享和三癸亥 末広庵撰       画狂人北斎画 不二見の連  全 享和三癸亥 末広庵撰       画狂人北斎画 【ミセケチ】■句狂歌集 全 春ノ不二 不二見の連 全 元日の見るものにせん富士の山と■【「は」ヵ】 山崎の翁のことは蓬莱に桜を ゑかくはひのもとの故実にて候 とは猿若かことふきなり富士のしら 雪朝日てとけるとうちうめくは 山川のうす春めきたるうたいもの になん有ける爰に不尽見のつらこと しも春の歌つとへて例のすりゑに ものせんとて風の音に近きさかひと いへとも浅草なる宅居のあたり麦わら もて造れる蛇のみちはへひのあひ 知れる友とちかり催しつゝわたし ぬれは其名鳴沢の鳴とよむ歌人ら 不尽のねの高きしらへ湖の深き心 のある言の葉こゝらおこし給へる そすしめをとりをするか舞霓裳 羽衣の曲をなし羽衣えたる心ち せられて嬉しさつゝむ我袖の二 寸にたらぬさえの■として不尽見 の同行先達する事ひとすちに おんゆるしをたのみあけ奉るになん さて霞にまかふ桜木にちりはめ一ま きのとち物となして桑まゆの糸 口をひらき素走口のはしり書せる ことよの人々をこのわさとなあさ けり給ひそよ           末広庵                  自得菴花咲翁 足高に霞をかけて富士の根にはるの陽気や立登るらん                  萬歳逢義 幾春も老せぬ門になか〳〵といき延て鳴うくひすの声                  東風福子 青柳のいとこはとこは道端の人に他生の袖やふり合ふ               浪華 加 竹 貝拾ふ篭は汐干につくせともかちわたり行住吉の浦                  堀川亭石丸 朝日さす霞は山のこしのものつか袋かもむらさきのいろ                  山家人広住 ますら男のすなをになれと青柳の枝を輪かねて春の駒とり    ○ 尾張          三蔵楼田鶴丸 年礼の客に箒の沙汰なくてお髪の芸もとらぬ元日     ホウキ     同    松井田   弦掛舛成 千金の春にも月の宿かりて横には寝るな宵の一こく   ○ 同    沼田    世詰内侍 春雨のたのみを受し柳樽みとりするめや今朝みえ見えぬらん                春雪連来 見あくれは鞍馬の山の児さくら僧正谷にはなの高さよ                榎分根 手をらんと脇の下より手をやれはくすぐつたいと梅笑ふなり                俵杉成 佐保姫のおいてなされはもろ人の日々に詠る花のかほはせ   ○ 信濃   松本    小麦金鍔 下戸ならはやつとをはらにふたつほと桃のやう〳〵呑し顔はせ                松蘿道 絵にかけるをふなよりなほいたつらに心のうこく夜の梅か香                糸瓜霍丸 法華経のくとくも匂へ軒端なる花の利昼の深き梅か香                坂上押則 奥州の挑燈よりも紅梅の色はまされる火ともしのひ                巌苦也 世の中のうちとは見えし日の影ももらぬよし野の花盛りか朝                台司基佳 手細工の桜もよその紙ならて名にしあふたる花の盛りは    ○ 同         濯耳菴水音 消残る去年の雪間をおしてるや難波の梅の香もつよくして             伊勢 馬上仲則 行すゑは花にそめなん旅衣はるにあふちの関のあけぼの    ○ 陸奥  桑折    木刀菴兼成 腹中の歌書をさらすか春の日に天を仰てすたゝ蛙は                笑信丁亭仲成 風の手にけすれる窓の柳かみ梅かかもしも吹いれてよき                上水亭下見 春の夜のみしかからすは中〳〵になかきひ桜たのしからまし      東都        笹の屋厚丸 かなくきのおれ■と人のいはゝいへふつゝけかきの書初やせん                若水汲子 春風に氷はとけて水かゝみうつる柳のめもとやさしき                紐 筒長 書初の梅といふ字の筆勢はそのおや〳〵の口をすくして                耳露菴鉢満 若水て仕かけ直せし漏刻のたれも春とやしるとしの朝      出羽 米澤 白雪連 《割書:列良改|   》千歳松人 何無くも酒はすゝめり山さくらかふりつかはやてもさてもても                玉帚菴上成 たち神の森の霞をかけぬけてからすは今朝の春の先■                醫家の入道 鍬のはにかつちり石をうつ畑の音にひはりの出てとひたつ                《割書:後| 》軒列良 春の雪何と見たてん花のなそけに面白くとけつ流しつ                  比羅雪墨 去年雪にとちたるまゝの谷の戸をおし明いつる/鍵の早蕨(カキノサワラヒ)                  御免齊綾丸 桜木の根につまつきし庭下駄やはなをゆるめん雨のあしよは                  玉結菴蔵満 春雨にみとりもますやかゝらまし川岸の柳の糸の釣はり                  連葉菴春木 とふつきの石場縄手も初霞ひつはつてたつ春のあけほの        ○陸奥  須加川  平方菴早樹 是もまた弓はつとらせてとゝめたしあはれ春日のなかれ武者には                  川邊凉見 おしなへて今朝は雑煮の腹つゝみうちおさまりし君か代の春                  鷺白羽 流儀ほと蛙は水をかきわけてふてのさやまか池になくなり                  幾世菴久門 七種をはやすまな板かなひはしこれも古今の春の序ひらき                    尾張 熱田 超歳坊 春風の音侘て来る谷の戸にくち明て出る鴬の声               柳百朶 尺八の虚空吹とも春の風はなさく門はわけて御無用               芦邊潮満 一番に花のはやをゝとく舩のかせに乗り出す浦の梅か香               堀川芳香 さえかへりまた綿入はきさらきのあかつき寒き山々の裾       ○同  名古屋 北亭歌政  明て今朝月の噂は逃水や初日を仰く武蔵野のはる               玉章菴有武 家軒のつまに添ひねの鴬を梅やねたしとひらく唇               千雀菴雛人 あかねさす初日の影も東よりとその袋井越て来つらん               五葉舎乗打 日くれまてなかむる花に影法師の脊長となりてをらん一枝      三河 吉田豊木連 冬雨亭友茶    ○三河 吉田豊木連 冬雨亭友茶 鼻紙の折を得てけふ春霞すこし見せたる山の懐              新玉年武 朱を/奪(ウボヲ)ふ紫色に咲藤のなかにも花のしら波もあり              豊橋欗干坊 /盥(タライ)とも見る池水に青柳はかせの手添て髪洗ふなり              垣元帯丸  一夜明春としなれは奥座敷ひらき直つて梅か香をする              厩戸真仲 垣ひとへ咲梅枝のへだてなくうらからうらへおくる花の香              下戸餅好 あし引の山も/熨斗(ノシ)目を着初てはあらたまりたる今朝の横雲    ○伊勢 四日市   真草菴文人 春雨はよしふらすとも大佛のはなへさしこめ梅かからかさ    ○同  桑名    福邉菴長生 三鳥の傳より聞てうれしきは古今かはらぬ初鳥の声       陸奥 相馬 中邑連 宇和空也 をかしさに千軒口もゆり出す万歳楽の春は来にけり                 突々法師 咲花の三番叟なる梅か香をほかへはやらし袖に留けり                 嘉世福也 いつかはや十日の雨のめくみとて草もはつかに萌にけらしな                 橋上凉風 火吹竹あな面白く吹出すかせにそろ〳〵もゆる若草                 算盤玉丸  やつと立春の重荷は山〳〵のかたにかゝれるはつ霞かな                   千歳亭鶴束 福寿草花の強さは石臺のつちをもり出す亥のとしの春                 長橋 渡 百日もちらてあれかし九十九夜かよひても見ん小町桜は                 千唐有武 ふんといふ匂ひは風に愛相のこほれかゝれる桜の/英(ハナブサ)                  鹽 美照 跡先の友まといして大名とかたをならふるかこの鴬                  雲津高盛 立出る長上下の着こゝろもをりめたゝしき君か代の春                  徐々菴春風 見ても猶たゝ薄白くあやなきは夜の錦の花にそ有ける      ○仝   白川     雪木菴宿成 とし毎に春はかはれとかはらすに梅は梅なる匂ひこそあれ                  東仙堂花守 咲花に袖すりあふて見てもとる梅か駕籠より匂ひこほるゝ                  蜻蛉樓延人 此花のうはさの外は難波津の梅かかなかき筆こゝろ見ん      ○仝   川俣     銭充樓望主 そたちよき田舎生れの鴬は都の梅の花むこにせん                  遅路館為俊 おきつ舩霞のうちのうせものは見れともわかぬ今朝のうらかた          東都     李下齊東邑 和音さへ舌もまはらぬ鴬のまたいとけなき春の口もと                 笆屋星員 /洞床(ホラトコ)に今朝かけそむる春なれやそらにかすみのふとしくもあり                 辛崎松元 舩子ともとりつく綱のはる霞引て登れる淀の明ほの          上総     和氣吉丸 春の野のしはゐにひらく弁当も雪に真白き三角の飯      ○陸奥 白川     徳井笛安  かけとりはとこへかとんて明ほのゝよろこひからす告渡る春                 豊御代住 をりくへるたきゝの小野にかまとほとこゝやかしこにもゆる若草      ○仝  郡山     紀喜賀内 人はいさ磯家が軒にほすあみのめにさへとまる花の夕風       仝   湯原    龍岳亭苦成 南山のかたより帰る雁かねはとひ行列もかけす崩れす                   碁經石盛 長閑さに梅はそろ〳〵化粧してたちえ見事に踊る花笠                 一笑徳成 砂の男が畑をうたんとかた肌もぬくころ空に雲雀鳴なり      ○仝  会津     夫鵞堂張兼 鴬にやさしき声をかけられて雪も氷も早うとけたり                 初夢鷹見 三の朝と云は賑はし面白しうれしき春に逢にけるかな                 前川月満 門〳〵の神楽太鼓や獅子の舞はるのけしきのあくまたになし                 桃林舎員生 胡粉地の雪かきわけて緑青の若なつむなり絵のごとき春     ○美濃  大垣     夏目齋始変  汐干して昔をおもふ壇の浦かふと貝にも烏帽子貝にも                 翫月菴峨山 折もうしをらぬもうしの願ひからはなにひかるゝ我心かな                      ○上野  相生  萬歳連 竹葉守数 白酒をくまぬあたこの土器【かわらけ】もそこのくもりて引霞かな                  布喜朝興 春くれはほかにけしきはあらゐのりひゝにかゝれる霞またよし     ○仝   小幡      則 有挻  舎人まて袖に若菜を二葉三葉御相伴とてつむも春の野      仝   山中      瓢亭百成 八重霞たちふさかつて春の野に哥をしつかり置てゆけとや                  附子盛兼 紙碪うてる山谷のうら小田にすきかへしぬる苗代のつち     ○常陸付中        霞陽菴浦人 千金の日影さすてふ春の野に二分三分つゝ生ふる若草      仝   土師      身上持義 咲梅のはな香も匂ふ朝茶より声たてそめる春の鴬      仝   完戸      右箸持兼 今朝ははや白酒売の頭巾から浅黄にかすむ春の山川     ○上野    南谷連   息齊延命 春霞ひけるとうふの豆ならめひと口ほとに残るあは雪                 藍 染 見 見渡せは今朝は浜辺にみち汐の引やのこれる浪のあは雪                 田夫堂野人 野辺もまたなかき葉なしの初若菜そこらこゝそをちょっとつまゝん                 辺田横月 糖味噌のしきりに匂ふ梅か香はふすまを越て鼻につくらん     仝 妙義  白雲連   山楼庵腰成 明初てたまの礼者も花の香もはらひかほする宿の梅かえ    ○仝 藤丘        古笠雨守 佐保姫のおとし咄にくつ〳〵と笑ひ出したる春の山〳〵                 平井亭賎歌 帯のたけ壱丈つもる白雪もとけて流るゝ春の谷川                 眞字亭唐文 天の戸のあくれば事のたるひろう酒屋の御用春も来にけり    ○            櫻川亭近樹  春雨のあしとやは見ん門口にたるゝ柳の枝のひとふり                 荒川亭貴達 きれ字より耳にとまるは箱根路の初音か原のうた鳥の声    ○武蔵 神奈川 不二見連 笹林堂茂 梅柳蛙うぐひすも揃ふ春に花とも見せて雪はぬかるな                 浪 宋 女 賤か家も明て霞の引窓やからりとかはる春の長閑さ                 三巴窓鈴丸 飼にあさる蛙はそれにつられけん岸の柳の糸のうこきに                 金川堂亀丸 春のひも延れば梅のほころひて匂ひふくろの薫る袖垣                 栖原亭重丸 小銭ほとえたに咲たる梅の花風にかほりの通用のよき    ○常陸 笠間  不二見連 不了軒跡頼 去年よりも今朝は格別長閑さに氷も薄く春のまね〳〵       ○ 下野 那須 仝   気延友行 若水は今朝と去年との境めもかはして千代のつるべにそ汲                 舎楽齋口成 山里も明の春とて谷の戸をひらきし梅にきなくうくひす                 名葉三徳 残りたる雪の白地にすかぬひのいとめたちてそ見ゆる若草                 長生家住 若水を汲やわく井に影うつし東風くり延す青柳のいと                 寳菜亭嶋人 小謡の声はるめけは庭もせに一ふしのひる青柳の枝     ○仝 佐久山 不二見連 梅枝花麻呂  遠山に霞の衣きそはしめけふのはれきの春の空色                 鱗哥白麻呂 舩人の帆柱おこす仕度かも霞の綱をひける海原                 勝糸哥肩 けふよりはなかねをやめんはつ春のあしたことには鴬の鳴         上野 大間々 千載連 東田舎丁稚 摘入てかいまの若菜かそふれはひと色見えぬ野路の夕暮                  一丁羽狩 七種の芹/摘(ツム)沢に春しりてねをあらはせる今朝のうくひす                  知部方頼 酒くせと人やいふらん桜狩またあとをひく翌の相談                  鳴子網彦 たつ筆にみくたりはかり書始も暦の文字もふとき初春                  若草末繁 今朝向ふ雑煮の膳の吸口にふきいれてよき風の梅か香                  霍岡舎有人 野を遠み毛色はそれとわかねとも遊ふかけのみ見ゆる春駒     ○下野 鹿沼 芙蓉連   山望亭安良 くり返す日記より筆のしん〳〵とねむけをつける宿の春雨                  奧津堂宮住 庭つもりなたつくりしもうるはしく東邊ほくの梅は咲ぬる                 春笑亭咲掛 うつりゆくはるも弥生のみかは水鶏合せてふ時を告たり                 谷雪丸 唐人も寝言のはしにうらやまんよし野の花を夢になかめて                 雄々館平記 世話しさよ霞もたては松もたつ門の礼者にすはる間もなし                 旭亭赤根 淡雪の白粉水や口紅粉をなかす春日の梅のよそほひ                 栗御膳 日のあしものひて嬉しやうとんほとうちをさめたる玉の初春                 真白菴綿法師 みちのくのおくのひと間に咲みちぬ小金色なる粟の餅花                 崑崙舎黒人 咲梅の主をは問はて山里にゆきゝの人の香はかりをきく                 時雨菴萱根 をりにあへはこれものとけし陽炎のもゆる春日のてんかく火鉢 【不二之絵】画狂人         北斎画                一粒亭万盃 退屈の老に柳のひきかへてのひやしつらん春の此ころ           三河   三味森好 小倉山花見て哥も思ひ出ん小町さくらに人丸さくら           下館   五葉亭永樹 けふ幾日春の日数をすき箸のさけは心をやしなふる花           仝    堪忍舎深記 漁舟も休みし春のしつけさはそらに霞の網の引そめ           仝    千箱玉廣 おしてるやなにはともあれ遠村の花にはちかくあしをはこへり                徳意持方 鴬の初音のつゝみしめるかとしらへかえたる雨のしつかさ                桐原駒彦 梅か枝に棹をもたせて干衣は袖よりそでへとふせ花の香                北陸堂道近 雲雪と見あくる不二の山さくら開きし花も麓よりして     ○            出世鯉人 春の海真帆も片帆も朝凪のかすみにはるか引おくれたり         浅草例     田原常則 鴬のつけ子に経はすり餌よりかんてふくめるやうに教る                 東山堂数良 春来ても田舎産の鴬ははにかむ虫やひらひ鳴する                 浅葉菴音芳 田の西の水にも枝をあらひ髪風にはりつく春の青柳                 浅子亭市成 野遊のくわへきせるも長閑には煙の霞たつはなのさき                 浅縁菴春告 蒲団着た都の山もあたゝかく春の日あしの踏延したり                 馬足亭繁岐 若かへる春は霞に親舩もこふねのやうに見ゆる海つら     ○下総 結城 不二見連 淀川 網彦 子日とて姫子の松を千代かけて根引にしたる春の麗                 紺屋安染 青柳のやさしき糸やいせしまに霞をませておりわけのあや     ○常陸 府中 不二見連 一秀齋貫良 散花ををしみて駕籠に乗れはまた二人にふます志賀の山越                 葉山芝住 ひろいものしたる心地よ鳴声はきゝすてかたき野路の鴬     ○ 下妻 仝      梅香亭沼住 賣買の夷の膳の相場よりたかくねを出す鴬の声                 青松庵春人 花に目のくたひれるとも吹風にこゝろつかひの休むまはなし     ○陸奥 岩城 不二見連 甘露菴道遠 松嶋やあかねさす日の袴着てきさきの嶋に霞わたれり       信濃 軽井澤   仝  薄井麓 大名も花にみとれて春雨にふりこめされし宿の梅か香      下野 烏山       常陸帯長 長閑さは/妹(ミメ)も春来てつくはねのかつもひいふうみよの目出たさ                  紙則薾 春雨に人めも草も若やきてめたつ柳に蛙とひつく                  久保裏住 あたらしく羽色をそめる鴬茶こゑをしいしにはりつよく鳴                  阿古木浦住 待侘てゆひをりくらすをさな子のまねく手もとに春は来にけり     ○下総 佐原       北總菴楫取 つはくらは壁をぬれとも春寒し霜の柱はまたたてるなり      仝  笹川       夢告成 たをやめか手桶かた手にふりかへりすかたうつれるとしの若水      仝  佐倉       櫻下堂壽歴 わきも子か髪に見たてし青柳のめてたうなかうなりし春の日       常陸 下館 不二見連 板谷棟成 春されは峯に霞の色そひて冨士のけふりのいとゝたちます                  成蹊舎枝也 真さきに立たる春の伊達道具万石とりの鑓梅の花                  民家軒貫 穴を出るけものも春の山の端は霞のほらにいるかとそ見る                  松元亭繁樹 宮人の御通りよりも春風にかたよる野路の青柳の枝                  西陳舎一村 こけかゝる賤か垣根のむかふよりおこして嬉し風の梅か香                  谷嶋亭浦人 春雨はやめと淋しき賤か家ののきにたれたる青柳のいと                  奈良花住 打つけし板へしつかりのりすしやすのかけんよくつくるつはくら                  浪風於左丸 雨を乞哥ならなくに鴬のはつ音にひらく梅の花かさ                 錐美津女 佐保姫もおやまのまねよ夕山のひたひにかすむ紫帽子                 矢立薄墨 たて横も尺長にひくちゝふ山霞のきぬの春の織出し                 嶋田真毛女 咲梅の匂ひくるわの三味線にとなり座敷は風にちり侍ん                 冨艸生達 たん〳〵とはや棚引て立そめるひなに霞の幕をはるの日                 古山人 煙かと見れば霞にたん〳〵とあたゝかになるひのもとの春                 八幡老補禮 天の戸の明の方より春くれはちそうかましくうとふ鴬                 田柳舎緑 千金の春の/價(アタイ)は賣出しのはつねをひらく鴬の宿                 鳩禮舎三枝 池水に影のうつれはあめつちもすたく蛙の歌にうこかす        陸奥 相馬 中邑連 結尾志丸 姿をは底に見るともまよはたとやなきはまゆをぬらす池水        三河        桜木亭皮人 ぬり鞘のはけめのかすみ引空にくりかたなりの三日四日の月                  庭柯菴連成 また鍬も入さる春のあら小田にすきもあらせす性なくなり                  十千亭道成 宇治山にひける霞は薄茶ほときせんの人の目やさますらん                  文喜亭早雄 冨士の山今朝はかすみのほころひて綿ほと峯に見ゆるしら雪                  浪上則速 賎の子か手習ふ砂の文字に似てかきけすことく帰る厂かね                  朝倉菴三笑 春の来る手本と人のいひならふほにはの梅の青軸       ○東都  不二見連  能琴有鶴 此ころの日和はしかとすはらねと横にはならぬ春雨のあし                 柳花菴春芳 声もまた梢をもりて雨水のえたから枝へうつるうくひす                 柳向亭百帒 今月とはらみて居たる茶屋の梅まつははやめになんし咲ける                 狐子玉持 一升の酒も徳利や肴にはこゝろのひるのたまの野遊                 高根常雪 山寺の花にをし見て入相のかねをかけても春をときたき                 紀侭成 須磨明石案内かけてはつ霞名所〳〵を引廻しける                 百生比左古 なにしあふ鋸山は安房上総真ふたつにして引霞かな                 奈夏藏持 雲雪のにせものとよし見るとてもあらはれてさく峯の初花                 青雲亭業丈 寒さをもやゝさる沢の池の辺にけさは霞のきぬかけ柳          仝  桜井    三有舎河島 箸紙とともに我手もしのゝめに水引むすふ初手水かな         仝  干泻    捨貝堂干泻 去年よりも手まはしをして咲いたすはしら暦の日あたりの梅                  山玉亭数義 好に身をやつすはかりよきのふけふあすかの山の花にうかれて        ○下野 大田原   釜臍主 子日する野辺より大夫買にいなはいとし若松根曳にやせん                  安気方頼 故郷へはれの袂や飾るらんにしきたかたと帰る厂金                  玄仲那言匕盛 煎豆にうち出して歟けふ春の山は青鬼花は赤鬼                   紀画楽多 手を出して見れはふれとも柔術の屋わらかにのみあたる春雨                  紀津々丸 ほねと見るよし野の山のさくら鯛とりわけ花のみところにして                  山中里近 護摩をたく日待に初の客もうけあけもの料理はねた御手きは                  紅井天世羅 菖餝の太郎かあけし奴凧二合半まて見ゆるなるらん                  千数菴矢藤 たへな音の出ところいつこはしか舌かのとかな春の庭の鴬      ○武蔵 川崎 曲水連  田毎守豊 みとり子のそたつさかりよのひをしつみふるひもする風の青柳                  酒上喜三二 左官師のいともかしこき春雨にぬれる軒端のてての柳葉                  中野吉人 むらさきの和尚もほめん筆の海しの字引出す初霞をは                  釋種奈志 苗しろを藁人形に守らせて作大将の水のかけ引                  栖篁亭三鳥 見わたせはふるき野守か宿よりもあれこそまされ春の若駒                  浅呂菴牧廣 若やいた心みかてら梅暦見れはめかねもいらぬ老らく                  浅流菴清志 三めくりに船よふ声も咲梅もかはむかふまでおくる夕風                  浅月堂春人 今朝ははや口にひやりときみかよや豊に春のたつくり鱠                  浅津菴永世 /蚰(けち〳〵)もうかとは庭に捨られす門に若やく青柳の髪     ○            六蔵亭守舎 たらちねにすゝむる屠蘇の酒の名ももと養老の瀧水にして        判者                  千種菴 琵琶湖にもならひし形の池の面にかゝりてたるゝ四つのを柳                  仁義堂 雨の日に坊主合羽のそてもなきみちもとめつゝ梅そたつぬる                  浅瀬菴 梅見道問いて通れはおひかけてにほひはこゝと知らすこち風                  貢菴 散をいとふ花のしら波くしりてはほつといきつくあまのかた山                  桑楊菴 万歳のすはうの袖にとめられてたまる物かは宿の梅か香                                    浅草菴 鴬の籠のとまり木は丸木橋なれてみかるに谷渡りする               末廣菴 元日に先むかはなん蓬莱は喰つみ臺とするかなるほも 書そめに子もいさみたつ春駒の          はねたる黙のつよき                  筆勢      享和癸亥春日           末廣菴藏板   Hokusai, Fujimi no Tsura. Les admirateurs du Fuji    Preface signee: Suiro Han.    Fin datee Mizunoto Hi de Kiowa(1803) Editeur Suiro Han.    Les planches sont signees: Gwakiojin    Hokusai. Hayashi, n. 1711, decrit un ouvrage semblable, maris ne    contenant qu'une planche de gravure.    1 vol., haut.,219 millim.: large.,157 millim., contenant 2 planches    de gravures en couleur.    Charmanl petit ouvrage, assez rare et d'un tres beau tirage.    Etat agreable. 【文意はおよそ   北斎、不二見の連。富士の崇拝者   序文署名者:末広菴。  享和三年(1803)出版社末広菴板。  署名は画狂人北斎。高さ,219 mm.:巾157 mm  色彫刻は小品だが非常に美しく保存状況は良好。】