妖怪仕打評判記 安永六【七へ上書き】戌 そればけ物 といふものはひる出 ことかなわすよるば かりいつるしごくよ わみそ【弱味噌】のものなり。 しかるにこれまでく さそうしなとにつゝり しを見るにたゞ ばけて人をおとろ かすばかりでばけ  ものどもてまへ〳〵の みうちの甲乙の くらいしれずこれによつて 此たびそのみばけのいさほしよつて 上々吉上こまたは白吉あるいはくろの上ばかりなとゝ ほうびのくらいをあたゆよつてずいふんばけのけいこ たい一にはけむへしとばけ物のかしらたるによつてきつね 太郎たぬき次郎に申わたす ばけ物のせん せい 大入どう それがし身に しやうながら とう年ばけ ものゝざがしら ときたから みな〳〵けい【芸】を はけみめ されい いさい かしこ まり ま し た 極上上吉 ばけ物のかしら大入道のまい【申つい?】を ふれけれはあるとあらゆるはけ物 しうちけいこ所へあつあまりその しうちをそこぢつけける第一ばんに きつねまかりいておどり子の しうちわかしゆがた のしうち 〽てんと市川 門のすけと きたはどこへ ごさるくそうが おくつてやりま しよか 〽おこゝろ さしなら わたくしが まいるあな までおくつて くださりませ 【右ページ下】 きつねおどりこに はけまくそ【馬糞】を さかなには     さむ 〽おきやく さんまひ とつのみ ねヱさかな をはさ みんしよ 〽てんと【天とうまい=ああ美味しい】 むまいの ねときた は きみの お名は なにと いわまの こけ むしろきかま □□□□な 【左ページ】 上上□【上上吉】 第二ばん目にあおさきがしうち これはよるわうらいの人をお どろかすはかりなれどさて〳〵きみのわるきひかりものなり そのありさまたけ五尺ばかりのはしらのこときものに 火もへてあとよりついてくるこれりやうのはがいにて するげいなり あをさきは くびを ちゝめて 四かくのはしら のことくにしてうへに 火をもやしたる よふにはけ 人□おとろかす なりこれりやう のはがいのひかり        なり 【左ページ中】 なんとこわかろうがや ふくろくじゆの ゆうれいとも いつて よい 【左ページ下】 〽のふこわや うどんやか さてはほくてき【?】 のよみせあん どんといふばけ ものだはやく にげあしは 中しま 天かうと でやう 【囲み内】㭬上上吉 【㭬は木+豕、豕の下に一 極の異体字か】 第三ばんに見こし入どう このおぼうはいんきょ していまはしゆつ きんなけれど こんどのこと ゆへまかり いでける これもよるくらい ときとうる人の うしろより見 こしてむかふへ ぬつとくびを さしのへてこ わがらする しうちなりさて見こし 入どうのあいてには女なれ どもつりあいよしとてろくろ くびをいだしけるがおろく くび引に【?】かちておちをとる 【囲み下】 かいる【蛙】 せんせい がまけ そうだ とこへ 〳〵 【蛙の下、猫の足下】 ねこまた 【囲み内】山うば上上 この山うばがいくらかやま めぐりをしておびたゝしく はけものも見たかおたふく のろくろくびはことし がしんはん【新板、新版】 とんと【まるで、まったく】 ぼちや〳〵 のおちよ【ぼちゃぼちゃのお千代=安永の頃有名だった売春婦】 ときた 〽としはよるまいもの むかしはちからて おちのきましたきよ もりなれど女にまけて 七ふぐりときた〳〵〳〵さぬ きのこんひら 【左ページ】 【囲み内】化物仕内稽古所(ばけものしうちけいこところ) 【囲み内】上上吉 そのつぎにろくろくびこれは 人じん【人身】にてやまひ也本 草(そう) 奇病(きびやう)門に見へたりしかれども 人けんにてのばけ物にすべて ばけ物と名づくるにことの しな〴〵あり躰卵湿気(たいらんしつけ)の四品也 躰(たい)でうまれて ばける物あり玉子でうまれてばける物あり湿(しつ)で化する はけ物あり此しやべつ【差別=区別】をわきまへ給へ 〽なんぼにやんなどのやひきさんが【ニャン那(旦那)殿やヒキさんが?】 さしだしつけをかたしやんしても みづからにまけさんしてはいけぬ せかいさ おゝしやるし 【囲み内】上 そのつぎに一がんどうじ【一眼童子】 これもたゞに夜道に むかふより【向こうより】いでゝ人を こわからするばかり也 このたぐいはみな きつね也きつねは ばけのしうち さま〴〵ありてその げいかつすへに【?】      のぶる 〽おれがらうこうでさつ きにから見ていれば かつはめが【河童めが】ひとつまなこを 人げんかとおもひくるめかける そうなこれは ふと印だ 〽かつは【河童】 かめ のこう ■■まで【こゝまで?】 ござれ あまさけ しんしょ 【左ページ】 【囲み内】上上 そのつぎにいでしは川太郎これを 河童(かつは)といふこれがしうち大きにがひ【害】 をなす夏こどもかわに入りてみずをあびるとき みづそここよりいでゝこどもの 肛門(しり)をやぶり いのちをとる といふすべて こどもに ばけて ぐるに あそひ こどもをすゝめて みづのなかに引 こむ也やくしや でいわくじつあく かたきやくの      ねなり 【下段】 川端(かつぱ) 水ちう より あらわれ 引 こまん と たくむ 【上段】 どこのがきめた あいつにいしをぶつ つけてやろう 【囲み内】上 その次に よなへのくわ とう【火灯】まかりいでてばけるすへ てきざいによらずなににても ふるきものはばけるといふ くわとうもふそうじ【不掃除】にしては そのゆゑん上にとりかた まりてゑんき【炎気】 をはいて ばける也 〽人けんはてれると やみくもてんやわんや われらはてるで おちのくるせかいだ なんとこわいか すさまじ からうがや くわ とう めが ばけ おつた よが あけたらは ぶちみ しやいて こまそう こわ〳〵なむ しやう八まん だいぼさつた すけ給へこゝろ【南無正八幡大菩薩、助け給へ】 よくねていた ものをさりとは むごいぞとん とおれがみ はちうしん くらの きりと きた 【左ページ上段】 〽なんといつ たちわれら よめごといふ おもいつき なか〳〵よいぶたい かほであらう      がや そのつぎにぬりおけ【真綿を伸ばす道具】 まかりいつるすべて 女といふ物は かりそめのことも こわかるものなれば よなべのたいくつねむけ さすときはばけて見せそふな ものこれはさしてしさいなし【子細なし】 【囲み内】上 【下段】 〽やれ〳〵 やわ〳〵    と した おいど【尻】だ しんぞ【新造】 いのちは あけや いり【揚屋入り】   じや のふこわや これじや よつてあす のばんから よなべは よしに しま しやう 【塗り桶は真綿を袋状に伸ばすための道具で、妖怪がかぶっているしろいものは真綿、繭を煮て伸ばしたもの。また表向きその仕事をしながら売春をする女性のことも塗り桶と言った。妖怪が女性の尻を撫でているのはそのせいか。】 【囲み内】二品ともに上上 うぶめのばけものは ゆうれいのだくい【ママ、類い】 なりこしより下は ちにそまりて子を いだきわうらいの人に此子をだいて たべといふだく人めつたにはなし しこくおそろしきばけもの也 【下へ】 姑穫女(うぶめ) おさむらいさん この子を だいて くだ さんせ 〽そもまあ うぬはなにやつだ とんととみ十が【とみ十=中村富十郎、女形役者】 せりだした      と     きたは 雪女(ゆきおんな)《割書:毛詩伝(もうしてん) ̄ニ 曰(いわく)豊年(ほうねんの)冬(ふゆ)必有(かならず)|積雪(せきせあり)ゆきはいんちうの》 雨(あめ)こほりてゆきと なる男は陽(やう) 女は陰(いん) なれば雪 女にはける ものあるべし 【その下、台詞】 もうし しんごさ【新五左=武士のこと】 さんわしを あたゝめて くれる   はい 【囲み内】上上吉 とうふ小ぞうといふばけものは あたま大ぶりにて四五さいに見へ まなこばち〳〵とひからかしよる人の あとについておくるこれはいたちなり わるく すると あたを なす ばけ物 なり 【下へ、通行人の台詞】 なんだかゑりもとから みづをかけるやうに さむく なつて きたは いそいで かへりま しやう 【豆腐小僧の台詞】 もし〳〵おぢさん わたしも いつしよに まいりましやう 【上段、大腕の台詞】 〽やい小そう このてのひらへ くれろやつこにて よものたき     すいとでるは 【四方の滝水(よものたきすい)は酒の銘柄】 つぎに大のうでこれもきつねの しうち也むかし平のしけもり三 くまのにまふで【詣で】入どうのあくぎやう なきやうにといのり給へば内ぢんより だいのうでをいだしてかしら【こし?】をかへせといふこと 平家ものかたりに見へたり 【囲み内】上上 大の毛あしとて百ものかたりなど するよはなしのかずは九十におよぶ ときは一ざの人こゝろそろ〳〵身の 毛よだちてばけ物はいまか〳〵とこ そるときてんぜうよりぬつとあし をいだすといへりみなもとの 頼くわう土くもといふ ばけものにおそわれ 給ふとき大の毛 あしてんぜう より ぬつといだ せしと いふ 【左上へ】 〽おれあたびを一そく あつらいたいすんを尺て たもれちやうどあのかんばん ほどてよかろう がてんか〳〵 【右下へ】 おまへ様のはともん十一 もんではいそのかみ 八ひやく八十 八もんで だいもつ【ざいもつ?】は 大いた こと【もと?】〳〵 【足袋型の看板の中】 御誂 いろ 〳〵 【左ページ囲み内】上上吉 あぶらなめの禿(かむろ)これもきつねなるべし なからうかなどの【?】ありあけのあふらを なめにいづるといふ見る人ぞつとしてこわがるといふねこもあぶらをなめる小ねこもばけるよしこのかぶろあるときは ざとうにばけるといふ ことあり むか し 武田(たけだ) しんげん のときに まいよ〳〵 いづくとも なく ざとうき たりてとぎをす るあるよあま戸をこと〳〵く かためていたがき三郎これを とらへんとするときしんげんの ひそう【秘蔵】し給ふふうば口【?】といふ茶入に ばけるとなり 【上へ】 なんとおれが身は よつほとよかろうが やとんとざもと のしうちをたんば のくにいけどりに しました 【囲み内】上上 のきあいだ【軒間】石かき のあいにすむかう もり【コウモリ】はちいさし しん山ゆうこくの【深山幽谷の】 木のほらにsむ かうもりはいたつて 大きくねこほど あるよしはねの さゆうまつまへ【松前】 こんぶ【昆布】のことく とがりありて 人のつらを まき ち を すう ばけ もの也 【右ページ中段】 〽かうもりさん しやうくれう【?】 といふとこの ことくとげ いた い ぞ 〽なんと せんせい こうで かけたとこ は市川の いまだん十郎 と見へま しやう がや 【右ページ下段】 〽いたこといたしましやう から御めん〳〵 ほんにいたくて いたくまたれる もの では ない 【左ページ、逃げてる人の台詞】 やれこわや にげろ〳〵 いのちが ものだね 【左ページ本文】 狸(たぬき)のしうち らう女にばけまた はらつゞみをうつとりわけ ゑてものゝ きん 玉をひろげて わうらいの人にかぶせこまら するといふ きん玉ひろけるときは九 尺四方もあるべし一名を のぶすまともいふ〽なんとせんせいたちあたゝかでよか ろうがやいわつき丁のかまぶろときた代は卅■■【両?】まへぜに〳〵【前銭〳〵】 【右ページ下段、金玉の下敷きになっている人の台詞】 ヱヽ むねん ほんの く る め られ たと いふは この こと 【左ページへ】 だ さて もく さい きん 玉哉【?】 土左衛門 の風 下と きた は 【囲み内】上《割書:むしな|口上やく|  ゆへに》 上 のづち 〽たゞいまゑがいをいたし口へやきめしを いれまするかねやいよくやきめしを くふおとこかななんの げいなしで ほんのくらい つぶし 大たにりう【大谷龍左衛門、歌舞伎役者】 さへもんと    きたは とうざい〳〵 ながことごたい くつにござりま せふさてこれまてしうち御目にかけましたるは あかぼん壹【壱】ぼんにてみなおなしみのばけ ものさてまかりいでましたるはふたりなから ばけ物ぶたいはしめてのしんくだり【新下】つらりと ごひいきたのみあけまするとねこはふへをふきたぬきは 【左ページへ】 はらつゝみをうちてはやし たてる 【上段へ】 たぬきつゞみ のやく たゝつほ〳〵 ちゝ この はつ 下りは 大きに はね やう   ぞ 【その左、これは最後に読む】 ぬつとつらを いだして人を おどろかすと いふ 【その左下】 ねこ また ふへのやく 【下段、囲み内】上 ぬつへつほう 二品ともにはつぶたい ゆへしうちをみて ひやうすへし むじな口上     やく 珍槌(のづち)といふ ばけものは人 げんのていにて 目はななし みゝばかり 也あたま のてつへんに 大きなる口 ありて人を とりてくらふ ■うこひやく 【真っすぐ上の段へ】 といふおとぎ ものがたりに 【下の段へ】 見へたり次に ぬつへつほうこれは地じん【地神】のたゝり なとじんしやをこほち【壊ち】あるいは ふつかゝ【?】をたゝみなどせしときゑんのしたゟ【38行目へ】 【囲み内】上上吉 大あたまこれはきつね狸 やくぶ そくなしにこのやくをつと むるよしばけものそうしに ぜひ〳〵なくてかなわぬ もの也あたまこそ大き けれめんていは古人 するがや十町【大谷十町、歌舞伎役者】にそのまゝなれどやつはり ばけものなり あたらあやしやその さまさかふねに ひとしき女の おもてはて がてんの いかぬふく ぞう なしに【腹蔵なしに=包み隠さず】 そのゆへんを かたれへんとうは なんとだヱヽ 【下段】 大きく ても うつく しいは おゝし【?】 三せき    が わか さかりと きたは 【左ページ囲み内】大上上吉 つら女これを ばけ物のずい一と たてるそのむかし大じやう 入道ふくはらみやこうつしのときてい せんのへいのうへゟ 九しやく四ほうのつらいでゝ わ らいしとありし かのみならず 太平記に な がと の国のぢう人 大もり彦七もりなが さるかく【猿楽?】の ときよる へいの上ゟくだんの つら を いだし わらいし                       よし ことの外うつ くしきか ほなりし となり もうし もりなか さんとやら おきに いりますま いかご 酒 の あいてになりや       しよ 【貼り紙の中】《割書:妖怪|仕内》評判所 ばけの先生大にうどう化道(けどう)軒(けん) しうちをとつくりと見さだ めそのへてものまくは我 ̄が りうこ じつけとうをこまかにひやうばんをつけて そのやく〳〵につれてくらいつけをいたすこれ 八もんじ自笑(じしやう)たり 〽いづれも一げいつゞおちをとりしうちに きつね太郎は市川はくゑん市川 いま三じやうときたは だいのきまりしやまいねんの ばけ物しゆかうふるめか しけれどなにかなと うそ八ひやくのへ そらことを たいへいらくに こぢつけ 参らせ候   か   しこ