天明元 鬼乃子宝 鳥居清長画 三冊 むかし源のらい くわうたんばの国 大江山のきじんたいぢ じ【し】給ひめでたくかい ぢんまし〳〵けるこの おりからしゆ天どうし がせがれ三才にてあり けるを きんときみつけすでにうち ころさんとせしかともどふ したひやうしかいのちをたす かり千丈がたけ【千丈ヶ嶽】をのがれいで なを山ふかくみをしのびおく 山にてせいてう【成長】したれども此 後はおゝやけよりのはつと【法度】き びしく人をとることはさて おきむしけらのいのちを とることもかのわざればぜひも なく〳〵木のみをとりこれを しよくとしすひやくねんの 月日をおくりみづから そのなを鬼市と なのり ける 【書き込み?】 かし此あなは しんてかいたほゝたよ【?】 扨も鬼市はす百年の あいだおく山にすみけれども きん年?つよく 御せいとう たゝしくまこと にいつくか鬼の すみかなるらん と いふ歌の【草も木もわが大君の国なればいづくか鬼の棲なるべき 太平記 巻第十六「日本朝敵の事」】 あり さまにて山〳〵 たに 〳〵 まで も 御 じん とゝ の いたらざる 所なくその上 きん年みせ 物師といふもの ありて何かなめづらし きものをみ出さん とみ山ゆふこくのころなく たつねもとむるゆへさすかの 鬼市も大江山のすまひも なりがたくなりければいまは 人ざとへいでゝいかなる身にも なるつもりなれともおそろしき おにのすがたてはつまらぬゆへまづ つのをもぎさかやきをそりほんだに かみをゆいければなか〳〵よいをとこ ふりになりけるしかし 本田にかみをゆふを どふしてしつたやら ときをりくも に ても のり あるい て み お ぼへし もの か 【鬼市の台詞】 これは とんだいきな ふうになつた わへこれからむさし のくに江戸へ出て たんばや鬼市とこじ つけよう しよせん山おくにこけ おしみをしても おにてはくへぬ これから 江戸で 人になり ませう それより 鬼市は 江戸へ きたり まづ なた かい【名高い】 上の【上野】 あさくさ【浅草】 なか つ【中州?】両 こる【く?(両国?)】 のに ぎわひよし□□【絵の一部?】わらさかい町【堺町】のくわれい【華麗 or 佳麗】 そのほか町〳〵のはんじやういづれをみても めをおとろかすありさまなればつのめ立 たる鬼のきとりはさかりき【?】なくなりなん てもしんぼうして人にならふと一ねんほつき しければしごくにかわなる【?】よいうまれ つきにてまつとうぶんかん田【神田】へんのうら たな【裏店】にゐ候にて日をおくりける なんじや大江山のふもとからきた かりうどのむすめおやのいんぐわが むくひのかたははておらが くにものそうな きのどくな よのことわざに人に 人おにはないと いふたとへのごとく鬼市 は大江山の千丈がだけ【千丈ヶ嶽】から きのふけふ江戸へ出たところが さうおうに【相応に】せわに する人ができて あさくさへんへ町の かゝへに【雇われ人として?】すみければおやぢ のかぶのどうじかうし【童子格子、着物の模様】の はんてんもゝひきで かなぼうをひきすり 町内をまわりけるが くわんらいおとこは 大きしちからはつよし どうもいへぬかゝへのものと 大屋さまたちのきにいり き市〳〵とめされけるこそおこ がましあるときてう内【町内】のゐさかや【居酒屋】へ わるもの四五人酒のみにきたり けんくわをしだしあばれけるを 鬼市はことゝもせず五人の あばれものをれいのかなぼう にてうち ふせけるこれ おににかなぼう のつよみならん かさねての ためじや 大きな めに あわせるか よふござる みるものじやない とをらしやい〳〵 かくて鬼市は酒屋のみ せにてあばれたるわる ものを五人までやす〳〵 と とり しづ めしかば 町内はいふに およばす きんへんの町々 にても ゐ候をきゝおよび ともだちつき合にも人にたてられおや ぶんかぶになりそこのけんくわこゝの出入ひき にも鬼市がかゝつてすまぬといふはなく もしきゝ入ずたいへいらくをならべる ものがあれば おれがいふ事 をきかぬからは 百年めだと 鬼市がはだを ぬぐ と みな〳〵 おそれて たちまち しづまり ける これ鬼 ぶ【?】はり こみの こじ【故事】なり 【鬼市の台詞】 わいらおれが いふ事を きかぬか 【仲間の台詞】 おやぶんが おみこん だらなんでもいゝ□さ 【仲間の台詞】 かしら一つ うつてお□【き?】 やしやう しやん〳〵〳〵【三本締 鬼市はたん〳〵せ けんひろくたてられ ければ所々の 女郎又は下女むすめ うば手代なとの にげかくれしてゆくへ しれざるも鬼市 をたのむとさつそく ありかゞしれそのうへ それ〳〵にわけをつけ てすましけるゆへいよ 〳〵人に用ひ られける 今こども あそびのかくれんぼにかくれたものをたづね たすやくをおにとなづけたるは此いわ れならんか きやん【侠】きたりてこれおやぶん もしなんでもあの女を三日でも 女ぼうにもたねへけりややろうが たちやせぬじやがひても【邪が非でも】もらつて 下さいおやぶん アゝいゝさけふおれがしんち【おそらく深川の新地、岡場所のひとつ】からすそ つぎ【裾継、深川にあった岡場所】へわたればぐつとすむのさ きをもむな〳〵 鬼神におうとうなし【横道なし】 のたとへのごとく鬼市 はしごくたゞしきもの にて所々 のでいりにたのまれ それ〳〵にわけもつけ 人のためにもなりける ゆへほう〴〵よりれいもつ【礼物】も あれどすこしもうけずひんにくらしける ゆへ女ぼうは人のいるいなどちんしごとし【賃仕事】し けるがこれも鬼市が心には男 たるものが女ぼうに人しごとさせては ぐわいぶん【外聞】がわるい としかるゆへ 女ぼうもぜひなく やめてみたれ どもひまに くらすも むだことゝ鬼市 が留守の時は し事をはじ めるこれなん 鬼のるすの せんたくなるべし うちでかへらぬうち はやくのりをつけ てしまひ たい 鬼市は所々のけん くわこうろん又はで入【出入り】 ひきにたのまれよる ひるわかち なくあるきける つかれにや ある日大きに ほつねつして わづらふ いしの みたての ごとく 鬼の くわく らん とは 此たぐい なら ん か 【医者の台詞】 いかさま これはつね【常】 がじやうふ【が丈夫】 ゆへちとき じやうがすぎ てしよじや【諸邪?】 を受られ たとみへ ます 【鬼市または妻の台詞】 わたくしらがうちでは つね〳〵ずんどしやうぶ【ずんど丈夫】で ござりますがけさからとんだ つよいねつ でござり ます 鬼市はほど なくほんふくしけるがちと ほようの ためととも だちさそわ れよしわらへ けんぶつに 大ぜいに すゝめ られかしへ 上りしん ぞうかい【新造買い】 としやれ る おやぶんは いつでも しんぞう すきだぞ いかさま 鬼も十七とやらで しんのほうが わり□□く【?】ださ しかし □るは でたぞ【?】 ぬしやいつそしん〳〵と いひなんすすかねへ めにみへぬ鬼がみ をもやはらげるはわか【和歌?】のとくと いへどもわか百ばいもやはらげる はゆうり【?】のこんたん日ごろは いしへ【?】鬼市ともいつ川べき【?】男なれ どもふとしんぞうになじみ身うけ のやくそくをする 【新造の台詞】 なんぼ おまへそう いひなんしても おかみさんが あるもの どふして わたしを そうなるものか いゝかげんにたまし なんしあんまりたまし なんすとおにが じゃにか なりんす にへ 【鬼市の台詞】 これはとんだきう くつなことをいふもんだ のくぎ づけにし た女ぼう じやある まいし てめへさへ じつなら なんどき でも 山の かみは はちぶ する のさ 鬼市は かりそめの あそびに みがいり しんぞうに きせうを【起請を】 かゝせる おにのき せうのもんごん さのごとし 起請文の事 わが身こと そなた様へふうふの かたらひいたし候し うへは二世かけて かはり申ましく候 もしけいやくたかい 参らせ候ばゑんま 大王ごどうの めうくわん こづめず【牛頭馬頭】あほう らせつ【阿傍羅刹】みるめ【見る目】かぐ はな【嗅ぐ鼻】とうの【等の】 御ばつをうけ みらいゑい〳〵【未来永々】 むけんぢごくの【無間地獄の】 やつことなり 申べく候 よつて きせうもん くだんの ごとし【よって起請文件の如し】 【新造の台詞】 おや〳〵 けし からぬ きせうの もんくだ ね 【鬼市の台詞】 てめへじつならおれが このみのとをり きせうをかけた それより鬼市はしんぞうに 起請をかゝせなんでも 女ぼうになんだいをいひかけ りべつせんとおもひ つきしがさすが鬼じんに おうどうなし にてとがもない 女ほうを でゝゆけとも いわれまいと いら〳〵と くふうを く【こ?】らし ものおもひ すがた にてかへる おのれは何がふそくで此 やうなこわいめしをおれにくわせる そしてとうなすにまくろの【とうなす(南瓜)にマグロの】 にもの【煮物】これがくわれるものか もふかんにんならぬでゝ うせおろう こなたはきがちがつたの めしのこはいもとうなす【芋、とうなす】 もつね〳〵こなたのこのみ のこんだでそれに ひきかへけさの はらたちかてんが ゆかぬたつて よくはおやぶん をよんでひき わたしや これ鬼の 女ほうの きじんのていなり【「おにの女房に鬼神」】 これさ〳〵かみさんおまへのが もつともじやいかにおかみじや【おとこだ?】 とてあんまりなむりの いひやうわしがしり もちだ 鬼市がいへぬし【家主】ふうふけんくわのとりあつかいにはいり りやうほうとりしずめわかをいふ これ鬼市□こなたは人にす【?】 たてられるみぶんではないか めしのこはいくらい なことで 女房がさら れるものか さりとはひ ごろにに合 ぬせんさく ことにらいねん はてうない【町内】の みちぶしん これもき様 うけ合ふて じやないか たがいに中 よくして【?】 らいねんは 金もふけだ なんとかが【?】 やのかみ【?】 さまかつ【?】 すうばいうきらぬか【?】 さやうとも〳〵 ほんにわたし らが内でも らいねんは おやぶん のおかけでしごと もたんとあらふと たのしんでおります 鬼市はにがりきつ てふりくつ【不理屈?】をいふ さいちうへらいねんの みちぶしんのことを いへぬしにいひたされはらを かゝへてわらひけるゆへなん のへんてつもなくふうふ けんくわの 中なをり もすみける これらいねんのことを いへは鬼の わらふと いふは このとき のこと なり 【右ページ、物売りの台詞】 鬼打ちまめや?〳〵 【左ページ、物売りの台詞】 まめがら ひいら ぎ 〳〵 【本文、七行ほどかすれて読めず】 いへぬし【家主】がいひたし たるゆへわらひになり はり合ぬけ少してさつ そくなかもなをり女郎 のこともこれぎりにし てまへのごとくふうふ なかよくくらしほど なくこのとしも くれにおよびせつ ぶんになりけるが ぐわんらい鬼市 鬼のちすじ なれ 【「ば」が入りそう】 せつぶん のおに【?】は ゐと□□ずに まよひ 大□□に □□□ こ□□へ とうして くるしき もの あらふ す よに入けれは鬼市 もせひなく【是非もなく】 せけんなみに【世間並みに】 まめをまく 鬼はうち 〳〵 〳〵 福も うち 〳〵 〳〵 鬼市が まめを はやす こへを きゝつけ せじやうにて【世上にて?】 うち出され たる鬼 ども 大ぜい鬼市が かど口へ【?】 きたり すでにうちへ はいらんと せしところ をやく はらひが みつけ かい つかんで にしのうみへ さらり〳〵と なげ いだし ける 鬼市は しやうことなしに せつふんのとうき【?】 もゝうおさめ一はい ひつかけすでにやすまんと する所に さいぜん やくはらい かみおとしたるくろ おに一ぴきひきまど より しのび入 鬼市ふうふを ひつつかみ まこく【?】へつれ ゆかんとしたれ どもぐわんらい 鬼市はおにの ことなれば□□□ と□のかいといふまゝに くろ鬼がふん どしの三つゆひを かいつかみ ひざふひつしき【?】 □□てこでに【?】 □ましめる【いましめる?】 くろおには 鬼市にむかい おまへさまとも ぞんじませず ふてうほうの【不調法の】 だん〳〵あやまり 入ましたと おそれ入てなき けるこれ おにのめにも なみだの はしよ【端初(たんしょ)?】 なり それより鬼市はくろおにがいましめをゆるしとうぶん へやどにおきおり〳〵ゐけんしけるはとかく鬼では よがわたられぬからしんぼうして人になれ 人になれとし□〴〵きやうくんしけれは くろおに□□にふうしあやまつて あ□□むるにはばかりなく大□か【おおみそか?】 のあけ かたにつのを おとしげんふく【元服】してこん日【元日?】からは 人のまじはりもできめでたき はるをむかへけるはまことにきみが【?】 よ【?】のめぐみならんあなかしこ はきつたあとを とですり【砥で擦り】 やしやう 清長画