに せんなしあさきよりふかきに入なれは 他のあさけりもあらんなれと仮名に なをしつれ〳〵のなくさみとせし なりおよそ一百四十余ケ国有めつら しくちかいひしことなりという字によそへ すなはち異国物かたりと名つくるのみ 【左丁】 異国物語上 日本国則和国なり新羅国の東南大海 のうちに有山嶋によつてすみかとすこ の国九百余里もつはら武勇をこのみ 中国にしたかわす国をおかしうははん とす此ゆへに中国是をおそれて常に 和題と名つく又は神といひ天神 七代地神五代より人王の今にいたりま つり事たゝしく伝釈道詩哥管 【右丁】 弦文武医薬その道をまなひ上下万民 まことをさきとし国の制度明なりしか あれは四海をたやかに諸国にすくれたり 是により万国日本にしたかはすと          いふことなし 【左丁】 大日本国 【右丁】絵 【左丁】 いにしへは鮮は早 と名つく周 の武王の時箕 子を其国に 封してより朝 鮮国と名つく 中国の礼楽詩書医薬うらかたに至るまて みな此国につたはりて官制こと〳〵くあきらか なり国の制度皆儒道の風にしたかひて又悪 殺のいましめなし人みな君化にかなひて四夷の 中にひとり高麗をすくれたりとすたゝ礼義のおこ 【右丁】 なはるゝかたち中国にたかふ事有其国に良 馬白石なしともし火に黒麻をもちひ布を もてあきなふ国のかたち東西二千里南北 千五百里なり都は開州にあり名付けて開 城府と云北京の都にいたる事其道三 千五百里なり 【絵の上部】扶桑国 此国は大漢国 の東に有板 屋をつく りてすみ かとすさらに 城槨なし武 帝の時罰 【左丁】 賓の人その国にいたりて見るに国人常に鹿をかふ て牛のことくにつかふ又其乳を取を以てわさとすと也 【絵あり国名なし】 此国 建安より水 を行事五百 里也其国に 玉石おほし 中国の制度 にしたかひて 朝覲みつきものをたてまつるみな時にかゝはらす 王子およひ陪臣の子はみな大学に入て書をよ む礼義はなはたあつし 【右丁】 【絵の上部】小琉球国 其国東南海に ちかし地より玻 瓈名香其 外もろ〳〵の たからを生す 【絵の上部】女真国 其国契丹国 の東北の方 長白山のも とに有鴨 線水のみな もと古粛慎 の地也其さ 【左丁】 き完顔氏といふもの有つみをのかれて此国に かくれたり其地に金おほし此ゆへに国の名とし て金国と云阿国と云人よりみつから帝王と号 す国人鹿皮魚を衣としたり又野人皆利刀を 帯し死をかろくし命をおします男子皆其面に 點入たり 【絵の上部】邏羅国 其国浜海に有 男子はかならす 其陽をさく宝 物をたくはへてふ うきをへつら ふもからされは 【右丁】 【絵の中】匈奴韃靼 女家これに妻あわさす此国に凍おほし 此国人五種有 一種は身の毛 黄なり是山 鬼と黄?牛 との生する所 なり一種はくひ みしかくおほきなるものはすなはち?狡と野猪 との生する所なり一種は髪くろく身の色白は 則是唐の李請の兵の末孫也一種は突楔 なり其さきは則射摩舎利海神のむす めと金角の白鹿ましはり感して生すこの 【左丁】 【絵の中】巴赤国 国の主として民みなしたかふ白鹿の生する 共五世を貼木真と名つく是大蒙古といふひそ かに帝王と称す是より四世の孫則必 烈すてに中国の天子となれり国人常に 獦をこのみて羊馬野鹿の皮を衣とす 此国人常に林木 のうちに住居し て田をつくる又 馬をあきなふ 応天符より ゆく事一年 にして此国に いたる 【右丁】 【絵右】黒契丹国 此国ゆたかにして 城地有家あ またつくりなら へ人煙たへす金 国の人此国に いたり行応天 府ゟ行事一年 にいたる 【絵の上部】土麻国 此国ゆたかに家 つくりして人煙 たへす国の風俗また 韃たん国に似たり 応天符ゟ行事 七ケ月にしていたる 【絵の上部】阿呈車蘆 其国皆山林に よりて城をか まへ家をつくり 又田あり応天 より行事一年にして      いたる 【絵の上部】女暮楽国 其国城池人煙 おほし人皆鹿 皮を衣とし て牛羊をや しなふ国のな らひ人皆ゆた かなりたつたん国 の人と通して あきなふ 【右丁】 【絵の上部】鳥衣国 其人常に鳥 衣を着たり かしらに大被 をかつくその なかさひさをか くしうてをか くす漢人を みるときは則そむき行て其かほゝみせし めすもししゐてそのかほをみるときは則是 をころすいわく我おもては人にみせしめす と則又草をもつて其死人におほふ物をあ きなふに又かけ物を以てをりもしそのあたひ 【左丁】 すくなき時は又も人をころす 【絵の上部】老過国 此国 安南国の西 北のかたにあり いにしへ越裳国 の人其性狼 戻にしてたゝ 人とましわら すひそかに弓を引て是を射ころすもし又他 国の人をとらへては足のうらをすりて其皮 をはく此ゆへに行事あたはす其国より象 牙金銀をいたすをよそ食物は口よりくらい 水さけは鼻よりのむ 【右丁】 【絵の上部】?魯国 此国木魯国とおなじ風俗也 応天府より 行事七ケ月 にしていたる 【絵の上部】乞黒国 其国城池なし 羊と馬とを いたしあきなふ 国のふうそくたつ たん国に同し 応天ゟ行事 七ケ月に至る 【左丁】 【絵の上部】古城国 其国みな林の 内をすみかと す安南国よ りみつき物 を奉る広 列より船を いたし順風八日にしていたる国の内名香犀象 をいたす又田をたかやしてくらふ海浜に 鰐の魚ありもし国人とかのうたかはし き時は鰐にあふたるにとかなきものは くらはすといふ 【右丁】 【右絵の上部】深烈大国 其国人たつたん 国とふうそくお なしくせり応 天府より行事 六ケ月にして いたる 【左絵の上部】波利国 其国林木おほし 田をうへてなり はひとす城地な し家おほく 作ならへたりた つたん国に通す 応天府より 行事一年に していたる 【左丁】 【右絵の上部】鉄東国 其国ゟよく逸 物の馬を出す 応天府より 行事二ケ月に していたる 【左絵の上部】訛魯国 其国人まなこ ふかくおち入 てかしらのか み黄なり木 を重ね立て 家とせり応 天府ゟ行事 一年半に至る 【右丁】 【右絵の上部】木思実徳 此国のふうそく 又たつたんに おなじ応天 府より行事 七ケ月にし ていたる 【左絵の上部】方連魯蛮 其国人ものいふ ことはあきらめ かたし田を作り てなりはひと す馿馬を出し あきなふ応天 府より行こと 一年にして至る 【左丁】 【右絵の上部】昏吾散僧 其国山林おほし 人みな田を作 て食をたくはふ 応天府より 行事九ケ月 にしていたる 【左絵の上部】大漢国 此国に兵才なし 又合戦する事 なし紋身国と 通して物を あきなふたゝ 其言葉一つ ならすとなり 【右丁】 【絵の上部】爪哇国【ジャワ】 東南海の嶋の うちに有則 是古しへ固闍婆 城と名つくる 所なり泉州路 より船を出し て一月にし ていたるへし其国冬夏のへたてなく常に あつくして霜雪なし其地より胡椒蘇方【すおう】 をいたす武勇をもつて賞にあつかる飲食 は木葉にもりてくらふおよそあらゆる虫 のたくひみな是をにて食す男死する時 は其妻十日を過して又人めとつる 【左丁】 【右絵の上部】擺里荒国 其国北海に近 し風俗また たつたん国に同 し応天府 より行事 六ケ月にして いたる 【左絵の上部】後眼国 其国人うしろの かたうなしに一目 有国のありさま たつたん国に同 昔良河の人此 国に行てたち まちに此人を見 て大きにおそれ たり 右丁】 【右絵の上部】大羅国 此国の風俗又 たつたん国に 同じ応天府ゟ 行事四ケ月 にしていたる 【左絵の上部】不刺国 此国西夏【資料は草冠+夏】にかく れり常に馬 羊をやしなひ て是をあき なふ応天府 より行事一年 八ケ月にして    いたる 【左丁】 【絵の上部】三仏斎国 此国南海の内 にあり広州ゟ 舟をいたして 南北の風十五 日にしていた るへし惣門ゟ 入て五日にして 其国中にゆく木をもつて柵垣をつくりて城と す国人よく水にうかふ其人みな薬を服するさらに 矢もたゝすかたなもやふらす此故に諸国に 覇たり其国の地に穴あり牛数万わき出る人 是を取て食とす後の人其穴に垣をゆふより又牛 【右丁】 わきいてすといふ 【絵の上部】近仏国 此国東南海の ほともに有此 国々野嶋の蛮 賊おほし麻羅 ぬと名つく商 人の舟其国に いたりぬれは国 人むらかりあつ まりて是をとりこにし大なる竹をもつてさし はさみてやきころしくらふ人のかしらを食 物のうつはものとす父母死する時は一類あつ まりてつゝみをうちともに其肉をくらふこ 【左丁】 れ非人の類なり 【絵の上部】大闍婆国 莆家献国 のほとりに有 中国より吹 風八日にして いたるへしむかし いかつち此国に おちて大石さ けくたけ其石のうちより一人出生せる是を立 て国の大王とす此国より生するもの青塩 およひ綿あふむ鳥其外たからの玉あり又 其国に飛頭の人あり《割書:轆馿首|といふ者也》其民を名 【右丁】 付て虫落民といふ 【絵の上部】婆羅国 此国人男女共に かたなをおひて 道をゆく又人と ちなみしたし ます人をころし て他国には しり丗日を すくれは其とかをかうふらす他国の人其妻をぬ すむ事あれはわか妻かたちすくれて人のた めに愛せらるゝと云て其おとこをころし其 女をむかへて是をやしなふたかふことあれは皆 【左丁】 ころすをもつて国風とす 【絵の上部】沙弼茶 此国昔より このかた人のい たる事なし たゝ聖人沮(?) 葛尼と云人 のみ此国に渡 りて文字を をしへらる其国は西荒のきわまりにして 日輪西に入時日のめくるこゑいかつちのひゝく かことし国王常に城の上に数千人をあつめ てかくを吹かねを鳴らし太鼓を打ちて日のめ くるこゑにまきらかすしからされは小覧夫 【右丁】 人みなおそれて死すとなり 【絵の上部】斯伽里野国 芦眉国に ちかし山の上 に穴あり四 季のうち火 のもえいつる 事常なり 国人大石を其 穴の内になけいるゝにしはらくのうちにみな やけくたく五年に一たひつゝ火もへあかり て家もはやしも石もともに火にや 【左丁】 かれ人みな死すといふ 【絵の上部】崑崘層期 此国西南海の ほとりにあり此 嶋の上に大鵬 と云鳥有此 鳥のとふ時は 両のつはさ 九万里なり よく駱駝の馬をくらふむかし人其鳥の羽をひ ろふて其茎をもつて水桶につくるよし又 野人有身くろき事うるしのことし他国の 商人のために奴となりてあきなふ 【右丁】 【右絵の上部】采牙金虎【別本は「彪」】 この国西番の 木波国に近し 応天府より 行事五ケ月 にしていたる 【左絵の上部】獦獠国 𨋽軻に有其 国人婦人みな はらむ事七月 にして子を生す 国人死する時 は竪棺【縦棺】【「披」は「棺」の誤記。別本による。】にして 是をうつむ 【左丁】 【絵の上部】瓠犬国 此国昔帝誉 高辛氏のとき 宮中に老女 有耳のうち より蚕のまゆ のことくあるも のを生す 瓠に入てをくに化して犬となる其色五色なり名 つけて瓠犬といふ時に呉将軍むほんをおこす 瓠犬ひそかに呉将の首をくわへてかへり帝よ ろこひて宮女を給うふ犬女をつれて南山に入て 【右丁】 年のうちに男子十二人をうむみな是人なり帝 長沙の武陵蛮の主とせり其子わか父の犬 なることをはちてひそかにはかつて是をころ せり今瓢犬の国そのすえなり 【絵の上部】紅夷国 此国安南のみ なみのかたに 有其国人 衣をつくる 事なし綿を もつて身にま とへりくれなゐのきぬをかしらにまとへり其かたち回々 国の人のことし国に塩なし交地の人塩を以て此国にあきなふ也 【左丁】 【絵の上部】天竺国 此国大秦に ちかし良馬 おほし国人皆 両鬂をたれ くたし帛を もつてかしら をつゝみきぬを もつてしたふすとせり国のうちに泉あり商人 瑠璃の瓶に此水をいれてふねのうちにたく はへもし風あらくなみたかき時此水を 海にそゝくに風波立ところにとゝまるなり 【右丁】 【右絵の上部】交脛国 此国人両の足 もちれまかれり そのはしる事 風のことく    すなり 【左絵の上部】阿黒驕国 此国人家おほし林 木のあいたに有 国人鹿皮を衣と し馬に乗て弓 を引たはふれに 人を射死する時 にはそのせなかをうつ に則よみかへると也 【左丁】 【絵の上部】蘇門答剌 此国田かたふし て五こくすくな し中にも脛高 人物をおさめ長 する也国人一 日の間に身の 色かならす三度かわり其色或はくろく或は黄 あるひは赤としことにかならす十余人をころして 其血を取てあふる時はその年病をしやうせす これにより民皆おそれて都につきしたかふしかれ はすこし死のなんをのかるとなり 【右丁】 此国城も田もおほくあり男子は腰にはかり衣を きて長高かみをくみて首にたれ婦人はほ うしをいたゝいて居るなりきわめて楽をすく なり琵琶ふえをもちあそふなり男子は馬に乗 弓を射てたはふれとするなり 【左丁文字無し】 【文字無し】 【裏表紙】