207 1758        櫻川杜房 新例矢口の渡     全 抑武州 荏原(うはら)【えはら】郡矢口の村に 鎮座(ちんざ)まします新田大明神 の由来をくわしく 尋(たつね)たいと思召すおかたは 神(しん)灵(れい)【靈】矢口渡を 御 覧(らん)に出たがよし此 草(そう)□や只しやれに 洒落(しくれ?)てしやれのめし 上大 堂(どう)の 義興(よしおき)【新田義興】より下は 末社(まつじや)の 篠塚(しのづか)【篠塚八郎】まて通てまろめし通□ 大中 黒(くろ)【新田氏の紋】の 三紋(みもん)とはとん兵衛【頓兵衛】みゝとんのはなしの 種(たね)むせうにうそを 筑波(つくば)御 前(せん)万八たゝ□の此本を 湊(みな)といふのもめんどうながらよんで 水(み) 無(な)瀬(せ)の六郎【南瀬六郎】がやつす日本廻国の六部な趣向は 書(かき)もせずお 舟(ふね)作者が 下手(へた)ゆへに作者〳〵と名斗 ̄リ作者是で作者と由 良兵庫のか出来も不出来もまくれ当り是も竹沢つ もり西エ 【?】義岑(よしみね)へでもよし〳〵とたゞひやうばんを 待(まち)江 田の判官しんそんりこんたけん【震巽離坤兌乾・神尊利根陀見】はらい給へ清給へと                 生麦村道念(なまむぎむらどうねん)敬白 【右頁上】 神 は 人 の う や ま う に よ つて ゐを ま し 人は 神 のめぐみ によつ て女郎にもてる こと有れば又ふら れることも有り 水道じり【水道尻】の 水清けれは 其中の月 【左頁上】 やどると やら月のゑ とゝころむさし のゝほとりに よしだや原右衛門 といへる大あきんど ありけりかれが せがれ興二郎は 廿二三のいろ男 どふしたわけ やら新田大 明神がきつい しんじんにて 月まいりと  出かけ     る 爰に畑道誓【畠山道誓による】と 云いしや竹沢源 兵へといふ者と二人 つれ新田参りの もどり興二郎に あひむり□【に?】女郎やへ 引 ̄き どうる【ずる?】 【右頁下】 是はお二人 ̄り 様おはやう ござります そんじたら お つ と 立 申ま せうもの 是むすこ【?】 今からまいるの 【左頁下】 か【?】でいぶ【大分】おそい ぜへいつそしん □酒【?】とくらはせ ねへか それが いゝ〳〵 内へ かへつ てわる かア此矢 を やろう から もつていきねへ きつい すいは へうは【水破兵破】 の矢 たの 【右頁上】 竹沢 がすすめ で とう〳〵 三人 一座 の 女郎 かい 新 松 坂【?】へ 上つた 所茶や のてい しゆが はか らい ̄に て 興二郎はつくばといふ部やもち道誓は 【左頁上】 定 ̄り の新ぞう也竹沢が女郎は新ぞう でもなくおはりでもなくねつからつ まらぬさむそふな女郎夫【それ】に引かへ つくばがうつくしさもほ目 立ゆへ竹沢はすこしぢれつ ていなり 【右頁下】 何さ たんと あげ たが いゝ 【左頁中】 夕べは よく よはせ なんし たの 【左頁下】 ちと さし あげ ませう か 【右頁上】 竹沢は つくばを 一 ̄ト目みし よりそつと【ぞっと】 するほど くらいこみ 此くらいなら おれひとり 上つてあれ を見立れば よかつたと 思つていて もつまらへ【?】 ずしよ せん興二郎 が来ても かふ事も ならずどふ ぞ興二郎 が来ねへ やうにと 色〳〵 しあんを 【左頁上】 めぐらし そつと おきて 先へ かへる 【右頁中】 ようございやすわたしが のみこんだこんどおめへに 出させやす コレ半兵へ此矢は興二郎に やつたのだがふれかけつて【?】 先へうつると あいつは矢 がねへから内へ かへること天のもう せん【天の毛氈?】だアそふすると 当分出にくいはそこ へおれかかよひあみがさ花 あふぎ【編み笠花扇?】といふの所だ 【左頁下】 ア ̄レ いつ ごろ きなん すへ 【左頁左端】 いつごろもゐらね ̄エ せつく【節句】に 来よう二日三日としまつていやけふはおもしろく なかつたから大ぜいづれできてさわがせう 【右頁上】 されば おき二郎【興二郎】 がせつく のし まひ【節句仕舞】 その はな〴〵 しき こと あつ はれ 南 国の 大将 ぐんとは 三才のこ ぢよく【小じょく=子供】迄 に□んへ たり つきし たがふ十 人のたいこ 【左頁上】 持の中でも 由良上戸 之介のむたゞ【由良兵庫之介信忠による】 とゐめう【異名】を とりたる はいかい し【俳諧師】又はいなせの六郎【南瀬六郎による】と いふ文かづかい【文使?】はべつして きにいりの御家老 しよくなればひる から女郎屋に まちうける 【右頁中】 ぬしや ̄ア なせ おそいねへ上 戸様何ぞ用 でもでき やしたか よ いつそ ぢれつ てへ よくならへたは だいのもの つう人だわ 【左頁下】 もし 茶びんと いふとこで うつね 【右頁上】 かゝるさわぎの折とそあれに通人と 呼ばり〳〵興二郎がでつち【丁稚】しの づか八ぼう【篠塚八郎による】一々様子を物かたる 〽ヤア待かねししの塚 八坊お出 のおそい は何と〳〵 〽されば そうろう若 だんなは此間の大もて よりいさみにいさむまつ しやのめん〳〵我おとらじ とのりぬけ〳〵高 なは【高輪】さしていそが するかねてたくみし竹沢 源兵へ江田や半兵へと心を 合せ茶やが二かいの 大ちようぼ【丁場?】一ばくちの あたりの人々を大ぜいかた らいかたづをのみ今やかとし こと侍もとは夢にもいざやや わた黒【八幡黒】のこまにむちうち若たん な【若旦那】おかど ̄に は【?】たちせき【咳き?急き?】こんてかの内 【右頁下】 ▲ちや屋へ入給ふ そこ ̄に したかふ人 〳〵【々】はつうた大【?】 しほうぬたんぜふ  ̄チヨイ 【?】市川を始としてたなし【田無】 に上つ【?】茶やの二かいむ りにばくちに引すり とまれさん〳〵大 まけ大しくぢり てんばをあざ むく若たん なき もの ぬくま もあら【か?】 むね んや とつ いあへ なく まつ 【右頁中】 ▲ はだか【真っ裸】 通人の□ も□く ̄に ぢ ばらを きりそこ はかとなく 逃行は今よいのしまいは思ひも よらずと大いきついで物かたる 【左頁上】 されば 興二郎 が大ばた きより せつくのし まいあ てがちがひしゆへ 女郎やの そうどう 大かたならず かくる所へ竹沢 源兵へたいこを大 ぜい引つれ来りしよ せん興二郎らはもうこられぬから つくばをかわせさへするならすぐ ̄に せつくのしまいきやく【節句の仕舞客】とならんと茶やをもつて 申【?】来る 上戸の介はかわせうと云いなせの六郎はかわせ まいと云 あらそいとれ もやぼでない 故けつく【結句】訳が 付にくいかして だれも かまわぬ そう 也 【左頁中】 ハテてめへはなせふつう たくわへは玉子 ̄に てきすべから ずだ たいこと成て たんとかゆふゟ【?】 ばうと ひしほ【醬】 に成迄 もかわせる ことはなら づけ〳〵 【左頁下】 なつて ふざけ よく 通人 のとば 身は 梅 【右頁上】 何ぼ いなせ の六郎が ひとり 團十郎 をいつても 相手が大ぜい 故とう〳〵 竹沢が しまいと なりゆら 上戸が手引にて つくばが ざしき をのつ とら せし故一 はいきげん のいな せの六郎 大きに あば □れり【?】 【左頁上】 ゆら上戸で もむだ上 手でも竹 沢でもやけ ざかでもく やしか ̄ア こゝへ出やあがれかたつはし どんぶりの中へ さらへこん でうて くずを かけて あたま からわ さびを すりか けるぞ しかし おれは つうだ からあん まりさは きたくア 【左頁中】 ねへか こう あば れねへと上 方【?】の やう ̄に なら ぬの 【右頁中】 そいつ 引つり 出せ〳〵【?】 まづ にげ た ほう がよし の く ず に かん ざましも こぼし 【左頁中】 をつた 【右頁上】 竹沢はとう〳〵 つくばを かいおふ せ たれ共 古風に ふつてふり付る故めつた やたらにむだ金をつかい ゆら上戸其外 かみたちを引 つれ□□【「江の」カ】 しま 行と でかける 【右頁中】 こゝは やき も ち坂と云 からふつうな 物ばかり ゐ【?】るだらう の 【右頁下】 いつそくたび れんしたちつと 出て見や せうか 【左頁下】 御はんじやう 様から一せん 下さりまし 又いなせの六郎も江のしまへさんけいの道 やきもち坂にて竹沢を見付なんでも一ぱい きやうけん【狂言?】をかいてやらんと心に思ふ 【右頁下】 それより六郎は竹沢由良か後をしたいいつて 見た所が生麦村の大百せう【百姓】 ゆらがおぢとやらの内がとまり なれば同じやう ̄に とまられも せず思ひ付きて六十六ぶ【六十六部=行脚僧】のす がたとなり一夜のやど を御むしんとこじ付る 行くらし たるしゆ きやう【修行】じや 夜 の やどを かして くんなさい 【左頁上】 何だ 六ぶか大かた八ぶされて 六ぶになつた のだらうしかし 日本【?】だけつう だの 【右頁上】 いなせの六郎つくばをたておろし ̄に する おもてにひかへしねこと【寝言】 の長蔵様子は 聞たといふ□を ゆら上戸の□ エイと小判の しゆり けんを う つ 【右頁中】 おめへあれ程興 二郎さんのせわに 成たことを わすれ て今 竹沢としつ ほりごとは ついぞねエ とか云所 た何ぼ女郎 でもチツ ト斗り ぎり【義理】と しつた がいゝ 【右頁下】 そん なら身 がわり を身方 でこじ 付るのか 【右頁中】 六郎 様はたと□【?】 なさんなこりやア 【左頁中】 ゆら様といゝ合せの□□だはな 竹沢まつれほりてきた様 ̄つ だが 内はみんなかつちがみ上りて来た のだか□竹沢をたいこにしてやるのサ そうとはしらず竹沢が一はい だんなづらをして ゐるせいサ かへ つて 見ると竹沢 は大うちで ありいす 【左頁下】 こいつはありがてへ しかしとつたほうが いゝことだの 【右頁下】 是へきて爰【ここに】興二郎が弟 峯二郎は兄のいろ〳〵 つくすのうらやましく 恩へともへや住【部屋住み】のことなれ ばくめん【工面】といふ所も出来 ず前【?】かたつかつためし たき【飯炊き】の久助といふ者大もり へん【大森辺=飯と大盛も掛けているカ】にらくぼう ず【楽坊主】 ̄に なり ゐるよ し 是にたよつて そうだんせんと大もり さして【大森指して】ぞいそぎゆく さて〳〵女のない道行は て【?】れたもんだば ̄ア様【婆様】でも つれにほしい 【左頁上】 おき二郎【興二郎】がめしたき久助 今は道念と名をかへ【替え】い なりの みや【稲荷の宮】を あつかり【預り】て 少 ̄し のいほ り【庵】を結び ゐる所へ 峯二郎 来りて むだ金 の才 覚を 頼と しよせん【所詮】店を うつても二百か□ 百か物はなしいなりの道具 をしち【質】 ̄に やらんとふつたくり【ぶったくり】の  万八といふ見たをしや【見倒屋=江戸の古物商】を よびよせそうだんする 【左頁下】 ぬしや なぜや ぼなこと をいふ世 はすへに なつたそ 【左頁中】 お めへが そふいつ ても いなり 様の物たから もつていねへ【勿体ない】どふも 関【かかわる?】ことはできやしねへ 【右頁中】 おれがうるからたれもてんの 打 ̄チ てはねへぞはりこんて【張り込んで】 かつたり【買ったり】〳〵すいぶんね【値】をよく かわぬとまもつてやらぬで こんせへす こゝんこん 【左頁上】 ふつたくりの 万八【ぶったくりの万八】さへいなり様 の道具たといつ てかはねばまして わちき一□んの百姓 どもはかいはせましこゝ は一ばんこじつけんと きつねのめんをかぶり □□太夫がこはいろで のこらすうり はらふ 【左頁中】 二一天作五【五に見えないが】 二しんか一し みしんか一月 一六かため おろし しんきやう ありつたけおはらい しよふる□と 所にたいてな まう が□も 道□ 【右頁上】 道念がくめん【工面】 ゆへ峯二郎 きんくといふ □なり女【女郎?】 やへ来り つくはに あいいろ〳〵 様子を はなす 竹沢は 大き につく ばが たわに やつ つけ □□ とやら や ̄に かは はら ゑのしまへ きれ □る□し□かへ 【左頁上】 たでくふ むしも すき〴〵と やらで 若 ̄い者 のどん 平は 竹沢 ひい き故 此こと を立聞 竹沢方 へしら せる 【右頁中】 峯かあいかた うてな ちや□ いれ □かね 【右頁下】 に□□かへ もふこ□ 思やせん わな さわき竹沢を ち□□見付た ̄り 大かたなるたつう つかめへて てんせう 見せて やりなさ□ そんなら竹沢が せるてきあの太二 を打やせうんな     から □んな 出て □□て も切て 【左頁下】 やりなせへし わつちが太 二を打やす こゝは一はん しりわり四郎【尻割り四郎】 と出かけ やう 【左頁上】 どん平か しらせ に竹沢大 きに【大いに】 きもを つぶし しよせん おもて 通りは かなふ まじと女郎や のうしろをのり 出す折からあゝ らせうしや風が かわりてふ通に夕 立ふりかゝれは此 ていてはふねも あふなし此ふき ふり ̄に通りを通ても 見付はせまいとかいつ てまたあとへ こぎ もどす 【左頁中】 よひ【宵】 立は いゝが 夕立はき がねエ くわ ばら〳〵 此 やう な時はしや れも 出 ねエ こいつ はをへ ねへ何 でも こき もど す【漕ぎ戻す】の て【手】 だ 【右頁中】 どん〴〵〴〵〴〵 たいこは りう〳〵【細工は流々の洒落】 しあげ を見やれ 【左頁上】 いふ □ ふね て のり もと して【乗り戻して】 女郎 やの まへを 通る所 を竹沢 とみるより娘のおふね くそくのはこ【具足の箱?】を とん〳〵〳〵しんぞう どうろへ【どうつと?】 せいいで【急い出で?】 竹沢を とらへ 大きなめに あわせは とりも二つに 引さきとてか 【左頁下】 あやしくて しはらく せいな らん か え【?】 【左頁中】 いつそ すかねエ といふ □□□だ □ちかく めらすつ こんやにちかく なつて□つ しんそう□ ̄る そく おふねはむねきだ 新田大明神の御神德【?】は 中〳〵此くらゐの本にかき つくされることにあらず たゝ十分一をしるし たかのやもなし しかし 此神の めぐみや 門のき□□ 様□□ のふ母【?】にむすこ様方新田参り のもどり足ちよんの間遊びの 此よりわんば新田大通【?】神ともあふぎ始へかし 【右下】 櫻 杜芳戯作 【左下】 清長画