【表紙  整理番号のラベルあり】 JAPONAIS 4322 1 【右丁 文字無し】 【左丁】 さ大しん殿の御子にきんたち二人おはします 一人はひめきみ世にすくれておはしましけれ はうち【内裏】へ参らせんとおほしめしけりいてたゝせ 給ふところににはかにかせの心ち出きさせ給ふ さとにていのらんよりとてきよみつにそ御こ もりありけるさて二三日にもなりけれはおほ つかなくおほしめして御あにの中将殿をきよ みつへやりまいらせ給ひけるもみちようのかり きぬにこむらさきのさしぬき御けしやうあ てやかにあらはしてぜん〳〵【漸々】さふらひめしくして きよみつのさいもんへいらせたまひけれはまいり 【右丁】 けかう【下向=神仏に参詣して帰ること】の人々めをおとろかしてみたてまつりける さるほとに女御の御かせの心ちおほつかなけれは とく〳〵いそくへきよしさふらひともにおほせ けれはおゐ〳〵いそきのほるほとにきよみつの たうのへんをざゞめきてのほる              ところに             にはかに                 そら          かきくもりはしたなふ                しくれ                 ふりけり 【左丁 絵画】 【右丁】 参りけかうのそのかすおゝき中にとし十五六 はかりなるひめきみを小ようはうたち五六人 してたちかへしぬらさしとする所に中将殿こ れを御らんし給ひてわかさゝせ給へる御かさを六 ゐのしんにおくらせ給ひたりひめきみこはいか にとおほしめしみあけ給ふ御めのうちあくま てあひきやうがましく【愛敬がましく=あいくるしく魅力的である】けたかくうつくしうみ え給ひたりけりさてひめきみはきよみつのひん かしのへんにたゝすみていまは御かさ参らせよ とてかへされけり中将殿はぬれ〳〵御かさまち えさせ給ひていまの人々はいつくにそとの 【左丁】 給へはいまたあれにわたらせ給ひて候と申けれ はやかて人をやらせ給ひてみせ給へは見え給 はす中将殿心もとなくおほしめしけりさて女 御の御かせの心ちはへち【べち=別】のことわたらせ給はねは やかて御けかうあるへけれともひるのかさをく り給ひたる人のゆくゑの心にかゝりそのうへ 女御の御かせもへちのことわたらせ給はすたれも こよひはこれにつやせん【費やせん】とてほとけの御まへに あくかれゐ給へりたつねんかたもおほへすせんかた なくてたゝつく〳〵となかめかちにてつほねに いらせ給へともしつ心なかりけりさるほとにとな りのつほねに人のこもりてゆゝしくしのひ〳〵 たるけしきありけれはあやしくおほしてこゝ かしこよりのそき給へはくちきかた【「朽木形」…文様の名。冬の調度につける】のきちやう つほねのうちにかけられたりみつく【見継ぐ…見守り続ける】べきやう もなかりしにはしらのふしぬけのあるにかみに てふさきたる所あり屋【建物】ふりて【古くなって】み給へはかさをく りつる人なりみるにむねうちさはきて御らんす れはしくれにぬれたるしやうそくひきちらし ひめきみはれうらんのむらさきの御ふすまひ きかつき御ぐしのゆくゑもしらすうちふし給 へり四十はかりなる女はうのきよけなるか御 【左丁】 してこれをならひのつほねへ参らせよとてたひ【賜び】 にけりさてまた中将殿はのそき給ふにすいし ん【随身】ひろやりと【戸】をほと〳〵と【戸や物などを軽くたたく音を表わす語。とんとん。】たゝくにうへわらは【上童…貴族の子弟で、宮中の作法見習いのため、昇殿を許されて、側近に奉仕する男女の子供】た れやらんとて出けれはしくれの時御かさ参ら せ給へる人の御ふみなり参らせ給へと申せは上わ らはとりてうちへ入          御かさの             ぬしの               御ふみなり              とて参らせ                けれは 【右丁絵画 文字無し】 【左丁】 そはにさしよりてすゝりのふたにいろ〳〵のく た物ともとゝのへこれ〳〵とてすゝめけりされと も御めもかけすゆゝしけるか御けしきにて うちふし給へはめのと心くるしくてあはれちゝ はゝのおはしまさはかやうのかる〳〵しき御あ りきなとはよもわたらせ給はしこの御しやう し【精進】つゐてにかもへも参らせたてまつらはやと おもひ候にかやうにくたひれさせ給へはいかゝせん とて申けるまたわかき女はう二人御そはにさ しよりて申けるはうまれさせ給ひてけふこ そはしめて御かちにてあるかせ給へいかはかり 【右丁】 ほとけもいたはしく御らんすらんとかやうにめん 〳〵に申ともたゝひめきみはふし給ひぬ御あ りさまなのめならす【普通ではない】うつくしくそ見え給ひけ るさてくたひれなんとするに参りをそしとて 十二三はかりなる上わらは御とき【御伽】におきて女はう たち四五人うちつれて参りけるその中に中将 殿よきひまとおほしめしてもみちかさねのうす やうにかくなん   たまほとのみちゆきすりにみつるより   ちきりはふかき物としらすや かやうにかきひきむすひ給ひて六ゐのしんをめ 【左丁】 たゝひとめ御らんして人たかへ【ひとたがへ=人違へ】にてそ候らんおも ひよらぬ事とて御手もふれすかへされけりわら は出て見けれはつかひはやかへりてみえさりけれ はふみうけとりたらん所にすてよとておほせけ るわらはたち出てすてにけりさるほとにきよ みつのへつたうこのひめきみをみたてまつりてめ のとにむかひやう〳〵に申けりめのとむすめ二人 ありあねはせうなこんとて廿になるいもうとはしゝ うとて十八になるおやに申やうちゝはゝのまし まさはとてこそよき事もおはせめそうと てもなにかくるしきわれ〳〵かめにもめやすき 【右丁】 さまならはそれにすきたる事あるましいさや さらはこのへつたう【別当】にゆふさりぬすませんとそ ちきりけるせうなこんとめのとは一心になりぬ しゝう心におもふやうさしもうつくしき御すか たをそうにみせん事こそ心うけれあはれこの ことひめきみに申さはやいかにわひさせ給はん すらんと御心のうちもいたはしくてやすらひ たるほとに日もくれけれはせうなこんおやこは ひめきみをぬすませにへつたうのもとへゆきけ りしゝうは御ときにのこりけるかつく〳〵とお もひつゝけ申さはやとおもひてはゝとあねと 【左丁】 はひめきみをへつたうにぬすませんとてゆき つるなりいかゝせんとそ申けるそのときひめき みはみれはゆめかうつゝかなにとかせんそうと はなにそやおそろしやちゝはゝにわかれ参らせ しよりくわほうなき物とはおもひきなから へてなにかはせんわれをくしておよそこのみくづ ともなりなんともたへこかれ給へはしゝう申やう すてにいりあひのかねもなり日もくれはとち きりしなりかくてはいかゝせさせ給ふへきさ らは出させ給へいつくにもしのはせ参らせんと 申てわか身もひめきみもうすきぬはかりひき 【右丁】 かつきてとなりのつほねのくちにさしよりてし しう物申さんといひけれは中将殿なに事そ やとの給へは御そはにさしよりこれにわかき 人のおはしましさふらふをへつたうみ参らせ てたゝいまとり参らせんとするほとにあまり の心うさにしのはせ参らせはやとおもひ候て 参りて候ひんなきやらんと申けれは中将との なにかくるしく 候へきいらせ給へとありしかは ひめきみもしゝうもよろこひていらせ給ひぬ御と のあふら【みとのあぶら=「明かり」のこと】をはきちやうよりそとにほのかに              とほされたり 【左丁 絵画 文字無し】 【右丁】 さるほとにめのとかへりてつほねのうちをみけれ はひめきみもしゝうも見えさりけるこはいかに いつくへおはすへきほとけの御まへゝまいりたま へるかとてしやうめんにたちまはり人の中に わけ入しゝうとたつぬれともいらへさりけりまた かへりつほねをみけれともおはしまさすとな りのつほねにたちいりこれにわかき人屋しのひ て参りて候と申けれは中将殿すいしんをいた していつくのならひのしるよしにたれとし りてたつぬるそとこと〳〵しくとかめけれは めんほくなくしてかへりぬひめきみもしゝう 【左丁】 も見え給はねはへつたうはつほね〳〵をも さかしたくはおもへともときの女御つこもり にてみすかけかけまはしきちやうひきつゝ けてぢんとうのふしともには〳〵にかゝりをた かせつしかためのけしきもきひしかりけれは さすかにそうの女はうをうしなひてさかすと いふにおよはすおもひなからちからなしへつ たうはかきりなくうらみけれはかなしさせんか たなくしてめのとはなく〳〵京へかへりぬさて 中将殿はひめきみの御そはにさしより御かほ をみ給へはしくれのときかさをくりしひめきみ 【右丁】 なり中将殿は身のをきところなくうれし くていかなる人のとりにきたりたりともいかて かやるへきとおもひてほとけの御かたへうちむ きて  たのもしやかれたる木にもはなさくと  とけるちかひはいまそしらるゝ となかめ給ひていさゝせ給へ人もしらぬ所へか くし参らせんとてひめきみしゝうくるまにのせ 参らせてわか身はさいもんのきたはしをおく りくるまやとりよりのりぐしきよみつのさかを くたりにそやられけるにふもとのすゝきのむし 【左丁】 あきをしたふこゑさむ〳〵しものこすゑちくさの いろしもになれたる野はきのおとふけゆくまゝ にきりこめて物あはれなるに中将殿くるまの したすたれよりかりきぬのそてあまりてつゆ にしほたかにかくそゑいし給ひける   人しれすおもひかなへてゆくみちに   なにあさきりのそてぬらすらん かやうにうちゑひしくるまの物みをあけられ たりけれは月かけさし入てくものたえまの かりかねのはかけもくもりなくわたりあらしに かづちるこのはのをとかものかはらのともちとり 【右丁】 のなくねをそてにくらへてもひめきみはたもと をしほりあへ給はすうき事をのがれんために 出つれともまたたれ人のかたいかなる所へゆく やらんいくほとなき世中たゞよひあるく かなしさよとおほしめし御なみたもせきあ へすしゝう心のうちにおもふやうあはれおな しくはひるまうのもとにて御かさ参らせ つる人ならはいかにうれしかりなんよしやまた この人もたゝ人にてはおはせしせんくさふら ひみずいじんさつしき【雑色…「ざふしき」とも】うしかひにいたるまて たゝ人におはしまさすくるまもひあじろもん【檜網代物】 【左丁】 のくるまなりいゑたか【家高…家の格式が高いこと】にてそおはすらんなにこ とにつけてもけたかくおもふ所に二でうまで のこうちのさ大しん殿の御しよへそ入ける此中 將殿はいまたつまもいらせ給はぬはゝかるかたも なく御くるまよせてまつ中将殿おりさせ給ひ てみすかうしおろさせ御くるまのうちなるひ めきみをおろし参らせてれうらんの御ふすまの 中におきたてまつり給ふしゝうをはびやうぶき ちやうひきたてゝそれにふし給へとておかれ たり中将殿ひめきみの御そはにふし給ひぬ いつしかなつかしけにてひるほとまて御とのこ 【右丁】 もりありけりさて中将殿のおきさせ給ふをし しう見たてまつれはきのふにはかのしくれに 御かさ参らせられし人なりきのふみたてまつ りしよりも御かほのよそほひなのめならすう つくしくおはしけるしゝうよにうれしくそお もひけるさて御てうづもちて参りけれはしゝ うとりて参らせけるひめきみ御てうつさせ給へ はことつめをかせ給へは中将殿あそばすかとと ひ給へはしゝううちゑみてよしあしきはしり参 らせ候はすと申けれはひめきみ御かほうちあか めさせ給ふ御けしきあくまてあひきやうかま 【左丁】 しくてみれとも〳〵あかれすあまりにうつくし くおはすれは中将殿ひめきみの御手をひかへ てきよみつのへつたうの心のうちこそおそろし く候へと仰られけれはあくまてはつかしけなる 御けしきにて御手のぬれなから引入てきぬ ひきかけてより        ふし給ひぬ         さて中将殿は        ちゝ大しん殿御かたへ                 参り                  給ひぬ 【右丁 絵画 文字無し】 【左丁】 女御の御かせの心ちへちの事候はすほとけの御 りしやう【利生…御利益】たつとくこそ候へとうれしき事のある まゝによろこひ給へはちゝはゝうれしくそおほ しめしけるさて中将殿かへり給ひてしゝうに むかひておほせありけるはいかなるしづのめの子 にて侍るともつゆほとおろかあるましいかなる 人の御子そかたり給へと有しかはしゝう申やう これは中比【なかごろ…ひところ】三でうひんがしのとうゐんにさへ もんのかみかけさせ給ふ中ならんきんかねと申 せし人のひめきみなり八の御とし女御のせんし かうふらせ給ひちゝはゝかしつき参らせ給ふさる 【右丁】 ほとにくらゐもとくあからせ給ふへきに七日かう ちにちゝはゝなからむなしくならせ給ひてのちめ のとのはこくみ【はごくみ=育み】はかりにて三てう殿にわたら せ給へるかあまりにつれ〳〵かきりなくしてはし めてきよみつへ参らせ給ひて候をへつたう見 参らせ候てうきこと出きてこれまて参りて候 と申けれはさてはわかよく見参らせ候人やあ はれなるちきりかなとそおほせありける中将殿 の御めのとのかすかをめしてきよみつに参りた るりしやうに人をまうけて有なりめしつ かうへきことのなきに御身かおとむすめ【乙娘…次女以下の娘をいう】参らせよ 【左丁】 とおほせありけれはめのとはしゝうをまつう ちみてわか御しうの女御こそならひなしとおもひ つるに世にはかゝる人もおはしけるとおもひて つく〳〵とまほり【守り】ゐたる所に中将殿きちやうあ けておほせけるはあれはわかめのとなりはち おほしめすへからすこなたへ出させ給へとありけれ はまた人もあるにやとおほして出させ給はねは 中将殿くるしからすとてきちやううちあけ給へ は御めのとこれをみたてまつりてありかたの御す かたや世にはかゝる人もわたらせ給ふかとつく〳〵 とみたてまつりけるさてかすか立かへりむすめの 【右丁】 おといとて十三になりけるにもみちかさねの七あ こめ【衵】にあてやかなるすかたにて参らせたりおとい もひめきみにあそひつきて御そはをはなれ参ら せすみやつかひける中将殿はひめきみしゝうに むかひていまはこれをはわかすみかとおほし めしてなにことも御はゝかり有へからすとのたま へは二人なから心やすくそおほしけるかくて あかしくらし給ふほとにしも月五日にちゝ大し ん殿大り【内裏】へ参り給ひぬるところにそらかきく もりゆきふりけれはたいりよりかへりゑすし てしゝいてん【紫宸殿】にやすらひ給ふところにさ大しん殿 【左丁】 出き給ひてよのつねの物かたりし給ふつゐてに 大しん殿おほせけるはかやうの事申はくるしき 事にて候へともなんしはあまたもちたれとも 女子はたゝ一人ありひとりもちたる女子なれはう ちへ参らせはやとおもへとも中将殿御ゆくすへを まほり参らせてけふまてもちて候とありしか は大しん殿の給ふやうこれよりも申たく候つ れとも御もちい候はてははちかまし【恥がまし=恥をさらすような感じがする】く侍らんと おもひて申むねはかやうにうけ給はり候よろこ ひ入候さ候はゝまかりかへりてよからん日をたつね て申候はんとの給へは大将殿ちかきほとは十日 【右丁】 こそよき日にて候へとの給へは               さ候はゝ                 その日にて              こそ                候はめと            こまやかに                ちきりて               大しん殿は                  かへり                   給ふ 【左丁 絵画 文字無し】 【右丁】 さてきたのかた【北の方=貴人の妻の敬称】におほせられけるさ大しんこそ中 將をこはれつれとの給へはきたのかたさやうに こはるゝ事はうれしけれともこのほときよみつ より人をかたらひて候をはいかゝはからひ給ふへき とおほせけれは大しん殿の給ふたれもわかくて はおもひをし侍るなりわれらもむかしはおもふ 中をはなれしなりはしめはさこそおもへとも ほとへぬれはわするゝならひなりわかひめきみの 女御まうての時も大しんたちそひてもてなさん にたれかかたをならふへき中将殿世になき物より も大将殿にちかつきたらんはめやすきさま【見苦しくない、感じがよい様子】なる 【左丁】 へしこれにある物をははなれたりともゆめ〳〵 うらみ有ましとの給へはきたのかたもさも有なん とおほして中将殿をよひたてまつる中将かくとも しらすしてやかておはしけるにちゝはゝおほせ ありけるは御へんを大将こはるゝなりこのころ世 にもましまさぬ人をくしておはすもめさまし くおほしてあはれいかなる人もめやすきさま ならはいかはかりうれしからんとおもひしところに 大将のかやうにけいやく【契約…約束】あるこそうれしく侍れと の給へはやゝひさしくありておほせらるゝやう おさなきときこそおやの御はからひにてかへせひ 【右丁】 じんして候へはおほせあはせられ候はてと申給 へはちゝ大しん殿さしむかひてわれやすくして 侍るそわれいきたらんほとはけうくんにつき給へ ふみかきてやり給へとありけれはめのとさしより て御おやなれはあしき御はからひ候はしあそはせ かしと申せは中将殿にくけににらみてさしさしいて たるよしはしたなふいはれてびやうぶのかけへそ しのひけるきたのかたすゝりかみをとりむかへて これかきてやり給へとしけにの給へはのかれかた くおほしてふてにまかせかき給ひうちおきてつい たち給ふ御めのととりてひきむすひめのとこの六ゐ 【左丁】 のしんにもたせて大将のもとへつかはしぬ中将殿は父 の御まへたちもやのみすのもとにてなき給ふいくほ ともなくしてゆめにみたる心ちしてわか御かたへかへり 給ひぬひめきみによりそひて出つる時はなにとも なく候はぬむねのいたく候をさへてたひ候へとありけ れはひめきみおとろき給ふ事かきりなし中将殿 なき給へはひめきみもともになき給ふ中将殿な みたをおさへてしやうしむしやうのならひはいまに はしめぬ事なれはもしこのむね大じにていかな る事も候はんにおほしめし出させ給候はんやとおほ せありけれはひめきみなみたをおさへの給ふやう 【右丁】 十のとしちゝはゝにわかれまいらせてのちはめのと をたのみていまゝてそたちぬたのみつるめのとにも わかれいまは一すちにたのみ参らせて候へはいか てかなけりて候へきおやにおくれし日よりおしか らさるくろかみをこのつゐてにそりおとしいかならん 山のおくにもとちこもり御ほたひをいのりちゝはゝ 御身もわらはもはちすのゑんとならんとこそいの り候はんすれともとてなき給ひけれは中将殿心の うちにおほすやうたゝいまいはすともつゐにかく れあるまし此事しらせはやとおほしてなみたのひ まよりの給ひけるけにむねのいたきにあらすちゝ 【左丁】 のめされしほとになにとなく参り候ところに御ま へにめしおかれて大将殿へわたるへしとおほせら れけれはたらぬおもひのかなしさにそてにもあまる なみたをいかゝせんとの給ひけれはその時ひめきみ おさへたるむねさしおきてふしまろひてなき給ふ やゝひさしくありてなみたのひまよりの給ふやう ちゝにもはゝにもわかれまたたのみしめのとにも はなれていまは一えにたのみ参らせて候うへはかみ にもいのりほとけにも申て世にわたらせ給はん事 こそうれしくおもひ参らせ候へは大将殿へいらせ 給ふへき御事はめてたかるへき事なれはつゆも 【右丁】 うらみとはおもひ参らせ候はすたゝわか身のみこそ うらめしく候へつゆしもともきえうせたへ候へとも にんけんのならひおもふにかいなく候へはかくてこそ 侍らめたとへ大将殿とかくおほせ候ともさうなく おひ出させ給ふなこれにすみへずはいかならんかた 山さとにもいほりむすひてしゝうとわらはと心やす くおかせ給へやかてさまをかへてなき人のほたひを もいのりわか身のこせをもたすかり候やうにはから ひ給へ御身はとはせ給はすともすみ候はんするいほ りを御かたみとおもひ参らせ候てなくさみ候はん となきくときなき給へは中将殿これを御らん 【左丁】 して見めかたちのよきにつれて御心はへかやうに うつくしくおはしますことよかなしきかなやいく ほともなきよの中にものをのみおもふことのか なしさよたちまち         にしゆつけ             とんせいをも                せはや                  とそ               おほし                めし                 ける   【両丁白紙】 【両丁文字無し】 【裏表紙】