【表紙】 新板  琉球人   行列    記     序   【蔵書印:寶玲文庫】 古の書(ふみ)に留(る)水(み)とかき哥にうるまのしまと よめる皆今の琉(りう)球(きう)國のことなり其國初 天(てん)孫(そん)氏(し)にひらけて八郎/御(ご)曹(ぞう)子(し)《割書:為|朝》の御/裔(すへ) なるかうへは我(わか) 皇(み)國(くに)の属(ぞく)国(こく)なることいふも 更なるをかの朝(てう)鮮(せん)臺(たい)湾(わん)の界近く南海 はるかにあら汐の八/百(を)重(へ)隔(へだて)たれは船の行通さへ たやすからす其うへ中頃より唐土のすく かよひ馴つゝやかて其國の制にさへならひて 冠(くわん)服(ふく)なども其國風にしたかひたれはいよ〳〵 さるかたに見なされてかの紅(をらん)毛(だ)伊(い)芸(ぎ)理(り)須(す) なといふらむあらぬ境のものゝ類(たぐい)とさへは人 みなおもふなるへし扨此國人来朝の ことは古(ふるく)続(しよく)日(につ)本(ほん)記(ぎ)にもみえたれど其後/暫(しはら)くは 来らさりしにや何の書にも見えさめるを 後(ご)光(くわう)明(めい)天(てん)皇(わう)の御宇慶安二年に再(ふたゝ)ひ来朝 せしより已来毎度に及へり此たび亦/国(こく)王(わう) 即(そく)位(い)恩(おん)謝(しや)のため正(せい)副(ふく)二人の仗を奉る事 あるにつき行(ぎよう)粧(そう)の梗(かう)概(がい)をしるし梓に ゑりて広く四方の人にも見せ歩(あゆみ)にくる しまん老少の目をも歓(よろこば)しめんとす抑この 行粧の図来朝のたびことに刊行すといへ とも皆利を射るのみの業にして正しく 其さまを見ん便となるへきものなく いま上(しよう)木(ほく)するはさる類(たくい)にあらす親(した)しく 聞まさしく見て写(うつ)しいたす所にし あれは眼(まの)前(あたり)みたらんにもをさ〳〵違ふこと 有へからす穴賢  天保三年壬辰八月            無名氏             しるす 一行粧の見(み)物(もの)は琉王/楽(がく)童(どう)子(じ)その外一躰ことなる風儀めつら  しき衣服楽器の音声を要とす文化三寅としの  来朝より当辰としまて廿七年目の来朝にてまた  いつのよに行粧を見んもはかりかたく実に近代の  粧(そう)観(くわん)なりよつて此本を持したらんには一時行列のみみたらん  人にはなか〳〵まさるへくはた見し人のもたらんにはいよ〳〵  其くわしきにいたるへきものなり 一行列は海陸数百里の道中ゆへ少しつゝの増減前後あり  このほんやんことなき手筋をもつてくわしく  相たゝし本格の行列をしるす 【左丁上段図内】 薩州川御座御船 此他諸大名方より 御馳走に川御座船 いづる今略之 【左丁下段図内】 琉 球 船 来朝之次第 慶安二年九月  来朝 承應二年九月  同 寛文十一年七月 同 天和元年十一月 同 正徳四年十一月 同 享保三年八月  同 寛延元年十一月 同 宝暦二年十月  同 明和元年九月  同 寛政二年十一月 同 寛政八年十月  同 文化三年十月  同  慶安二年ヨリ  天保三年マテ   百八十四年ニナル 行列之次第 先はらひ 警(けい)固(ご) 弓(ゆみ) 旗(はた)竿(さほ) 長(なが)柄(ゑ) 道(どう)具(ぐ) 奉(ぶ)行(きやう)  騎(き)馬(ば) 先(さき)馬(むま) 具(ぐ)足(そく) 弓(ゆみ) 對(つい)箱(はこ) 對(つい)鎗(やり) 中(なか)鑓(どうぐ) 立(たて)傘(がさ) 臺(だい)傘(がさ) 徒(か)士(ち) 刀(かたな)筒(つゝ) 長(なぎ)刀(なた) 小(こ)姓(しやう) 濱村大和守様  御(ご)家(か)老(ろう)   ☒☒☒☒☒    御高三万八千石 鎗(やり) 對(つい)箱(はこ) 茶(ちや)辨(べん)當(とう) 引(ひき)馬(むま) 押(おさへ) 樂(がつ)器(き)箱(はこ)  但し金泥にて  樂器の二字あり 書(しよ)翰(かん)箱(はこ)  但し地黒に白字の  織ものなり 【下段行列図内】   楽器 書翰   書翰  鞭(むち|へゑん) 但せいはい棒のこと也大竹 長 ̄サ一𠀋ばかりすへの方 二つ割半より持所迄丸く 惣朱ぬりしたる物なり 牌(はい)  二行  板朱ぬりもんし金  泥(でい)なり 張(はり|ちやん)旗(はた|きい) 銅(と|とん)鑼(ら|らう) 両(どぢやく)班(じやう) 嗩(ひち|つを)吶(りき|な) 二行 唎(ちやる)叭(める) 銅( |とん)角( |しゑ) 鼓(たいこ)  二行 【下段行列図内】  謝恩使  中山王府  金鼓  金鼓 樂(がく)人(じん) 虎(とらの|ふう)旗(はた|き) 三(さん)司(す)宦(くわん)  但國王よりの書箱を  所持するものなりかの國  にて三公のその一なり 冷(れん)傘(さん)  但ひぢりめんにて二重  にかざる 龍(なぎ|ろん)刀(なた|とう)  いはゆる青(せい)龍(りう)刀の  ことなり 正使  使(し)賛(さん)  與(よ)儀(ぎ)覇(は)親(ばい)雲(きん)上  玉(たま)城(くずく) 親(ばい)雲(きん)上     跟(こん)伴(はん)数人      供人の事也  轎(きやう) 正使/豊(と)見(み)城(くずく)王(わう)子(じ)   但 ̄シ唐(から)の衣(い)冠(くわん)ナリ      跟 伴      数十人   立(りう)傘(さん)    但しさきを金糸の    ことくなるものにてつゝむ   鎗( |やり) 正使  使賛   譜久(ふく)山(やま) 親(ばい)雲(きん)上   讀(よん)谷(たん)山(さん) 親雲上   真(ま)栄(ゑ)平(ひら) 親雲上 讃(さん)議(ぎ)宦(くわん)   普(ふ)天(て)間(ま) 親雲上 正使附従人   但琉球の衣冠なり 鎗(つやん) 樂(がく)童(どう)子(じ)六人  これ大かたは美  少年なり十四才より  十六才は唐織の  かきりなき美服を  着すすへて琉球高  貴の人の若とのなり  雲上の席にて座  楽をつとむわけて  音律にくわし皆能  書にしてかたわら  詞歌をよらす 【下段行列図内】 登(のぼり)川(かは)里(さと)之(の)子(し) 譜(ふ)久(く)村(むら)里之子  濱(はま)本(もと)里之子  宇(う)地(ち)原(はら)里(さと)之(の)子(し) 富(とみ)永(なが)里(さと)之(の)子(し) 小(を)録(ろく)里之子  至而美少年ナリ 樂(がく)師(し)  冨(とみ)山(やま)  親雲上  池(いけ)城(ぐすく)  親雲上  具(く)志(し)川(かわ) 親雲上  内(うち)間(ま)  親雲上  城(ぐすく)間(ま)  親雲上 樂(がく)正(しやう)  伊(い)舎(しや)堂(どう) 親雲上  樂人のかしらなり  琉球の服を着す 龍(ろん)刀(とう) 副(ふく)使(し)  沢(たく)紙(し) 親(をや)方(かた)    但 ̄シ唐衣冠ナリ 副使  使賛   與(よ)古(こ)田(た) 親雲上   小(こ)波(ば)蔵(くら) 親雲上 傘(かさ) 鎗(やり) 議(ぎ)衛(ゑ)正(しやう)  儀(き)間(ま) 親雲上  路次樂奉行也   古琉球の衣冠也     跟伴      数人 掌(しよ)翰(かん) 使(し)  與(よ)那(な)覇(は) 親雲上   祐筆之㕝ナリ 賛(さん)渡(め)使(す)  宮(ミヤ)里(サト)  親雲上  瀬(セ)名(ナ)波(ハ) 親雲上  徳(トク)田(タ)  親雲上  浦(ウラ)嵜(サキ)  親雲上  許(キヨ)田(タ)  親雲上  佐久(サク)川(ガワ) 親雲上  比(ヒ)嘉(カ)  親雲上 醫(い)師(し)  琉球の衣冠ナリ    跟伴     数十人  讃議宦従者  樂正 従者  正使小性    美少年也  供琉人  路次樂人 此外行列数多あり といへとも今略之 【下段行列図末尾】    公寶瀉【四角印】 【上段】  音樂之次第 大(たひ)平(ひん)調(ちやう) 舞人七人 桃(とう)花(ふあゝ)源(ゑん) 同上 不(ふう)老(す)仙(せん) 同上 楊(やん)香(ひやん)  明曲舞人二人 壽(ちゆつ)尊(ふん)翁(おん) 清曲同上 長(ちやん)生(す)苑(ゑん) 舞人七人 芷(つう)蘭(おん)香(ひやう) 同上 壽(しう)星(すいん)老(らう) 明曲同上 正(ちん)月(いゑん)  清曲同上 右樂は道中宿々出立の 折または日中行列の中亦 宿着等の節にもなす 事あり舞は席上にての ことなり路次にてはなし 【下段】  道中宿驛割 伏見宿  勧修寺村 休 大津宿  守山   休 武佐宿  高宮   休 番場宿  今洲   休 垂井宿  墨俣   休 稲葉宿  宮    休 鳴海宿  大濱   休 御油宿  吉田   休 二川宿  新居   休 舞坂宿  濱松   休 袋井宿  日坂   休 島田宿  岡部   休 府中宿  奥津   休 蒲原宿  原    休 三崎宿  箱根   休 小田原宿 平塚   休 藤沢宿  程ヶ谷  休 川崎宿  品川   休 江戸 【右丁上段】 琉球人 凡二百人余  但上中下官とも印篭  壱つ宛をさくるなり扇子は  朝鮮におなし 薩摩御人数上下凡一万人余 人足凡弐千人馬凡八百疋  其外諸大名方より之  御馳走人数未知跡より         出之也 【右丁下段】 中山王より獻上物 あまた有之今略之 琉球国より江戸まで行程 七百拾壱里余琉球より薩州 鹿児島迄三百里余かご嶋より 大坂迄二百七拾六里余大坂より 江戸まて百三十五里 【左丁:上段から下段へ】    琉球ことば 一 日(ひ)を   てだがなし 一 月(つき)を   つきがなし 一 火(ひ)を   まつ 一 水(みづ)を   みづ 一 男(をとこ)を   ゑんが 一 女(おなご)を   をなご 一 朝(あさ)飯(めし)を  ねえ(ー)さる 一 昼(ひる)飯(めし)を  あせ 一 夕(ゆう)飯(めし)を  ゆふ/はえ(ー) 一 簪子(かんざし)を  ぎば 一 三弦(さみせん)を  さんしう 一 草(ぞう)履(り)を  さば 一 下(げ)駄(た)を  あんじや 一 いやじやと云事を  ばあ 一 かあいそふなと云を きもつちやげな 一 物をほむる時 きよ(ー)らさといふ   ことばありたとへは美男をき   よらゑんがといふがごとし 一 うそつく人わるい人をへんげもんといふ 一 遊女をぞりといふ故にゆう里を   ぞりや又ぞりみせなど云なり 干時天保三年辰十月来朝        薩州御出入方【朱印:叔葉萬改】  御免    取次判元 伏見箱屋町               丹波屋新左ヱ門             同下板橋               兼春市之丞        京都書林 寺町通錦小路上ル               菱屋弥兵衛【墨印:■■檢】 【裏表紙見開き】 大坂府下心齊  ■【淿・綿ヵ】 【裏表紙】 【左下隅に4段ラベル:Ryu|090|Tan|c.1】